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刑の一部執行猶予

交通事故解説動画(0119)への感想、補足。

事案は、鹿児島市下荒田、高齢者によるアクセル・ブレーキ踏み間違いでの4人死傷事故。その刑事裁判。
報道リンクは末尾参照。


はじめに

刑事裁判が拘禁刑3年、執行猶予5年となったことを受けて、

動画主様は、刑務所に入ったあとで執行猶予なら分かる、刑務所に入らないという仕組みを考え直さないといけないと解説しているところ(4:45)、

刑務所に入ったあとで執行猶予という仕組みはすでにある。刑の一部執行猶予制度である。しかし、今回の裁判では採用されなかっただけである。

この記事では、刑の一部執行猶予に触れていく。

刑の一部執行猶予とは

刑の一部執行猶予は、『平成28年版犯罪白書』に記されているとおり、2016年(平成28年)6月から施行されている制度である。

刑法27条の2に規定がある。従来は、刑種が有期刑の場合、刑に服すか、それともその刑の全部を執行猶予するか、その二択であった。そこに、一部は刑に服し、残りの刑を執行猶予とすることを可能とする法改正が行われた。これが、刑の一部執行猶予である。

対比して、従来の執行猶予を、刑の全部執行猶予という。

(刑の一部の執行猶予)
第二十七条の二 次に掲げる者が三年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる
一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
二 前に拘禁刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
三 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
2 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
3 前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき拘禁刑があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき拘禁刑の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。

刑法27条の2

条文を少し掘り下げる。

主要部分である1項の規定を、全部執行猶予の同種の規定である25条1項と比較してみる。

(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。

(刑の一部の執行猶予)
第二十七条の二 次に掲げる者が三年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。

刑法25条1項、27条の2第1項

上記のとおり、刑種が拘禁刑の場合には三年以下の場合に適用できる点や、執行猶予期間を一年以上五年以下としている点に差はない。

大きな違いは、刑の全部でなく一部だけを執行猶予できることにある。

つまり、従来であれば拘禁刑3年に関し、「拘禁刑3年、執行猶予5年」あるいは「拘禁刑3年」を選ぶ状況だったところ、

法改正により、「拘禁刑3年、そのうち6月の執行を2年間猶予」のようなことを選択し得ることになる。この場合、まず2年6か月は刑に服し、残る6か月の刑は2年間の執行猶予となる。

刑や執行猶予の期間以外を見ると、どちらも情状を考慮することは前提に、刑を一部執行猶予する判断には「再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」とある。

条文内のこの文章と、下記の書籍説明を見る限り、
全部執行猶予 → 一部執行猶予を可能に
というよりは、
実刑+仮釈放 → 一部執行猶予により社会復帰をスムーズに
という色が強いと感じる。

仮釈放だと、保護観察は残刑の範囲に留まる。それに対し、一部執行猶予の場合、刑が執行猶予される時点から起算して最大5年間を保護観察期間とすることができるので、社会内での再犯防止を充実させることが可能となる。

 ……。この制度は、刑事政策的に、再犯防止の観点から、施設内処遇に引き続いて十分な期間の社会内処遇ができるようにすることなどを目的としている。すなわち、従来の制度のもとでも、仮釈放とその期間中の保護観察の実施によって、ある程度はこれと同様の効果を期待することができたが、その場合保護観察の期間は残刑期間に限られ、満期近くで仮釈放を許された場合や刑期それ自体が短いような場合には、保護観察による十分な指導援助等ができないという問題があった。この制度の導入により、刑の一部の執行猶予の期間中、必要に応じて保護観察が実施できることになり、十分な期間の社会内処遇を実施することによって再犯の防止を図ることが可能となった(大コンメ3版(1)681)。

条解刑法 第4版補訂版』69頁

全部執行猶予と一部執行猶予の各号の比較

条文中の「次に掲げる者」は、前科の状況を表す形式要件となっている。

(刑の全部の執行猶予)
第二十五条
一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
二 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者

(刑の一部の執行猶予)
第二十七条の二 
一 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
二 前に拘禁刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
三 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者

刑法25条1項、27条の2第1項

これらをまとめると、

① 過去に拘禁刑以上に処されたことがない者(初入者)
② 過去の拘禁刑が全部執行猶予であった者
③ 過去の拘禁刑の執行終了あるいは執行免除から5年経過している者(準初入者)

が対象者となる。

全部執行猶予は①③が対象者、一部執行猶予は①②③が対象者となる。
つまり違いは、一部執行猶予は②も対象となる点である。

刑に処されるとは、執行猶予を含む。ただし執行猶予期間の経過などで刑の言渡しの効果が失われると(刑法27条)、刑に処されていない扱い、すなわち①と扱われる。ただし、前科がなくなるということではない点に注意が必要である。

1 形式的要件-前科
 ……。また、1号の場合、刑が実際に執行されたか否かを問わず、刑の執行を猶予されているものも「禁錮以上の刑に処されたこと」に含まれる。しかし、禁錮以上の刑に処されたことがあっても、全部執行猶予期間の経過(刑27条)や刑の消滅(刑34条の2第1項)により刑の言渡しが効力を失ったときは、「禁固以上の刑に処されたことがない者」にあたる

新・コンメンタール刑法 第2版』40頁

②と③の違いが分かりにくいところ、

②は、過去の拘禁刑が全部執行猶予の場合である。そして、執行猶予を満了している者は①と扱われるので、結局は執行猶予中の者に限る。

2 形式的要件-前科
 ……。2号は全部執行猶予(刑25条)の言い渡しを受け、執行猶予中の者である。

新・コンメンタール刑法 第2版』51頁

③は、執行終了や執行免除から5年経過した場合である。
過去の拘禁刑が実刑や一部執行猶予である場合には、執行終了や執行免除から5年経過してようやく、③と扱われる。

鹿児島地判令8.1.15と絡めて

一か月も前の動画に言及した理由は、この裁判「鹿児島地判令8.1.15」の判決文が昨日、裁判例検索で公開されたからである。

$ curl --show-headers --silent https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95519.pdf | grep --text ^Last-Modified
Last-Modified: Fri, 13 Feb 2026 05:05:34 GMT
$ 

判決文には以下のように記されており、
※ 事故当時は改正前のため、拘禁刑ではなく禁錮刑となっている。

 その上で、被告人と一部の被害者との間で示談が成立しており、その他の被害者に対しても、本件事故の加害車両に掛けられた対人対物賠償無制限の保険により相応の被害弁償が見込まれること、被告人が運転免許取消処分を受け、今後二度と自動車を運転しないことを誓約し、かつ、自動車の利用が必要な場合には、被告人の長男が代わりに運転する旨約束していること、被告人が一部の被害者に直接謝罪し、公判においてその他の被害者に対しても謝罪の意を示すなどして、真摯に反省していること等の事情も考慮すれば、執行猶予を付し得る中で最長の刑期の禁錮刑を科した上で、刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

鹿児島地判令8.1.15

量刑考慮の中で、以下のことが示されている。

  • すべての被害者に対し、示談成立や対人対物賠償無制限による相応の被害弁済が見込まれること

  • 二度と運転しないことを、必要な場合には長男が代わりに運転するという具体性をもって示していること

速度超過・信号無視・酒気帯び等がない、単純過失での事故ということを鑑みれば、再犯防止には運転しないことが担保されればよく、車での移動が必要な場合の代替手段が提示されていることを踏まえれば、「二度と運転しない」という誓約の実効性はそれなりに期待できるものと思う。

この再犯防止の観点に加え、被害者との示談や被害弁済の状況を踏まえれば、執行猶予付き判決となったことは十分にあり得る判決だと、個人的には思う。

なお、動画主様が把握していなかったであろう、刑の一部執行猶予は、今回の事故に対しては制度目的に適合しないものと思う。

 制度趣旨が再犯防止と改善厚生を図ることにあることからすると、仮釈放制度を積極的に運用したとしても、短期間の社会内処遇を付すことしかできず、十分な再犯防止・改善厚生を図ることができないような場合には、必要性が認められるであろう。この意味で再犯のおそれがあることが重要な考慮要素となろう。したがって、たとえば過失犯などでは、多くの場合、再犯のおそれがないから一部猶予は適切でないということになろう

条解刑法 第4版補訂版』70頁

報道リンク

報道リンクはかなり失われている模様。

◆判決

◆事故、起訴、求刑


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