【noteでBL】『有限なこの世界を駆け抜ける』
企画に参加させていただきます!この度も素敵なお題ありがとうございました!
「中学時代に能力の限界を感じてしまい、走ることをやめてしまったけれども、それでも走ることを諦め切れないDKが、恋人と一緒に天国恋愛の映画を観に行っくことに。そこで死や来世、転生に思いを馳せたり死後の世界に恋人と話していった結果、走ることを再開する話」です。
○本編とは関係ない雑談。
私は死後の世界に関して、漫画とかであるような天国地獄があって……、みたいなことを考えていて。でも、これまで出会ったいろんな方の話を聞いていたり本を読んだりしていると結構人によって幅があって興味深いなあ、と思った。
作中作の方もOKだったらBLか男女恋愛か百合かは分からないけれどどこかで使いたいなあ、と思ってたりします。
私は生まれ変わったら原宿で制服をミニ丈にして映えスイーツ食べるJKになりたいです。
※死にまつわる表記・表現があります。やや言葉が足りない部分や浅慮な部分があるかもしれません。
※死生観や死後の世界に関しての表現が出てきますがこれはあくまで私の中にある考えでその考えを押しつけたり別な考えを否定するものではありません。
タイトル『有限なこの世界を駆け抜ける』
文字数 8540文字
ゴールデンウィークの真ん中。俺と幼馴染で恋人の神原勝(かみはらすぐる)はドーナツ屋にいた。ショッピングモールの中に入っているチェーン店のドーナツ屋。店内はふんわりと濃い甘い匂いが漂っていた。店内の端っこの席で俺と神原は向かい合い、座っている。
向かい合った席の前で号泣している神原。傍から見たらもしかしたら別れ話とか、喧嘩、とか、そういう風に見られるのかもしれない。
「……大丈夫か?」
セルフサービスの水を飲みながら俺は神原に訊ねる。中学の時は「学校一の美形」「文芸部のアイドル」とか言われてて、高校に入ってからも、モテにモテまくっていて告白が日常茶飯事、という感じ(けれども全て断っている)。そんな神原が、まじでそのイケメンが台無しだぞ、みたいな風に泣いていた。
「だって……、あの映画が……」
ハンカチを取り出してあいつはべそべそと泣いている。神原が泣いている理由は別れ話とか喧嘩とかそういうのでは全くない。神原は映画の内容に感動して泣いている。
その映画の内容としては、ファンタジー要素の入った恋愛映画。人気の小説の実写映画化、らしい。主人公は天寿を全うした男性。彼は若くして亡くなった恋人に会うために天国に向かう。しかし、天国で待っているはずの恋人は天国にはいなかった。そこから恋人が一体どこにいるのかを探していく、という話だ。つい先ほどまで、ショッピングモールの中に併設されている映画館で、神原が観たいと言っていた映画を観ていた。映画館を出た後、買い物とかしようか、という話をしていたけれど、あまりにも泣きすぎているから、劇場から出てすぐのドーナツ屋で、落ち着くまで待つことにした。今、ずびずびはしてるけど、だんだんと落ち着いてはきているという感じだ。
「天国で会えなくって、現世まで行って、やっと会えたのが、ほんとに……」
映画の内容を思い出していたのか、彼のずびずびは再び激しいものになっていく。落ち着いてきているかと思ったけれども、ぶり返して泣いてしまったみたいだ。
泣いている彼を眺めていると、俺の頭の中に、さっき観た映画のシーンがダイジェストで流れていく。天国で待っているはずの恋人はいなかった。主人公は、とっても広い天国を探していくことになる。天国の端から端、地獄のすぐそば……ありとあらゆる場所を巡った後、主人公が向かったのは現世。そこで恋人と再び出会うことになる。恋人がいたのは主人公が昔住んでいた家の近くだった。恋人は「主人公を一人きりにしてしまった」という未練を残しており、成仏出来なかったのだ。
そして恋人と再び想いを伝え合い、無事に天国へ戻ることが出来た。天国で二人でしばらくのんびり過ごした後、生まれ変わりの時間がやって来る。二人、来世でも再会することを誓い合って、転生する。生まれ変わった後、二人は離ればなれになり、前世の記憶も抱いていなかった。それぞれ充実した人生を送るも、とあるきっかけで二人が再会し、恋人同士となることを予感させるシーンで幕を閉じた。
「ほんとに、よかったよねえ……」
神原はようやく落ち着いたみたいだった。どこか柔らかくそんな風に言って、目の前にあって、しばらく放置されていたシュガードーナツを頬張り、コーヒーを飲み始めた。
「……そうだな」
映画の内容を思い出していた俺。神原の言葉に同調するように、でも、どこか上の空のように返事をする。神原は映画の大筋の恋愛、とか再会、に感動していた。
けれども、俺がその映画を観て、意識を向けてしまっていたのは、生まれ変わった後、の話だったから。
「ん? 大丈夫? 思い出して泣きそうになってる?」
「いや……。大丈夫」
少し沈黙する。「なあ、神原」と俺は神原に訊ねた。
「ん?」
「もし、あの映画みたいに、生まれ変わり、があったら、どうなりたい? その、映画観て、考えて……」
「生まれ変わったら、かあ……」
深刻なものではなく、多分人生で一度は雑談するであろう話題のトーンで俺は訊ねる。でも、腕組みをしながら、結構真剣に神原は考えてくれている。俺もつい同じポーズを取ってしまう。
「うーん……。どうだろう……? それって、人間になる前提? 人間じゃない前提?」
「それは、好きな方で……」
「そっかあ……。そう言われるといろいろ選択肢あって悩むなあ……。カケルくんは? 何かあるの?」
少し悩んだ。生まれ変わったら、に期待するのもどうか、とは思う。でも、一つ、渇望するような願いがあった。
「何になりたいかは分からない、でも……」
「でも?」
「…………生まれ変わったら、もっと、足が速く、なりたい」
チーターとか動物でもいい、逃げ足が速く、とかでもいい。とにかく、今世よりも、足が、速くなりたい。
「そうなんだね」
神原は少し、何かを考えるような沈黙の後、いつもの柔らかな笑顔を浮かべる。そして、「そうなんだね」だけ言って終わり。それ以上は何も言わなかった。俺を気遣うように。
「……泣いたから喉渇いちゃった。水のおかわりもらってくるね。カケルくんの分、いる?」
「ああ、ありがとう……」
俺は既に空っぽになったコップを神原に渡し、店の真ん中の方にあるドリンクバーまで向かっていく。映画の余韻に浸っていた空気に水を差してしまったかもしれない。申し訳なくなる。
でも、あの映画みたいに、天国地獄、とか、生まれ変わりがあって、全然違う人に、生まれ変われるんだったら、今よりも、足が速くなりたい。
死にたい、とかではない。死ぬのは怖い。けど、やっぱ、今の人生で、このスペックじゃ、満足できないものがある。
「おまたせ。カケルくん」
「ああ、ありがとう……」
神原が持ってきてくれた水を飲んだ後、俺達はドーナツ屋を出て、買い物しがてら外に出ようとした。
―――
ドーナツ屋を出て、俺達は歩いていた。向かうのはショッピングモールの東館。
このショッピングモールは西館と東館に分かれている。西館は映画館をメインにして建てられている。映画の後のご飯、とか、映画を観た後にちょっとしたショッピング、みたいな、映画を観ることメインに作られている。食べ物屋とか、映画を観てそのまま帰宅、という流れを考えた作りになっている。俺達が今から向かおうとしている東館はより専門的な店とか、ショッピングをメインに、って感じ。西館から東館、そして東館から出て駅に出るような形になっている。
しばらく歩くと、ガラスの自動ドアが目に入る。その上には「東館 3階」と大きく記された看板があった。そのまま俺達は歩いていく。
「どこか観たいお店あるか?」
「うーん、歩きながら決める感じでいい? いつもみたいに」
「ああ。遠慮はしなくていいからな。俺も遠慮しないから」
「ありがとう」
俺達が買い物とかこういうショッピングモールに遊びに行く時は、メインの場所に行く以外は、目的なくふらふら歩いて気になった店に立ち寄るということが多い。今日みたいに映画がメインで後はこんな風に歩いていく、とか。「美味しいパンケーキ店行きたい」って言われてそこに行った後ずーっとふらふら街の中を歩いていく、とか。割とそういうことが多いけれども神原といるのは楽しい。
東館の中を歩いていく。人気キャラの専門店、文房具屋、眼鏡屋…、いろいろと店が並んでいる前を通り過ぎる。そんな中で、神原が立ち止まった。
「あ……」
神原は小さく声を出す。俺も続けて立ち止まる。立ち止まったのは本屋の前だった。何回か来た事のある本屋。このショッピングモールに前来た時も神原はこの本屋に入っていった記憶がある。彼は本好きでいろんなジャンルを読んでいる。一番楽しそうに読むのは、ハードカバーの恋愛小説とか、BL小説とかの恋愛もの。本屋の奥の方に行っていたから今日もそちらに行くんだと思っていた。
「神原、どうしたんだ?」
俺は神原に訊ねた。神原は店先で立ち止まったまま。店の奥にある、神原の好きそうなジャンルを置いているコーナーに行くわけではなさそうだ。視線を一点で止めている。
俺も神原と同じ方に視線を向ける。店の入り口、一番目立つところに置かれた本棚。「異世界転生フェア」というポップな文字が大きく掲げられていた。ポップの周りにはWeb広告やCMで何度か見たことのあるキャラクター達が集合している。異世界転生をテーマにしたライトノベルの販売促進フェアみたいだ。
「さっきの話の続き、だけれども、転生、っていうと、こういう転生の考え方もあるよね……。アニー先生が言っていたみたいに」
「……なるほど、確かに」
アニー先生。中学時代の社会の先生。兄山(あにやま)って名前の女性の先生。兄山の「あに」の部分と、アニメとか漫画が大好きだから「アニー先生」って呼ばれていた。
アニー先生は授業の半分が雑談、みたいな時もあってお互い好きな先生だった。異世界転生アニメもよく観ていたらしく、「こういう考え方もあるのね~。私が学生だったら卒業論文、異世界転生をテーマに書いてたかも~」ってすごく興味深そうに言っていたのを思い出す。
異世界転生。あまり詳しくはないけれど、ゲームや漫画、アニメ、の世界に転生する、みたいな物語。何らかの原因で現実世界での生を終えた主人公が、自分が好きだった、もしくはプレイしていた作品の中の登場人物として入り込むパターンが多い。RPGの主人公やモブ、はたまた悪役令嬢、まで……。
転生した主人公は、現実世界で生きてきた記憶を持っていて、さらに転生世界で有利になるような特技だったりスキルだったりを持っている。その持っているものを使って、楽しく過ごしたり、はたまた処刑みたいな、危機が迫る自身の人生を変えていく、みたいなものが多い感じだ。ちなみに、アニー先生は異世界転生したら異世界転生界での死生観とか死後の世界、について研究したいらしい。
平積みになった本を見ながら思う。異世界転生したらどうなるんだろう。
流石に、今すぐに突然死んで、異世界転生しろ、と言われたら少し怖い。けれども、もしも転生したらどうなるんだろう、なんて、考えてしまうことはない。自分ではあるけれど、自分ではない人生のことに、思いを馳せてしまう。
俺の頭の中にあったのは、やっぱり、足が速くなりたい、だった。足速スキル、とか移動スピードが速くなるスキル、とかもらったりしたいな。なんて。それこそすごい逃げ足の速いモンスターとかでも、いい。今の俺よりも、足が速くなりたい。そんなこと、ばかりを考えてしまう。
「カケルくん。じゃあ、行こうか」
「いいのか? 中に入んなくって」
「うん。見始めると多分閉店までいると思うからやめておこうかなって」
「そうか……」
本好きだから神原は図書館とかに何時間でもいられるタイプ。だから、遠慮したのかもしれない。いや、もしかしたら、俺が思い悩んでいる、みたいなのを察して、離れようとしてくれたのかもしれない。本当のところはどちらか分からないけれど、俺達は再び、東館の中を進み始めた。
歩いて、東館3階の、フロアの真ん中にあるエスカレーターに乗り、2階に降りる。
エスカレーターに乗っている最中、「ね、カケルくん」と声を掛けられた。
「どうした? 神原」
「さっきのさ、生まれ変わったらどうなりたい、っていう答えだけどさ、生まれ変わったら、生まれ変わった世界で、頑張りたいな」
「ん……? つまり?」
「生まれ変わったらどうなるか、は分からないよね。現実世界の人間になるかもしれないし、スライムになるかもしれないし、悪役令嬢になるかもしれない。どんな人生でも、置かれた人生、で頑張って生きていきたいな」
「なるほど……」
すっごい真っ直ぐな答えだ。尊敬してしまう。
尊敬と同時に、今現在の生活とか、スペックとかに満足してるから、そんなことを言えるんじゃないか、ってちょっとひがみ、みたいな感情も生まれてしまう。顔はイケメンだし、「文芸部のアイドル」って言われるくらいだ。それは顔とか性格、みたいなところもだし、中学時代からデカい賞をいくつも取っていて、文芸部の中でもちょっとした有名人だから。
俺は、今の人生ですらどこか満たされない、って感じなのに。黒いもやついた感情が俺の胸の中に広がる。
「でも、一つだけ、生まれ変わった後にもしたいこと、とか、こうであって欲しいな、って思うことはあるんだ」
「何?」
「何に生まれ変わったとしても、カケルくんを好きでいたいな、って」
真っ直ぐな目で俺の方に視線を向ける。
「…………」
ちょっと顔が熱くなる。もやついた感情はしゅう、としぼんでいった。
エスカレーターを降りて、そのまま入り口まで向かう。
靴屋の前を通り掛かる。中学時代、よく使っていたメーカーの、新作のランニングシューズが目に入った。胸がなんだか痛むような、苦しくなるような感覚が走る。
「ん? 何か気になるのある?」
「……気になるものなんて、ないから、大丈夫」
視線を前に向けて、小走りするようにして、素通りする。俺が向けていたのは、靴屋の隣にある子ども向けのおもちゃ屋さんとアクセサリーショップ。そっちに視線を向けて、靴屋には意識を向けないようにする。
「一生やらない」って決めていたけれども、やっぱり、未練があるのかもしれない。
俺は、何事もなかったかのように、靴屋の前を通り過ぎようとした。頭の中をよぎっていたのは、昔のことだった。
―――
昔は、純粋に走るのが好きだった。走るために生まれて来たのかもしれない、って思ったくらいに。名前も「走田駆(そうだかける)」って名前だからなおさら。
その頃はただ走っているだけで楽しかった。何にも遊具のない公園で、それこそ神原も含めて、友達同士でかけっこしたり、鬼ごっこしたりして、それだけで、楽しかった。なんの意味もなく、一人でも、小学校から家まで1キロの道を思いっきり走って帰ったり。
ただ、走るのが楽しかった。全身に当たる風が、きらきらと視界に広がる光を味わう度に、生きてる、って感覚がした。
けれども、それが変わったのは中学からだった。「走るのが好きだから」という理由で陸上部に入った。その中で、走ることが楽しくなくなっていった。
「……。また、だめか……」
何回走っても、周りよりタイムが縮まることはない。短いトラックの中で、何度も何度も、何人にも追い抜かれた。その度に、自分のことが、嫌いになっていく。周りのすごい奴のことばかりを見て、ないものねだりばかりをして。
どれだけ走っても、練習しても、食事を改善しても、全然、前には進めなくって。俺の足が遅い、のを自覚してしまった。どうして走るのかが分からなくなって。
だから、俺は、走ることをやめてしまっていた。
もう、走らないって、決めていた。のに、未練ばかりが頭に残ってしまう。
現実世界で、満足出来てない。それこそ、来世、とか転生、に期待するしかないのかもしれない。
生まれ変わったら、来世は、もっともっと、足が速くなりたい。
気が付けば、そんなことばかり考えるようになってしまった。
どこか死がまだ遠いことだと思っているから、そんな風に考えてしまっているのかもしれない。
―――
「……、くん、カケルくん」
神原に俺の名前を呼ばれていた。心配そうな顔をして覗き込んでいる。気が付けば、俺はぼーっと、外に繋がる扉のすぐそばに立っていた。靴屋からここまで歩いてきた記憶がほぼない。
「大丈夫? 具合悪い? 疲れちゃった?」
「……。あ、ああ。大丈夫……。その、さっきの映画とか、本屋の話の、続きとか、転生、
のこと、ぼーっと考えてて……」
「そっか……」
「それじゃあ、建物、出よっか。電車、逃すとまずいし」
「そうだね」
俺達は東館1階の建物を出て、外に向かった。
「……もしも、死んだら、どうなるんだろうな」
ふと、口から言葉が出てしまった。あの映画とか、本屋のポップにつられて、生まれ変わったら、の話をメインでしてしまったけれど、生まれ変わり、の前に死、がある。
死んだら、どうなるんだろう。転生、があるのかな。痛いのも苦しいのも、死ぬのも、怖くて、これまで、なんとなく、積極的に考えるとはしなかった。
「うーん、俺は、天国と地獄があって、みたいな感じかな……」
神原は言う。漠然と俺の頭にあるのもそんな感じ。死んだあとには、天国、とか極楽浄土、があって、いいことをした人はそっちにいって、悪いことをした人は地獄で大変な目に遭う。物語でもある。
アニー先生が雑談をしていたけれども、宗教とか、国とかによっても、死後の世界、はそれこそ相当変わるみたいだ。やっぱネットとかを見ていても、本当にいろんな考え方の人がいる。
「でも、俺は、明日、明日死ぬとしても、俺はあんま後悔ないかな……」
「なんで?」
「カケルくんと一緒にいられて、楽しかったからさ」
「っ……!」
再びの、突然の告白に、俺の頬が再び熱くなる。俺の方を見て、きらきらとした目で言う。やっぱりこいつは真っ直ぐだな。俺は、後悔だらけ、未練がある。あの、映画の恋人、みたいに、死んでも成仏出来ずにこの世界にいるのかもしれない。
「それにさ、もしさ、天国とか地獄があって、カケルくんよりも先に行ったら、ちゃんと、カケルくんのこと、探すよ。あの映画みたいに」
「……ありがとう」
「もしも地獄に行くことになったら?」
「うーん、その時も……。でも俺、怖いの苦手だからな……。鬼の前でビクビクしてたらごめん……」
縮こまりながら神原は言う。地獄か……。お互い、地獄に行くほどの悪いことはしていない、と信じたい。でも、地獄に行く悪いことってどんなことなんだろう。そこもやっぱ話す人とか、作品とかによっても違うかも……。
「でも、カケルくん、一分でも一秒でも長生きしてね! やっぱり、俺の人生、やっぱり限りはあるけれど、カケルくんと一緒に生きていきたいから!」
「……あ、ああ。ありがとう……」
どこか熱さを味わいながら、俺達は駅までの道を歩いていった。駅まであと1キロを切った、って時のことだった。
「あ゛っ……!?」
突然、神原がこの世の終わり、みたいな声を出した。何が起きたんだろう。
「どうしたんだ?」
「のんびりしすぎた! 電車の時間、来ちゃう!」
「マジか……!?」
地元に帰るまで、2つの駅を乗り継ぎする。この辺りはショッピングモールがあるから発展しているけれども、俺達の家に行くまでの乗り継ぎはなかなか大変だ。だから、次の電車を逃したら帰れるのは門限を過ぎる時間になってしまう。時間的に、ここから走ればギリギリ間に合う、みたいな時間。走らない、っては言ってたけれど、こういうのはノーカンだ! 緊急事態。しょうがない。
「神原、走るか!」
「う、うん……! 俺、足、遅いから、引っ張って!」
二人で手を繋いで走る。生の風が、俺の頬に当たる。走ることは全部やめたはずなのに。こうして走るのは、やっぱり、楽しい。神原が一緒だから、はあるかもしれないけれど。
やっぱり、一生走らない、っていうのは、嫌だな。まだ、走りたいな。転生、とかじゃなくって、生きているうちに、俺として、走りたいな。遅くても、不格好でも、俺として、走り抜けていきたい。そんなことを考えながら、俺は走っていた。
それに、こんな風に走れたら……。
急いでカードをタッチしてホームに出る。目の前で電車の扉が開く。俺達はふらふらとした足取りで、ドアから電車の中に入っていくなんとか電車に乗った。俺と神原は、肩を上下させてはあはあ荒い息を繰り返していた。
「ギリギリ、セーフだったね……」
「そう、だな……」
「あのさ……神原」
少し息を乱しながら、俺は神原に言う。
「ん?」
「地獄だったらさ。……俺が行くよ」
「え?」
「頑張って、地獄の鬼に追いかけられても、負けないくらいの走りになるからさ、それで、二人で一緒に天国まで、走っていこうか」
地獄に行ったとしても、逃げ足を速くすれば、地獄の鬼とかからも逃げられるのかもしれない。それで、二人で天国に行く。
馬鹿げた考えかもしれない。でも、今世、頑張る理由、の一つ、にはなった。
「うん!」
「でも、地獄に落ちるくらい悪いことは、お互いしないようにしような」
「もちろん!」
そんなことを言って、笑い合った。
―――
一生やらない、って決めたけど。後悔するかもしれない。未練を残して成仏出来ないかもしれない。
家に入った後、靴箱に箱のまましまっていたランニングシューズを出して履いた。よかった。まだちゃんと入る。
「母さん、ちょっと走ってくる!」
「え、今から? 暗いから気を付けてね!」
「うん! 明日世界滅亡したら嫌だからさ!」
気を付けなさいよー、という母さんの声を聞きながら、久しぶりに走る。薄暗い外の空気。中学時代も、こんな風に、走ってたな。一人で、何にもとらわれず、目的もなく走る。それが、楽しかった。
この人生で、走りで結果、は出せないかもしれない。大会でいい賞を取ったり、オリンピック、とか。は多分難しい。
でも、走ることは、やっぱり楽しいんだと思う。
生まれ変わったとしても、転生したとしても、この人生で、走らなかったら、それを、後悔するかもしれないから。あと、残りどれぐらい分からないけれど、走っていきたい。
そんなことを考えながら、俺は、足を前に進めていた。
