勝つためだけのクラブは作っていない 〜VOYAGERSはなぜ生まれたのか〜
当初、クラブを作ることは目的ではなかった
課題先行で動いたプロジェクト
VOYAGERSは、最初から「サッカークラブを作ろう」と思って始めたわけではない。
むしろ逆で、僕らには解くべき問題が先にあった。
スポーツの世界では、現役中は評価されながらも、引退後にキャリアが途切れる構造がある。
特にサッカーは1年契約が当たり前で、収入も安定しない。キャリアの連続性が設計されていない状態で、多くの選手が次の道に悩んでいる。キャリア教育の事業展開をしながら、この問題を目の当たりにしてきた。
一方で、地域に目を向けると、東美濃エリアは人口減少と人材不足が進み、企業は採用に苦労している。
働きたい人はいるが、繋がっていない。この2つの課題を見たときに、「これは別の問題ではなく、一つの構造として解けるのではないか」と感じた。
スポーツと地域、キャリアと雇用。この分断されているものを繋ぐ仕組みを作れないか。それによって誰かを幸せにできるんじゃないか。
そこからすべてが始まっている。
方法論としてのスポーツクラブ
では、それらの課題をどうやって解くのか。その手段として選んだのがスポーツクラブ = VOYAGERSだった。
理由は明確で、スポーツには人を動かす力があると考えたからだ。5年前、僕と服部はこのエリアで、教育意識を高める地域コミュニティを作ろうとしていた。それをピボットしたのがスポーツクラブだった。
スポーツの力を最大限に活かす事ができれば、試合に人が集まり、応援が生まれ、そこに自然と関係性ができる。さらに重要なのは、その関係が一度きりで終わらず、未来永劫に継続していく点にある。そうすれば、ただのイベントではなく、日常的な接点になる。
また、クラブという形を取ることで、選手、企業、地域住民、子どもたちといった異なる立場の人間が同じ場に関わることができる。
例えば、企業で働く選手が、ピッチに立つ。その企業の人が試合を見に来る。そこに地域の子どもたちもいる。試合以外の日にも、クラブを軸に人が動く構造をつくることができる。
この構造自体に価値をつけていくことが、昨日書いたクラブ経営だと思う。
クラブは目的ではなく「器」であり、この中でどんな関係性を設計するかが本質だと考えている。
スポーツビジネスが大きなソリューションとなりうるかもしれない
スポーツビジネスは、日本ではまだ「娯楽」や「趣味」の延長として捉えられることが多い。
ただ実際には、それ以上の可能性を持っている。
例えば欧州では、クラブが地域経済の中心になり、観光や雇用、教育にも影響を与えている。
日本でも同じことができるかは簡単ではないが、少なくとも地方においては実現性があると考えている。人が集まる理由が少ない地域において、定期的に人を呼び込み、関係人口を増やす装置として機能し得るからだ。
さらに、デュアルキャリアの仕組みや、育成現場との連携は、地域の人材育成の場にもなる。
もちろん理想論だけでは回らないし、収益構造を伴わなければ継続できない。それでも、スポーツという文脈を使うことで、複数の課題を同時に解決できる可能性がある。
この領域は、まだ設計し直せる余地があると思っている。AIによる社会変化が起きていく中で、スポーツビジネスの領域は今後必ず伸びていくと確信している。
VOYAGERSが目指すのは勝利そのものではない
勝つことは重要である
前提として、勝つことは重要だ。
これは綺麗事ではなく、競技としての本質だと思っている。勝たなければ評価されないし、見てもらえない。
実際、勝っているチームには人が集まり、話題になり、応援も増える。逆に負けが続けば、どれだけ理念があっても見られなくなる。だからこそ、現場では勝利に対して妥協するつもりはない。トレーニングの質、戦術の設計、選手のコンディション管理、すべては勝つために積み上げていく。
また、選手にとっても勝利は重要な評価軸だ。結果を出すことで次のチャンスが広がる。アスリートとしてのキャリアを考えたときにも、勝利から逃げることはできない。
だから「勝つことは重要ではない」と言うつもりは全くない。むしろ、徹底的に重要だと考えている。
ただ、勝つことは手段に過ぎない
ただし、それでも勝利を最終目的には置いていない。なぜなら、勝つこと自体は価値の“入口”に過ぎないからだ。勝つことで注目され、人が集まり、企業との接点が増え、選手の可能性も広がる。
その先に何を作るかが重要になる。
もし勝利だけを目的にするなら、短期的に強いチームを作ることに集中すればいい。
しかしそれでは、選手のキャリアや地域との関係は切り捨てられる可能性がある。VOYAGERSがやりたいのはそこじゃない。
勝利を使って、価値を拡張すること。
例えば、働きながらプレーする選手の姿を見て、子どもたちが新しい選択肢を知る。
企業がクラブと関わることで、街との新しい接点が生まれる。
勝つことで広がる可能性をどう使うか。それが本質だと思っている。
誰しもゲームがあれば勝ちたいし、クラブのカテゴリーは上げていきたい。負けてもいいなんてことは全くない。あえて弱いクラブを応援したいなんて人はいないと思っている。
ただ、常に問い続ける必要はある。「何のためにこのクラブを作ったのか?」
そう考えると、勝つことは目的ではなく手段だ。
強いクラブより意味のあるクラブを作りたい
最終的に目指しているのは、「強いクラブ」ではなく「意味のあるクラブ」だ。
強さは必要条件だが、十分条件ではない。
選手を集めれば、一時的に強いチームを作ることはできるかもしれないが、それだけでは何も地域に残らない。
では何を残すのか?
それは人とクラブの関係性とその価値だと思っている。
地域の人が「このクラブがあるからこの街が好きだ」と思えるか。
企業が「このクラブと一緒に成長したい」と思えるか。
選手が「ここでの経験が人生に繋がった」と言えるか。
子どもたちが「このエリアを代表して活躍したい」と感じられるか。
その積み重ねが、クラブの存在意義になると思う。だからこそ、短期的な勝利だけでなく、長期的に何を残すかを考えなければならない。
結果のみではなく、そのプロセスで評価されるクラブを作る。
そのために、僕たちはVOYAGERSという形を選んでいる。
