地域ヘルスケア経営シリーズ介護施設編第2回
第2回 訪問介護は本当に儲からないのか──倒産増加の裏で起きていること
介護業界のニュースを見ると、最近よく目にする言葉があります。
「訪問介護事業所の倒産過去最多」
「小規模事業所の廃業が増加」
「ヘルパー不足が深刻化」
こうした見出しを見るたびに、
「訪問介護はもう成り立たないのではないか」
と感じる経営者もいるかもしれません。
実際、現場の状況は決して楽ではありません。
人材は採れない。
ガソリン代は上がる。
移動時間は増える。
介護報酬は大きく伸びない。
特に小規模事業所ほど経営環境は厳しくなっています。
しかし私は、事業再生の現場で訪問介護事業を見ていて、少し違う見方をしています。
それは、
「訪問介護が儲からない」のではない
「これまでの経営モデルでは利益が出なくなった」
ということです。
この違いは非常に大きいと感じています。
訪問介護の倒産が増えている本当の理由
訪問介護の倒産や廃業が増えていることは事実です。
しかし、その理由を「介護報酬が低いから」とだけ説明するのは正確ではありません。
もちろん報酬改定の影響はあります。 財政制度等審議会でも、介護給付費の適正化や効率化は繰り返し議論されています。
つまり、今後も大幅な報酬増を前提に経営することは難しい。
これは現実です。
しかし私が経営資料を見ると、倒産している事業所には別の共通点があります。
利用者数が少ない
移動効率が悪い
職員定着率が低い
管理者に業務が集中している
紹介ルートが限られている
つまり、制度より先に経営課題が存在しているケースが多い。
ということです。
訪問介護は「稼働率ビジネス」である
病院経営では病床稼働率が重要です。 訪問介護にも同じ考え方があります。
それが、サービス提供時間の稼働率 です。
例えば、1日8時間働くヘルパーがいたとします。
移動時間:3時間
待機時間:1時間
実際のサービス提供:4時間
この状態では利益は残りません。
一方で、訪問ルートが最適化されている事業所では、サービス提供時間が大きく伸びます。
同じ人員でも収益は大きく変わります。
私は訪問介護を見るとき、まず利用者数ではなく、
サービス提供時間の構造
を確認します。
人材不足は原因ではなく結果である
介護経営者の多くが、「人が採れない」と悩んでいます。
もちろん事実です。
しかし私は、人材不足を“結果”として見ることがあります。
なぜなら、職員が定着している事業所も存在するからです。
実際に伸びている法人を見ると、
教育体制がある
相談できる上司がいる
シフトに無理がない
評価制度がある
こうした特徴があります。
つまり、人材不足だけが問題ではなく、組織の仕組みが問われている。
ということです。
2040年問題は訪問介護に最も大きな影響を与える
2040年に向けて、高齢者は増えます。 独居高齢者も増えます。 認知症高齢者も増えます。そして病院は在院日数を短縮します。
これは何を意味するのでしょうか。
それは、在宅で支える患者が増える。ということです。
病院から退院する。 しかし施設には入れない。 家族も遠方にいる。
そんな高齢者が増えていきます。
その時に必要になるのが訪問介護です。
つまり、需要そのものはなくなりません。むしろ増えます。
病院経営者も訪問介護を無視できない
ここで病院経営の話になります。
私は最近、病院と介護を別々に考えること自体が難しくなっていると感じています。
退院先がない。 訪問介護が受けられない。 在宅サービスが不足している。
その結果、退院できない。 病床が空かない。 救急患者を受けられない。
こうした問題が全国で起きています。
つまり、訪問介護の問題は病院経営にも直結しています。
これが2040年問題の本質です。
財政審議会が見ている未来
財政制度等審議会の議論を見ると、一貫しているテーマがあります。
それは、「効率的なサービス提供体制」です。
規模の拡大
連携の強化
生産性向上
ICT活用
これらが繰り返し議論されています。
私はこれを、「小規模事業者を排除する議論」とは見ていません。
むしろ、地域で持続可能な事業者を増やしたい。
というメッセージだと考えています。
「効率化」の手段として、ICT活用(ルート最適化アプリやチャットツールによる情報共有など)などは小規模事業者にも有効です。
例えば1日4件が5件になることの積み重ねだけでも年間では大きな差になります。
生き残る訪問介護事業者の共通点
今後、生き残る事業者には共通点があります。
病院との関係が強い
ケアマネジャーから信頼されている
訪問看護と連携している
利用者紹介ルートが複数ある
数字を毎月見ている
特に最後は重要です。
私は経営相談を受けると、まず数字を見ます。
利用者数
稼働率
人件費率
職員定着率
キャッシュフロー
ここに経営課題は現れます。
介護報酬だけを見ていても、本当の問題は見えてきません。
最後に──訪問介護の未来は暗くない
訪問介護の倒産が増えている。 それは事実です。
しかし私は、訪問介護の未来そのものが暗いとは思っていません。
むしろ2040年に向けて、訪問介護の役割は今以上に大きくなるでしょう。
問題は、需要があるかどうかではありません。
その需要に応えられる経営を作れるかどうかです。
病院経営も同じです。 介護経営も同じです。
制度に期待するだけでは生き残れません。
利用者に選ばれ、 職員に選ばれ、 地域に必要とされる。
その仕組みを作った事業者が残ります。
私は、訪問介護の未来を決めるのは介護報酬改定ではなく、
経営そのものだと思っています。
そして数年後に振り返ったとき、生き残った訪問介護事業者は、
報酬改定に対応した事業者ではなく、
地域の在宅生活を支える存在になっていた事業者だった。
そう感じるはずです。
次回予告
第3回 介護施設のM&Aは加速する──2040年までに起きる再編の現実
人材不足、後継者不在、物価高。 介護業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。
次回は、今後確実に増えると考えられる介護業界のM&Aについて、事業再生と経営の視点から考えてみたいと思います。
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