優先道路態様の過失割合
交通事故解説動画(04)への疑義
過失割合の解説に疑義がある。疑義の個所は以下の部分。
ミニバンが完全停止・徐行確認を実証(停止線で0km/hが数秒+二段階停止)
→ -10 ⇒ 80:20
ミニバンの先入が明確(交差点中心を越えて横断の大半を終えていた)
→ さらに-10 ⇒ 70:30
……
ミニバンの直近直後進入や一停無視が強い
→ +10~+20(=ミニバン過失増) ⇒ 90:10~100:0
事故態様は、
優先道路 対 非優先道路(一時停止規制あり) の四輪車同士
※ ミニバン=非優先道路車=劣後車
※ 優先道路車=優先車
『別冊判例タイムズ38号』では、事故態様【105】(223頁)に分類されており、以下のように説明がある。
基本過失割合 優先車10 対 劣後車90
修正要素は以下5種類
① 劣後車の明らかな先入 +10
② 優先車の著しい過失 +15
③ 優先車の重過失 +25
④ 劣後車の著しい過失 -10
⑤ 劣後車の重過失 -15
当方補足:丸番号は当方にて付番。書籍の備考番号とは異なる。
基本過失割合と修正要素を抜粋
◆一時停止
上記のとおり、一時停止に関わる修正要素はないため
ミニバンが完全停止・徐行確認を実証
(停止線で0km/hが数秒+二段階停止)
→ -10 ⇒ 80:20
……
ミニバンの直近直後進入や一停無視が強い
→ +10~+20(=ミニバン過失増) ⇒ 90:10~100:0
という説明は正しくない。
交差道路が優先道路である場合は、一時停止規制の有無に関わらず、交差道路車の進行妨害してはいけないこととなっている(道交法36条2項)。優先道路車には、見通しが悪い場合でさえ徐行義務が課されていないのだから(道交法42条1号括弧書)、優先車は基本的に進路前方に注意していればよく、事故は専ら、劣後車の交差点進入のタイミングに掛かっている。
(交差点における他の車両等との関係等)
第三十六条
2 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、その通行している道路が優先道路(道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいう。以下同じ。)である場合を除き、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
(徐行すべき場所)
第四十二条 車両等は、道路標識等により徐行すべきことが指定されている道路の部分を通行する場合及び次に掲げるその他の場合においては、徐行しなければならない。
一 左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとし、又は交差点内で左右の見とおしがきかない部分を通行しようとするとき(当該交差点において交通整理が行なわれている場合及び優先道路を通行している場合を除く。)。
劣後車の一時停止、微発進を伴う多段階停止の影響を、もう少し丁寧に説明する。
優先車は優先道路ゆえに徐行義務が課されないのだから(道交法42条1号括弧書)、優先車に対処義務が生じるのは、劣後車が交差点内に進入すると明確に認識できる時点である。それ以前であれば、優先車は「劣後車は自車を進行妨害することはない」(道交法36条2項)と信頼して進行することができるのだから(信頼の原則)。そのため、劣後車が交差点手前で一時停止、あるいは微発進して多段階停止する時点では、優先車には対処義務は生じない。つまり、劣後車が一時停止や多段階停止を行ったことは、優先車の過失を増ずる要素とはならない。
劣後車には、交差道路が優先道路ゆえに優先車の進行妨害を禁止する規定があり(道交法36条2項)、これは、劣後車の一時停止規制の有無とは無関係に規定されている。つまり、劣後車が一時停止や多段階停止を行ったことは、劣後車の過失を減じる要素とはならない。
結局、劣後車の一時停止や多段階停止は、優先車が防衛的運転をする参考とはなっても、注意義務や過失に影響を与えるものではないわけである。
優先道路態様【105】の修正要素に一時停止規制が含まれていないのは、上記のことが理由だと思う。
◆明らかな先入
また、①「非優先道路車の明らかな先入+10」の説明を
ミニバンが完全停止・徐行確認を実証(停止線で0km/hが数秒+二段階停止)
→ -10 ⇒ 80:20
ミニバンの先入が明確(交差点中心を越えて横断の大半を終えていた)
→ さらに-10 ⇒ 70:30
と説明しているが、この「先入」の解釈も正しくない。
書籍には、以下のように説明されている。
本基準の態様の事故では、劣後車Bは、通常、低速であり、かつ、交差点が長いため、厳密な先入関係を問題とすれば、ほとんど常に劣後車Bが先入となろうが、これを全て修正要素とする趣旨ではない。優先車Aの通常の速度(制限速度内)を基準として、優先車Aが、劣後車Bの交差点進入時に直ちに制動又は方向転換の措置をとれば容易に衝突を回避することができる関係にある場合を「明らかな先入」として修正要素とするのが相当である。
なお、劣後車Bがすでに交差点に入って停止しているところに優先車Aが衝突した場合のように、およそ出合い頭事故と呼ぶにふさわしくないほどに先入の程度が著しい場合は、本基準の対象外である。
上記説明のとおり、優先車が事故回避の措置をとれば容易に衝突を回避できる関係性にある場合を「明らかな先入」と評価する。衝突時の車両の位置関係だけで判断するものではない。そのため、「交差点中心を越えて横断の大半を終えていた」ことは「明らかな先入」を意味しない。
進行妨害とは、相手車両に急ブレーキなどの回避行動を余儀なくさせることを意味する。道交法36条2項を理由に、劣後車は、優先車の通常の速度に対して進行妨害をしてはいけないのだから、優先車に急ブレーキを余儀なくさせるタイミングで交差点を進行しているなら、それこそが進行妨害なのであり、過失を減じる要素とは成り得ない。
「進行妨害」とは、進行してきた車両等がそのまま進行を続けたり、又は進行してきた車両等が一時停止し再び動き始めた場合に(以下本項で「甲車」という。)、他の車両等が、甲車との危険を避けるため、その速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがある場合に、あえて甲車がその進行を続け又は始めることをいう。「速度又は方向を急に変更する」については、法第26条の2第2項を参照のこと。
「明らかな先入」の説明にある「優先車Aが事故回避の措置をとれば容易に衝突を回避できる」とは、事故回避にあたり急ブレーキまでは不要である、つまり進行妨害にならないように交差点進入した、とも言いかえることができるだろう。進行妨害にならないように劣後車が交差点進入したのであれば、過失を減じる理由となるし、だからこそ『別冊判例タイムズ38号』では
① 劣後車の明らかな先入 +10
当方補足:丸番号は当方にて付番。書籍の備考番号とは異なる。
修正要素を抜粋
と説明されていると言える。
◆基本過失割合
基本過失割合 優先車10 対 劣後車90
であるところ、この「優先車10」の理由は道交法36条4項によるものであり、ほとんどのケースで付いてくるとしている(14:59)。
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
正しくないとまでは言えないが、やや説明に不足があると思う。
書籍には、以下のように説明されている。
優先道路を通行している車両等は、見とおしがきかない交差点を通行する場合においても徐行する義務がないが(法42条1号かっこ書)、その場合でも法36条4項による注意義務は依然として要求されており、具体的事故の場面では優先車にも前方不注視、若干の速度違反等何らかの過失が肯定されることが多い。ここでは、上記のような通常の過失を前提として、基本の過失相殺率を設定している。
道交法36条4項による注意義務と言えばそうであるが、同項における
第三十六条
4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
のうち、「交差道路を通行する車両等に注意」「できる限り安全な速度と方法で進行」という規定に対し、「前方不注視、若干の速度違反等何らかの過失が肯定されることが多い」がゆえに、そのような過失があることを前提に基本過失割合を定めており、その過失ゆえに過失割合10%が付くわけである。
逆説的に、これらの過失が否定されれば、過失10%は付かないことになる。
事故を起こしたという結果から、法36条4項違反が認定され、過失10%がつくわけではない。法36条4項違反となる過失があるから、過失10%がつき、それが典型的であるがゆえに、基本過失割合に盛り込まれている。このような理解が適切であろう。
『別冊判例タイムズ38号』が発売された2014年のドラレコ普及率は8.1%程度であり(ソニー損保「カーライフの実態に関する調査結果2023年」)、当時は前方不注視や速度違反がないことを立証する手段に乏しかった。昨今は立証が可能なケースもあるので、過失が否定されることもあるだろう。
◆最後に
ここまで繰り返し、書籍『別冊判例タイムズ38号』とは異なる独自の過失割合論を語る理由は、当方には理解できないところである。
