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川の街リュオーレの物語⑥ 小景(3) 見守るもの

「この仕事を、これからも続けるつもりか」
在りし日の父の声が、ふとエンゾの脳裏によみがえった。

あのときの、真剣な眼差しとともに。

春の川辺は、鳥たちが主役だ。
散歩するように河原を歩き回る小さな鳥や、餌をついばむ大きな鳥。
そして今年は、西の橋の下に広がる草むらで、カモが卵を産んだ。

橋の手入れをしているとき、母鳥の後について必死で泳ぐ小さなヒナたちに気づいた。ほんの数日前のことだ。
全部で十羽はいるだろうか。

リュオーレの住民たちにも、少しずつその話が広まっているようだ。
西の橋を通りながら笑顔で足を止めている人が、この数日増えてきた。

母鳥は、常にヒナたちに気を配っている。
その様子を毎日見ているからだろうか。
父の言葉を、最近よく思い出すようになった。

エンゾは、橋の傷んだ欄干を直しながら、上を眺めた。
この時期は、空もにぎやかになる。

踊るように舞う蝶や小鳥たちのずっと上を、
ものすごい速さで飛ぶ一羽の鳥がいた。
西と東を行き来する鳩だろう。

エンゾがあの言葉を投げかけられたのは、父が引退する日だった。
灰色橋ができてから五年ほど経った頃だ。

すでに、西の橋を通る人の数は大きく減っていた。

「今なら、評議会の連中に俺が話をしてやれる。
お前に、新しい家と仕事を準備するように」

エンゾの目を覗き込むように、父は続けた。

エンゾは言葉を失った。
曾祖父の代から続く橋守の仕事を辞めろと言われているように感じたからだ。

でも、そんな日がいつか来るかもしれないという
覚悟もしていた。

あのカモのように、親は子のことを気にするものだから。

どのように答えたのかは、覚えていない。
とにかく必死で、橋守を続けることを訴えた。

やがて父は「そうか……」と黙り込み、
二度とその話をしなくなった。

あれ以来、街のものの値は少しずつ上がっていったが、
橋守の手当はほとんど変わっていない。

それもあまり気にならなかった。
西の橋を見ていられるのだから。

父は晩年まで、体調のいい日は朝と夕方、
杖をついて橋を行き来した。

少し幅が広くなっている橋の真ん中で、
手すりに体を預けて休みながら川を眺めるのが日課だった。

あの頃も、西の橋の下でカモが子育てをしていた。

暗くなる直前、カモの家族が母親を中心に
円のように丸くなって眠りにつく姿を見届けたのは、
エンゾと父だけだった。

先のことがどうであれ、橋守を続ける。
それが、この街での自分の役割だから。

エンゾは視線をゆっくり空から下ろし、
しばらく、川面を見つめていた。


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リュオーレの物語は、静かに続いていきます。
第1話の最後に、各話への道しるべを置いています。

川の街リュオーレの物語: 第1話 橋守|湖上珊歩