noteでBL『ゾンビになっても』
企画に参加させていただきます! この度も素敵なお題をありがとうございました!
https://note.com/triple_combo/n/n23f75cde1f93
前回私が書いたのが「ダンボールの王子(ダンボール工作に夢中になってる男)」今回は「演劇バカ」(演劇大好き演劇が恋人の男)と図らずしも芸術を追いかける男が題材になってるなあ、と書きながら思いました。ゾンビ要素は相当薄くなってしまった。
※14~15とパソコンnoteをゆっくりじっくり見れなそうなので皆さんの作品は15日以降楽しみに拝読させていただきます! コメント返しも15日以降にさせていただきます…!
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タイトル『ゾンビになっても』
お題 夏祭り・ゾンビ・水
文字数 4891文字
「あっくん。そういえば、俺、ゾンビになったんだ」
「え?」
6月の頭。俺の部屋で、中学の同級生、駒沢幾郎(こまざわいくろう)と一緒に遊んでいた時に、駒沢がそんなことを言いだした。駒沢は今は同じ市内の、隣町の高校に通っている。LIMEでのやりとりは毎日してるけど、こうして会うのは2ヶ月ぶり。
話を戻そう。5月ぐらいから続いているバカみたいな暑さとか、演劇の研究のし過ぎでおかしくなったのか? もしかしたら、頭の中が演劇で浸食されて、自分のことをゾンビだと思い込んでしまったのか? 心配になった。
「……お前、大丈夫なのか?」
「うん! セリフが多いけど頑張るよ! ゾンビの王様、なんてなかなか出来る役じゃないからさ!」
「……なるほど。でもさっきの言い方だとお前がゾンビになったみたいだぞ」
「確かに。じゃ、改めて、ゾンビの王役になったんだ。ダブル主演。それで、演劇部全員で、市民夏祭りで上演するんだ」
「なるほど。すごいな……」
ここまで会話をしてようやく安心したし全容がつかめた。ゾンビ役なのか。
市民夏祭りというのはうちの市で夏に一日かけて行われる一大イベント。俺の家から歩いて10分ほどの市民会館を使ってのミニイベント的なお祭り。外では小規模だけど屋台とかキッチンカーが出たり、会館の中では近くの高校の吹奏楽部がステージ発表したり、それこそ駒沢の高校の演劇部が演劇を上映したりもする。
「で、これが台本の初期案」
いつの間にか駒沢の手には冊子があった。それを俺の前に差し出す。
「見てもいいのか? 部外秘、的なやつじゃないのか?」
「うん、ここからあと二ヶ月でいろいろ変えていくし、むしろ“いろんな人の意見が訊きたい”って脚本の人が言ってたから」
「そうなのか……」
俺は台本を受け取った。『鮫の帝王VSゾンビの王』というタイトル。好きな人は好きそうな映画みたいな題名。このタイトルの作品を、子どもから大人まで来る市民夏祭りでやるのか? 大丈夫か? いや、タイトル詐欺、という言葉があるように、タイトルはそういう感じの映画モチーフだけれど、中身はもしかしたら万人受けする感じかもしれない。
「…………」
中身を見ていく。はっきり言えば映画レビューサイトで酷評を食らいそうな内容。そういう映画が好きだったら大絶賛。そうじゃなかったら酷評、って感じの内容。これをどう変えたら市民夏祭りで上演できるんだろうか……。駒沢の演技はすごいと思うけど、これ、演技力だけでなんとかなるもんじゃないだろ……。
「どう? 演じ甲斐ありそうじゃない?」
美形のキラキラ笑顔で俺のことを覗き込む駒沢。このキラキラ笑顔では「酷評を食らいそう」なんては言えない。駒沢の演技力で何とかなることを期待したい。「お前が演じるの、楽しみにしてる」とだけ言った。
「そっか! ありがとう! 頑張るから! 見に来てね!」
「あ、ああ……」
「それでさ、演劇終わったら市民夏祭りで遊んでいい、って先輩言ってたからさ、夏祭りデートしよっか!」
「でっ…、デート……!?」
「うん! 高校変わってから全然遊べてなかったし」
「そ、そうだな……」
デート、という言葉に浮かれてしまう俺がいた。
その日はなんだかそわそわして、駒沢が帰っても落ち着かなかった。
―――
駒沢との関係は、親友以上……、みたいな感じだ。一応「恋人」って名乗ってもいいとは思うけど、駒沢の第一は演劇だから。なんとなく「恋人」と名前を付けると縛りが出来そうだから緩くいこう、って話し合って決めた。
出会いは中学の入学式の日だった。
「うう゛~……、ひっ…、」
「ど、どうしたんだ……?」
俺の隣の席で、机に突っ伏して、卒業式みたいに泣いてたから、びっくりして声を掛けてしまった。
この状況だったら誰でも声を掛けずにはいられない。入学早々カツアゲにあったとか……? それともデカい忘れ物? 失恋?
「うぅ゛……、えんげきぶ……、つぶれてた……」
「演劇部?」
確かにそんな話、誰かが言ってた。「姉ちゃんが演劇部なんだけど今年で潰れるんだ」みたいなことを。
「う゛ぅうっ……! 俺、この、学校で、一人なのに……! 演劇部を、楽しみにしてたのにっ……!」
駒沢は言うと、わぁあああ!とさらに大きく泣き出した。演劇っぽい泣き方。演劇っぽい、ていうのは、噓泣き、とかではなくて、演劇を観ていて舞台にいる人が泣いているのを見て感情移入してしまうような泣き方。特に感傷的、でもなかったのに、なんか俺も泣きそうになってしまった。
「ま、まあ、落ち着きなよ、ほら、一回外行こ、卒業式じゃないんだからさ……」
さすがに入学式、泣きながら出るのも可哀想。俺は引きずるようにして教室の外に連れ出した。彼は俺に引っ張られながら、顔を両手で覆って泣き続けている。大きいんだな、って思ってしまった。多分180は超えてる。
学校外のベンチ。隣り合って座る。まだ入学式まで時間があるから話をきくことにした。
「引っ越してきて……。友達もいなくって……」
「……。なるほど……。」
彼の話を聞く。親の仕事の都合で、急に知り合いも誰もいないこの市に引っ越してきたらしい。同じ小学校の友達はいない。入りたかった演劇部は潰れている。そりゃナイーブにはなると思う。「これから、どうしよう……」って震える声で言う彼。放っておけない。
「そ、その……、演劇、あんま詳しくないけど、その、手伝えることがあったら手伝うよ」
演劇、に関して俺は何も知らない。けど、話を聞いて、そしてこんな姿を見ていたら、何かせずにはいられなかった。
「え……!?」
その時、俯いていた彼が顔を上げて、初めて彼と目が会った。泣きはらした顔、だというのに、さっきまで出してた声からは考えられないくらいの美形で、びっくりした。泣いた後にこんな綺麗な顔出来る人、いるんだな……。なんて思った。
「ほんとに……!?」
「あ、ああ……。演劇のこと、全然知らないし……、多分力不足ではあるけど……」
「ありがとう……! 君、名前は?」
「尾村、温人……」
「あっくん! ありがとう!」
泣き晴らした目で、おっきい身体で、ぎゅ、と抱きしめられる。そのドキドキは、突然の事でびっくりしたドキドキ、とはまた違った感覚だった。
――
あんな大泣きしてたのはなんだったんだ、ってくらいに。あいつは人で囲まれていた。友達も出来たし、モテにモテた。けど、ずーっと「あっくん、あっくん」って、まるで大型犬みたいに追っかけてきた。中学の時にこいつが出した1番のワードは「演劇」で、二番目が多分「あっくん」だと思う。
演劇部も、2年生の時に復活した。俺も数合わせで入って。3年の時にはあいつの一人演劇、みたいな感じの作品だったけど結構いい賞をもらって、それが呼び水になったのか、今年も結構いい人数が入ったみたいだ。
「あっくん、今まで本当にありがとう。高校は離れちゃうけど、いっぱいLIMEするからね」
「俺も……」
卒業式、あいつはきらっきらの笑顔だった。入学式と卒業式、逆じゃないかと思うくらいに。俺は家からすぐそばの高校に推薦入学をして、あいつはこの県で一番強い演劇部のある高校に推薦で合格した。だから高校は離れ離れ。ちょっと寂しかった。
「あっくん」
「ん?」
「俺さ、演劇は多分一生、一番好き」
「ああ……、そうだな……」
「でも、人間の中だったら、あっくんが一番好き!」
どこか無邪気な、きらっきらの笑顔で、俺のことをぎゅうっ!と抱きしめる。演劇バカではあるけれど、これは演劇、でもなんでもない本心、っていうのがはっきりと伝わった。
――
テストやらなんやかんやお互い忙しくて、LIMEの連絡以外に会うことはないまま、8月頭、市民夏祭りの日がやってきた。
「あっついな~……」
午後二時半。俺は市民夏祭りの会場へと入る。
屋台やキッチンカーから漂ってくる美味しそうな焦げの香りを味わいながら、俺は市民会館の中へと入っていった。屋台は駒沢と一緒に回る予定だから。
劇の開始時間30分前。俺は件の演劇が上演されるホールへと向かった。
「お水と魔法の書でーす。どうぞー」
「あ、ありがとうございます」
受け付けで一枚100円のチケットを購入すると、受付の人から、ペットボトルの水に「魔法の書」と記されているコピー用紙が手渡された。「魔法の書」にはこのペットボトルの水は「ウルワシ水」という不思議な水であるということ。そして上演中に演出の一部で使うから終わるまで飲まないで欲しい。ということが書かれていた。一体これをどう使うんだろうかと思いながらホールに入る。
席に着いた。真ん中列の少し後ろの方。超満員、ではないけれど、体感7~8割くらいは入っていた。
“まもなく、第二高校の演劇 鮫の帝王VSゾンビの王の上演を開始します……”
アナウンスの後、舞台の幕が上がった。ステージには、サメをモチーフにしたアーマーっぽい何かを身に着けた鮫の帝王と、ちょっと血色が悪い、「ゾンビの王」だと分かる格好をしている駒沢。子どもも来るような祭りで上映する劇なので、怖さは抑えられている。
舞台の上の駒沢の姿を追いかける。駒沢の演技から目が離せない。演劇バカであり相当な実力者だ。
駒沢だ、とわかってはいるけれども、途中で「ほんとにゾンビになってたらどうしようか」って思うくらいのリアリティがあった。「そういえば、俺、ゾンビになったんだ」が本当か、って不安に思うくらいにゾンビの王を演じていた。
でも、きっと、駒沢のことだったら、ゾンビになっても、鮫になったとしても、きっと
「あっくん」って言って、俺に懐いてくれるのかもしれない。ゾンビになっても鮫になっても、きっと、演劇バカで、その状況を楽しむのかもしれない。
「会場にいるみんな! ウルワシ水を掲げて応援してくれ!」
紆余曲折あり友情を深めた鮫の帝王のピンチにゾンビの王が応援上映みたいに客席の俺達に呼びかける。俺含め観客達が皆ペットボトルを掲げる。
「ありがとう! 元気が出たぞ! さあ、進むぞ!」
「みんな! ウルワシ水をありがとう! おかげで鮫の帝王は元気になったみたいだ!」
なるほど、こう使ったのか。感心しながら劇は進んでいく。
あっという間に終演。あの時見せてもらった台本からタイトル以外全部書き直し、ってくらいに内容が変わって、かなり無理やりではあるけれども「敵対していた鮫の帝王とゾンビの王が友情を深め、第三勢力の巨悪を力を合わせて倒してハッピーエンド」という、王道少年漫画的な、子どもでも楽しめる内容になっていた。ホラー要素もグロテスクな要素も抑えられている。ここまで変えて、それで題材が鮫とゾンビなのは逆にすごいな、なんて思った。
「ふう……」
会館から出て、外の飲食スペースで、ウルワシ水だったペットボトルの水を飲みながら俺は駒沢を待つ。ペットボトルに入った水ではあるけれど、なんとなくいつもと違うような気がした。
「おまたせ~! あっくん!」
しばらくしたら駒沢がやってきた。ゾンビの王、ではない。イケメンの駒沢。浴衣を着ていた。背の高い彼によく似合う。
「どうだった? 演劇?」
「すげーよかった……」
「嬉しい! ありがとう!」
「いやー、でも、ゾンビの研究、ほんとに大変だったよ……。一日一人ゾンビ映画祭り、みたいなことしてたから……。俺一人、ゾンビの世界に取り残される、とかゾンビパンデミックの夢とか、ゾンビになる夢、とか、結構魘されたなあ……。」
「それはマジで大変だったな。お疲れ……」
「でもね、いろんなゾンビ映画を見て、それで俺思ったんだよ。もし、俺がゾンビになっても、あっくんを好きでいたいなーって」
「っ……!」
ここにきて唐突の告白。俺も、似たようなことを考えてしまっていた。思考が読み取られてしまったのかもしれない。
「あっくん、どうしたの? 具合悪い?」
「……いや、なんでも。屋台、行こうか」
「うん! ね、今日は手、繋ごっか! お祭りだし!」
「あっ……」
ぎゅ、と手を繋がれる。心拍数がさらに上がっていく。駒沢の体温が、俺の手を包み込んでいた。
