なろうアニメ倍速視聴男に転生しました 西村曜『コンビニに生まれかわっても』
代わり映えのしない毎日は、穏やかで、張り合いがない。
日常にぼんやりした不安と不満が積もっていく。
社会に出て挑戦をするわけでもなく、当たり障りなく漫然と生きてきた対価を払わされている。
今日挑戦をしなかったという選択は、明日も挑戦をしない理由になり、焦燥感だけが残る。
まるで利息で首が回らなくなっていく多重債務者みたいだ。
複利的なスピードで人生は軽やかさを失っていく。
僕は、そんなふうに生きてきた。
傷付きたくないし、楽はしたいし、できればFIREもしたい。
それでもなんとか試行錯誤したその末に、僕は、
「なろう系アニメ倍速視聴アラサー男」
に転生していた。
なろう系アニメ倍速視聴アラサー男 とは
読んで字のごとく、なろう系のアニメをひたすら倍速で視聴し続けるアラサーの男性のことである。
サブスク系のサービスは安い。
休みの日に延々とアニメを見続け、サブスクのコスパを上げることを狙った戦術だ。
これにより安価な娯楽を得て、休日にお金を使わず、資産形成を進めることができる。
僕は狂ったようにアニメを観た結果、なろう系アニメがもっともこの戦術と相性がよいことがわかった。
できればどんどん女の子が仲間になっていき、主人公が無双するタイプだと望ましい。
特にシリアスなシーンもなく、ハーレムを形成するものだと最高だ。
これを続けていると、気付けば僕は2倍速でなろう系アニメを見るようになった。
まるでジャンクフードを流し込むみたいに、脳みそになろうアニメを与え、貪った。
日に3クールか4クール分のアニメを見ては、次の日には忘れた。
主人公の名前を一つも覚えていない。
そんな事を何ヶ月も続けて、僕は人生をやり過ごしていた。
ほとんど生きる意味を見失っていたと思う。
暇ではなかったけれど、人生はすごくつまらなかった。
そんな時期に読んだ、忘れられない一首がある。
西村曜の『コンビニに生まれかわってしまっても』という歌集の一首だ。
生きろって釘宮理恵の声で言え そしたら言われなくても生きる
その時の僕が誰かに言って欲しかった言葉がそこにあった。
誰かに生きろと言って欲しかった。
その「生きろ」は、ただ生き延びるだけの意味ではない。
人との関わりのなかで僕という人生に意味があることを証明する「生きろ」なのだと思う。
僕も主人公になって、cv.釘宮理恵の女の子に泣きながら生きろと言われたい。
そんなワンシーンみたく切実に、僕がいなければいけない理由が欲しい。
この歌のポップな悲壮感に一気に魅せられてしまった。
そこからは少しずつ生活を立て直し、もうなろう系アニメ倍速視聴アラサー男性はいない。
現実は、アニメほど劇的ではない。釘宮理恵もいない。
それでも、2倍速で流していた人生を、いまは等速で見ている。
退屈な日もある。不安も消えない。
だとしても、早送りの日々には戻らないだけの意地はある。
誰かに「生きろ」と叫ばれなくてもいい。
僕は自分に、「生きろ」と言う。
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