松に雪笠、枯れ池の衰
松に雪笠、床の間に花、見つめる先には枯れ池の衰。
神棚にお榊、白檀の香、黒檀の机には豪勢な料理、酌み交わす酒、月をも酔わす和の調べと賑やかな声、声、声……。
嘗ての栄華が亡霊となって、鼓膜を弄び心を徒に掬い上げる。濡れる瞼に指をやり、侘び寂びの浮遊する奥座敷の沈黙に耳を傾ける。外はしんしんと雪がただ降り積もるのみ。現を無音で語るは、この静寂のみ。
もう戻らぬものに、帰って来ぬ者たちに気を馳せてもどうにもならぬと、硝子戸から仰ぎ見るは、栄枯盛衰の語り部の月よ。
嘗て水が満ちていた池の水面には、あの変わらぬ月の姿が。優雅に泳ぐ錦鯉に戯られ、揺れる水面に破顔するが如くに水月や。まだ映す恋すら知らぬ幼子。大人たちの夢語りは、御伽話を読むかの如く。訳も解らず笑う幼子ひとり。
刻は泡沫、刹那散りゆく花の如くに、隆盛を極めた華族の末路に、しんしんと落ちるは、雪。
━ 了━
