見出し画像

銭湯のサウナ風呂で仕事の依頼が来るとは。まさかの展開にびっくりした話。

episode 5.
銭湯のサウナ風呂で仕事の依頼が来るとは。

今回は、いまから20年以上も前のお話です。

「プロだからスポンサーが付いているのですか?」と冗談半分でよく聞かれましたが、私は銭湯の番台でお金を払う、自称「プロサウナー」です。当時は週に3日は通い詰めていたのです。

夜の11時ごろにサウナへ入ると、大体いつも同じ顔ぶれが集まります。それぞれ暗黙の了解で定位置が決まっていて、じっと腕を組みながらテレビを観る。これが最高の癒やしの時間でした。(ちなみにプロのルーティンは、7分入って水風呂へ。これを5セット繰り返すと、まさに極楽です)

いつもは会釈をする程度で、深く話をしたことはありませんでした。しかしある日、サウナ室の中にその方と私、ふたりきりになるタイミングが訪れたのです。

「お仕事は、何をされているのですか?」

ふいに声をかけられ、私は「グラフィックデザインで、印刷物のデザインをしています」と答えました。すると、相手の方から驚きの言葉が返ってきたのです。

「そうなんですか!実は私の知り合いに、会社案内を作りたいと言っている人がいましてね」
「えっ、、、打ち合わせに行きますよ!」

まさかサウナの中で、そんな仕事の展開になるとは夢にも思いませんでした。

A4の山に埋もれない、大胆な戦略の提案

私は、会社案内の仕事が大好きです。デザインを通して、その業界の深い仕組みを新しく学べるからです。

さっそくご紹介いただいた社長のもとへ打ち合わせに伺い、詳しいお話を聞きました。「大手ゼネコンなどへ営業に行くと、いろんな会社のA4サイズのパンフレットが山のように置いてある。そんな中にうちの会社案内が埋もれてしまうのは嫌なんだ」

社長はさらに続けました。「きっと、営業に来た他の会社のパンフレットなんて、1ページも読まれていないんだろうな」

その切実な現状を聞いて、私の中のクリエイター魂がグッと燃え上がりました。

「それなら、机の上に置かれていてもパッと目を引くように、一般的なA4サイズではなく、ひと回り大きい『B4サイズ』で作りませんか?」

私の提案した戦略に、社長も深く納得してくださり、「まずはイメージラフ(カンプ)を作成するので、社内の写真を撮らせてください」とお願いし、その場で何となくストーリーを組み立てながら、15分ほどでサッと撮影を済ませました。「またご連絡しますね」とお伝えし、その日は帰路につきました。

当時のデジカメ画素数と、製版屋さんの職人技

その会社は、現場へ生コンクリートを運ぶ会社でした。業界では後発企業でしたが、リサイクル生コンの導入など、将来への意欲が非常に高い真面目な会社です。多くの生コン工場は、現場まで30〜60分程度で到着できる範囲を営業エリアにしています。

その距離感やスピード感を頭に巡らせながら、一気にラフを仕上げました。
出来上がったラフを社長に見ていただくと、目を丸くして驚かれました。

「もう、これで十分です!バッチリです!」「えっ、これから本物のカメラマンを呼んで、ちゃんと撮影し直そうと思っていたのですが……」
「いや、この写真がいいんです。さっき土の写真を撮ってどうするんだろうと思っていましたけど、こんな風になるなんて、本当にびっくりしました!」

デザイナー冥利に尽きる、最高の褒め言葉でした。

しかし、私にはひとつ大きな懸念がありました。当時のデジタルカメラは、今と違ってまだまだ画素数が低かったのです。「はたして、この写真が印刷のクオリティに耐えられるだろうか……」

ここで救世主となってくれたのが、信頼している「製版屋さん」でした。相談すると、プロとしての素晴らしいアドバイスをくれたのです。

「印刷の『線数(スクリーン線数)』をあえて下げることで、見た目の粗さが目立ちにくくなるよ」

通常よりも少し低い150線ほどに設定したことで、網点が少し大きくなり、画像がややソフトな印象に仕上がりました。狙い通りに写真の粗が消え、とても綺麗な仕上がりになったのです。

完成した会社案内を届けたとき、社長が言ってくれた「これで頑張って営業へ行ってきます!」という言葉は、今でも忘れられないほど嬉しかったです。


披露宴のテーブルで見渡した、見覚えのある顔ぶれ

後日、この素敵な仕事の縁を繋いでくださったサウナ仲間の方から、結婚式に招待していただきました。

喜んで出席し、案内された丸テーブルの席についたときです。ふと周りの出席者の顔を見回して、思わず笑ってしまいました。

なんと、そのテーブルに座っていたのは、いつも夜11時のサウナ室の定位置で、腕を組んでテレビを観ていた「いつものメンバー」だったのです。みんなで顔を見合わせながら、裸ではないスーツ姿でお互いに爆笑してしまいました。

次回は写真にまつわるお話です。
episode 6.「生の写真と加工写真(仮)」

写真の仕上がりによって、デザインの完成度は驚くほど大きく変わります。
当時の工夫の数々を裏話と共にお届けします。どうぞお楽しみに!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集