【温泉探訪記#7】不動尊と共に1世紀。オホーツクの山あいに賑わう名湯「塩別つるつる温泉」(北海道 北見市)
オホーツクの中枢都市・北見から旭川へ向かう途中に、留辺蘂という町がある。
今は合併により北見市の一部となったが、北海道の屋根とも呼ばれる石北峠を擁する山林が豊かな土地で、峠と市街地の間に栄える温根湯温泉は北見の奥座敷として知られている。
今回はそこから少し離れたところにある名湯、「塩別つるつる温泉」をご紹介したい。文字通りつるつる感の強い泉質はもちろん、山に囲まれた趣あるロケーションも相まって、日常の気分転換から湯治まで幅広く楽しめる人気のお宿だ。
訪問日:2025年10月12日(日)
外観〜不動尊参拝
温根湯から車でおよそ10分。大きな看板を目印に国道39号から分かれて坂を上っていくと、道は広い駐車場になって終わりを迎えた。その最奥に構えるのが、塩別つるつる温泉である。
国道からの距離は1km足らずだが辺りは一面の農地から緑豊かな山へと変わり、行き止まりにある温泉宿ということもあってか、手軽ながら着いた時の旅情はなかなかのもの。

立地のわりにけっこう立派でいい感じ
(2025年9月撮影)
今の時刻は10時50分。日帰り入浴は11時からだが早くもちらほらと車がやって来るのが見られ、その人気ぶりがうかがえる。開場まではあと少しだし車で待っていても良いが、せっかくなので周囲を散策してみよう。
ここは大正時代から湯治に用いられた温泉で、かつて瀕死の大火傷を負った者が日々祈りを捧げながら療養した末に奇跡の回復を遂げたという逸話から、成田山の不動尊が祀られている(ちなみに、その大火傷の原因がハッカの蒸留作業というのが、何とも昔の北見地方らしい)。

背後の賑わいがまるで嘘のような静けさだ
参道を進んでいくと、聞こえてくるのは川のせせらぎと木の葉が風に揺れる音のみ。振り返ればすぐそこに駐車場があるのだが、この空間は、そのことをまったく感じさせなかった。

車を降りてからここまでは歩いてわずか2分と、
全体的にコンパクトな造り
階段を上って、いざ参拝。参道から本殿まできれいに整っていて、大事に管理されているのが伝わってくる。この田舎特有の温かい空気感が、たまらなく好きな私。
それにしても、道のりは短いとはいえこの階段はお年寄りには少々堪えそうだが、それでもこうして長年愛されているあたり、この場所と地元の方々の健康にはやはり何らかの良い関係があるのかも知れない。
受付〜脱衣所・成分解説
さて、ここからが本題だ。
参拝を終えて戻るとちょうど良い時間になったので、さっそくお風呂へ向かうとしよう。宿泊客は屋根付きの正面玄関から入るのに対し、日帰り入浴客には右側に専用の入口があるのでお間違いのないように。
入浴券やタオル・アメニティは券売機で求めるスタイルで、入浴料は大人600円。しかし今回は夏に行われた例大祭(その模様については後述)の抽選券のはずれ分と引き換えに、なんと無料で入ることができた。これは嬉しい計らい!
売店やアイスクリーム屋さんを横目に廊下を進んでいくと湯上がりの休憩スペースがあり、ここから大浴場のほか旧館の小浴場にもアクセスできる。まだ開いたばかりにも関わらず、多くの先客がくつろいでいた。

好きなスタイルでゆったり休める
(2025年9月撮影)
まずは本命の大浴場の方へ。脱衣所の広さは並くらいで、何と言っても特筆すべきは温泉が飲める蛇口が備えられていること!
温泉は成分により入るだけでなく飲むことで得られる効果もあるのだが、飲用には保健所の許可が必要なため、こうして飲める所は意外に貴重なのである。
実は私、飲泉は初めて。良い機会なので実際に飲んでみたところ、口にした瞬間から独特の匂いが鼻をダイレクトに抜けていき、とても不思議な感覚に。
決して美味しいものではないが⋯なるほど、これは効きそうだ。そのぶん体への刺激も強そうなので、少しに留めておこう。
分析書によると、肝心の泉質は単純硫黄温泉(低張性アルカリ性高温泉)。適応症としてはアトピー性皮膚炎や湿疹などがあり、飲用の場合は糖尿病・高コレステロールといった生活習慣病に効果があるとのこと。癖はあるが、体の内外からきれいになれること間違いなしの良質なお湯と言える。
大浴場「不動の湯」
脱衣所のドアを開けると、たちまち硫黄泉特有の匂いが立ち込める。目の前には大きな窓と浴槽が広がっており、思わず「おぉ~、これぞ温泉!」と言いたくなること請け合いの空間。
珍しく洗い場は奥の方にあった。シャワーを流していると匂いがいっそう強く感じられたが、どうやら洗い場のお湯にも温泉水を使っているらしい。9.6という高いpHと豊富な炭酸イオンは伊達ではなく、触れた瞬間からかなりのつるつる感が味わえる。

広々とした主浴槽からは森の景観を存分に楽しむことができ、羽根を伸ばすのにぴったり。紅葉のベストシーズンはもう少し後かな、なんて思いつつ、今年の季節の移り変わりの早さに思いを馳せる。
サウナこそないが、ジャグジーや寝湯、打たせ湯と主要なお風呂は揃っていて、若者からお年寄りまで思い思いの時間を過ごしていた。
露天風呂へは先ほどの参道にも流れていた小川を渡って行くことに。背後は自然そのままの山であり、その開放感はこれまで出会ってきた他の温泉とも一線を画す。温泉宿と野湯のいいとこ取りとでも言うべきか、しっかりした安心感に包まれながらも自然の営みの尊さがよりダイレクトに感じられるのが魅力だ。

硫黄泉ならではのエメラルドグリーンがかったお湯と舞い散る落ち葉のコントラストが、とても印象深い。いろいろな時期に通い、四季折々の姿を目に焼きつけるのもまた一興だろう。内湯も含め人は多かったものの、心身のリフレッシュには絶好の場所であった。
小浴場「竜神の湯」
続いては小浴場の方も見てみよう。前述の休憩スペースから奥に行くと旧館にある「竜神の湯」にたどり着ける。こちらは11時〜14時の間のみ日帰り利用ができ、以降は宿泊者専用になるちょっと特別な存在。

ロッカーや温泉成分の掲示などは相当な年代物だろう
上の写真にある通りロッカーは外にあり、脱衣所の中は服を入れるカゴと棚、それに鏡だけという昔ながらの造り。廊下との仕切りを担う引き戸が妙に重いことにも、どこか香ばしさが感じられる。
浴室はこじんまりとしていて、浴槽が1つと洗い場が1列あるのみ。隅には黄色い桶が重ねられており、もしやと思い見てみると⋯やはりケロリン!大浴場の雰囲気とはうって変わり、至るところに見られる昭和感が目白押しだ。

源泉は大浴場と共通だと思うが、こちらの方がお湯が熱く感じた。長湯には気をつけなければならないものの、浴槽が小さいぶん常にお湯の鮮度が高く保たれるのは嬉しいところ。
こちらにはほとんど人はおらず、より落ち着いてお風呂と景色を満喫することができた。設備では向こうには敵わないけれども、温泉としての魅力は今なお色褪せていない。
どちらもそれぞれ良さがあり、ついうっかり軽くのぼせてしまったので、戻ってゆっくり休むとしよう。
自販機コーナーはなかなか充実していて、一般的な飲み物のほかお菓子やアイス、果てはビールまで揃う。これは幅広い層の心を掴むポイント!
さすがにこの時間から飲んでいる人はいなかったが、若者も家族連れもお年寄りも、誰もが満足げに談笑する良い空間だった。
おまけ 例大祭の思い出
最後に、先ほど入浴料のくだりで触れたお祭りの模様も合わせてお伝えしよう。毎年7月にここで開かれる「成田山塩別不動尊 例大祭」は地域きってのビッグイベントで、これを目当てに町内外から集まる人は数知れない。
時は夏真っ盛りの7月27日(日)。祭りは温泉の駐車場で行われるため、来客の車は道中の広場に停めてシャトルバスで会場へ向かう。
いざ着くとそこにはステージやたくさんの出店が並んでおり、目玉企画たる大抽選会の券売所には長蛇の列が!まだ始まる前だというのに、すごい熱気だ。

入手困難で知られる「Nintendo Switch 2」もあるとのこと。
その盛り上がりも間違いなく大きいはず
そして15時、待ちに待った祭りがスタート。まずはカラオケ大会で、その空気感はまるで老人会にお邪魔しているかのよう。地元の人が精いっぱい楽しんでいる様子は、見ているこちらの気持ちも和ませてくれる。

やはり焼き鳥と焼きそばは外せない

目の前で打ったそばを提供!
外でここまで本格的な味が楽しめるとは素晴らしい
飾らない雰囲気の屋台グルメに舌鼓を打っていると、お次は餅まき大会が始まった。司会のおじいちゃんの「よいしょ〜」という掛け声のリズムが、絶妙にゆるくて心地良い。
さらに祭りのプログラムの他に見逃せないのが、日帰り温泉の無料開放。この日に限ってはなんと自由にお風呂に入ることができるという太っ腹な企画で、これは入るしかない!子ども抽選会の間に行ったのでそこまで混み合うこともなく、とても良い気分だった。
お風呂を上がると町伝統の太鼓演奏が聞こえてきた。すると間もなく大抽選会が始まり、会場のボルテージは最高潮に。私も先ほど買った5枚の券を握りしめその命運を見守る。

雨の中なのにすごい人!
景品は前述のSwitch 2を筆頭に、地元の農産物からお米に旅行券、はたまた家電や電動キックボード(!)と豪華なラインナップ。次々と読み上げられていく番号に、喜び勇んで前にやって来る人もいれば、客席からは悔しがる声が聞こえてくることも(ちなみに私も、全部はずれだった⋯)。
派手なパフォーマンスなどはなくとも、会場には確かな一体感があった。これが田舎の祭りのいいところだと思う。
そして最後は大迫力の花火も打ち上がり、終始山あいとは思えない賑わいの中、祭りは幕を閉じた。
途中には突如として強い雨が降り出し、人々が次々に屋根を求めて建物に駆け込む一幕もあったが、何とか中止にはならず大盛り上がりの1日であった。
これは是非ともまた来たい!
まとめ
以上のように、塩別つるつる温泉は長年多くの人々に愛される不動尊ゆかりの名湯である。
良質なお湯に賑わいと落ち着きが同居する空間が合わさり、どんな時でもここに来れば心身共にご機嫌になれることだろう。他の観光スポットからは少し離れるが、北見地方で温泉に行くならぜひ!
今回は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
北海道を拠点に旅や温泉の記録などを書いておりますので、よろしければこちらもご覧いただけると幸いです。
