【037】スピ魂ショート:そのまま ある

窓の外に雲がいた
名前もなく
行き先もなく
白い光の中を
ゆっくり
流れていた
私は
それを見ていた
見ていた
はずなのに
見ていたことさえ
忘れてしまうほど
静かだった
風が吹く
遠くで鳥が鳴く
誰かの
暮らしの音が
かすかに届く
そのすべてが
私の前を
通り過ぎていく
けれど
何も
残らない
何も
掴まない
何も
意味にならない
それなのに
なぜだろう
少しだけ
懐かしかった
どこへ行けば
辿り着けるのか
何になれば
満たされるのか
そんなことばかり
考えていた日も
あったのに
その朝は
どこへも
向かっていなかった
止まっても
いなかった
ただ
雲が流れ
風が通り
光が揺れていた
そして
その中に私もいた
何者でもなく
何かの途中でもなく
ただ
そこにいた
それだけだった
それだけなのに
胸の奥が
少しだけ
温かかった
進む
という言葉も
立ち止まる
という言葉も
もう
必要なかった
空は
空のまま
風は
風のまま
私は
私のまま
ただ
そのまま ある
子素女 竜壱
Ryuichi_Kosume
