壮年カップルはいかなる会話をするのか
逆にお訊ねしますが、何故いつもまともな画像があると思うのですか?
職場で電話を受けながらさらさらと絵を描き隣席の同僚に渡す。同僚の反応は一様に芳しくない。「ザコい」「弱そう」「怪人側かと思いました」「仕事して下さい」……かように世間の理解がないので仮面ライダーのモデルにショウリョウバッタは使われないのであろう。腹部の「6」という数字の意味は描いた自分でも忘れていたが、シックスパックの念押しという、しょうもない理由であった。
私が描くとキティちゃんでもドラえもんでもホラーテイストになる。パートナーとお絵描き対決をしているうちに、技量の不足を補うためそっちに逃げたのである。勝たなければならない私は覇道を極めた。なぜ勝たねばならないのかは忘れた。闘いに理由など求めない。勝つのみである。もっとも彼の側に「対決」という意識はない。彼は私が引く「自由な線」が好きだという。プロの世界には自由な線がないのだという。智恵子か。イン東京か。
そんなことをしつつ、私はパートナーに仕事の愚痴をこぼす。そういうものだと思うが、「生業にならない方の仕事」についての愚痴になりがちだ。どれじゃなくてね。あれこれね。広い概念の「仕事」ね。そう書いておかないと角が立つからね。いえいえ滅相もないまさかお宅様からいただいているお仕事に愚痴なんてあるわけないじゃないですかヒヒ。ささ一献。
元剣道部:「でね、面倒くさいんス」
元柔道部:「わかる。ホントな」
元剣道部:「いっそ面胴籠手臭い。つうか面胴籠手突き臭い」
元柔道部:「あー剣道部くせえもんな。部室の前を通る時ウンザリ」
元剣道部:「剣道部は防具がくせえだけ。柔道部なんて身体が臭いじゃん」
元柔道部:「いやいやいや剣道部には言われたくないねえ。臭っせえの」
元剣道部:「柔道部なんて全員インキンじゃないっすか!」
ちなみに私は対校試合で「お前は主将っぽいから主将のとこ座っとけ」と顧問に言われてそうしていたが主将経験はない。人生ハッタリである。あの顧問だって空手しかやったことない奴だった。教えることがないから空手の型を剣道部員にやらせるような奴だった。いや待ておれが主将のとこに座って腕組みしてた時に主将はどこにいたんだ? 覚えていないが勝ち上がっていたのだろう。私の出番はさっと終わるからね。ホラ長くやっててもね。
私たちの会話には悪口も多い。
元剣道部:「実は『人権コーディネーター』って職名、『正気か?』って」
元柔道部:「ぶはははははは」
元剣道部:「いやウケんの早くないスか」
元柔道部:「突然前触れなく真っ黒になるオマエが大好き」
元剣道部:「いや人権って最もコーディネートしちゃダメなもんだろって」
元柔道部:「まあ個別にコーディネートする余地があったらダメだわな」
元剣道部:「『あなたにぴったりのプランがあります!』じゃねえのよと」
元柔道部:「『あなたにはどの人権?』。風邪薬か」
元剣道部:「『人権の意味わかってる?』って、なんかおれ腹立って」
元柔道部:「ぶはははははは。まあ自分で名乗ったわけじゃないだろ」
元剣道部:「おれなら改革に乗り出しますね」
書き出してみるとあんまし面白くないな。ま与太話ですから。
先日は元柔道部から「ディープ・パープルの仲たがいは延々やってる恒例行事でファンにとってお約束みたいなもんだから心配しなくてよい」と教わった。バンド結成以来ずっと火の粉がパチパチ(by 王様)なんだそうで、道理で話題を振った途端にパートナー氏が爆笑したわけであった。それでも「70過ぎてもそんなのやってんのかあ」と呆れているので、「ゲイコミュニティでも四半世紀それ続けてんのかっていう醜い年寄り連中いますよ」と慰めておいた。ボーカルが替わるとライブで別のボーカルの曲を演ってくれないから、ファンは「お願いだから BURN やって」と思うのだという「あるある」も聞けてよかった。「フキハラとは」みたいな知識も入れてくれる。
元剣道部:「ハピハラは分かったけどフキハラってなんスか」
元柔道部:「不機嫌ハラスメント。撒き散らすのいるじゃん」
元剣道部:「いや不機嫌ってそのままでよくないかな?」
元柔道部:「短く言いたかったとかじゃないのか、たぶん」
元剣道部:「どっちも4文字なんですが。文字で打つなら3文字」
元柔道部:「即時論破すんな。細けえこたぁいいんだよ」
元剣道部:「大事なポイントだったんじゃ。あ『細かい』って言った!」
元柔道部:「言ってない!」
元剣道部:「詰められると強めの声で切り抜けようとしますよね」
元剣道部:「ノンフィクションは売れないってのもね。何なんスかね」
元柔道部:「そうだねえ」
元剣道部:「あれ嫉妬かな。才能には憧れるけど、経験には嫉妬する」
元柔道部:「ああ、評価を感情が邪魔する……?」
元剣道部:「自分だって経験とチャンスがあれば本くらい……という」
元柔道部:「それはあると思うよ」
元剣道部:「芸術と現実のちがい、だけじゃない」
元柔道部:「経験しただけじゃ商品にならんけどなあ」
元剣道部:「ゲイだから売りになったんでしょ的な空気はマジある」
元柔道部:「おー。吠えとけ吠えとけ」
元剣道部:「ぱおーん」
元柔道部:「……ちょっと、思ってたのとちがった」
