地域ヘルスケア経営シリーズ介護施設編第1回
第1回 2040年問題で本当に消えるのは介護施設かもしれない──財政審議会が見ている未来
病院経営者や事務長と話をしていると、最近よく聞く言葉があります。
「看護師が採れない」 「救急が回らない」 「物価高が厳しい」
確かにどれも深刻な問題です。
一方で、私がご支援する介護事業者の方々と話をすると、もっと切実な声を聞きます。
「職員が集まらない」 「訪問介護の採算が合わない」 「介護報酬だけではもう厳しい」 「この先、事業を続けられるのだろうか」
私は病院と介護の両方の経営に関わる中で、ある危機感を持っています。
それは、2040年問題で本当に大きな影響を受けるのは病院ではなく、介護事業かもしれない、ということです。
もちろん、病院経営も簡単ではありません。 しかし病院には診療報酬という強い制度的支えがあります。
一方で介護は、人材不足と給付費抑制の両方に直面しています。 そして、その変化を最も強く意識しているのが財政制度等審議会(財政審)です。
私は、介護経営者こそ財政審の議論を見ておくべきだと考えています。 なぜなら、そこには未来の介護報酬改定の方向性が明確に示されているからです。
財政審議会が一貫して主張していること
介護報酬改定は厚生労働省だけで決まるわけではありません。 財政審は近年、一貫して次の方向性を示しています。
給付費の
適正化
効率化
重点化
集約化
言い換えれば、「限られた財源で介護を維持する仕組みをつくる」ということです。
これは介護経営者にとって極めて重要なメッセージです。
なぜなら、介護報酬は今後も大幅に上がることを前提にできないからです。私は病院経営の記事でも何度も書いてきました。
制度を待つ経営は危険です。 介護経営も同じです。
本当に怖いのは利用者不足ではありません
介護施設経営者と話していると、「利用者が減るのではないか」という不安を聞くことがあります。
しかし、2040年を見据えると、私はそこが最大の問題ではないと考えています。
高齢者人口は高い水準を維持します。 要介護者も増えます。 認知症高齢者も増えます。
つまり、介護ニーズはなくなりません。むしろ増えます。
問題は別にあります。それは、介護を支える人が足りなくなることです。
人材不足は想像以上に深刻になります
厚生労働省の推計では、2040年には数十万人規模の介護人材不足が生じるとされています。
介護施設はある。 利用者もいる。 しかし職員がいない。
これは病院でも起きていますが、介護分野の方がさらに深刻です。
なぜなら、病院には医療という強い社会的役割があります。 一方で介護事業は、人材確保競争において必ずしも有利ではありません。
給与。 労働環境。 キャリア形成。これらすべてが問われます。
だから私は、2040年問題の本質は高齢化ではなく、人材不足である。
と考えています。
病院と介護は運命共同体になりました
病院と介護は別の業界だと思われがちです。 しかし現場を見ると、すでにその境界は消えています。
例えば、高齢者が肺炎で入院する。 治療が終わる。 退院先を探す。 しかし受け入れ施設がない。 訪問介護も人手不足。 結果として退院できない。
こうしたケースは珍しくありません。病院側から見れば、病床が空かない。 救急患者を受けられない。 病床回転率が下がる。 経営に影響する。
つまり、介護問題は病院問題です。
逆に、病院が機能しなければ介護も困ります。
私はこれから、病院と介護を別々に考える経営は通用しなくなる
と考えています。
生き残る介護事業者の共通点
強い介護法人には共通点があります。
地域の病院と連携している
ケアマネジャーとの関係が深い
訪問看護とつながっている
地域包括支援センターと情報共有している
つまり、地域の中で役割が明確であるということです。
例えば、職員のやりがい、孤立感の解消などが人材定着につながります。
一方で苦しくなるのは、何を強みにしているのか分からない事業者です。
特養なのか。 老健なのか。 有料老人ホームなのか。 訪問介護なのか。
大規模だから必ずしも安心ということではありません。
小規模だから悲観することでもありません。
機能が曖昧なままでは、今後ますます厳しくなるでしょう。
私が介護経営で最初に見る数字
私は介護事業の相談を受けると、最初に介護報酬単価を見ません。
まず確認するのは、
利用率
人件費率
職員定着率
紹介元構成
キャッシュフロー
です。
なぜなら、問題は制度ではなく、経営構造にあることが多いからです。
満床なのに利益が出ない施設があります。
黒字なのに資金繰りが苦しい法人もあります。
職員が定着せず採用コストばかり増える事業者もあります。
これらは介護報酬改定だけでは解決しません。
経営の仕組みを見直す必要があります。
2040年に問われるのは「存在理由」です
私は今後、介護事業者に最も求められるのは規模ではなく、
存在理由
だと考えています。
地域でどんな役割を担うのか。
病院とどう連携するのか。
在宅をどう支えるのか。
認知症高齢者をどう支えるのか。
そこが明確な法人は強い。
逆に、制度に合わせるだけの経営は苦しくなるでしょう。
最後に──介護経営の本当の敵は2040年ではありません
2040年問題という言葉を聞くと、将来の話に感じるかもしれません。
しかし実際には、人材不足はすでに始まっています。 訪問介護事業所の閉鎖も増えています。 介護施設の採用難も続いています。
2040年問題は未来ではありません。 すでに始まっている現実です。
だから私は介護経営者に問いかけたいと思います。
次の介護報酬改定を待ちますか。 それとも、自法人の役割を見直しますか。
生き残る法人は、制度変更に対応した法人ではありません。
地域の中で必要とされる存在になった法人です。
病院も介護も、本質は同じです。
経営で本当に重要なのは、介護報酬の点数を追うことではありません。
地域が何を必要としているのかを考えることです。
その視点で見ると、財政審議会の議論が示しているのは単なる給付費抑制ではありません。
「地域の中で役割を持つ事業者だけが残る時代」の始まりです。
私は、そう感じています。
次回予告
第2回 訪問介護は本当に儲からないのか──倒産増加の裏で起きていること
訪問介護事業所の倒産や廃業が増えています。 しかし、その一方で成長を続ける事業者も存在します。
次回は、訪問介護の経営を数字で読み解きながら、「なくなる事業」と「残る事業」の違いについて考えてみたいと思います。
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