改正種苗法・種は小さい。しかし、そこに日本の未来が詰まっている
改正種苗法を、農家だけの問題で終わらせてはいけない
「種苗法」と聞いて、少し難しそうだなと思われた方もいるかもしれません。
農家の話でしょう。
農業関係者の話でしょう。
自分の食卓には、あまり関係ない話でしょう。
そう思う方もいると思います。
しかし、私は今回の改正種苗法を見て、これは決して農家だけの問題ではないと感じました。
むしろ、これは私たちの食卓、日本の農業、そして国益に関わる話です。
私たちが普段食べている米、イチゴ、ブドウ、リンゴ、サツマイモ、野菜。
その中には、日本の研究者、農家、自治体、種苗会社が、何年も、場合によっては何十年もかけて開発してきた品種があります。
甘くする。
病気に強くする。
暑さや寒さに耐えられるようにする。
収穫量を増やす。
形をそろえる。
保存しやすくする。
こうした改良の裏側には、膨大な時間と費用、そして現場の努力があります。
ところが、その日本で開発された優良品種が海外へ流出し、現地で大量に栽培され、日本産と競合する。
こうした問題が、これまでも指摘されてきました。
私はここに、強い違和感を覚えます。
なぜなら、これは単に「種や苗が持ち出された」という話ではないからです。
日本人が時間をかけて積み上げてきた技術、知恵、ブランド、そして産地の未来が、外へ流れていく話だからです。

何が変わるのか
まず、事実関係を整理します。
今回の種苗法の一部改正案は、令和8年7月17日に参議院本会議で可決されました。参議院の議案情報では、参議院農林水産委員会で7月16日に可決され、翌17日の本会議で可決されたことが確認できます。
主な改正点は、大きく分けて三つあります。
一つ目は、育成者権の存続期間を10年延長することです。
これにより、果樹などの永年性植物は40年、その他の植物は35年になります。
二つ目は、品種登録が完了する前でも、出願公表後の段階で、出願品種の種苗などが無断で輸出されることに対して差し止めを求められる制度を作ることです。
三つ目は、海外持ち出しが制限された国へ輸出する目的で種苗などを保管する行為にも、育成者権の効力が及ぶようにすることです。
簡単に言えば、
「日本が苦労して作った農産物の設計図を、海外へ勝手に持ち出させない」
そのための制度強化です。
ここだけ見ると、私は方向性としては評価すべきだと思います。
ただし、ここで終わってはいけません。
法律を作った。
権利を強くした。
それで日本の農業が守られる。
そんな単純な話ではないからです。

私が引っかかったのは、「守る」という言葉の軽さです
今回の改正をめぐっては、賛成、反対、さまざまな意見があります。
育成者の権利を守るべきだ。
日本のブランド農産物を守るべきだ。
海外流出を止めるべきだ。
一方で、農家の負担が増えるのではないか。
小規模農家が萎縮するのではないか。
種をめぐる権利が強くなりすぎるのではないか。
こうした不安もあります。
私は、まずこの両方を分けて考える必要があると思います。
日本の優良品種を守ることは必要です。
これは疑いようがありません。
しかし同時に、現場の農家が制度を理解できず、不安を抱えたままになるなら、それもまた問題です。
守るべきは、研究者の努力だけではありません。
守るべきは、農家の安心でもあります。
そして最終的に守るべきは、私たち消費者の食卓です。
ここを間違えると、種苗法は「現場を守る法律」ではなく、「現場を縛る法律」と受け止められてしまいます。
私はそこを非常に気にしています。

「すべての種が使えなくなる」は正確ではない
種苗法の話になると、必ず出てくる不安があります。
「農家が自分で種を採れなくなるのではないか」
「在来種まで企業に独占されるのではないか」
「毎年、高い種を買わされるのではないか」
この不安を、ただの誤解として切り捨ててはいけません。
ただし、事実は丁寧に整理する必要があります。
農林水産省は、種苗法で保護されるのは新たに開発され登録された品種に限られ、それ以外の一般品種、つまり在来種、品種登録されたことがない品種、登録期限が切れた品種は自由に利用できると説明しています。
また、登録品種と一般品種の区別についても、農水省は「登録品種以外の品種」は一般品種であり、一般品種の増殖や販売には許諾は必要ないと説明しています。
つまり、
「今後すべての種が自由に使えなくなる」
という説明は正確ではありません。
一方で、登録品種については、育成者権者の許諾条件を守る必要があります。
ここは当然です。
誰かが長い年月と費用をかけて作った新品種を、勝手に増やし、勝手に売り、勝手に海外へ持ち出す。
それを自由だと言ってしまえば、そもそも品種開発に投資する人がいなくなります。
ただし、ここで政府に求めたいのは、きれいな説明ではありません。
現場に届く説明です。
どの品種が登録品種なのか。
どこまでが許されるのか。
どこからが許諾の対象なのか。
小規模農家でも、高齢の農家でも、すぐに確認できる仕組みが必要です。
制度が難しすぎて、専門家に聞かなければ何も分からない。
それでは現場は混乱します。
法律は、霞が関の机の上で完結してはいけません。
畑に届いて、初めて意味があります。

法律だけでは、流出は止まらない
ここからが、私が一番言いたいところです。
今回の改正によって、出願公表後、品種登録前でも輸出差し止めを求められる制度ができます。
これは大きな前進です。
品種登録には時間がかかります。
正式に登録されるまでの空白期間に、種苗が海外へ流出する。
これを放置すれば、せっかく日本で開発した新品種が、権利で守られる前に外へ出てしまう可能性があります。
いわば、家の玄関に鍵をつけてもらうまでに数年かかる。
その間に泥棒が入ったら、どうするのか。
そういう問題です。
だから、出願公表後の段階から輸出差し止めを認めることには意味があります。
しかし、私は法律だけでは不十分だと思っています。
なぜなら、いったん海外へ持ち出され、現地で増殖されてしまえば、日本の法律だけで取り締まることは難しいからです。
農水省も、優良品種の海外流出を防ぐためには海外での品種登録が重要であり、品種流出リスクの高い国での品種登録支援を行ってきたと説明しています。
ここが本質です。
国内法を整えるだけでは足りない。
海外で権利を取る。
税関で見る。
ネット取引を監視する。
輸出業者に周知する。
侵害を発見した時に、誰が、どの費用で、どう対応するのか。
そこまで整えなければ、法律は「立派な看板だけで、警備員がいない店」になってしまいます。

日本は「良いものを作る」だけでは負ける
日本人は、良いものを作ることには本当に真面目です。
果物もそうです。
米もそうです。
野菜もそうです。
味を磨く。
品質をそろえる。
安全性を高める。
地道に改良する。
こうした積み重ねは、日本の強さです。
しかし、国際競争の世界では、良いものを作るだけでは守れません。
権利を取る。
名前を守る。
偽物を排除する。
海外で利益を回収する。
ここまでやって、初めてブランドです。
私は、日本の農産物を単なる食べ物として見るべきではないと思っています。
これは知的財産です。
文化です。
地域の誇りです。
国益です。
一粒の種は小さい。
しかし、そこに入っている時間と技術は、決して小さくありません。
一つの苗が流出したことで、一つの産地の未来が揺らぐこともあります。
ここを軽く見てはいけません。
反対意見にも、耳をふさぐべきではない
一方で、私は反対意見をすべて雑に扱うべきではないと思っています。
育成者権の強化によって、小規模農家の手続き負担が増えるのではないか。
登録品種と一般品種の区別が分かりにくいのではないか。
種をめぐる権利が強くなりすぎるのではないか。
こうした不安は、現場にとっては切実です。
だからこそ、政府がやるべきことは明確です。
「大丈夫です」と言うだけでは足りません。
登録品種を簡単に検索できる仕組み。
許諾条件を分かりやすく確認できる仕組み。
農家団体を通じた一括許諾の整備。
小規模農家への相談窓口。
海外流出対策への国費支援。
こうした実務が必要です。
制度は、正しいだけでは足りません。
使える制度でなければならないのです。
ここから先は、YouTubeでは少し言い切れなかった本音です
今回の改正種苗法について、私は方向性としては評価しています。
ただし、手放しで喜ぶつもりはありません。
なぜなら、日本の政治にはよくあるからです。
法律を作ったことで、仕事をした気になってしまう。
制度を作ったことで、守った気になってしまう。
しかし現場に行くと、説明が足りない。
予算が足りない。
人員が足りない。
監視体制が足りない。
そして結局、真面目にやっている人ほど負担を背負う。
ここを繰り返してはいけません。
種苗法は、国益の法律であると同時に、現場の法律です。
研究者がいなければ、新品種は生まれません。
農家がいなければ、その品種は育ちません。
流通がなければ、消費者には届きません。
消費者が価値を理解しなければ、ブランドは育ちません。
つまり、誰か一人を守ればいい話ではないのです。
私の見方
私がこの問題を重く見る理由は、日本がこれから何で世界と勝負するのか、という話につながるからです。
日本は資源大国ではありません。
広大な農地を持つ農業大国でもありません。
価格だけで勝負すれば、どうしても厳しい。
ならば、日本が勝負すべきものは何か。
品質です。
技術です。
安全性です。
ブランドです。
そして、それを支える人の努力です。
今回の種苗法改正は、その努力を守るための一歩です。
しかし、一歩でしかありません。
この一歩を、本物の農業戦略につなげられるか。
そこが問われています。
海外での品種登録を国がどこまで支援するのか。
流出リスクの高い国をどう見るのか。
ネット上の種苗取引をどう監視するのか。
農家に分かりやすく制度を届けるのか。
日本の農産物を、海外で正当に稼げる産業にできるのか。
ここまでやって、初めて「守る」と言えるのだと思います。
まとめ
改正種苗法は、日本の優良品種を守るために必要な改正です。
育成者権の存続期間を延ばす。
品種登録前でも、出願公表後であれば輸出差し止めを求められるようにする。
海外持ち出しの前段階である輸出目的保管にも対応する。
方向性としては、私は評価します。
しかし、法律だけでは足りません。
種や苗は小さく、持ち運びやすく、見た目だけでは登録品種かどうか分からないこともあります。
だからこそ、税関、流通、ネット取引、海外登録、農家への周知。
ここまで含めて制度を動かさなければなりません。
日本の農産物は、単なる食べ物ではありません。
そこには、研究者の知恵があり、農家の汗があり、地域の歴史があり、日本人の味覚があります。
それを守ることは、日本の未来を守ることでもあります。
種は小さい。
しかし、そこに詰まっているものは大きい。
今回の改正を、ただの法律改正で終わらせず、日本の農業をどう守り、どう育て、どう世界で勝負していくのか。
その出発点にしなければならない。
私は、そんなことを考えていました。
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