【035】スピ魂ショート:そのまま ある

夕暮れだった
特別なことは
何もなかった
うまくいった
ことも
失敗した
ことも
今はもう
思い出せない
けれど
ひとつだけ
残っていた
窓の向こうで
空が
ゆっくり色を
変えていたこと
誰にも
気づかれず
誰にも
褒められず
今日という
一日が
静かに終わろうと
していたこと
昔は何かを
残そうとしていた
誰かの役に立ちたい
認められたい
間違えたくない
そんな思いを抱えて
歩いていた
それは
決して悪いことでは
なかったと思う
ただ
少しだけ
疲れていた
だからだろうか
夕暮れの光が
妙にやさしく見えた
風が
妙に懐かしく感じた
空は
何も語らない
それなのに
なぜか
胸の奥へ届いてくる
頑張ったねとも
大丈夫だよとも
言わない
それでも
その沈黙の方が
どんな言葉より
深く響く日がある
生きることは
答えを
見つけることでは
ないのかもしれない
ただ
こうして
空を見上げる
日があって
風を感じる日が
あって
何も
変わらないまま
今日が
終わっていく
その中に
ずっと
探していたものが
そっと
混ざっていた
のかもしれない
夕暮れの空が
少しずつ
夜へ溶けていく
その景色を
見ながら
私は
どこへも行かず
何者にもならず
ただ
ここに いた
ただ
そのまま あった
子素女 竜壱
Ryuichi_Kosume
