【掌編】 人知れず生きるもの

人知れず流れる水がありました。
人知れず実り、腐り朽ちて逝く果実がありました。
其の流れる水は、己れの在り様の意味をどう理解したのでしょうか。
其の果実は、己れの残酷な運命にどう折り合いをつけ、受け入れたのでしょうか。
私には知りようもありません。
でも……。

ここに人知れず終わっていく恋が在ります。
月や花には語れても、人には決して語れない恋でした。

人知れず流れてゆく感情と涙がございました。
人知れず静かに実り、触れられる事なく腐蝕してゆく恋がございました。
残酷な運命に抗わんと、狂気のなか壊れゆく愚者の恋でございました。
未練をうたえば、きりがございません。
終の印を未だに血に刻めぬ愚者の悪あがきは、はしたなく垂らす情欲とまぐわいながら、性懲りも無く続いております。

あの流れる水が、抵抗する事なくただただ無感情に流れるのも、然しやはり其れは、ひとつの抗議なのでしょう。
あの変色した果実が、あとは腐さり朽ちゆく残酷な末路を待つのみと思い知りながら、なお枝に縋り落下しないのも、やはり痛烈な抵抗なのでしょう。
どちらも内なる激情のなか、見えぬ涙とともに黙して発せられる密かな抵抗なのだろうと。
私には、そう思えてならないのです。
例え愚行だと解っていても……。

たぶん此れは、共鳴。
魂か感情か思念か、其れは判然としません。
でも確かに伝わってきたのです。
そして、秋風に鳴く枯れ葉の音色のなか、私たちの涙と感情は共鳴し、そして刹那無音で語り合ったのです。
まさに、せつなき刻でございました。
其れは霧の花と昇華され、山の霞と消えたのやもしれません。
人知れず、人知れず……。


人知れず流れる水がありました。
人知れず実り腐りゆく果実がありました。
人知れず枯らし朽ちゆく恋がありました。
懸命に抗い、懸命に生きるものたちでした。


小さな秋に、小さな幸せを。












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