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「軽やかさを感じるアリーナ」─あなぶきアリーナ香川 建築レビュー

アラフォー女性建築士の『さわ』です。
主に関西で住宅を設計しています。

学生の頃、いろいろな建築家を学ぶ中で、
初めて「この人の建物、好きだな」と思ったのが
妹島和世でした。

きっかけは、熊野古道なかへち美術館。
ガラス張りの平屋で、川と山に向かって開かれた空間にカラフルな椅子が並ぶ。
ずっと居たくなる、今でも好きな空間です。

この「軽やかで境界が曖昧な感じ」は、
金沢21世紀美術館や日立駅などにも通じていて、
どれだけ建築のスケールが大きくなっても、
ガラスや軽やかな素材が生む透明感と、
そこにそっと置かれた“象徴的な椅子”がつくる居場所は変わらないなと感じています。

以前レビューしたグラングリーン大阪で体験した、
屋根の下に人が集まるあの空間。

そして今回の「あなぶきアリーナ香川」にも、 その延長のようなものがあるのではと思い、実際に訪れてきました。

「屋根がつくる、アリーナの輪郭」

外観を見てまず感じたのは、
大小の山が連なるようなその形でした。

どこか既視感があって、
以前訪れたグラングリーン大阪を思い出します。

瀬戸内海に浮かぶ島々のように、
いくつかの屋根が重なりながら広がるシルエット。

一般的なアリーナのような「巨大な箱」というより、
周囲の風景になじむように存在している建築だと感じました。

あなぶきアリーナ香川 外観

「ワンフロアでつくられた一体空間」

中に入ると、外観の高さが抑えられている理由が見えてきます。

エントランスからつながる交流スペースと競技フロアが同じ1階レベルに配置されており、
空間がそのまま連続して広がっていきます。

たとえば、京セラドーム大阪や東京ドームのような大規模ドームでは、
一度階段やエスカレーターで上がってから観客席に入る、という動線が一般的です。

それに対してこの建築は、
入った高さのまま、空間がそのまま広がっていきます。

さらに、壁等で分断するのではなく、
ひとつの大きな屋根の下に、それぞれの場所が続いています。

あなぶきアリーナ香川仕切らない空間
仕切らない空間

エントランスや交流スペースは円形に沿ってガラスで構成されており、
日中は自然光がコンコース全体に広がります。

あなぶきアリーナ香川交流スペース
交流スペース

夜になると内部の光が外へにじみ出て、港に面した立地もあって、
建物自体が“灯台”の役割をはたしているそうです。

一方で、ここまで開かれた構成だと、
スタジアム建築としては珍しく、興行時の制御はどうするのだろうと感じました。
実際には、遮光カーテンやブラインドを併用して対応しているとのことです。

それを手間と捉えるのか、
空間の開放性を担保するための可変性と捉えるのか。
そうした選択も含めて、この建築の在り方が表現されているように感じました。

「単層ラチスシェルがつくる大空間」

さらに、この建物の内部で最も印象的なのが、
エントランスから連続する一枚の大きな天井です。

メインアリーナ

見上げると、細い部材が格子状に組まれた構造が広がり、
大空間でありながら圧迫感をほとんど感じません。

通常、この規模の空間では立体トラスが用いられることが多いですが、
ここでは屋根の厚みを抑えるために、単層ラチスシェル構造が採用されています。

細い部材を網のように広げて、全体で屋根を支えているようなつくりで、
そのおかげで、これだけ大きな空間でも重たく見えず、軽やかな印象になっています。

さらに、下部はコンクリート造でしっかりと支え、
上部は鉄骨で軽やかに飛ばすという構成によって、
このスケールの建築でありながら、全体として軽やかに感じられます。

構造そのものを強く主張するのではなく、
空間の軽やかさと一体になって成立しているような印象でした。

軽やかで境界が曖昧な空間は、
意匠だけでなく、それを支える構造があってこそ成り立っている。

そのあり方に、SANAAらしさを感じます。

「この建築について思うこと」

この建築の魅力は、大きな空間や構造だけではなく、
人が過ごすスケールの部分にも丁寧に表れていました。

あなぶきアリーナ香川 交流スペース 椅子
交流スペース 椅子

交流スペースに置かれた、思わず座りたくなるような有機的な形の椅子。
観客席に並ぶ、やわらかな色味の座席。

あなぶきアリーナ 香川観客席

観客席

いわゆる原色ではなく、少しくすんだニュアンスカラーでまとめられていて、
空間全体の軽やかさや、居心地のよさにつながっています。

こういう細かなところまでちゃんとつくられている空間、
やっぱりいいなと思います。

なんでもないように見えるけど、
気づくと少し長く居てしまうような、そんな場所でした。

瀬戸内国際芸術祭の開催以降、にぎわいを見せている香川港。
その風景の中で、この建築もまたひとつの居場所として存在しています。

ぜひ、港の空気とあわせて、実際に体験してみてほしい建築です。

■ 建築概要
・設計:SANAA(妹島和世+西沢立衛)
・所在地:香川県高松市
・竣工:2024年

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