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地方創生はもう古い 次は「暮らしが止まらない地域」をつくる

■地方創生OS構想という提案


地方創生は、長いあいだ「人を呼ぶ政策」として語られてきた。観光客を増やす。移住者を増やす。補助金で支える。地域ににぎわいをつくり、外から人とお金を入れる。その発想自体が間違っていたわけではない。

しかし、いま地域の現場で起きているのは、もっと静かな崩れである。病院には行けるはずなのに行けない。制度はあるのに届かない。店はあるのに続かない。仕事はあるのに続けられない。暮らしは、ある日突然壊れるのではない。小さな不便と不安が積み重なり、少しずつ止まっていく。

だから必要なのは、地方創生の延長ではない。地方創生の次である。これからの地域政策は、人を呼ぶ前に、いま暮らしている人の生活が途中で止まらない仕組みをつくる段階に入らなければならない。

■なぜ地方創生は効きにくくなったのか


多くの自治体は、人口を増やそうとしてきた。観光で人を呼び、移住を促し、イベントでにぎわいをつくる。だが、その結果として、地域は「人を取り合う競争」に入りやすくなった。隣町も移住促進をする。別の自治体も観光PRをする。どこも同じような言葉で、同じような未来を語る。

もう一つの問題は、政策が縦割りで進みすぎていることだ。医療は医療、交通は交通、観光は観光、福祉は福祉、産業は産業として語られる。しかし、住民の暮らしはそのように分かれていない。病院に行くには交通が要る。働き続けるには保育や介護の支えが要る。観光で稼ぐには住民の暮らしが壊れないことが要る。

政策が足りないのではない。政策同士がつながっていないのである。制度はあるのに、そこにたどり着けない。支援はあるのに、必要な人に届かない。施設はあるのに、生活の流れの中で使えない。ここに、いまの地方創生の弱点がある。

■地方創生の次はOSである


ここで必要になるのが、OSという考え方である。OSとは、もともとはOperating System、つまりコンピュータを動かす基本ソフトのことである。アプリが個別の機能なら、OSはそれらを動かす土台であり、つなぐ仕組みである。

地域に置き換えれば、医療、交通、仕事、行政、商い、観光はそれぞれアプリのようなものだ。それぞれが存在していても、つながっていなければ暮らしは止まる。病院はあるが行けない。制度はあるが使えない。店はあるが続かない。これは、地域のOSが弱っている状態である。

私が提案したいのは、「地方創生OS構想」である。これは、個別政策をただ増やすものではない。すでにある政策を、暮らしの流れでつなぎ直す構想である。医療、交通、仕事、行政、商い、観光を生活導線でつなぎ直し、暮らしが途中で止まらない地域をつくる。それが、地方創生OS構想の核心である。

■暮らしが止まる場所を見つける


最初に必要なのは、地域ごとの暮らしの弱点を見える化することである。そこで必要になるのが「暮らしカルテ制度」である。人口や高齢化率だけでは、地域の本当の困りごとは見えない。通院できるか。買い物に行けるか。免許を返納しても生活できるか。子育てと仕事を両立できるか。介護で家族が孤立していないか。災害時に取り残される人はいないか。

こうした項目を地区ごとに点検し、毎年「暮らしの健康診断」として整理する。悪い評価をつけるためではない。どこに予算を入れるべきか、どの導線が詰まっているのかを明らかにするためである。地域政策に必要なのは、ふわっとした期待ではなく、生活の詰まりを見つける目である。

同時に必要なのが「退場理由マップ」である。人口減少を数字だけで見るのではなく、人がなぜ地域から離れるのかを地図にする。若者が出ていく理由、女性が戻らない理由、高齢者が暮らしにくくなる理由、事業者が廃業する理由、観光地で住民が疲れていく理由を、地域ごとに可視化する。

地方創生は、転入者数を追う前に、退場理由を見なければならない。人は突然、地域を嫌いになるわけではない。通えない、働きにくい、相談できない、続けられないという感覚が積み重なり、静かに地域から離れていく。その理由を見ないまま移住促進をしても、底の抜けた桶に水を注ぐようなものである。

■詰まりを直し、生活導線をつなぐ


暮らしの詰まりを見つけたら、次はそれを直す仕組みが必要になる。そこで提案したいのが「生活導線デザイナー制度」である。これは、自治体職員だけで完結するものではない。保健師、地域包括支援センター、交通事業者、医療機関、商工会、観光協会、社会福祉協議会、民間人材などが横断的に関わる専門チームである。

たとえば、婦人科に不安がある人がいるとする。その人に必要なのは、単に病院名を教えることではない。相談先が分かること、予約方法が分かること、受診先にたどり着けること、必要なら紹介されること、継続して相談できることまで含めた導線である。制度名ではなく、暮らしの流れとして支援を設計する必要がある。

免許返納後の高齢者も同じである。返納したら終わりではない。その後に買い物へ行けるか、通院できるか、地域の集まりに参加できるか、緊急時に連絡できるかまでを一体で考える必要がある。地方創生の次は、制度を置くことではなく、制度までの道をつくることである。

■消えてはいけない地域機能を守る


地方では、小さな店や事業者が消えることが、単なる民間事業の終了では済まないことがある。スーパーがなくなる。薬局がなくなる。クリーニング店がなくなる。魚屋がなくなる。理美容店がなくなる。交通事業者がなくなる。それは、地域の生活機能が欠けるということである。

そこで必要になるのが「地域機能保険制度」である。これは、売上規模だけで事業者を見るのではなく、その店やサービスが消えたときに地域生活へどれだけ穴が空くかで評価する仕組みである。小さなスーパー、薬局、診療所、理美容店、飲食店、交通事業者、旅館、農家、魚屋、菓子店、修理業、ガソリンスタンドなどを、地域機能事業者として把握する。

支援は赤字補填だけではない。設備更新、事業承継、共同配送、後継者マッチング、空き店舗活用、複業人材の受け入れなどを組み合わせる。地方創生は、新しいものを呼び込む話ばかりではない。消えてはいけないものを、どう残すかの政策でもある。

さらに、住民が「何を残したいか」を選べる仕組みも必要である。これが「逆ふるさと納税制度」である。外から寄附を集めるだけでなく、地域の住民が、この路線を残したい、この商店街を支えたい、この診療導線を強くしたい、この店の承継を応援したいと意思表示できる仕組みをつくる。

もちろん、単なる人気投票にしてはいけない。声の大きい地域だけに予算が寄るのではなく、暮らしカルテや退場理由マップと連動させ、必要度の高い地域機能を行政が責任を持って支える。住民の意思と行政の判断をつなぐことで、税金の使い道を暮らしの実感に近づけるのである。

■女性が暮らし続けられる地域は、誰にとっても強い


地方創生OS構想の中心に置くべき政策がある。それが「女性定住安全保障」である。従来の女性政策は、女性活躍、子育て支援、男女共同参画といった言葉で分かれがちだった。しかし、地方で本当に問われているのは、女性がその地域で無理なく暮らし続けられる条件が整っているかどうかである。

婦人科医療にアクセスできるか。検診後に相談できるか。月経、更年期、不正出血、妊娠前相談について、気軽に受診できる入口があるか。夜間の移動に不安はないか。職場文化は古くないか。育児後に働き続けられるか。介護負担や地域活動の役割圧力が、特定の人に偏っていないか。

これは、女性だけの問題ではない。女性が安心して暮らせる地域は、若者にも、子育て世帯にも、高齢者にも強い地域である。逆に、女性が静かに諦めて出ていく地域は、長期的には若者も戻らず、子育て世帯も定着しにくくなる。

地方創生で本当に見るべきなのは、移住者向けの華やかなPRではなく、こうした生活の細部である。地域が選ばれない理由は、パンフレットには出てこない。職場の空気、通院の不便、相談しにくさ、役割の重さ、夜道の不安。その一つひとつを政策として扱うところから、次の地方創生は始まる。

■お金を一度で終わらせない


暮らしを支えるには、お金の流れも変えなければならない。観光客が増えても、そのお金が地域に残らなければ、地域の暮らしは太らない。補助金を出しても、委託費が域外企業へ流れ、地元には一部の作業しか残らないなら、地域経済は強くならない。

そこで必要になるのが「地域内二周経済スコア」である。これは、自治体予算、観光事業、補助金、委託契約について、そのお金が地域内で何回働いたかを点数化する仕組みである。地元事業者に仕事が回ったか。地元雇用を生んだか。地元仕入れにつながったか。若者や女性の雇用に結びついたか。事業承継に役立ったか。

一度入ったお金が、そのまま外へ抜けていく事業は低く評価する。地元の宿、飲食店、農家、交通事業者、制作会社、商店、若者雇用へつながる事業は高く評価する。これを補助金審査や公共調達、観光事業の評価に入れることで、地方創生は「予算を使ったか」から「地域に残ったか」へ進化する。

地域経済に必要なのは、単なる消費額ではない。地域内で何度も働くお金である。外から入った1万円が、宿に入り、地元食材に回り、加工業者に回り、デザインや販売に回る。その流れをつくることが、これからの地域経済政策である。

■地方創生OS構想が向いている先


地方創生OS構想は、派手なスローガンではない。むしろ、地味な政策の束である。通院できるか、買い物できるか、相談できるか、働き続けられるか、店が残るか、お金が地域に残るか。そうした一つひとつを、生活の流れとしてつなぎ直す構想である。

これからの自治体に必要なのは、人を呼ぶことだけではない。住んでいる人が離れない理由を増やすことだ。観光客を増やすことだけではない。観光で稼いでも、住民の暮らしが壊れないようにすることだ。補助金を配ることだけではない。そのお金が地域の中で次の仕事を生むようにすることだ。

地方創生の次は、人口を取り合う競争ではない。暮らしが止まらない地域をつくることである。医療、交通、仕事、商い、観光、行政を、生活者の導線でつなぎ直す。そのための新しい設計図として、私は「地方創生OS構想」を提案したい。

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