地域ヘルスケア経営シリーズ介護施設編第3回
第3回 介護施設のM&Aは加速する──2040年までに起きる再編の現実
介護業界の経営者と話していると、以前とは明らかに違う相談を受けることが増えました。
「事業を譲りたい」 「後継者がいない」 「職員はいるが、将来が見えない」 「今のうちにM&Aを考えるべきだろうか」
10年前であれば、こうした相談はそれほど多くありませんでした。 しかし今は違います。
私は今後、介護業界におけるM&Aは確実に増えると考えています。 それは一時的な流行ではありません。
2040年に向けた人口構造の変化、人材不足、制度改革の流れを考えれば、ごく自然な結果です。
そして重要なのは、M&Aは失敗した法人が行うものではない。
むしろ、 地域で必要な介護サービスを残すための経営戦略である。
ということです。
「施設が足りない時代」から「経営が続かない時代」へ
介護業界は長い間、「施設が足りない」ことが課題でした。
高齢化が進む。
要介護者が増える。
施設整備が追いつかない。
こうした状況が続いていました。
しかし今、経営者が直面している問題は少し違います。
利用者はいる。
ニーズもある。
それでも経営が厳しい。
理由は明確です。人材不足です。
介護職員。 看護職員。 管理者。 ケアマネジャー。
採用難は年々深刻になっています。
つまり、利用者不足ではなく、運営能力不足が経営課題になっている。
ということです。
後継者問題は想像以上に深刻です
介護法人の経営者の高齢化も進んでいます。
相談を受ける中で、「子どもに継がせる予定はない」「幹部職員に承継できる人材がいない」という話は珍しくありません。
特に中小法人では、経営者個人の経験と人脈で運営しているケースもあります。
そのため、経営者が引退すると法人の方向性が見えなくなる。
これは病院以上に介護業界で起きています。
結果として、事業譲渡やM&Aを検討する法人が増えています。
M&Aは「負け」ではありません
介護業界では今でも、「売却するのは失敗したからだ」「経営が行き詰まった証拠だ」と考える方がいます。
しかし私はそう思いません。
職員の雇用を守る。
利用者の生活を守る。
地域のサービスを維持する。
そのためにM&Aを選択するのであれば、それは撤退ではなく、
地域インフラを守る経営判断です。
むしろ問題なのは、何も準備しないことです。
買われる法人と買われない法人の違い
介護施設であれば何でも売れるわけではありません。
買い手が見ているのは建物ではありません。
利用率
職員定着率
紹介ルート
地域での評判
管理体制
将来性
例えば、稼働率95%でも職員が定着していない法人は評価されません。
逆に、稼働率が多少低くても地域との関係が強く、改善余地がある法人は高く評価されます。
つまり、M&Aの価値は建物ではなく経営にある。ということです。
私が最初に見る5つの数字
介護法人の相談を受けると、私はまず次の数字を確認します。
① 利用率
稼働状況の「推移」を見ます。
② 人件費率
人材中心の事業だからこそ、構造の歪みが利益を左右します。
ただし、削ればいいというものではありません。
③ 職員定着率
採用よりも重要です。辞めない組織は強い。
④ キャッシュフロー
黒字でも資金が不足する法人は珍しくありません。
⑤ 紹介元構成
病院・居宅・地域包括支援センター。 ここを見ると地域での立ち位置が分かります。
病院と介護のM&Aはさらに増える
私は今後、介護業界単独の再編だけではなく、
病院と介護を一体で考えるM&Aが増えると考えています。
理由は単純です。
退院支援。 在宅支援。 施設入所。 訪問看護。 訪問介護。
これらが一つの流れになっているからです。
病院も介護も、単独では地域のニーズに応えられません。
だからこそ、地域包括ケアの視点から再編が進む可能性があります。
財政審議会が見ている未来
財政制度等審議会の議論を見ると、次の言葉が繰り返し出てきます。
効率化。 重点化。 集約化。
これは言い換えれば、
「小規模で分散した事業体より、持続可能な事業体を増やしたい」
という方向性です。
私は今後、介護業界でも一定の集約化は避けられないと考えています。
2040年に向けて問われること
2040年問題で本当に問われるのは、施設数でも、病床数でも、利用者数でもありません。
問われるのは、その法人が地域で必要とされる存在かどうか。です。
制度が変わる。 報酬が変わる。 人材も不足する。
それでも選ばれる法人はあります。
その違いは、地域での役割が明確かどうか。です。
最後に──M&Aはゴールではありません
私はM&Aの相談を受けるたびにお伝えしています。
M&Aは目的ではありません。 手段です。
重要なのは、売ることでも、買うことでもなく、
地域に必要なサービスを残すことです。
そのために、単独で続ける。 提携する。 統合する。 事業譲渡する。選択肢は複数あります。
だからこそ、経営が苦しくなってから考えるのでは遅い。
病院再生でも介護再生でも同じです。
本当に重要なのは、危機が見えてから動くことではありません。
危機が来る前に準備することです。
私は2040年に向けて、介護業界の再編は確実に進むと考えています。
そして数年後に振り返ったとき、生き残った法人は、規模が大きかった法人ではなく、地域での役割を明確にしていた法人だった。
そう感じるはずです。
次回予告
第4回 黒字なのに資金が尽きる介護施設の共通点──決算書では見えない危険信号
介護経営では「黒字だから安心」とは限りません。 次回は、私が介護法人の経営相談を受けた際に確認する数字をもとに、経営の本質についてお話しします。
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