吉田次郎プロデュース 長野市芸術館スペシャル・ライブ|のらくら音楽評
(以前に執筆したフリーペーパーの発行終了に伴い、記事部分のみ転載したものです)
「シーズン・プロデューサー」吉田次郎
暗闇から一閃、メロウなギター・サウンドに導かれ、長野市芸術館「夏」のシーズン・プロデューサーである吉田次郎氏のスペシャル・ライブ、その幕が切って落とされた。
七夕までほど近い、水無月も末に行われた今回のライブは、織姫と彦星さながらに、年に一度の素敵な時間をつくりたい…そんなコンセプトからなる。
ゲスト・ヴォーカルとして相田翔子氏が抜擢されたことは、この上なく自然なことと思えた。
また、ジャズ・ギタリストとして、ニューヨークと日本を行き来する吉田氏が、自身のテクニックや音楽性を魅せる場としてではなく、あくまで「プロデューサー」として全体を演出していたことの意味も大きい。
おそらくは「相田翔子のライブ」を期待してきた方々も多かったことであろうが、一見裏方に徹しつつ、アレンジやギター・プレイ、そして軽妙なトークで、実は吉田氏が手堅く場の舵取りを担っている。
アイドル時代と変わらぬ織姫の天真爛漫さと、ややいぶし銀な彦星の掛け合いは、どことなく対照的でちぐはぐなのかと思えば、終わってみるとなぜかバランスがとれている、不思議とすっきりとした読後感を与えてくれた。
「ソロ・アーティスト」相田翔子
さて、肝心の音楽であるが、セットリストは相田氏の代表曲、そしてカヴァー曲を柱にして構成される。
ギター、キーボード、そしてヴォーカルというごく簡素な編成でありながら、カッティングを織り交ぜたキレのよいバッキングで、ドラミングすら必要としないグルーヴ感。
変幻自在の音作りと、一見控えめながらも確かな存在感を持ったキーボード、高次元のアンサンブルとして設えられたそこへ、柔らかく包み込むようなウィスパー・ヴォイスが溶け込み、三位一体となる。
ステージ上の2台ピアノへ持ち替える場面あり、長野出身のサポート・ギタリストが華を添える場面あり、あるいは吉田氏がリード・ヴォーカルを張る場面ありと、シンプルながら飽きのこないステージングが実現されていた。
本編のオープニングを飾ったのは《Jóia(ジョイア)》──1996年以降のソロ活動で初となるアルバムの表題曲として収録され、ポルトガル語で「宝石」の名を冠する。
また「Dia E Noite Eu E Esparo Por Voce(昼も夜もあなたを待っているわ)」という歌詞で結ばれることも相まって、今回のラテン音楽調のアレンジに、どこか地域的な必然性を感じずにはいられない。
ボサ・ノヴァ特有のリズムを基礎に、あえて同族楽器のマンドリンを模倣するような音色が足されることで、サウンドの奥行きが幾重にも深まっていく。
疾走感を持って散りばめられたアイリッシュ風のフレーズも、耳に心地よさを残した。
その後も《愛された薔薇》《目覚めましょう》と、ほぼ同時期にリリースされた楽曲が続く。
いずれも相田自身がプロデュースに関わるが、衒うことのないオーソドックスな和声進行とメロディーラインをとりながら、なぜか聴き手を満足させるトータル・バランスこそが、彼女の音楽作りの妙といえよう。
また、慎ましやかなファルセットと、遠くへ消えていくような、どこか儚げなヴォーカルが、あたかも傍らで語りかけているような、暖かい空気感を生んでいる。
余談だが、今回、メイン・ギターのひとつであったストラトキャスターは、図らずもシングルコイル系のいわゆる「ジャキジャキ」とした音色を想起させるが、その実は輪郭の太い、歪みも控えめな小気味よいクランチ・サウンド。
いい意味で期待を裏切られたのは、筆者だけではないはずである。

名曲の多彩なカヴァーを軸に、夏の夜は佳境へ
次の数曲は趣向を変え、ヴァネッサ・ウィリアムスやベット・ミドラーなど、アメリカの名歌手をカヴァーした楽曲が続く。
泡のように広がるシンセサイザーらしい響きと、間隙を縫って現れる、深くリバーヴを効かせたギターが雰囲気を一変させ、さらに《Wind Beneath My Wings》では、吉田氏のかき鳴らすグランド・ピアノで、サウンドが一気に現実感を帯びながら客席へと迫ってくる。
スティーヴィー・ワンダーの《If It's Magic》では、そのまま彼のリード・ヴォーカルで、渋みの漂う高音と、甘く優しい低音とのギャップを披露してくれた。
エフェクトによるやや硬質なハーモニーが、独特の異質感を孕む。
まさに変幻自在、山の天気のごとく刻一刻とバンドの表情は変化していった。
織姫と彦星との接点として《一輪》のことにも言及しておかなければなるまい。
相田翔子の作詞、吉田次郎の作曲による楽曲である。
主和音から長2度下がっていく特徴的な進行から始まり、冒頭から浮遊感を持ったスケール外の響きに心を掴まれる。
続く《Winkメドレー》は、ワウの効いた瀟洒なギター・リフに導かれるダンサブルなアレンジで、往年の名曲たちが畳み掛けるように演奏されながらも、各楽曲は明確に分かれ、ヴォルテージが最高潮に達したオーディエンスにも嬉しい仕上がりとなっていた。
かつての雰囲気を彷彿とさせるコール・アンド・レスポンスや振り付けで、さらに会場が一体となっていく様は、圧巻と言わざるを得まい。
今回、印象的だった言葉がある。
「ライブは、音や光に集まって、仲良くなる。みんなで幸せになるいい方法だ」──吉田氏は父親のような微笑みで語っていた。
相田翔子のファンにとってはいうまでもなく垂涎必至のセットリストと、確かなアレンジ力・職人技ともいえるバンド・サウンドの構築で、その場に立ち会ったどんな人をも巻き込み、笑顔にするライブであったことは間違いない。
吉田氏の一ファンとしては、次回以降、彼のテクニックを前面に押し出すような、ジャズ・ギタリストとしての側面を見ることができるプログラムにも期待したいと思う。
プログラム
2019年6月29日(土)16:00開演
@長野市芸術館アクトスペース
①Jóia(1996)
②愛された薔薇(1997)
③目覚めましょう(1997)
④黙示録(1992)
⑤Celebration(1992)※V. ウィリアムスのカヴァー
⑥永遠に愛する人へ
⑦夜の月、昼の月(1991)※B. ミドラーのカヴァー
⑧Wind Beneath My Wings(1982)※B. ミドラーのカヴァー
⑨If It's Magic(1976)※S. ワンダーのカヴァー
⑩for you(2013)
⑪一輪(2011)
⑫世紀末も平気〜Do You Wanna Dance〜(1991)
→愛が止まらない〜Turn it into love〜(1988)※K. ミノーグのカヴァー
→One Night in Heaven〜真夜中のエンジェル〜(1989)
→咲き誇れ愛しさよ(1993)
→淋しい熱帯魚(1989)
⑬おしえて(1993)
⑭Believe Moon(1992)
[アンコール]
⑮夏服のジュリエット〜Dos Hombres〜(1990)
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