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川の街リュオーレの物語⑧ 小景(4) 白い花

窓から、やわらかな明るみが伸びてくる。
昨晩、木々を大きく揺らしていた風は、もうどこかへ去ったようだ。

代わりに聞こえるのは、鳥の声。
まだ太陽が顔を出す前、茶色の小さな鳥たちが枝から枝へ移りながら、短い声を交わしている。

その声にほどけるように、ハルナギは目を覚ました。

桶を手に家の裏へ向かう。

朝が、日ごとに少しずつ早くなっている。
空気がそれを知らせてくれた。

低い崖の岩の隙間から、澄んだ水が静かに流れ出している。
雨の後でも、水の勢いは変わらない。

顔を洗い、桶を満たす。
戻ろうとして、ふと足が止まった。

背後で、かすかな葉擦れの音がした。

たまにあることだ。
振り向かず、小さな柄杓を手に取り
庭へ向かう。

今日は晴れそうだ。
草木に、少し水を分けておこう。

冬に蒔いた種から芽吹いた花々は、もう淡い色を散らせている。
入れ替わるように、青紫の花が咲きはじめていた。

そろそろ、次の季節のために種を残す支度もする頃だ。

水をすくい、土へ落としながら
ハルナギは庭の端へ歩いていった。

東の空が白み、やがて太陽が顔を出す。
体を包む光は、まだやわらかい。

庭の端に一本の木がある。
この家に来たときには、もうそこに立っていた。

根元へ水を注ごうとして、ハルナギの口元がわずかにゆるむ。

濃い緑の葉のあいだに、
白い花がいくつか、控えめにひらいていた。

ほんの数日で散ってしまう、小さな花。

目をこらすと、まだ固い蕾も見える。

今年も、咲いた。

やがて小さな実を結び、
長い時間をかけて光をためこむだろう。

そして寒さがいちばん深まるころ、
指先ほどの小さな黄色い珠になる。

夏は、まだ先だ。
これから日ごとに熱を帯びていく。

それでもハルナギは、しばらくのあいだ、
次の冬の光を思った。

霜の朝、冷たい空気の中で
手のひらにのせる小さな重みを。


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リュオーレの物語は、少しずつ続いていきます。
第1話の最後に、各話への道しるべを置いています。

川の街リュオーレの物語: 第1話 橋守|湖上珊歩