noteでBL「ダンボールの王子」
はじめて参加させていただきます…! 雨宮ロミと申します。
素敵な企画をありがとうございます✨
執筆中に飲むルマンドがあることをはじめて知りました。飲んでみたいなあと思いながら書きました。
(形式などもしおかしな点がございましたらお伝えいただけますと幸いです…!)
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本文 ※文字数4871文字
お題 ダンボール・ルマンド・雨の日の恋
「ダンボールの王子」
ダンボールの王子。というのは水菜卯月(みずなうづき)が通う旺盛大学(おうせいだいがく)の美術学部の有名人、段田箱根(だんだはこね)のことを指す。
彼の祖父が駅伝好きな人だったらしく箱根、という名前になったそう。しかし彼が魅入られたのは、箱根駅伝ではなく“箱”だった。小さい頃の彼が意志を持って一番最初にやりたがったことは、部屋の隅にあったダンボール箱に触ることであり、成長して手足が自由に動くようになってからは、朝から晩までダンボールで工作をして遊んでいたそう。段田は、芸能人と言われてもおかしくない美しい顔立ちをしていた。子どもの頃から美しい容姿をしており、その容姿のために幼稚園から大学まで、告白されなかった時期はない。しかし、段田は色恋沙汰には一切興味はなく、ダンボールに夢中であった。その顔立ちの美しさと、そしてダンボーるに目がない、という変わりっぷりから「ダンボールの王子」というあだ名がついている。
「……。段田、今日もダンボールに夢中なんだろうな……」
段田の視線は自身に向けられず、ダンボールに向けられていることを、卯月は知っている。
その日の大学の授業を終え、午後からフリーになった卯月は購買のロゴが入ったビニール袋を手首に下げながら歩いていた。向かっていたのは先ほどまで買い物をしていた購買から300メートルほど離れた、美術学部の生徒たちがメインで使っている美術棟。卯月自身は文学部であり、美術系の授業も一つも取っていない。卯月は「ダンボールの王子」の元に向かおうとしていたのである。手には購買の袋。その中には、紫色のパッケージのチョコレート菓子が入っていた。「これ、好きなんだよね」と彼が言っていたから、彼の元に行くときはついそれを購入してしまう。
美術棟の2階。少しだけ扉が開いている205号室。ここは美術科の生徒が使う教室。本来の用途は資材置き場ではあるが、授業のない生徒が課題を自主的に制作する場として使われている。
隙間から中を覗く。手を動かしているすらりとした大きな身体が見えた。ノックすると、中からはーい、と声が聞こえる。その声に導かれるようにして卯月は扉を開けた。
「あ、卯月さん、いらっしゃーい」
「どうも」
ダンボールに囲まれた段田が手を動かしながら、穏やかな視線をほんの一瞬、卯月に向ける。けれどもその視線はすぐにダンボールに向けられてしまう。段田の周りには山のようなダンボール。叶わぬ恋。だと思った。
「お疲れ。今日は何作ってるんだ?」
――
卯月が王子に恋をしたのは4月21日、18時過ぎのこと。卯月はそれをはっきりと覚えている。卯月が大きい荷物をいくつも持って自宅へ帰ろうとしていた時のことだった。
大学すぐそばのコンビニで荷物の受け取りをして、それをビニ―ル袋の中に入れて、フルコマの講義で使った分厚い参考書や教科書の入った手提げかばんを持っていた状況。
コンビニから卯月の借りたアパートまでは徒歩10分。土砂降りではない。だから、傘をさすのも億劫、というか、両手が塞がっているから、傘をさせなかった。手提げかばんは防水。受け取った荷物の中身もビニール梱包されているだろうし、そもそも水濡れしても拭けば問題ないであろうプラスチックケース。走って帰ればなんとかなるだろう。と思いながら、強まっていく雨足に負けないように早足の速度を速めていた。
けれども、雨は強くなるばかりで、ずぶ濡れで家に到着することを予想していた時だった。
「大丈夫ですか?」
濃いベージュの、それこそダンボールのような色の傘が視界に入る。視線を動かすと、彼の後ろには美形がいた。センター分けにされた茶色のふわふわとした柔らかそうな髪。雨の日だというのに太陽のようなきらきらとした、橙色がかった瞳。目鼻立ちのはっきりとした美青年だった。そんな美青年は大きい紙袋を手に提げていた。濡れないように厳重にビニールで保護されたダンボールが。そこで、卯月の中に「ダンボールの王子」という言葉が浮き上がった。きっとこの彼がダンボールの王子、なんだと思った。
「あ、大丈夫です……。家近いので……」
目の前の美青年の美しさと突然声を掛けられたことに動揺しながら卯月は答える。
「家が近くたって、雨に濡れたら風邪引きますよ。もしよかったら荷物もお持ちします」
「あ、ありがとうございます……」
卯月は「ダンボールの王子がいる」ということは知っていたけれども学年は知らなかった。彼も、卯月の年齢をわかりかねていたのか、お互い敬語で喋っていた。そして、段田は傘を持ちつつ、卯月の持っていた荷物をガッシリと持ち、そして濡れないように卯月の肩を軽く引き寄せた。
「そういえば、お名前、なんて言うんですか?」
しばらく敬語で喋った後に、ダンボールの王子が訊ねた。
「あ、水菜卯月です……。一年の、文学部、です」
「卯月さんって言うんだね。僕も一年。美術科の段田箱根。一年なら、タメでいこうか。俺のことも段田呼びでいいよ」
「う、うん……。じゃあ、段田、で……」
相合い傘状態で帰っていく。徒歩五分の間に色んな話をした。お互いの出身地とか、好きな事とか。残念ながら被っている授業は一つもなかったけれども、なんとなく二人の話の波長が合っていた。
そして、卯月のアパートが見えた時だった。
「卯月さん、肩結構濡れちゃったね。もうちょっと近くてもいいよ」
「っ……!?」
ぐい、と軽く肩を抱き寄せられる。まるで恋人のように。段田の身体と卯月の身体が密着する。貧弱な自身の身体とは全く違うがっしりとした身体つき。美術科で鍛えられているのだろうか。その腕の力は存外強い。卯月の心臓がドキドキと跳ねた。今まで、あまり感じたことのない感覚。高校時代、男三人で傘に入って帰ったり、とかしたのに。こんな風な感覚は初めてだった。
そのまま二人、密着するように距離近く歩いていた。卯月のドキドキは止まらなかった。
「あ、俺、あのアパート、ここだから……。ありがとう……、」
熱を持ち、ひどくしどろもどろになりながら、卯月は口にした。密着した感覚がまだ残っている。
「そっか。じゃあね、卯月さん」
「あ、う、うん……」
にこにこと手を振りながら駅へと向かう段田を、いつまでも卯月は棒立ちになって眺めていた。ドキドキと跳ねる心臓の音を味わいながら。
恋、という可能性のような一文字が卯月の頭の中に浮かんでいた。彼氏いない歴=年齢の卯月。それが恋だとははっきりとは分からなかった。
―ー
そして次の日、彼は美術科へと向かっていた。同じ授業で知り合った友達の友達の友達に「ダンボールの王子」がどこにいるのかを訊ねて。彼はいつも205号室にいるそう。お礼、の意味を込めて、購買でお菓子を買って。手頃な値段の紫色のパッケージの菓子。
「あの、昨日は、ありがとう……」
お礼を言いたい、が半分、残りは「もう一回段田に会いたい」という不純な動機。けれども段田はそれを
「ありがとう! 僕、これすっごい好きなんだよね!」
まるで子どものようなぱあっとした笑顔。可能性、だった恋、という一文字を確信に変えるには十分すぎるほどの笑顔だった。
その日からだった。卯月が美術棟へ通うことになったのは。空きコマだったり、暇な時間だったり、美術棟に向かっていた。
――
美術棟に通い始めてから約2ヶ月ほどが経つ。けれども、段田の熱い視線はずーっとダンボールに向けられている。2時間いても卯月に視線を向けられることはよくて休憩時間の30分。短いと3分ほど。休憩なしでやっていることがほとんどだから。
「ねえ、卯月さん」
「なんだ?」
「ダンボールっていいよね……」
「……まあ、そうだな」
「ダンボールって何でも出来る。物を入れられるし、宝箱にもなる。遊具だって作れちゃう。本当に楽しいよ……」
まるでのろけ話ののように段田は言う。水菜卯月もまさか、恋のライバルがダンボールになるとは思っていなかった。こんな感じ。ダンボールに対してののろけ話を延々と聞き、作業をする段田を眺める時間を送っていた。
「じゃあ、俺、ちょっとスーパーで買い物してくるから。また今度」
今日の滞在時間は3時間。その間に向けられた視線はほんの5分。それでも、一緒にいられるだけで楽しかった。
「うん。じゃあね、卯月さん。今日もありがとう」
段田の視線が卯月に向けられ、そして手をひらひらと振られる。それだけで、卯月は嬉しかった。
――
「ん……?」
買い物に行って卯月が見つけたのはいつも手土産にしているあのお菓子を模した飲み物。アイス、は見たことがあるけれど、飲み物になっているのは見たことがない。これを飲んだら一体彼はどんな顔をするんだろう。彼の反応を見たくてそれを買った。
「明日の1限が終わったら205行くから」
そんなメッセージを卯月は送った。ダンボールに夢中になっている割には段田は意外と返信が速い。遅くても1時間ほどで返信が返ってくる。けれども、その日は朝起きても返事が返ってこなかった。まあ、忙しいんだろうな、と思って1限を受ける。けれども返事は返ってこない。段田は3限からではあるけれど、美術棟にいることが多い。どういうことだろう。少し不安になりながら、卯月は彼がいるはずの部屋へと向かった。
「っ……!?」
205室の、段田は、サスペンスドラマのように倒れていた。顔色が真っ白。緊急通報ができるように、卯月はスマートフォンを持ちながら段田のそばに近づく。
「段田、どうしたんだ!?」
とんとん、と軽く肩を叩く。すると「うーん」という声が聞こえてきた。意識はあるようで卯月はほっとする。
「段田!? 大丈夫か……」
「おなか、すいた……」
「え……?」
返ってきた答えに卯月は拍子抜けしてしまった。
「何か、食べ物か、甘いもの……」
経験則、とばかりに彼は言う。甘いもの。二人で飲もうと買った缶を開け、それを飲ませた。今持ってる飲み食いできるものがそれしかなかったから。本当はもっと穏やかに飲みたかったな。と思いながら彼に飲ませる。
「ありがとう……。美味しい……。生き返る……」
飲んでいくうちに、段田は起き上がり、顔色はよくなっていく。大事ではなさそうで卯月はほっと小さく息を吐いた。
そして段田は起き上がると、卯月のことをぎゅう、と抱きしめた。一瞬、起き上がって貧血を起こしたのかもしれない、と思って少し不安になる。
「ど、どうしたっ……、大丈夫かっ……!? 体調悪いか?」
けれども段田は卯月のことをぎゅう、とさらに強く抱きしめ、首を横に振る。大丈夫だ、と言う風に。
「ありがとう、卯月さん。卯月さんがいなかったら僕もしかして本当にお腹空きすぎて死んじゃってたかも」
「……、お、大げさだよ」
「大げさじゃないよ……。いつもありがとうね……」
「……」
あの日よりもさらに力強く密着する身体。卯月の顔が彼の胸板に密着する。どきどきした。彼の胸は制汗剤のミントの匂い、そして少しのダンボールの匂い。ドキドキと卯月の心拍が高まる。
段田はすぐに元気になった。二人、卯月が買った缶飲料を飲みながら座っている。顔色 も随分とよさそうだ。
「どうしてこうなったんだ?」
「その、夢中になり過ぎてお腹空きすぎて動けなくなっちゃったんだよね……。昨日、卯月さんが帰ってから、事務の人にダンボールをいっぱいもらって、嬉しくって、寝ないで作ってたら動けなくなっちゃって……」
「そ、そうか……。でも、ご飯はちゃんと食べろよ」
なんとも段田らしい理由だ、と卯月は思った。
「うん。これ飲んだら購買行くよ」
「それにしてもこれ、美味しいねえ」
「あ、ああ……飲み物バージョン、初めて見たから、一緒に飲みたくて買ってきた」
「そっか……。ありがとう」
柔らかい瞳で卯月を見る段田。それこそ、いつもダンボールに向けられているような視線。ドキドキと卯月の胸が甘く高鳴り、ぼお、と身体が熱くなる。その身体の熱さを誤魔化すように、卯月はぐい、と缶を飲み干した。
終
