noteでBL(お題解放期間)「一生焦がれている」
まえがき
noteでBL、お題解放期間ということでお題をお借りして執筆させていただきました!ありがとうございました…!
私は第10弾のルマンド回からの参加なのでそこから遡って執筆していくことにしました。ということで第9弾のお題で執筆しました!
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本文(約3800文字)
※やや重たい描写(嫉妬・教育熱心な親)があります
「ふんふん~」
水曜日。部屋の中。会社が休みのあいつの鼻歌が聞こえて来る。その鼻歌は酷く気が緩んだ取り繕わないもの。その音に混ざるようにして随分と間の抜けた、爪を切る音が響いている。
知らない人間が立てている音だったり、画面越しの音であれば、全く気にもならないしむしろ穏やかな気持ちすら感じる。日常のひととき、という雰囲気の音。
けれども今俺の一番近くで聞こえてくるあいつが発する音は、俺をとてつもなく苛立たせている。視線をあいつに向けた。俺の記憶の中に強烈な印象を残しているあいつの姿とは全く違う姿だった。
鼻歌混じりに爪を切るあいつは随分と穏やかな顔をしている。それこそ何にも囚われずにこの穏やかな時間を享受しているような無邪気な顔。
今、あいつの歌を聴くことが出来るのは俺だけ。
一緒に、大勢に向かって歌ってた頃とは大違い、という感じだ。
俺はそんなあいつのぽやぽやした鼻歌を聞きながら、五線譜の上、苛立ちを表すようにガリガリと音を立てながらボールペンを動かしていた。柔らかな鼻歌と、間の抜けた爪切りの音。舌打ちをギリギリのところで堪えている
大嫌いだ。本当に。
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こいつのことは、出会った時から大嫌いだったのかもしれない。
水曜日、俺は、4階の空き教室を借りて、よく一人で歌っていた。水曜日は音楽室と空き教室を占領しているうちの高校の吹奏楽部が休み。音楽室は自主練する生徒がいたけれど、空き教室は空いている率が高かった。だからそこの鍵を借りて、使用用途欄には「自主勉強」と嘘を書いてそこで一人鍵をかけて歌っていた。
俺は社交的、とはかけ離れている。友達もなんにもいない。中学時代、穴埋めで断りきれずにカラオケに行ったら選曲の時点で気まずい空気が流れた。親は歌には全く興味がない。興味がない、どころか娯楽に触れることですら嫌な顔をする。勉強成績以外価値はない、みたいな考え方のタイプの親。
家も学校もどうにも居心地が悪い中、俺が唯一楽しい、と思えていたのが、この時間だった。こっそりダウンロード購入した音楽を掛けながら、ひとりで好きな歌を思いっきり歌う。何よりも楽しい時間だった。
歌い終えて小さく息を吐いた瞬間だった。
先程まで歌に夢中で全く気付かなかった人の気配に気づく。鍵をかけ忘れてしまっていた。とてつもない焦りと同時に振り向いて、その気配の正体を認識する。
俺の顔が歪む。そこに居たのは︎あいつだった。大嫌いなあいつ。美しい容姿と人当たりの良さ、運動も成績も何もかもがトップクラスでクラスの人気者のあいつ。大嫌いなあいつ。
正直、こいつにだけは聴かれたくなかった、と思った。弱みを握られた、とか、嘲笑、とか。そういう言葉が頭をよぎった。
別に何か悪意を持った言動をされた、とかでもない。
端々で感じていた。「小さい頃からずっと人気者で、華やかな空間にいて、幸せが絶えなかった。居心地の悪さ、を味わったことなんてなかったんだろうな」という空気を感じていたから。そのときの大嫌い、は単純な「嫉妬」だったんだと思う。
睨みつけるような視線を向ける俺とは対照的にあいつはキラキラした目をしていた。
「すっごい素敵!」
きつい視線とか、俺の卑屈な考えなんて全く気にせずに彼は俺の元に近づいてきた。そしてそのまま俺に向けて手を差し伸べた。
「ね、二人で音楽やろうよ!」
あいつは勢いと興奮のまま手を差し伸べる。
「人気者が日陰者に対して声をかけて一緒に何かを始める」
アニメや漫画の中であれば華々しい始まり、だったかもしれない。シンデレラストーリー、の第一歩かもしれない。
でも俺は正直腹が立って仕方がなかった。高みの見物、みたいに思えてしまったから。認められて、嬉しくないはずがないのに、大嫌い、という重たい気持ちが邪魔をしていた。
それでも、なぜか、俺はあいつの手を取ってしまった。大嫌いだったのに。なぜか。
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その日から、空き教室で毎日二人で過ごすことが増えた。あいつは顔が広いしよくモテる。吹奏楽部員も「空き教室を貸して欲しい」というあいつの頼み事には二つ返事をするしかないんだと思う。
「それじゃあ、いくよ!」
すう、と同じタイミングで息を吸い込んで歌を歌う。
あいつに抱いていた大嫌い、という想いとはまた違って、あいつと歌を歌うのは純粋に楽しかった。誰かと一緒だから楽しい、みたいな感覚ではない。校歌斉唱とか、合唱の授業、でもこんな感覚にはならなかった。
あいつはとてつもない才能の持ち主だった。
俺は引き立て役にもならない。と思うくらいに。でも楽しかった。
空き教室でたわいない話をして歌を歌う。あいつもあいつで苦労はあって。嫌いだったあいつへの想いが少し和らいでいくのを感じていた。
そんなある日のことだった。
「ね、もしよかったらさ、これ、ネットに上げてみない?」
「は……?」
「俺たちの歌、もっとたくさんの人に聴いてもらうの!」
その声は随分純粋な声。賞賛とか反応とかは全く求めていないような声。
ここで俺が「やめる」って言えばよかったのかもしれない。お前の方が上手いから一人でやれ、って言えば、それで終わりだった。
けど、また俺は頷いてしまった。
結果から言うと、あいつが上げた俺たちの歌は、インターネットでとてつもない注目を浴びた。
それがきっかけで俺達はそれで食っていくようになった。
過ぎてしまえば「食っていくようになった」の一言かもしれないけれど、とんでもなくいろんなことが変わっていったし親ともぶつかったきりで終わり。今も何の連絡も取っていない。
誰もいない空き教室とは比べものにならないくらいの広さの空間で、数え切れない人数の客に歌を聴かせた。
あいつは、すごかった。
全てを食らいつくすような圧倒的な歌声。日を重ねていくごとに俺まで食らい尽くされると思うくらいにあいつのレベルがメキメキと上がっていく。空き教室で歌っていた頃とは比べものにならないくらいの底なしの成長。
ステージに立つ。エゴサーチをする。その度に明らかな差を思い知らされた。
小さな会場に送られたフラワースタンドプレゼントの花束の数は明らかに俺の方が少ない。
悔しい、はたくさんあった。それでも、あいつと一緒に歌えるのは、ひたすらに楽しかった。
嫌い、の気持ちがゼロになったわけではない。嫉妬の気持ちもなくなったわけでは無い。けど、その頃には折り合いがつくようにはなった。嫌い、の気持ちよりもあいつは、すごい。からもっと見て欲しい、の方が強くなっていった。
けれども、あいつから、やめる、って話が出たのは、そのすぐ後だった。
「なんでだよ!」
「……もう、満足かなって思って」
「お前の方が才能あるだろ!」
「……才能だけあってもしょうがないよ」
無理強いはできない。仕方がない。頭ではわかっている。でも、納得はできなかった。
あいつの方が才能があったのに。あいつは、それを自ら手放してしまった。腹が立つ、悔しい、悔しい。なんで。
和らいでいった、折り合いがついていたはずの大嫌い、の感情は膨れ上がっていって、未だに留まるところを知らない。
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紆余曲折、という言葉では表せないほどの様々な出来事があった。俺はまだ音楽をやっている。歌う仕事もしているし、今は作る方の仕事も手に入った。
けれども、それは本望じゃなかった。
俺が作る歌は、全部あいつに歌って欲しかった歌の欠片を集めたもの。
未練、みたいなのがあるのかもしれない。
ひとりで歌っていても、頭の中で再生されるのはあいつの声だ。あいつの声で歌が聞こえてしまう。
ずっと、あいつに焦がれている。ずっとあいつと、歌っていたかった。
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「おつかれ」
後ろから、あいつの声が聞こえて来て我に返る。
爪を切る音はいつの間にか止まっていて。五線譜の上のボールペンも二重線の部分で止まっていた。
あいつは俺の後ろにいて、そのまま、俺の背中に腹を密着させるような体勢になっている。嫌な感覚、ではなかった。
「……なんでやめたんだよ、歌」
あいつに抱きしめられながら、使いすぎたのかぼんやりした頭で問いかける。
またその質問?なんて。笑いながらちょっと困ったようにあいつは言う。
また、じゃねえよ、それに関しては俺はまだ納得出来てないんだよ。
「もう満足かな、って思ったの」
もう満足かな、って思ったの
才能がないことに打ちのめされてしまった、という声色でも、無理やり諦めた、という声色でも全くない。文字通りの「もう満足かな」という声色だった。全てが満たされてしまった、幸せな声色という感じだった。
「そう……」
やめた時もそうだった。全く泣いてなんかない。それどころかなんかふっきれた、みたいなきらきらの笑顔をして。泣き叫びながら悲しむファンも、隣で血が出るくらいに唇を噛み締める俺も置き去りにしてしまっていた。
「いろんな人にきいてもらえて、二人で歌えて、本当に楽しかった」
「……」
「でも、俺の歌は、二人だけの宝物にするのがいいかなって思ったんだ。
ぎゅう、とさらに強く抱きしめられる感触。ライブ後にしたあのお疲れ様、とか感極まったような抱擁とも、また違う。俺だけに向けられた抱擁。
「二人、こうして一緒にいられて、たまに歌歌うくらいがいちばん楽しいかなあって思ったんだ」
のんきにそんなことを言っている。俺の気持ちも知らないで。
こいつのことは大嫌いで、でもどうしようもないくらいに、同じくらい大好きで。
これから一生、そんな想いを抱えて生きていくんだと思う。
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あとがき
ご覧いただきありがとうございました!
以下お題の使用箇所です!
〇花
フラスタ・プレゼントの花束(華やかとか華々しい、とかも)
〇爪切り
爪切りの描写
〇大嫌い。でも好き
受け→攻め
最近書いていて気づいたのが手癖で書くと「圧倒的な(芸術の)才能を持つ子」を中心に回るの話になりがちなので2026年は
・芸術の才能を持つキャラの話
・才能に嫉妬・追い求めている
・回想形式
を封印して一回やりたいなあ、と思ってます。あと出来れば段田タイプのぽやぽやした攻めの造形も……。(攻めの造形も似たり寄ったりになってしまいがち)
