川の街リュオーレの物語⑭ 小景(7) 石の花瓶
花屋の奥で、ヨガーベは椅子に座って考え込んでいた。
机の上をじっと見つめている。
そこには、石で作られた小さな花瓶がいくつか置かれていた。
若い石工が持ってきたものだ。少し前からリュオーレで働いているという。
街で何度か顔を見たことがある気がする。
川原でよさそうな石を探し、形を整えて穴を開けたのだそうだ。
「東の花屋より、こっちの店の方が合うんじゃないかと思ってさ。どうかな」
と突然持ち込んできた。
「うちは花瓶を売る店じゃない」と、即座に断った。
しかし、「まあ、見るだけ見てよ」と、石工は止める暇もなく机の上に花瓶を並べ始めた。
「ほぅ」と声を漏らしかけ、ヨガーベはしかめ面を作った。
店で勝手なことをされているのは腹が立つ。
「さっさと出ていけ」と怒鳴りつけることもできる。
でも、目の前に置かれた石の花瓶は、たしかに雰囲気がいい。
素朴で、小さく、主張しすぎない。
そして、目立たないけれど、必要なところにはしっかり手が加えられている。
手に持ったときに感じる重みも、ちょうどいい。
こんな花瓶に山野草の花を挿したら、とても合いそうだ。
「悪くないだろ?石の花瓶なんて、ここじゃほとんど見ないぜ」
何も言わないヨガーベにしびれを切らしたのか、石工が身を乗り出して言った。
その通りだ。そして、東の花屋の店先には似合いそうにない。
派手な花より、川の土手や丘に咲く花を飾りたくなる。
ただ……。
ヨガーベは無言のまま考えた。
うちの店に余裕があるわけではない。
ランリルがいたら、「いい花瓶だけど、今は要らないわ」と言いそうだ。
でも、色も形も違う目の前の花瓶たちに触れているうちに、
棚のどこに置くかを考えている自分に気づいた。
「まとめて買ってくれるなら、安くするよ」
勝負とばかり、石工がヨガーベの顔を覗きこんでくる。
花瓶はいいが、こいつはちょっとお喋りだな。
ヨガーベが相手をにらみつけようとしたとき、
店の大きな置時計が鐘を鳴らした。
ボーン、ボーン、ボーン
石工は時計を見て目を丸くした。
「何だ、今の時間に鳴るのか?」
「ああ、たまに鳴る」
ヨガーベは面倒そうに答えた。
「へぇ、面白い時計だな」
石工はもう一度そちらに目をやった。
悪い奴じゃあなさそうだ。
仕入れるなら、ランリルが出かけている今しかない。
後で小言を言われるかもしれない。
きっと、正しいのはそっちだろう。
それでもヨガーベは、もう一度石の花瓶に触れた。
「いくらだ?」
しかめ面を崩さず、ヨガーベは石工の顔を見た。

リュオーレの物語は、少しずつ続いていきます。
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