見出し画像

【036】スピ魂ショート:そのまま ある


ふと
風の匂いに
立ち止まることがある

懐かしい
わけではない

思い出がある
わけでもない

けれど

胸の奥で
何かが
そっと振り向く

いつだっただろう

どこだっただろう

思い出そうとしても
分からない

それなのに
なぜか
知っている

ずっと前から
知っていたような
気がする

雨あがりの空

夕暮れの光

名前も知らない
小さな花

そのどれもが
初めてでは
ないような
気がしていた

気づいたのは
今日かもしれない

けれど

触れていたのは
もっと前だった

言葉になる前から

理解する前から

説明できるように
なる前から

静かに

静かに

寄り添っていた

人との出会いも
そうなのかもしれない

好きになる前から

大切だと
気づく前から

何かは
通っていた

人生も
そうなのかもしれない

見つけたと
思った場所は

本当は
始まりではなく
ずっと続いていた

道の途中

だから

焦らなくて
いい

分からなくても
いい

答えにならなくても
いい

気づきは
急がない

花が咲くように

朝が明けるように

ある日
そっと姿を見せる

そして

振り返る

ああ
あの頃から
ここにいたんだね

そう
微笑むように

風が吹く

光が揺れる

今日もまた
気づかれる前の

優しさが
静かに
通り過ぎていく

私は
その中にいる

ただ

そのまま  ある

子素女 竜壱
Ryuichi_Kosume



いいなと思ったら応援しよう!