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1960年代か?「江戸むらさき、花らっきょう」。食卓の定番が風呂敷になった時代の記憶

食卓の記憶を呼び起こす「メガネの顔」

昭和の茶の間、幸せの香りを包む布

1920年の創業以来、日本の食卓に寄り添い続ける「桃屋」。

今回は、1000枚を超える私のコレクションの中でも、
特に愛着を感じる一枚を紹介します。

三木のり平さんをモデルにしたあの懐かしいキャラクターが、
江戸むらさきや花らっきょうと共に描かれた、
昭和の遊び心溢れる風呂敷の物語です。

1000枚の中で一番目が合う、懐かしき「あの顔」

「のり平」キャラクターが躍動する、桃屋の広告デザイン

風呂敷を広げた瞬間、思わずこちらも口角が上がってしまう。
そんな経験は、1000枚のコレクションの中でもそう多くはありません。

この布の中央で、あの独特の丸メガネをかけ、
おどけた表情を見せているのは、
昭和を代表するコメディアン・
三木のり平さんをモデルにしたキャラクター。

「江戸むらさき」の瓶を抱え、あるいは「花らっきょう」の傍らで。
布一面に散りばめられたモチーフは、
どれも昭和の茶の間でお馴染みだったものばかり。

このキャラクターがテレビCMに登場したのは、
1958年(昭和33年)のことだといいます。

同じ「食品系」では、ヒゲタ醤油の風呂敷を紹介したことがありました。

この風呂敷が作られた正確な年は記されていませんが、
描かれた線のみずみずしさ、
そして「桃屋」のロゴとともに並ぶ商品ラインナップを見ていると、
高度経済成長期の熱気と、
家族で囲んだ夕飯の匂いが同時に蘇ってくるようです。

私がこの風呂敷と初めて出会ったのは、ある地方の古い道具屋の隅でした。

何層にも重なった布の束から、このひょうきんな目がふっと覗いたとき、
私の心は幼い頃の食卓へ、一気に引き戻されました。

「江戸むらさき」が変えた、日本の朝の風景

創業100年を超える桃屋と、広告史に刻まれた革新

桃屋の歴史は、1920年(大正9年)に遡ります。

創業者・岡田助次郎氏が東京・日本橋で創業して以来、
一貫して守られてきたのは「良品質主義」。
その精神は、
この風呂敷の四隅に力強く配された「桃屋」の文字からも伝わってきます。

桃屋本社(移転前)
Lombroso - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=76170492による

特に注目したいのは、図案の中に描かれた「江戸むらさき」です。1950年に発売されたこの海苔佃煮は、それまでの「量り売り」が当たり前だった時代に、「瓶詰め」という衛生的なスタイルを定着させた画期的な商品でした。布の上では、キャラクターが誇らしげにその瓶を掲げています。

創業地近くにあった「旧京橋区役所」
不明 - 改造社「日本地理大系 第3巻」より。, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8676922による


また、共に描かれている「花らっきょう」や「鯛みそ」といった文字。これらは単なる商品名ではなく、当時の日本人が憧れた「豊かで便利な生活」の象徴でもありました。

三木 のり平(1962年)
Unknown Author - 『タレント名鑑 第1』芸能春秋社、1962年, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=136814293による

桃屋の広告は、
三木のり平さんのナレーションとアニメーションを組み合わせた手法で、
戦後日本の広告史において
「ユーモアによるブランド構築」の先駆けとなりました。

大村崑(左)と、「鞍馬天狗」撮影時の三木のり平(右)。
©こんプロ - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=31821057による

この風呂敷もまた、そうした企業の枠を超えた“粋な文化”を、顧客へ届けるための大切なメディアだったのでしょう。

ユーモアという名の「おもてなし」

宣伝の中に宿る、日本人の細やかな美意識

この風呂敷をじっくり観察すると、
図案の配置が非常に緻密であることに気づきます。

中央に大きくキャラクターを配しながらも、
周囲には「江戸むらさき」「花らっきょう」の文字が、
まるで江戸小紋のようなリズムで散らされています。

1950年、発売当時の「江戸むらさき」

当時の企業ノベルティ、特に風呂敷という実用品において、
ここまで「キャラクター」を前面に押し出したものは珍しいかも。

それは、桃屋という企業が、自社の商品を「単なる食品」としてではなく、
日々の暮らしを楽しくするものとして捉えていた証ではないでしょうか。

1921年、発売当時の「花らっきょう」

実用本位の風呂敷というキャンバスに、これほどの遊び心を染める。
そこには、贈る側と受け取る側の間に流れていた、
古き良き日本の信頼関係が見え隠れします。

TVCM オリンピック宣誓篇(1964年)
花らっきょうと江戸むらさきが映っている

「ちょっと面白いものを作って、喜んでもらおう」という、
計算ではない純粋なサービス精神。その温度感が、
数十年経った今も、この布の表面からじんわりと伝わってきます。

1958年助六篇は、桃屋×三木のり平のTVCMとしておそらく最古のもの

夕暮れの台所に、カチリと響く瓶の音

時代を越えて、笑顔を届ける贈り物

紹介を終えて、ゆっくりと布を畳んでいく。
三木のり平さんのあの笑顔が、少しずつ折り目の中に隠れていくとき、
ふと、昔の夕暮れの光景が浮かびました。

買い物籠を下げた母が帰ってきて、
台所で瓶の蓋を開ける「カチリ」という小さな音。

江戸むらさきの映る「浦島太郎篇(1961年)」

あの頃の私たちは、こんな一枚の布から始まる「小さな幸せ」を、
とても大切に扱っていたのかもしれません。

外では、夕餉の準備を知らせる遠いチャイムが鳴り止んだようです。
当時の笑い声を包み込んだまま、
この布を再び、コレクションの棚へと戻します。

剣豪篇(1960年)

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