人生を導いた初セレクト
高校を卒業して初めて就いた仕事は今と同じアパレル販売でした。
学校から斡旋される企業を断り、自分で求人誌を買って、どうしても行きたかったアパレルの会社を探して応募しました。自分の好きなことが早くから明確にあったので、全く迷うことなく目指すところに一直線でした。
いつからそんなふうに服に興味を持ったのか。
考えてみたら、幼い頃からすでに、そういう環境で育ててもらってきたように思います。
母親は洋裁も和裁もできる人で、小さい頃はよく手作りのワンピースやスカートを着せてもらっていました。冬になると手編みのセーターやカーディガン、着るものだけでなく手袋やマフラーなどのおしゃれな小物もたくさん作ってもらいました。
母がカタカタとリズミカルな音を立てながら足踏み式ミシンを自由自在に操る足元に、幼い私はまるで猫のようにゴロゴロといつもくっついていました。その時の音や光景は今でもはっきりと覚えています。
小学校の高学年になると、年に一度のピアノの発表会のために、母がちょっと大人っぽい柄の布地を調達してきて、素敵なロングドレスを拵えてくれたこともありました。当時の私はそのダークな色合いがあまり好きではなく、「もっと綺麗な色が着たい」などとわがままを言ってしまいました。
すると翌年、母は子供服専門店に私を連れて行き、ウインドウに飾られたドレスを指差して「今年の発表会、これがいいと思うんだけど、どう?」と言いました。
それはパフスリーブのお袖で、まるで絵本の物語りに出てくるような、森の中のお家とその傍に立つ大きな緑の木と、リスやウサギや色とりどりのお花たちの可愛い手刺繍がドレスの下半分のスカート一面に施された、柔らかい生成色のドレスでした。
私はそのドレスを一目見て心奪われ、促されるまま試着をしてみると、自分がまるでお姫様になったような気分でドキドキしました。それは私が覚えている限り、初めての“既成服を着て心躍る“、という体験でした。
そのお店では他にも色々と見せてもらいましたが、私は最初からそのドレス一択でした。
「わたしこれがいい。これにする!」
しかし今から思うとちょっと気の毒な気もしてしまいます。
母が作ったドレスを着た時とは雲泥の差で喜ぶ私を、母はどんな気持ちで受け止めていたのでしょうか。親の心子知らずとはよく言ったものです。
自分の着る服を自分で選ぶ。私はその時、なんとも言い難い初めて感じる“自由と喜び“を知ってしまったのです。
その年の冬、お正月にもらったお年玉を握りしめ、人生で初めて、一人で自分の服を買いに出かけました。
そこは隣町にできた新しいお店で、その当時はあまりなかったジュニア専門の、今で言うところのセレクトショップのようなとてもオシャレなお店でした。なかなか一人で入る勇気が出なくて、いつもウインドウ越しに中の様子を伺い見てはお店の前を通っていました。
初めて憧れの空間に入り、棚に綺麗に並んだセーターやブラウスを見て、胸がドキドキしたのを今でもはっきりと覚えています。
その中で目に飛び込んできたのは、一瞬で私の心を鷲掴みにした真っ白なモヘアのセーターでした。それは前身ごろ全面に立体的にウサギの顔が施されていたのですが、それまでの人生で見たことがないぐらいの、衝撃の可愛さでした。
編み込みでもなく、アップリケを貼り付けているわけでもなく、今で言うところのニードルフェルトのような、とても凝った細工のものでした。
「なにこれ!こんなのみたことないっ!!!」
私はコーフンのあまり、それ以外のものが全く目に入らない状態になり、恐る恐る値札を見ると確か1万円ぐらいしたような気がします。
今から半世紀近くも前の、小学生の買い物の額ではありません。
しかし私は怯みませんでした。もうそのセーター以外に欲しいものなんてこの世にはありません。他のどの洋服もがかすんで見えます。早速試着してみました。
当時、私はとても痩せていて、胸なんてぺったんこの少年のような体型でしたが、そのセーターは思ったよりも細身で、私の身体にピッタリとハマりました。
試着室から出ると、お店のママさんが絶賛してくれたのを覚えています。
当然、お買い上げしました。
初めて自分のお金で自分の服を買った思い出は、その後の私の人生に大きく影響を及ぼしたのは言うまでもありません。この仕事に就いて、いまだにその時のワクワクドキドキが続いているのですから。
今では自分のための服選びはもちろんのこと、お店に置く商品を選ぶことと、お客様一人一人のためにお選びして喜んでいただくことが私の生業となっています。
お店の商品選びはただ「楽しい」だけではできないことですが、お客様に心躍る体験を含めたお買い物をご提供するために、一点一点吟味してセレクトをしています。
そう、あの時感じたワクワクドキドキを少しでも感じていただきたくて。
この道に導いてくれたきっかけとなったのは、私が初めて選び、母が買ってくれた手刺繍のドレスでした。今でもとても感謝しています。そして、初めて自分で選んで買った白いウサギのセーター。どちらも今の私を形作るうえでの核となる経験でした。
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地中海性気候さんの初めての企画に参加します。
らんさん、よろしくね!
