祖父の自伝(43)第七部 ぶどう狩り その六
ぶどう狩り その六
東海ブロック連絡協議会設立
大府の組合長・鈴木さんが、突然訪ねてこられた。
「うちの組合もぶどう狩りをやりたい。ぜひ中根さんに来てもらって話を聞きたい」と言われた。
私としては、まず組合員に相談してからと一応は断ったが、
相手は名古屋の隣地で、交通条件も良い。駒立以上の成績が上がるだろう。
「心配ない、大丈夫ですよ」と返事をすることにした。
予想通り、初年度から駒立の倍の成績であった。
しかし、交通の良いところには勝てないなぁと諦めたら、それで終わりだ。
勝てるところで勝つのだと、決意を新たにする。
その前後、名鉄沿線にぶどう狩り組合が四か所産声を上げた。
名鉄から「入園料や内容に格差があると協力しにくい。ブロックの協議会を設立し、話し合いの場を作ってはどうか」と呼びかけがあった。
各組合の同意を得て、設立することとなった。
最初は、近い熱田支配人室が担当し、大府の鈴木さんが当番幹事として会議を取りまとめた。
参加組合は以下の通りである。
• 熱田支配人室:大府組合
• 岡崎支配人室:駒立組合
• 名古屋支配人室:東谷山組合
• 岐阜支配人室:長良川組合
• 岐阜支配人室:山上組合
名称を「東海地区ぶどう狩り連絡協議会」とし、全員一致で設立された。
入園料、土産の扱い、入園方法などを統一すること、
宣伝の主要部分は名鉄に依頼すること、
地元の駅は各支配人室と相談すること、
ポスターやチラシは状況に応じて対応することなどで一致した。
次回は、ぶどう狩り終了後に成績報告と反省、次年度の幹事などをテーマに開くことを決め、解散した。
各地の規模、地形、交通条件などが発表されたが、どこも非常に条件が良く、
駒立は地形・交通ともに劣っていることを、ひしひしと感じた。
しかし、協議会ができてからは支配人室との関係も深まり、互いに真剣さが増した。
営業課の宮本さんを中心に、西三河の観光地とも連携が広がった。
宮崎のくらがり渓谷、下山の三河湖とは特に交流を深め、一貫した看板をつくり協力しあい、年一回当番制で会合を開き客の誘致について相談し合った。
また、豊田の王滝楼、足助の三州足助屋敷、笹戸温泉、奥矢作湖などとも会合を持ち互いに視察しあい、西三河の観光に互いに協力し合った。
協議会の中では、後れを取りたくないという思いで、どんな場面でも率先して協力を惜しまなかった。
宣伝以上に大切なのは、うまいぶどう作り。
それを基に、山里の自然を活かした憩いの農園を目指し、ひたすら努力を続けた。
家庭では女房一人に負担をかけ、仕事は遅れるばかり。
さぞ辛かっただろうと、今になってひしひしと胸に迫るものがある。
年を負うにつれだんだんと知って頂き、トヨタ本社や関連会社、労働組合などから指定を受けるようになった。
観光バスや自家用車での来園も増え、豊田方面への広がりは目覚ましかった。
また、浜松方面でもぶどうを自由に取れる楽しさが評価され、
距離の近さから時間にゆとりがあり家事や子供の世話も充分こなして出かけられると主婦層に人気が集まり、待望の会員募集の枠にも採用して頂いた。
その結果、毎日のように観光バスが訪れ、それに伴い車の両輪のごとく浜松ナンバーの自家用車も日増しに増えてきたのも嬉しいことであった。
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追憶:笹戸温泉にて(孫の視点)
あのとき、なぜだったのかは、正直わからなかったけれども、
おじいさんが「笹戸温泉へ行こう」と言い出して、二人で出かけた日があった。たしかそこだと思う、、
おじいさんがもうおじいさんになってた時。77歳のときくらい。私が免許を取り立ててで運転できるようになっていたと思う。そこで乗せてってくれと確か言われたような。
私は思春期で、正直あまり乗り気ではなかった記憶がある。
「なんでわざわざ温泉に行かにゃいかんのだ」
そんなふうに思っていた。
スーパー銭湯が現れ始めていた時代、ただの温泉。
風呂に入って、ご飯を食べて、少し休んで帰る――それだけの一日。
けれど今思うと、あの場所には、おじいさんの時間が詰まっていたのかもしれない。
ここは、おじいさんがぶどう狩りを広げる中で、人と人をつなぎ、観光を作ってきた場所のひとつだったんだ。
きっと、あの頃の記憶があったのだろう。
当時、支配人もすでに変わっていたようで、おじいさんが色々話しても、相手はピンと来ていないようだった。
でもおじいさんはそこに来られたことがなんかすごく嬉しそうだった。
ただ一緒に風呂に入り、飯を食べて、少し横になって帰った。
それだけの時間。
何が何だかわからなかったが、確かに、あの日の空気だけは、今も残ってます。
今これを読んで、グッとくるものがありました。
そういう時間って宝物だなって。
注釈
• 三河湖・香嵐渓・笹戸温泉
西三河を代表する観光資源。ぶどう狩りと組み合わせることで滞在価値を高めた。
• トヨタ関連団体
企業の福利厚生・団体利用としての顧客層。安定した集客源となる。
• 会員募集枠
旅行会社や団体が募集するツアー枠。採用されると安定的に客が入る仕組み。
