満月の日、海に還る
青い空に、
青く透き通る、穏やかな海。
心の奥まで静かに染み込んでくるような青。
疲れたときや、ちょっと揺れたとき、
ふと目を閉じたら、あの景色に戻れるような時間。
訪れたのは、瀬戸内海に浮かぶ
大久野島。
かつては“毒ガスの島”としての歴史を刻んだ場所。
けれど今は、驚くほど穏やかな時間が流れていた。
幼い頃を過ごした瀬戸内の海を前にした瞬間、
こみ上げてきたのは「なつかしさ」という言葉よりも、
「包み込まれる」安心感だった。
靴を脱ぎ、
足首まで海に浸かってみる。
砂浜を裸足で歩き、
寄せては返す静かな波の音を聞きながら、
五感が、ひとつずつひらいていく。
それだけで、
日々の中でいつの間にか身にまとっていたものが、
砂を洗う波のように、少しずつ解き離れていくのを感じた。
地面(地球)は大きなエネルギーの塊で、
私たちの体にたまった余分な電気や緊張を
そっと外へ逃がしてくれる。
だから肌に直接触れるだけで、
バランスが戻る感覚が起きやすい、と言われています。
移動中は、人の多さで少しイライラしていた娘も、
気がつけば、表情がやわらいでいた。
しばらくその場で過ごしていると、
ふと、娘の姿が目に入る。
最初は、島にたくさんいるうさぎたちを
少しこわがっていたのに、
時間が経つにつれて、
少しずつ距離が縮まっていく。
気がつけば、
そっと手を伸ばして、
触れられるくらいまで近づいていた。
「かわいいね」
そうつぶやいたその声に、
娘の中で何かがほどけた瞬間を感じた。
こわさの向こうにあったものは、
やさしさだったのかもしれない。
そして、
気がつけば、携帯の充電が切れていた。
最初は少し不便に感じたけれど、
画面を見ることもなく、
ただ、目の前の景色と時間に没頭する。
音も、光も、風も、
すべてをそのまま受け取る時間。
昨日は、満月。
海と、月と、
そして自分自身の感覚が、
境目なくやわらかくつながっていく。
そんな、不思議な一体感に包まれる時間。
私たちはつい、
いろいろなことを「頭」で考えて
解決しようとしてしまう。
けれど本当に大切なのは、
「からだ」で感じることなのだと、
そっと思い出させてくれた。
自分を縛っていた思考をゆるめ、
五感をひらく。
海に心と体を委ねて、
また少し、“わたし”に戻れた一日。
こわさの先に、やさしさがあることを、
娘に教えてもらった日でもあった。

