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動物ウイルス学総論


第1章 ウイルスの発見

 動物ウイルスとして最初に確認されたのは口蹄疫(foot-and-mouth disease)の病原体であった.口蹄疫に罹患し,発症したウシは,口腔周辺部に水疱を形成し,粘稠性の唾液の分泌が亢進するため激しい流涎を呈する.これが伝染性疾病であることはG・フラカストロ(Girolamo Fracastro: 1478〜1553)が1546年に出版した『伝染病について(De Contagionibus et Contagiosis Morbis, et eorum Curatione)』の中で言及していたが,その病原体については杳として不明であった.R・コッホ(Robert Koch: 1843〜1910 )の高弟のF・レフラー(Friedrich Löffler: 1852〜1915)とP・フロッシ(Paul Frosch: 1860〜1928)は,口蹄疫罹患牛の水疱液をバークフェルト(Berkefeld)式浄水器により濾過して得た濾液を健康牛へ接種することにより,病気の伝達が可能であることを1897年に初めて示した.バークフェルト式浄水器はW・バークフェルト(Wilhelm Berkefeld: 1836〜1897)が1891年に開発した珪藻土製の濾過器である.浄水器は19世紀初頭に英国でロイヤルドルトンの創業者J・ドルトン(John Doulton: 1793〜1873)がセラミック製のものを拵えたのが嚆矢とされている.これらの浄水器は飲み水を介して当時流行していたコレラの予防に用いられ,大いに役立っていた.

 レフラーとフロッシによる濾過実験に先立つ1892年には,D・イワノフスキー(Dmitri Ivanowski: 1864〜1920)による,また,1898年にはM・ベイエリンク(Martinus Beijerinck: 1851〜1931)によるタバコモザイク病の濾過伝達実験がそれぞれ行われていたものの,その時代の常識からすれば病原体が浄水器を通過するというのはにわかには信じ難い実験成績であった.ベイエリンクはその病原体を「contagium vivum fluidum」と呼んだが,当時その実体は不明であった.しかも,その病原体は人工培地で増殖せず,光学顕微鏡によっても確認できなかったのである.しかし,この異端の学説が当時の科学的パラダイムを超えて学界に容認されるまでにさして長い歳月は要さなかった.ほぼ同時期に,細菌を宿主とするバクテリオファージ(細菌ウイルス)も英国で1915年にF・ツウォート(Frederick Twort: 1877〜1950)らにより,またフランスでは1917年にパスツール(Pasteur)研究所のF・デレーユ(Felix d’Hérelle: 1873〜1949)らにより発見された.デレーユは,彼が「バクテリオファージ」と呼んだ因子による細菌の死滅効果にも注目した.そして彼は,バクテリオファージを定量するためのプラックアッセイを開発した.これは,ウイルスが培養細胞において溶解感染したときに,培養細胞層に生じた穴(プラック)の個数を数えることにより,ウイルス粒子の個数を算定する手法となった.

 タバコモザイクウイルス(tobacco mosaic virus: TMV)に関する初期の研究は,「濾過性病原体」,つまりウイルスのさらなる理解につながった.具体的には,感染したタバコの葉で複製された高濃度のウイルスにより,感染性因子の化学的および物理的解析が可能になった.1930年代初頭までに,タバコに感染する病原体はタンパク質で構成されており,ウサギで産生された抗体がウイルスを中和(感染性の喪失)するという証拠が得られた.

 20世紀初頭にはほぼ均一な孔径をもつコロジオン膜が開発されウイルスの大きさを測定できるようになり,さまざまなサイズの濾過性因子の存在が実証された.それでも,一部の因子は有機溶剤により不活性化されたが,ほかの因子は耐性を示したため,濾過性因子についての統一的な説明が困難になり,研究者たちを当惑させた.また,ニワトリ初期胚の組織培養法がフランスの外科医A・カレル(Alexis Carrel: 1873〜1944)により1912年に考案され,それを利用してウイルスを増殖させることが可能になった.彼の代表作『人間,この未知なるもの(L’homme, cet inconnu)』(1935年)は日本でも翻訳され,当時の社会情勢に適合したため多くの読者を得た.このほかマウス脳内接種法(1930),発育鶏卵接種法(1931),細胞培養法(1952)などが確立され,ウイルスの生物学的性状が次第に明らかにされた.

 現在ではウイルスの増殖の多くは培養細胞を用いてin vitro(試験管内)で行われている.ヒト由来の組織を用いて最初に作製された培養細胞はHeLa細胞と呼ばれるもので,1951年10月に死亡したH・ラックス(Henrietta Lacks: 1920〜1951)の子宮頚癌組織由来である.この培養細胞はG・オットー・ゲイ(George O. Gey: 1899〜1970)により樹立された上皮様細胞で,世界中で広く使われている.

 動物由来の培養細胞としてはアフリカミドリザルの腎上皮由来のVero細胞が最も広く使われている.Vero細胞は1962年5月に千葉大学医学部の川喜田愛郎(1909〜1996)教授のもとで安村美博博士(現 獨協医科大学名誉教授)により樹立され,ミドリザルの腎由来であることからエスペラント(esperanto)のVerda Reno(緑の腎)を省略してVERO(安村博士の指示にしたがって「ヴェーロ」と読む)と命名されたが,また同時にVeroはエスペラントで「真理」という意味でもある.エスペラントに造詣の深い安村博士の発案であった.Vero細胞はインターフェロンの産生がないことから多くのウイルス培養に適している.Vero細胞について線維芽細胞とする説もあったが,グルタミン酸を除く他のアミノ酸についてD体(D型異性体)でも培養できることから上皮様細胞とみなすのが適切であろうと現在では考えられている.一般に,線維芽細胞はL体アミノ酸でないと増殖しないからである.

 培養細胞はヒトや動物の組織からin vitroで最初に培養されたとき,これを初代培養細胞と呼ぶ.カレルは,培養条件を良好に満たせば,初代培養細胞が永遠に増殖し続けると唱えていたが,それは誤りで,腫瘍細胞でない通常の初代培養細胞は50代程度継代すると徐々に培養困難になり,やがて継代できなくなる.この現象を発見者L・ヘイフリック(Leonard Hayflick: 1928〜2024)に因んで「ヘイフリック限界(Hayflick limit)」という.これに反して不死化して,何代でも継代できるようになった細胞を細胞系(cell line)という. 

 ガラス面あるいはプラスチック面に接着して増殖する正常な細胞は増殖に伴って隣接する細胞と接触すると,そこで増殖を止める性質を備えており,これを接触阻止(contact inhibition)という.腫瘍ウイルスの感染を受けてトランスフォームした細胞ではそれが失われて細胞が重なりあって増殖するようになるため,フォーカス(focus)を形成する.

 ウイルスが培養細胞で増殖すると,ウイルスと細胞の組み合わせにより培養中の生きた細胞に形態学的な退行性変化が倒立顕微鏡により観察されることがあり,これを細胞変性効果(cytopathic effect: CPE)と呼び,感染細胞を破壊してプラック(plaque)を形成することがある.ウイルス感染以外の原因(細菌感染や化学物質)による類似の変化はCPEと言わない.

 ウイルス感染を受けた細胞にはウイルスの増殖に伴って核内あるいは細胞質内に封入体(inclusion body)が形成されることがあり,これは細胞を固定後,染色することによって,見いだせる構造で,その染色性の違いに基づいて好酸性のものと好塩基性のものに区別される


 20世紀初頭には,真空技術の発展に支えられて白熱電球や真空管などとともに,超遠心機や電子顕微鏡が発明された.分析用超遠心機はスウェーデンのT・スヴェドベリ(Theodor H.E. Svedberg: 1884〜1971)が1925年に,また電子顕微鏡はベルリン工科大学でM・クノール(Max Knoll: 1897〜1969)の指導により研究していた大学院生E・ルスカ(Ernst A.F. Ruska: 1906〜1988)が1932年頃に発明した.さらに,電気泳動法が,スウェーデンのW・ティセリウス(Ame Wilhelm Kaurin Tiselius: 1902〜1971)により1933年頃に考案された.これらの発明によりウイルスの理化学的性状や微細構造に関する膨大な知識も集積された.ウイルス研究史の中で特筆すべきことは,W・スタンリー(Wendell M. Stanley: 1904〜1971)によるタバコモザイクウイルス(TMV)の結晶化(1935)であり,これはウイルスが生物か無生物かという問題を提起した.

 電子顕微鏡(EM)により最初に観察されたのはTMVであり(1939),こうしてウイルスの粒子性が確立された.EMにより観察されるのはウイルスの表面に見られるカプシド(capsid)と呼ばれるタンパク質の殻で,その構造によりウイルスの形態はらせん対称と立方対称に分けられる.TMVのヌクレオカプシド(カプシドとRNAの複合体)がらせん対称であることを,のちに英国の物理化学者R・フランクリン(Rosalind Franklin: 1920〜1958)は,結晶化したTMVをX線回折により示した.

 その後,ジャガイモやせいも病の原因として約300塩基からなる自己増殖性の裸の環状1本鎖RNA分子が発見され(1971),これはウイロイド(viroid)と呼ばれたが,動物ではその存在が知られていない.ウイロイドのゲノムは,ハンマーヘッド構造と呼ばれる二次構造に依存した触媒活性を有し,リボザイム(ribozyme)として機能する.また,ヒツジのスクレイピー(scrapie)の病原体として,タンパク質性の感染性因子が想定され,S・プルシナー(Stanley Prusiner: 1942〜)により「プリオン(prion)」と名付けられた(1982)が,その実態は未だに解明されていない.スクレイピーは,1732年に英国でヒツジの致命的な中枢神経系の疾患として発見されたもので,現在ではオーストラリアとニュージーランドを除く世界各地で症例が報告されていて,日本でも1984年に発生が確認された.罹患動物は身体を柵などにしきりにこすりつけ,次いで神経過敏,痙攣,後脚の麻痺を呈し,数か月から数年以内に死亡する.本病は罹患ヒツジから健康なヒツジへ水平伝播することがあり,また,母ヒツジからその仔へもおそらく胎盤を通じて垂直伝播すると考えられている.スクレイピーが伝達性の疾患であることは,フランスでツールーズ獣医科大学教授のJ・キュイエ(Jean Cuillé: 1872〜1950)とP・シェユ(Paul-Louis Chelle: 1902〜1943)が罹患ヒツジの脳乳剤を健康な他のヒツジ,ヤギ,マウスの脳へ接種して発病させることにより証明されていた(1936).本病の診断は,患畜のハーダー腺(Harder gland)から採取した少量のリンパ組織について,抗プリオンタンパク質抗体を用いたELISA,ウェスタンブロット法による構成タンパク質の検出,免疫組織化学染色などで行われる.

(本章は,拙著『微生物学副読本』<Amazon>から改訂のうえ転載した)


第2章 ウイルスの特徴

(1)ウイルスの特性

 ウイルスが濾過性病原体として特定された後は,ウイルスをほかの微生物と区別するための特性を検索する試みがなされた.当初から,この濾過性因子を人工培地により培養できないことが明らかになり,この特性は,すべてのウイルスが偏性細胞内寄生性であるという認識をもたらした.ただし,偏性細胞内寄生性は,ウイルスに限った特性ではない.ある種の細菌は,宿主細胞の外で増殖することができない(例:クラミジアやリケッチア).これらの例外的な細菌は,宿主細胞に依存しなければならない重要な代謝経路を欠いている.対照的に,ウイルスは,エネルギー産生やタンパク質合成に必要なプロセスなど,増殖に必要なあらゆる代謝能力を欠いている.ウイルスは,ミトコンドリア,葉緑体,ゴルジ体,リボソームを伴う小胞体などの標準的な細胞小器官を持っていない.ただし,シアノファージは,宿主細胞系を補うことによってウイルスの順応性を高める光合成に関与するタンパク質をコードしているため,例外である.同様に,特定のバクテリオファージは,ヌクレオチド生合成経路に関与する酵素をコードするゲノムを持っている.ウイルスは,生きている細胞の外では,不活性な粒子だが,細胞内では,宿主細胞のプロセスを利用してタンパク質と核酸を生合成し,ウイルス粒子自体を複製する.後述するように,ウイルスがコードするタンパク質は,わずか数個から数百個までさまざまである.この複雑さの範囲は,ウイルス感染が宿主細胞の代謝に及ぼす多様な影響を反映しているが,感染により同じように,多くの子孫ウイルスが産生される.

 ウイルスの第2の特性は,二分裂によって複製しないことである.ウイルスの複製プロセスは,ウイルスのさまざまな部分が宿主細胞の中で集合して新しいウイルス粒子を構築する組立ラインに似ている.ウイルスが宿主細胞に付着した直後に,ウイルスは細胞内へ入り,インタクト(無傷)のウイルス粒子は存在しなくなる.次に,ウイルスゲノムが新しいウイルス粒子の構成成分となる高分子の合成を指示し,最終的に新しい子孫ウイルス粒子の組み立てと放出をもたらす.ウイルス粒子が宿主細胞に侵入してから最初の新しいウイルス粒子が形成されるまでの期間は,暗黒期(エクリプス)と呼ばれる.暗黒期に感染細胞を破壊すると,かなりの数の感染性ウイルス粒子の放出が中断される.中断されることなく,1個の感染性粒子(ウイルス)が1個の感受性細胞内で複製すると,何千もの子孫ウイルス粒子が生成される.

 高感度な分析技術が利用可能になり,多くのウイルスが特定されるにつれて,ウイルスを定義する基準のいくつかが絶対的ではなくなってきている.一般に,ウイルスには,ウイルスを複製するための情報を運ぶ1種類の核酸しか含まれていない.しかし,一部のウイルスには,ゲノムであるDNAやRNA以外の核酸分子が含まれることが明らかになっている.レトロウイルスの場合,逆転写酵素反応には細胞由来のtRNAが不可欠であり,各成熟ビリオン(virion)には約50〜100個のtRNA分子が含まれている.

 初期の研究では,ウイルスはその小さなサイズにより特徴づけられていた.しかし,一部のマイコプラズマ,リケッチア,およびクラミジアよりも物理的に大きい巨大ウイルスが確認されている.アメーバに感染するミミウイルス(mimivirus)やパンドラウイルス(pandravirus)は,既存の規範に対する例外である.ミミウイルスのビリオンは,直径が約0.75 μm(750 nm)で,1.2メガ塩基対(メガベースペア:Mbp)のDNAゲノムを持っている.パンドラウイルスはさらに大きく(最大1 μm),約2.5 Mbpのゲノムを持っている.ビリオンのサイズのため,これらの大きなウイルスは,細菌をウイルスから区別するために従来使用されていた標準的な孔径300 nmの濾過器によって捕捉されてしまう.これらの巨大ウイルスのゲノムには,タンパク質の翻訳,DNAの修復,および膜生合成に関わる可能性のあるタンパク質をコードする遺伝子を含む,1000を超える遺伝子が含まれる.例えば,ミミウイルスは,ウイルスゲノムの複製のための宿主細胞経路からのある程度の独立性を示す可能性が高いアミノアシルtRNA合成酵素をコードしている.これらの大型ウイルスの発見により,ウイルスの起源に関する議論が復活している.さらに,塩基配列データは,ミミウイルスを大型DNAウイルス,特にポックスウイルス科およびイリドウイルス科のウイルスとの関連を示唆している.


(2)ウイルスの形態

 ウイルスの基本構造は,核酸のコア(core)と,それを囲むカプシド(capsid)と呼ばれるタンパク質の殻からなる.動物ウイルスのコアは,核酸とタンパク質が結合した核タンパク質(nucleoprotein)を形成している.カプシドは,その構成単位であるカプソメア(capsomere)が規則的・対称的に配列した集合体であり,その対称性から立方対称(cubic symmmetry)あるいはらせん対称(helical symmetry)に区別されることが多い.らせん対称のカプシドは,核酸と結合したヌクレオカプシド(nucleocapsid)として存在し,1つの回転対称軸を中心にらせん状に配置したもので,電子顕微鏡により,桿状もしくは線維状の形態として観察される.カプシドは,内部のウイルス核酸を保護し,宿主細胞表面の受容体との親和性により宿主域を決め,また,ウイルスの抗原性を発揮するなどの役目を担っている.ウイルスによっては,カプシドの外側をエンベロープ(envelope)により包まれ,その表面にペプロマー(peplomer)またはスパイク(spike)と呼ばれる突起(projection)を有している.いずれのウイルスにおいても,形態的ならびに機能的に完成した感染性の成熟ウイルス粒子はビリオン(virion)と呼ばれる.

 ウイルスの形態を決定する上での大きな進歩は,1958年のネガティブ染色電子顕微鏡技術の開発であった.この手法により,電子密度の高い染色法によりウイルス粒子をコーティングし,解像度を高めたウイルスのネガティブ画像が得られる.さまざまなウイルスのビリオンのサイズが1000 nmから20 nmまで大きく異なることを考えると,過去の濾過伝達実験において指摘された矛盾(濾過性因子のサイズにバラツキがあること)は驚くべきことではない.

 原子レベルでウイルスの形態を観察することは,最初にX線結晶回折を使用し,次にこの技術を凍結電子顕微鏡法などのほかの技術と組み合わせた研究からもたらされた.この技術では,サンプルを急速冷凍し,液体窒素または液体ヘリウムの温度で観察する.凍結電子顕微鏡法は,ネガティブ染色法やX線回折の場合と異なり,構造を分析する過程でサンプルに損傷を与えたりしたりしないという利点がある.ただし,このプロセスによって生成される個々の画像は,X線結晶学により得られる画像よりも解像度が低くなる.これらの分析にとって重要なのは,文字通り何千もの観察から3次元画像を取得,分析,構築できるコンピュータ(ハードウェアとソフトウェア)の開発であった.このプロセスは,ウイルス粒子が一様に同じサイズと形状である場合にのみ機能する.多くのウイルスでは,この均一性は,正二十面体(icosahedron)として知られる多面体としての立方対称を持つことによって満たされている.

 正二十面体を呈するインタクト(無傷)の立方対称ウイルス粒子について,個々のペプチドの物理的位置が特定され,ビリオンの表面にある折り畳まれたペプチドの領域がマッピングされている.これらの領域は,モノクローナル抗体によって認識される特定のエピトープに関連している場合がある.別の研究では,細胞受容体に対するビリオン上の結合部位がマッピングされ,これらの領域を標的とする抗ウイルス薬を開発する道が開かれた.X線結晶回折は,インフルエンザウイルスのHAタンパク質で行われたように,ウイルスのサブユニットの分析にも使用される.抗体または宿主細胞受容体との結合に関与するHAペプチドの変異の影響は,これらの技術を使用して確認されている.

 ウイルスは,タンパク質サブユニットの形状,サイズ,数,およびこれらのサブユニット間の界面の性質に応じて,さまざまな形態とサイズになる.一般にウイルス粒子の形態として,電子顕微鏡のネガティブ染色法により観察されるものはカプシドである.立方対称カプシドのウイルスに見られる対称性は,常に正二十面体である.正二十面体のビリオンには,12個の頂点(コーナー),30個のエッジ(稜),および 20個の面があり,各面は正三角形である.正二十面体は2回,3回,5回の回転対称性を持ち,回転軸はそれぞれ稜,面,頂点を通過する.正二十面体ウイルスでは,頂点(5回転対称軸)のカプソメアはペンタマー(pentamer),それ以外のカプソメアはヘクサマー(hexamer)と呼ばれる.正二十面体は,サブユニットの繰り返しから,最大体積を囲む強力な構造を構築するという問に対する最適解である.パルボウイルスは,最も単純なカプシド設計の1つであり,同じタンパク質サブユニットの60コピー(正二十面体の各面ごとに3個のサブユニット)により構成されている.タンパク質は,タンパク質相互作用を安定化するためのほかのサブユニットとの接触点を提供するアームのように延びた「ゼリーロールβバレル」と呼ばれる構造に折り畳まれる.最も単純な配置では,タンパク質サブユニットのサイズがカプシドの体積を決定する.60コピーの単一カプシドタンパク質では,小さなゲノムのみがカプシド内に収容できる(イヌパルボウイルスは5~5.3 kbの1本鎖DNA).

 正二十面体ウイルスのカプシドは,各頂点(12個)と各面(20面)をそれぞれ5量体と6量体が構成している.構造生物学者のD・カスパー(Donald L.D. Caspar: 1927〜2021)とA・クルーク(Aaron Klug: 1926〜2018)は,カプシドに5量体と6量体を配置するために,正二十面体対称を多数の正三角形により分割したとき,その正二十面体の一面を占める正三角形の数を三角形分割数(T: triangulation number)として計算幾何学的に表すことを1962年に提唱した.

 いくつかのRNAウイルスは,ウイルス核酸がカプシドと結合して,らせん状の円筒構造を呈するヌクレオカプシドとして自己組織化するため,らせん対称ウイルスと呼ばれる.らせん対称ウイルスの組み立ては,構造単位の同一のタンパク質どうしの界面の形状と繰り返しに基づいている.らせん対称ヌクレオカプシドでは,ゲノムRNAがヌクレオカプシドのコア内でらせんを形成している.RNAは,構造単位を正しい整列に導く組織化の成分となる.らせん対称ヌクレオカプシドを持つ植物ウイルスの多くは,棒状,またはエンベロープのない粒子である.しかし,動物ウイルスでは,らせん対称ヌクレオカプシドが二次コイルに巻き付けられ,リポタンパク質エンベロープ内に封入されている(ラブドウイルス科を参照).

 必然的に,これらの単純な規則に従わない形態のウイルスが存在する.たとえば,ポックスウイルス科のメンバーは複雑な対称性を呈している.同様に,各ビリオンが独自の形状を持つ高度に多形性のウイルスがある(例:フィロウイルス科).


(3)ビリオンの化学組成

 ウイルス粒子の化学組成は,個々のウイルス科によって著しく異なる.例えば,パルボウイルス科などの単純なウイルスの場合,ビリオンはウイルスの構造タンパク質とDNAにより構成されるが,ピコルナウイルス科の場合は,ウイルスの構造タンパク質とRNAで構成されている.ヘルペスウイルス科やパラミクソウイルス科などのエンベロープウイルス(エンベロープにより包まれているウイルス)では,情況はより複雑である.これらのウイルスは,ウイルスタンパク質によって修飾されたさまざまな宿主細胞膜を通って出芽(budding)することによって成熟する.ほとんどの場合,宿主細胞のタンパク質はウイルスの構成要素ではないが,微量の細胞タンパク質がウイルスのエンベロープやウイルス粒子内に存在することがある.リボソームRNAなどの宿主細胞由来のRNA分子がビリオン内に見られることがあるが,ウイルス複製における機能的役割の証拠はない.エンベロープウイルスの場合,糖タンパク質がエンベロープの外側(表面)に存在する主要なタンパク質である.脂質エンベロープの存在は,ウイルスを2つの異なるクラス,つまり有機溶剤によって不活性化されるもの(エンベロープウイルス)と耐性を示すもの(非エンベロープウイルス)に分別する手段を提供している.


① ウイルス核酸

 ウイルスは,ゲノム構成,遺伝子の発現様式,およびゲノムの複製様式に関して,驚くべき多様性を示す.植物のウイロイドRNA(247〜401ヌクレオチド)の極端な単純さとパンドラウイルス(2.47 Mbp)を考えると,ウイルスはおそらく,細胞内で核酸複製のあらゆる手段を利用していると結論づけることができる.ウイルスのゲノム核酸の型と構造の特徴は,ウイルスを分類するために使用されている.ウイルスは遺伝情報の伝達のために1種類の核酸しか含まないため,ウイルスはRNAウイルスとDNAウイルスに分けることができる.RNAウイルスの場合,主な違いの1つは,ゲノムRNAがポジティブセンス(プラス鎖),つまりmRNAとしてタンパク質に直接翻訳できる極性を持つか,またはネガティブセンス(マイナス鎖),つまりmRNAを生成するためにゲノムの転写を必要とするかどうかである.マイナス鎖RNAウイルスのグループには,1本鎖の全ゲノムウイルス(例:パラミクソウイルス科)と分節ゲノム(segmented genome)をもつウイルス(例:6,7,または8個の分節RNAをもつオルトミクソウイルス科; 3個の分節RNAをもつブニヤウイルス科; 2個の分節RNAをもつアレナウイルス科)がある.レトロウイルス科は,ビリオンに 2個のプラス鎖RNAを全ゲノムとしてもつので,二倍体と見なせる.一部のRNAウイルスは,2本鎖RNA(dsRNA)からなるゲノムを持っている.例えば,ビルナウイルス科には,2個の分節dsRNAがあり,レオウイルス科には 10,11,または 12個の分節dsRNAがある.動物のRNAウイルスのゲノムサイズは,2キロベース(kb)未満(デルタウイルス)から,コロナウイルス科の最大30 kb以上までの範囲におよぶ.

 動物のDNAウイルスの場合,ゲノム全体の構造はそれほど複雑ではなく,1分子の1本鎖DNA(ssDNA)または1分子の2本鎖DNA(dsDNA)のいずれかである.dsDNAウイルスの複雑さは,ポリオーマウイルス科およびパピローマウイルス科(5~8 kbp)の比較的単純な環状のスーパーコイルゲノムから,可変配列の再編成を伴う線形ゲノムのヘルペスウイルス科(125~235 kbp)にまで及ぶ.ssDNAウイルスゲノムは,線形(パルボウイルス科)または環状(サーコウイルス科およびアネロウイルス科)のいずれかで,ゲノムサイズは2.8~5 kbpである.

 一般に,ウイルスのゲノムサイズは,ウイルスのタンパク質コード能力に影響を与えるが,この関係を確実に推定する簡単な算出方法はない.ウイルスゲノムの一部は,通常,ウイルスタンパク質の翻訳,ゲノムの複製,およびウイルス遺伝子の転写に必要な調節エレメント(プロモーター,終結シグナル,ポリアデニル化部位,RNAスプライス部位など)である.


②  ウイルスタンパク質

 動物ウイルスのゲノムは,1個から100個以上のタンパク質をコードしている.ビリオン(形態学的ならびに機能的に成熟した感染性ウイルス粒子)を構成するタンパク質は,構造タンパク質と呼ばれる.一方,感染細胞内で生合成されるものの,新しく組み立てられたウイルス粒子に組み込まれないタンパク質は,非構造タンパク質と呼ばれる.非構造タンパク質は,遺伝子発現の調節,ゲノムの複製,ウイルス前駆体タンパク質のタンパク質分解処理,ウイルス粒子の構築の促進,または感染に対する宿主の生来の反応の改変など,ウイルス複製プロセスにおいて重要な役割を果たす.マイナス鎖RNAウイルス(パラミクソウイルス科,ラブドウイルス科など)のRNAポリメラーゼなど,ウイルス複製の初期段階に不可欠な酵素については,不確実な点がある.複製サイクルの最初のステップとして,ヌクレオカプシドが細胞質内に入ると,ウイルスゲノムが転写され,ポリメラーゼがビリオンの一部であることが必要になる.ポリメラーゼが,その転写活性に加えて,成熟したウイルス粒子において真の役割を持っているかどうかは,それほど明確ではない.複雑なウイルス(ポックスウイルス,ヘルペスウイルス,アスファルウイルス)のビリオン内に存在する多数のほかの構造タンパク質も,明らかな役割を持っていないようである.

 構造タンパク質は,修飾タンパク質と非修飾タンパク質の2つのクラスに分類される.非エンベロープウイルスのカプシドは,タンパク質の殻の組み立てに直接的なアミノ酸相互作用が不可欠であるため,修飾がほとんどないタンパク質により構成されている.新生カプシドにおける前駆体タンパク質のタンパク質分解切断は,成熟カプシドタンパク質の組み立ての最終段階では珍しくない.糖タンパク質は,主にエンベロープウイルスに見られる.これらの構造タンパク質は,一般にI型内在性膜タンパク質(例:インフルエンザウイルスの血球凝集素(hemagglutinin: HA)のアミノ末端)またはII型(例:インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼのカルボキシル末端)のいずれかである.グリコシル化パターンは,同じ種類の細胞において成熟するウイルス間でも異なる場合がある.これは,構造タンパク質のNおよびO結合グリコシル化部位がウイルス科の間で異なるためである.ビリオンの組み立てに関与する糖タンパク質は,感染性ウイルス粒子の産生のための成熟プロセスを開始するために,膜の内面でウイルスタンパク質と連絡する細胞質尾部を持っている.感染性ウイルス粒子の構造タンパク質には,いくつかの重要な機能がある.例えば,(1)ゲノム核酸および酵素を不活化から保護する,(2)感染開始のための受容体結合部位を提供する,(3)複製のための細胞の正しいコンパートメントへのウイルスゲノムの侵入を開始または促進する,などである.

 単純なウイルスのビリオンは,構造タンパク質サブユニット(ウイルスがコードするポリペプチド)により構成される形態学的に異なるカプシドに囲まれた単一分子の核酸(DNA または RNA)で構成されている.タンパク質サブユニットは,1つまたは複数のポリペプチド鎖を含む多量体(構造単位)に自己組織化(自己集合)することができる.核酸を含まない構造が検出され,中空カプシド(empty capsid)あるいは中空粒子(empty particle)と呼ばれることがある.ヌクレオカプシドという用語の意味は,ややあいまいな場合がある.厳密には,核酸を含むカプシドはヌクレオカプシドだが,ポリオウイルスなどの単純なウイルスの場合,そのカプシドがビリオンそのものである.フラビウイルスの場合,ヌクレオカプシド(カプシド+RNA)が脂質エンベロープにより囲まれており,ヌクレオカプシドはビリオンを表していない.パラミクソウイルスの場合,ヌクレオカプシドは,αヘリックスの形で集合するウイルスタンパク質と複合体を形成したssRNAから構成されている.ヌクレオカプシドは,ウイルスタンパク質の挿入によって修飾された宿主細胞膜から脂質エンベロープを得ることによって,完全なビリオンになる.

 

③ ウイルスエンベロープの脂質

 細胞の膜を通過して出芽することにより成熟するウイルスの場合,ウイルスエンベロープの基本構造を形成するのはリン脂質二重層である.ウイルスの成熟部位は,細胞膜,核膜,ゴルジ体,または小胞体の内膜である.細胞膜から出芽するウイルスの場合,コレステロールがエンベロープの構成要素であるが,内膜から出芽するウイルスのエンベロープにはコレステロールが含まれない.出芽プロセスは,特定のウイルス糖タンパク質が完成中の粒子を内膜内側の適切な位置へ導くという点でランダムではない.分極細胞(タイトジャンクションを持つ細胞で,細胞に定められた頂端面と側底面をもつ細胞)では,ウイルスは,一方の面に向けて出芽する.たとえば,インフルエンザウイルスはイヌ腎臓培養(Madin Darby Canine Kidney: MDCK)細胞の頂端面から出芽し,水胞性口炎ウイルスは側底面から出芽する.ウイルス糖タンパク質の膜貫通ドメインは,出芽のために細胞膜の特定の領域を標的とする.インフルエンザウイルスの出芽は,スフィンゴ脂質とコレステロールが豊富な細胞質膜のマイクロドメインとされる,いわゆる「脂質ラフト」に関連している.


(4)ウイルスの分類命名

 ウイルスの分類命名については国際ウイルス分類命名委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses: ICTV)が1966年に創設され,ウイルスごとの小委員会と研究グループが,研究コミュニティから提出された新しいデータを定期的に評価して,分類システムを改良し,新しいウイルスを分類表の最も合理的な位置に配置している.新しいウイルスが発見され,また,過去に分離されたウイルス株の塩基配列データが次から次へと報告されているため,分類と命名に関するプロセスは常に進行中の状態であり,ウイルス学書における分類学的記述が「最新」であることは不可能である.

 ウイルス分類群の階層は,綱(class),目(order),科(family)/亜科(subfamily),属(genus)/亜属(subgenus),種(species)の順になる.種より上位の分類群のウイルスは,その分類を特定するためのすべてのプロパティ(属性)を持っている必要がある.対照的に,種は,メンバーがいくつかの共通のプロパティを持っているものの,すべてが単一のプロパティを共有する必要がない多項階級(polythetic class)と見なされる.各属には,属と種の間のリンクを作成する種であるタイプ種(基準種)が指定されている.国際ウイルス分類命名委員会の規則では,ウイルスの綱,目,科,属,および種などの学名はイタリック体で書くことになっている(「note」のこの原稿では,都合によりローマン体により示している).分類学的位置が確定したウイルス種の学名(種名)は,一般の生物における二名法とは異なり,イタリック体で記し,最初を大文字で始める.ただし,ウイルスが病気を引き起こす能力,培養細胞での増殖,またはその物理的特性などの具体的な特性の観点から記述する場合,またウイルス名に固有名詞が含まれていない限り,ウイルス名をイタリック体で書いたり,最初を大文字にしたりしない.例えば,冒頭で紹介した口蹄疫の病原体は,学名(種名)を「Foot-and-mouth disease virus」とし,また,このウイルスを特定の細胞系で増殖させた場合などには,種名ではなくウイルス名として「foot-and-mouth disease virus(口蹄疫ウイルス)」と記載し,そして略号として「FMDV」が用いられる.論文などでは,ウイルスの分類学的な側面と具体的な側面が明確でない場合がある.

 分類法は,あるウイルスを別のウイルスと比較したり,あるウイルス科を別のウイルス科と比較したりするためのツールを提供する.また,特定のウイルス科に暫定的に関連付けられている新しいウイルスに生物学的特性を割り当てることもできる.たとえば,コロナウイルスとしての同一性をサポートする新しいウイルスの電子顕微鏡画像がある場合,発見者は,1本鎖のポジティブセンスの非分節RNAウイルスを検出したと推測できる.さらに,コロナウイルスは主に腸疾患に関連していると推測できるが,「種」の壁を超えた後に「非定型」宿主で呼吸器疾患を引き起こす場合もある.コロナウイルスは,概して試験管内(in vitro)での培養が難しく,培養細胞での増殖を促すためにプロテアーゼの存在が必要になる場合がある.おそらくヌクレオカプシド内の保存された塩基配列は,PCRによる検出のための標的を提供するかもしれない.したがって,未知のウイルスの形態の同定は,特定のウイルス科の一般的な特性が個々の臨床症例の解釈に役立つ可能性があるため,有益である.たとえば,アルファヘルペスウイルスが特定の症例から分離されたこと,または臨床サンプルの詳細なシーケンス分析によってその存在が特定されたことを確認すると,原因となる特定のウイルス種の特性を明示的に特定しなくても,そのウイルスに関するいくつかの基本的な知識が得られる.しかし,ウイルスの現在の分類には混乱がないわけではない.現在,ウイルスが個々のウイルス科内でどのように分類されているかについては,かなりのばらつきがある.たとえば,フラビウイルス科のウイルスは,依然として血清学的関係に従ってグループ化されているが,ピコルナウイルス科のウイルスは,ゲノムの配列と構成に基づいて属に細分化されている.さらに,「ウイルス種」の指定には,ほかのさまざまな「ウイルス分離株」が含まれる場合があり,生物学的特性と宿主域(種特異性)が極めて異なるにもかかわらず,ネコ汎白血球減少症ウイルスとイヌパルボウイルスは両方ともProtoparvovirus carnivoran1(肉食動物プロトパルボウイルス1)のウイルス株とされている.

 感染症の病原体が関与する臨床症状は最も早く認識されるため,その病原体が引き起こす疾患の病名またはそれが発見された地名をウイルスの名前として採用するのは,命名の根拠として自然な成り行きであった.したがって,ウシに口蹄疫を引き起こした病原体は「口蹄疫ウイルス(foot-and-mouth disease virus)」になり,アフリカのリフトバレーで熱性疾患を引き起こした病原体は「リフトバレー熱ウイルス(Rift Valley fever virus)」と呼ばれるようになった.このため同じウイルスに異なる名前が付けられたことがある.たとえば,北米ではブタコレラウイルス(hog cholera virus)と呼ばれていたが,世界のほかの地域ではブタ熱ウイルス(classical swine fever virus: CSFV)と呼ばれていた.同じ動物においても,ウシ伝染性鼻気管炎 (infectiou bovine rhinotracheitis: IBR) とウシ伝染性膿疱性外陰腟炎 (infectious bovine pustular vulvovaginitis: IBPV) の病原体は,どちらもウシヘルペスウイルス1(Bovine herpes virus 1)である.病名に基づくこの命名法は,ウイルスの物理的および化学的性質を特定するためのツールが利用可能になるまで変更されなかった.ネガティブ染色法による電子顕微鏡観察は,ウイルスのサイズと形態がそれらを特定するために用いられた.これは,ウイルス粒子内の核酸型を特定するとともに,新しいウイルスを分類して命名するためのより合理的なシステムの基礎であった.特定された形態と核酸型を使用しても,開発中の分類システムにはまだあいまいさがあった.例えば,昆虫などによって伝播するウイルスは,「アルボウイルス(arbovirus: arthropod-borne virus)」(節足動物媒介ウイルス)として大まかに定義されていた.しかし,アルボウイルスであるトガウイルスに似たウイルスがあり,同じ核酸型を持っていたが,昆虫ベクターを持っていなかった.これらは「非節足動物媒介性」トガウイルスと呼ばれていた.このあいまいさは,これらの病原体のゲノムの塩基配列の解析により次第に解消された.こうして,例えば,「非アルボ」トガウイルスと呼ばれたものは,ルビウイルス属,ペスチウイルス属,およびアルテリウイルス科の所属になった.

 ウイルスは当初,それらが引き起こす疾病,共通の物理的および化学的特性,および血清学的交差反応性に従って分類されていたが,分子生物学時代に開発された塩基配列決定技術により,異なるウイルスの遺伝的比較が分類を容易にすることとなった.一般に,遺伝的関係は,過去の基準によって以前に確立されたものと類似していた.ウイルスゲノムの塩基配列決定により,ウイルス種の進化的発達と歴史を決定するための系統発生比較も可能になった.これは,ウイルスの祖先を特定するための強力なツールである.ただし,塩基配列に基づく分類の主な制限は,特に極めて多様なRNAウイルスの場合,ウイルスの可変性によって推論が損なわれることである.それにもかかわらず,ウイルスのRNA依存RNAポリメラーゼ(RdRp)配列の最も保存されたモチーフを分析する系統発生は,ウイルスの「スーパーグループ」を定義し,科レベルの区別を確立する高次分類を生成するために使用されてきた.たとえば,逆転写酵素活性を示すレトロウイルスやヘパドナウイルスを含むウイルスの系統解析は,逆転写酵素遺伝子配列の保存度が高いため,RdRp配列よりも有益であった.塩基配列からの推論を回避するために現在開発されている新しい方法には,ゲノム構成(遺伝子の内容と順序など)およびタンパク質の二次構造の比較が含まれている.


(5)塩基配列に基づくウイルスの系統比較

 分子生物学が登場する前は,ウイルスは血清学的関係に従って分類されていた.塩基配列決定技術の開発により,ウイルスの遺伝的比較が可能になった.これは,それまで血清学的に定義された関係と概して一致していた.系統発生は,特定のウイルス種またはウイルス科の進化の歴史を系統樹として説明するもので,各枝の先端は特定のウイルスの塩基配列を表す.これらの「系統樹」は通常,ウイルスゲノムの最も保存された領域の配列比較に基づいて作成される.ウイルスの塩基配列データに基づく推論は,特に極めて多様なRNAウイルスの場合,ウイルスの可変性によって損なわれるが,系統発生学はウイルスの「スーパーグループ」を定義するための高次分類を行うのに役立つことが証明されている.分子ウイルス学は,ウイルス分類学における重要性を超えて,系統比較によるウイルス進化の研究に新しい時代をもたらした.系統分類学的なアプローチは,流行中のウイルスの起源,疫学,および動態を推測するためにも使用できる.ウイルスの遺伝子配列と系統樹の分析を比較することにより,ウイルス株の増加と減少,細分化の程度,およびウイルス株の移動に関する貴重な情報を得ることができる.これらのアプローチは,急速に変異するRNAウイルスに特に有用であることが証明されており,たとえば,わずか数日離れて得られたサンプル間の系統関係の解明が可能になる.また,鳥類やヒトの間でのインフルエンザウイルスなど,特定のウイルスの拡散を調査するためにも使用される.

 ほとんどの場合,特別な分子時計モデルが適用されない限り,系統発生は進化の順序のみを示し,2つの塩基配列間の時間の長さを示さない.再結合または再集合するウイルスの系統発生には,複数のゲノム領域の分析も必要である.系統解析は多くの形式をとることがあるが,それらは常に系統樹の生成をもたらす.近隣結合法(neighbor joining method)は,比較されるウイルス配列の各ペア間の遺伝的距離を,行列を介して測定し,計算する.その結果得られたトポロジーは,近傍間の距離を最小化する.このアプローチは迅速であるため,暫定的な系統樹の作成や,複数のオプションから最適な系統樹を選択する場合に適しているが,最初に塩基配列データが距離行列に縮小されるため,行列が正しくない場合,誤った系統樹が生成される場合がある.最大節約法(maximum parsimony)は,最小限の進化的変化をサポートするために枝が可能な限り単純な方法で配置される系統樹を生成するためのノンパラメトリック手法である.節約法(parsimony algorithm)は,ウイルスが遺伝的保存配列を共有している場合や,分析に時間がかかるために分析される配列の数が少ない場合に最適である.このアプローチは,特に進化が急速な場合に,高い確率で真の系統樹を生成することが必ずしも保証するわけではない.パラメトリック統計モデルを使用してモデルのパラメーターの推定値を提供し,モデルが与えられた系統樹トポロジーを観察する確率を決定する3番目のアプローチである最尤法(maximum likelihood)は,節約法よりもさらに遅くなるが,特に小さなデータセットではほかのアルゴリズムと比較してサンプリング誤差の影響が少ないため,構築された系統樹を確認するために好まれている.3つのアルゴリズムのすべてにより作成された系統樹は,ブートストラップ(bootstrap)分析に依存しており,通常は枝分岐部に表示され,トポロジーの統計的信頼度を提供する.95以上のブートストラップ値は統計的に有意であり,同じ方法を使用して系統樹が 100 回再構築された場合,分岐部での塩基配列の同じ相対位置が100回中95回発生することを示している.



第3章  ウイルスの増殖

 ウイルスは多種多様であるが,複製するために,すべてのウイルスは共通の一般的な手順を踏む必要がある.つまり,すべてのウイルスは,感受性のある宿主細胞に付着し,細胞内へ侵入し,ウイルス粒子を分解(脱殻)し,自身の遺伝物質に基づいて必要なタンパク質を合成し,新しいウイルス粒子を組み立て,感染細胞から放出(脱出)する必要がある.ここでは,それらの各段階に含まれる一般的なプロセスについて概説する.

 

(1)ウイルスの培養

 試験管内(in vitro)細胞培養技術が開発される前は,ウイルスを培養するために自然宿主へ感染させる必要があった.細菌ウイルス(バクテリオファージ)の場合,これは比較的簡単な作業であった.そのため,科学者は,植物や動物のウイルスの研究を行う以前に,バクテリオファージを用いて実験方法を開発してきた.動物ウイルスの場合,感染した動物からサンプルが収集され,最初は同じ動物種の別の動物個体へ感染させていた.一貫した結果が得られた場合,通常,ほかの動物種がそのウイルスに感染するかどうかを調べる試みが行われた.これらの実験は,ウイルスの宿主域を推定するために行われた.これによりウイルスの生物学的特性の解明には進歩があったが,この伝達方法には明らかに大きな欠点があり,特に大型動物に影響を与えるウイルスの場合はそうであった.最も深刻な問題は,レシピエント動物の感染状態である.たとえば,ヒツジに検出されなかった病原体が,そのヒツジに試験用病原体を接種した後に観察される臨床症状を修飾する場合があり,そのためこの個体から回収されたサンプルには複数の病原体が含まれる可能性があり,将来の実験を混乱させることがあった.この種の汚染問題を回避するために,調査研究に使用されるレシピエント動物は,より明確な条件下で飼育された.新しい感染性因子が発見され,それらを検出するための試験法が開発されるにつれて,実験動物はより「クリーン」になり,「特定の病原体を含まない(SPF)」動物の概念が生まれた.ただし,特定の病原体を含まないと考えられていたその動物は,まだ知られていない,または検出できない病原体に感染している可能性がある.たとえば,マウス肺炎ウイルス (murine pneumonia virus) は,インフルエンザウイルスによる感染実験の研究中に,ほかの対照動物からの肺抽出物を接種した「実験感染させていない」対照動物が死亡したときに発見されたのである.多くの初期のウイルス学的および免疫学的研究は,マウス肝炎ウイルス,乳酸脱水素酵素上昇ウイルス,またはそのほかの病原体に知らずのうちに感染していた齧歯類を使用することによって危険にさらされていた.日常的なウイルスの分離・培養に生きた動物はもはや一般に使用されていないが,ウイルスのビルレンス(毒力),病原性,免疫原性などの特性を評価するために動物個体は依然として広く使用されている.

 ウイルスの増殖と研究に適した培養システムの探索により,1931 年に,ワクチニアウイルス(vaccinia virus)と単純ヘルペスウイルスが発育鶏卵漿尿膜上で増殖することが発見された.動物ウイルスの多くのウイルス科は,おそらく発育中の鶏胚とその環境に存在する多種多様な細胞と組織の種類のために,発育鶏卵で増殖できることがすぐに判明した.その結果,孵化鶏卵は,鳥類ウイルスおよびいくつかの哺乳類動物ウイルスの日常的な分離および増殖のための標準的な培養システムになった.ウイルス感染が鶏胚の死をもたらす場合,ウイルスストックの継代のために発育鶏卵が実験動物個体に完全に取って代わり,また,このシステムは,ウイルスストックまたは検体中のウイルス量を定量するためにも使用されている.この高額で労働集約的な鶏卵システムは,主に脊椎動物培養細胞に置き換えられている.ただし,インフルエンザウイルスや多くの鳥類ウイルスの分離と増殖には依然として鶏卵が広く使用されている.

 動物個体から取り出した細胞の生存を維持するために人工培地が開発されて以来,さまざまな試験管内(in vitro)細胞培養技術が利用されてきた.これには,器官培養,外植培養,初代培養細胞,および細胞株が含まれる.器官培養は,細胞の多様性と組織の三次元構造を維持する無傷の臓器で構成されるもので,短期間の実験に利用される.外植培養は,器官または組織の一部(例:スライスまたは小塊)からなる.外植培養は無傷の臓器の複雑さを欠いているが,それらの細胞成分は,初代培養細胞または細胞株として増殖した細胞よりも生体内(in vivo)の環境に近い状態で維持されている.初代培養細胞の作出では,トリプシンやコラゲナーゼなどのプロテアーゼを利用して,胎児の腎臓や肺などの特定の組織の細胞を分散細胞としてバラバラに分離し,次に,個々の細胞をフラスコなどの細胞培養基質に付着させ,その表面で細胞分裂を行わせる.ほとんどの初代細胞の寿命は限られているため,新しい組織源から細胞を継続的に生産する必要があり,バッチ間で細胞の品質が変動することがある.この問題は,理論的には無制限の細胞分裂が可能な不死化細胞株の作出によって大幅に克服されている.当初,不死化細胞株の作出(形質転換)は成功する割合が低かったが,現在では事実上あらゆる種類の細胞を不死化することが可能であるため,さまざまな動物種を代表する細胞株の数が急速に増加している.

 動物細胞の試験管内(in vitro)培養技術の出現により,動物ウイルスに関する研究がバクテリオファージにおけるものと同等になり,診断や検査の質と信頼性が向上した.培養細胞により動物ウイルスを分離して増殖させる技術は,ヘンレー=コッホ(Henle-Koch)の条件を適用することにより,特定の疾患の病原体としてウイルスを特定することも可能にした.ヘンレー=コッホの条件を満たすには,感染性病原体を純培養して分離する必要がある.これは,細胞培養技術が開発される前にはほとんど不可能であった.生きている動物を培養細胞に置き換えることにより,外来性ウイルスの存在に関係する問題が減少したが,完全に排除されたわけではなかった.例えば,ポリオウイルスの生ワクチンの初期のバッチは,SV40(simian virus 40)により汚染されていた.SV40は,ワクチン製造に使用されたサルの腎臓の初代培養に由来するサルポリオーマウイルスである.同様に,新たに報告されたパラインフルエンザウイルスに関するいくつかの初期の研究成果の解釈は,ウイルス分離に使用した培養細胞におけるウイルス汚染のために問題を抱えた.ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)による反芻動物細胞培養の汚染は,特に潜在的で広範囲にわたる問題であった.汚染した培養細胞株のいくつかは,BVDVに感染したウシ胎仔組織に由来した可能性があるが,一般的には,BVDVにより汚染したウシ胎仔血清に曝露することにより培養細胞が感染していた.ウシ胎仔血清は,1970年代初頭に細胞培養培地の標準的なサプリメントになっていた.多くの反芻動物細胞株が,汚染されたウシ血清から感染を受けたという事実は,反芻動物のウイルス学および免疫学に関する多くの研究を危うくし,ウシウイルス性下痢の診断を混乱させ,汚染したワクチンの製造により実質的に経済的損失を引き起こした.この問題の範囲は,高品質の診断用試薬が利用できるようになった1980年代後半まで完全には認識されていなかった.実験動物と同様に,細胞培養におけるウイルス汚染の問題は,感染性病原体の存在が知られるようになって初めて認識された.生物製剤の製造においてウシ血清を使用するための標準的プロトコルでは,既知または未知のすべてのウイルスを不活化するために血清の放射線照射が必要になった.細胞内の事実上すべての核酸種の増幅と検出を可能にする現在の技術と,これらの産物の迅速な塩基配列決定法を組み合わせることにより,細胞培養における汚染因子の完全なプロファイルが現在実施可能である.


(2)培養におけるウイルス増殖の確認方法

 細胞培養法が開発される前は,植物または動物の宿主における病原性ウイルスの存在を知る方法は,感染を受けていない(対照)宿主には見られない症状の確認に依存しており,最も極端な結果は死であった.同様に,培養細胞におけるウイルスの存在は,ウイルス感染の結果として生じる特定の細胞変化を識別することによって検出されている.大まかに言えば,ウイルス感染細胞に存在し,同一の増殖条件下で維持された非感染細胞には見られない観察可能な細胞の変化は,細胞変性効果(cytopathic effect: CPE)と呼ばれる.CPEは,試験管内(in vitro)の生きている培養細胞を顕微鏡により検査することでに観察される.培養細胞において観察されるCPEの最も一般的な変化は,細胞溶解と細胞形態の顕著な変形である.形態学的変化の例には,細胞培養基(培養容器内)における個々の細胞の円形化,凝集,収縮,および剥離などが含まれる.ウイルス誘発性の隣接細胞どうしの融合は,CPEの別の形態を表している.例えば,トリレオウイルスに感染した細胞は,通常,融合して多核細胞またはシンシチウム(多核巨細胞)を形成する.パラミクソウイルス科の多くのウイルスは,培養細胞にこの種の形態学的変化を引き起こすことがあるが,シンシチウム形成の程度は培養細胞の種類に依存する.培養細胞において認められる細胞病理学上の変化は,特定のウイルスに特徴的な場合がある.例えば,アルファヘルペスウイルスは,シンシチウム形成の有無にかかわらず円形化細胞を特徴とする明確なCPEを呈し,感受性のある培養細胞を介して急速に広がる.

 いくつかの種類のウイルスに感染した細胞は,その細胞表面で赤血球に吸着する能力を発揮する.この特性は血球吸着(hemadsorption)と呼ばれる.たとえば,ウシパラインフルエンザウイルス3 に感染した細胞は,その細胞膜にニワトリ赤血球を吸着する.感染細胞の表面への赤血球の結合は,感染細胞の表面に発現したウイルスの糖タンパク質を介して,赤血球上の受容体と結合している.その結果,血球吸着は細胞膜から出芽するウイルスでのみ起こり,特定の動物種の赤血球に特異的である.赤血球吸着を誘発するウイルスは,無細胞培地で赤血球を凝集させる能力(血球凝集能)も示す.後述するように,この特性は,検査サンプル内のウイルス量を定量するための基礎として使用できる.赤血球吸着を担うウイルスタンパク質は,赤血球凝集反応にも関与している.しかし,ウイルス自体で赤血球を凝集させることができるものの,そのウイルスに感染した細胞への赤血球吸着を引き起こさないウイルスもある(例:アデノウイルスおよびアルファウイルス).

 ウイルス感染を受けた細胞を固定して観察される一般的な形態変化には,封入体(inclusion body)の形成がある.封入体形成は細胞内における変化であり,通常は新しい構造であり,ウイルス感染の直接的な結果として生じる.封入体は,細胞の固定および染色による処理後に光学顕微鏡により観察できるが,赤血球吸着と同様に,すべてのウイルスが封入体を形成するわけではない.細胞に感染しているウイルスの種類は,封入体の位置と形状から推測できる.例えば,ヘルペスウイルス,アデノウイルス,あるいはパルボウイルスに感染した細胞は核内封入体を形成するが,細胞質内封入体はポックスウイルス,オルビウイルス,あるいはパラミクソウイルスによる感染の特徴である.封入体の組成は,ウイルスの種類によって異なる.狂犬病ウイルス感染細胞で検出される細胞質内のネグリ(Negri)小体は,ヌクレオカプシドの凝集体により構成されているが,アデノウイルス感染細胞で生じる核内封入体は,成熟したウイルス粒子の結晶状配列により構成されている.細胞の染色は,特定のウイルスに感染した細胞を識別するために使用されることはめったにないが,主にウイルスの存在を評価するためのスクリーニング検査として使用される.

 メタゲノム解析が行えない場合,細胞変性効果(CPE)を示さないウイルス,血球吸着または血球凝集(hemagglutination)を誘発しないウイルス,あるいは,封入体を形成しないウイルスの検出は,ウイルス固有のテストにより実施される.例えば,CPEを示さないウシウイルス性下痢ウイルス株である非細胞病原性株(non-CPE株)の存在についてウシ細胞培養をスクリーニングする場合にこれが当てはまる.この種の情況で最も一般に使用される検査は,蛍光抗体法や免疫組織化学染色法などの免疫学に基づく方法である.これらの手法の感度は,使用する抗体の特異性に依存する.モノクローナル抗体と単一特異抗血清の開発により,この問題は大幅に解決されている.その他のウイルス特異的検査法は,感染細胞におけるウイルス特異的核酸の検出に基づいている.当初,この種の検出手技は,標的核酸と塩基配列特異的にハイブリダイズできる核酸プローブの使用に依存していた.ハイブリディゼーションによる検出は,感度の向上と実施の容易さから,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に大きく取って代わられている.


(3)ウイルスの複製

 ウイルスを他の微生物と区別する基本的な特徴は,新しいウイルス粒子の生成方法にある.有糸分裂あるいは二分裂により数を増やす真核生物や原核生物と異なり,新しいウイルス粒子は,ウイルス感染中に合成されるさまざまな構造成分から新規(de novo)に組み立てられる.このユニークな増殖様式の最初の認識は,バクテリオファージを用いた研究から得られた.

 実験による証明は比較的単純であった.(1) クロロホルム耐性ファージを細菌の培養液に数分間加える.(2) 細菌をすすぎ,細菌に付着していないファージを除去する.(3) 培養液をインキュベートし,さまざまな期間でサンプルを取り出す.(4) サンプリングした細菌培養液をクロロホルムにより殺菌処理して増殖を停止させる.(5) 各期間におけるファージ数をプラック法により測定する.

 このような実験から得られる成果は,一段増殖曲線と呼ばれるものであり,原則として,培養細胞で増殖するあらゆるウイルスで実施可能である.この研究により,ウイルス・宿主細胞系に応じて,さまざまな期間にわたって,感染した培養細胞から感染性ウイルスが「消失」していることが判明した.この期間は暗黒期(eclipse period)と呼ばれ,細胞の侵入/脱殻から始まり,新たに形成される感染性ウイルス粒子の出現で終わるまでの期間を表している.暗黒期の終わりに続いて,宿主細胞が代謝の完全性を維持できなくなるまで,感染性ウイルス粒子の産生が指数関数的に増加する.ウイルスの種類によっては,T偶数系バクテリオファージで示されるように,宿主細胞の溶解後にウイルス粒子が突然放出される場合や,A型インフルエンザウイルスのように細胞膜部位でのウイルス粒子の出芽を介してウイルス粒子が長時間放出される場合がある.

 一段増殖曲線を使用して,ウイルス複製サイクルを構成要素に分割できる.構成要素には,付着,暗黒期(侵入,脱殻,構築成分の合成,ビリオンの組み立て),およびウイルス粒子の放出が含まれる.ほとんどのウイルス複製サイクルは,一般にこれと同じプロセスに従うが,各段階の詳細は,ウイルスの種類ごとに大きく異なる.したがって,一段増殖曲線の動力学は,使用される特定のウイルス・宿主細胞系の固有の特性によって異なるといえる.ウイルス複製サイクルのすべてのステップを一時的に同期化するには,培養中のすべての細胞に同時に感染するのに十分なウイルス粒子を用いて感染を開始する.これは,高い感染多重度(multiplicity of infection: MOI)(通常10プラック形成単位(pfu)のウイルス/細胞)を使用することによって実現される.

 次に,一般的なウイルス複製サイクルの個々のステップに焦点を当てて説明する.この説明には,4 つの主要なグループ(プラス鎖RNAウイルスのピコルナウイルス科,マイナス鎖RNAウイルスのラブドウイルス科,レトロウイルス科,およびDNAウイルスのアデノウイルス科)をモデルとする複製サイクルが含まれる.


 ① 付着

 ウイルス複製サイクルの最初のステップは,宿主細胞へのウイルス粒子の付着である.付着には,ウイルス粒子の構成要素(例:カプシドタンパク質またはエンベロープ糖タンパク質)と宿主細胞の構成要素(例:糖タンパク質または炭水化物)の間の特異的な相互作用が必要になる.付着にはウイルスの単一成分と細胞の単一成分との相互作用が含まれる.たとえば,A型インフルエンザウイルスが宿主細胞へ付着するためには,ウイルスのヘマグルチニン(hemagglutinin: HA)糖タンパク質と細胞表面のシアル酸残基との間の相互作用のみが必要である.付着には,ウイルスと細胞の両方の複数のコンポーネント間の連続的な相互作用を伴う.多くの宿主タンパク質は広範に発現されているわけではなく,細胞または組織特異的に発現している.したがって,ウイルスによる受容体の使用は,ウイルスの組織/臓器特異性(指向性)を特定する上で重要である.次に,ウイルスの組織と臓器との特異性は,その病原性とそれが引き起こす病気の性質を大きく決定する.同様に,細胞成分(例:タンパク質,炭水化物など)は生物間で著しく異なるため,受容体の使用は,ウイルスが感染できる動物種(宿主)の範囲にも影響を与える.

 ウイルス粒子は,付着および侵入のプロセスで果たす役割に応じて,受容体,共受容体,付着因子,または侵入因子と呼ばれる細胞表面分子と相互作用する.「ウイルス受容体」という表現は,これらの細胞表面分子を表すためにしばしば使用されるが,これは,細胞がウイルスと結合する目的で受容体を維持しているわけではないことから,誤謬に近い.むしろ,ウイルスは,正常な細胞プロセスの機能を司る宿主細胞分子を使用するように進化してきたと考えられる.ウイルス粒子と細胞表面との最初の接触には,多くの場合,ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどの荷電分子との静電的相互作用が含まれる.この最初の接触は,細胞の表面にウイルスを集中させるのに役立つだけであり,他の受容体様分子とのより特異的な相互作用の確立を促進する.個々のウイルス成分とその細胞リガンド間の結合の親和性は低い場合がある.ただし,ウイルス表面には多くの受容体部位があり,ウイルスと宿主細胞間の結合の親和性は,複数のウイルス/受容体相互作用の確立によって強化される.ウイルスは宿主細胞の表面に少なくとも1つの受容体が発現されている必要があるが,一部のウイルスは増殖を開始するために細胞内受容体に与する必要がある.これらの細胞内相互作用は,細胞への付着には役割を果たさないが,代わりに,以下で述べるように侵入/脱殻のプロセスの最終段階に必要である.

 ウイルスの付着のための受容体として機能する宿主細胞成分の同定は,特定のウイルス複製サイクルの詳細を理解する上で重要であり,この知識は抗ウイルス薬の設計にも役立つため,実用的な意義がある.近年,ウイルスの受容体/侵入因子として機能する多くの宿主細胞成分が特定されている.これには,リガンド結合受容体(ケモカイン受容体,トランスフェリン受容体1など),シグナル伝達分子(CD4など),細胞接着/シグナル伝達受容体(細胞間接着分子1,ICAM-1など),酵素,インテグリン,複合糖質が含まれる.さまざまな炭水化物結合を持ち,シアル酸は共通の末端残基である.異なるウイルスが同じ受容体/侵入因子(コクサッキーウイルスや一部のアデノウイルスなど)を使用する場合があり,その結果,これらのウイルスは共有または重複する細胞/組織指向性を示す.ウイルスと宿主細胞との最初の相互作用に与する宿主細胞分子の数と同一性は,新しいウイルスが特定され,既存のウイルスがよりよく特徴付けられるにつれて,確実に増加する.

 特定のウイルス科のウイルスは異なる受容体を使用することがあるため,受容体/侵入因子を特定するプロセスは当初の想定よりも複雑である.さらに,同じウイルス種の異なる株は異なる受容体を利用することができ,培養細胞におけるウイルスの増殖への順応は,ウイルスの受容体の使用を変化させることがある.たとえば,口蹄疫ウイルスの野生株は試験管内(in vivo)でインテグリンに結合するが,培養細胞により継代したウイルス株はヘパラン硫酸を使用できる.この受容体特異性の変化は,ウイルスのビルレンスを変化させ,受容体の使用が疾患プロセスに影響を与えることを示している.節足動物媒介性ウイルスや一部のアルファヘルペスウイルスなど,宿主域が広い一部のウイルスは,いくつかの異なる宿主特異的受容体を使用すると考えられており,これが多くの宿主細胞で増殖する能力を説明している.あるいは,ウイルスは,複数の動物種で発現する共通の受容体を使用している.たとえば,シンドビスウイルスは,自然耐性関連マクロファージタンパク質(natural resistance-associated macrophage protein: NRAMP)と呼ばれるタンパク質を昆虫細胞の受容体として利用し,哺乳動物のホモログ(NRAMP2)を使用して哺乳動物培養細胞およびマウスの組織に付着することが示されている.

 ウイルス/細胞の付着プロセスに関する2つの追加的問題は注目に値する.アポトーシス細胞の認識とクリアランスにおいて機能する細胞受容体が,デングウイルスおよびおそらく近縁のフラビウイルスによる細胞付着/侵入に使用されるモデルが提案されている.フラビウイルスは小胞体の内膜を通って出芽し,その結果,ホスファチジルセリン(PtdSer)をウイルスエンベロープに組み込むと考えられている.PtdSerはまた,脂質のリシャフリングによるアポトーシスを起こしている細胞の細胞質膜の外側にも豊富に存在し,それぞれ膜貫通型受容体タンパク質のTIMおよびTAMファミリーのメンバーによって直接的または間接的に結合している.TIMおよびTAMタンパク質は,デングウイルス感染の通常の標的であるマクロファージや樹状細胞を含む多くの細胞に発現している.通常の情況下では,骨髄細胞上のTIM/TAMタンパク質とアポトーシス細胞上のPtdSerとの間の結合により,アポトーシス細胞の取り込みと除去が行われる.PtdSerをウイルスエンベロープに組み込むことにより,デングウイルスはアポトーシス細胞を模倣し,ウイルスがTIM/TAMタンパク質を発現する細胞に結合して内部移行すると考えられている.同様のモデルがワクチニアウイルスに対して提案されているため,このメカニズムはフラビウイルスに固有のものではないようである.細胞結合/侵入の第2のやや間接的なメカニズムも,デングウイルスによって示されている.このメカニズムは,感染における抗体依存性増強と呼ばれ,単核貪食細胞(マクロファージなど)の表面に発現するFcγ受容体を活性化することによって結合する非中和IgG抗体がウイルス粒子に結合するときに生じる.この相互作用は,抗体/ウイルス複合体の内在化と,食細胞の細胞質への感染性ウイルスの最終的な放出につながる.口蹄疫ウイルスとネココロナウイルスも,試験管内(in vitro)において抗体を介したこの増強メカニズムにより細胞に感染する可能性があるが,自然感染におけるその重要性は推測の域を出ない.


 ② 侵入と脱殻

 宿主細胞上の受容体へのウイルスの結合は,複製サイクルの最初のステップである.ただし,これがウイルスの細胞内への侵入(entry)につながり,その後にウイルス粒子の脱殻(uncoating)が行われ,ウイルスゲノムが適切な細胞内コンパートメント(細胞質または核)に放出されない限り,生産的な感染にはならない.細胞質膜の厚さはわずか約7 nmだが,細胞内へのウイルスの自由な通過を阻止する効果的な物理的障壁として機能している.しかし,ウイルスは,この障壁を突破して細胞内へ侵入するためのさまざまな能力を進化させてきた.一般に,ウイルス粒子の脱殻は,ウイルス粒子が細胞内へ侵入した後,または侵入プロセスと同時に起こる.ウイルス粒子は準安定性であり,つまり,その構造は一般に物理的実体として細胞から細胞へ,またはある宿主から別の宿主へと移動するのに十分安定しているが,適切な生物学的刺激にさらされると,構造が再編成を受けて分解するように準備されている.以下に述べるように,さまざまなウイルスの侵入/脱殻プロセスを誘発する生物学的刺激には,特定の宿主細胞タンパク質への結合,宿主細胞酵素によるタンパク質分解,および酸性pHへの曝露が含まれるが,これらに限定されない.ここで,ウイルスが宿主細胞に侵入する一般的なメカニズムに焦点を当て,脱殻プロセスを開始する特定のウイルス/宿主相互作用の複数の例を示す.

 結合したウイルス粒子(場合によってはウイルスゲノムのみ)は,2つの一般的なメカニズムのいずれかによって宿主細胞へ入る.すなわち,(1) 細胞質膜を通過する直接侵入,または (2) 膜結合小胞体内への侵入である.以下に説明するように,膜結合小胞体内に侵入するウイルスは,限界膜を通過してサイトゾル(細胞質)にアクセスする必要がある.これらのメカニズムの両方において,受容体分子は侵入プロセスを支援し,受容体の性質によって,ウイルスが宿主細胞へ侵入するメカニズムを決定する.細胞質膜を通過する直接侵入のメカニズムを最初に示す.非エンベロープウイルスによる直接侵入の例として,ピコルナウイルス(ポリオウイルス)による細胞への侵入メカニズムを取り上げる.ポリオウイルスは,ポリオウイルス受容体(CD155)に結合することによって宿主細胞に付着する.ポリオウイルス受容体とカプシドを形成するタンパク質との間に確立された非共有相互作用は,カプシド構造に大きな変化を引き起こす.重要なことは,カプシド内に位置するタンパク質(VP4)がウイルス粒子から排出され,カプシドタンパク質VP1がコンフォメーション変化を起こし,タンパク質の疎水性N末端がカプシド内部からカプシド表面へ移動して宿主細胞の細胞質膜に挿入されることである.複数のVP1タンパク質のN末端が結合して細胞質膜に孔を形成すると考えられており,そこからウイルスのゲノムRNAが宿主細胞の細胞質へ放出される.

 すべてのエンベロープウイルスは,宿主細胞へ侵入するために膜融合のプロセスを介する必要がある.細胞表面から直接侵入するエンベロープウイルスの場合,エンベロープと細胞膜との間で融合するが,このプロセスは中性pH条件下で起こる(pHに依存しない侵入).この侵入様式は,パラミクソウイルス(例:ニューカッスル病ウイルス,麻疹ウイルス)および一部のレトロウイルス(例:ヒト免疫不全ウイルス)に特徴的であるが,すべてのレトロウイルスではない.これらのウイルスの侵入プロセスの初期段階は,ウイルスが適切な受容体分子に結合することにより,ウイルスタンパク質の構造変化が起こり,ウイルスゲノムの細胞への通過が促進されるという点で,ポリオウイルスと概念的に似ている.この場合,コンフォメーション(立体構造)の変化は,本来の(ネイティブな)コンフォメーション(融合前コンフォメーション)から,エンベロープと細胞膜の間の融合を媒介できる別のコンフォメーション(融合後コンフォメーション)へ遷移するスパイク関連糖タンパク質により生じる.ニューカッスル病ウイルスの場合,宿主細胞受容体との結合はヘマグルチニン/ノイラミニダーゼ(HN)糖タンパク質によって行われ,ビリオン表面から突出するホモ四量体スパイクを形成する.受容体結合は,HNのコンフォメーション変化を刺激し,それが次に不安定化し,融合(F)タンパク質と呼ばれる隣接タンパク質のコンフォメーション変化を誘発する.Fタンパク質は,ホモ三量体スパイクに集合するジスルフィド様結合のヘテロ二量体(F1/F2)により構成される.F1のN末端は疎水性が高く,「融合ペプチド」と呼ばれる.受容体が結合する前に,Fタンパク質は,融合ペプチドがウイルスを取り囲む親水性環境から隔離された状態の,融合前の立体構造をとる.HNによる受容体結合に続いて,Fタンパク質の構造変化が誘導され,その結果,融合ペプチドが宿主細胞に向かって投射され,そこで細胞膜の脂質二重層に挿入される.Fタンパク質の立体構造の変化が続くと,細胞膜がウイルスエンベロープに向かって引き寄せられる.2つの膜が接触すると,脂質の混合が起こり,最終的に膜が融合して融合孔が形成される.融合孔のサイズが大きくなると,エンベロープが細胞膜に完全に取り込まれ,ウイルスゲノムが宿主細胞の細胞質へ放出される.今説明した両方のウイルス(ポリオウイルスとニューカッスル病ウイルス)では,侵入と脱殻のプロセスは,ウイルス粒子が生物学的に対応する受容体タンパク質に結合した後にのみ開始される.

 細胞表面での自然な受容体/リガンド相互作用は,多くの場合,膜結合小胞体への受容体/リガンド複合体の内在化につながるシグナル伝達経路と細胞プロセスを開始する.多くのウイルスは,これらの同じシグナル伝達経路と細胞プロセスを利用して宿主細胞へ侵入する戦略を進化させてきた.エンドサイトーシスは,細胞外物質が膜結合小胞体に取り込まれる一般的なメカニズムである.エンドサイトーシスの 1 つの形態は,クラスリン媒介エンドサイトーシスと呼ばれる.簡単に言えば,クラスリン媒介エンドサイトーシスは,クラスリンタンパク質で構成されるポリマー格子によって細胞質側がコーティングされている膜の陥入への受容体/リガンド複合体の拡散から始まる.クラスリンでコーティングされたこれらの「ピット」は,陥入膜の切断に続いて,細胞質内のクラスリンによりコーティングされた一次小胞体を最終的に形成する(ダイナミンと呼ばれる細胞タンパク質によって支援される細胞プロセス).クラスリン格子は一次小胞体から急速に脱落し,初期のエンドソーム経路に入る.エンドソームの内容物は,その後,後期エンドソームに,最終的にはエンドリソソーム(endolysosome)へ送達される.エンドソーム小胞体が経路を介して進行するにつれて,それらの内部pHは次第に酸性になり,細胞の常在タンパク質の組成が変化する.一部のウイルスでは,エンドソーム内の酸性pHがウイルス粒子の構造変化を刺激し,エンドソームからの退出とビリオンの脱殻(pH依存性侵入)を促進する.このプロセスは,A型インフルエンザウイルスを使用して詳細に研究されている.A型インフルエンザウイルスの宿主細胞への付着は,3個のジスルフィド結合HA1/HA2ヘテロ二量体で構成されるホモ三量体構造であるウイルスヘマグルチニン(HA)スパイクによって媒介される.HAスパイクは細胞表面のシアル酸残基に結合し,結合したウイルス粒子はエンドソーム内で細胞内へ取り込まれる.エンドソーム内のpHの低下は,融合ペプチドとして機能するHA2のN末端をビリオンから外側に伸長させ,エンドソーム膜に挿入させて,HAのコンフォメーション変化を誘発する.ニューカッスル病ウイルスのFタンパク質と同様に,HAタンパク質はリフォールディングを続け,エンベロープとエンドソーム膜を引き寄せ,最終的にそれらを融合させる.2 つの膜が融合すると,ウイルスゲノムが細胞質へ放出される.A型インフルエンザウイルスのゲノムは,8 個のヌクレオカプシド(NPタンパク質によってその長さ全体で複合化されたネガティブセンスRNA)で構成され,これらは互いに関連し,M1タンパク質の複数のコピーと関連している.M1タンパク質は,タンパク質どうしの非共有相互作用を介して 8 個のヌクレオカプシドを凝集させているようである.エンドソームが酸性化すると,水素イオンがビリオン関連イオンチャネル(M2イオンチャネル)を介して輸送され,ビリオン内部が酸性化する.粒子内pHの低下により,複合体からM1が解離し,ヌクレオカプシド凝集体が個々のヌクレオカプシドに分解され,核孔を通って核内へ取り込まれる.したがって,A型インフルエンザウイルスの場合,酸性pHへの暴露は,2 つの別個の脱殻プロセス(すなわち,膜融合と個々のヌクレオカプシドの放出)を刺激する.予測どおり,クラスリン媒介エンドサイトーシスを介して侵入するウイルスによる細胞への感染は,エンドソームの酸性化を防ぐ化合物(例:バフィロマイシンA1,クロロキン,NH4Cl)によって阻害される.クラスリンを介したエンドサイトーシスにより細胞に侵入する一部のウイルスは,エンドソームコンパートメントから脱出するために,酸性pHへの曝露を超えた生物学的刺激を必要とする.エボラウイルスは,経路の後期エンドソームまたはエンドソーム/リソソーム段階で膜融合を媒介する.その膜融合は,GP1/GP2ヘテロ二量体で構成されるGPスパイク糖タンパク質によって媒介される.GPタンパク質は,2つの宿主細胞プロテアーゼ(カテプシンLおよびカテプシンB)によって切断されるまで,膜融合のために完全にプライミングされない.さらに,プライミングされたGPは,後期エンドソームリソソーム膜の常在タンパク質であるニーマン=ピックC1(Niemann-Pick C1: NPC1)と呼ばれる内部受容体に結合するまで,膜融合に必要な構造変化を実行するように刺激されない.ラッサウイルスがエンドソームを出る能力も,内部受容体への結合に依存している.ウイルスが宿主細胞へ侵入するために利用する2番目の主要なエンドサイトーシス経路は,カベオソーム(caveosome)システムである.この経路では,細胞表面に結合したウイルスが,カベオラ(caveolae)と呼ばれる小さな膜陥入に入る.カベオラは,細胞質側がカベオリンタンパク質で覆われている.エンドソーム系と同様に,陥入はカーゴ分子に結合し,細胞質膜をピンチオフしてカベオソームと呼ばれる小胞体を形成する.エンドソームシステムとは異なり,カベオソームは小胞体内で中性pHを維持している.しかし,カベオソームがエンドソーム系に入る経路があり,一部のウイルスのpH活性化を可能にするか,あるいは,カベオソームを小胞体に送達することができる.カベオソームシステムを介したウイルスの侵入は,SV40を使用して広く研究されている.原則として,エンベロープウイルスはカベオソームシステムを使用しない.これは,エンドソーム系によって形成される小胞体がより大きく,脂質エンベロープを有する一般的により大きなサイズのビリオンに対応できるため,粒子サイズに依存している可能性がある.

 多くの場合,ウイルス粒子,ヌクレオカプシド,またはゲノム核酸の細胞質への侵入は,ウイルスの複製プロセスの開始における最終段階ではない.一般に,ウイルスの侵入および脱殻のプロセスの最初のステップでは,複製関連のプロセス(翻訳,転写,複製など)を開始できる形でゲノムが放出されることはない.さらに,これらの初期のイベントは,多くの場合,複製のための適切な細胞コンパートメントにウイルスゲノムを配置することがない.この場合も,細胞プロセスは,追加の脱殻プロセスの刺激と,必要な場所へのウイルスユニットの輸送に関与している.たとえば,セムリキ森林ウイルスは,クラスリンを介したエンドサイトーシスによって細胞内へ入り,エンベロープとエンドソーム膜との融合により,正二十面体ヌクレオカプシドが細胞質へ放出される.次に,カプシドは,細胞の60Sリボソームサブユニットによるカプシドタンパク質との結合に続いて分解される.カプシドの分解により,ウイルスのプラス鎖RNAが放出され,下流の複製プロセスを調整するウイルスタンパク質へ翻訳される.同様に,アデノウイルスによる侵入の最初のステップでは,修飾されたウイルス粒子が細胞質に送達されるが,アデノウイルスDNAの複製は核内で行われる.したがって,細胞質から核へのウイルス成分の移行は,ほぼすべてのDNAウイルスによる感染に必要なステップである(ポックスウイルスは例外).より長い移行が必要の場合には,微小管輸送システムが使用され,ウイルス粒子の移動は,ダイニンやキネシンなどの分子モーターによって促進されることがある.アクチンフィラメントは,より局所的な動きにも利用される.複製部位として核を利用するDNAウイルスおよびインフルエンザウイルスなどのRNAウイルスの場合、核局在化シグナルは、核輸入システムの可溶性細胞タンパク質と相互作用するウイルスタンパク質上に存在する。これらのタンパク質は,ウイルスユニットを核膜孔複合体に結びつけ,ウイルスユニットの核への移行を可能にしたり(パルボウイルス),または核への核酸の輸送を誘導したり(アデノウイルス、ヘルペスウイルス)する.


 ③ ウイルスタンパク質と核酸の合成

 ウイルス粒子は,複製開始の時点まで,ウイルスゲノムによって指令される生合成を行わないため,やや受動的な状態にある.感染プロセスの準備段階において,ウイルスゲノムは複製サイクルを積極的に制御し,子孫ウイルス粒子の産生を支援するように細胞を仕向ける.ウイルスタンパク質の合成とウイルスゲノムの複製を含む複製サイクルの次の段階は,ウイルス間で著しく異なり,ウイルスを適切な分類学的グループに配置する上で主要な役割を果たしている.ウイルス複製の特定の側面を強調し,その多様性を示すために,4 つの異なる複製様式の主な例を以下で説明する.


(4)ウイルスの複製様式の代表例

 ① ピコルナウイルス

 ピコルナウイルス科には,ポリオウイルス,A型肝炎ウイルス,口蹄疫ウイルスなど,動物やヒトの重要な病原体が多数含まれている.ピコルナウイルスは小型で,比較的単純で,エンベロープを欠くウイルスである.ウイルス粒子は正二十面体対称性を呈し,タンパク質のカプシドとポジティブセンスのssRNAからなるゲノムで構成されている.ゲノムRNAには,ウイルスにコードされた小さなタンパク質(VPg)が 5'末端に共有結合し,遺伝的にコードされた3'末端ポリA配列が含まれる.

 ピコルナウイルスの侵入プロセスは,ウイルスによって異なる.一部のピコルナウイルス(例: ポリオウイルス)のカプシドは,受容体との結合に応答して細胞質膜でコンフォメーション変化を起こす.この変化は,ウイルスゲノムがビリオンから宿主細胞の細胞質へ押し出される膜貫通タンパク質孔を作り出すと考えられている.口蹄疫ウイルスなどの他のピコルナウイルスは,受容体を介したエンドサイトーシスによりを細胞内へ入り,エンドソームの酸性化によって誘導される立体構造の変化に続いて,そのゲノムを細胞質へ放出する.使用されるメカニズムに関係なく,侵入プロセスによってゲノムRNAが宿主細胞の細胞質へ放出され,そこでタンパク質合成のテンプレートとして使用されて,新しいウイルスゲノムの複製が行われる.

 ゲノムRNAが細胞質へ放出された直後に,通常は細胞DNAの修復に機能する細胞酵素によってVPgタンパク質がウイルスRNAから除去される.VPgの除去に続いて,ウイルスRNAは細胞の翻訳系と結合し,ウイルスタンパク質の合成のテンプレートとして使用される.ただし,宿主細胞のほとんどのmRNAとは異なり,ピコルナウイルスのゲノムRNAには標準的な5'末端キャップ構造がない.これは通常,mRNAテンプレートへのリボソームのアセンブリ(キャップ依存性翻訳)を開始するために必要である.したがって,ピコルナウイルスは,5'末端キャップ非存在下で宿主細胞のリボソームをウイルスのmRNAに組み立てるメカニズムを進化させる必要があった(キャップ非依存翻訳).この機能は,ゲノムRNA自体の5'末端付近にあるRNA配列によって提供される.ピコルナウイルスでは,翻訳を開始するために使用されるAUGコドンは,RNAの5'末端から遠い距離にある(ポリオウイルスの場合は743 nt).5'末端とAUG開始コドンの間の長い非翻訳領域には,広範な分子内塩基対形成により,複数の二次構造あるいは三次構造が想定される.この領域は,翻訳機構の細胞成分と相互作用し,開始コドンから近い距離の上流でRNAの内部でリボソームを組み立てる能力に基づいて,内部リボソームエントリー部位(internal ribosome entry site: IRES)と呼ばれる.ウイルスの複製が進行するにつれて,リボソームがほぼ独占的にウイルスのmRNA上に組み立てられるため,細胞タンパク質の翻訳は著しく低下する.細胞タンパク質合成の制限は,ウイルスにコードされたプロテアーゼ(ウイルスに応じてLプロテアーゼまたは2Aプロテアーゼと呼ばれる)による翻訳開始因子eIF4Gの切断とその後の不活性化による.eIF4Gはキャップ依存性翻訳に必要であり,eIF4Gが存在しない場合,リボソームはキャップ構造をもつmRNAでは組み立てられない.ウイルスのmRNAにはキャップ構造がなく,リボソームはIRESによってウイルスmRNAの内部に組み立てられるため,ウイルスmRNAの翻訳はeIF4Gの切断の影響を受けない.細胞側の翻訳の選択的阻害は,リボソームに対する競合を削減し,ウイルス感染に応答して作られるI型インターフェロンなどの一連の抗ウイルス分子を細胞が産生する能力を低下させる.

 ピコルナウイルスのゲノムRNAには,1つの大きなポリプロテインに翻訳される1つのオープンリーディングフレーム(ORF)のみが含まれる.このポリプロテインは,ウイルスにコードされたプロテアーゼ(ポリプロテイン内に埋め込まれている)によって切断され,ウイルスの個々の構造タンパク質および非構造タンパク質になる.中間切断産物は,P1,P2,および P3 と呼ばれる.カプシド(VP1,VP2,VP3,および VP4)を組み立てるために使用されるタンパク質は,P1に由来する.ゲノム複製と宿主細胞プロセスの干渉に必要なタンパク質は,P2とP3に由来する.ゲノムRNAはウイルスタンパク質を合成するために繰り返し翻訳されるが,最終的には複製のテンプレートとして使用される.ピコルナウイルスRNAの複製は,改造された細胞膜と密接に関連して実行され,P2およびP3前駆体タンパク質に由来するほとんどのタンパク質と,いくつかの細胞タンパク質を必要とする.宿主細胞は,ウイルスゲノムを複製できるRNA依存RNAポリメラーゼ(RdRp)を提供しない.したがって,ピコルナウイルス(および他のほぼすべてのRNAウイルス)は,この目的のために独自のRdRpを進化させている.ピコルナウイルスは,P3前駆体タンパク質に由来する3Dpolと呼ばれるRdRpをコードしている.3Dpolは,プライマー依存ポリメラーゼであり,複製プロセスで使用されるプライマーはVPgタンパク質そのものである.VPg内のチロシン残基は,3Dpolによって2個のウリジン(U)ヌクレオシドが付加されてVPg−U−U-OHを形成するヒドロキシル基を供与する.ウリジンヌクレオシドの付加は,ゲノムRNAの内部に位置するRNAステムループ構造の非塩基対領域に位置する2個のアデノシン(A)ヌクレオシドによってテンプレート化される.このステムループ構造は,シス作用性複製エレメント(cis-acting replication element: CRE)と呼ばれる.CREの実際の配列と内部の位置はピコルナウイルスによって異なるが,いずれもVPgのウリジル化のテンプレートとして機能するループ構造内に2個以上の隣接するアデノシン残基を含んでいる.その合成に続いて,VPg−U−U-OHプライマーは3'末端ポリA配列の末端に転位し,そこでA:U塩基対によりRNAにハイブリダイズする.次に,VPg−U−U-OHプライマーが3Dpolによって伸長され,完全長の相補的なマイナス鎖が形成される.マイナス鎖は,少なくと2個のアデノシン残基で終結し,別のVPg−U−U-OHプライマーとの塩基対形成およびプラス鎖RNAの合成を促進する.新たに合成されたプラス鎖RNAの多くは,VPgの酵素除去後にmRNAとして使用される.他のプラス鎖RNAはVPgを保持し,子孫ビリオンにパッケージ化される.

 ピコルナウイルスのカプシドは,プロトマーと呼ばれるサブユニットの複数のコピーにより構成されている.ほとんどのピコルナウイルスのプロトマーは,構造タンパク質 VP1,VP3,VP0(VP2 および VP4 の前駆体)の単一コピーを含み,それぞれがP1に由来する.60個のプロトマーが非共有相互作用を介して会合し,正二十面体カプシドを構成する.RNAゲノムがカプシドに取り込まれる正確なメカニズムは不明だが,2つの主要なモデルが提案されている.最初のモデルは,個々のプロトマーがゲノムRNAに集合し,ゲノムの取り込みがカプシド集合プロセスと同時に起こると提案している.2番目のモデルは,プロトマーがRNAの非存在下で相互作用して中空カプシドを形成し,そこにゲノムRNAが何らかの形で挿入されると提案している.どちらのモデルでも,カプシド成熟の最終段階には,自己タンパク質分解プロセスであると考えられているものによるVP0のVP2とVP4への切断が含まれる.ウイルス粒子成熟の律速プロセスは,VPgを含むRNAの利用可能性にあるようである.ピコルナウイルスのビリオン組み立てのすべてのステップは細胞質内で行われ,感染細胞の細胞質内でウイルス粒子の結晶状配列が感染の後期に形成される.最終的に,これらのウイルス粒子は,細胞溶解に続いて,細胞から一斉に放出される.ピコルナウイルスの複製サイクルは,多くのプラス鎖RNAからなるウイルスに共通するいくつかの特性を示している.まず,RNAゲノムには感染性がある.つまり,ゲノムRNA自体が,ウイルスタンパク質の非存在下で宿主細胞に導入されると,生産的な感染を開始できる.第二に,ポジティブセンスのゲノムRNAはリボソームと会合し,ウイルスRNAを複製し,宿主細胞の代謝および防御関連プロセスを操作するプロセスを実行するウイルスタンパク質の合成のためのテンプレートとして機能することができる.第三に,ウイルスタンパク質は,ウイルスがコードするプロテアーゼによって個々の構造タンパク質と非構造タンパク質に分解される,より大きな前駆体タンパク質(ポリプロテイン)として合成される.最後に,これらのウイルスは,ウイルスRNA合成の部位を提供する細胞膜構造のリモデリングを誘発することがある.


② ラブドウイルス

 水胞性口炎ウイルス(VSV)は,ラブドウイルス科のプロトタイプであり,以下のラブドウイルス複製の説明は,水胞性口炎ウイルスの複製サイクルに基づいている.ラブドウイルスは,特徴的な弾丸形をしたエンベロープウイルスである.ラブドウイルスのゲノムは,ネガティブセンスのssRNAにより構成されている.ピコルナウイルスのゲノムRNAと異なり,ラブドウイルスのゲノムRNAは裸ではなく,ヌクレオカプシド(N)タンパク質と複合体を形成したRNAからなるヌクレオカプシド(1個のNタンパク質:9 ntのRNA)として存在する.宿主細胞への感染は,細胞膜上に発現している受容体へのウイルス糖タンパク質(G)による付着,および受容体媒介エンドサイトーシスによる細胞への侵入によって開始される.エンドソーム小胞体内のpHの低下は,Gタンパク質のコンフォメーション変化を誘発し,これがウイルスエンベロープとエンドソーム膜との融合を媒介する.膜融合により,らせん状のヌクレオカプシドが細胞質内へ放出される.

 ピコルナウイルスとは対照的に,ラブドウイルスのゲノムRNAはタンパク質合成のテンプレート(鋳型)として機能しない.その結果,ヌクレオカプシドの放出に続いて開始される最初の生合成プロセスは,ゲノムRNAから,mRNAへの転写である.ピコルナウイルスなどのプラス鎖RNAウイルスは,RdRpをウイルス粒子の構造成分としてパッケージ化していない.これは,細胞質に侵入した直後にゲノムが翻訳されて酵素成分を生成するためである.対照的に,ラブドウイルスなどのマイナス鎖RNAウイルスは,ウイルスゲノムがmRNAに転写されるまでウイルスタンパク質の合成が行えず,この機能を実行する宿主酵素が細胞質で利用できないため,RdRpをウイルス粒子内にパッケージ化している.ラブドウイルスのRdRpは,複合体の触媒活性を有する大きなタンパク質(L)と,必須ではあるが非触媒補因子として機能するリンタンパク質(P)からなるマルチサブユニット複合体である.RdRp複合体は,ヌクレオカプシドの構成要素として細胞質へ入る.ゲノムRNAの遺伝子構成は,さまざまなラブドウイルス間で高度に保存されている.3'末端は,短い非翻訳RNA(「リーダー」)をコードし,その後にN,P,マトリックス(M),G,およびLの順序で5個の遺伝子が続き,短い非翻訳「トレーラー」RNAをコードする5'末端配列で終了している.これらの配列のそれぞれは,以下に述べるように,転写において重要な役割を果たす,短く高度に保存された遺伝子間領域によって隣接する配列から分離されている.転写または複製のテンプレートとしてゲノムRNAを利用するRdRpの能力は,2 つの重要なパラメーターに依存している.まず,RdRp複合体は高度に保存された3'末端配列を介してのみゲノムRNAにアクセスできるため,転写および複製プロセスはこの部位でのみ開始される.第二に,RdRpはNタンパク質と複合体を形成しているウイルスRNAにのみアクセスして利用できる.裸のRNAは,RdRpによって媒介されるウイルスプロセスのテンプレートとして機能することができない.

 ヌクレオカプシドの転写により,キャップ構造をもつポリアデニル化モノシストロン性mRNAが合成される.これは次のように行われる.

 転写は3'末端で開始され,RdRpが最初の遺伝子間領域に入るまで続く.各遺伝子間領域には,上流の遺伝子の転写の終了を知らせる配列と,下流の遺伝子の転写の開始を知らせる配列が含まれている.RdRpが最初の遺伝子間領域に遭遇した後,転写を停止し,短いリーダーRNAを放出する.そして,RdRpは次の転写開始シグナルまでスキャンし,最初の遺伝子(N遺伝子)の転写を開始する.Lタンパク質は,RdRpとして機能することに加えて,キャッピング活性を持ち,新生mRNAのメチル化された5'末端キャップ構造を合成する.RdRpが次の遺伝子間領域に遭遇すると,短いポリU領域で一時停止し,反復的スリッページ(滑り)を含むプロセスを通じて,これらの残基を繰り返し使用して長いポリA配列を合成してからmRNAを放出する(メチル化された5'末端キャップ構造と3’末端ポリA配列).このプロセスは,各ウイルス遺伝子を表す個々のmRNAが転写されるまで繰り返される.mRNAの放出に続く転写の再開は,エラーが発生しやすいプロセスであり,一部のRdRp複合体は下流遺伝子の転写を正常に再開する前にテンプレートから切り離される.テンプレートから切り離されたRdRp複合体は,テンプレートに再アクセスできず,マイナス鎖の3'末端で転写を再開する必要がある.この情況は転写の減弱をもたらし,ゲノムの3'末端に最も近い遺伝子(N遺伝子)が最も高いレベルで転写され,L 遺伝子(5'末端の遺伝子)の転写が最低レベルで起こるにつれて下流の遺伝子の転写が徐々に低下する.

 ウイルスゲノムの複製には,ネガティブセンスのゲノムRNAの合成のテンプレートとして使用できる完全長のポジティブセンスRNAが必要である.ウイルスの各mRNAはサブゲノム長であるため,これらのRNAはいずれもこの目的を果たすことができない.タンパク質合成が進行するにつれて,ウイルスRNAの全長プラス鎖(アンチゲノム)が生成され,このRNAがゲノム複製の過程で使用される.Nタンパク質の細胞質濃度が臨界閾値に達すると,モノシストロン性mRNAの転写からゲノム長のプラス鎖の合成への切り替えが起こるようである.ウイルスのmRNAにはタンパク質がないが,全長のプラス鎖とマイナス鎖のRNAは,Nタンパク質が全長にわたって結合している.Nタンパク質は RNA結合タンパク質であり,Pタンパク質の二量体との会合により,可溶性で RNAを含まない形で維持される.Nタンパク質が十分なレベルに到達すると,Nタンパク質は,可溶性N/P2複合体から,RdRpによって合成されて間もない発生期のリーダーRNAへ移される.追加のNタンパク質は,RNAが合成されるにつれてRNAに結合し続ける.新生RNA上のNタンパク質の存在は,これらの条件下で遺伝子間領域の調節シグナルの影響を受けず,完全長のプラス鎖を合成し続けるRdRpの機能に大きな影響を与える.完全長のプラス鎖RNA(N タンパク質と複合体を形成)は,完全長のマイナス鎖RNAの合成のテンプレートとして機能する.新しく合成されたマイナス鎖RNAは,より多くのmRNAのテンプレート(二次転写),複製のテンプレート,または子孫ビリオンへの取り込みのゲノムとして機能する.

 ラブドウイルスの成熟は,宿主細胞の細胞質膜を介して新しく形成されたビリオンが出芽することによって行われる.このプロセスには,ウイルス粒子の3 つの主要な構造要素のコンポーネント間の特定の相互作用が必要である.具体的には,Gタンパク質含有エンベロープ,マトリックス,およびヌクレオカプシドである.ウイルス粒子の出芽は,高濃度のGタンパク質を含む細胞質膜の領域を通じて行われる.Gタンパク質は,粗面小胞体に関連して合成され,エキソサイトーシス経路を介して細胞質膜へ輸送され,そこでいわゆる膜マイクロドメインに濃縮される.Mタンパク質は,最初は可溶性モノマーとして合成されるが,感染が進むにつれて,Mタンパク質の多くのコピーが細胞膜の細胞質側に局在し,そこでそれらもMリッチな膜マイクロドメインに集合する.ヌクレオカプシドは,Nタンパク質とMタンパク質の間の非共有相互作用を介して,マイクロドメイン内のMタンパク質と相互作用する.水胞性口炎ウイルスの場合,Mタンパク質が主に実際の出芽プロセスの推進に関与しているように見えるが,これはMタンパク質とGタンパク質の細胞質部分との間の相互作用によって強化されると考えられている.出芽プロセスには細胞のタンパク質によって提供される機能も必要である.つまり,ビリオンの出芽には,ウイルスの内部構成要素(ヌクレオカプシドおよびマトリックス)とGタンパク質に富んだ膜マイクロドメインとの結合,これらの部位での細胞質膜の排出,および最終的な膜切断が含まれる.

 ラブドウイルスは,いくつかの異なる細胞パターン認識受容体(pattern recognition receptor: PRR),例えば,レチノイン酸誘導性遺伝子1(RIG-I),メラノーマ分化関連タンパク質5(MDA5),およびToll様受容体7(TLR7)の機能的リガンドであるRNA分子を生成する.そしてそれらの認識は,宿主細胞によるI型インターフェロン応答を刺激する.たとえば,転写プロセス中に生成されるリーダーRNA,全長ゲノムRNAおよびアンチゲノムRNAは5'三リン酸を有し,これらのキャップ化されていないRNAはRIG-Iのリガンドとして機能する.さらに,オートファジー中に発生するエンドソームへのウイルス産物の輸送に続いて,ポジティブセンスまたはネガティブセンスのRNAがTLR7によって結合することがある.ラブドウイルスは,I型インターフェロンの抗ウイルス作用に感受性である.ただし,ピコルナウイルスと同様に,ラブドウイルスは,宿主細胞のこの先天的な抗ウイルス防御システムを阻害するための手段を進化させている.水胞性口炎ウイルスによるインターフェロン系の阻害は,Mタンパク質が,宿主細胞遺伝子の転写を全体的に抑制し,核からの細胞性mRNAの送出を阻害することにより,I型インターフェロンおよびインターフェロン刺激遺伝子(ISG)の産物の合成を制限して行われる.狂犬病ウイルスは,Pタンパク質によって媒介されるインターフェロン応答を妨害するための別の手段を進化させてきた.Pタンパク質は,I型インターフェロン遺伝子の活性化を妨げるRIG-Iシグナル伝達経路を妨害する.さらに,狂犬病ウイルスのPタンパク質は,リン酸化されたシグナル伝達兼転写活性化因子1(signal transducer and activator of transcription 1: STAT1)およびSTAT2タンパク質の核局在化を阻害し,ISGの活性化とその後の抗ウイルス状態の確立を制限する.


③ レトロウイルス

 レトロウイルス科には,ヒトと動物の両方の病原体が含まれている.レトロウイルス粒子はエンベロープに包まれており,エンベロープ関連糖タンパク質スパイクを持っている.スパイクは,膜貫通(transmembrane: TM)サブユニットと表面(surface: SU)サブユニットにより構成された複合タンパク質である.TMサブユニットと SUサブユニットは互いに結合してヘテロ二量体を形成する.これら3個の同一のTM/SUヘテロ二量体は集合して,機能的な三量体スパイクを形成する.ビリオンの内部には,マトリックスタンパク質(MA)の繰り返しコピーから成るマトリックス(matrix),カプシドタンパク質(CA)の繰り返しコピーから構成されるカプシド,および2個のRNAを基本とするヌクレオカプシドが,エンベロープに包まれている.ヌクレオカプシドの2個のRNAは同一であり,ポジティブセンスのssRNAで構成されている(レトロウイルスはすべてのウイルス遺伝子について二倍体である).各RNAは5'末端にキャップ構造をもち,3’末端にポリA配列を含み,ヌクレオカプシドタンパク質(NC)の複数のコピーによってその全長にわたって複合化されている.レトロウイルスはプラス鎖RNAウイルスであるが,その複製サイクルは,前述のピコルナウイルスなどの他のプラス鎖RNAウイルスとは著しく異なる.

 レトロウイルスによる細胞への感染は,ウイルスが宿主細胞上の受容体(場合によっては共受容体)に結合することから始まる.一般に,受容体への結合はスパイクのSUコンポーネントによって媒介される.ほとんどのレトロウイルスは細胞膜から宿主細胞内へ侵入するようであり,このプロセスを開始または完了するためにpHの変更は必要ない.しかし,いくつかのレトロウイルスは,ラブドウイルスと同様の方法により,受容体を介したエンドサイトーシスにより宿主細胞へ侵入するようである.細胞膜から細胞内へ侵入するレトロウイルスの場合,受容体との結合はSUサブユニットのコンフォメーション変化を刺激し,次にTMサブユニットのコンフォメーション変化を誘発し,ウイルスエンベロープと細胞質膜の間の融合を媒介する.膜融合は,エンベロープの喪失,マトリックスの分解,およびウイルスコアの放出を引き起こす.コアは,カプシド,ヌクレオカプシド,および感染プロセスの初期に必要な2つのウイルス酵素(逆転写酵素(RT)とインテグラーゼ(IN))により構成されている.

 感染プロセスの次のステップの細部は完全には解明されていないが,コアはおそらく細胞タンパク質によって媒介される構造変化を起こし,これらの構造変化はコアの逆転写酵素(RT)による逆転写プロセスを開始するために必要であると示唆されている.RTは,RNA依存DNAポリメラーゼ(RdDp)活性を持つ多機能酵素である.RTはプライマー依存ポリメラーゼであり,ウイルスのssRNAをテンプレートとして使用して,線形の相補的なdsDNA(cDNA)を合成する.DNA合成を開始するために使用されるプライマーは,細胞由来のtRNAであり,RNA上のプライマー結合部位と塩基対を形成する.このtRNAは,ウイルス粒子を生成した細胞から取得されたもので,ウイルスRNAに結合して,新たに感染した細胞へ入る.逆転写プロセスの分子的詳細はここでは述べないが,プロセスの 3 つの重要な結果に注目する必要がある.第一に,ウイルスRNAはこの過程で分解されるため,mRNAとして完全に機能できるウイルス遺伝子セグメントはタンパク質へ翻訳されない.第二に,このプロセスは特定のウイルス配列の複製と転位を引き起こし,それらが一緒になってcDNAの末端に反復配列の形成をもたらす.これらの直接反復配列は長い末端反復(long terminal repeat: LTR)配列と呼ばれ,以下に説明する複製関連機能を担う.第三に,逆転写プロセスが完了すると,cDNAは組み込み前複合体(preintegration complex: PIC)と呼ばれる核タンパク質複合体の構成要素となる.この複合体はまた,ウイルスタンパク質(例:IN酵素)と細胞タンパク質を含み,細胞DNAへアクセスできる場合,宿主細胞の染色体へのcDNAの組み込みを仲介する.

 ほとんどのレトロウイルスはPICを核へ輸送することができず,したがって,細胞分裂は核膜の一時的な溶解を伴うため,これらのウイルスは活発に分裂している細胞の染色体にのみcDNAを組み込むことができる.レンチウイルス属とスプマウイルス属に属するレトロウイルスは,PICを核へ輸送するメカニズムを進化させ,これらのウイルスがそのcDNAを非分裂細胞の染色体に組み込むことを可能にしている.組み込み反応は,組み込みのために選択された部位で宿主細胞DNAを切断するINによって開始され,組み込みプロセスはINとcDNAのLTR配列との間の相互作用に依存する.組み込みプロセスの最終段階は,細胞由来のDNA修復酵素によって行われる.宿主細胞の染色体へのcDNAの組み込みは本質的にランダムであり,特定の宿主DNA配列を必要としないが,組み込みは一般に,転写活性のある染色体の領域内で起こる.組み込まれたウイルスcDNAはプロウイルス(provirus)と呼ばれ,ウイルス遺伝子の発現が起こる前にプロウイルスの樹立が達成されなければならない.

 ウイルス遺伝子の転写を制御するDNA配列が,LTR内にある.この配列は,細胞遺伝子の発現を制御する配列(例:TATAボックス,細胞転写因子の結合部位など)と類似している.したがって,LTR配列は宿主細胞の転写機構にアクセス可能であり,ウイルス転写物は細胞のRNAポリメラーゼIIによって合成され,細胞のキャッピング酵素によってキャップ化され,細胞のポリAポリメラーゼ酵素によってポリアデニル化される.転写は,ウイルス遺伝子の上流に位置するLTR内で開始され,プロウイルス配列全体にわたって行われる.下流のLTRによってコードされるポリアデニル化シグナルは,ポリA配列の付加に利用される.配列の類似性により,両方のLTRは転写を開始できる.ただし,上流のLTRによって開始された転写活性は,通常,下流のLTRからの転写の開始を妨げる.プロモーターオクルージョン(promoter occlusion)と呼ばれるこの現象は,通常,下流のLTRが下流の細胞性配列の転写を開始するのを防いでいる.

 単一のウイルスmRNAには,すべてのウイルス遺伝子が,gag(MA,CA,NCタンパク質,およびプロテアーゼ(PR)酵素をコード),pol(RTおよびIN酵素をコード),および env(SUおよびTMの前駆体の糖タンパク質をコード)の順序で配列している.一部のレトロウイルスでは,PR酵素が pol領域にコードされている.特定のレトロウイルスに応じて,Gag,Pol,およびEnv をコードするORFは,互いにフレーム内またはフレーム外にある場合があり,GagおよびPolをコードするORFは,連続または重複していることがある.単純なレトロウイルスによって生成されたキャップ化されたポリアデニル化転写産物は,2つの異なる運命のうちの1つをたどる.転写産物がスプライシングされずに核から排出される場合,Gagポリプロテイン(MA−NC−CA−PRのみをコード)またはより大きなGag−Polポリプロテイン(MA−NC−CA−PR−RT−INをコード)の合成のための転写産物として機能する.GagのORFは停止コドンで終了する.したがって,スプライシングされていない転写産物を翻訳するリボソームの大部分は,Gagポリプロテインのみを合成する.ただし,翻訳リボソームのごく一部は,2つのメカニズムのいずれかを使用して,より大きな Gag−Polポリプロテインを合成する.GagおよびPolのORFが連続的であり,インフレームである場合,翻訳リボソームがGag終止コドンを読み取れば,Gag−Polポリプロテインを生成することができる.リボソームが終止コドンをセンスコドンとして扱うこのプロセスは,終止コドン抑制と呼ばれる.GagとPolのORFがオーバーラップしてフレームから外れている場合,翻訳リボソームが元のリーディングフレーム(Gagリーディングフレーム)から Polリーディングフレームへシフトすると,Gag−Polポリプロテインが生成される.リボソームフレームシフトは,gag内の配列によって促進され,PolのORFのすぐ上流で起こる.通常,GagポリプロテインおよびGag−Polポリプロテインは,細胞内で個々のタンパク質成分に分解されるのではなく,ウイルスの組み立てプロセス中に子孫ビリオンに組み込まれた後にのみタンパク質分解処理を受ける.このプロセスについては,以下で説明する.

 転写物は,細胞質へ輸送される前にスプライシングされることがある.スプライシングにより,GagとPolをコードする配列を含むイントロンが除去される.したがって,スプライスされた転写産物はEnvのORFのみを有し,SUおよびTMの前駆体として機能するEnv糖タンパク質にのみ翻訳される.この転写産物の翻訳は小胞体に関連して起こり,Env糖タンパク質として,小胞体/ゴルジ体タンパク質輸送システムを使用して細胞表面に送られる.Env糖タンパク質は,トランスゴルジ(trans-Golgi)を通過する際,または細胞表面に到着した後に,フリン(furin)と呼ばれる宿主細胞の酵素(またはフリン様酵素)によってSUおよびTM成分に切断される.ウイルス転写産物のスプライシングは,レトロウイルスに固有のものではない.たとえば,ウイルス転写産物のスプライシングは,A型インフルエンザウイルス(オルトミクソウイルス科),ボルナ病ウイルス(ボルナウイルス科),およびほとんどのDNAウイルスの複製中に行われる.

 GagポリプロテインおよびGag−Polポリプロテインの合成のためのmRNAとして機能することに加えて,スプライシングされていない転写産物は,ゲノムRNAとして子孫ビリオンに組み込まれることもある.これらの全長RNAは,Gag配列内にパッケージングシグナルを持っている.2つのRNAのパッケージングシグナルが相互に作用し,RNA:RNAという二量体の形成を促す.スプライシングされたウイルスのmRNAにはこの配列がなく,二量体形成に関与しない.ラブドウイルスと同様に,レトロウイルス粒子の形成には,一般に,ウイルス粒子の3つの主要な構造要素のコンポーネント間に特定の相互作用が必要である.レトロウイルスに関しては,これらの構造要素には,スパイク修飾された膜マイクロドメイン,GagポリプロテインおよびGag−Polポリプロテイン,および二量体RNAが含まれる.ビリオンの組み立てと出芽に関与する相互作用には,ポリプロテインのMA成分とTMの細胞質尾部(および膜)との間で起こるもの,およびポリプロテインのNC成分とRNA二量体との間で起こるものが含まれる.これらの相互作用は,未熟ビリオンが形成される出芽プロセスを促進するのに役立つ.新しく出芽した未熟ビリオンには,GagポリプロテインおよびGag−Polポリプロテインが含まれており,マトリックス,カプシド,またはヌクレオカプシドなどの特定の内部構造がない.プロセスのこの時点まで,PR酵素は不活性である.しかし,未熟ビリオンの形成後すぐに,PR酵素が活性化され,GagポリプロテインおよびGag—Polポリプロテインを個々の構成タンパク質に処理し始める.これらのタンパク質は放出されると,成熟した感染性ウイルス粒子の特徴であるマトリックス,カプシド,およびヌクレオカプシド構造として集合する.Gag−Pol ポリプロテインのタンパク質分解プロセッシングは,RTとINも放出し,新たな細胞へ感染するために必要な初期の複製イベントを実行できるようになる.


 ④ アデノウイルス

 アデノウイルスは,ピコルナウイルス,ラブドウイルス,レトロウイルスとは異なり,ゲノムがDNAにより構成されている.アデノウイルス粒子はエンベロープを欠き,ヘクソン(タンパク質IIの三量体)およびペントン(タンパク質IIIの五量体)から構築される正二十面体のカプシドにより構成される.ファイバー(タンパク質IVの三量体)と呼ばれる特徴的な構造は,ペントンに付けられており,正二十面体の12個の頂点のそれぞれから外側に突き出ている.アデノウイルス粒子には,内部に多数のタンパク質がある.そのうちのいくつかはペントンおよびヘクソンと接触しており,その他はゲノムDNAに結びついている.ゲノムDNAは30~36 kbpの直鎖状dsDNAにより構成され,DNA複製プロセスにおいて重要な役割を果たす末端逆方向反復配列を含み,各5'末端でウイルスがコードするタンパク質(末端タンパク質)に共有結合している.

 以下のアデノウイルス複製様式は,ヒトアデノウイルス2の説明に基づいている.アデノウイルスと宿主細胞との最初の相互作用は,コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(coxsackievirus and adenovirus receptor: CAR)と呼ばれる宿主細胞タンパク質に結合するファイバーによって媒介される.ファイバーとこの受容体との間の親和性結合により,ペントンベースのタンパク質が細胞インテグリンと接触する.その通常の機能は,宿主細胞を細胞外マトリックスの成分に結合させることである.この結合は,クラスリンを介した侵入のプロセスを開始し,続いてクラスリンによりコーティングされたピットへのビリオンの内在化を開始し,ビリオンの脱殻の最初のステップを開始する.ファイバーとCARの間,およびペントンとインテグリンの間で生じる相互作用,およびおそらくまだ十分に解明されていない別の要因が,カプシドの実質的な構造変化を誘発する.この変化には,ファイバーの脱落と,ビリオン内部からエンドソーム内への溶解因子(タンパク質VI)の外在化が含まれる.タンパク質VIは,エンドソーム膜の破壊を媒介し,修飾されたカプシドが細胞質へ入るのを可能にする.ビリオンはエンドソームから放出された後,分子モーターダイニンと結合し,微小管に沿って核膜孔へ輸送される.核膜孔では,カプシドは,核膜孔フィラメントタンパク質Nup214,キネシン1,およびヒストンを含む多くの宿主細胞タンパク質と相互作用を行い,ビリオン構造を不安定化し,ウイルスDNAを核内へ放出する.

 ほとんどのDNAウイルスの遺伝子発現プログラムは,特定の遺伝子が異なる時期に発現するように一時的に制御されている.アデノウイルス遺伝子の発現は,前初期,初期,および後期と呼ばれる3段階で行われる.アデノウイルスの遺伝子は,転写ユニットと呼ばれるセットとして配置されている.各転写ユニットは,宿主細胞の転写機構で使用される単一のプロモーターと,ウイルス転写産物の3'末端にあるポリアデニル化シグナルによって制御される.各転写ユニットは,単一の一次RNAの合成を指令する.ただし,選択的スプライシングにより,複数の異なるタンパク質をコードするmRNAの集団が生成される.転写活性を発揮する最初の転写ユニットは,前初期タンパク質をコードするE1Aである.E1Aの一次転写物は,選択的にスプライシングされて,E1Aタンパク質ファミリーをコードする転写物を作る.主要なE1Aタンパク質は,感染の初期段階で必要とされるいくつかの重要な機能を実施する.最初に,E1Aタンパク質は,I型インターフェロン応答を妨害する.第二に,それらは,網膜芽細胞腫(retinoblastoma: Rb)腫瘍抑制タンパク質と直接相互作用することにより,宿主細胞が細胞周期のS期に入るように誘導する.アデノウイルスは通常,活発に分裂していない最終分化細胞に感染する.宿主細胞がS期に入るように誘導することにより,ウイルスは,ウイルスDNAの複製をより助長する細胞環境を作り出す.主要なE1Aタンパク質はまた,初期遺伝子の転写ユニットを活性化し,いくつかの細胞プロモーターを活性化する.まとめると,初期遺伝子から発現したタンパク質は3つの主要な機能を果たす.アポトーシスの阻害,ウイルスDNAの複製,および宿主の免疫防御の阻害である.

 E1B転写ユニットから合成される2つのタンパク質(E1B-19K および E1B-55K)はアポトーシスを阻害する.アポトーシスは,S期への予定外の移行(E1A によって誘導される)およびウイルス感染によって誘導される細胞ストレスに対する正常な応答である.E1B-19Kタンパク質は,抗アポトーシス細胞タンパク質Bcl-2のホモログである.Bcl-2と同様に,E1B-19Kはプロアポトーシスタンパク質Baxに結合し,内因性アポトーシス経路の強力な誘導因子であるシトクロムCのミトコンドリアによる放出を阻害する.E1B-55Kタンパク質は,p53と呼ばれる腫瘍抑制タンパク質の急速なターンオーバーを誘導し,E1Aを介したRbの不活化の結果として感染細胞内で安定化する.通常の条件下では,安定化したp53は,細胞周期停止を引き起こす細胞遺伝子(p21など)や,アポトーシスを促進するBaxなどの遺伝子の転写を活性化する.

 E2転写ユニットから合成される3個のタンパク質が協力してウイルスDNAを複製する.これらのタンパク質の1つは,DNAの複製を触媒するDNAポリメラーゼである.2番目のタンパク質は,シス作用性複製様エレメント(cis-acting replication-like element)がないことを除いて,ピコルナウイルスRNAゲノムの複製のためのタンパク質プライマーとして機能するVPgとほぼ同じ方法により,DNA複製のためのプライマーとして機能する末端タンパク質前駆体(Pre-TP)である.DNA複製プロセスの最後に,Pre-TP はDNAの各5'末端に共有結合したままである.複製プロセスの後半で,DNAゲノムが,新たに組み立てられたビリオンに組み込まれると,Pre-TPはウイルスにコードされたプロテアーゼによって切断され,末端タンパク質(TP)と呼ばれる小さな形になる.3 番目のE2タンパク質は,複製プロセス中にdsDNAテンプレートから移動したssDNAに結合するDNA結合タンパク質(DNA-binding protein: DBP)である.ssDNAは,DBPによってその長さ全体にわたって置換および結合された後,ゲノム長のdsDNA合成のテンプレートとして機能する.

 最後に活性化される転写単位は,後期遺伝子の発現を制御するものである.後期遺伝子は,ウイルスの主要な構造タンパク質と,ウイルスの組み立てプロセスで機能する非構造タンパク質をコードしている.後期遺伝子の発現は,DNA 複製の開始後まで開始されず,ウイルスにコードされたIVa2と呼ばれるタンパク質によって増強される.後期遺伝子の転写は,すべての後期mRNAの5'末端にある主要な後期プロモーターによって制御される.後期転写産物の3'末端は,一次転写産物内に存在する5個の異なるポリアデニル化シグナルのいずれかによって定められる.別のポリアデニル化シグナルを使用すると,5つの異なる転写産物の入れ子になったセットが生成され,そのうちのいくつかは1つまたは複数の内部ポリアデニル化部位を有する.次に,ポリアデニル化された転写物は,複数の固有の転写物に選択的にスプライシングされ,それぞれが異なる後期タンパク質に翻訳される.その後,後期タンパク質は核へ輸送され,そこでビリオンの組み立てプロセスに参加する.単純な正二十面体構造を持つピコルナウイルスとは異なり,アデノウイルスのビリオンは大きく複雑である.単純な自己組織化モデルでは,このような複雑さを説明できない.そこで,構造タンパク質を成熟部位に移動させるためのシャペロンとして作用するウイルスタンパク質,およびビリオンサブユニットを組み立てるための足場として作用するウイルスタンパク質が同定されている.

 早期のタンパク質分解を防ぐために補因子としてDNAを必要とするウイルスにコードされたプロテアーゼは,足場タンパク質(scaffold protein)を分解し,前駆体タンパク質を切断することによって成熟プロセスに関与している.感染の後期には,新たに組み立てられたビリオンの大きな結晶状配列により構成される封入体が宿主細胞の核に現れる.子孫ビリオンの放出は,宿主細胞の溶解後に起こる.

 他のウイルスと同様に,アデノウイルス感染は宿主細胞のパターン認識受容体(pattern recognition receptor: PRR)によって検出され,感染によってI型インターフェロン応答が開始される.ただし,アデノウイルスは,いくつかの方法によりその応答の有効性を積極的に制限する.まず,E1Aタンパク質は,インターフェロン刺激遺伝子(interferon-stimulated gene: ISG)の転写を活性化する細胞タンパク質複合体(hBRe1)の機能を阻害する.その結果,E1Aのこの活性は,通常はインターフェロンによって誘導される抗ウイルス状態に寄与するエフェクタータンパク質の細胞内レベルを大幅に低下させる.アデノウイルスは,細胞内のタンパク質合成を全体的に抑制することによってウイルス複製を阻害するISG産物であるPKRの活性を阻害する非コード性のウイルス関連RNAを高レベルに発現する.ウイルス関連RNAの大部分は,広範な分子内配列相補性のためにdsRNAの形で存在する.これらのウイルス関連RNAは不活性PKRのdsRNA結合部位に結合するが,この相互作用は酵素を活性化せず,ウイルス関連RNAが結合したPKRは他のdsRNAに結合できず,したがって不活性のままである.感染後期に,アデノウイルスは,核からの細胞性mRNAの輸出を防ぎ,重要な翻訳開始因子の修飾により宿主細胞のmRNAの翻訳をブロックすることにより,宿主細胞タンパク質の合成を選択的に阻害する.ウイルスによってエンコードされた後期mRNAは,すべてのアデノウイルスの後期mRNAの5'末端に存在する第三者リーダー(tri-partite leader)と呼ばれる固有の配列により,これらの影響から免れる.

 複製サイクルの終わり近くに,新しく合成された構造タンパク質とゲノム核酸が段階的に新しいウイルス粒子に組み立てられる.ウイルスに応じて,宿主細胞からの新たに組み立てられたウイルス粒子の放出は,組み立てプロセスに続く別のステップとして行われるか,または組み立てプロセスと同時に起こる.複製サイクルの別の側面と同様に,ウイルスの組み立てと放出のプロセスは,ウイルスによって大きく異なる.非エンベロープウイルスとエンベロープウイルスとの明らかな構造上の違い,およびエンベロープの獲得が組み立てと放出のプロセスに及ぼす影響に基づいて,ここでは,非エンベロープウイルスとエンベロープウイルスの組み立てと放出については別々に説明する.

 動物の非エンベロープウイルスのカプシドは正二十面体で構成されており,これらはさまざまなレベルの複雑さを呈している.パルボウイルス科,ポリオーマウイルス科,パピローマウイルス科,およびピコルナウイルス科に属するウイルスなどの単純な正二十面体ウイルスの場合,カプシドを形成するために,構造タンパク質からなるプロトマーと呼ばれるサブユニットが自発的に会合する.次に,特定の数のプロトマーを使用して,成熟した正二十面体カプシドが組み立てられる.一部の非エンベロープウイルスのプロトマーは,ゲノム核酸の非存在下でカプシドに集合することができる(例: イヌパルボウイルスおよびヒトパピローマウイルス).他のウイルスの場合,ゲノムはプロトマー組み立てのための核形成部位(nucleation site)として機能するようであり,カプシドはゲノム分子の存在下でのみ形成される(例: SV40).一部の正二十面体ウイルスの構造はより複雑で,1種類の繰り返しサブユニットだけで構成されているわけではない.例えば,アデノウイルス粒子の外部構造は,個々の六量体サブユニット(ヘクソン),五量体サブユニット(ペントンベース),および三量体ファイバーから組み立てられている.アデノウイルス粒子の組み立てには,ウイルス粒子の別の構造コンポーネントの適切な組み立てとフォールディングを促進するシャペロンタンパク質と,組み立てプロセス中に生じる中間構造の一時的なコンポーネントとして機能する足場タンパク質が必要である.シャペロンや足場として機能するタンパク質は,組み立てプロセス中に移動することがあり,成熟ビリオンの構造成分として残らない場合がある.さらに,いくつかのビリオン関連タンパク質の切断は,中間構造をウイルス粒子の成熟した感染性形態へ変換するために必要である.RNAゲノムを含む,非エンベロープウイルスは,宿主細胞の細胞質内で複製し,組み立てプロセスを完了する.DNAゲノムを含む非エンベロープウイルスは,通常,核内で複製して,組み立てプロセスを完了する.ほとんどの非エンベロープウイルスは,細胞が溶解したときにのみ放出される.したがって,これらのウイルスでは,ウイルスの組み立てと放出のプロセスは別々の連続したイベントである.

 エンベロープウイルスは,ウイルスの内部構造(ヌクレオカプシドやマトリックス成分など)が細胞膜を通って出芽するときにエンベロープを獲得する.ウイルスに応じて,小胞体またはゴルジ装置の内膜を介して,または核の内膜を介して,出芽する.ほとんどのエンベロープウイルスでは,細胞の糖タンパク質の大部分がウイルスの糖タンパク質によって置換された膜の領域で出芽が起こる.これにより,出芽プロセス中にウイルス糖タンパク質がビリオンに組み込まれる.しかし,宿主細胞の糖タンパク質の置換は絶対的な要件ではなく,いくつかのウイルス(例:水胞性口炎ウイルス)は,出芽中に宿主細胞の糖タンパク質をウイルス粒子に容易に組み込む.ウイルスの糖タンパク質は通常,オリゴマー(通常はホモ三量体またはホモ四量体)に会合して,スパイク(ペプロマー)構造を形成する.ウイルスの糖タンパク質は,通常,膜から外側に突出する親水性ドメイン,疎水性の膜貫通ドメイン,および細胞質(またはビリオン内部)に突出する短い親水性ドメインにより構成される.

 一般に,エンベロープウイルスの正二十面体ヌクレオカプシド(例:トガウイルスやフラビウイルス)およびらせん状ヌクレオカプシド(例:オルトミクソウイルスやラブドウイルス)は,出芽前に集合する.前もって形成されたこれらのヌクレオカプシドは,細胞膜に適切に局在し,出芽プロセスに参加する.正二十面体対称のエンベロープウイルス(トガウイルスなど)の比較的まれなケースでは,各ヌクレオカプシドタンパク質(Cタンパク質)が単一の膜糖タンパク質(E2)の細胞質ドメインと直接相互作用し,これらの相互作用が出芽プロセスの促進に役立っている.らせん対称のヌクレオカプシドを持つウイルスの場合,出芽プロセスは,マトリックスタンパク質と細胞膜または表面糖タンパク質との間,およびマトリックスタンパク質とヌクレオカプシドのタンパク質との間の相互作用によって駆動される傾向がある.一部のウイルスでは,膜の弯曲と最終的な膜切断を誘発するために必要なエネルギーと力は,ウイルス成分のみによって媒介されるタンパク質どうしおよびタンパク質と脂質の相互作用によって提供される.しかし,多くのエンベロープウイルスは,輸送に必要な細胞エンドソームソーティング複合体(endosomal sorting complexes required for transport: ESCRT)システムのタンパク質を利用して,出芽プロセスを支援している.ESCRTタンパク質の通常の機能の1つは,膜結合小胞体のエンドソームへの出芽を触媒して,多小胞体を形成することである.このプロセスは,膜の細胞質側で開始されるプロセスに関して,ウイルスの出芽に似ていて,膜切断の産物(小胞またはビリオン)が,膜の細胞質外側に形成される.ESCRTシステムのどのタンパク質が関与しているかに応じて,これらのタンパク質は,ウイルスの出芽プロセス自体,またはウイルスを放出して完全に包むために必要な膜切断の最終段階を支援する.細胞質内膜からエンベロープを獲得したウイルスは,細胞の分泌経路に入り,エキソサイトーシス小胞体により細胞表面へ輸送され,小胞体と細胞質膜との融合(エキソサイトーシス)によって放出される.これらのウイルスの場合,ウイルスの組み立てと放出のプロセスは分離可能であり,順番に行われる.細胞質膜を通って出芽するウイルスは,細胞外環境に直接放出されるため,これらのウイルスでは,ウイルスの組み立てと放出のプロセスが同時に起こり,本質的に切り離すことはできない.

 エンベロープウイルスによってコードされる多くの糖タンパク質は,前駆体タンパク質として合成され,その後,成熟ビリオンに組み込まれる前または後に部位特異的タンパク質分解によって処理される.これは,細胞侵入時の膜融合のプロセスを仲介する糖タンパク質で見られる.前駆体の切断は,一般にはフリン(またはフリン様プロテアーゼ)と呼ばれる細胞酵素によって行われる.フリンは,トランスゴルジコンパートメントと細胞表面に存在し,遍在的に発現するエンドプロテアーゼである.フリンは,B−X−B−B配列モチーフのカルボキシル側でその基質を切断する(BはArgまたはLysを表し,Xは特定されていない残基を表す).A型インフルエンザウイルス(HA0)のヘマグルチニン糖タンパク質の前駆体はフリンによって切断されないが,新しく出芽したビリオンが宿主細胞から放出された後,代わりにHAスパイクの機能サブユニット(HA1 および HA2)に切断される.HA0は,ヒトの気道および鳥類宿主の消化管からの分泌物に存在するトリプシン様酵素によって切断される.これは,1970年代初頭の発見であり,細胞培養(増殖培地にトリプシンを添加)におけるインフルエンザウイルスの増殖を可能にした.一般に,前駆体の切断により,膜融合には機能しないタンパク質が融合可能な形態に変換される.前駆体の切断は,適切な刺激に応じて(前述のように)侵入および脱殻プロセスを行うようにウイルスを準備し,一般に感染性ウイルス粒子を生成するために必要である.

 インフルエンザウイルスはまた,宿主細胞から効率的に放出され,ウイルス粒子の凝集を防ぐために,2番目の酵素活性に依存している.A型インフルエンザウイルスのHAスパイクはシアル酸に結合し,この炭水化物部分を宿主細胞に付着するための受容体として使用する.ただし,HAおよびノイラミニダーゼ(neuraminidase: NA)のスパイクを構成するタンパク質もシアル酸を持っているため,新しく放出されたビリオンは,出芽元の宿主細胞および隣接するビリオンに結合する傾向がある.NAスパイクの酵素活性は,細胞表面およびビリオン自体からシアル酸を切断することにより,これらの非生産的な結合イベントを阻害する.オセルタミビル(タミフル)と呼ばれる医薬品は,ビリオンの凝集を引き起こし,NAの酵素活性を阻害する.ほとんどのウイルス(トガウイルス,ヘルペスウイルス,レトロウイルスなど)では,カプシドまたはヌクレオカプシドへのゲノム核酸の組み込みは極めて選択的であり,パッケージングシグナルと呼ばれる高度に保存された配列の存在に依存している.これは適切なゲノムRNAまたはDNA分子にのみ存在する.対照的に,他のウイルス(例:ラブドウイルスやパルボウイルス)は,パッケージングされる核酸に関して選択的ではなく,両方の極性(ゲノムおよびアンチゲノム)のウイルス核酸がビリオンにパッケージ化される.

 体内の他のほとんどの細胞タイプ(細胞型)とは異なり,上皮細胞は極性を示す.つまり,上皮細胞は,外部環境(気道や消化管の内腔など)と接する頂端面(apical surface)と,下にある細胞と接する側底面(basolateral surface)を持っている.これらの表面は,化学的および生理学的に異なる.外部に排出されるウイルス(例:A型インフルエンザウイルス)は,細胞質膜の頂端面から出芽する傾向があるが,他のウイルス(例:C型レトロウイルス)は側底面を通って出芽する.これにより,全身感染を確立する前段階として,ウイルスは血流またはリンパ系に侵入する.



第4章  ウイルスの定量

 基本的なウイルスの複製プロセスやウイルスに基づく疾患の研究においては,研究者や臨床医は,特定のサンプルにどれだけのウイルス量が存在するかを知る必要がある.in vitro実験とin vivo実験の両方が相互に再現性を示すかは,感染を開始するために一貫した量のウイルスを使用することに依存している.臨床例の評価では,病原性の決定の一環として,さまざまな組織または体液中のウイルス量を測定し,診断検査のために正しい検体を選択することが重要である.抗ウイルス薬の有効性を評価するために使用される一般的な測定基準は,薬物治療の前後で臨床検体中のウイルス量(または「ウイルス力価」,「感染価」)を比較することである.個々の検体または標本にどれだけのウイルスが存在するかという疑問への答えは簡単ではなく,検査法によって異なることがある.ウイルスの定量法には一般に2つの形式がある.つまり,生物学的アッセイと物理的アッセイである.異なるアッセイ(測定法)を使用して単一サンプル中のウイルスを定量すると,異なる答えが得られることが多く,これらの違いの理由を理解することが不可欠である.ウイルス粒子の生物学的活性に依存しない物理的アッセイには,電子顕微鏡による粒子計数,血球凝集,抗原捕捉ELISAなどの免疫学的アッセイ,および最近では定量的PCRが含まれる.正常な複製サイクルを開始するウイルス粒子に依存する生物学的アッセイには,プラックアッセイとさまざまな終末点(end-point)測定法が含まれる.

 電子顕微鏡による粒子計数などの物理的アッセイとプラックアッセイなどの生物学的アッセイを用いて測定されたウイルス量の差は,粒子対pfu比と呼ばれることがある.実質的にすべての場合において,物理的粒子の数は,生物学的アッセイで測定された数を超えている.一部のウイルスでは,この比率は 10,000:1にもなり,一般に100:1の比率である.感染性粒子と比較して物理的粒子の数が多くなる理由はウイルスに依存しており,次のようなものがある.

 (1) ウイルスの組み立てプロセスは非効率的でエラーが発生しやすく,正しい核酸成分がなくても形態学的に完全な粒子が形成されることがある.

 (2) 受容体に結合するか,侵入および脱殻プロセスを開始するすべてのビリオンが生産的感染の確立に成功するわけではない.

 (3) 複製プロセスは非常にエラーが発生しやすく(RNAウイルス),ウイルスストックには致死的な突然変異を伴う粒子が含まれていることがある.

 (4) ウイルスストックは,感染性粒子が不活化されるような準最適条件下で生産または維持されている.

 (5) 感染性粒子の検出に最適ではない動物または細胞を用いて感染性試験が実施されている.

 (6) 宿主細胞の感染防御反応は,一部の感染性粒子が複製プロセスを正常に完了するのを防いでいる.

  生物学的アッセイのための宿主動物種または宿主細胞の選択は,サンプル中の感染性ウイルス量を特定するための重要な要因である.利用可能な培養細胞は,動物の標的細胞の代用品として不十分である場合があるため,自然宿主動物でのアッセイが感染ユニットの最高の推定値を提供することは珍しいことではない.


(1)物理的アッセイ

 ① 電子顕微鏡による直接粒子計数

 サンプル中のウイルス粒子の個数を算定する最も直接的な方法は,電子顕微鏡を使用して粒子を視覚的にカウント(計数)するものである.このプロセスは,高価な機器と高度な訓練を受けた技術者を必要とするため,日常的には実施されていない.このアッセイでは,最初にウイルスサンプルを既知濃度の標準粒子(ラテックスビーズなど)のサンプルと混合する.次に,ウイルスと標準粒子の混合物を電子顕微鏡により観察し,ウイルス粒子と標準粒子の個数を別々にカウントする.計数されたウイルス粒子の数は,ウイルス粒子数/標準粒子数の比に既知の標準粒子数を乗じることによって,濃度(ウイルス粒子/mL)へ容易に換算できる.この手順は,ピコルナウイルス,レオウイルス,アデノウイルスなどの独特な形状を呈する非エンベロープウイルスのウイルス粒子に対して最も正確である.このプロセスはサンプルの生物学的活性を評価することはできないが,目視観察により中空カプシドと完全粒子を区別できるため,粒子に核酸が含まれているかどうかを評価するために使用できる.


 ② 血球凝集

 前述のとおり,一部のウイルス感染細胞は,表面に発現したウイルスタンパク質と赤血球上のリガンドとの間の相互作用により,細胞表面に赤血球を結合する能力(血球吸着能)を獲得する.一部のウイルスの遊離ウイルス粒子は赤血球に結合することもでき,混合すると細胞が凝集して架橋細胞の格子になる.この特性は血球凝集性と呼ばれ,この活性を持つウイルス(例:A型インフルエンザウイルス)を定量するために使用できる.血球凝集アッセイでは,サンプル中に存在するウイルス粒子の数(ウイルス粒子/mL)を正確に算定することはできない.ただし,複数の感染宿主から採取したサンプルや,異なる日時に個々の宿主から連続的に採取したサンプルなど,サンプル間のウイルスの相対濃度を比較するのに役立つ.このアッセイを実施するには,ウイルスを含むサンプルを最初に連続2倍階段希釈(通常は96穴マイクロタイタープレート)で処理する.次に,赤血球を含む溶液を各サンプルウェルに加える.一定時間後,ウェルの底面を覆う細胞の薄い連続層として現れる血球凝集の存在について,ウェルを視覚的に観察する.凝集していない赤血球は,ウェルの底部中央に「ボタン」状に落ち着く(日の丸様).ストックウイルスサンプルのHA力価は,赤血球を完全に凝集させる最高希釈倍数の逆数として表示される.


 ③ 定量的ポリメラーゼ連鎖反応

 定量的なリアルタイムPCRにより,検査サンプル中のウイルス特異的核酸の濃度を決定することが可能になった.PCRは,ウイルス粒子だけでなく,事実上あらゆる情況で核酸配列を検出できる.多くの場合,ウイルス分離に対するPCRの感度の向上は,組織サンプル中の非ビリオン核酸を検出することによって達成される.PCRを正しく使用してウイルスを定量するには,最初に懸濁液をヌクレアーゼにより処理して,すべての非ビリオン核酸を分解する必要がある.ビリオン関連核酸はインタクト(無傷)のウイルス粒子によって保護されている.比較のための基礎としてアッセイに含まれるコピー数対照を用いて,処理されたサンプル中の標的核酸の濃度を推定することができる.このタイプのアッセイは,中空カプシド(ウイルス核酸を含まない)を検出せず,サンプルによる感染性の影響を受けない.


(2)生物学的アッセイ

 ① プラック法

 プラック法は,1915 年から 1917 年にかけて F・デレーユによってバクテリオファージに関する研究で開発された.このアッセイは非常に単純で,生物学的アッセイの中で最も正確である.バクテリオファージを用いたプラック法を実施するには,まずサンプルを細菌培養培地で連続10倍階段希釈系列にする.次に,溶解した培養培地(トップアガー)中の宿主細菌の懸濁液を,10倍階段希釈した各サンプルに加える.そして,この混合物を平板寒天培地に注ぎ,寒天平板の表面全体にバクテリオファージ/細菌懸濁液を均等に分注し,そこで急速に冷却して固形化させる.寒天平板をインキュベーターに入れて培養すると,時間の経過とともに宿主細菌が分裂し,寒天平板の表面に発育した細菌による「芝生」が生成される.バクテリオファージに感染した細菌は死んで子孫ビリオンを放出し,それが次に隣接する細菌へ感染して,その細菌を死滅させる.最終的に,細菌細胞が消滅して寒天の透明な領域が肉眼で観察されるようになる.これらの透明な領域はプラックと呼ばれる.非常に多くのバクテリオファージが各プラックに含まれているが,プラックは単一のバクテリオファージによる1個の細菌細胞への感染に由来する.したがって,各プラックは,用いたサンプルに存在する1個のバクテリオファージを表している.感染していない対照プレートにはプラックは現れない.元のストックサンプルに高濃度の細菌が含まれている場合,ほとんどまたはすべての細菌が感染して死滅するため,低希釈サンプルを含む寒天平板は完全またはほぼ完全に細菌が除去される.最高希釈サンプルのアッセイに使用される寒天平板には,プラックがわずかしかないか,まったくない場合がある.これらの両極端の間のどこかで,正確にカウントできる多数のプラックを含むプレートを使用して,元のサンプルのバクテリオファージの濃度(力価)を算定する.これは,サンプルの希釈,試験に用いた容量,およびプラック計数を考慮に入れることによって達成される.バクテリオファージのプラックアッセイは,1953 年に,新しく開発された組織培養システムと動物ウイルスで使用するために改良された.このアッセイは,宿主細胞の溶解を誘発する細胞変性ウイルスに最適である.アッセイにはバリエーションがあるが,一般的には次のように行われる.ウイルスのストックサンプルは,上記のように段階希釈される.培養細胞の単層を含む培養プレート(シャーレなど)から液体増殖培地を除去し,次に希釈した各ウイルスサンプルを,細胞を最小限に覆う標準体積で培養細胞の単層に重ねる.次に,細胞培養プレートを短時間インキュベートして,ウイルスが結合して細胞に侵入できるようにし,その後,細胞を栄養寒天により覆う.栄養寒天オーバーレイは,新しく生成された子孫ビリオンがプレートの遠位領域に自由に広がるのを防ぐが,これらのビリオンの移動をすぐ隣接する細胞への伝播を制限しない.最終的に,ウイルスは元の宿主細胞から広がり,十分な数の隣接細胞に感染して溶解感染した細胞のフォーカスを形成し,生体色素で細胞を染色すると可視化される.非細胞変性ウイルスを用いたプラックアッセイを実施するために,蛍光抗体法および免疫組織化学染色法が開発されている.

プラックアッセイは,サンプル中のウイルス量を定量することに加えて,大多数の動物ウイルスにおける基本原理を示した.つまり,生産的な感染が成立するためには,1個のウイルス粒子で十分であった.これは,アッセイ中のプラック数が,希釈倍数に対してプロットしたときに直線的に増加すること,つまり,プラックの数が1回の反応速度曲線に従うことによって証明された.これは,分節ゲノムが別々のウイルス粒子に組み込まれ,生産的な感染には複数のウイルスによる細胞の同時感染が必要な多くの植物ウイルスには当てはまらない.プラックアッセイは,ウイルス遺伝学の初期の研究にも役立った.自然に発生するか化学的に誘導されたプラック変異株は,個々のプラック(生物学的にクローン化された)からウイルスを分離することによって選択され,ウイルス増殖特性に対する突然変異の影響を調べるために用いられた.


 ② エンドポイント力価アッセイ

 動物ウイルスのプラックアッセイが開発される以前には,また,プラックを形成しない非細胞病原性(non-CPE)ウイルスでは,ウイルスストックの力価定量は,実験動物または発育鶏卵にウイルスを接種することによって行われていた.プラックアッセイと同様に,これらのアッセイは,サンプルまたは検体の連続希釈によりまず行われる.次に,希釈した各サンプルを1匹以上の実験動物または鶏卵へ接種する.成功した感染は,動物または卵の死から直接的に推測されるか,または感染した宿主のウイルスに対する免疫応答を確認することによって間接的に確認される.低希釈ではすべての動物が感染するが,高希釈ではどの動物も感染しない.中間の希釈では,一部の動物または卵だけが感染の証拠を示す.その結果(すなわち,試験した各希釈での感染数と非感染数)を用いて,試験動物の50%に感染するウイルスの希釈度を計算する2つの方法(Reed=Muench法とSpearman Karber法)が考案された.この場合,ストックウイルスの力価は50%感染量(ID50)として表される.ウイルスが動物または卵の死を引き起こす場合,このアッセイを使用して,それぞれ50%致死量(LD50)または50%卵感染量(EID50)を算定できる.エンドポイント力価アッセイは培養細胞でも実施でき,このアッセイでは,ウイルスの力価は組織培養50%感染量(TCID50)として示される.プラックアッセイほど正確ではなく,統計分析にも適していないが,TCID50によるエンドポイントアッセイは,プラックアッセイよりもセットアップと自動化が簡便である.


(3)欠損干渉粒子

 ウイルスを高い感染多重度(multiplicity of infection: MOI)で連続継代すると,不完全ウイルス粒子(感染性はないが,免疫原性や血球凝集性などのある種の生物活性を有する粒子)が産生され,感染性ウイルス粒子の産生が低下することがある.この不完全ウイルス粒子には,遺伝子の一部を欠損した不完全ゲノムを含む欠損干渉粒子(defective interfering particle: DI粒子)や,ゲノムを全く含まない中空粒子(empty particle)などが存在する.DI粒子は,それだけでは増殖できないが,ヘルパーウイルス(完全ウイルス)とともに感染すると,完全ウイルスにより遺伝子の欠損が補われ,増殖することができる.ヘルパーウイルスは,通常,DI 粒子が由来する同種のウイルスである.その名が示すように,DI 粒子はヘルパーウイルスの複製を妨害し,通常,混合感染ではヘルパーウイルスの収量を減少させる.DI 粒子は,欠損のない親ウイルスと同じ構造タンパク質から組み立てられている.ただし,DI粒子のゲノムには欠陥があり,さまざまな量の正常なゲノム配列が欠けている.DI 粒子のゲノムは不完全であるが,複製に必要なシス作用性(cis-acting)配列とカプシド形成に必要な配列を保持している.インフルエンザウイルスやレオウイルスなど,分節ゲノムを持つウイルスに由来するDI粒子は,1つ以上の遺伝子分節が大幅に欠失しているゲノムを持つ傾向がある.同様に,分節化していないゲノムを持つウイルスに由来するDI粒子には,さまざまな程度の欠失配列を持つゲノムが含まれている.たとえば,水胞性口炎ウイルスのDI粒子は,正常なゲノムの3分の2まで欠けている場合がある.形態学的には,DI粒子は通常,親ビリオンに似ている.しかし,水胞性口炎ウイルスでは,通常は弾丸の形をしたウイルス粒子が,野生型のウイルス粒子よりも短くなっている.これらの粒子を説明するために使用される専門用語では,正常な水胞性口炎ウイルスのビリオンはB粒子と呼ばれ,DI粒子は切断(truncated)型またはT粒子と呼ばれる.

 DI粒子の分断されたゲノムは,遺伝子配列の変異,配列の欠失,転位,重複,さらには宿主細胞のDNAまたはRNA由来の遺伝子配列の挿入さえも引き起こす異常な複製や組換えによって生成される.DI粒子が生成されると,特に感染多重度(MOI)が高い場合には,連続継代によりDI粒子の数が大幅に増加する.

これらの条件下でのDI粒子形成の急速な増加は,次のメカニズムの1つまたは複数に起因すると考えられている.

 (1) 短縮されたゲノムは複製に必要な時間が短いため,時間の経過とともに,ウイルスポリメラーゼがヘルパーウイルスの全長ゲノムよりも多くの欠陥のあるゲノムを複製する.

 (2) 欠陥のあるゲノムはしばしば転写が不活性であるため,mRNAへの転写のテンプレートとして機能するように転用されることがあまりない.

 (3) DI粒子はウイルスのレプリカーゼに対する親和性を高めており,完全長の対応物よりも競争上の優位性を与えている.本質的に,DI粒子は,レプリカーゼ酵素や構造タンパク質などの律速成分についてヘルパーウイルスと競合することにより,ヘルパーウイルスの複製を妨害すると考えられる.

 DI粒子に関する知見は,主に培養細胞におけるウイルス感染の研究に基づいている.ただし,DI 粒子は,in vivoでの感染中に一部のウイルスによっても生成される(例: デング熱ウイルス,麻疹ウイルス,C型肝炎ウイルス,A 型肝炎ウイルス,A型インフルエンザウイルスなど).そして,それらがin vivoでのヘルパーウイルスの複製を妨害し,感染の病理発生を変化させている.この現象は,実験動物によるモデルシステムで繰り返し実証されているが,自然感染の経過を変更する際のDI粒子の役割を実証することはやや困難である.DI粒子は,ヘルパーウイルスの複製を上述のように直接妨害することによって,あるいはI型インターフェロンや炎症誘発性サイトカインの誘導などの抗ウイルス性自然免疫応答を刺激することによって,in vivoでのヘルパーウイルスによる感染の病理発生を修飾することがある.ウイルスの複製を妨害し,親ウイルスとの同時感染での病理発生を変更する能力,および場合によっては近縁の異種ウイルスの病理発生を変更する能力のために,DI粒子は抗ウイルス剤としての潜在的な用途について研究されてきた.



第5章 ウイルス感染における病理発生

 多くのウイルス感染は不顕性(無症状)であるため,感染自体は疾病ではないが,そのほかのウイルス感染は,罹患した宿主に特徴的な臨床症状を伴うさまざまな重症度の疾患をもたらすことがある.ウイルスと宿主の遭遇の結末は,潜在的に寄与する多くの要因の中でも,本質的に,感染性ウイルスのビルレンス(毒力)と宿主の感受性の産物といえる.ビルレンス(virulence)または毒力という用語は,感染するウイルスの病原性(pathogenicity)の定量的または相対的な尺度として使用される(例:「ウイルスAはウイルスBより毒力が強い(より強毒である)」または「ウイルス株Aは動物種Zよりも動物種Yで毒力が強い」のように使われる).病原性および毒力(ビルレンス)という用語は,あるウイルスがその宿主に病気を引き起こす性質と能力を指し,ウイルスの感染性または伝播力(伝染力)とは無関係である.ビルレンス(毒力)という概念は病原性と混同されることがあるが,ビルレンスは分類学的に同一種の微生物の異なる株間について用いられ,これらの微生物株に感受性のある同一の宿主に対する害作用の強さを比較する場合の用語である.ビルレンスは通常,実験的に定量することができ,最小致死量(minimal lethal dose: MLD)あるいは50%致死量(LD50)などで表される.また,出現した病巣の数のような測定できる病理現象を指標として表すこともあり,体内での病原体の増殖を量的(定量的)に示す場合に用いられる.これに対し病原性はこれを質的(定性的)に示す場合に用いられ,感染して病的変化を引き起す能力あるいは性質を意味している.毒力と似た言葉に毒性(toxicity)がある.毒性は,物質が生体に対して示す害作用の程度を表す用語で,ビルレンスとは異なる.例えば,ウイルスから抽出したスパイクの中には毒性を示すものがある.しかし,ウイルスのビルレンスに関して「毒性」という言葉を使うのは誤りである.

 ウイルスが病気を引き起こすには,まず宿主に感染し,宿主体内に拡散し,標的組織へ傷害を与える必要がある.ウイルスが確実に存続するためには,ウイルスは増殖しやすい個体に感染する必要がある.つまり,ウイルスは分泌物または排泄物によって環境中へ排出されるか,別の宿主またはベクターに取り込まれるか,親(母親)から仔へ先天的に受け継がれる必要がある.ウイルスは,自らの生存を保障するために,驚くほど多様な方法を開発してきた.同様に,個々のウイルスは,かなり多様な異なる病原メカニズムを通じて疾病を引き起こしている.


(1)ウイルスの毒力と宿主抵抗性の相互作用,またはウイルス性疾患における感受性因子

 毒力(ビルレンス)の程度はウイルス株によって異なり,特定のウイルス株に感染した個体群であっても,通常,個々の動物の感染結果には顕著な差異が見られる.同様に,同種のウイルス株間には多くの変異があり,ウイルスの毒力の決定因子はしばしば多遺伝子性である.つまり,いくつかのウイルス遺伝子が個々のウイルスの毒力に寄与している.宿主の抵抗性あるいは感受性の決定因子は通常多因子であり,宿主因子だけでなく環境因子も含まれる.分子技術の登場と応用により,実験動物のゲノムにおける抵抗性/感受性の決定因子のみならず,多くのウイルスのゲノムにおけるビルレンス因子に関するマッピングが容易になった(例:ウイルス株の全ゲノム塩基配列決定や分子クローンの作出).ウイルス株間の違いは,ウイルス複製の速度と収量,致死量,感染量,特定の臓器に感染した細胞の数を含む定量的なものである場合もあれば,臓器または組織への指向性,宿主細胞傷害の程度,体内での拡散様式,およびそれらが誘発する疾患の特徴を含む定性的なものである場合もある.


(2)ウイルスのビルレンス(毒力)の評価

 ウイルスのビルレンス(毒力)には,ほとんどの場合不顕性感染を引き起こすものから,病気を引き起こすもの,死に至るものまで,幅広いバリエーションがある.ウイルスのビルレンスを正確に比較するには,ウイルスの感染量,宿主動物の年齢,性別,体調,免疫状態などの要因が等しいことが必要である.しかし,これらの条件は自然界では決して満たされない.そのためには近交系の異種動物の使用が原則であり,曝露とウイルス感染のダイナミクスは極めて多様である.そのため,家畜および野生動物における特定のウイルスのビルレンスを説明するために,主観的で曖昧な用語が使用されることがある.ビルレンスの正確な測定は,通常,マウスなどの近交系動物でのアッセイからのみ導き出される.もちろん,このようなアッセイは,マウスで増殖するウイルスについてのみ実施可能であり,実験用マウスから目的の宿主動物種へのデータの外挿には常に注意を払う必要がある.

 特定の接種量,特定の接種経路,特定の年齢および系統の実験動物に接種した特定のウイルス株のビルレンスは,疾患,死亡,特定の臨床症状,または障害を引き起こす能力を決定することによって評価できる.動物集団の50%を死に至らしめるのに必要なウイルス量(50%致死量,LD50)は,毒力の一般的な尺度として使用されてきたが,現在,倫理的な理由から研究論文等では支持されなくなっている.たとえば,エクトロメリアウイルスに感受性のBALB/cマウスでは,エクトロメリアウイルスの強毒株のLD50は5ビリオンであるが,中程度に弱毒化した株では5000,高度に弱毒化された株では約100万である.ウイルスの毒力(ビルレンス)は,50%の個体に感染を引き起こす特定のウイルス株の用量(50%感染用量,ID50)と個体の50%を死滅させる用量(LD50)の比率を決定することによって,実験動物を用いて測定することもできる(ID50:LD50比).したがって,BALB/c マウスにおけるエクトロメリアウイルスの強毒株のID50は2ビリオンであり,LD50が約5ビリオンだが,抵抗性のあるC57BL/6マウスではID50は同じだが,LD50は100万ビリオンとなる.したがって,感染による重症度は,ウイルスの毒力と宿主の抵抗性との間の相互作用に依存する.ウイルスの毒力(ビルレンス)は,罹患した動物の肉眼的,組織学的,および超微細構造的病変の程度,位置,および分布の評価を通じて推定することもできる.


(3)ウイルスのビルレンス因子

 分子生物学の出現により,多くのウイルスの毒力(ビルレンス)の遺伝的基盤を,ウイルスの複製やその他の側面とともに容易に決定できるようになった.具体的には,ウイルスゲノムの塩基配列の比較によって特定のビルレンス因子の役割は,問題とするウイルスの分子クローンの作出によって確認できる.感染性の分子クローンを利用するこの「リバースジェネティックス」手法は,最初はアルファウイルス属やピコルナウイルス科などの単純なプラス鎖RNAウイルスのゲノム全体の相補的DNA(cDNA)を使用していた.そのようなウイルスゲノムのcDNAコピー(分子クローン)は,それ自体が細胞へのトランスフェクションに続くウイルス複製プロセスを開始することができる.ラブドウイルスなどのネガティブセンスRNAウイルスのゲノムRNA自体には感染性がないが,ゲノム複製をサポートするウイルスタンパク質がゲノム長RNA転写物をトランスフェクトした細胞でも産生される場合,cDNAクローンから感染性ウイルスを回収できる.分節ゲノムを持つRNAウイルス(インフルエンザウイルス,ブニヤウイルス,アレナウイルス,レオウイルスなど)によって引き起こされる問題を解決するために,これらのウイルスの分子クローンが,リバースジェネティックスに使用されている.また,人工染色体として非常に大きなDNAウイルスのゲノムを特異的に操作することも可能である.必然的に,ほとんどの研究は近交系の実験動物を用いて行われてきたが,現在では,相当数の病原性のある動物ウイルスの分子クローンがそれぞれの自然宿主において評価されている.リバースジェネティックスによるこれらの研究から,いくつかのウイルス遺伝子が個々のウイルスの毒力に寄与していることが明らかにされている.

 ウイルスは,通常,臨床的に評価されている以上に宿主および組織特異性(指向性)を示す.機構的には,ウイルスの臓器指向性または組織指向性は,ウイルスの付着分子とその細胞受容体との相互作用から,ウイルス粒子の組み立てと放出まで,感染の成就に必要なすべてのステップにみられる.臓器および組織に対する指向性はまた,侵入部位から臨床症状の原因となる主要な標的臓器,ウイルスの放出および排出に関与する部位まで,宿主動物全体の感染過程のすべての段階に関与する.

 ウイルス性疾患の流行を原因ウイルスのビルレンスのみに帰することには注意が必要である.何故ならば,通常,動物種内および動物種間で,個々の感染動物の反応にはかなりのばらつきがあるからである.たとえば,1999 年に北米で始まったウエストナイルウイルス感染症の流行では,罹患馬の約10%が神経疾患(脳脊髄炎)を発症し,そのうちの約30~35%が死亡した.神経侵襲性疾患は,この同じウエストナイルウイルス株に感染したヒトではそれほど一般的ではなかったが,感染したカラスはほぼ均一に播種性で致命的な急性感染症を発症した.


(4)宿主における抵抗性/感受性の決定因子

 ウエストナイルウイルスについて述べたように,ウイルス感染に対する宿主の抵抗性/感受性の遺伝的相違は,異なる動物種を比較すると最も明瞭である.ウイルス感染は,外来動物種よりも自然宿主種ではビルレンスが弱い傾向がある.たとえば,粘液腫ウイルスは,その自然宿主であるアメリカ大陸の野生のワタオウサギ(Sylvilagus spp.)に小さな良性線維腫を形成するが,このウイルスはほぼ常に,ヨーロッパのアナウサギ(Oryctolagus cuniculus)に致命的な全身感染を引き起こす.同様に,アレナウイルス,フィロウイルス,パラミクソウイルス,コロナウイルス,および多くのアルボウイルスによって引き起こされる動物からヒトへ伝播する感染症は,ヒトでは重篤であるが,宿主である動物では軽度または無症状である.ヒトと動物の間を相互に伝播する病原体による,動物からヒトへ伝播する感染症は「ゾーノシス(zoonosis)」といい,上述のようにヒトでは重症だが,自然界における保有動物宿主(レゼルボア:resrvoir)では軽度または不顕性(無症状)である.ゾーノシスは,ゾーン(zoon)から派生した用語で,動物由来感染症とも言われる.Zoonosisを「ズーノーシス」と発音するのは誤りで,動物園(zoo)の病気と誤解される.なお,ヒトと動物の間を相互に伝播する病原体による,ヒトから動物へ伝播する感染症は「アンソロポノシス(anthroponosis)」という.

 特定のウイルス感染に対する自然免疫および獲得免疫は,個体によって大きく異なる.マウスの近交系を用いた研究により,特定のウイルスに対する感受性は,特定の主要組織適合抗原ハプロタイプと関連していることが知られており,これがおそらく,感染したウイルスに対して生じる獲得免疫応答を指令する中心的な役割を果たしている.同様に,遺伝子組換えマウスを用いた研究では,自然免疫,特にインターフェロン系に関する免疫応答が,抗ウイルス性と防御を付与する上で重要な役割を果たしている.

 標的細胞上の受容体の発現は,特定のウイルスに対する宿主の抵抗性/感受性の基本的な決定因子である.受容体が保存されているか遍在しているほど,それを利用するウイルスの宿主域が広くなる.例えば,アセチルコリン受容体に加えてシアリル化ガングリオシドを利用する狂犬病ウイルスは,非常に広い宿主域を持っているが,感染は,筋細胞,ニューロン,唾液腺上皮など,いくつかの細胞型に限定されている.ウイルスの付着タンパク質の変化は,異なる指向性と伝達性を示す変異ウイルス株の出現につながる場合がある.たとえば,ブタ呼吸器コロナウイルス(porcine respiratory coronavirus)は,ブタの腸内病原体である伝染性胃腸炎ウイルス(transmissible gastroenteritis virus)から派生したもので,ウイルスの付着を仲介するスパイクタンパク質をコードする遺伝子の実質的な欠失に起因している.この変化は,ウイルスの指向性とその伝達性に影響を与えた.


(5)宿主の抵抗性/感受性に影響を与える生理学的要因

 自然免疫と獲得免疫に加えて,年齢,栄養状態,特定のホルモンのレベル,細胞分化など,さまざまな生理学的要因が個々のウイルス性疾患に対する宿主の抵抗性/感受性に影響する.

 ウイルス感染症は,ヒトや動物の出生初期と終末期,つまり極めて若い年齢層と高齢層の両方において最も深刻になる傾向がある.分娩直後に急激な生理学的変化が起こり,消化器および呼吸器における多くの感染症の深刻な症状に対する抵抗性が新生仔に急速に付与される.免疫系の成熟は,この加齢に伴う抵抗力の強化を担うが,生理学的な変化も寄与している.栄養失調は成獣の免疫応答を損なう場合もあるが,極めて不利な環境に棲む動物に見られる別の要因と栄養への悪影響を区別することは困難なことがある.

 特定の感染症,特にヘルペスウイルス感染症は,妊娠中に再活性化することがあり,感染した母親の流産または周産期感染につながる.胎仔自体は,免疫系の未熟さ,生物学的障壁(例:血液脳関門)の未熟さ,急速に分裂する細胞集団の許容度の増加を反映して,多くの異なるウイルス感染に独特の影響を受けやすく,後者は発生中の組織に豊富に見られる.

 細胞分化と細胞周期の段階は,特定のウイルス感染に対する感受性に影響を与えることがある.たとえば,パルボウイルスは細胞周期のS期にある細胞でのみ複製するため,急速に分裂する骨髄,腸上皮,および発育中の胎仔の細胞は感染に対して脆弱である.発育中の胎仔の胚形成中に急速に分裂し,多くの場合移動する細胞集団は,特に中枢神経系(CNS)に感染するいくつかの催奇形性ウイルスによる感染と傷害の影響を受けやすくなっている.

 ほとんどすべてのウイルス感染は発熱を伴う.ウサギの粘液腫ウイルス感染に関する古典的な研究では,体温を上げると病気に対する防御力が高まり,体温を下げると感染の重症度が増すことが示されている.そして薬物(サリチル酸など)により発熱を抑えると,死亡率が上昇した.マウスのエクトロメリアウイルスおよびコクサッキーウイルスの感染でも同様の結果が知られている.対照的に,ある種の変温動物(魚類など)ではウイルス感染に発熱を伴わない.

 原因が内因性か外因性かにかかわらず,コルチコステロイド濃度の増加による免疫抑制効果は,潜在的なウイルス感染を再活性化するか,ヘルペスウイルスによって引き起こされるような軽度または無症状のウイルス感染を悪化させる可能性がある.このメカニズムはおそらく,動物シェルターや肥育場などの密集した環境への輸送や導入の結果として動物がストレスを受ける環境で発生する重度のウイルス感染の発生率の増加に寄与している.宿主の炎症性および先天性免疫応答の産物も,ウイルス感染に伴う一過性の免疫抑制およびその他の一般的な症状の一因となる場合がある.


(6)ウイルス感染と体内拡散のメカニズム

 ウイルスによる感染は,細胞レベルでは,細菌やその他の微生物によって引き起こされる感染とはまったく異なる.他方,動物個体および動物集団のレベルでは,相違点よりも類似点の方が多い.他の微生物と同様に,ウイルスは病原性を発揮する前に宿主の体内へ侵入する必要がある.宿主へのウイルスの侵入は,個々のウイルスの特性に応じて,さまざまな経路のいずれかを通じて行われる.


(7)ウイルスの侵入経路

 ウイルスは,不活性粒子として感染する偏性細胞内寄生性因子である.ウイルスは宿主に感染するために,外皮(integument)または粘膜表面のいずれかの体表面にまず付着し,細胞に感染する必要がある.動物の体を外側から覆う皮膚は,不浸透性のケラチンの外層を持っており,感染の開始には,昆虫による針刺し,または動物の咬傷などを介して,このバリアが損なわれるか,バイパスされることが必要になる場合がある.粘膜表面,特に呼吸器,消化管,泌尿生殖器の粘膜上皮,および眼の結膜と角膜の角化していない上皮層では,感染の開始に対する障壁はそれほど手ごわいものではない.角化上皮を持たない動物(魚類など)では,皮膚と鰓(えら)が広範な粘膜表面として機能し,多くのウイルスの感染の初期部位となる.ウイルスの複製は,ウイルスが侵入した体表に限定するか,ウイルスが体内へ拡散して複数の組織で行われ,その後,侵入経路と同じかまたは異なる体表面から排出される.


 ① 気道からの侵入

 気道の粘膜表面は,ウイルスの複製をサポートできる上皮細胞により覆われているため,感染のリスクを最小限に抑えるために防御が必要である.鼻腔から肺までの遠位気道は,「粘液線毛ブランケット」によって保護されている.これは,鼻粘膜および気道を覆う上皮細胞の表面にある繊毛の協調的な運動により常に保たれ,杯細胞によって生成された粘液層で構成されている.吸入されたビリオンは粘液層に閉じ込められ,繊毛運動によって鼻腔と気道から咽頭へ運ばれ,そこで飲み込まれたり咳嗽により排出されたりする.吸入された粒子が気道に浸透する距離は,その粒子サイズに反比例するため,大きな粒子(直径10 μmを超える飛沫)は,鼻腔と気道の内側を覆う粘液繊毛ブランケットに捕捉され,直径5 μm未満の小さな粒子(飛沫核)は,肺(肺胞)に直接吸入され,常在肺胞マクロファージによって摂取される.

 呼吸器系は,全体に巡らせられている特殊なリンパ系(例:鼻関連リンパ組織(nasal-associated lymphoid tissue: NALT)と扁桃,および気管支関連リンパ組織(bronchus-associated lymphoid tissue: BALT)を含む),粘膜表面で機能する自然免疫および獲得免疫によって防御されている.しかし,その防御機構にもかかわらず,気道はおそらく体内へのウイルス侵入の最も一般的な門戸である.環境要因は,防御機構を損なうことによって感染を促す場合がある.たとえば,アンモニア蒸気にさらされると繊毛運動が低下し,炎症に基づく漿液性滲出液は粘液層の粘稠度を低下させることがあり,どちらも粘膜内の上皮細胞の特定の受容体にウイルスが付着する能力を高める.一部のウイルスは侵入後,呼吸器系に留まるか,細胞から細胞へ拡散して別の組織へ侵入するが,他の多くのウイルスはリンパや血流を介して広く拡散する.


 ② 消化管からの侵入

 かなりの数のウイルス(腸内ウイルス)は,ウイルスにより汚染された食べ物や飲み物を摂取することにより,感受性宿主に感染する.口腔および食道(および反芻動物の前胃)の粘膜層は,扁桃を覆うことを除いて,ウイルス感染に対して比較的抵抗性があるため,腸内ウイルスの感染は通常,胃や腸の粘膜上皮で始まる.消化管は,胃の酸性度,胃と腸の粘膜を粘り強く覆う粘液層,消化酵素による抗菌活性,胆汁と膵臓の分泌液による抗菌活性,自然免疫および獲得免疫,特に免疫グロブリンA(IgA)などのデフェンシン(defensin)および分泌抗体などにより保護されている.IgAは,消化管粘膜および粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissues: MALT)のB細胞によって産生される.これらの防御機構にもかかわらず,腸管感染は特定のウイルスに特徴的であり,最初に胃腸粘膜の内側を覆う上皮細胞または腸のリンパ球集合体(パイエル板)を覆う特殊なM細胞に感染する.

 一般に,ロタウイルスやエンテロウイルスなどの腸管感染を引き起こすウイルスは,酸や胆汁に耐性である.ただし,腸管感染症を引き起こす,酸および胆汁に脆弱なウイルスがある.たとえば,伝染性胃腸炎ウイルス(コロナウイルス科)は,幼若なブタの胃を通過する間,母乳の緩衝作用によって保護される.また,一部の腸内ウイルスは,胃や腸内のタンパク質分解酵素による不活化に抵抗するだけでなく,そのような曝露によってむしろ感染力が増強する.例えば,腸のプロテアーゼによる外部カプシドタンパク質の切断は,ロタウイルスの感染性を高める.ロタウイルスとコロナウイルスは動物のウイルス性下痢の主な原因であるが,エンテロウイルス,アデノウイルス,および他のウイルスによって引き起こされる腸管感染症の大部分は,通常,無症状である.一部のパルボウイルス,モルビリウイルスなどは,消化器感染症や下痢を引き起こすことがあるが,それは,ウイルスの体内拡散後の全身性感染の過程で消化管の細胞に到達した後でのみ起こる.


 ③ 皮膚からの侵入

 皮膚は身体の最大の器官であり,ケラチンによる密な外層は,ウイルスの侵入に対する機械的バリアを提供している.皮膚における低pHと脂肪酸の存在は,皮膚自体における移動性樹状細胞(ランゲルハンス細胞)の存在を含む,自然免疫および獲得免疫のさまざまな他の構成要素と同様に,さらなる防御を提供している.動物や昆虫による咬傷,切り傷,刺し傷,擦り傷などの皮膚の完全性の侵害は,ウイルス感染の素因となり,パピローマウイルスのように皮膚に限定されるものもあるが,広く拡散することもある.深い外傷では,ウイルスが真皮や皮下組織へ侵入することがある.そこには,ウイルスの拡散経路として機能する血管,リンパ管,神経が豊富に存在する.ランピースキン病,羊痘などで発生するような皮膚の全身感染は,局所的な皮膚感染ではなく,ウイルス血症を介した全身のウイルス拡散の結果である.

 ウイルスが皮膚から侵入する最も効率的な方法の1つは,蚊,マダニ,吸血性サシバエ(Culicoides spp.)などの節足動物に刺されることである.昆虫,特にハエは,単純な「機械的ベクター」として機能する場合がある.例えば,ウマ伝染性貧血ウイルスはウマに,ウサギ出血病ウイルスと粘液腫ウイルスはウサギに,そして鶏痘ウイルスはニワトリに広がる.ただし,節足動物によって伝播するほとんどのウイルスは,「生物学的ベクター」の特徴として,ベクター体内で増殖する.節足動物ベクターによって伝播し,その中で複製するウイルスはアルボウイルスと呼ばれる.

 狂犬病のように,動物に噛まれることにより感染する場合もあり,また,皮膚からの侵入によるウイルスの侵入は医原性,つまり,獣医学上または飼育上の処置の結果である場合もある.例えば,ウマ伝染性貧血ウイルスは,汚染された注射針,ロープおよびハーネスを介して伝播し,オルフウイルスおよびパピローマウイルスは,耳タグ,入れ墨,またはウイルスに汚染された器物を介して伝播することがある.


 ④ その他の経路からの侵入

 いくつかの病原体(例:ヘルペスウイルスやパピローマウイルス)は生殖器を介して広がり,これは性感染症として知られている.性行為中に陰茎の粘膜や膣の上皮に小さな裂傷や擦り傷が発生すると,感染を促すことがある.結膜は,皮膚よりもウイルスの侵入に対する抵抗力がはるかに低いが,分泌物(涙など)の流出とまぶたによる機械的な拭き取りによって常に浄化されている.ただし,一部のアデノウイルスとエンテロウイルスはこの部位に侵入し,かなりの数のウイルスが実験的にこの経路で伝播することが示されている.


(8)宿主特異性と組織指向性

 特定の臓器の細胞に選択的に感染するウイルスの性質は,指向性(細胞指向性または臓器指向性)と呼ばれ,ウイルスと宿主の両方の因子に依存している.細胞レベルでは,ウイルスの付着タンパク質と対応する細胞の受容体との間に相互作用がなければならない.このような相互作用は通常,培養細胞で研究されているが,in vivoでは情況がかなり複雑である.複数の細胞受容体/補助受容体を必要とするだけでなく,異なる細胞の異なる受容体を利用するウイルスもある.たとえば,イヌジステンパーウイルスは,シグナル伝達リンパ球活性化分子(signaling lymphocyte activation molecule: SLAM)のCD150を使用してリンパ系の細胞に感染する.これは,ウイルスの多臓器への拡散における重要なステップで,ネクチン4に付着して,ウイルスの排出を仲介する上皮細胞を標的にしている.受容体の発現は動的である場合がある.例えば,ノイラミニダーゼにより処理された動物は,ノイラミニダーゼ感受性受容体が再生するまでインフルエンザウイルスによる鼻腔内感染に対して防御することが実験的に示されている.特定のウイルスに対する受容体は通常,特定の臓器の特定の細胞型に限定して発現しており,これらの細胞のみが感染する場合がある.概して,これは,特定のウイルスの組織指向性および臓器指向性と,ウイルスによって引き起こされる疾病の病理発生の両方を説明している.

 細胞が感染を受けるかどうかを決定する要因は,受容体の存在だけではない.細胞が感染を受けるためには,受容体結合後にウイルス侵入をサポートする必要があり,ウイルスゲノムには,転写とゲノム複製に必要な因子が提供されなければならない.これらの要件は,すべての細胞型で満たされているわけではないため,ウイルスの指向性の決定要因といえる.例えば,パラミクソウイルスは,それらの融合タンパク質を活性化するために細胞外プロテアーゼを必要とし,融合タンパク質は付着後のウイルス侵入を媒介する.これは,ラットの細気管支の特殊な細胞(クララ細胞:Clara cell)が,肺における生産的なウイルス感染に必要なプロテアーゼを分泌するセンダイウイルスの場合に見られる.同様に,パピローマウイルス,レトロウイルス,およびいくつかのヘルペスウイルスは,ウイルス遺伝子の発現をサポートするために,宿主タンパク質とエンハンサーとして知られるウイルスゲノム要素との間の相互作用に依存する.ウイルスエンハンサーは,ウイルスまたは細胞遺伝子の転写効率を高める遺伝子活性化因子である.つまりそれらは,さまざまな細胞またはウイルスの部位特異的DNA結合タンパク質(転写因子)のDNA結合部位を表すモチーフを含む可能性のある短い,しばしば直列反復するヌクレオチド配列である.ウイルスのエンハンサーは,DNA依存RNAポリメラーゼ(DdRp)のプロモーターへの結合を増強し,それによって転写を加速する.ウイルスの個々のエンハンサー配列に影響を与える転写因子の多くは,特定の細胞,組織,または宿主動物種に限定されるため,それらがウイルスの指向性を決定し,特定のビルレンス因子として機能する場合がある.たとえば,パピローマウイルスのゲノムDNAには,ケラチノサイトでのみ,つまり,パピローマウイルスの複製が行われるこれらの細胞でのみ活性なエンハンサーが含まれている.


(9)ウイルスの体内拡散と標的臓器への感染のメカニズム

 ウイルス感染を侵入部位である体表面に制限する能力は,ウイルス感染の多臓器的伝播とは対照的に,ウイルスの排出,ひいては感受性動物の集団内での感染の伝播に大きな影響を及ぼす.ウイルスの視点から見ると,局所拡散に対する課題は,十分な数の上皮細胞に感染して,感染を確実にするレベルのウイルス量を排出する能力である.局所拡散の利点は,免疫系が感染経路を妨害する機会が比較的限られていることである.対照的に,多臓器拡散は,ウイルスの排出に関与する多くの身体表面にウイルスを導くことがあり,複製をサポートする表面積が,局所拡散によって達成できるよりもはるかに大きくなる場合がある.ウイルスが多臓器へ拡散する際の課題には,免疫系が感染サイクルを妨害する多くの機会,複数の細胞型に感染する能力,細胞変性効果と生存細胞のバランスが体全体への段階的な拡散をサポートするために必要となる.

 F・フェナー(Frank J. Fenner: 1914〜2010)は1949 年に,エクトロメリアウイルスを材料にして実験し,全身感染と疾患に至る一連の経過を初めて明らかにした.マウス集団の後肢の足蹠にウイルスを接種し,毎日の間隔でマウスの臓器におけるウイルス力価を測定した.フェナーは,潜伏期の間に,感染が段階的にマウスの体全体に広がることを示した.ウイルスはまず足蹠の組織で局所的に複製し,次にリンパ節で複製した.これらの部位で産生されたウイルスはその後血流へ侵入し,一次ウイルス血症を引き起こし,ウイルスを最初の標的臓器(臓器指向性),特に脾臓,リンパ節,および肝臓へ運んだ.標的臓器,すなわち脾臓と肝臓で産生されたウイルスは,ウイルスを皮膚や粘膜表面にまき散らす二次ウイルス血症を引き起こした.皮膚の感染により,黄斑および丘疹性の発疹が生じ,そこから大量のウイルスを流出し,別のマウスが接触曝露した.宿主内で感染が拡大し,宿主からのウイルス排出が始まり,最終的に組織の壊死を引き起こし,これが死因となった.このパターンはその後,獣医学関連の多くのウイルスで実証されており,免疫学的にナイーブ(未経験)の幼若犬のイヌジステンパーウイルス感染によって示されている.エアロゾル曝露後,イヌジステンパーウイルスは気道に付随するリンパ組織で複製し,胸腺や脾臓を含む全身のリンパ組織に一次ウイルス血症と感染を引き起こす.これは宿主のウイルス負荷を増幅し,複数の上皮の感染を伴う二次ウイルス血症を引き起こす.そのうちのいくつかはウイルス排出において非常に効率的であり(例:呼吸器,尿路上皮,および結膜粘膜),そのいくつか(例:外皮,歯原性上皮,胃粘膜)は排出および伝播において従属的またはまったく役割を果たさない.臨床症状はウイルス排出のピークと一致し,発熱はウイルスクリアランスを促進する獲得免疫応答の開始を示した.死亡した場合,免疫抑制と,二次感染(例:細菌性気管支肺炎)を促す粘膜バリアの損傷が組み合わさっていた.死は,二次ウイルス血症の副産物である脳におけるウイルス感染を反映している場合もある.


(10)上皮表面での局所的なウイルス拡散

 ウイルスは最初に侵入部位の上皮細胞で複製し,局所感染を引き起こし,多くの場合,子孫ウイルスがこれらの部位から環境へ直接排出される.上皮表面に沿った感染の広がりは,個々のウイルスに応じて,隣接する皮下組織およびそれを超えた広がりへ進行する場合としない場合とがある.

 皮膚では,パピローマウイルスやオルフウイルスなどのポックスウイルスは表皮に閉じ込められたままで,局所的な増殖性病変を誘発するが,ランピースキンス病ウイルスなどの他のポックスウイルスは,皮膚感染後に広く拡散し,他の臓器を巻き込む.呼吸器または消化器から体内へ侵入したウイルスは,粘膜上皮の広範な感染を急速に引き起こすことがあるため,これらの感染による疾患は,短い潜伏期の後に急速に進行する.哺乳動物では,ほとんどのインフルエンザウイルスおよびパラインフルエンザウイルスの感染後の気道,またはほとんどのロタウイルスおよびコロナウイルスの感染後の腸管の皮下組織への浸潤はほとんどまたはまったく起こらない.これらのウイルスはリンパ系へ入り,拡散するが,適切なウイルス受容体または切断活性化プロテアーゼや転写エンハンサーなどの他の許容細胞因子が上皮細胞に限定されているため,または他の生理学的制約により,通常はそうはならない.

 上皮表面へのウイルス感染の制限は,ウイルスのビルレンスや疾患の重症度の欠如と決して同一視すべきではない.ロタウイルスやコロナウイルスによる腸粘膜の損傷は局所的ではあるが,重篤な下痢を引き起こし,特に新生仔では致命的な下痢を引き起こすことさえある.同様に,インフルエンザウイルス感染は,肺に広範な損傷を引き起こし,急性呼吸窮迫症候群を引き起こし,場合によっては死に至ることがある.


(11)皮下への侵入とリンパ系による拡散


 一部のウイルスが上皮バリアを突破して皮下組織へ侵入する能力には,おそらくさまざまな要因が寄与している.これには,(1) 貪食性白血球,特に樹状細胞およびマクロファージ内でのウイルスの標的移動,および (2) 感染した上皮からのウイルスの方向性放出が含まれる.樹状細胞は,皮膚とすべての粘膜表面に豊富に存在し,自然免疫と獲得免疫の重要な第一線を構成している.遊走性樹状細胞(皮膚のランゲルハンス細胞など)は,上皮表面から粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue: MALT)への「トラフィック」であり,これには,扁桃やパイエル板などのリンパ組織,および隣接するリンパ節が含まれる.これらの移動性樹状細胞への感染は,ブルータングウイルス,アフリカ馬疫ウイルスおよびその他のオルビウイルスなどの拡散の原因となる場合がある.気道または腸管の内腔へのウイルスの方向性放出は,隣接する上皮細胞の表面への局所的な拡散と環境への排出を促すが,上皮細胞の側底面からの放出は,上皮下組織とその後のウイルスの侵入とリンパ,血液,または神経を介したウイルスの拡散を促進する.

 通常,ウイルスの侵入部位には局所的な炎症が起こり,その重症度は組織傷害の程度を反映している.炎症は,局所的な血流と血管の透過性,および白血球の輸送と活動に特徴的な変化をもたらす.一部のウイルスは,これらのイベントを利用して,この炎症に関与する細胞に感染し,局所的または全身的にそのウイルスの拡散を促すことがある.局所炎症は,節足動物ベクターの刺咬によって誘導されるウイルス接種部位での顕著な反応のために,節足動物媒介ウイルスによる病理発生にとって特に重要となる.


(12)血流を介する拡散:ウイルス血症

 血液は,ウイルスが体内で急速に拡散するための最も効果的な手段となる.感染後の血液へのウイルスの最初の侵入は一次ウイルス血症と呼ばれ,通常は臨床的には明らかではないが(不顕性),離れた臓器への播種につながる.主要な標的臓器でのウイルスの複製は,極めて高濃度のウイルスの持続的な産生につながり,二次ウイルス血症を引き起こし,体のさらに別の部分に感染を引き起こし,最終的に疾患としての臨床症状をもたらす.

 血液中では,ビリオンは血漿中を自由に循環するか,白血球,血小板,または赤血球に含まれるか,吸着している.パルボウイルス,エンテロウイルス,トガウイルス,フラビウイルスは通常,血漿中を単独で自由に循環する.白血球,一般にはリンパ球または単球に含まれるウイルスは,血漿中を自由に循環するウイルスほど容易に除去されないことがある.つまり,細胞随伴ウイルス(cell-associated virus)は抗体やその他の血漿成分から保護されている場合があり,ウイルスを宿す白血球が組織へ移動するときに「乗客」として運ばれる.個々のウイルスは,異なる白血球集団に対して指向性ないし親和性を示す.例えば,単球随伴ウイルス血症はイヌジステンパーの特徴であるのに対し,リンパ球随伴ウイルス血症はマレック病やウシ白血病の特徴である.赤血球随伴ウイルス血症は,アフリカブタ熱ウイルスおよびブルータングウイルスによる感染の特徴である.ブルータングウイルスと赤血球との会合は,免疫クリアランスを遅らせることによるウイルス血症の長期化と,ウイルスの生物学的ベクターとして機能する吸血性サシバエ(Culicoides)の感染の両方を促進する.ウマ伝染性貧血ウイルス,ウシウイルス性下痢ウイルス,ブルータングウイルスなど,かなりの数のウイルスが,ウイルス血症の際に血小板と結合する.この相互作用により,内皮細胞への感染が促進される.血小板と同様,好中球の寿命は非常に短い.好中球は強力な抗菌メカニズムを持っており,貪食したビリオンを含む場合があるが,感染することはめったにない.

 血液中を循環するビリオンはマクロファージによって継続的に除去されるため,ウイルス血症は通常,感染した組織から血液へのウイルスの継続的な導入がある場合,または組織マクロファージによるクリアランスが損なわれている場合にのみ維持される.循環している白血球自体がウイルス複製の部位となることもあるが,ウイルス血症は通常,肝臓,脾臓,リンパ節,骨髄などの標的臓器の実質細胞への感染によって維持される.アフリカ馬疫ウイルスやウマ動脈炎ウイルスによるウマの感染症では,内皮細胞やマクロファージおよび樹状細胞の感染によってウイルス血症が維持される.横紋筋および平滑筋は,ウイルス複製のまれな部位であり,宿主内のウイルス感染サイクルの完了に必須な標的臓器には該当しないが,それでもなお,筋肉の炎症に起因する症状のために臨床的観点から重要である(例: インフルエンザウイルス感染に伴う筋炎).

 血液媒介性ウイルスによって生じるウイルス血症の程度と標的組織へ侵入する能力との間には,一般に相関関係がある.特定の神経向性ウイルスは,脳内接種により病原性を示すが,末梢へ投与しても,神経系への侵入を促進するのに十分なウイルス血症の力価に達しないため,無害である.ただし,ウイルス血症を生成する能力と血流から組織へ侵入する能力は,ウイルスの2つの異なる特性である.たとえば,セムリキ森林ウイルス(および他の特定のアルファウイルス)の一部の株は,中枢神経系(CNS)へ侵入する能力を失っているが,神経侵襲性株によって生成されるウイルス血症と同等の期間と規模でウイルス血症を引き起こす能力を持っている.

 血液中を循環するウイルス,特に血漿中を自由に循環するウイルスは,マクロファージと血管内皮細胞という2つの細胞型に遭遇して,感染後の病理発生を決定する重要な役割を果たす.


(13)単球およびマクロファージとウイルスの相互作用

 マクロファージは,身体のすべての領域に存在する骨髄由来の単核貪食細胞である.その前駆体は,血液中の単球であり,白血球の中で最大である.単球は組織へ移動して,粘膜下結合織,脾臓と骨髄,肺胞,リンパ節と肝臓の類洞,および脳実質(すなわち,脳ミクログリア)に見られる正常なマクロファージ集団の一部になる.単球はまた,マクロファージ集団を補うために炎症部位へ移動する.マクロファージは一般に,微生物感染において宿主防御の役割を果たしていると考えられている.それらはウイルスを貪食して不活化することがあり,樹状細胞とともに,獲得免疫応答を開始させる抗原プロセシングおよび他の免疫細胞への提示において重要な役割を果たす.また,Toll様受容体などの特定の受容体を介して病原体関連分子パターン(「微生物シグネチャ」)の存在を検出できるため,自然免疫応答も開始する.Toll様受容体シグナル伝達は,ウイルスのビルレンスを制限するI型インターフェロンの産生の重要な基盤である.

 これらの防御的役割とは対照的に,マクロファージはウイルス感染の拡大や組織損傷に寄与することがある.一部のウイルスは,マクロファージに対して指向性を示し,そこで高レベルに複製する.ベネズエラウマ脳炎ウイルスはそのようなウイルスの1つであり,マクロファージでのウイルスの複製がウイルス血症のレベルを決定し,CNSへの侵入を促進する.マクロファージにおけるウイルス複製は,これらの細胞の自然免疫および獲得免疫による抗ウイルス作用を低下するため,間接的にウイルスの生産と拡散に寄与している.マクロファージでの生産的感染は,ウイルス抗原が肝細胞と肝臓の類洞マクロファージ(クッパー細胞)の両方で検出されるイヌにおけるイヌ伝染性肝炎ウイルス感染で示唆されているように,隣接する実質細胞への局所的なウイルス拡散を促す場合がある.マクロファージへのウイルス感染は,組織損傷の一因となる炎症反応を増強する.たとえば,エボラウイルスやブルータングウイルスによって引き起こされるウイルス性出血熱は,マクロファージや樹状細胞による組織壊死因子(TNF)などの炎症性および血管作動性メディエーターの誘導によって特徴付けられ,これらのサイトカインは疾患の病理発生に寄与する.マクロファージへのウイルス感染は,ウイルスの付着タンパク質と特定の宿主細胞の受容体との相互作用,または単にこれらの細胞が採用する食作用メカニズムの間接的な結果を反映している.マクロファージは効率的な食細胞であるが,この能力は,特定の微生物産物やインターフェロンγなどのサイトカインによって活性化された後,さらに強化される.マクロファージは,オプソニン化されたビリオン,特に抗体または補体分子によりコーティングされたビリオンを摂取する能力をさらに増強するFc受容体およびC3受容体を持っている.マクロファージにおいて複製できるウイルスの場合,抗体によるビリオンのオプソニン化は,抗体を介した感染を増強する場合があり,これはヒトのデング熱およびいくつかのレトロウイルス感染の主要な病原因子である.単球のウイルス感染は,この観点で考慮されるべきであり,これらの細胞が炎症反応の一部として組織へ移動する性質を利用することによって,または単に正常な常在マクロファージ集団を補充することによって,ウイルスの拡散に大きな影響を与えることがある.単球への感染は,レンチウイルス感染による病理発生とパラミクソウイルスによる神経浸潤について提案されたメカニズムにおける細胞随伴ウイルス血症の形態である.

 多くの場合,マクロファージとウイルスの相互作用による影響は,宿主に対する有害な役割と防御的な役割の観点から特定するのが困難である.マクロファージは機能が不均一であり,その位置と活性化状態によって著しく異なる場合がある.特定の組織または部位であっても,貪食活性およびウイルス感染に対する感受性が異なるマクロファージの亜集団が存在する.ウイルスとマクロファージによる相互作用の相違は,関与するウイルスのビルレンスの違い,同じウイルス種の個々の株,および宿主抵抗性の違いを説明している場合がある.


(14)血管内皮細胞とウイルスの相互作用

 血管内皮細胞の側底面は,血液組織界面を構成し,内皮細胞が無窓であり,タイトジャンクションによって結合されている場所で,ビリオンなどの粒子に対する障壁をなしている場合がある.バリア機能の程度は組織によって異なり,脳と眼で最も大きくなる.循環ビリオンによる実質への浸潤は,多くの場合,血流が最も遅く,血管壁が最も薄い毛細血管および細静脈で,そのような障壁を通過することにより成立する.ビリオンは,内皮細胞と小血管の間の側底面を通って受動的に移動したり,感染した白血球内で運ばれたり(いわゆる「トロイの木馬」機構),または内皮細胞に感染してこのバリアを通り抜けて,細胞の内腔面の感染と側底面からのウイルス放出を伴いながら「広がる」可能性がある.この問題は,中枢神経系(CNS)へのウイルスの侵入に関して研究されてきたが,全身感染の多くの組織への侵入にも適用される.

 内皮細胞の感染は,臨床的には明らかではない場合があり,それはウイルス拡散に関わる非細胞病原性感染を反映している.あるいは,内皮細胞の感染は,広範な出血や浮腫をもたらす血管損傷を特徴とし,いわゆるウイルス性出血熱の病理発生に寄与する場合がある.ウイルス誘発性内皮損傷は血管血栓症を引き起こし,広範囲に及ぶ場合は播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こす.しかし,組織壊死因子など,ウイルスに感染したマクロファージや樹状細胞によって産生される炎症性および血管作動性メディエーターも,ウイルス性出血熱における血管損傷の病理発生に寄与する場合がある.


(15)神経を介する拡散

 中枢神経系への感染は血行性の広がりの後に発生する場合があるが,末梢神経を介した侵入も重要な感染経路である.たとえば,狂犬病,ボルナ病,およびいくつかのアルファヘルペスウイルス感染症(例:Bウイルス脳炎,オーエスキー病(仮性狂犬病),およびウシヘルペスウイルス5型脳炎)などである.ヘルペスウイルスは,軸索細胞質でCNSへ移動することができ,そうしている間に,神経鞘のシュワン細胞にも順次感染する.狂犬病ウイルスとボルナ病ウイルスも軸索細胞質で中枢神経系へ移動するが,通常は神経鞘には感染しない.これらのウイルスの神経拡散には,感覚神経,運動神経,自律神経が関与する場合がある.これらのウイルスは求心的に移動するため,細胞間接合部を通過する必要がある.狂犬病ウイルスおよびオーエスキー病(仮性狂犬病)ウイルスは,シナプス接合部を効率的に通過できる.

 ヘルペスウイルスは,体表から感覚神経節へ,そしてそこから脳へ求心性に移動することに加えて,神経節から皮膚または粘膜へ遠心性に軸索を通って移動することができる.これは,潜在的なヘルペスウイルス感染の再活性化とその後の再発性上皮病変の生成と同じ現象である.軸索を介した遠心性拡散は,狂犬病ウイルスが脳幹から唾液腺へ到達するメカニズムでもあり,唾液腺感染はウイルス排出に重要である.

 ラブドウイルス(例:狂犬病ウイルスおよび水胞性口炎ウイルス),ヘルペスウイルス,およびパラミクソウイルスを含むウイルスは,侵入部位として鼻孔の嗅神経終末を使用することもある.それらは,嗅覚神経上皮細胞の特別な感覚末端へ侵入し,そこで局所感染を引き起こし,子孫ウイルス(またはウイルスゲノムを含む不完全ウイルス)を生産し,嗅神経の軸索形質内を脳の嗅球へ直接に移動する.


(16)ウイルス排出のメカニズム

 感染性ウイルス粒子の排出は,集団における感染の維持に不可欠である.上皮表面でのみ複製するウイルスの場合,感染性ビリオンの排出は,通常,ウイルスの侵入に関与する同じ器官から行われる.一般のウイルス感染では,排出はさまざまな部位で行われ,一部のウイルスは複数の部位から排出される.排泄物または分泌物に排出されるウイルスの量は,感染において重要である.極めて大量の感染物質が含まれていない限り,非常に低い濃度では影響がないかもしれない.しかし,一部のウイルスは非常に高濃度で生じるため,ウイルスを含んだ微量の分泌物または排泄物が次の動物宿主への感染を容易に引き起こす.腸内ウイルスは一般に,呼吸器系ウイルスよりも環境条件による不活化に対して耐性がある.特に水中に浮遊し,光から遮蔽されている場合,そのようなウイルスは環境中にしばらくの間,感染性を保ったまま存続する.

 インフルエンザウイルスやニューモウイルスなど,局所的な感染や気道の損傷を引き起こすウイルスは,粘液中に排出され,咳嗽の際に気道から排出される.ウイルスは,いくつかの全身感染症でも気道から体外へ出される.ロタウイルスなどの腸内ウイルスは糞便中に排出され,体液の排出量が多いほど,それらが引き起こす環境汚染が大きくなる.少数のウイルスは,感染した唾液腺(例:狂犬病ウイルスおよびサイトメガロウイルス)から,または呼吸器系の感染中に肺または鼻粘膜から口腔へ排出される.唾液の広がりは,舐める,鼻を鳴らす,毛づくろいする,噛むなどの行為によって異なる.唾液中へのウイルス排出は,特にヘルペスウイルスの場合,回復期またはその後も再発することがある.

 皮膚は,伝播が直接接触または小さな擦り傷を介して起こる病気の感染経路となる.皮膚病変は,いくつかの全身疾患で生じるが,皮膚は一般に,ウイルス排出の大きな源にはならない.例外的に,口蹄疫,水胞性口炎,ブタ水胞病などの水疱性疾患の場合,原因となるウイルスは,感染した動物の粘膜および皮膚内の小水疱で大量に産生される.小水疱が破裂した後,ウイルスはこれらの病変から排出される.羽毛包におけるウイルスの局在化は,感染したニワトリによるマレック病ウイルスの排出において重要である.

 糞便と同様に,尿は食物や環境を汚染する傾向がある.多くのウイルス(例:イヌ伝染性肝炎ウイルス,口蹄疫ウイルス,アレナウイルスなど)は,腎臓の尿細管上皮細胞で複製し,尿中に排出される.イヌジステンパーウイルスは,腎盂,尿管,膀胱の移行上皮で複製し,尿へのウイルス排出または「ウイルス尿症(viruria)」にも寄与する.ウイルス尿症は,ウマA型鼻炎ウイルス感染症では長期化し,齧歯類のアレナウイルス感染症では生涯続き,これらのウイルスによる環境汚染の主な様式を構成している.

 動物に重大な病気を引き起こすいくつかのウイルスは,精液中に排出され,交尾により伝播する.例えば,ウマ動脈炎ウイルスは,ウイルスが他の組織から消失した後も,外見的に健康なキャリア牡馬の精液中に数か月または数年にわたって排出されることがある.同様に,乳腺で複製するウイルスは乳汁中に排泄される.たとえば,ヤギ関節炎脳炎ウイルス,マウス乳癌ウイルス,一部のダニ媒介フラビウイルスなども同様である.サケ科魚類では,産卵された卵の周囲の液体に,伝染性造血器壊死ウイルスなどのウイルスが高濃度で含まれていることがあり,これは孵化場と野生の魚の個体群の両方において重要な感染源となる.

 通常の意味での「排出」ではないが,殺処分された動物の血液や組織は,ウイルス感染の重要な感染源と見なされなければならない.ウイルスを含んだ血液は,獣医師や病気の動物を診療または取り扱うヒトが使用する注射針やその他の器具を汚染する場合にも伝播の原因となる.同様に,ウイルスに汚染されたウシ胎仔血清を細胞培養に使用すると,生物学的製剤が同様に汚染されることがある.

 

(17)ウイルス排出のない感染

 ウイルス増殖の多くの部位は,自然な拡散の観点からは「終末」と見なされる.パラミクソウイルスの場合,脳の感染はウイルスの排出をもたらさないが,臨床的には重要である.伝播は,感染した神経組織や筋肉が肉食動物や雑食動物によって摂食された場合に発生する.同様に,ブタ熱やアフリカブタ熱は,汚染されたブタのくず肉を含む餌を食べさせることにより,さまざまな地域や国で感染が起きている.プリオン病は類似の例であり,イギリスでのウシ海綿状脳症の前例のない流行は,神経組織を含むウシの内臓を含む汚染された肉骨粉の給餌によってウシの間に広がったとされる.

 一部のウイルス,特にレトロウイルスやウシウイルス性下痢ウイルスは,生殖質内で直接伝播するか,鳥類の卵や発生中の哺乳類の胚の感染によって伝播する.水平伝播の欠如にもかかわらず,これらの垂直感染ウイルスは,環境中に排出されたウイルスと同じ目的,つまり,新しい宿主への感染と自然界での永続化をを達成する.


(18)ウイルス性傷害および発病のメカニズム

 ウイルスが宿主へ侵入すると,どのような場合でも,最小限の感染,拡散,排出が起こる.医学的な問題になるウイルス感染は,感染が組織の損傷,ひいては病気を引き起こす.組織の損傷は,宿主内でのウイルスの増殖または宿主間の感染を促すことがあり,ウイルスが特定の動物集団内で維持される場合,少なくともこのプロセスが妨げられない.ウイルス誘発性の細胞変性は,排出や感染を促す咳嗽などの炎症反応や生理学的反応を誘発する.下痢の誘発は,子孫ウイルスによる環境汚染を増強することによって伝播を促す手段となる.ウイルス誘発性の免疫抑制は,宿主によるクリアランスの試みを撹乱し,ウイルスの拡散に利する場合があるが,感染した宿主における微生物による二次感染の素因にもなる.組織損傷は,ウイルス感染細胞を標的とするアポトーシスまたは免疫応答を含む宿主防御機構を反映している.別の例では,宿主への損傷は,ウイルス複製の結果であり,感染の副産物を反映しており,感染に大きな影響を与えない場合がある.後者には,ウイルスが中枢神経系に感染し,胎仔や新生仔に先天性奇形を引き起こしたり,高齢動物に臨床的に重篤な炎症性疾患を引き起こしたりする例が含まれる.宿主動物種は,ウイルスが病気を引き起こす場合を考慮する際の重要なパラメーターであり,特定のウイルスがレゼルボアでは臨床的に不顕性感染にとどまり,ウイルスがあまり順化していない種では臨床疾患を引き起こすことがある.ウイルスによる組織損傷のメカニズムは,細胞または組織内でのウイルス複製の直接的な結果である場合は「直接的」と見なされ,損傷が宿主の免疫または炎症反応によって媒介される場合は「間接的」と見なされる.


(19)ウイルスと細胞の相互作用の種類

 ウイルスによる組織損傷は,ウイルスと細胞や組織との親和性,および感染細胞内の複製様式を反映する.前述のように,ウイルスの細胞指向性は,適切な細胞受容体の存在と,ウイルス遺伝子の発現と複製を助長する環境によって決定される.後者には,細胞型特異的なプロテアーゼ,転写因子,およびウイルス複製に必要なその他の因子の発現が含まれる.そのような環境があれば,細胞は感染を許容する.ウイルスは通常,自身の利益のために宿主細胞の機能を調節する遺伝子をコードしており,もちろん,宿主はウイルスの機能を制限する精巧な先天的防御を備えている.したがって,許容性(permissiveness)は,生来の抗ウイルス性メカニズムを阻害するウイルスの能力を反映している場合がある.感染の結果に影響を与えるウイルスおよび細胞要因は,多くの場合,微妙なバランスにあり,いずれかの方向に容易に変化する.

 細胞病原性感染は,生存に不可欠な細胞機能の喪失を特徴とする.細胞の変性および壊死またはウイルス誘発性アポトーシスは,細胞病原性感染の最終的な結果である.これらの感染は,細胞破壊性(「細胞死」を意味する)または細胞溶解性とも呼ばれる.非エンベロープウイルスの子孫の放出には細胞溶解が必要だが,エンベロープウイルスの子孫は生存細胞からの出芽によって放出される.細胞維持機能は,非細胞病原性感染でも維持されている.非細胞病原性感染は,細胞に特化した機能を破壊する場合,臨床的に重要な場合がある.

 たとえば,ニューロンの非細胞病原性感染はインパルス伝導の喪失を引き起こすことがあり,また,オリゴデンドロサイトの非細胞病原性感染はミエリン形成の喪失を引き起こす場合があり,どちらも感染細胞の生存にもかかわらず臨床的な神経疾患に寄与する.非細胞病原性ウイルスと細胞の関係は,細胞の生存,ウイルスを排除するための免疫機構の無力化,およびウイルスの遺伝情報の永続性を保証する低レベルのウイルス複製による持続感染を引き起こす場合がある.持続性は,子孫ウイルスの産生(生産的感染)または子孫ウイルスの不在(非生産的感染)に関連しているが,細胞病原性感染は一般に生産的である.生産的な持続感染は,キャリアー個体からウイルスを生涯排出することがあり,宿主内に継続的に感染の種をまき,慢性疾患の一因となる免疫反応および炎症反応を刺激する場合がある.

 潜伏感染は,ウイルスゲノムが転写されず,ウイルスタンパク質や子孫ウイルスが産生されないタイプの持続感染と見なすことができる.ウイルスゲノムは,宿主細胞のDNAへのウイルス核酸の組み込み,またはエピソームの形でのウイルス核酸の運搬のいずれかによって,無期限に細胞内に留まり,感染した細胞は生存し,繰り返し分裂する.そのため,潜伏感染は,ゲノムのDNAコピーを生成できるDNAウイルスまたはRNAウイルスによる感染に限定される.これらの感染症の臨床的意義は,ウイルスの遺伝子発現が定期的に再活性化され,ウイルスタンパク質と感染性の子孫ウイルスが産生されることである.これは,ヘルペスウイルスが潜伏感染したニューロンの場合に見られ,再活性化により子孫ウイルスが産生され,それが他の組織への細胞病原性感染によって増幅される.後述するように,腫瘍原性ウイルスによる持続感染または潜伏感染も細胞の形質転換につながる場合がある.


(20)ウイルス感染細胞における細胞変性

 細胞病原性ウイルスによる感染は,最終的に,宿主における高分子合成を妨げたり,分解酵素や毒性物質を産生したり,アポトーシスを誘導したりして,細胞を死滅させる.培養細胞における生産的な感染では,ウイルス複製の最初のラウンドで子孫ビリオンが生成され,培養液を介して広がり,隣接する細胞と離れた細胞の両方へ感染する.その結果,培養中のすべての細胞が最終的に感染する.その過程で細胞は,細胞変性効果(CPE)と呼ばれる形態学的な構造変化を示す.いくつかの細胞変性効果は,特定のウイルスに特徴的な外観を光学倒立顕微鏡により観察できるため,検査室で臨床分離株を同定する際の重要な予備的手がかりとなる.その他の変化は,感染したウイルスにさして特異的ではない細胞の生活活動の破綻を反映している.アポトーシス細胞は,光学顕微鏡観察により特徴的な外観を示すが,この宿主防御メカニズムは,多数のウイルス科のメンバーによって誘発される.同様に,細胞に対するウイルス誘発性の代謝および毒性傷害は,細胞の変性および壊死を伴う形態学的変化,すなわち多数の異なるウイルスによって引き起こされる多くの傷害の累積的影響をもたらす場合がある.細胞変性効果(CPE)は,ウイルス複製との関係に照らして検討する必要がある.例えば,特定のウイルス群に特有の変化がどの程度であり,その変化はウイルスの子孫を作り出す能力に影響を与えるかなどである.

 封入体は,細胞内でのウイルスによる転写およびゲノム複製の部位であり,染色した組織標本を光学顕微鏡観察することによって確認できる.核内で複製するDNAウイルスは,細胞機構をさまざまな程度に利用して,転写とゲノム複製を行う.宿主細胞のDNAは,ウイルスゲノムによって核マトリックスから追い出され,ウイルスの核酸とタンパク質の凝集体が蓄積するにつれて,核膜に沿ったクロマチンマージンが生じ,その結果,核内封入体が形成される.これは,感染していない細胞で観察される核構造とは異なる均一な染色性の集合体である.検査室において日常的に使用される染色は,タンパク質を赤色に,核酸を青色にそれぞれ染め分ける.核内封入体は通常赤色に染まり,ウイルスタンパク質含有量が高いことを示すが,残されたクロマチンは青色に見える.核内封入体は,ヘルペスウイルスおよびアデノウイルスに感染した細胞の特徴となる.しばしば,RNAウイルスは核小体として知られる構造を誘発する.これは核内封入体の一種であり,元は宿主由来であるが,ウイルスタンパク質が豊富にある.これらの構造は,細胞内でのRNAプロセッシングを調節すると考えられており,イヌジステンパーウイルス感染の核内封入体の基礎をなしている.細胞質内封入体は,細胞質で高レベルに複製するウイルスの典型であり,転写と複製に関与するウイルスゲノムの凝集体を反映している.細胞質内封入体は,ポックスウイルス,パラミクソウイルス,ラブドウイルス,およびレオウイルスの感染によって引き起こされる.これらの構造の診断上の重要性は,狂犬病ウイルスに感染したニューロンの「ネグリ小体」など,これらの封入体の一部が特定の名前で知られているという事実によって示されている.

 ウイルスのタンパク質合成は継続するが,宿主細胞のタンパク質産生の阻害は,多くのウイルス感染の特徴である.このシャットダウン(宿主タンパク質の合成阻害)は,ピコルナウイルス感染症では深刻であり,トガウイルス,インフルエンザウイルス,ラブドウイルス,ポックスウイルス,およびヘルペスウイルス感染症でも顕著である.他の一部のウイルスでは,シャットダウンは感染過程の後期に発生し,比較的緩やかで,ペスチウイルス,アレナウイルス,レトロウイルスなどの,細胞を死滅させないウイルスでは,宿主細胞のタンパク質合成の劇的な阻害はなく,細胞死も起こらない.ウイルスは,宿主細胞のmRNAへの転写,プロセシング,および翻訳を阻害する多数のメカニズムを進化させてきた.宿主細胞のDNA複製とmRNA転写の両方の阻害は,細胞機構がウイルスの鋳型へ切り替えられるときのDNAウイルス感染の結果である.阻害は,ウイルスの複製をサポートするためにヌクレオチドプールを維持し,さもなければ翻訳機構についてウイルスのmRNAと競合する細胞のmRNAレベルを減少させるという,ウイルスによるより広範な戦略を反映している.この現象は,ポックスウイルス,ラブドウイルス,レオウイルス,パラミクソウイルス,ピコルナウイルスなど,いくつかの異なるウイルス科のウイルスの複製中に観察される.場合によっては,この阻害は,DNA依存RNAポリメラーゼ活性に必要な転写因子の利用を低下させる,宿主細胞のタンパク質合成に対するウイルスによる影響の間接的な結果である.

 宿主細胞のmRNAのプロセシングと翻訳の阻害は,水胞性口炎ウイルス,インフルエンザウイルス,およびヘルペスウイルスの複製中に,成熟したmRNAを生成するために必要な細胞性mRNAの一次転写産物のスプライシングを妨害することによって行われる.場合によっては,スプライソソーム(spliceosome)は形成されるものの,その後の触媒ステップが阻害される.たとえば,ヘルペスウイルス感染細胞で合成されたタンパク質は,RNAスプライシングを抑制し,細胞性mRNAの量を減らし,mRNAの一次転写産物の蓄積を引き起こす.ウイルスは,宿主細胞のmRNAの転写とプロセシングを妨害するだけでなく,リボソームに結合して細胞性mRNAの翻訳を阻害する因子を産生する.ウイルスタンパク質は,小胞体からの細胞タンパク質の輸送およびプロセッシングを阻害し,この阻害によりタンパク質が分解される場合がある.この影響は,レンチウイルスおよびアデノウイルスの感染で知られている.インフルエンザウイルスは,細胞性mRNAの5'末端キャップ構造(キャップ構造は翻訳に必要)を除去してウイルス性mRNAの合成を開始する.他のウイルスは,翻訳を確実にするためにウイルス性mRNAを大量に生成し,その大量の作用によって細胞翻訳機構における細胞性mRNAを打ち負かしている.

 宿主細胞におけるタンパク質合成阻害とヌクレオチドプールの枯渇の累積的な影響は,細胞の恒常性を失わせ,一連の変性と壊死をもたらす.このプロセスは,ウイルス感染に非特異的であり,同様の変化が物理的または化学的傷害によっても誘発される.最も一般的な初期の可逆的変化は,混濁腫脹である.これは,核の腫脹,小胞体とミトコンドリアの膨張,および細胞質の希薄化につながる細胞膜の透過性の増加に基づく変化である.多くのウイルス感染の過程で,核は凝縮して収縮し,細胞質密度が増加する.細胞の破壊は,浸透圧の完全性が失われ,リソソーム酵素が細胞質へ漏出する結果であるとされている.このプロセスは,細胞死へのいわゆる一般的な終末経路と一致している.これらの非特異的な変化とは対照的に,細胞膜または細胞骨格の構造と機能を阻害するウイルスタンパク質によって誘発される害作用がある.

 細胞膜機能への干渉は,ウイルスの付着および侵入から,複製複合体の形成,ビリオンの組み立てまで,ウイルス複製の多くの段階における細胞膜の関与に影響を与える.ウイルスは細胞質膜の透過性を変化させたり,イオン交換や膜電位に影響を与えたり,新しい細胞質内膜(intracytoplasmic membrane)の合成や既存の膜の再編成を誘発したりする.たとえば,ピコルナウイルス,アルファウイルス,レオウイルス,ラブドウイルス,およびアデノウイルスの感染初期に,膜透過性の一般的な増加が起こる.細胞構造の初期の変化は,多くの場合,さまざまな細胞質膜の増殖によって制御されている.たとえば,ヘルペスウイルスは,核膜の合成の増加を引き起こす.フラビウイルスは小胞体の増殖を引き起こす.ピコルナウイルスとカリシウイルスは,細胞質内で小胞体の特徴的な増殖を引き起こす.また,多くのレトロウイルスは,細胞質膜の特異な融合を引き起こす.

 エンベロープウイルスは,融合タンパク質を含む表面糖タンパク質の出芽プロセスの一部として,宿主細胞膜への挿入を特異的に指令する.この活性は,ウイルスの膜糖タンパク質が細胞受容体と接触したときに融合タンパク質が活性化されるエンベロープウイルスに限定される.通常,このプロセスにより,感染開始時にビリオンのエンベロープと標的細胞の細胞質膜との融合が可能になり,ウイルスゲノムが細胞質へ侵入できるようになる.そして,ウイルス複製の過程で,ウイルスの出芽に備えて,これらの同じ融合タンパク質が感染細胞の細胞質膜に挿入される.ウイルスの膜糖タンパク質が隣接する細胞の受容体に結合すると,融合タンパク質が活性化されて,ある細胞膜と別の細胞膜との融合が引き起こされ,合胞体細胞が生じる.合胞体(シンシチウム)は,レンチウイルス,コロナウイルス,パラミクソウイルス,およびいくつかのヘルペスウイルスによる培養中の単層細胞での感染の顕著な特徴である.合胞体は,特にパラミクソウイルスの場合,罹患動物の組織でも観察されることがある.例えば,ヘンドラウイルスに感染したウマやウシRSウイルスに感染したウシなどに見られる.合胞体の形成は,ウイルスが組織内で拡散する手段とされている.融合ブリッジにより,ウイルスのヌクレオカプシドや核酸などが宿主の防御を回避しながら拡散することがある.このメカニズムは,特定の細胞型に限定される可能性が高く,融合イベントがシナプス内の非常に小さな細胞接触点に限定されるラブドウイルスおよびパラミクソウイルスのニューロンからニューロンへの拡散の手段に関与している.

 宿主細胞の細胞膜に挿入されたウイルスタンパク質(抗原)は,感染細胞の溶解を引き起こす特定の液性免疫および細胞性免疫の標的となる.これは,重要な子孫ウイルスが産生される前に生じることがあるため,感染の進行を遅らせたり止めたりして,回復を早めることができる.ウイルスの出芽に備えて,ウイルスの膜糖タンパク質の蓄積が感染サイクルの後期に起こるのはこのためである.これらのウイルスタンパク質は免疫クリアランスの標的となるが,宿主の応答が免疫介在性の組織損傷や疾患に寄与することもある.ウイルス抗原は,ウイルスによって形質転換された細胞の膜にも取り込まれ,例えばウイルス性乳頭腫の免疫介在性消散または退行において重要な役割を果たす.

 細胞表面に発現する膜糖タンパク質は,診断検査法開発の初期に利用された.これらのウイルスタンパク質の多くは,赤血球表面に発現する糖タンパク質に種特異的に結合することがある.インフルエンザウイルス,パラミクソウイルス,トガウイルスに感染した培養中の単層細胞は,いずれも細胞質膜からウイルスが出芽し,血球吸着と呼ばれる現象により赤血球を吸着する.ウイルスの膜糖タンパク質は,赤血球表面でリガンドの受容体として機能する.同じ糖タンパク質のスパイクが,in vitroでの血球凝集,つまり遊離ウイルス粒子による赤血球の凝集に関与する.血球吸着と赤血球凝集がウイルス性疾患の病理発生に影響することは知られていない.

 細胞骨格の破壊は,多くのウイルス感染の特徴である細胞形態の変化(円形化など)を引き起こす.細胞骨格は,マイクロフィラメント(アクチンなど),中間フィラメント(ビメンチンなど),微小管(チューブリンなど)など,いくつかのフィラメント系で構成されている.細胞骨格は,細胞の構造的完全性,細胞を介したオルガネラの輸送,および特定の細胞運動に関与している.特定のウイルスは,特定のフィラメントシステムに損傷を与えることがある.たとえば,イヌジステンパーウイルス,水胞性口炎ウイルス,ワクチニアウイルス,およびヘルペスウイルスは,アクチン含有マイクロフィラメントの解重合を引き起こし,エンテロウイルスは,微小管に広範な損傷を引き起こす.このような損傷は,多くの感染症で細胞溶解に先行する細胞の退行性変化に寄与している.細胞骨格のエレメントは,ウイルスの侵入,複製複合体と集合部位の形成,ビリオンの放出など,ウイルスの多くの複製過程でも使用される.

 アポトーシスは,プログラムされた細胞死のプロセスであり,子孫ウイルスの生産が完了する前にウイルス工場を排除するための最後の手段として宿主が活性化する細胞自殺のメカニズムである.ウイルスは,細胞機構を奪ったり,膜の完全性を破壊するなどの直接的な手段によってのみ細胞を死滅させ,最終的にウイルス感染細胞の死に導くと長い間考えられていた.しかし,アポトーシスが多くのウイルス感染の際に重要かつ一般的なイベントであることは明らかである.アポトーシスを引き起こす2つの異なる細胞経路があり,どちらも細胞死を媒介する宿主細胞のカスパーゼ酵素の活性化に至る(いわゆる処刑執行期(executioner phase)).カスパーゼは活性化されると,細胞自身のDNAとタンパク質の分解に関与する.死ぬ運命の細胞の細胞膜の変化は,食細胞による認識と除去を促進する.2つの開始経路は次のとおりである.

 1. 内因性(ミトコンドリア)経路. ミトコンドリア経路は,ウイルス感染による細胞損傷に続くミトコンドリア膜の透過性の増加の結果として活性化される.重度の損傷は,ミトコンドリア膜と細胞質ゾルの抗アポトーシス分子(Bcl-2など)とアポトーシス促進分子(Baxなど)の間の微妙なバランスを変化させ,ミトコンドリアタンパク質(シトクロムcなど)が細胞質ゾルに徐々に漏出し,そこでこれらのタンパク質が細胞カスパーゼを活性化する.

 2. 外因性(細胞死受容体)経路. 外因性経路は,組織壊死因子(TNF)受容体ファミリー(TNF,Fasなど)のメンバーである特定の細胞膜受容体の関与によって活性化される.したがって,組織壊死因子がその細胞受容体に結合すると,アポトーシスを引き起こす可能性がある.同様に,ウイルスに感染した細胞を抗原特異的に認識する細胞傷害性T細胞は,Fas受容体に結合し,デスドメイン(death domain)を活性化し,機能的なウイルス工場になる前に細胞を除去するカスパーゼ経路をトリガーする.


(21)非細胞病原性ウイルス感染

 非細胞病原性ウイルス感染は通常,ウイルスが複製する細胞を死滅させない.それどころか,感染した細胞がビリオンを生成および放出する持続感染を引き起こすことがあるが,恒常性を維持するために不可欠な細胞代謝は影響を受けないか,最小限に抑えられる.多くの場合,感染した細胞は増殖と分裂を続ける.このタイプの相互作用は,いくつかの種類のRNAウイルス,特にペスチウイルス,アレナウイルス,レトロウイルス,および一部のパラミクソウイルスに感染した細胞で起こる.それにもかかわらず,いくつかの例外(例:一部のレトロウイルス)を除いて,最終的に細胞死につながるゆっくりとした進行性の変化が存在する.宿主動物では,ほとんどの器官や組織で細胞の置換が非常に迅速に行われるため,持続感染の結果として細胞が徐々に脱落しても全体の機能には影響しない場合があるが,ニューロンなどの最終分化細胞は一度破壊されると置換されない.そして,持続感染した分化細胞は,特殊な機能を実行する能力を失うことがある.

 ペスチウイルス,アレナウイルス,ボルナウイルス,レトロウイルスなどは,宿主細胞のタンパク質,RNA,またはDNAの合成をシャットダウンせず,宿主細胞を急速に死滅させず,細胞の完全性にも,それらの基本的なハウスキーピング機能にも関連付けられていない重要な機能に影響を与えることにより,宿主に病態生理学的変化を引き起こすことがある.分化細胞の特殊な機能への損傷は,中枢神経系,内分泌系,免疫系などの複雑な調節機能,恒常性維持機能,および代謝機能に影響を与える場合がある.


(22)ウイルス感染に伴う組織および臓器の傷害

 ウイルス性疾患の重篤度は,培養細胞内の原因ウイルスによって引き起こされる細胞病理学の程度と必ずしも相関するわけではない.例えば,培養細胞内で殺細胞性を示す多くのウイルスは,in vivoで観察可能な変化を示さないが(例:多くのエンテロウイルス),in vitroで非殺細胞性を示す一部のウイルス(例:狂犬病ウイルス)は,動物に致命的疾患を引き起こす.さらに,影響を受ける臓器によっては,臨床症状を示さずに細胞および組織の損傷が起こることがある.細胞への損傷が臓器や組織の機能を損なう場合,これは骨格筋などの組織ではさして重要ではないが,心臓や脳などでは深刻な影響を与える.同様に,ウイルスによる炎症や浮腫は,肺や中枢神経系などの臓器に特に深刻な結果をもたらす.


(23)ウイルス感染と標的組織・臓器の傷害

 個々のウイルスが特定の標的臓器に傷害を引き起こすメカニズムは,各論において詳述する.したがって,ここでは,ウイルスが標的組織の傷害を引き起こす病原性メカニズムの概要を説明する.


 ① 呼吸器系のウイルス感染

 気道のウイルス感染は一般的であり,特に密集した環境で飼育されている動物では顕著である.個々のウイルスは,鼻腔から肺(終末気道および肺胞)まで,気道のさまざまなレベルで指向性を示すが,かなりの重複がある.呼吸器系ウイルスの指向性は,おそらく適切な受容体と細胞内転写エンハンサーの分布,ならびに物理的障壁,生理学的要因,および免疫パラメーターの反映である.たとえば,ピコルナウイルス科のウシ鼻炎ウイルスは鼻腔で複製するが,これは,その複製が低温で最適化されるためである.したがって,ウシ鼻炎ウイルスは軽度の鼻炎を引き起こすことがあるが,ウシRSウイルスは細気管支炎および気管支間質性肺炎の原因となる.一部のウイルスは,肺胞の内側を覆うI型またはII型上皮細胞に直接または間接に損傷を与える.肺胞I型上皮細胞への損傷が広範囲の場合,急性呼吸窮迫症候群につながるが,肺胞II型上皮細胞への損傷は,影響を受けた肺の修復と治癒を遅らせる.

 インフルエンザウイルスは,感染した哺乳動物の鼻腔と気道の両方で複製するが,組織特異的プロテアーゼによるヘマグルチニン切断が必要なため,インフルエンザウイルス感染は通常肺に限定される.しかし,H5N1亜型の強毒のインフルエンザウイルスは,肺を越えて広がり,重度の全身性感染症を引き起こすことがある.このウイルスが肺を逃れる能力は,肺胞の内側を覆うI型上皮細胞に対する指向性に関連している可能性があり,全身性疾患を引き起こす能力は,そのヘマグルチニンが多くの組織に存在するプロテアーゼによって切断されるという事実を反映している.鳥類でも同様に,強毒のいわゆる高病原性トリインフルエンザウイルスはヘマグルチニン切断部位にいくつかの塩基性アミノ酸を持っており,さまざまな組織のさまざまな細胞型のトランスゴルジネットワークに遍在するエンドペプチダーゼフリンによって細胞内で切断される.対照的に,弱毒のトリインフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質は,呼吸器および消化器に限定された組織限定プロテアーゼによって細胞外で切断される.

 呼吸器の最初に感染した部位に関係なく,ウイルス感染は通常,繊毛活動の局所的停止,内層粘液層の完全性の局所的喪失,および少数の上皮細胞の多発性破壊をもたらす.最初の損傷に続いて,粘膜内の上皮細胞の進行性感染,および炎症細胞の滲出および流入を伴う重症度の炎症が続く.フィブリンに富む炎症性滲出液と壊死細胞破片(変性した好中球と脱落した上皮)は,影響を受けた気道の内腔に蓄積し,その後閉塞し,重度の場合,低酸素症と呼吸困難を増強させる.生き延びた動物の粘膜は急速に再生され,獲得免疫応答が感染ウイルスを排除し,さまざまな期間にわたって(特定のウイルスに対して)再感染を防ぐ.

 気道のウイルス感染は,直接的な害作用に加えて,しばしば,鼻や喉の常在細菌叢を構成する細菌さえも,二次感染の素因となる.この素因は,ウイルスによる粘膜の損傷,または自然免疫の抑制の結果として,正常な粘液線毛クリアランスが妨げられることによって生じる.たとえば,Toll様受容体の細胞発現は,インフルエンザウイルス感染後に肺で抑制されるため,回復期の動物は,侵入した細菌を迅速に認識して中和することができないことがある.呼吸器ウイルスと細菌の間のこの潜在的な相乗効果は,輸送中や飼育場あるいはシェルターで発生する動物の過密によって悪化する.環境要因が組み合わさって,複数のウイルスや細菌による同時気道感染が促進されることがある.これらの複数微生物による感染は,ストレスによる免疫抑制,動物の排泄物からのアンモニア蒸気への曝露による繊毛鬱滞の誘発,およびエンベロープウイルスのエアロゾル感染を促す湿気の多い環境によって促進される.


 ② 消化器系のウイルス感染

 消化管の感染は,感染が胃腸に限定される腸内ウイルス(例:ロタウイルス,コロナウイルス,アストロウイルスなど)の摂取によって,または,特定のパルボウイルス(例:ネコ汎白血球減少症ウイルス,イヌパルボウイルス),ペスチウイルス(例:ウシウイルス性下痢ウイルス),およびモルビリウイルス(例:イヌジステンパーウイルス,牛疫ウイルス)による全身性感染の際の全身的な血行性拡散の結果として生じることもある.腸内ウイルス感染症は通常,短い潜伏期の後に胃腸疾患の急速な発症をもたらすが,全身性感染症は潜伏期が長く,通常,消化管の機能不全に限定されない臨床症状を伴う.

 ウイルス誘発性の下痢は,消化管粘膜の内側を覆う上皮細胞(腸細胞)の感染の結果である.ロタウイルス,アストロウイルス,および腸内コロナウイルスは,腸絨毛を裏打ちする成熟した腸細胞に特徴的に感染するが,パルボウイルスおよびペスチウイルスは,腸陰窩に存在する未熟で分裂している腸細胞に感染して破壊する.これらの感染症は,感染部位に関係なく,すべて腸粘膜の腸細胞を破壊してその吸収面を減少させ,吸収不良による下痢を引き起こし,それに伴って体液と電解質の両方を失わせる.腸内ウイルス感染症の病理発生は,ウイルスによる腸細胞の単純な破壊よりもさらに複雑である.たとえば,ロタウイルス感染は,ウイルスによる実質的な損傷がない場合でも,それ自体が腸への液体の分泌(腸の過剰分泌)を引き起こすタンパク質(nsp4)を生成する.授乳中の新生仔では,摂食したミルクからの未消化のラクトースが小腸を通過して大腸に到達し,そこで浸透圧効果を発揮し,体液の損失をさらに悪化させる.新生仔は,腸細胞の置換率が年長の動物ほど高くないため不利になる.重度の下痢の動物は,顕著な脱水,血液濃縮,重要な酵素と代謝経路を阻害するアシドーシス,低血糖,および全身電解質障害(通常,ナトリウムの減少とカリウムの増加)を発症することがあり,幼若な動物またはその他の障害のある動物では,下痢はたちまち致命的となる.

 経口経路で起こる腸内ウイルス感染は,通常,胃または小腸の近位で始まり,その後,空腸,回腸,および大腸へ順次影響を与える「波」のように尾側へ広がる.感染が腸を介して進行するにつれて,感染ウイルスによって破壊された吸収細胞は,腸陰窩からの未熟な腸細胞に急速に置き換えられる.これらの未熟な腸細胞の増加は,吸収不良および腸の過剰分泌(体液および電解質の損失)の一因となる.獲得免疫は,生き延びた動物の粘膜IgAおよび全身のIgG産生につながり,再感染に対する抵抗性を付与する.新生仔の腸内ウイルス感染は,細菌(毒素原性または腸管病原性大腸菌など)やクリプトスポリジウム属などの原生動物を含む他の腸管病原体による感染と関連していることが多く,これらの感染症の原因となる一般的な要因(過密,衛生状態の悪さ)が原因であると考えられる.


 ③ 皮膚におけるウイルス感染

 皮膚は,最初の感染部位であることに加えて,血流を介して二次的に侵されることがある.したがって,ウイルス感染に伴う皮膚病変は,乳頭腫のように局在するか,または播種する場合がある.動物では,全身性ウイルス感染の結果としての皮膚の紅斑(発赤)は,鼻,耳,足,陰嚢,および乳房などの露出した色素沈着していない無毛の領域で最も明瞭である.乳頭腫(疣贅)に加えて,ウイルスに感染した動物の皮膚に影響を与えるウイルス誘発性病変には,斑点(皮膚の平坦な変色した領域),丘疹(皮膚の隆起した領域),小水疱(液体で満たされた皮膚の盛り上がった水疱),および膿疱(白血球を含む皮膚の盛り上がった部分)がある.特定のウイルス科のウイルスは,特徴的な皮膚病変を生じる傾向があり,口腔および鼻粘膜,乳頭および生殖器,有蹄動物の蹄と皮膚の接合部に同様の病変を伴うことがある.小水疱は,家畜において,潜在的に通報を要する重要な疾患の特徴とされる皮膚病変である.特に,小水疱の形成は,口蹄疫およびそれに類似する他のウイルス性疾患の特徴であるが,ウイルスによって引き起こされない別の疾患でも小水疱が発生することがある.小水疱は,感染を受けた表皮内の浮腫液の蓄積,または皮下にある真皮(または粘膜下組織からの粘膜上皮)からの表皮の剥離に起因する個別の「水ぶくれ」である.小水疱は速やかに破裂し,限局性潰瘍を残す.丘疹は,ポックスウイルス感染の特徴である局所的(例:オルフウイルス)または播種性(例:ランピースキン病ウイルス)のいずれかの上皮増殖である.これらの増殖性および隆起した病変は,炎症性滲出液により広範囲に覆われることがある.

 皮下織の血管を含む全身の血管に広範な内皮損傷をもたらすウイルス感染は,皮下浮腫および紅斑または皮膚および他の場所(口腔および内臓を含む)の出血を引き起こすことがある.


 ④ 中枢神経系のウイルス感染

 中枢神経系(脳と脊髄)は,ウイルスがこれらの組織にアクセスできる場合,特定のウイルス感染によって深刻な,しばしば致命的な損傷を受けやすい.ウイルスは,神経を介して,または血液を介して,遠位部位から脳へ到達する.神経を介した拡散には,末梢神経終末または鼻腔内の嗅覚ニューロンの感染が関与し,続いて嗅覚神経の軸索による脳への直接的なウイルス輸送が行われることがある.血液を介して拡散するには,ウイルスは血液脳関門または血液脳脊髄液関門のいずれかを通過する必要がある.血液脳関門は,タイトジャンクションによって接続された無窓の内皮細胞により構成され,側底面と星状細胞により囲まれている.ウイルスは,内皮細胞の直接感染および隣接する星状細胞への感染の拡大によってこのバリアを通過するか,CNSまたは炎症反応の免疫監視に関与している白血球に感染した状態でバリアを越えて運ばれる.血液脳脊髄液関門は,脈絡叢の上皮細胞間のタイトジャンクションによって形成されている.脈絡叢は,脳室,脊髄の中心管,および脳と脊髄の両方の表面を覆う軟髄膜内を循環する脳脊髄液を生成する血管構造である.血流と脈絡叢の上皮細胞との間に障壁はなく,ウイルスが脈絡叢上皮細胞に感染できる場合,ウイルスは脳脊髄液経路を通って排出され,CNSに広く拡散する.これらの障壁を克服し,CNS感染を開始するウイルスの能力は,一括して神経侵襲性と呼ばれる.

 CNS内に多くのウイルスが存在すると,急速に拡散し,ニューロンやグリア細胞(星状細胞,ミクログリア,オリゴデンドロサイト)の進行性感染を引き起こすことがある.この能力は,神経毒力(neurovirulence)と呼ばれる.ウイルスは神経侵襲性が低い場合があるが,感染が始まると,高度の神経毒力を示す.トガウイルス,フラビウイルス,ヘルペスウイルス,またはその他のウイルスによって引き起こされるニューロンの細胞病原性感染は,ニューロンの壊死,ニューロンの食作用(神経貪食症),および炎症細胞の囲管性細胞浸潤を特徴とする脳炎または脳脊髄炎を引き起こす.髄膜の小血管は,単独で(髄膜炎),または脳および脊髄の炎症と組み合わせて(髄膜脳炎および髄膜脊髄炎),ウイルス誘発性のCNSの炎症に頻繁に関与する.対照的に,ニューロンへの強毒の狂犬病ウイルス感染は非殺細胞性であり,炎症反応を誘発しないが,ほとんどの哺乳類種に対して一様に致命的である.

 その他の特徴的な病理学的変化は,さまざまなウイルスや,ゆっくりと進行するプリオンによって引き起こされる.例えば,ウシのウシ海綿状脳症やヒツジのスクレイピーでは,ゆっくりと進行する神経変性と空胞化が見られる.対照的に,イヌジステンパーウイルスに感染したイヌのグリア細胞は,進行性の脱髄を引き起こす.

 ほとんどの場合,中枢神経系の感染は,ウイルスの生活史における終末感染とみなせる.重度の細胞病原性感染である場合は特に,ウイルスの排出や伝達は起こらない.伝達のためにニューロンをうまく使用するウイルスは少数であり,通常,非細胞病原性または細胞病原性の弱い感染を示す.狂犬病ウイルスが宿主内で感染サイクルを完了するには,ニューロンの非細胞病原性感染が必要である.狂犬病ウイルスは,生細胞の軸索輸送に依存して,侵入部位からCNSへ移動し,CNS内で広がり,CNSから唾液腺などの末梢器官へ広がり,子孫ウイルスを増幅して排出する.細胞死とそれに伴う炎症反応は,ウイルスがその宿主にあまり順化していない,より重度な細胞変性感染によりウイルスがこのサイクルを完了するのを妨げることがある.アルファヘルペスウイルス亜科は,末梢神経,特に後根神経節ニューロンに潜伏感染する.再活性化されると,感染は生産的(ウイルス産生を行う)であるが,ニューロンにとって非細胞病原性である.子孫ウイルスは,粘膜表面の上皮細胞に感染し,感染は増殖性と細胞変性の両方を伴う.


 ⑤ 造血系へのウイルス感染

 造血系には次のものが含まれる.(1) 骨髄組織,特に骨髄とそれに由来する細胞(赤血球,血小板,単球,および顆粒球).(2)胸腺,リンパ節,脾臓,粘膜関連リンパ組織,および鳥類では排泄腔滑液包を含むリンパ組織.

 リンパ球,樹状細胞,および単核貪食系の細胞(単球およびマクロファージ)を含む骨髄系およびリンパ系に存在する細胞はすべて,骨髄(または同等の造血組織)前駆体に由来する.したがって,これらの細胞および組織を「造血系」の下にグループ化することで,「リンパ網系」または「細網内皮系(RES)」などの歴史的な用語を省くことができる.これらの細胞のウイルス感染は,リンパ球と単核食細胞(血液単球,組織マクロファージ,樹状細胞)が獲得免疫に関与するため,免疫に大きな影響を与える.

 単核食細胞の感染と損傷は,子孫ビリオンの供給源として機能することに加えて,ウイルスに対する自然免疫と獲得免疫の両方を阻害することがある.知られている最も破壊的で致命的なウイルスのいくつかは,この指向性を示す(例:フィロウイルス,アレナウイルス,ハンタウイルス,アフリカ馬疫ウイルスやブルータングウイルスなどのオルビウイルス,リフトバレー熱ウイルスなどの特定のブニヤウイルス,ベネズエラウマ脳炎ウイルスなどのアルファウイルス,黄熱ウイルスなどのフラビウイルス).これらのウイルスによる感染は,最初の侵入の後,リンパ組織(リンパ節,胸腺,骨髄,パイエル板,脾臓の白髄)の樹状細胞やマクロファージによる取り込みから始まる.その後,ウイルスがこれらの組織に広がり,隣接するリンパ球の溶解や免疫機能障害を引き起こすことがある.

 ウイルス感染は,特定の後天性免疫不全または全身性免疫抑制のいずれかを引き起こすことがある.この現象の例は,ニワトリのファブリキウス嚢(鳥類のB細胞分化部位)の伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスによる感染に見られ,ファブリキウス嚢の萎縮とB細胞の欠乏につながり,これはファブリキウス嚢の摘出に相当する.その結果,深刻な影響を受けた鳥は,他の病原体に対する抗体媒介性免疫応答を発達させることができなくなり,サルモネラ菌によって引き起こされるような細菌感染や,大腸菌,およびその他のウイルスに対する感受性が高まる.

 全身感染を引き起こす他の多くのウイルス(例:ブタ熱ウイルス,ウシウイルス性下痢ウイルス,イヌジステンパーウイルス,ネコおよびイヌパルボウイルス),特に単核食細胞やリンパ球に感染するウイルスは,獲得免疫(液性および細胞性)を一時的ではあるが全体的に抑制することがある.感染した動物は,ウイルスによる免疫抑制の期間中,他の感染性因子によって引き起こされる病気に罹患しやすくなる.この現象は,特定の弱毒生ワクチンの接種後にも発生することがある.関係のない抗原に対する免疫応答は,そのような感染を受けている動物では減少または無効になる場合がある.

 ウイルス誘発性の免疫抑制は,ヘルペスウイルス,アデノウイルス,またはポリオーマウイルスによる潜伏感染の再活性化など,ウイルス複製の強化につながることがある.同様に,細胞傷害性薬物の投与または化学療法または臓器移植のための放射線照射による免疫抑制は,ヘルペスウイルスおよび潜在的に他のウイルスの再燃(recrudescence)の素因となる.


 ⑥ 胎仔のウイルス感染

 母親のほとんどのウイルス感染は,胎盤によって提供されるバリア機能により胎仔の感染にはつながらないが,母親における重度の感染は,胎仔の死亡や流産につながることがある.ただし,一部のウイルスは胎盤を通過して胎仔に伝播する.このような感染症は,適切なワクチン接種または以前の自然感染のいずれかの欠如の結果として,免疫を持たないウイルスに妊娠中に曝露した若い母牛で一般的に発生する.胎仔のウイルス感染の予後は,感染するウイルスの特性(ビルレンスと指向性)と,感染時の胎仔の妊娠期間に依存する.特に妊娠初期における胎仔の細胞溶解感染は,胎仔の死亡および吸収または流産を引き起こす可能性が高く,これは感染をした動物種にも依存する.この場合の流産は,妊娠が胎仔のプロゲステロン産生によって維持される種(ヒツジなど)で特に一般的であが,妊娠が母親由来のプロゲステロン(ブタなど)によって維持される経産種では,妊娠が早期に終了する可能性は低い.

 催奇形性ウイルスは,子宮内感染後に発育障害を引き起こす.催奇形性ウイルスによる妊娠動物への感染の結果は,器官形成の段階,CNSなどで形成された生物学的障壁の程度,および免疫能力の程度に影響を与える妊娠期間によって大きく影響される.発育中の胎仔の器官形成の重要な段階でのウイルス感染は,脳などの器官に定着する前の前駆細胞の破壊により,深刻な結果をもたらすことがある.たとえば,アカバネウイルス,キャッシェバレーウイルス(Cache Valley virus),シュマレンベルクウイルス(Schmallenberg virus),ウシウイルス性下痢ウイルス,ブルータングウイルスはすべて,先天的に感染した反芻動物に催奇形性の脳障害を引き起こすことがあり,ネコのパルボウイルス感染症も同様である.

 免疫能力は通常,妊娠中期までに発達するが,この時期より前のウイルス感染は,弱く効果のない免疫応答を引き起こし,ウシにおけるウシウイルス性下痢ウイルスの持続感染やマウスにおけるリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスの先天性感染などの出生後の持続感染を引き起こすことがある. .


 ⑦ その他の臓器のウイルス感染

 ほとんどすべての臓器が血流を介して何らかのウイルスに感染する可能性があるが,ほとんどのウイルスは,前述の要因(受容体の存在,細胞内およびその他の生理学的ないし物理的な感染決定要因)を反映する臓器指向性および組織指向性を示す.さまざまな臓器や組織における感染の臨床的重要性は,動物の生理的健全さに部分的に依存する.すでに述べた臓器や組織(気道,消化管,皮膚,脳と脊髄,造血組織)に加えて,心臓と肝臓のウイルス感染も特に深刻な結果をもたらす場合がある.肝臓は,ヒトの重度の肝疾患な原因となる多くの肝炎ウイルス(特に A型,B型,C型肝炎ウイルス)やその他のウイルス(黄熱ウイルスなど)とは対照的に,動物では比較的少数のウイルス感染の標的である.動物では,リフトバレー熱ウイルス,マウス肝炎ウイルス,イヌ伝染性肝炎ウイルスが肝臓に影響を及ぼし,胎仔感染後の流産誘発性ヘルペスウイルスのいくつか(例:ウシ伝染性鼻気管炎ウイルス,ウマヘルペスウイルス1型,オーエスキー病ウイルス)も同様である.ウイルス媒介性心臓損傷は,動物では比較的まれだが,ブルータングやその他の内皮向性ウイルス感染症,タイセイヨウサケやニジマスのアルファウイルス感染症に特徴的である.

 広範な血管損傷を引き起こすウイルスは,血管透過性の増加の結果として,播種性出血や浮腫を引き起こすことがある.いわゆるウイルス性出血熱における血管損傷は,内皮細胞のウイルス感染,または他の感染細胞,特に単核食細胞および樹状細胞からの組織壊死因子などの血管作動性および炎症性メディエーターの全身放出のいずれかから生じる.血管傷害を引き起こすウイルスには,デングウイルス,黄熱ウイルス,エボラウイルス,およびヒトのハンタウイルス感染症,および家畜のブルータングおよびアフリカ馬疫ウイルスが含まれる.広範な内皮損傷は,播種性血管内凝固の原因となる血栓症を引き起こす.これは,直接または間接に血管損傷を引き起こすさまざまなウイルスに感染した動物やヒトの死につながる一般的な経過である.逆説的だが,これらの感染個体は凝固因子の消費により大量に出血する.


(24)ウイルス性疾患における非特異的な病態生理学的変化

 ウイルス感染の悪影響の中には,ウイルスによる直接的な細胞破壊,免疫病理学,または感染のストレスに反応した内因性副腎グルココルチコイドの放出などの別の生理学的反応に起因しないものもある.ウイルス性疾患には,発熱,食欲不振,および倦怠感など,多くの漠然とした一般的な臨床症状が伴うことがある.感染に対する自然免疫応答の過程で生成されるサイトカイン(特にインターロイキン1)は,これらの症状のいくつかの原因となり,集合的に動物の行動を大幅に低下させる.ボルナ病ウイルスによって引き起こされるような,神経系の持続感染による潜在的な神経精神医学的影響は,あまり調べられていない.ボルナ病ウイルスの感染は,ニューロンの溶解性はないが,ラット,ネコ,およびウマの行動に奇妙な変化を引き起こす.


(25)ウイルス誘発性免疫病理学

 ウイルス感染細胞の除去が危険な生理学的結果(肝臓や心臓への損傷など)につながる場合,ウイルスに対する獲得免疫応答(抗体や細胞傷害性T細胞など)は理論的に有害である.ウイルス誘発性免疫病理の概念は,マウスモデルで得られた実験成績に基づいている.抗体介在性免疫応答(III型過敏反応とも呼ばれる)は,炎症と組織損傷を引き起こす抗原と抗体の複合体(免疫複合体)の沈着によって引き起こされる.免疫複合体は,ほとんどのウイルス感染の過程で血液中を循環する.免疫複合体の運命は,抗原に対する抗体の比率に依存している.ウイルスは,通常,循環ウイルスと比較して抗体が過剰に存在する場合,または同量の抗体とウイルスが存在する場合でも,組織マクロファージによって除去される.ただし,一部の持続感染では,ウイルスタンパク質(抗原)やビリオンが継続的に血液中に放出されるが,抗体応答は弱く,抗体の結合活性が低くなる.これらの例では,免疫複合体は,フィルターとして機能する毛細血管,特に腎糸球体の血管に沈着する.免疫複合体は,数週間,数か月,さらには数年にわたって糸球体に沈着し続け,それらの蓄積とそれに続く免疫複合体介在性糸球体腎炎につながる.この現象は,アリューシャンミンク病(パルボウイルス感染症),ネコ白血病,ウマ伝染性貧血で見られる.

 同様の病理発生が,ネコのコロナウイルス感染による多臓器性疾患であるネコ伝染性腹膜炎の進行の根底にある.T細胞性免疫応答(IV型反応または遅発性過敏反応とも呼ばれる)は,リンパ球性脈絡膜髄膜炎ウイルス感染のマウスモデルで実証されている.


(26)ウイルスと自己免疫疾患

 決定的な証拠はほとんどないが,ウイルス感染が動物およびヒトの自己免疫疾患の原因となる可能性が提唱されている.この現象について提案された仮説的メカニズムは,ウイルス感染によって引き起こされる制御されていないか誤った方向に向けられた免疫応答,または病原体と宿主細胞上の共有または同等の抗原の存在(分子模倣)に焦点を当てている.A群レンサ球菌感染によって引き起こされるヒトのリウマチ性心疾患によって示されているように,分子模倣は明らかに微生物感染によって引き起こされる免疫介在性疾患の原因である.ウイルスでは,個々のエピトープがいくつかのウイルスで同定されており,筋肉や神経組織などにも存在する(ミエリン塩基性タンパク質など).これらのエピトープに対する抗体は,ウイルス感染の過程で免疫を介した組織の損傷に寄与する可能性があるが,自己免疫疾患の開始と増強における病因学上の役割は不明である.


(27)持続感染と組織や臓器の慢性的損傷

 持続感染は,さまざまなウイルスによって引き起こされ,動物の感染症では一般的である.それぞれの標的臓器に限局したままの一過性感染を引き起こす腸内ウイルスおよび呼吸器ウイルスとは別に,ウイルス感染のほとんどのカテゴリーに持続感染の例がみられる.たとえば,口蹄疫は,通常,急性の自然治癒性感染症だが,疫学的な意義が不明なキャリア状態を発生し,ウイルスが回復期のごく少数の動物の咽頭に留まることがある.免疫不全ウイルスによる感染などの症例では,感染の急性症状がわずかまたは無症状であっても,ウイルスによる持続感染が慢性疾患につながる.持続感染は多くの場合,最終的に,免疫介在性の継続的な組織損傷につながることがある.

 ウイルスによる持続感染は,いくつかの理由で重要である.例えば,それらは再活性化され,個々の宿主に疾患の再発を引き起こすか,あるいは免疫介在性疾患または腫瘍形成につながる場合がある.持続感染により,ワクチン接種後でも,個々の動物や集団に特定のウイルスが生き残ることがある.同様に,持続感染は疫学的にも重要である.これは,ウイルスの長距離輸送や,特定の集団,地域,または国からのウイルスの除去後の再導入における感染源となる.

 持続感染は,いくつかの方法で明らかになる.進行中の疾病があるかどうかにかかわらず,ウイルスが継続的に認められる持続感染がある.症状は遅れて現れることがあり,多くの場合,免疫または腫瘍誘発に基づいて判明する.他の例では,持続感染した動物では症状が明らかではない.たとえば,ヒトのハンタウイルス肺症候群の病原体であるシンノンブルウイルスのレゼルボア(自然宿主)のシカネズミ(Peromyscus maniculatus)は,生涯にわたって,中和抗体に直面しても,尿,唾液,および糞便にウイルスを排出する.

 持続感染の多くは,CNSに関係している.ニューロンとグリアによる抗原提示の制限と制御性T細胞の活動が組み合わさって,CNSの免疫応答を厳密に制御している.この調節は,免疫および炎症反応が最終分化ニューロンおよびミエリン産生細胞の高度に特殊化された機能を妨害しないことを保証するために重要である.ミエリンには,自己免疫応答を誘発できる独自の抗原も含まれており,CNSにおける免疫応答の調節の重要性がさらに強調される.この環境はウイルスにとって免疫監視を回避する絶好の機会となり,ニューロンやグリアはウイルスの遺伝子発現に対して限られた許容性を示すことが多く,非細胞病原性持続感染に有利となる.

 潜伏感染は,再活性化が起きた場合を除いて,感染性ウイルスが証明されない持続感染状態である.例えば,伝染性膿疱性外陰腟炎(ウシヘルペスウイルス1型によってウシに引き起こされる性感染症)では,再燃性病変がある場合を除いて,潜伏感染したキャリア牛からウイルスを分離することは通常できない.ウイルスの潜伏は,細胞を死滅させる能力をもつ遺伝子の発現を制限することによって維持されている可能性がある.潜伏中のヘルペスウイルスは潜伏の維持に必要ないくつかの遺伝子,特にいわゆる潜伏関連転写産物のみを発現する.再活性化はしばしば免疫抑制やサイトカインやホルモンの作用によって刺激され,ウイルスゲノム全体が再び転写される.この戦略は,潜伏状態にあるウイルスを,通常はウイルス除去をもたらすすべての宿主免疫作用から保護している.

 ウイルスと細胞またはウイルスと組織の相互作用の動的な関係により,ウイルスの持続感染に関してさまざまな臨床症状がみられる.遅発性ウイルス感染とは,感染の開始が無症状であり,ウイルスが持続感染するにつれて病気の証拠が構築され,ゆっくりと進行する病気を表すために使用される臨床用語である.持続感染は,ウイルス量と抗原発現の漸進的な増加,および疾患の基礎となる炎症反応と免疫応答に影響する.レトロウイルス感染によって引き起こされるヒツジのビスナ/マエディは,遅発性ウイルス感染症の例である.慢性疾患では,感染の開始(すなわち,急性症状)の証拠があり,潜伏期の後に疾患がより急速に進行する持続性の臨床症状が続く.中枢神経系におけるイヌジステンパーウイルス感染は,急性の多臓器性感染に続く慢性疾患として顕在化するが,いつ感染したのかが特定されない場合があり,遅発性ウイルス感染の場合と同様に,臨床的な神経症状が出現するまでの潜伏期が長くなることがある.定期的な再活性化を伴う潜伏期を経るウイルス感染は,同様に慢性疾患として現れることがある.これらの例は,ウイルスの有無やさまざまなウイルス組織相互作用を個別に考慮する場合,宿主のウイルス感染を説明するためにこの臨床用語を使用することの限界を浮き彫りにしている.この点をさらに説明するために,原因となるウイルスの継続的な複製が疾病の進行に関与していない,急性感染症が後期の臨床症状を示す例がある.たとえば,ネコ汎白血球減少症ウイルスによる胎仔感染の結果として幼若ネコに発生する小脳形成不全症候群では,神経学的損傷が診断された時点でウイルスが分離されることはない.実際,このため,小脳症候群は長年,遺伝性の奇形と考えられていた.さらに,いくつかの持続感染は,これらのカテゴリーの複数の機能を備えている.たとえば,すべてのレトロウイルス感染は持続性であり,ほとんどが潜伏感染の特徴を示すが,それらが引き起こす疾患は,感染後に遅延するか,ゆっくりと進行する疾病としてのみ現れる.

 個々のウイルスは,in vivoで宿主の免疫および炎症反応をうまく回避するために,驚くほど多様な戦略を採用している.これらのメカニズムには,免疫原性タンパク質の発現を伴わない非殺細胞性感染,免疫系細胞での複製,または宿主の自然免疫および獲得免疫の破壊,および非許容細胞(non-permissive cell),休止細胞,または未分化細胞の感染が含まれる.一部のウイルスは,ウイルスが誘発する抗体による中和を回避するための戦略を進化させてきた.たとえば,エボラウイルスは,分泌したウイルスタンパク質を「免疫おとり」として,中和抗体に結合させることにより中和を免れている.フィロウイルス,アレナウイルス,ブニヤウイルス(リフトバレー熱ウイルスなど),および一部のアルテリウイルス(ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス,乳酸脱水素酵素上昇ウイルスなど)の表面糖タンパク質は高度にグリコシル化されており,これらのタンパク質に含まれる中和エピトープをマスクする働きをしている場合がある.抗原ドリフトは,RNAウイルスの持続感染,特にレンチウイルス(ウマ伝染性貧血ウイルスなど)に特徴的である.持続感染の間,連続する抗原変異株が生成され,連続的な各変異株は,前の変異株に対して引き起こされた免疫応答を回避するのに十分なほど変異している.ウマ伝染性貧血では,臨床症状が定期的なサイクルで発生し,各サイクルは新しいウイルス変異株の出現によって開始される.免疫排除からの回避メカニズムを提供することに加えて,それぞれの新しい変異株は,その前の変異株よりもビルレンスが強くなることがあり,これは疾患の重症度と進行に直接影響を与える.

 宿主の生殖系列細胞のゲノムへのレトロウイルスのプロウイルスDNAの組み込みは,ある世代から次の世代への無期限の維持を保証する.このようなプロウイルスDNAは,腫瘍の誘発(発癌)にもつながる.


(28)ウイルス誘発性腫瘍形成

 新生物(neoplasm)は,少数または単一の遺伝的に改変された前駆細胞に由来する細胞の成長調節異常の結果として生じる.したがって,新生物は多くの場合,いくつかの細胞型で構成されているが,それらは単一細胞のオリゴクローナルまたはモノクローナル増殖に由来すると考えられている.新形成(neoplasia)の原因となる遺伝子変化は,自然に発生する突然変異,化学的または物理的因子,あるいはウイルスを含む感染性因子によって引き起こされる場合があるが,すべて共通の細胞経路が関与している.

 1908年にV・エラーマン(Vilhelm Ellerman: 1871〜1924)とO・バング(Oluf Bang: 1881〜1937)が鳥類白血病の,また1911年にP・ラウス(F. Peyton Rous: 1879〜1970)が鳥類肉腫のウイルス性病因をそれぞれ発見したことは,長い間,注目されていなかった.しかし,これらの鳥類のウイルスおよびマウスのレトロウイルスの研究により,腫瘍形成(新形成)に関する全体的な理解が大幅に深まり,1950年代以降,哺乳類,鳥類,両生類,爬虫類,魚類のさまざまな良性および悪性新生物において,個別のウイルスを明確に原因とみなす発見が着実に進んでいる.多くの鳥類レトロウイルスは家禽の病原体であり,いくつかのDNAウイルスがヒトや動物の癌の原因であることが確認されている.

 ウイルス誘発性新形成について議論するには,一般に使用されるいくつかの用語を定義する必要がある.新生物は,良性または悪性である新規の成長(同義語:腫瘍)である.新形成は,新生物の形成につながるプロセスを指す(同義語:腫瘍発現・発癌).腫瘍学は新形成と新生物の研究である.良性新生物は,局所的なままで隣接組織へ侵入しない異常な細胞増殖によって生じる成長である.対照的に,悪性新生物(類義語: 癌・悪性腫瘍)は局所的に侵襲性であり,体の他の部分へ広がることがある(転移).癌腫が上皮細胞起源の癌であるのに対し,肉腫は間葉系起源の細胞から発生する癌である.リンパ系の固形新生物は,リンパ肉腫,悪性リンパ腫,またはリンパ腫と呼ばれるが,白血病は,癌細胞の循環を特徴とする造血系起源の癌である.


(29)新形成の細胞基盤

 新形成(腫瘍形成)は,化学的または物理的損傷,あるいはウイルス感染等に起因する遺伝子損傷の結果である.しかし,一部の癌は,自然発生的な遺伝子変異の蓄積によってランダムに発生する.新生物は,通常,次の4種類の正常な調節遺伝子の1つにおいて,遺伝子損傷を受けた細胞のクローン性増殖に起因する.

 (1) 成長と分化を調節する細胞遺伝子である癌原遺伝子(proto-oncogene).

 (2) 細胞周期を調節することによって増殖を阻害する腫瘍抑制遺伝子.

 (3) アポトーシス(プログラム細胞死)を調節する遺伝子.

 (4) DNA修復を媒介する遺伝子.

 発癌は,複数の突然変異の累積的な影響から生じる多段階の進行を伴う.

 そして,新生物は発生すると,次のようになる.

 (1) 外部刺激なしで増殖する能力があるという点で,自給自足である(たとえば,制御されていない癌遺伝子の活性化の結果として).

 (2)トランスフォーミング増殖因子やサイクリン依存キナーゼなど,細胞周期のさまざまな段階で細胞の秩序だった進行を正常に制御するなど,増殖を制限する正常な制御シグナルに鈍感である.

 (3) 抗アポトーシス分子の活性化またはp53などのアポトーシスのメディエーターの阻害のいずれかによるアポトーシスに対する抵抗性.

 (4) 無限の複製の可能性.癌は,離れた組織へ侵入して広がる能力(転移)を持っている場合があり,新生物は通常,その成長を支える新しい血管の増殖を促進する.

 原因に関係なく,腫瘍形成は無秩序な細胞増殖の結果である.細胞増殖中の一連のイベントでは,成長因子がその特定の細胞受容体に結合し,最終的に核転写をもたらすシグナル伝達を引き起こす.これにより,細胞は,細胞周期に入り,分裂が進む.癌原遺伝子は,正常な細胞の増殖と分化で機能するタンパク質をコードする正常な細胞遺伝子である.それには,(1) 成長因子.(2) 成長因子受容体.(3) 細胞内シグナルトランスデューサー.(4) 核転写因子.(5) 細胞周期制御タンパク質が含まれる.癌遺伝子は,それらの正常細胞の原癌遺伝子対応物の突然変異によって誘導され,癌遺伝子の発現は,新生物細胞の自律的(無秩序な)増殖を媒介する癌タンパク質の産生をもたらす.

 癌の発生(悪性新形成)は,複数の突然変異の蓄積を反映する長期にわたる多段階プロセスである.潜在的な新生物細胞は,アポトーシスを回避し,他の細胞からの成長シグナルの要求を回避し,免疫学的監視から逃れ,自身の血液供給を組織し,場合によっては転移しなければならない.したがって,ラウス肉腫ウイルスのような急速に形質転換するレトロウイルスによって誘発されるもの以外の腫瘍は,一般に,単一のイベントの結果として発生するのではなく,細胞分裂調節の漸進的な喪失につながる一連のステップによって発生する.

 ウイルスゲノムの一部が腫瘍組織内に存在し,一部のウイルス遺伝子が腫瘍組織内で発現している場合,そのウイルスは腫瘍ウイルスとして分類される.試験管内(in vitro)では,腫瘍ウイルスによる培養細胞の感染は,特定のウイルス遺伝子によって引き起こされる形質転換を引き起こす.実験動物の感染は,ワクチン接種によって予防可能な腫瘍形成につながるが,このような実験は,ほとんどのヒトウイルスが齧歯類に感染しないため実施できない.発癌性のDNAウイルス(パピローマウイルス,ポリオーマウイルス,ヘルペスウイルスなど)およびRNAウイルス(レトロウイルス)は,動物とヒトの両方で確認されている.DNAウイルスは,腫瘍抑制遺伝子を阻害することによって新形成を引き起こすことがあるが,RNAウイルスは通常,癌原遺伝子を活性化して新形成を誘発する.欠陥のないレトロウイルスによって形質転換された細胞も,あらゆる種類のウイルスタンパク質を発現し,新しいビリオンがその細胞膜から出芽する.対照的に,DNAウイルスによる形質転換は,ウイルスDNAが形質転換細胞のDNAに組み込まれる非生産的感染を受けている細胞で起こるか,あるいはパピローマウイルス,ポリオーマウイルス,およびヘルペスウイルスの場合は,ウイルスDNAがエピソームのままである.特定のウイルス特異抗原が,形質転換細胞で実証されている.


(30)発癌性RNAウイルス(レトロウイルス誘発性腫瘍形成)

 レトロウイルスは,ヒト以外の霊長類,ウシ,ネコ,マウス,および鳥類などを含む多くの動物種における腫瘍形成の重要な原因となる.レトロウイルスによる病理発生は,それらが宿主細胞のゲノム内に組み込まれ,それによって感染性突然変異原となることに基づいている.このような組み込みは,ほとんど無害であり,臨床的に顕著でなく,発癌をもたらすことはめったにない.レトロウイルスは生物学的に外来性(水平感染性)レトロウイルスまたは内在性レトロウイルスに分類される.レトロウイルスは,複製可能または複製欠陥のいずれかである.発癌性レトロウイルスは,急性形質転換レトロウイルスまたは慢性形質転換レトロウイルスとして分類される.これら2つのタイプの形質転換レトロウイルスは,著しく異なる方法により腫瘍を誘発する.


 ① 急性形質転換レトロウイルス

 急性形質転換レトロウイルスは,マウスや鳥類に感染し,ウイルス性癌遺伝子(v-onc)を運ぶことにより発癌性を直接発揮するもので,「形質導入」レトロウイルスとして分類される.レトロウイルスのv-oncは宿主の細胞性癌遺伝子(c-onc)に由来し,v-oncの形質転換活性は突然変異によって強化される.そのような突然変異は,ウイルスの逆転写酵素のエラー率が高いことを反映している.他のウイルス性癌遺伝子は,突然変異とは無関係に,(ウイルスプロモーターからの)過剰発現によって細胞の形質転換を単に誘発している場合がある.獲得されたこれらの遺伝子は細胞シグナル伝達ネットワークの構成要素であり,ウイルス腫瘍タンパク質の産生を強力に促進し,通常の細胞腫瘍タンパク質の産生を容易に凌駕する.その結果,細胞増殖が制御されなくなるこがある. c-oncは v-oncの起源であるため,c-oncは「癌原遺伝子」とも呼ばれる.急性形質転換レトロウイルスが宿主ゲノムに組み込まれる場合,これらのウイルスに感染した細胞で発生する急速な悪性化の直接的な原因は v-oncである.60を超える異なるv-oncが特定されており,レトロウイルスはそれらの細胞性ホモログの特定に役たっている.

 v-oncは通常,ウイルスのゲノムRNAに組み込まれ,1つまたは複数の正常なウイルス遺伝子の一部を置き換えている.そのようなウイルスはウイルス遺伝子配列の一部を失っているため,通常は複製できず,したがって「欠陥のある」レトロウイルスと呼ばれる.例外は,ラウス肉腫ウイルスである.そのゲノムには,機能するウイルス遺伝子(gag,pol,および env)の完全性に加えて,ウイルス性癌遺伝子としてのv-srcが含まれている.したがって,ラウス肉腫ウイルスは,複製能力を備えた急性形質転換ウイルスである.ラウス肉腫ウイルスは,知られている中で最も急速に作用する発癌ウイルスの1つであり,培養細胞を1日ほどで形質転換し,ニワトリに感染後わずか2週間で新形成と死を引き起こす.欠陥のあるレトロウイルスは,感染性ビリオンの形成に欠陥のない「ヘルパー」レトロウイルスを利用することにより,複製能力を回復する.したがって,欠陥のあるウイルスの複製は,欠けている機能(たとえば,安定したエンベロープ)を提供するヘルパーウイルスによって「レスキュー」される.

 v-oncはレトロウイルスの複製を阻害することがあるが,v-oncはプロウイルスによって時間の経過とともに獲得されることがあり,それはv-onc含有細胞を増幅する細胞増殖への影響による.細胞増殖は,v-onc を含む欠陥ウイルスを救出(レスキュー)できるヘルパーウイルスの複製にも有利に働くため,宿主内でのv-oncの直接的なウイルス拡散が促進される.

さまざまなv-oncとそれらがコードするタンパク質は,主要なクラスに割り当てることができる.例えば,成長因子受容体およびホルモン受容体(v-erbBなど),細胞内シグナルトランスデューサー(v-rasなど),および核転写因子(v-junなど)である.さまざまなレトロウイルスのv-oncの腫瘍タンパク質産物は,さまざまな方法により,細胞の成長,分裂,分化,恒常性に影響を与える.

 1. v-oncは,通常,対応するc-oncのうち,mRNAに転写される部分のみを含んでいる.ほとんどの場合,真核生物の遺伝子に特徴的なイントロンを欠いている.

 2. v-oncは,通常のプロモーターやc-oncの発現を調節する他の配列など,遺伝子発現を正常に制御する細胞内環境から隔離されている.

 3. v-oncはウイルスの長い末端反復(LTR)の制御下にあり,これは強力なプロモーターであるだけでなく,細胞調節因子の影響も受ける.mycやmosなどの一部のレトロウイルスのv-oncでは,ウイルスのLTRの存在が腫瘍誘発に必要なすべてである.

 4. v-oncは,それらのタンパク質産物の構造を変化させる突然変異(欠失および再編成)を受けることがある.このような変化は,正常なタンパク質間相互作用を妨害し,正常な調節を損なう.

 5. v-oncは,その機能が変更されるような方法で他のウイルス遺伝子に結合する.例えば,アベルソンマウス白血病ウイルス(Abelson murine leukemia virus)では,v-ablがgagタンパク質との融合タンパク質として発現される.この配置は,融合タンパク質を,Ablタンパク質が機能する細胞質膜に向かわせる.ネコ白血病ウイルス(feline leukemia virus)では,v-oncのfmsもgagタンパク質との融合タンパク質として発現するため,細胞膜にFms腫瘍タンパク質を挿入する.

急性形質転換レトロウイルスによる感染は,すべての感染細胞の形質転換につながる場合があり,したがって非常に急速な腫瘍の発生につながる(場合によっては数日以内).


 ② 慢性形質転換レトロウイルス

 慢性的な形質転換レトロウイルスは,体細胞のゲノムへの組み込みを介して新形成を誘発する.最近の研究は,組み込み部位の選択性が個々のレトロウイルス種に特異的であり,それによってビルレンスに寄与することを示唆している.慢性形質転換レトロウイルスは,シス作用性またはトランス作用性に分類される.「シス作用性(cis-acting)」レトロウイルス(例:トリ白血病ウイルス)は,宿主細胞DNAの細胞増殖調節遺伝子の近傍に組み込まれることによって細胞を形質転換し,その遺伝子の正常な細胞調節を奪う.これらの細胞増殖を調節する宿主遺伝子は,「癌原遺伝子」または細胞性癌遺伝子(c-onc)と呼ばれる.それらが発癌性であることを暗示する用語にもかかわらず,c-oncは,正常細胞の増殖と静止を調節する重要な細胞シグナル伝達産物をコードする宿主遺伝子である.c-oncの上流に,強力なプロモーターおよびエンハンサーを備えたプロウイルスが組み込まれると,c-oncの発現が大幅に増幅する場合がある.これは,弱発癌性の内在性トリ白血病ウイルスが新形成を引き起こすメカニズムと見られている.トリ白血病ウイルスが悪性腫瘍を引き起こす場合,ウイルスゲノムは一般に,宿主のc-oncのすぐ上流の特定の位置に組み込まれる.組み込まれたトリ白血病プロウイルスは,正常なc-myc産物の合成を30倍から100倍に増加させる.実験的には,ウイルスのLTRのみを組み込んでこの効果を引き起こすことができる.さらに,このメカニズムにより,c-mycは,通常は発現されないか,通常ははるかに低いレベルで発現される細胞でも発現されることがある.シス作用性レトロウイルスに感染すると,単一細胞が形質転換され(モノクローナル腫瘍),腫瘍形成が数か月にわたってゆっくり行われる.

「トランス活性化(trans-activating)」レトロウイルスは,癌遺伝子として作用するウイルスタンパク質(トランス活性化因子)を発現する.ヒツジ肺腺腫症 (Jaagsiekte disease) の原因となるレトロウイルスは上皮細胞に感染し,形質転換はウイルスのenv遺伝子の発現に関連している.ウシ白血病ウイルスは,慢性白血病およびB細胞リンパ腫を引き起こす外来性レトロウイルスである.そのTaxタンパク質は,宿主遺伝子のトランス活性化因子として機能する.ヒツジのレトロウイルスのEnvとウシ白血病ウイルスのTaxタンパク質の両方が,感染細胞の継続的な細胞分裂を刺激し,その結果,突然変異が増加し,続いて細胞の形質転換が起こると考えられている.トランス作用性レトロウイルスによる感染は,数か月から数年かけて発生するオリゴクローナル腫瘍を引き起こす.


(31)発癌性DNAウイルス

 レトロウイルスを除けば,動物における最も重要な発癌性ウイルスはDNAウイルスである(パピローマウイルス,ポリオーマウイルス,ヘルペスウイルスなど).DNA腫瘍ウイルスは,次の2つの方法のいずれかにより細胞と相互作用する.

 (1) ウイルスがその複製サイクルを完了して細胞溶解をもたらす生産的感染,または,

 (2) 複製サイクルを完了せずにウイルスが細胞を形質転換する非生産的感染.

 このような非生産的な感染では,ウイルスゲノムまたはその切断されたDNAが細胞のDNAに組み込まれるか,完全なゲノムが自律的に複製するプラスミド(エピソーム)として存続する.ゲノムは初期遺伝子を発現し続ける.DNAウイルスによる発癌の分子基盤は,ポリオーマウイルス,パピローマウイルス,およびアデノウイルスで最もよく研究されており,これらはすべて,腫瘍抑制遺伝子を含む癌遺伝子として機能する塩基配列を含んでいる.これらの癌遺伝子は,レトロウイルスの癌遺伝子について説明されているメカニズムと同様のメカニズムで作用すると考えらる.それらは主に核内で作用し,そこで遺伝子発現のパターンと細胞増殖の調節を変更する.いくつかの例外を除いて,DNAウイルスの癌遺伝子には,宿主の細胞性遺伝子の中にホモログまたは直接の祖先(c-onc)がない.


 ① 発癌性パピローマウイルス

 パピローマウイルスは,ほとんどの動物種の皮膚と粘膜に乳頭腫(疣贅)を形成する.乳頭腫(パピローマ)は,一般に自然に退縮する過形成性上皮増殖である.ただし,時折,一部のパピローマウイルスの感染により,細胞の悪性形質転換が引き起こされ,その結果,癌を発生することがある.パピローマウイルスは,ヒトの咽頭および子宮頸部に扁平上皮癌を引き起こすことが知られている.動物では,パピローマウイルスはウマにサルコイド(類肉腫)を引き起こすと考えられており,ウマ,ネコ,イヌの扁平上皮癌と関連している.

 疣贅(いぼ)では,パピローマウイルスのDNAはエピソームのままである.つまり,宿主細胞のDNAに組み込まれず,自律的に複製するエピソームとして存続している.対照的に,ヒトパピローマウイルス誘発新生物では,ウイルスDNAが宿主のDNAに組み込まれている. 組み込みのパターンはクローン性であるため,各癌細胞は少なくとも1つ,多くの場合多数のウイルスゲノムの不完全なコピーを持っている.ウイルスの組み込み部位はランダムであり,細胞の癌原遺伝子との一貫した関連性は見られない.一部のパピローマウイルスでは,組み込みによりウイルス抑制因子の初期遺伝子の1つであるE2 が破壊される.他のウイルス遺伝子も削除されることがあるが,ウイルスの癌遺伝子(E6およびE7など)は無傷のままである.これらの癌遺伝子は,正常な細胞の増殖と分裂を変化させ,E6とE7の過剰発現は,ヒトパピローマウイルスによる悪性形質転換の重要なステップと考えられている.疣贅の発生は,一部のパピローマウイルスの複製サイクルの正常な結果である.しかし,細胞へのDNAの組み込みは偶発的であり,パピローマウイルスの複製を妨げ,パピローマウイルス感染のごく一部のみが癌の発生につながっている.しかし,ウシパピローマウイルス1型は,主にE5腫瘍タンパク質によって媒介される細胞増殖の変化を介してウマにサルコイド(類肉腫)を引き起こすと考えられている.ヒトのパピローマウイルスが誘発する癌とは対照的に,動物のパピローマウイルス関連の癌ではウイルスの組み込みはまれである.


 ② 発癌性ヘパドナウイルス

 鳥類ではなく哺乳類のヘパドナウイルスは,その自然宿主に自然発生する肝細胞癌と密接に関連している.ウッドチャック肝炎ウイルスに慢性的に感染しているウッドチャックは,他の発癌因子がなくても,ほぼ必然的に肝細胞癌を発症する.哺乳類のヘパドナウイルスによって誘発される発癌は多因子プロセスであり,異なるウイルスに基づく発癌の原因となる細胞メカニズムには違いがある.ジリス肝炎ウイルスおよびウッドチャック肝炎ウイルスは細胞の癌遺伝子を活性化するが,ヒトのB型肝炎ウイルスの作用機序は不明である.肝硬変に伴う肝細胞の再生も,肝炎ウイルスに感染したヒトの腫瘍形成を促すが,動物モデルには肝硬変が見られない.ヘパドナウイルス関連癌の発生頻度は,出生時に感染した動物(およびヒト)で最も高くなる.


 ③ 発癌性ヘルペスウイルス

 ニワトリのマレック病ウイルス(Gallid herpesvirus 2)は,T細胞を形質転換し,それらを増殖させて全身性ポリクローナルT細胞の新生物を生成させる.この疾患は,マレック病ウイルスに存在するレトロウイルスのv-oncを欠く弱毒生ワクチンを接種することで予防できる.最もよく調べられている癌遺伝子は,癌抑制遺伝子を阻害し,細胞増殖に重要なタンパク質(IL-2,Bcl-2,CD30)の発現を刺激するMeqタンパク質である.また,マイクロRNA-21(MiRNA-21)のプロモーターに結合してその発現を刺激し,その後,腫瘍細胞による組織浸潤に必要なメタロプロテイナーゼ(metalloproteinase)の発現を引き起こす.


 ④ 発癌性ポックスウイルス

 一部のポックスウイルスは良性の腫瘍様病変の発生に関与するが,これらが悪性になったという証拠も,ポックスウイルスDNAが細胞のDNAに組み込まれたという証拠もない.ポックスウイルス感染細胞で産生される初期のウイルスタンパク質は,上皮成長因子との相同性を示し,おそらく多くのポックスウイルス感染に特徴的な上皮過形成の原因となっている.一部のポックスウイルス(鶏痘ウイルス,オルフウイルス,ウサギ線維腫ウイルスなど)では,上皮過形成がもっとも顕著な臨床症状であり,ポックスウイルス上皮成長因子ホモログのより強力な形態の結果である.


 ⑤ 実験系における発癌性ウイルス:ポリオーマウイルスとアデノウイルス

 1960年代から1970年代にかけて,ポリオーマウイルス科の2つのメンバーであるマウスポリオーマウイルスとSV40,および特定のヒトアデノウイルス(12,18,および31型)が,ハムスターおよび他の齧歯類の新生仔への接種後に悪性新生物を誘発することが示された.マウスポリオーマウイルスを除いて,これらのウイルスはいずれも自然宿主に自然条件下で癌を誘発することはなく,特定の他の動物種の培養細胞を形質転換し,細胞形質転換における分子機序の分析のための実験モデルを提供している.最近では,ポリオーマウイルスがヒトと動物の両方の癌の原因になるとされている.

 ポリオーマウイルスまたはアデノウイルスにより形質転換された細胞はウイルスを産生しない.ウイルスDNAは,細胞の染色体のいくつかの部位に組み込まれる.組み込まれたウイルスゲノムのほとんどは,ポリオーマウイルスの場合は完全だが,アデノウイルスの場合は欠陥がある.異常に高い速度ではあるが,特定のウイルス初期遺伝子のみが転写される.レトロウイルス遺伝子との類推により,それらは癌遺伝子と呼ばれている.それらの産物は,蛍光抗体法で証明でき,以前は腫瘍(T)抗原として知られていた.形質転換におけるこれらのタンパク質の役割について,多くのことが判明している.ウイルスは,ポリオーマウイルスにより形質転換された細胞からレスキューできる.つまり,ウイルスは,放射線照射,特定の変異原性化学物質による処理,または特定の許容細胞(permissive cell)との共培養によって複製を誘導できる.組み込まれたアデノウイルスDNAには欠失があるため,これはアデノウイルス形質転換細胞では実施できない.



第6章  ウイルス感染に対するワクチンと免疫

 ウイルスは偏性細胞内寄生体として,それぞれの宿主動物種と共進化してきた.その宿主動物種は,ウイルス感染やそれによる疾病から身を守る多様で洗練された能力を進化させてきた.ウイルスはまた,これらの宿主の防御を回避または破壊するために,驚くほど多様な性質を進化させてきている.高等動物の抗ウイルス免疫は複雑で,自然免疫と獲得免疫を組み合わせているが,これら2つのカテゴリーの間にはかなりの相互作用がある.自然免疫は,ウイルス感染に対して比較的迅速な防御を提供し,これらのメカニズムを活性化するために特定のウイルスへの事前の曝露を必要としない.対照的に,獲得免疫はウイルスへの曝露後にのみ生じ,その特定のウイルスと,多くの場合,その病原体に近縁なウイルスに特異的である.獲得免疫には,それぞれT細胞とB細胞による,細胞と抗体(液性免疫)を介したエフェクター機構が関与する.獲得免疫も記憶をもつため,同じウイルスに再び曝露した後,免疫応答を速やかに再活性化させる.多くの全身性ウイルス感染症では,自然感染後の免疫学的記憶が,引き起こされた疾病に対する長期的,多くの場合生涯にわたる防御をもたらす.

 有効なワクチンの開発により,ヒトおよび動物に対するウイルス感染による有害な影響が大幅に減少した.ワクチン接種の目的は,特定のウイルスによる感染から動物を防御する獲得免疫を付与することである.コンパニオン動物と生産動物の両方に使用できるワクチンの種類が増え,市販されている.これらには,従来の不活化ワクチンおよび弱毒生ワクチン,異種ウイルスの感染防護タンパク質を発現する組換えウイルスワクチン,ウイルス様粒子(virus-like particle: VLP),および DNAワクチンなどが含まれる.ワクチンは,多くの場合,特定の衛生管理手順と組み合わせて,家畜の個々のウイルス性疾患を制御するためのプログラムとして広く使用されている.ワクチンは,コンパニオン動物の医療における重要な要素である.

 

(1)ウイルス感染に対する自然免疫

 自然免疫を司る細胞は,特定のウイルス抗原に応答するものではなく,獲得免疫応答の場合の細胞とは異なる.むしろ,これらの細胞は,一連のさまざまなセンサーを使用して,ウイルスの存在によって活性化される.さらに,自然免疫を司る細胞は,他の細胞の挙動に影響を与えるタンパク質であるサイトカインの産生を通じて,ウイルス感染に対処する.免疫細胞によって作られるサイトカインは,インターロイキン(interleukin: IL)と呼ばれる.ウイルス感染に対する生来の反応におけるサイトカインの重要なファミリーは,インターフェロン(interferon: IFN)である.


 ① インターフェロン応答

 1957年,A・アイザックス(Alick Isaacs: 1921〜1967)とJ・リンデンマン(Jean Lindenmann: 1924〜2015)は,インフルエンザウイルスに感染した細胞が,感染していない細胞を同じウイルス(インフルエンザウイルス)や無関係のウイルスから防御できる「インターフェロン(IFN)」と呼ばれる非ウイルス性タンパク質を産生することを報告した.それ以来,インターフェロンにはいくつかのタイプとサブタイプがあり,これらのタンパク質が細胞レベルでの抗ウイルス性の重要な要素であることが判明している.それはまた,ウイルス感染に対する自然免疫と獲得免疫の両方において中心的な役割を果たしている.これらのタンパク質の重要なクラスは,まとめてI型インターフェロンと呼ばれる.これには,ほとんどの動物種でいくつかの異なる遺伝子によってコードされているIFN-αが含まれる(例:ウシで14個,ブタで27個).IFN-α遺伝子のうち,どの動物種が感染に応答してどれだけの数を生成するかは明確に特定されていない.また,ウシには7個,ブタには1個のIFN-β遺伝子がある.さらに,IFN-τ,IFN-δ,IFN-ε,IFN-κ,およびFN-ωもI型インターフェロンである.これらのタンパク質はすべて,共通の受容体であるIFN-α受容体(IFNAR)に結合する.この細胞表面タンパク質はIFNAR1およびIFNAR2のヘテロ二量体であり,転写のシグナルトランスデューサーおよび活性化因子,およびインターフェロン調節因子を誘導するチロシンおよびヤヌスキナーゼ(Janus kinase: JAK)を含む酵素のシグナル伝達カスケードを介するように機能する.このシグナル伝達カスケードの活性化は,最終的に細胞内のインターフェロン応答遺伝子の誘導をもたらす.インターフェロンによって引き起こされるシグナル伝達経路が欠損したヒトや動物は,通常であれば致命的ではない一般的なウイルス性疾患により死亡することがある.

 II型インターフェロン,またはIFN-γは,当初「免疫インターフェロン」として報告されていた.このサイトカインは,自然免疫と獲得免疫の両方において中心的役割を果たし,T細胞の複数のサブタイプを特定する.III型インターフェロンはIFN-λと呼ばれる.ヒトでは,これらのタンパク質因子は,IFN-λ受容体1およびIL-10受容体2と結合するため,もともとインターロイキン10(IL-10)サイトカインファミリーのメンバーとして記載されていた.IFN-λ1,2,および3は,それぞれ,IL-29,IL-28A,およびIL-28Bとして当初記載された.I型およびII型インターフェロンと同様に,IFN-λは固有の抗ウイルス作用に加えてサイトカイン活性を持っている.ウシとブタには,これまでに2個のIFNλ遺伝子(IFN-λ1とIFN-λ3)が報告されている.

 ウイルス感染細胞におけるI型インターフェロンの誘導には,パターン認識受容体と呼ばれる一連の細胞受容体を介した活性化が関与する.この細胞受容体は,さまざまなウイルスに特異的な病原体関連分子を認識する.これらの細胞受容体との病原体関連分子の結合は,インターフェロンの産生および分泌の活性化を含む,自然免疫および獲得免疫に関与するタンパク質をコードする多数の遺伝子の転写を刺激する.これらの反応は,細胞質内と細胞質外の両方のいくつかの経路によって引き起こされる.パターン認識受容体の1つのクラスはToll様受容体(TLR)であり,これはショウジョウバエのToll遺伝子との相同性から名付けられた.異なるToll様受容体は,異なる病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular pattern: PAMP)を認識する.たとえば,TLR7とTLR8はssRNAに結合し,RNAウイルス感染を検出し,I型インターフェロンの産生を誘導する.これは,例えばインフルエンザウイルス感染に対する重要な対応である.対照的に,TLR3は,正常な細胞には存在しないRNA ウイルスのゲノム複製の重要な中間体であるdsRNAを検出する.これらのToll様受容体は主にエンドソームに位置し,エンドサイトーシス後に内在化したウイルスや,隣接するアポトーシス細胞または溶解細胞から放出されたウイルスやその核酸を容易に認識する.病原体感知およびI型インターフェロン誘導のためのサイトゾル経路は,レチノイン酸誘導遺伝子(retinoic acid inducible gene 1: RIG-1)やメラノーマ分化関連遺伝子5(melanoma differentiation-associated gene 5: MDA5)などの細胞質RNAヘリカーゼタンパク質が関与するTLR非依存性シグナル伝達を介して発生することもある.他の細胞内経路には,インターフェロン産生を誘導する転写因子の活性化を媒介するミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達タンパク質(mitochondrial antiviral signaling protein: MAVS)が含まれる.

 ウイルス感染細胞または活性化された先天性応答細胞から放出されたI型インターフェロンは,インターフェロンα受容体(interferon α receptor: IFNAR)結合を介して隣接細胞を刺激する.これにより,インターフェロン応答要素の誘導につながるシグナル伝達経路が活性化される.マウスでは,これにより300個を超えるインターフェロン刺激遺伝子(interferon-stimulated gene: ISG)の転写が活性化される.大型哺乳類とヒトでは,I型インターフェロンがそれらの特異的受容体に結合した後,同様のグループのインターフェロン刺激遺伝子が活性化される.これらの遺伝子のほとんどは,シグナル伝達経路またはインターフェロン産生を増幅する転写因子のいずれかを調節するタンパク質をコードしているが,細胞骨格のリモデリング,アポトーシス,転写後のイベント(mRNA編集,スプライシング,分解),または翻訳後の修飾を介して抗ウイルス状態を促進するものもある.

 インターフェロン誘導性抗ウイルス状態の誘導に重要であることが証明されているタンパク質には,次のものがある.

 (1) 細胞内で構成的に発現しないユビキチンホモログであるISG15.細胞タンパク質へのユビキチンの付加は自然免疫の調節の鍵であり,ISG15はインターフェロン刺激細胞の150個を超える標的タンパク質で同様の機能を発揮する.ISG15の活動は,誘導,シグナル伝達など,インターフェロン経路のすべての側面を調節できる.

 (2) MxGTPaseは,ISG15と同様に構成的には発現しない加水分解酵素である.この酵素は平滑小胞体に存在し,そこで小胞体形成に影響を与え,特にウイルス感染細胞のウイルスヌクレオカプシドを標的にしてウイルスの成熟を妨げる.

(3) プロテインキナーゼ R(PKR)経路は構成的に低いレベルでのみ発現しているが,IFNARシグナル伝達によって急速にアップレギュレートされる.dsRNAの存在下で,プロテインキナーゼは伸長(翻訳)開始因子eIF2αをリン酸化し,サイクリックヌクレオチド(GDP)のリサイクルを防ぎ,タンパク質合成を停止させる.このインターフェロン誘導経路は,レオウイルス,アデノウイルス,ワクチニアウイルス,インフルエンザウイルスなどの複製を阻害する.

 (4) 2’-5’オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)経路は,PKR経路と同様に,低レベルでのみ構成的に発現している.IFNAR刺激後,dsRNAの存在下で,この酵素は,通常の3’-5’結合とは対照的に,特徴的な2’-5’結合を持つオリゴアデニル酸を生成する.これらの2’-5’結合のオリゴアデニル酸は,ウイルスのmRNAとゲノムRNAを切断する細胞性RNaseを順次活性化する.ピコルナウイルスは,ウエストナイルウイルスと同様に,この経路による阻害を受けやすい.

 つまり,I型インターフェロンは多くの異なる種類の細胞へのウイルス感染後に産生され,これらの細胞から放出されたインターフェロンは隣接する細胞を抗ウイルス状態に誘導する.さらに,自然免疫系の細胞は,非生産的感染を含むウイルス感染,またはウイルス感染を「感知」することにより活性化されてインターフェロンを分泌し,組織内の抗ウイルスシグナル伝達のレベルと局所的な抗ウイルス状態を増強する.多くの場合,この反応は,全身感染の発症または発症の前に,ウイルス感染を防御または排除することさえある.ウイルスが初期の自然免疫応答を圧倒すると,全身への拡散が起こり,疾病が臨床的に認められるようになる.


 ② ナチュラルキラー細胞

 ナチュラルキラー(NK)細胞は,抗原特異的受容体を持たない特殊なリンパ球であり,ウイルス感染細胞,腫瘍細胞,および「ストレス状態」にあるその他の細胞を死滅させることができる.これは,潜在的な標的細胞の表面に発現するリガンドに対する一連の受容体の関与を介して達成される.そのため,NK細胞は,ウイルス感染に対する初期の非特異的抵抗性を担う.ナチュラルキラー細胞は,宿主細胞上のそれぞれのリガンドの特定の発現パターンを認識する広範な受容体複合体を発現している.ナチュラルキラー細胞上の受容体は活性化能と抑制能の両方を備えており,NK細胞の機能は,これらの受容体からの活性化シグナルと抑制シグナルのバランスによって厳密に制御されている.たとえば,NK細胞の一次受容体の 1 つは主要組織適合複合体(MHC)クラス Iタンパク質に結合し,この結合はNK細胞の活性化に対して負の(抑制)シグナルを提供する.これにより,NK細胞は,「自己」として認識される健全な細胞を傷つけることなく,組織を「スキャン」することができる.ウイルス感染の一般的な影響は,感染細胞の表面でMHCクラスIタンパク質の発現が低下することである.ナチュラルキラー細胞抑制受容体に結合するのに十分なMHCリガンドが不足すると,細胞活性化に必要な閾値に達する活性化シグナルが生じる.ウイルス感染細胞は,ナチュラルキラー細胞の活性化受容体に結合するストレス受容体も発現するため,シグナルのバランスは「抗原非依存性」の活性化とその結果としての殺傷反応に有利に働く.

 ナチュラルキラー細胞の活性化を介して細胞を殺傷する受容体,またはその活性化を抑制する受容体は,2つの大きな遺伝子ファミリーにコードされている.キラー免疫グロブリン様受容体(KIR)は,白血球受容体複合体の遺伝子クラスターによってコードされている.ヒトとウシでは,これらの受容体は極めて多型性にとみ,個体は独特の対立遺伝子パターンを発現する傾向がある.マウスにはKIR遺伝子がまったくなく,ウマのKIR遺伝子転写産物はまだ報告されていない.ブタでは,単一のKIR遺伝子転写物のみが実証されている.ナチュラルキラー細胞によって発現される2番目の受容体複合体は,NK受容体複合体である.この遺伝子座には,NK2G遺伝子とLy49遺伝子がある.マウスは,ウマと同様に多くのLy49遺伝子を発現するが,ブタ,ウシ,ネコ,イヌは単一の遺伝子産物を発現し,ヒトは機能的なLy49遺伝子を欠いている.これらの動物種のMHC遺伝子座には,種に応じてNKp30およびNKp44またはNKp46を含む他の受容体遺伝子がコードされている.CD335とも呼ばれるNKp46は,古典的なNK細胞マーカーである.しかし,NK細胞ではない他の系列の細胞は,このタンパク質を発現し,NK細胞のような方法により他の細胞を(抗原非特異的に)死滅させている.

ナチュラルキラー細胞は,抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)が利用するのと同じ経路でウイルスに感染した細胞を死滅させる.この経路は,アポトーシスの誘導によるものである.この殺細胞活性は,感染した細胞が子孫ビリオンを生成および放出する前に排除できるため,ウイルス感染の防御の中心となる.細胞傷害性T細胞と同様に,NK細胞は,パーフォリン(perforin),グランザイムA(granzyme A),およびグランザイムBを含むサイトゾル顆粒を持っている.これらの顆粒は,刺激受容体結合プロセスによって活性化されると,標的細胞に向かって配向され,その後放出される.パーフォリンは標的細胞膜に孔を作り,そこからグランザイムタンパク質が入り,その中に入ると,これらのタンパク質は標的細胞のアポトーシスを誘導する.

 ナチュラルキラー細胞は,免疫グロブリンG分子(FcRγIII)のFc部分の表面受容体であるCD16も発現する.この受容体は,NK細胞が,抗体依存性細胞傷害のプロセスを通じて,抗体によりコーティングされた標的細胞と結合し,溶解する.これにより,前述の細胞殺傷メカニズムと同一の殺傷活性が得られるが,ナチュラルキラー細胞受容体はすべてバイパスされる.最後に,NK細胞は,直接の殺傷に加えて機能を仲介することもある.特に,NK細胞は,活性化後のII型インターフェロン(IFN-γ)の産生と分泌において非常に効率的である.ナチュラルキラー細胞によるIFN-γ分泌は,強い炎症環境を作り出し,自然免疫系および獲得免疫系の他の細胞を活性化し,炎症部位の細胞を抗ウイルス状態に誘導する.


 ③ 自然免疫におけるT細胞

 T細胞上の抗原特異的受容体は,非多型タンパク質CD3のサブユニットとの複合体でヘテロ二量体として発現している.この受容体ヘテロ二量体は,細胞表面での発現にCD3複合体を必要とするα鎖とβ鎖により構成されている.これらのいわゆるαβT細胞は,獲得免疫応答に必要である.また,自然免疫で重要な役割を果たしているT細胞のユニークなサブセットもあるが,それらはCD3と結合してヘテロ二量体として発現するγ鎖とδ鎖で構成される異なる受容体を持っている.したがって,それらはγδT細胞と呼ばれている.これらのγδT細胞は,WC1遺伝子ファミリーのものを含む一連のスカベンジャー受容体を発現している.マウスには,循環γδT細胞はないが,ヒト,特に新生児の末梢血単核細胞の最大5%を占めている.ブタと仔ウシでは,循環リンパ球の最大50%がγδT細胞であり,成豚と成牛では20~30%である.これらの細胞は,T細胞受容体との抗原特異的相互作用を介して獲得免疫で機能するが,ウイルス感染に起因するような細胞ストレスに応答して非特異的に活性化されることもある.具体的には,γδT細胞はNKp46を発現し,NK細胞のような方法によりウイルス感染細胞を死滅させることにより,感染に対処している.これらの細胞は,強いサイトカイン応答,特にIFNγの産生を同時に行う.


 ④ 樹状細胞の自然免疫応答

 樹状細胞(dendritic cell: DC)は,獲得免疫応答の開始に重要だが,自然免疫の中心でもある.いくつかの樹状細胞サブタイプがあり,重複する(共通の)機能と,各サブタイプに固有の機能がある.古典的な樹状細胞は,骨髄系のものであり,MHCクラスIIタンパク質を発現し,ナイーブ状態で非常に貪食的である.これらの樹状細胞は,大量のI型インターフェロン(特にIFNαおよびIFNβ)を分泌することにより,病原体関連シグネチャ(PAMP)による刺激にも応答する.

 骨髄系の他の樹状細胞は,皮膚の表皮と真皮の両方に存在する.皮膚の樹状細胞のかなりの部分は,ランゲルハンス細胞と呼ばれる細胞の特殊なサブセットであり,多くの哺乳類で知られている.最初にブタで,続いてマウス,ヒト,ウシ,およびヒト以外の霊長類で報告されたユニークな樹状細胞集団は,形質細胞様樹状細胞と呼ばれる.これらはリンパ系とは異なり,骨髄樹状細胞とは異なる形態を持っている.形質細胞様樹状細胞は,ウイルス感染に応答してI型インターフェロンの産生と分泌が極めて効率的であるため,天然のインターフェロン産生細胞として最初に認識された.

(2)ウイルス感染に対する獲得免疫

 ウイルス感染に対する獲得免疫応答には,T細胞およびB細胞上の特定の受容体による抗原の認識と結合が必要である.獲得免疫応答の誘導はリンパ節で起こり,病原体に刺激された樹状細胞によって開始される.この樹状細胞は,感染部位からリンパ節まで求心性リンパ管を通って移動する.一次獲得免疫応答は,発達するのに数日かかり,同一の抗原特異的受容体を持つリンパ球のクローン増殖と,これらのリンパ球のエフェクター細胞への分化を伴う.獲得免疫応答は,形質細胞と呼ばれる最終分化したB細胞によって分泌される抗体を介する液性免疫と,αβ T細胞受容体を発現するリンパ球によって駆動される細胞性免疫の2つの機能により構成される.抗体は,病原体表面の本来のコンフォメーションで抗原に直接結合し,細胞外のウイルスを排除することにより宿主を防御するが,T細胞は,細胞表面のMHC分子に結合したペプチドの形に処理された抗原を認識して,ウイルス感染細胞を標的にする.ウイルス感染が宿主から除去されると,抗原特異的リンパ球の一部が長寿命の記憶細胞に発達し,再び病原体に遭遇した場合に迅速に反応することができる.この免疫記憶の確立は,獲得免疫の特徴であり,ワクチン接種の基盤である.


 ① 自然免疫と獲得免疫を結び付ける樹状細胞

 古典的な樹状細胞は,ウイルスを含む感染性因子に対するT細胞応答を刺激する独自の能力を持っているため,抗原提示細胞(APC)である.上皮表面のランゲルハンス細胞やその他の樹状細胞は,食作用によって抗原や病原体を捕捉する能力を備えた未熟細胞として存在している.多くのウイルスは樹状細胞に直接感染する.病原体の感染または曝露は,Toll様受容体または他の病原体認識受容体の関与を引き起こし,インターフェロンの産生,分泌,およびシグナル伝達を引き起こす.これは,樹状細胞が自然免疫応答から抗原提示細胞機能へ移行する,「成熟」として知られるプロセスを誘導する.樹状細胞の成熟の重要な特徴は,C-Cケモカイン受容体5(C-C-chemokine receptor 5: CCR5)からCCR7へのケモカイン受容体発現の切り替えであり,それによって樹状細胞の移動を誘導する.さらに,貪食能力が低下し,インターフェロン産生が失われ,ナイーブT細胞およびB細胞を活性化するサイトカインの産生が増加するなど,移動する樹状細胞の機能的能力に付随する変化が起こる.成熟樹状細胞は,リンパ節傍皮質に存在する抗原特異的ナイーブT細胞を刺激するのに特に重要なMHCおよび共刺激分子の発現もアップレギュレート(上方制御)する.樹状細胞とT細胞の関与は,T細胞上の接着分子LFA-1(lymphocyte function-associated antigen-1)およびCD2,ならびに樹状細胞上の接着分子ICAM-1(intercellular adhesion molecule-1),ICAM-2,およびCD58の発現によって促進される.成熟樹状細胞は,ナイーブT細胞に3つの異なる種類のシグナルを提供する.MHC/ペプチド複合体のT細胞受容体/CD3複合体への結合が最初のシグナルを提供し,2番目のシグナルは樹状細胞上の共刺激分子とT細胞上のCD28との結合によって媒介される.これらの2つのシグナルは,T細胞の活性化と生存を促進する.樹状細胞によって産生されるサイトカインによって媒介される3番目のシグナルは,以下で説明するように,T細胞の分化につながる.


 ② 細胞傷害性T細胞(CTL)によるウイルス感染細胞の認識

 αβT細胞受容体を発現する細胞傷害性T細胞による感染細胞の破壊は,獲得免疫系が細胞内ウイルス感染を制御するために利用するメカニズムである.感染細胞内の細胞質基質(サイトゾル)に存在するウイルスタンパク質は,プロテアソーム(proteasome)と呼ばれる多触媒プロテアーゼ複合体によって消化され,TAP(抗原プロセシングに関与するトランスポーター; TAP1およびTAP2)として知られる一対のエネルギー依存トランスポーターを介して短いペプチドを小胞体に送達する.小胞体内では,ペプチドはさらに8~11個のアミノ酸の長さにトリミングされ,一連のシャペロン分子と結合して,適合配列を持つペプチドが小胞体で形成される発生期のMHCクラスI分子に結合できるようにする.安定したMHCクラスI/ペプチド複合体は,感染細胞の表面に提示するためにゴルジ体を通過する.感染細胞によって提示された特定のMHCクラスI/ペプチド複合体を認識する抗原受容体を持つT細胞は,その複合体に結合し,活性化される.このように感染細胞を標的とするT細胞は,MHCクラスIタンパク質の不変領域に結合し,効果的なT細胞応答に不可欠なシグナルを提供するCD8共受容体(コレセプター)も発現する.

 ナチュラルキラー細胞について前述したように,細胞傷害性T細胞によるウイルス感染細胞の死滅は,受容体結合T細胞とウイルス感染細胞との間の界面,免疫学的シナプスとして知られる領域での細胞傷害性顆粒(cytotoxic granules)の放出によって達成される.細胞傷害性顆粒には,細胞傷害性タンパク質の標的細胞膜への侵入を促進するパーフォリンが含まれている.セリンプロテアーゼのファミリーであるグランザイムおよび細胞毒性タンパク質であるグラニュリシン(granulysin)が結合して,標的細胞のアポトーシスと死を媒介する.細胞傷害性CD8 T細胞は,ウイルス感染に影響を与えるために局所的または遠隔的に作用するサイトカインを放出することもできる.エフェクターCD8 T細胞によって産生される主要なサイトカインはIFN-γであり,ウイルスの複製を阻害し,細胞死を誘発することなく感染細胞からウイルスを除去することさえある.

 ウイルス感染細胞内で生成された抗原は内因性抗原と呼ばれ,MHCクラスI分子によるそれらの提示は,体内のあらゆる細胞で起こる可能性があり,CD8 T細胞の認識とそれに続く感染細胞の排除のための効果的な手段を提供する.内因性抗原は,MHCクラスIローディングのための抗原ペプチドの唯一の供給源ではないが,病原体に感染して貪食された死細胞や瀕死の細胞を含む細胞外供給源からのペプチドは,交差プレゼンテーションとして知られるプロセスを通じて MHCクラスI経路へ入ることがある.この経路は,一次獲得免疫応答の確立中に,病原体に直接感染していない樹状細胞が,リンパ節傍皮質のナイーブなウイルス特異的CD8 T細胞に関与して刺激できるようにする上で重要である。


 ③ ウイルス感染に対する免疫におけるCD4 ヘルパーT細胞

 αβT細胞の2番目の集団はCD4共受容体を保持し,活性化されると,これらの細胞は産生するサイトカインの種類に基づいて,機能的に異なるエフェクター細胞のいくつかのサブセットに分化する.CD4 T細胞はウイルス感染細胞(細胞傷害性T細胞)の死滅に直接関与するが,その機能はCD8 T細胞に特徴的であり,ウイルス反応性CD4 T細胞の少数の集団のみによって媒介される.CD4 T細胞は,細胞性免疫と液性免疫の両方を促すことにより,抗ウイルス免疫において特に重要な役割を果たすため,ヘルパーT細胞という名前が付けられている.さまざまなクラスの病原体による感染に対する免疫応答を助けることに特化したCD4 T細胞には,少なくとも5つの異なるサブセットがある.ヘルパーT1(TH1)細胞はIFN-γを産生し,マクロファージを活性化する.マクロファージによって貪食された細胞内病原体の死滅を促進し,IFN-γ受容体発現細胞を抗ウイルス状態にし,B細胞の個別の機能の分化を誘導する.ヘルパーT2(TH2)細胞は,好酸球,マスト細胞,好塩基球を動員するインターロイキン(IL-4,IL-5,および IL-6)を産生し,粘膜表面を防御する.リンパ節のB細胞濾胞に存在するTH2細胞と濾胞ヘルパーT(folicular helper: TFH)細胞の両方がB細胞に働きかけ,IL-4とIL-13の分泌を介して抗体産生を促進する.TH17細胞は,獲得免疫応答の初期段階で線維芽細胞と上皮細胞が好中球を微生物感染部位に動員するように誘導するIL-17とIL-21を産生する.CD4 T細胞の最後のクラスは,制御性T細胞である.これは,T細胞の活性を抑制し,自己免疫を制限する不均一な細胞集団である.これらの細胞は,IL-10やトランスフォーミング増殖因子などの抗炎症性サイトカインの産生によって特徴付けられる.

 CD4 T細胞は,抗原提示細胞(樹状細胞,マクロファージ,およびB細胞)への発現が制限されているMHCクラスIIタンパク質によって提示される抗原性ペプチドを認識する.霊長類,ウシ,ブタなどの大型哺乳類の多くの動物種では,T細胞が活性化されてMHCクラスII遺伝子が発現し,抗原提示に寄与するため,獲得免疫の二次応答が拡大する.MHCクラスII分子によって提示されるペプチドは,主に外因性抗原,つまりエンドサイトーシスされたウイルス粒子や死んだ細胞や死にかけている細胞に由来する粒子状抗原など,細胞外で作られる抗原に由来する.細胞外から細胞へ取り込まれた抗原はエンドソームに取り込まれ,酸性化され,プロテアーゼを活性化して抗原をペプチド断片と個々のアミノ酸に分解し,新しいタンパク質合成に利用できるようにする.獲得免疫にとって重要なこれらのペプチドは,MHCクラスII分子への結合にも利用される.

 小胞体で新たに形成されたMHCクラスII分子は,分子のペプチド結合溝をブロックし,低pH区画へのMHC クラス IIの送達を目的とするインバリアント鎖(不変鎖:invariant chain)と呼ばれるシャペロンタンパク質によって,そのコンパートメント内のペプチド結合から保護されている.このタンパク質は,分子のペプチド結合溝をブロックし,低pH区画へのMHCクラスIIの送達を標的としている.プロテアーゼはインバリアント鎖(不変鎖)を処理し,ペプチド結合溝を保護し続けるクラスII関連不変鎖ペプチド(または CLIP)と呼ばれる切断型のタンパク質を残す.エンドサイトーシスされた外因性タンパク質(ウイルスタンパク質など)を含む小胞体は,MHCクラスII分子を含む小胞体と融合し,抗原ペプチドは,MHCクラスII様分子HLA-DMによって促されて,CLIPシャペロンタンパク質に置き換わる.完全に形成されたMHCクラスII/ペプチド複合体は細胞表面に輸送され,そこで特定のMHC/ペプチドの組み合わせに特異的なT細胞受容体が結合して,T細胞受容体,MHCクラスII,およびペプチドの三分子複合体を形成する.この相互作用は,これらのT細胞によって発現されるCD4共受容体によってさらに促され,MHCクラスIIの不変領域に結合し,効果的なT細胞応答を促進する.

 エフェクターCD4 T細胞の重要な機能は,CD8 T細胞を助けることである.これは,大部分のウイルス感染における細胞傷害性T細胞の活性化に不可欠なステップである.リンパ節内で,CD4 T細胞は,樹状細胞などの抗原提示細胞によって提示されるMHCクラスIIに結合したウイルス由来ペプチドと結合する.また,樹状細胞は,MHCクラスIの環境下でさまざまなウイルスペプチドの提示を通じてナイーブCD8 T細胞とも結合する.エフェクターCD4 T細胞は,樹状細胞上のCD40に結合するCD40リガンドを発現するため,樹状細胞を活性化し,CD8 T細胞の活性化に必要なCD80やCD86などの必須共刺激分子の上方制御(アップレギュレーション)を誘導する.エフェクターCD4 T細胞は,CD8 T細胞の増殖を促進するIL-2も豊富に分泌する.さらに,CD4 T細胞は,以下に述べるように,液性免疫応答におけるほとんどのB細胞の効果的な活性化と分化に不可欠である.


 ④ T細胞の免疫記憶

 免疫記憶は獲得免疫応答の重要な側面であり,特定の抗原への再曝露に関する記憶がない自然免疫とは対照的である.抗原刺激の期間中に,ヘルパーT(TH)細胞および細胞傷害性T(CTL)細胞の一部が記憶T細胞へ分化する.これらの細胞は静止状態になり,主に局所リンパ節に存在し,割合は低いが,脾臓などの他のリンパ組織にも存在する.その後ウイルスに曝露すると,これらの細胞はリコール応答を仲介する.T細胞の記憶の誘導と維持は,ワクチン接種の重要な根拠である.ブタとウシでは,記憶T細胞はCD4とCD8の両方を発現している.ヒトおよびヒト以外の霊長類では,CD4とCD8の両方を発現する末梢T細胞の割合はわずかだが,この現象はマウスの成熟T細胞でも非常にまれである.


(3)ウイルス感染に対する液性免疫

 液性免疫は,B細胞のエフェクター分子である抗体(免疫グロブリン(Ig))によって媒介される.免疫グロブリンは重鎖と軽鎖と呼ばれるタンパク質の組み合わせにより構成されており,それぞれが可変(V)領域と定常(C)領域を持っている.抗原結合領域は各抗体に固有であり,分子の一端にある重鎖と軽鎖の両方のV領域が結合して形成される.重鎖のC領域は,Fc領域と呼ばれる分子のもう一方の端にあり,抗体のクラスとその機能の特殊化の両方を決定している.分泌抗体には4つの異なるクラスがある.IgM抗体は主に血液中に見られ,免疫応答の発生中に産生される最初の抗体である.IgG は,血液および細胞外液中の抗体の主要なクラスであり,いくつかの異なるサブタイプとして存在する.IgAは,呼吸器,生殖器,消化管の分泌物における主要な抗体である.IgEは,血液および細胞外液中に極めて低濃度で存在し,アレルギー反応を媒介する.抗体の5番目のクラスであるIgDは,ナイーブB細胞によってほぼ独占的に細胞表面分子として発現されている.

 抗体を産生するために,B細胞はまず,免疫グロブリンの細胞表面分子であるB細胞受容体の関与を通じて,アクセス可能なウイルス上のエピトープに遭遇し,結合する必要がある.IgMとIgDは多くの哺乳動物種のナイーブB細胞によって発現されるが,別の種ではIgMのみが発現される.抗原がその特異的な受容体に結合すると,ウイルス粒子の内在化が始まり,その後,酸性化した小胞体での分解が開始される.これらの小胞体内では,B細胞受容体にアクセスできない内部タンパク質に由来するウイルスペプチドが,細胞表面での提示のためにMHCクラスII 分子にロードされる.ウイルス特異的CD4 T細胞は,このMHCクラスII/ペプチド複合体に働きかけ,CD40リガンド(B細胞上のCD40に結合)およびサイトカインの形でB細胞に活性化シグナルおよび生存シグナルを送達し,B細胞の増殖および抗体分泌細胞への分化を誘導する.CD4 T細胞は,B細胞の増殖と死滅の部位であるリンパ節皮質内の胚中心の形成も促進する.

 進行中の液性免疫応答の間,B細胞の増殖は,免疫グロブリン遺伝子内の体細胞超変異およびアイソタイプクラス切り替え(スイッチング)によって特徴付けられる.どちらのプロセスも,効果的な抗ウイルス免疫の成立に重要である.B細胞の免疫グロブリン遺伝子座のV領域における体細胞超変異は,B細胞の活性化中に自発的に発生し,親和性成熟につながる.このプロセスにより,免疫応答が進展するにつれて,抗原に対する親和性が高い抗体が産生される.したがって,ウイルス感染後に作られる最初の抗体は低親和性IgM抗体であるが,免疫応答が成熟するにつれて,体細胞超変異と親和性成熟の同時進行によって産生される高親和性のIgGおよびIgAへ切り替わる.体細胞超変異の結果として抗原に対する親和性が増加する免疫グロブリンを産生する胚中心B細胞は,抗原の結合,分解,およびMHCクラスII分子のCD4 T細胞への提示のプロセスが,抗原が減少しても持続するため,優先的に免疫グロブリンを産生する.

 アイソタイプのクラス切り替えには,免疫グロブリン重鎖遺伝子のC領域の遺伝子再編成が関与し,IgMをコードする元のCμ重鎖が別のC領域に置き換わる.Cγ重鎖への切り替えはIgGの産生をもたらし,CεまたはCαの発現はそれぞれIgEまたはIgAの産生をもたらす.さらに,哺乳動物では,これらのB細胞は,抗体を分泌しながら,抗原受容体またはB細胞受容体として抗体の膜形態での発現を維持する.抗体の2つの形態(膜および分泌型)は,膜または分泌配列の交互のmRNAスプライシングによって,再構成/スプライシングされた抗体mRNAの末端まで共発現される.最終的に形質細胞に分化するB細胞は,抗体の合成と分泌のみに専念し,もはや膜表面の抗体を発現せず,体細胞変異やさらなるクラス切り替えも受けない.これらの細胞の寿命は有限である.抗原が減少すると,たとえばウイルス感染が制御されると,一部のB細胞,特にリンパ組織のB細胞が休止状態になり,同じ抗原との新たな遭遇まで膜表面に免疫グロブリンを発現し続ける.T細胞が産生するサイトカインの影響下で,これらの細胞は,T細胞と同様に非常に長い寿命を持つ記憶B細胞になることがある.また,これらはリコール応答を仲介する細胞である.

 アイソタイプのクラス切り替え中にどの抗体クラスが選択されるかは,B細胞が曝露されるサイトカインに依存し,マウスではIL-4はIgG1およびIgEの発現を誘導し,IFN-γがIgG3およびIgG2aの産生を誘導する.ただし,個々の動物種は,種分化後に大きな免疫グロブリン超遺伝子ファミリーにつながる重複が発生するため,さまざまな異なる免疫グロブリンアイソタイプを示す. たとえば,ウシ(Bos taurus)には3つのIgGアイソタイプ(IgG1,IgG2,および IgG3)がある.ただし,IgG3定常領域遺伝子は使用されていない.IgG1 アイソタイプは粘膜液に分泌されるため,昔の文献ではウシにはIgAが存在しないと想定されていた.ウシのIgAは後になって発見され,ウシのIgG1と比較して独自の発現プロファイルを持っており,ウシの粘膜分泌物中のマイナーな抗体である.同様に,IgG2は血清中でIgG1よりも低い濃度で発現していることがあるが,場合によっては抗体応答を支配する.ブタには6つのIgGアイソタイプがある.IgG2,4,および6は数個のアミノ酸のみが異なり,それらの機能は同一で重複しているが,異なる遺伝子であり,すべて個々の動物で発現している.ブタのIgAは,ヒトの場合と同様に,ブタの粘膜分泌物における優勢な抗体アイソタイプである.マウスおよびヒト以外の種については,クラス切り替えの誘導を伴う特定のサイトカインを活性化B細胞の特定の免疫グロブリンアイソタイプに関連付けるデータは限られている.

 種特異的な違いは,抗体分子の軽鎖の発現にも生じる.例えば,ヒトはκ軽鎖とλ軽鎖の両方を発現するが,マウスはκ軽鎖のみ,ウマはλ軽鎖のみを発現する.ウシ,ブタ,イヌ,ネコは,ヒトと同じように混合物を発現している.重鎖と軽鎖の間の組み合わせ相互作用は,抗原結合間隙の特性を決定し,抗原駆動体細胞変異による選択圧のもとにある変異は,この領域に集中している.具体的には,抗原に対してより高い親和性をもたらす突然変異が選択され,増幅される.


 ① 抗体による抗ウイルス作用

 中和抗体は,ウイルス感染時のウイルスクリアランスの仲介と,動物が以前に曝露したウイルスによる再感染の防止の両方に重要である.中和抗体は,in vivoでウイルス表面の相補的なエピトープに結合し,ウイルスが標的細胞に結合したり,標的細胞において生産的な感染をするのを防いでいる.抗体のその他の機能は,免疫グロブリンのクラスに依存しており,結合部分から離れた抗体分子の末端にあるFc領域によって媒介される.これらの機能の1つは補体の活性化である.補体は,一連のタンパク質分解切断反応によって活性化され,多くの免疫学的に活性なプロテアーゼの産生をもたらす血漿タンパク質のシステムである.IgMは五量体の形で存在するため,補体活性化において最も効果的な抗体クラスであり,補体活性化の古典経路における最初のタンパク質であるC1qの結合に複数のFc領域を提供する.ウイルス感染では,補体活性化は,B細胞共受容体複合体の構成要素である補体受容体2(CD21)への結合を介して,B細胞のより効率的な活性化をもたらす.ウイルス感染における抗体のもう1つの主要な機能は,抗体のFc部分のエフェクター細胞上のさまざまなFc受容体との結合を促進するオプソニン作用である.異なる細胞型は異なるセットのFc受容体を発現するため,抗体クラスによって,どの細胞型が免疫応答に関与するかが決まる.多くのFc受容体は食細胞によって発現され,抗体によりコーティングされた粒子の食作用を促進する.さらに,NK細胞はFc受容体であるFcγRIII(CD16)を発現し,感染細胞の表面に発現したウイルスタンパク質に結合した後,IgGのFc部分に結合することがある.この結合により,NK細胞が活性化され,前述の抗体依存性細胞傷害のプロセスを通じてウイルス感染細胞が死滅する.


 ② 受動免疫

 動物における受動免疫の重要な側面には,新生仔動物へ「受動的に」移される母子免疫が含まれる.ほとんどの哺乳動物種では,新生仔は未感作の免疫システムを持って生まれる.免疫学的発達の最終段階は,母体の血液からの分離に続いて,微生物叢(microbiome)により出生後に生じる.妊娠中,胎盤の構造は免疫グロブリンの伝達に影響を与えるが,少数の動物種,特にヒトと肉食動物では,通常はIgGアイソタイプの抗体が胎盤を通過して胎仔内を循環する.家畜動物種を含むほとんどの哺乳類では,出生直後の新生仔による初乳の摂食を通じて,抗体の受動伝達が起こる.初乳には,免疫グロブリンが通常の乳汁の10~100倍の濃度で含まれている.初乳は母体由来の白血球の供給源でもあり(ウシでは100万個/mL),吸収されて新生仔の循環器系へ入る.さらに,初乳には,腸粘膜の発達に影響を与える可能性のある生理活性物質が含まれており,免疫系の正常な発達において中心的な役割を果たす.これはまた,新生仔の消化管に生息する細菌の供給源となる.

 妊娠中の動物へのワクチン接種は,初乳に存在する抗体の特異性に影響を与えることがあり,新生仔の病原体特異的な受動的防御を提供するために使用できる.新生仔が母親から初乳を摂取すると,免疫グロブリンと白血球の移動によって受動的な防御が行われ,それが独自の獲得免疫を生成する.そのため,ワクチン接種のスケジュールは,治療対象の動物種が免疫応答を開始するための自律的な能力をいつ発達させるかについての知識に基づいて調整される.新生仔の免疫系が完全に機能する前にワクチン接種を行うと,反応が弱くなったり効果がなかったりすることがあり,ワクチンの有効性が損なわれる.さらに,母体抗体の存在は,ワクチン中のウイルス抗原を排除し,効果的な免疫応答の誘導を妨げることがある.したがって,家畜やコンパニオン動物の一般的なウイルス性疾患に対するワクチン接種は,多くの場合,母体の抗体が弱まり,個体が強力な免疫応答を発達させることができる,生後数週間または数か月のときに開始される.


(4)ウイルスによる回避と逃避のメカニズム

 ウイルスは,さまざまな宿主防御免疫応答を回避するために,極めて洗練されたメカニズムを開発している.持続感染を促すためにウイルスが利用する多くの様々な戦略に加えて,個々のウイルスは,免疫細胞や免疫学的に重要な部位での増殖,潜伏,組み込み,および抗原ドリフトを含む,宿主の自然免疫と獲得免疫を回避する多様で複雑なメカニズムを開発している.


 ① 宿主細胞における生体高分子の合成停止

 多くのウイルスは,細胞タンパク質の正常な転写や翻訳を抑制することによって細胞内で感染を開始し,子孫ビリオンの生産のために感染細胞の機構を急速に破壊する.宿主細胞におけるこのシャットダウンは, MHCクラスIなどのタンパク質やI型インターフェロンなどの抗ウイルス性サイトカインの産生や,ウイルスに対する自然免疫応答を急速に損なう.その結果,効果的な自然免疫応答がなければ,宿主が獲得免疫応答を発達させる前に,感染したウイルスが急速に複製して拡散できる.この戦略はRNAウイルスで広く使用されており,その多くでは複製サイクルが高速である.


 ② 細胞傷害性T細胞(CTL)を介した殺傷の回避

 細胞傷害性T細胞が媒介するウイルス感染細胞の死滅には,適切なMHCクラスI分子との関連で,感染細胞の表面にウイルス抗原が提示される必要がある.したがって,ウイルスはMHCクラスIタンパク質の正常な発現を抑制するためのさまざまな戦略を開発し,T細胞受容体のリガンドを除去することによって,細胞傷害性T細胞を介したウイルス感染細胞の溶解を防いでいる.この戦略は次のとおりである.

 (1) 宿主タンパク質合成の停止によるMHCクラスI分子の細胞産生の抑制.

 (2) MHCクラスIタンパク質の正常な産生,または小胞体からゴルジ装置または細胞表面へのそれらの輸送を妨害する,ウイルスにコードされたタンパク質の産生.

 (3) MHCクラスI分子の機能または生存能力を破壊する,ウイルスにコードされたタンパク質の産生.

 (4) β2マイクログロブリンおよびウイルスペプチドに結合できるが,それ以外の場合はCTL応答のリガンドとして機能しない,MHCクラスI分子のウイルス性ホモログの産生.


 ③ ウイルス感染細胞のNK細胞媒介溶解の防止

 ウイルス感染細胞の表面に適切な濃度のMHCクラスI抗原が存在する必要がある細胞傷害性T細胞媒介溶解とは対照的に,ウイルス感染細胞のNK細胞媒介溶解は,細胞表面のMHCクラスI抗原レベルの低下によって促進される.また,NK細胞の活動にとって重要なのは,細胞表面の抑制分子(MHCクラスIなど)と刺激分子(熱ショックタンパク質など)のバランスである.一部のウイルスは,NK細胞の活性化を刺激するシグナルを提供する細胞の産生および発現を選択的に阻害することにより,NK細胞による反応を回避している.


 ④ アポトーシスへの干渉

 ナチュラルキラー細胞または細胞傷害性T細胞を介した細胞溶解によって誘導されるアポトーシスに加えて,ウイルス感染だけでも,外因性(細胞死受容体)または内因性(ミトコンドリア)経路のいずれかを介してアポトーシスを開始することがある.アポトーシスは,プログラムされた細胞死のプロセスであり,ウイルスの複製が完了する前にウイルス工場を排除するために活性化する細胞自殺のメカニズムである.アポトーシスは,比較的ゆっくりと増殖するDNAウイルス(ポックスウイルス,ヘルペスウイルス,アデノウイルスなど)にとって特に不利である.これらのDNAウイルスは,通常はアポトーシスに至るさまざまな経路を阻害することにより,複製を最適化するためのさまざまな戦略を開発してきた.これらのウイルスが自らの生存を促すためにアポトーシスを防ぐ必要があることは,個々のウイルスが次のような戦略を組み合わせて使用しているという事実に反映されている.

 (1)細胞死の執行役を司るカスパーゼの活性の阻害,特に,カスパーゼに結合してそのタンパク質分解活性を遮断するポックスウイルスによって産生されるプロテアーゼ阻害剤であるセルピン(serpin).

 (2)細胞死受容体の発現,活性化,およびシグナル伝達の阻害.例えば,組織壊死因子(TNF)に結合するウイルス受容体ホモログの産生によって,外因性(細胞死受容体)経路を開始できないようにする,または 細胞死受容体(デスレセプター)の活性化によって開始されるシグナル伝達カスケードを特異的に遮断する分子.

 (3)Bcl-2などの抗アポトーシスタンパク質のウイルス性ホモログの産生.

 (4)特定のウイルスに感染した細胞に蓄積するアポトーシス促進分子であるp53を隔離するタンパク質の産生.

 (5)無数のウイルスタンパク質によって使用されている,まだ十分に特定されていないアポトーシス阻害メカニズム.


 ⑤ サイトカインに対する対抗防御

 サイトカインは,ウイルス感染に対する動物の自然免疫応答と獲得免疫応答の両方の中心であるため,ウイルスは抗ウイルス免疫のこれらの重要なメディエーターの活動に対抗するための効果的な戦略も開発した.特定のウイルスは,細胞遺伝子を獲得して改変し,サイトカインまたはその受容体のホモログであるタンパク質をコードするウイルス遺伝子を有している.ウイルスにコードされたサイトカインホモログ(いわゆるウイロカイン(virokine))は,機能的であり,本物の分子の生物学的効果を模倣するか,非機能的で,特定のサイトカイン受容体に結合してブロックするだけでその活性を中和することができる.同様に,ウイルスがコードする受容体相同タンパク質は,通常,関連するサイトカインに結合して中和する.ウイルスにコードされた他のタンパク質は,I型インターフェロンやその他の抗ウイルス性サイトカインの産生を誘発するdsRNA活性化パターン認識受容体シグナル伝達経路(TLR3やRIG-1など),またはインターフェロンがその受容体に結合することによって活性化されたシグナル伝達経路を妨害する.まとめると,ウイルスにコードされたこれらのタンパク質は,インターロイキン(IL-1,IL-6,IL-8),I型およびII型インターフェロン,組織壊死因子などのさまざまなサイトカインの活性を調節して,特定のサイトカインを介した機能を阻害または促進することにより,ウイルスを攻撃する.


 ⑥ 抗ウイルス状態の回避

 ウイルスは,タンパク質キナーゼ(PKR)や 2’-5’オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)経路などのインターフェロン誘導抗ウイルスエフェクターメカニズムの活性を回避するための精巧な機能を進化させてきた.これには,これらの経路に関与する酵素(またはそれらをコードする遺伝子)に結合するが活性化しない,ウイルスにコードされたタンパク質またはRNA分子(RNAi)の産生が含まれる.さらに,ウイルスは非機能的な酵素相同体を生成したり,これらの防御的な抗ウイルス経路の機能をダウンレギュレート(下方制御)する経路を刺激したりする.ウイルスにコードされた他のタンパク質は,PKRとOASの両方にとって重要な補因子であるdsRNAを隔離する.DNAウイルスとRNAウイルスの両方の多くの異なるウイルス科は,宿主の抗ウイルス経路を回避するための戦略を組み込んでいる.


 ⑦ ウイルス特異的な遺伝子サイレンシング経路

 細胞は,小さな干渉性RNA分子(RNAi)を利用して特定の遺伝子を「サイレンシング」し,正常な細胞プロセスを調節している.また,この同じプロセスを利用して,特定のウイルス遺伝子に相補的なRNAiを生成することにより,ウイルスの複製を妨害することもある.そして,ウイルスは,RNAiの生成につながる細胞経路の重要なステップを阻害する,ウイルスがコードするタンパク質または小さな干渉性mRNA分子の生成によって,細胞の抗ウイルスRNA干渉経路に対する対抗的防御を発達させている.さらに,一部のウイルスは,抗ウイルス免疫に関与する重要な細胞遺伝子を沈黙させるRNAi分子を生成する.


(5)ウイルス性疾患に対するワクチン接種

 ワクチン接種は,ウイルス性疾患を予防する効果的な方法である.天然痘(痘瘡)の強毒ウイルスへの意図的な曝露は,危険ではあるが,効果的な予防方法として長い間使われていた.ワクチン接種の概念は,天然痘からヒトを守るために,1798 年にE・ジェンナー(Edward Jenner: 1749〜1823)によって導入されたと考えられている.ほぼ1世紀後,L・パスツール(Louis Pasteur: 1822〜1895)は,この概念がより広い用途を持ち,特に狂犬病の予防に応用できることを示した.1950 年代の細胞培養技術の登場により,第二世代のワクチン接種が導入され,多くの弱毒生ワクチンおよび不活化ワクチンが開発された.最近では,ワクチン学の分野では,さまざまな形態の組換えDNAおよび関連技術によって生成された多くの新しい「新世代」ワクチンの導入がある.第二世代の弱毒生ワクチンおよび不活化ワクチンは依然として獣医科診療で広く使われているが,現在では新世代のワクチンがそれらを補完し,次第にそれらに取って代わりつつある.

 ヒトと動物のワクチン接種にはいくつかの重要な違いがある.一般に,経済的制約は,医学では獣医学ほど重要ではない.また,ヒトの医療に使用されるワクチンは,安全性と有効性,および特定の製品の使用に基づく潜在的な悪影響を報告するための優れた制度について,動物ワクチンよりも大きな合意がなされている.国際レベルでは,世界保健機関(WHO)は,ヒトへのワクチンの使用についてリーダーシップを発揮しており,国際機関である食糧農業機関(FAO)と国際獣疫事務局(Office Internationale des Epizooties: OIE)による動物へのワクチンとは比べものにならないほど多くのプログラムを維持している.

 組換えDNA技術に基づく新世代のワクチンが登場する前は,ウイルスワクチンの製造には2つの主要な方法しかなかった.1つは弱毒化した生ウイルス株を使用し,もう1つは理化学的に感染性を喪失させた不活化ウイルス製剤を使用するものである.生ワクチンは,ワクチン接種を受けた個体の体内で弱毒ウイルスが複製し,その過程で宿主の免疫系に提示される抗原の量を増幅させる.このアプローチには重要な利点がある.ワクチンウイルスの複製は,不活化ワクチンや一部のサブユニットワクチンの場合よりも,宿主の免疫応答が自然感染後に起こる免疫応答に似ているという点で,感染を模倣しているからである.不活化ワクチンが製造される場合,感染性を除去するために使用される化学的または物理的処理は,ワクチンウイルス株の免疫原性,特にウイルス特異的な細胞性免疫応答の誘導を低下させるほどの損傷を与える場合がある.その結果,不活化ワクチンはしばしば持続時間が短く,抗原スペクトルが狭く,細胞性免疫応答および粘膜免疫応答が弱く,ウイルスを死滅させる効果が低い免疫応答を誘発することがよくある.それにもかかわらず,非常に実用的で安全な不活化ワクチンが入手可能であり,広く使用されている.

 動物用の大規模生産のワクチンの大部分は,弱毒生ウイルスまたは不活化ウイルスを含んでいる.ただし,組換えDNA技術によって開発された新世代のワクチンは,安全性と有効性の両方の点で大幅な改善と潜在的な利点を提供している.最近,そのようなワクチンがさまざま開発されており,そのいくつかは商業生産されている.


(6)弱毒生ワクチン

 弱毒生ウイルスワクチンは,安全であることが証明された場合,すべてのワクチンの中で最高のものであった.それらのいくつかは,動物やヒトの重大な疾病の発生率を減らすことに劇的な成功を収めている.ほとんどの弱毒生ワクチンは,皮内,皮下,または筋肉内に注射されるが,経口により送達されるものもあれば,エアロゾルまたは飲料水により家禽に投与されるものもある.これらのワクチンが成功するためには,ワクチンウイルスがレシピエント内で増殖する必要があり,それによって持続的な免疫応答を誘発しながら,ほとんどまたはまったく症状を引き起こさないことが必要である.実際,生ワクチンは無症状感染を模倣している.生ワクチンに組み込まれる個々のウイルス株は,いくつかの供給源のいずれかに由来する.


 ① 異種動物種における弱毒ウイルス

 E・ジェンナーが1798年にヒトの天然痘を予防するために導入した最初のワクチン(vaccaは雌ウシを意味する)は,ゾーノシスの病原体でもある牛痘ウイルスを利用した.このウイルスは,ヒトに感染し軽度の病変を引き起こすだけだが,天然痘ウイルスと抗原的に近縁なため,ヒトの病気に対する防御をもたらした.同じ原理が他の病気にも適用されている.たとえば,シチメンチョウのヘルペスウイルスに由来するワクチンを使用してニワトリをマレック病から保護したり,ウシのロタウイルスに由来するワクチンを使用してブタのロタウイルス感染から仔ブタを保護したりしている.同様に,ウサギは,ポックスウイルス病である粘液腫から,自然の弱毒ショープウサギ線維腫ウイルスによって効果的に保護されている.


 ② 培養細胞における連続継代によるウイルスの弱毒化

 一般に使用されている弱毒生ワクチンのほとんどは,強毒の「野外」ウイルス株(「野生型」ウイルス株)を培養細胞で連続的に継代することによって得られたものである.細胞は,同種または一般的には異種宿主由来のことがある.通常,ウイルスが培養細胞において活発に増殖するようになると(順化すると),自然宿主に対するビルレンス(毒力)が徐々に失われる.ビルレンスの喪失は,対象となる動物種での臨床試験によって確認する前に,マウスなどの実験動物を用いて最初に実証されることがある.ワクチンが弱毒化されて自然宿主では十分に複製できなくなるという実用上の要件があるが,十分に複製するウイルス株を使用して妥協する必要があるため,レシピエント(ワクチン接種済み)の動物の一部に軽度の臨床症状を誘発することがある.

 培養細胞での継代を繰り返すと,ウイルスは通常,ゲノムにヌクレオチド置換を蓄積し,それが弱毒化につながる.次世代ゲノムシーケンシングの出現により,ビルレンスと弱毒化の遺伝的基礎がいくつかのウイルス,たとえばヒトのポリオウイルスで確立され,ワクチンの有効性と安全性の予測が可能になった.さらに,いくつかの遺伝子が個々のウイルスのビルレンスと指向性に寄与している場合があり,それがさまざまな方法により行われていることが次第に明らかになっている.例えば,いくつかの野生型または「野外」ウイルス株による感染に起因する重度の全身感染とは対照的に,呼吸器経路によって投与されたこれらの同じウイルスの弱毒生ワクチン株は,例えば, 上気道,または経口投与後に腸上皮において限られた複製しかしない.

 偶然の産物として得られた弱毒生ワクチンの顕著な成果にもかかわらず,合理的に設計し,特別に設計されたワクチンへ置き換える必要性が強く認識されている.このように設計された弱毒生ワクチンでは,親ウイルスの弱毒化に関与する突然変異が特定され,それはビルレンスの復帰の可能性と同様に予測可能である.ただし,遺伝子組換えワクチンの動物への商業的使用に関する規制当局の承認プロセスは,従来の弱毒生ワクチンの場合よりも面倒になることがある.


 ③ 異種宿主における連続継代によるウイルスの弱毒化

 異種宿主における連続継代は,ワクチンとして使用するウイルスを経験的に弱毒化する重要な手段であった.たとえば,牛疫ウイルスとブタ熱ウイルスは,それぞれウサギでの増殖に順化させ,連続継代後,ワクチンとして使用できるほど十分に弱毒化された.他のウイルスは,発育鶏卵を用いて同様の方法により継代されたが,そのような継代ウイルスの一部は,望ましくない特性を獲得した.例えば,発育鶏卵で増殖させた弱毒生ブルータングワクチンウイルス株は,妊娠中にワクチン接種された反芻動物の胎盤を通過し,胎仔に感染し,発育障害または胎仔喪失を引き起こすことがある.同様に,発育鶏卵で増殖させたアフリカ馬疫ウイルスは自然界ではヒトへ感染しないが,このワクチンウイルス株のエアロゾルに曝露してヒトが感染し重篤な結果をもたらしたことがある.


 ④ 突然変異株とリアソータント(再集合株)によるウイルスの弱毒化

 温度感受性変異株(正常体温を含む特定の温度では複製できないウイルス)が一般にビルレンスの低下を示すという観察は,それらが弱毒生ワクチンを作る可能性があることを示唆している.温度感受性変異ウイルス株の一部は,ワクチンとして接種した動物での複製中にビルレンスが復帰する(野生型に戻る)という不穏な傾向を示すが,満足のいく弱毒生ワクチンを作成できる可能性がある.それに応じて,ウイルスが最適以下の温度で増殖するように順応させることによって派生した低温順化変異株に注目が集まった.その論理的根拠は,そのような変異ウイルス株は,鼻腔の温度(ほとんどの哺乳類で約33℃)では複製するが,それ以上の温度の下気道および肺では複製しないという点で,鼻腔内投与による安全なワクチンになるからである.ほとんどのウイルス遺伝子に突然変異を含む低温順化させたインフルエンザワクチン株はビルレンスが復帰しない.このような経鼻ワクチンが,ウマインフルエンザ,ウシ伝染性鼻気管炎,ウシパラインフルエンザ3感染症に対して,同様の原理に基づいて開発されている.


(7)非複製ウイルスワクチン

 ① 不活化(感染性を喪失)した全ビリオン

 不活化ウイルスワクチンは通常,強毒ウイルス株を用いて作られる.免疫原性を維持しながら感染性を破壊するために,物理的処理または化学的薬剤が使用される.適切に製造された場合,そのようなワクチンは極めて安全だが,はるかに少ない用量の弱毒生ワクチンによって誘導されるのと同等の抗体産生を誘発するには,比較的大量の抗原を含む必要がある.通常,一次ワクチン接種コースは2回または3回の注射で構成され,免疫を維持するために,その後定期的に追加の(「ブースター」)接種が必要になる場合がある.不活化ワクチンは通常,免疫応答を高めるために化学アジュバントを配合する必要があるが,これはワクチン自体に比べ多くの有害反応を引き起こす場合もある.

 最も一般的に使用される不活化剤は,ホルムアルデヒド,βプロピオラクトン,およびエチレンイミンである.一部の狂犬病ウイルスワクチンの製造に使用されるβプロピオラクトンと,一部の口蹄疫ワクチンの製造に使用されるエチレンイミンの利点の1つは,数時間以内に毒性のない物質へ完全に加水分解されることである.凝集体の中心にあるビリオンは不活化から保護されていることがあるため,不活化する前に凝集体を分散する.過去には,これを怠り,ワクチン接種に基づく病気が発生したことがあった.たとえば,口蹄疫のいくつかの発生は,この問題が原因であることがわかっている.さらに,不活化ワクチンの生産には,不活性化の前に大量の強毒ウイルス株を最初に生産する必要があり,このウイルス株が製造施設から環境へ漏れると,それ自体がかなりの脅威となる.


 ② 精製したネイティブウイルスタンパク質

 エンベロープウイルスの場合,デオキシコール酸ナトリウムなどの脂質溶剤を使用して,ビリオンを可溶化し,ウイルスエンベロープの糖タンパク質スパイクを含む成分を放出させる.これらの糖タンパク質を分画遠心分離を使用して半精製し,インフルエンザのいわゆるスプリットワクチン(成分ワクチン)として使用するために製剤化されている.例としては,ヘルペスウイルス,インフルエンザウイルス,およびコロナウイルスに対するワクチンがある.


(8)組換えDNA技術および関連技術を用いて製造したワクチン

 分子生物学とそれに基づく多くの技術により,新しいワクチンが開発され,それぞれに固有の潜在的な利点があり,場合によっては従来のワクチンと比較して欠点もある.そのような新しい技術は,すでに使用されている新しいワクチンの製造に使用されており,それらの潜在的な利点を考えると,そのような製品の入手可能性と種類は将来的に増加すると見込まれる.


 ① 遺伝子欠失または部位特異的突然変異導入によるウイルスの弱毒化

 弱毒生ワクチン株の強毒株への復帰の問題(すなわち,ワクチンウイルスがビルレンスを回復する突然変異)は,ウイルス遺伝子にいくつかの弱毒化突然変異を意図的に挿入するか,ビルレンスに寄与する非必須遺伝子(増殖に必須でない遺伝子)を完全に削除することにより,大部分は回避できる.遺伝子の欠失は,複製,少なくとも培養細胞での複製には必須ではないかなりの数の遺伝子を保有する大型DNAウイルスでは可能である.「遺伝子除去」は,多くの継代にわたって安定な欠失変異株を構築するために使用されている.いくつかのヘルペスウイルスワクチンは,この方法により構築されている.これには,糖タンパク質遺伝子(gE)の1つが欠失しているブタ用のチミジンキナーゼ(TK)欠失オーエスキー病(仮性狂犬病)ワクチンがある.欠失した糖タンパク質はELISAの捕捉抗原として使用できるため,ワクチン接種済みの未感染豚(検査により陰性となる)と自然感染豚を区別(discrimination of infected from vaccinated animals: DIVA)することができるため,ワクチン接種と並行して根絶プログラムを実施できる.ウシ伝染性鼻気管炎ウイルス(ウシヘルペスウイルス1)に対するgE欠失マーカーワクチンも開発されている.

 部位特異的突然変異導入は,特定のヌクレオチド置換をウイルス遺伝子に意のままに導入することである.個々のウイルスのビルレンスと免疫原性に影響を与える特定の遺伝子が次々と同定されるにつれて,経験的に得られた既存の弱毒生ワクチンは,重要な遺伝子の「カスタマイズ」を通じて弱毒化のために設計されたものに置き換えられようになる.分子クローンからの弱毒生ワクチンの生産は,ワクチンウイルス株作出のために特定された弱毒化ヌクレオチド置換の意図的な導入と,遺伝的に特定された「シード(種)」ウイルス株からのワクチンウイルスの一貫した生産の両方を促進する.この方法により,DIVAのための鑑別血清学的検査の使用も可能になる.


 ② ウイルスタンパク質の発現により作られるサブユニットワクチン

 真核生物発現ベクターは,容易に精製してワクチンに処方できる個々のウイルスタンパク質の大規模生産を可能にしている.感染防御を付与するウイルスタンパク質が特定されると,その遺伝子(または,RNAウイルスの場合は,相補的DNA(cDNA))を発現プラスミドの1つにクローニングし, いくつかの細胞系で発現させることができる.哺乳類の細胞は,複雑なウイルスタンパク質の正確な翻訳後プロセシングと真の成熟のための機構をもつという点で,下等真核生物の細胞よりも優れている.

 有用な真核生物発現系には,植物および酵母細胞(Saccharomyces cerevisiae),昆虫細胞(Spodoptera frugiperda),およびさまざまな哺乳類の細胞が含まれる.酵母には,工業生産のためのスケールアップに関する豊富なノウハウがあるという利点がある.クローン化した遺伝子の発現によって生成された最初のワクチンであるヒトのB型肝炎ワクチンは,酵母で生成された.昆虫細胞は,シルク産業に由来する技術という利点を持っている.目的のウイルス遺伝子を運ぶ組換えバキュロウイルスを感染させることにより,蛾の細胞培養物(または毛虫)を用いて大量のウイルスタンパク質を発現させることができる.バキュロウイルスポリヘドリンタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターは極めて強力であるため,バキュロウイルスポリヘドリン遺伝子内に挿入された目的のウイルス遺伝子の産物は,感染細胞が作る全タンパク質の最大半分を構成する場合がある.バキュロウイルスが発現するE2タンパク質は,ブタサーコウイルス2のカプシドタンパク質と同様に,ブタ熱ウイルスに対する非常に効果的なサブユニットワクチンである.

 植物細胞における防御用のウイルス抗原の発現は,理論的には産業動物にワクチンを接種する費用対効果の高い効率的な方法を提供する.例えば,鳥類の防御免疫のために,ニューカッスル病ウイルスのヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼタンパク質を発現する植物細胞系が開発されている.同様に,大腸菌に基づく細菌発現システムは,大量のワクチン抗原を生成するのに非常に効果的かつ効率的であり,そのようなシステムは,サケのワクチンとして使用される伝染性膵臓壊死ウイルスのVP2タンパク質の産生に使用されている.


 ③ ウイルス様粒子(VLP)として自己集合するウイルスタンパク質

 特定のウイルス科内の非エンベロープ正二十面体ウイルスのカプシドタンパク質をコードする遺伝子の発現は,ワクチンとして使用できるVLPへの個々のカプシドタンパク質の自己組織化につながる.この方法は,さまざまなピコルナウイルス,カリシウイルス,ロタウイルス,およびオルビウイルスについて開発されており,ヒトの生殖器パピローマウイルスに対して効果的なVLPに基づくワクチンが開発されている.バキュロウイルスによって発現されたブタサーコウイルス2のカプシドタンパク質はVLPに自己集合し,このワクチンは慢性消耗病症候群などのブタサーコウイルス関連疾病に対して防御免疫を付与する.従来の不活化ワクチンに対する組換えVLPの利点は,ウイルス核酸がなく,完全に安全であることである.それはまた,不活化された全ウイルスワクチンと同等であるかもしれないが,化学的不活化に伴う免疫原性の損失がない.ただし,これには,一部の構築物での生産コストと低収量,生産後のVLPの安定性,および一部の既存のワクチンと比較して免疫効果が低いという潜在的な制限がある.


 ④ 異種ウイルス抗原の発現ベクターとしてのウイルス

 組換えDNA技術により,外来遺伝子をRNAウイルスまたはDNAウイルスのゲノムの特定の領域へ挿入し,標的細胞に導入して外来遺伝子産物を発現させることができる.具体的には,対象する疾病を引き起こすウイルスの主要な防御抗原(宿主内で免疫応答を誘導する抗原)をコードする遺伝子を,弱毒ウイルスのゲノム(組換えベクター)に挿入する.次に,この改変された弱毒ウイルスを,弱毒生ウイルスベクターまたは非複製(「自殺」)発現ベクターのいずれかにして接種する.接種された宿主の感染細胞は外来性タンパク質を発現し,動物がそれに対して獲得免疫応答(液性免疫や細胞性免疫)を開始する.このアプローチは,通常,病気の原因となるウイルスの1〜2個の遺伝子だけが発現ベクターに挿入され,十分に特徴付けられたウイルス(既存の弱毒生ワクチン株など)を発現ベクターとして使用できるため,安全である.さらに,このような組換えワクチンを接種した動物は,ワクチン構築物に含まれていないウイルスタンパク質に対する抗体を検出する血清学的検査を使用して,感染動物(または弱毒生ワクチンを接種した動物)と容易に区別できる(DIVA).


 ⑤ ベクターとしてのDNAウイルス

 さまざまなウイルス由来の抗原をコードする個々の遺伝子が,DNAウイルス,特にワクチニアおよび他のいくつかのポックスウイルス,アデノウイルス,ヘルペスウイルス,およびアデノ随伴ウイルス(パルボウイルス)のゲノムに組み込まれている.かなりの数の異なる組換えポックスウイルスベクターワクチンによる動物へのワクチン接種は,遺伝子が由来する異種ウイルスの強毒株によるチャレンジ感染に対してレシピエント動物に強力な防御免疫を付与する液性免疫や細胞性免疫を効果的に誘導する.たとえば,米国では組換えワクチニアウイルスベクターによる狂犬病ワクチンは,餌に添加して経口投与され,キツネとアライグマの両方をこの感染症から防いでいる.このワクチンには,狂犬病ウイルスの表面糖タンパク質(G)をコードする遺伝子のみが含まれている.同様に,トリポックスウイルスは,組換えワクチンにおける異種遺伝子の発現ベクターとして使用されている.鶏痘ウイルスは鳥類ワクチンのベクターとして合理的に選択されるが,鶏痘ウイルスは哺乳動物においても非常に有用な発現ベクターであることが示されている.哺乳類の細胞におけるその複製サイクルでは,挿入された遺伝子が発現し,接種された動物において強力な細胞性および液性免疫応答を誘導する.ポックスウイルスの大きなゲノムは,少なくとも12個の外来遺伝子を収容でき,ビリオン内に十分にパッケージングできるため,理論的には,複数の異なるウイルス性疾患を予防できる単一の組換えウイルスをベクターとして構築することが可能である.

 哺乳類の免疫に広く使用されている組換えポックスウイルスベクターワクチンには,ヨーロッパのキツネ,米国のアライグマとコヨーテのワクチン接種に使用されるワクチニア狂犬病ワクチン,および米国におけるウマのインフルエンザとウエストナイル病,イヌとフェレット,および特定の動物園動物・野生動物のジステンパー,ネコ白血病と狂犬病を予防するためのカナリア痘ウイルスベクターワクチンがある.米国では,実験的組換えカナリアポックスウイルスベクターワクチンが,アフリカ馬疫,ブルータング,日本脳炎,およびニパを予防するために開発されており,実験的な組換えカナリアポックスウイルスHIVワクチンを使用して,ヒトで広範な試験が実施されている.アライグマ痘ウイルス,カプリポックスウイルス(capripox virus),および他のポックスウイルスも,哺乳類のワクチンとして使用するための組換え発現ベクターとして同様に開発されている.ウサギは,ウサギ出血病ウイルスのVP60遺伝子を発現する組換え型の弱毒化粘液腫ウイルスを用いて,ウサギ粘液腫(ポックスウイルス)とウサギ出血病(カリシウイルス)の両方に対して免疫することができる.この組み合わせワクチン接種には,ウサギ出血病ウイルスを培養細胞により増殖させることができないため大きな利点があるため,ウサギ出血病に対する単独のワクチン接種には,ウイルスに感染したウサギの肝臓から収集したウイルスを不活化する必要がある.同様に,狂犬病(野生動物)や口蹄疫(家畜)などの病気に対して動物を免疫するために,組換えアデノウイルスが米国で開発されている.

 ニューカッスル病ウイルス,ニワトリ伝染性喉頭気管炎ウイルス(Gallid herpesvirus 1),および伝染性ファブリキウス嚢病ウイルスに対する組換えシチメンチョウヘルペスウイルスベクターワクチンを含む,家禽で使用するための多くのDNAウイルスベクターワクチンも米国では開発されている.これらのワクチンは,異種ウイルスの防御抗原をコードする遺伝子のみを含んでいるが,マレック病(Gallid herpesvirus 2によって引き起こされる)と他の疾患(ニューカッスル病,ニワトリ伝染性喉頭気管炎,および伝染性ファブリキウス嚢病)の両方に対する防御免疫をニワトリに付与できる.ニューカッスル病およびインフルエンザウイルスH5に対する鶏痘ウイルスベクターワクチンも開発されており,後者はメキシコおよび中米で広く使用されている.

 キメラDNAウイルスは,強毒ウイルス株の遺伝子を近縁の弱毒ウイルス株の遺伝子骨格に挿入したワクチンとしても開発されている.例えば,米国のブタで使用されているキメラサーコウイルスワクチンは,ブタに非病原性であるブタサーコウイルス1の遺伝子骨格をもち,ブタに病原性のあるブタサーコウイルス 2 の免疫原性カプシドタンパク質をコードする遺伝子を含んでいる.ブタサーコウイルス2のカプシドタンパク質に対する抗体は,ワクチン接種したブタに免疫を付与できる.ブタサーコウイルス1と同様に,キメラウイルスは培養細胞で高力価に培養できるため,ワクチンの生産がより効率的で費用対効果が高くなる.

 市販の動物用ワクチンは,安全性と有効性の点での固有の利点,および感染性ウイルスに曝露した動物とワクチン接種した動物を区別できる制御プログラムがあるので,将来的にますますDNAウイルスを発現ベクターとして利用することが予想される.


 ⑥ ベクターとしてのRNAウイルス

 DNAウイルスベクターワクチンと同様に,RNAウイルス,特に安全性が証明されているウイルス株は,他の(異種)ウイルスからの免疫原性遺伝子を挿入するための「遺伝的バックボーン」として使用できる.キメラRNAウイルスは,1つのウイルスの複製機構を利用して,異種ウイルスの防御抗原を発現できる.例えば,黄熱ウイルスの伝統的な弱毒生ワクチン株のエンベロープタンパク質をコードする遺伝子が,日本脳炎ウイルス,ウエストナイルウイルス,またはデングウイルスなどの他のフラビウイルス,あるいは,インフルエンザウイルスなどの異なるウイルスの免疫原性タンパク質をコードする遺伝子も,対応する遺伝子に置き換えられたキメラワクチンが米国で開発されている.ウエストナイルウイルスのM前駆体(preM)およびエンベロープ(E)タンパク質を含む黄熱ウイルスに基づくキメラワクチンは,ウマの防御免疫のために米国で使用されている.

 ポジティブセンスRNAウイルスは,これらのウイルスのゲノムRNA自体が感染性であるため,外来遺伝子を挿入するための分子クローンとして使用するのに特に便利である.トランスフェクション時にレプリカーゼタンパク質を含めることにより,ネガティブセンスRNAウイルス用の感染性クローンも開発されている.家禽では,インフルエンザウイルスのH5遺伝子を発現する組換えニューカッスル病ウイルスワクチンが開発され,ニューカッスル病とトリインフルエンザH5の両方に対するトリの防御免疫のために中国で広く使用されている.ニドウイルス(コロナウイルス,アルテリウイルス)などの他のポジティブセンスRNAウイルスと同様に,ラブドウイルスなどのネガティブセンスRNAウイルスも潜在的な遺伝子ベクター(水胞性口炎ウイルスなど)として評価されている.

 組換えレプリコン粒子は,フラビウイルスや,ベネズエラ馬脳炎,セムリキ森林ウイルス,シンドビスウイルスなどのアルファウイルスを含む特定のRNAウイルスで開発された手法を提供している.組換えアルファウイルスレプリコン粒子は,アルファウイルスの構造タンパク質のみから作られるが,この粒子に含まれるゲノムRNA はキメラであり,レプリコンアルファウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子が異種ウイルスの構造タンパク質に置き換えられている.一例として,ウマ動脈炎ウイルスのGP5およびエンベロープMタンパク質を共発現するベネズエラウマ脳炎ウイルスのワクチン株に由来するレプリコン粒子は,免疫されたウマにおいてウイルス中和抗体および防御免疫を誘導する.レプリコンゲノムにはベネズエラウマ脳炎ウイルスの非構造タンパク質とウマ動脈炎ウイルスの構造タンパク質遺伝子のみが含まれているため,免疫されたウマでは感染性のベネズエラウマ脳炎ウイルスもウマ動脈炎ウイルスも産生されない.ブタ流行性下痢ウイルスのスパイク遺伝子を発現するベネズエラウマ脳炎ウイルスのレプリコンを使用して,ブタ用のブタ流行性下痢ウイルスワクチン(レプリコンワクチン)を製造するために,同様の方法が使用されている.

 分節ゲノムを持つインフルエンザウイルスやその他のウイルスの場合,キメラウイルスの原理は,組換えDNA技術が登場する前に確立されていた.再集合ウイルス株は,既存のワクチンウイルス株と新しい分離株との共培養による相同再集合(分節スワッピング)によって生成される.ワクチンウイルスの望ましい増殖特性を持ちながら,最新の分離株の免疫原特性を持つウイルスが選択され,クローン化され,ワクチンとして使用される.


 ⑦ DNAワクチン

 1990年代初頭に,ウイルスDNA自体を防御免疫に使用できるという発見は,革新的なワクチンへの新しいアプローチを提供した.具体的には,βガラクトシダーゼ遺伝子を含むプラスミド構築物を,マウス骨格筋に接種すると,その後最大60日間その酵素が発現された.この初期の観察から,DNAワクチンの開発への関心が急激に高まり,この方法論は幅広い潜在的用途のために実験的に利用された.最初の市販のDNAワクチンは,伝染性造血器壊死ウイルスからサケを保護するために開発された.2005年にはウマのウエストナイル病を予防するDNAワクチンの使用が米国で承認されたが,その後中止された.

 後から考えると,DNA自体が防御免疫を付与できるという発見は,さして驚くべきことではなかった.1960年,ショープパピローマウイルス由来のDNAを皮膚に接種すると,ウサギの皮膚の接種部位に乳頭腫を誘発することが示されていた.その後,ウイルスDNA,ウイルスRNA,またはウイルスRNAのcDNAが,細胞へのトランスフェクション後に完全な複製サイクルを完了できることが,多くのウイルスで示された.DNAワクチンという手法は,重要なウイルス抗原をコードする遺伝子を含む組換えプラスミドを構築することによる.プラスミド内のDNAインサートは,注入時に細胞へトランスフェクトし,発現したタンパク質が,それぞれのウイルス感染に対する免疫応答を誘発する.DNAワクチンは通常,ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターなど,幅広い細胞特異性を持つ強力なプロモーターを備えた大腸菌プラスミドにより構成されている.プラスミドは,一般に大腸菌で増幅させ,精製され,宿主個体へ注入される.筋肉内注射が最も効果的であるとされる.プラスミドDNAをマイクロ粒子(一般に直径1~3 μmの金粒子)に封入し,ヘリウムガス駆動の銃のような装置(「遺伝子銃」)を使用して「銃撃」によって注入することにより,ワクチン接種に対する応答が達成される.

 DNAワクチンの理論上の利点には,純度,理化学的安定性,単純さ,比較的低コストの生産,流通,および送達,単一のプラスミドに複数の抗原を含める可能性,および抗原のネイティブな形での発現(それにより処理と免疫系への提示を促進する)が含まれる.反復注射は干渉なしに行うことができ,DNAワクチンは母親からの移行抗体の存在下で免疫を誘導することができる.しかし,DNA ワクチン接種はまだ広く使用されていない.なぜなら,この技術の実際の応用は,実験動物に比べ,ヒトや動物でははるかに難しいからである.遺伝子操作された外来性DNAの運命と潜在的な副作用に関して,懸念が提起されており,ヒトの食物連鎖に入る食用動物にとって,安全性を証明するためのコストはかなりのものになると見込まれる.


(9)その他の潜在的なワクチン

 ① ウイルス抗原発現ベクターとしての細菌

 ウイルスタンパク質(またはその免疫原性部分)を,宿主に直接感染する遺伝子操作された細菌の表面に発現させることができる.一般的なアプローチは,ウイルス防御抗原をコードするDNAを細菌のゲノムに,または主要な表面タンパク質をコードするDNAをプラスミドの 1 つに挿入するものである.追加されたウイルスタンパク質が,細菌タンパク質の輸送,安定性,または機能に深刻な干渉を与えない限り,細菌は増殖し,宿主の免疫系にウイルスエピトープを提示できる.腸内で自然に増殖する腸内細菌は,腸内ウイルス強毒株のエピトープを腸関連リンパ組織へ提示するための発現ベクターとなり,また,大腸菌,サルモネラ属菌,およびマイコバクテリウムの弱毒株は粘膜免疫を刺激するため,ウイルスを含む腸内病原体に対する免疫付与について研究されている.大腸菌によって発現される伝染性膵臓壊死ウイルスのVP2遺伝子に基づく米国の市販のサブユニットワクチンは,サケ科のこの病気の予防に有効とされる.


 ② 合成ペプチドワクチン

 ウイルスタンパク質のエピトープを同定する技術が向上したことにより,これらの抗原決定基に対応するペプチドを化学的に合成することも可能になった.適切に設計された合成ペプチドは,口蹄疫ウイルスや狂犬病ウイルスなど多くのウイルスに対する中和抗体を誘発することができるが,概して,このアプローチは期待外れであった.これはおそらく,本物のタンパク質に含まれる多くの重要なエピトープの構造的問題のためである.具体的には,コンフォメーションエピトープは,連続するアミノ酸の一次配列で構成されているのではなく,ポリペプチド鎖の折り畳みによって近接並置されたアミノ酸から組み立てられている.有効な抗原刺激には,天然のタンパク質分子またはウイルス粒子のエピトープの三次構造がワクチンで維持される必要がある.短い合成ペプチドは三次構造または四次構造を欠いているため,それらに対して生成されたほとんどの抗体はビリオンに結合できない.したがって,中和抗体価は,不活化された全ウイルスワクチンまたは精製されたインタクト(無傷)のタンパク質によって誘導されるものよりも桁違いに低くなる.対照的に,T細胞によって認識されるエピトープは,短い線形ペプチド(MHCタンパク質に結合)である.これらのT細胞エピトープのいくつかは,特定のウイルスの異なる株間で保存されているため,一部の宿主では交差反応性T細胞応答を誘発する場合がある.しかし,これらのペプチドに結合するMHCタンパク質は,どの種でも高度に多形性であり,種間ではさらに多形性が高くなる.そのため,ウイルスの株全体で共通のペプチドエピトープを特定し,ウイルスに応答する動物のすべての遺伝子型を特定することは極めて困難である.今後のバイオインフォマティクスにより,このアプローチは実現可能になるかもしれない.


(10)ワクチンアジュバント

 不活化ワクチン,特に精製タンパク質ワクチンと合成ペプチドの免疫原性は,通常,その有用性を最適化するために強化する必要がある.これは,抗原をアジュバントと混合すること,リポソームへの抗原の取り込み,または免疫刺激複合体への抗原の組み込みによって行われる.同様のアプローチは,組換えワクチンの免疫原性を高めるためにも使用されており,これらのワクチンの免疫原性は,免疫増強剤を発現ベクターに組み込むことによって,または発現ベクターとともに組み込むことによってさらに高めることができる可能性がある.

 アジュバントは,ワクチンと混合することにより,液性および細胞性の免疫応答を増強する製剤であり,より少ない量の抗原で十分になる.アジュバントはその化学的性質と作用機序がまちまちであるが,通常,主要な免疫細胞(マクロファージ,リンパ球,樹状細胞)をワクチン抗原の沈着部位へ動員して活性化することにより,その抗原の分解と放出のプロセスを延長し,ワクチンの免疫原性を高めることができる.ミョウバンと鉱油は動物用ワクチンに広く使用されているが,他の多くのものが開発されているか,現在研究中である.多くの例の中で,ポリホスパゼン(polyphospazene)などの生物分解性合成ポリマーは,特に抗原の皮内接種のために微細加工された針を用いて使用すると,強力なアジュバントとして機能する.ワクチンの免疫原性を高めるための免疫調節アプローチも研究されている.具体的には,自然免疫および獲得免疫を増強したり,その抑制因子を阻害したりできる分子である.

 リポソーム(liposome)は,ウイルスタンパク質を取り込むことができる人工脂質膜球で構成されている.精製されたウイルスエンベロープタンパク質を使用すると,結果として得られる「ウイロソーム(virosome)」(または「イムノソーム(immunosome)」)は,ビリオンの元々のエンベロープに若干似ている.これは,核酸および他のウイルス成分を欠くウイルスエンベロープ様構造の再構成を可能にするだけでなく,アジュバント活性を有する非発熱性脂質の取り込みも可能にする.ウイルスエンベロープ糖タンパク質または合成ペプチドがコレステロールとQuil Aとして知られるグリコシドと混合されると,直径40 nmの球形のケージ様構造が形成される.いくつかの動物用ワクチンには,この「免疫刺激複合(immunostimulating complex : ISCOM)アジュバント」技術が含まれている.

 前述のように,ウイルスにはPAMPと呼ばれる特徴的なシグニチャが含まれており,獲得免疫応答の誘導に重要な樹状細胞やその他の自然免疫細胞の病原体認識受容体を効率的に刺激する.これらのPAMPには,ssRNA,dsRNA,および特定のウイルスタンパク質が含まれる.ワクチンにはインタクト(無傷)のビリオンが含まれており,ワクチンによる反応が促進されるため,弱毒生ワクチンと不活化ワクチンの両方の全ウイルスワクチンは,多くの場合,これらの微生物の特徴を保持している.TLR9は,真核細胞では通常見られないメチル化パターンを持つDNA分子を認識し,さまざまな抗原やDNAワクチンと組み合わせてTLR9経路を活性化するために,シトシン・グアニン・オリゴヌクレオチド(CpG ODN)が開発されている.開発中または評価中のその他のワクチンアジュバントには,ウイルスのdsRNAに似ており,TLR3を刺激するポリイノシン: ポリシチジル酸や,樹皮由来の両親媒性配糖体であるサポニンなどがある.自然免疫応答によって誘導されるサイトカインの産生の増強は,目的の抗原とともにウイルス発現ベクターにより必要なサイトカインを発現させることによって達成することができる.あるいは,ウイルス抗原を発現するDNAワクチンを,所与のサイトカインをコードするDNA分子とともに投与することができる.サイトカインを使用して,免疫プロセスによって自然に誘導される応答を増強すると,免疫応答が増強されることを多くの研究が示しれている.


(11)ワクチンの有効性と安全性に影響を与える要因

 ワクチンは,世界の多くの国では適正製造基準(GMP)と呼ばれるガイドラインに基づいて製造されている.正しく調製され,検定されたすべてのワクチンは,免疫能のある動物において安全でなければならない.最低限の基準として,認可機関は,不活化ワクチンに残留する感染性ウイルスの厳格な安全性検査を要求している.弱毒生ワクチンや,潜在的には新世代の組換えワクチンに固有の安全性の問題は他にもある.

 ワクチン接種の目的は,病気から身体を守ることであり,理想的には,危険にさらされている集団内での流行とウイルスの伝播を防ぐことである.ワクチン接種後に免疫力が低下して野生型ウイルス株に感染した場合,不顕性感染となることあるが,免疫力は高まる.また,地方病として環境中にウイルスがある場合,つまり農場の動物,シェルター(保護施設)に収容されているネコやイヌ,密集した檻(ペン)の鳥では感染が頻繁に発生する.

 多くの動物種において,IgAは,消化管,呼吸器,泌尿生殖器,眼上皮などの粘膜表面の感染予防のための免疫グロブリンの最も重要なクラスである.経口投与された弱毒生ワクチンの利点の1つは,局所IgA抗体の長時間の産生を誘導することである.これにより,主に侵入部位で病原性を示す呼吸器ウイルスおよび腸内ウイルスに対して一時的な免疫が付与される.対照的に,IgGは,(ウイルスの)全身拡散を介して標的器官に到達するほとんどのウイルスに対する再感染に対する長期的,しばしば生涯にわたる免疫を付与する.したがって,ワクチン接種の主な目的は,自然感染を模倣することである.つまり,感染を防ぐために,ビリオン上のエピトープに対する適切な抗体クラス,IgAやIgGの中和抗体を高力価に誘発することである.

 経口または経鼻のいずれかによって送達される弱毒生ワクチンの有効性は,接種されたウイルスワクチンのその後の腸管または気道での複製に大きく依存する.ワクチンウイルスと腸内ウイルスまたは呼吸器ウイルスとの間で干渉が発生し,ワクチン接種時に偶発的に動物へ感染することがある.また,特定のワクチン製剤に含まれる異なる弱毒ウイルス間で干渉が発生することも報告されている.ヘルペスウイルスやレトロウイルスなどの持続感染をするウイルスに対するワクチン接種も,特別な困難に直面する.これらのワクチンは,原疾患を予防するだけでなく,生涯にわたる潜伏感染の成立を防ぐためにも,効果的でなければならない.弱毒生ワクチンは,一般に,不活化ワクチンよりも細胞性免疫を誘発するのに効果的だが,免疫された宿主に持続感染を確立するリスクも伴う.


(12)ワクチンの潜在的な悪影響

 ① 弱毒化不足

 弱毒生ワクチンの中には,ワクチンを接種した動物に臨床症状(軽度〜重度)を引き起こすものがある.例えば,培養細胞での継代数が比較的少ない初期のイヌパルボウイルスワクチンの中には,容認できないほど高い疾病発生率を示したものがあった.しかし,培養細胞での継代をさらに追加してビルレンス(毒力)をさらに弱めようとすると,ワクチンを接種した動物でウイルスが複製する能力が低下し,対応する免疫原性が失われることがある.

 このような副作用は,適切に製造された動物ウイルスワクチンでは通常最小限であり,ワクチン接種への重大な阻害要因にはならない.ただし,弱毒生ワクチンは,そのワクチンを対象の動物種にのみ使用することが重要である.例えば,イヌジステンパーの弱毒生ワクチンは,クロアシイタチなどのイタチ科の一部の動物に死亡を引き起こすため,組換えまたは不活化された全ウイルスワクチンを使用する必要がある.弱毒生ワクチンのさらなる予期せぬ結果は,ブルータングに対する弱毒生ワクチンを接種した動物に隣接しているワクチン接種を受けていない家畜の間で報告されているように,ある動物から別の動物への生ワクチンウイルスの伝播の可能性である.弱毒生ウイルスの意図しない自然伝播は,遺伝的不安定性または「野外株」ウイルスとの組換えによってビルレンスを回復することがある.


 ② 遺伝的不安定性と組換え

 一部のワクチンウイルス株は,レシピエントまたはワクチンウイルスが拡散した接触動物での複製中にビルレンスを回復することがある.理想的には弱毒生ワクチンのウイルス株はそのように拡散しないが,拡散するウイルスでは,突然変異(復帰変異)の蓄積が起こり,徐々に毒力を回復することがある.この現象の主な例は,A・セービン(Albert B. Sabin: 1906〜1993)が開発したポリオウイルス3型経口ワクチンがヒトでまれにビルレンスを回復したことであり,最終的にはより安全ではあるが,より効果的であるとは限らない非複製型ワクチンが取って代わった.ウシウイルス性下痢ウイルスの温度感受性突然変異株も,遺伝的に不安定であることが知られている.ワクチンウイルスの遺伝子改変に関する最近の懸念は,オーストラリアで発生した.オーストラリアでは,家禽に異なるニワトリ伝染性喉頭気管炎ウイルスワクチンを同時に使用した結果,異なる弱毒生ワクチン株に由来する新しい組換え強毒ウイルスが出現し,拡散した.同様に,ブルータングウイルスやアフリカ馬疫ウイルス(どちらもオルビウイルス)などの分節ゲノムを持つRNAウイルスの弱毒生ワクチン株は,昆虫ベクターと動物宿主の両方で,野生型ウイルス株または他のワクチンウイルス株と遺伝子を再集合させることにより,潜在的に望ましくない特性を持つ新しい子孫を作ることがある.


 ③ 熱不安定性

 弱毒生ワクチンは,環境温度が高いことによる不活化に対して脆弱であり,熱帯地方では特に問題となる.熱帯地方では,製造業者から遠く離れた酷暑の農村地域の動物への投与地点までの「低温輸送」の維持が困難になる場合がある.この問題は,ワクチンへの安定化剤の添加,熱安定性の高いワクチン株の選択,および投与直前に再構成するための凍結乾燥状態でのパッケージ化によって,ある程度軽減されている.車両や一時的な野外実験室で使用するための簡易可搬型冷蔵庫も有用である.


 ④ 迷入ウイルスの存在

 ワクチンウイルスは動物またはそれらに由来する培養細胞で増殖させるため,ワクチンはその動物またはその細胞培養に使用される培地からの別のウイルスにより汚染されることがある.米国においてワクチンと血清の国際取引の制限につながった初期の例は,1908 年に仔ウシで製造された天然痘ワクチンの汚染因子として口蹄疫ウイルスが米国に持ち込まれたことである.同様に,ニワトリに使用するワクチンを製造するために発育鶏卵を使用して,問題が生じたことがある(例:細網内皮症ウイルスによるマレック病ワクチンの汚染).ウイルス汚染のもう1つの重要な原因は,細胞培養で広く使用されているウシ胎仔血清である.ウシ胎仔血清のすべてのバッチは,特にウシウイルス性下痢ウイルスによる汚染についてスクリーニングする必要がある.同様に,ブタのパルボウイルスは,動物細胞培養に使用される,ブタの膵臓から調製されたトリプシンの粗調製物の一般的な汚染因子である.ウイルス汚染のリスクは,弱毒生ワクチンで最も大きいが,一部のウイルスは他のウイルスよりも不活化に対して耐性があるため,不活化全ウイルスワクチンでも発生する場合がある.たとえば,病原体とされるプリオンは,従来の滅菌方法に耐性である.また,弱毒ウイルスワクチンの使用に起因する深刻な副作用の原因が不明の場合もある.例えば米国において,黄熱ウイルスをベースにしたにウエストナイル病キメラワクチンは,ウマのウエストナイル病の予防に功を奏したが,ワクチン接種後にウマの急性アナフィラキシー,疝痛,呼吸困難および死亡の複数の報告を受けて中止された.


 ⑤ 妊娠中の動物への悪影響

 弱毒生ワクチンは,流産誘発性または催奇形性の危険性があるため,妊娠中の動物への使用は一般に推奨されていない.例えば,ウシ伝染性鼻気管炎の弱毒生ワクチンは流産誘発性であり,ネコ汎白血球減少症,ブタ熱,ウシウイルス性下痢,リフトバレー熱,およびブルータングなどに対する弱毒生ワクチンは,妊娠中に胎盤を通過して胎仔に伝播した場合,すべて催奇形性がある.これらの悪影響は,通常,影響を受けやすい妊娠の段階での免疫のない妊娠動物の初回免疫の結果であるため,不活化ワクチンにより妊娠動物に免疫を付与するか,交配前に弱毒生ワクチンにより雌動物を免疫することが望ましい.ワクチン中へのウイルスの迷入は,妊娠中の動物に使用されるまで気づかれないことがある.例えば,イヌ用ワクチンへのブルータングウイルスの迷入が妊娠中の雌イヌの流産や死亡を引き起こしたことが報告されている.


 ⑥ 非複製ワクチンによる悪影響

 一部の不活化全ウイルスワクチンは,疾患を増強することが知られている.初期の観察は,ヒトのRSウイルスおよび麻疹の不活化ワクチンで行われ,免疫されたヒトが,ワクチンを接種されていなかった人々よりも感染後に深刻な症状を呈した.同様の事象が獣医学領域でも発生しており,これには,チャレンジ感染前にネココロナウイルスのE2タンパク質を発現する組換えワクチニアウイルスにより免疫したネコにおけるネコ伝染性腹膜炎の発生の増加が含まれる.予防接種後に中和抗体が産生されたにもかかわらず,仔ネコは防御されず,攻撃後にネコ伝染性腹膜炎によりすぐに死亡した.非複製型ワクチンの不完全な不活化によって引き起こされる疾病の例は数多くあり,また汚染ウイルスが不活化処理を生き延びた例もある.


(13)予防接種の方針とスケジュール

 一次ワクチン接種のスケジュールを超えて,動物に再接種を行う必要がある頻度については,ほとんど合意がなく,多くの議論が現在行われている.ほとんどのワクチンについて,免疫の持続期間に関して入手できる確実な情報は比較的少ない.例えば,イヌジステンパーの弱毒生ワクチンを接種した後の免疫は長期間,おそらく生涯にわたることが知られている.ただし,混合ワクチンによる別のウイルスまたは成分に対する免疫の持続時間は,それほど長くない場合がある.コンパニオン動物の診療では,他の費用と比較して,クライアントが獣医師を受診するときのワクチン接種の費用は通常控えめであるため,再接種が害を及ぼさない場合,幅広いヘルスケアのニーズに対処できる定期的な年次「検査」の正当な要素と見なせるとされている.多くの国で,毎年のワクチン再接種は,幅広いコンパニオン動物予防医療プログラムの基礎となっているが,このアプローチの理論的根拠は推測にすぎない.

 この年1回のワクチン接種の概念は,1990 年代半ばに,ネコのワクチン接種部位(多くの場合,肩の後ろ)に侵襲性の皮下線維肉腫が報告されたことによって混乱した.このワクチン関連腫瘍の原因は,まだ完全に解明されていない.しかし,ワクチン自体に迷入しているウイルスは原因ではなく,ワクチン成分によって引き起こされる刺激が原因であるという疑いが濃厚である.いずれにせよ,この現象はコンパニオン動物へのワクチンの再接種の頻度に関する議論を再燃させ,好ましいワクチン接種部位,ワクチン接種間隔(一部のワクチンでは1年から3年に延長),および有害反応を報告するシステムに関する新しい推奨事項の提案につながっている.

 入手可能なワクチンの種類は多価であることが多く,ワクチン接種スケジュールに関してメーカーごとに多少異なる推奨事項があるため,現場の獣医師はワクチンの選択と使用法について常に勉強する必要がある.多価ワクチン製剤は,個々の動物が受けなければならない接種回数を減らすことにより,大きな実用上の利点をもたらす.また,多価ワクチンは,二次的に重要な病原体に対するワクチンの使用を行える.しかし,獣医学では,ヒトの医学において小児期によく見られるすべてのウイルス性疾患に対するワクチンの処方と予防接種のスケジュールについて一般的な合意があるのとは異なり,そのような合意がない.さらに,ヒトの医療ではワクチンメーカーが少ないが,それとは異なり,多くの動物用ワクチンメーカーがあり,それぞれが独自の製品を宣伝している.

 

 ① ワクチン接種に最適な年齢

 多くのウイルス性疾患のリスクは,若い動物で最も高くなる.したがって,ほとんどのワクチンは生後 6 か月の間に接種される.母体からの移行抗体は,霊長類のように経胎盤的に移入されるか,家畜や鳥類のように初乳または卵黄嚢を介して移入されるかにかかわらず,新生仔または孵化したてのヒナへのワクチンに対する免疫応答を阻害する.最適には,幼若動物における母体からの移行抗体価がほぼゼロに低下するまで,ワクチン接種を遅らせる必要がある.しかし,ワクチン投与が遅れると,結果として生じる「感受性の窓(window of susceptibility)」の期間に動物が脆弱なままになることがある.これは,混み合った高度に汚染された環境や節足動物媒介生物の活発な場所では,生命を脅かす場合がある.さまざまな動物種でこの問題を処理する方法はいくつかあるが,完璧なものはない.幼若動物は必ずしも年長の動物と同じようにワクチンに反応するとは限らないため,問題がさらに複雑になる.たとえば,ウマでは,不活化インフルエンザワクチンに対する抗体反応は,接種を受けた仔ウマが1歳になるまで弱いままである.

 初乳を摂食した後の新生動物の循環系での受動的に獲得された抗体の力価は,母動物の血液中のそれに比例するため,そして,異なる動物種でのその後のクリアランス率が知られているため,任意の母体抗体価について,測定可能な抗体が子孫に残らない年齢を推定することができる.これはグラフとしてプロットし,そこから特定の病気に対する最適なワクチン接種年齢を割り出すことができる.この方法はめったに利用されないが,「リスクの高い」環境において貴重な動物に使われる.

 実際には,ワクチン製造業者の指示に従えば,ワクチンの失宜は比較的少なく,その動物種の母体抗体レベルとIgG半減率に関する平均データを使用して,ワクチン接種に最適な年齢を推定する.弱毒生ワクチンの場合でも,母体の抗体価が特に高い動物の「感受性の窓」をカバーするために,ワクチンを数回,たとえば月間隔で投与することが一般的に推奨されている.この予防的措置は,各ウイルスに対する母体抗体のレベルが異なるため,多価ワクチン製剤では特に推奨されている.


 ② 母動物への予防接種

 ワクチン接種の目的は,一般に被接種個体の予防と考えられている.これは通常そのとおりだが,特定のワクチンの場合(例:ウマ(流産)ヘルペスウイルス1,ウシのロタウイルス感染症,ブタのパルボウイルス感染症,ニワトリの伝染性ファブリキウス嚢病のワクチン)の場合,目的は,ワクチン接種個体の子孫を子宮内で保護すること(例:ウマの流産),または新生仔や孵化したばかりのヒナを保護することである.これは,母動物へのワクチン接種によって達成される.新生仔や孵化したばかりのヒナの場合,初乳や乳汁,または卵へ移行する母体抗体のレベルにより,子孫が初期の段階で保護レベルの抗体をもつことが保証される.多くの弱毒生ワクチンは流産誘発性または催奇形性があるため,不活化ワクチンは妊娠動物のワクチン接種として推奨される.


 ③ ワクチンの入手と推奨

 各ウイルス性疾患に利用できるワクチン,特に口蹄疫などの厳重に規制されているウイルス性疾患の要件には,大きな地理的相違がある.また,さまざまな種類の畜産に適したさまざまな要件がある(例:放し飼いの肉用牛とその仔ウシ,または肥育場のウシと比較して集中的に飼育されている乳用牛の場合,繁殖用の家禽,商業用産卵鶏,およびブロイラー用の場合).同様に,イヌ,ネコ,ウマ,ペットの鳥,およびウサギなどの他の動物種のワクチン接種スケジュールは,個々のリスクに加えて,科学に基づく基準を反映させる必要がある.

 生産動物を含む一部の動物種では,ウイルス感染や病気に対する予防が免除されている.たとえば,実験用齧歯類は,さまざまな種類の微生物バリア環境で維持されている.まれに,極めて貴重なマウス集団においてエクトロメリアウイルス感染のリスクが高い実験用マウスを,ワクチニアウイルスIHD-T株により個別にワクチン接種する場合がある.

 ペットのウサギと同様に,商業的に飼育されているウサギは,多くの場合,粘液腫ウイルスおよびウサギ出血病ウイルスに対してワクチン接種されている.これらのウサギの病気は,動物用ワクチンの接種についての政治的背景も示してお,ワクチン接種が,病気の自然発生に対する監視を曖昧にすることがあるため,米国などの一部の国ではワクチンが利用できない.


(14)家禽および魚類のワクチン

 家禽の生産は経済的に重要であり,例えば,米国では年間推定200億ドルの産業となっている.この産業を保護するために,国によって使用するワクチンの種類は異なるが,商業的に生産されたすべての家禽は,いくつかの異なるウイルス性疾患に対するワクチン接種を受けている.ウイルス性疾患に対する家禽のワクチン接種は,哺乳類の場合と同じだが,各ワクチンの費用はわずかである.これは多くの場合,低コストの送達システム(エアロゾルと飲料水)に関連している.18日齢の発育卵の卵内(in ovo)免疫の導入により,さらなる経済効果が達成されている.1時間あたり約4万個の卵を免疫できる卵内接種装置(例:Inovoject®)が使用されている.最も頻繁に使用されるワクチンはマレック病に対するものである.かつては1日齢の初生雛に個別に接種していたが,現在はこの方法により行われている.2009年までに,米国では肉用ニワトリ(ブロイラー)の95%以上がこの方法によりワクチン接種された.

 商業的な水産養殖では,サケ科の流行性造血器壊死および伝染性膵臓壊死を予防するためにワクチン接種が行われている.これらの疾病に対するワクチンには,注射または経口で投与されるDNAワクチンおよびサブユニットタンパク質ワクチンが含まれる.コイ(Cyprinus carpio haematopterus)のコイヘルペスウイルス3感染に対する弱毒生ワクチンは,イスラエルでの使用が承認されている.このワクチンには,ワクチン接種した魚と感染した魚を区別できる遺伝子欠失がある.魚類へのワクチン接種の目的は哺乳類と同じである.実際,脊椎動物の免疫系の系統発生の起源は,硬骨魚を含む最初の有顎脊椎動物にまでさかのぼる.抗ウイルス免疫は,哺乳類や鳥類に比べて魚類ではあまり理解されていないが,先天的および後天的な免疫応答メカニズムの両方が関与している.具体的には,細胞性および液性の免疫応答には,哺乳類に見られるものと同等の細胞型,シグナル伝達分子,および可溶性因子が関与している.これらには,炎症誘発性反応やインターフェロン誘導につながるTLRなどのパターン認識受容体を備えた食細胞が含まれる.I型様インターフェロンの誘導は,魚類の抗ウイルス自然免疫応答に不可欠であり,その産生は,哺乳動物と同様にdsRNAおよびシグナル伝達経路によって刺激される.同様に,先天性免疫応答は,哺乳動物の場合と同様に,魚類の獲得免疫のプライミングに加えて,抗ウイルス状態を誘導するようである.

T細胞およびB細胞と特定の免疫グロブリン産生が関与する獲得免疫応答も,魚類の抗ウイルス免疫にとって重要である.T細胞受容体複合体(αβまたはγδ)の構造は,硬骨魚を含む有顎脊椎動物の進化を通じて一定のままだが,魚類のB細胞受容体の構成と使用は他の脊椎動物のものとは異なる.魚類は,2つの異なるB細胞系列(sIgM1またはsIgτ/ξ1)を持っており,どちらも抗ウイルス免疫と免疫グロブリンの成熟に重要であり,哺乳類や鳥類と比較して魚類の獲得免疫応答では,免疫記憶があまり明確ではない.魚類は変温動物であるため,ほとんどの魚類の免疫応答の程度は水温に大きく影響され,飼育下の魚と野生の魚の両方の個体群における季節的なウイルス性疾患パターンの原因となることがある.


(15)受動免疫

 免疫血清,免疫グロブリン,またはモノクローナル抗体などの適切な抗体を皮下投与することにより,特定のウイルス性疾患に対する短期的な保護を与えることができる.実際,アフリカ馬疫を予防するためにA・タイラー(Arnold Theiler: 1867〜1936)が採用した当初のワクチン接種では,感受性のあるウマに強毒ウイルスと免疫血清が同時に投与されていた.異種タンパク質は過敏反応を引き起こすことがあり,またレシピエントによってより速やかに除去されることがあるため,同種動物の免疫グロブリン投与が好まれている.プールされた正常な免疫グロブリンには,それぞれの動物種で全身性疾患を引き起こす一般的なウイルスに対する抗体が,十分に高濃度で含まれている.より高い力価は,感染から回復した,またはワクチンの反復接種によって高度免疫化したドナー動物からの血清で得られる.そのような高度免疫グロブリンが,市販されることが望まれる.


(16)ウイルス性疾患の化学療法

 抗生物質は,細菌性疾患に対して効果的であるが,ウイルス性疾患にはほとんど効果がない.その理由は,ウイルスの複製が宿主細胞の代謝経路に密接に依存しているためである.したがって,ウイルスの複製を阻害するほとんどの薬剤は細胞に対して毒性がある.しかし,近年,インフルエンザ,B型およびC型肝炎などのヒトのウイルス性疾患の研究によって拍車がかけられ,ウイルス複製の生化学に関する知見が増加し,抗ウイルス性化学療法剤の合理的な検索が行われ,そのような化合物の多くが,特定のヒトのウイルス病に対する標準的治療薬となっている.抗ウイルス性化学療法剤は,非常に高価であることもあり,獣医科診療では一般的に使用されていないが、ヒトの医療で使用される抗ウイルス薬の一部が,すでに獣医科診療でも使用されている.

 ウイルス複製サイクルのいくつかのステップは,抗ウイルス薬による攻撃の標的となる.理論的には,ウイルスにコードされたすべての酵素は脆弱であり,細胞の生存よりもウイルスの複製に不可欠なすべてのプロセス(酵素的あるいは非酵素的)も同様である.新しい抗ウイルス薬の開発への合理的なアプローチは,転写酵素,レプリカーゼ,またはプロテアーゼなどウイルスにコードされた既知の酵素の阻害剤として機能すると予測される物質を分離または合成することである.次いで,活性および選択性を高める目的で,この原型薬物の類似体を化学合成する.このアプローチの例は,ヘルペスウイルスDNAポリメラーゼの阻害剤であるヌクレオシドアナログのアシクログアノシン(アシクロビル)にみられる.実際,アシクロビルは,ヘルペスウイルスがコードする酵素であるチミジンキナーゼを必要とする不活性なプロドラッグ(prodrug)であり,リン酸化されて活性化する.この酵素はウイルス感染した細胞でのみ生じるため,アシクロビルは感染していない細胞に対しては無害だが,ヘルペスウイルスに感染した細胞では極めて効果的である.アシクロビルおよび近縁の類似体(バラシクロビル,ガンシクロビルなど)は現在,ヒトのヘルペスウイルス感染症の治療に利用されており,ネコヘルペスウイルス1誘発性角膜潰瘍およびウマヘルペスウイルス 1 誘発性脳脊髄炎の治療など,獣医科領域でも限定的に使用されている.それらはまた,感染したヒトに深刻な結果をもたらすゾーノシスの原因となるヘルペスウイルスであるBウイルス(Macacine herpesvirus 1)に曝露したヒトにも使用されている.

 ヒトや動物のインフルエンザウイルス感染症を治療するための薬も開発されている.例えば,リン酸オセルタミビル(タミフル)はプロドラッグであり,肝臓で代謝された後,ノイラミニダーゼを阻害する活性化代謝産物を生じ,感染細胞から放出されたビリオンをウイルス受容体に結合できなくする.したがって,ノイラミニダーゼの阻害は,ウイルスの拡散を遅らせ,免疫系が「追いつき」,ウイルス除去を媒介する機会を与える.

 リバビリンは,ウイルス複製に必要なRNA代謝を妨害するプリンRNA代謝産物に代謝されるプロドラッグでもある.この薬は,ヒトのRSウイルス感染症およびC型肝炎の治療に使用されている.

 X線結晶構造解析は,抗ウイルス薬の探索において新しいアプローチを開拓した.現在,多くのウイルスの三次元構造が知られているため,カプシドタンパク質の受容体結合部位を原子レベルの解像度で分析することが可能になっている.細胞受容体と結合したウイルスタンパク質の複合体は,結晶化して直接調べることができる.たとえば,一部のライノウイルスでは,ビリオンの受容体結合部位が「キャニオン」,つまりカプシド表面の裂け目にある.これらの裂け目に収まり,それによって宿主細胞へのウイルスの付着を防ぐ薬物が発見されている.これらの裂け目を形成する特定のアミノ酸残基の位置をマッピングすることにより,詳しい情報が提供され,それにより,ウイルス感染プロセスにより,よりよく干渉する薬物の設計が可能になる.このアプローチは,宿主細胞へのウイルスの侵入や細胞内でのウイルスの脱殻をブロックする薬剤の開発にも役立つ.これらの方法のいずれかがヒトの医療で成功した場合,獣医科医療での使用への道が続く可能性がある.


(17)遺伝子治療のベクターとしてのウイルス

 ウイルスは,病原体としての役割に加えて,細胞生物学と分子生物学の両方の理解にも大きく貢献している.個々のウイルスまたはその構成成分は分子ツールとして利用されており,ウイルスは異種遺伝子の発現のための新規で有用なシステムを提供している.具体的には,分子クローニングと遺伝子操作の出現により,外来遺伝子を多くのウイルスのゲノムに挿入して,発現ベクターとして使用できるようになった.これらのウイルスベクターには,宿主内で複製せずに目的の遺伝子を送達するもの(「自殺」ベクター)と,ゲノムへの組み込みの有無にかかわらず宿主内で複製するものが存在する.

 組換えワクチンベクターとしてのDNAウイルスとRNAウイルスの両方の使用については,前述したが,その同じ手法は,治療にも応用できる.ウイルスベクターを用いた遺伝子治療は,特定の遺伝性疾患,特定された欠損遺伝子または機能不全遺伝子を有するものを修正するための,斬新で極めて魅力的なアプローチを提供する.このような障害の修正には,存在しないか機能不全になっている特定のタンパク質の長期的な発現が必要である.したがって,感染した個体のゲノムに標的遺伝子を安全かつ安定して挿入する能力を持つウイルスは,この目的のためのベクターとして合理的な選択となる.この目的のために,レトロウイルス,ポックスウイルス,アデノウイルス,アデノ随伴ウイルス(パルボウイルス),ヘルペスウイルス,およびさまざまなポジティブセンスならびにネガティブセンスのRNAウイルスが潜在的な遺伝子ベクターとして研究されている.

 アデノ随伴ウイルスは,遺伝子治療の潜在的なベクターとして注目されている.それは小さなDNAウイルスであり,分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染し,宿主細胞のゲノムにゲノムを挿入することができる.さらに,アデノ随伴ウイルスのゲノムの組み込みは,宿主ゲノム内の特定の部位で起こり,対照的にレトロウイルスによる挿入は,通常ランダムで潜在的に変異原性である.アデノ随伴ウイルスは非病原性でビルレンスを欠いていると考えられている.適切なタンパク質を発現する組換えアデノ随伴ウイルスは,血友病や筋ジストロフィーなど,さまざまなヒトの遺伝的障がいの修正のために評価されている.

 標的遺伝子送達の手段は,疾患プロセス,特に免疫調節分子の局所発現の影響を受けやすい免疫介在性病理発生を伴う慢性疾患を調節する能力を持つ分子の送達による治療的介入にも適用できる.

 組換えウイルスを使用した標的遺伝子送達の別の潜在的な用途は,生殖活動に重要な免疫原性タンパク質の標的への送達によって,害虫を含む野生化した生物や野生生物の繁殖を制御することである.



第7章  ウイルス感染症の検査室診断

 ウイルス感染の特異的な検査室診断には,次の5つの一般的な手法がある.

 (1) 感染性ウイルスを検出する方法

 (2) ウイルス特異抗原を検出する方法

 (3) ウイルス特異核酸を検出する方法 

 (4) ウイルス特異抗体を検出する方法

 (5) ウイルスを直接可視化する方法


 本書では,検査法の概略を述べるにとどめるので,具体的な手技については専門の実験書を参照することを勧める.日常的検査のほとんどは,病原体に依存したものである.つまり,特定のウイルスを検出する目的で設計されているため,サンプル中に別の病原体ウイルスが存在する場合でも,その病原体ウイルスについては検査結果が陰性となる.このため,ウイルス分離や電子顕微鏡検査などの検査は,臨床サンプル中の予期しないまたは未知の病原体を検出するために依然として使用されている.さらに,メタゲノミクス解析は,未知のウイルスおよび培養不可能なウイルスを識別することができる.ウイルス分離などの従来の手法は現在でも広く使用されている.ただし,多くは,時間がかかりすぎて初発例の臨床処置に直接恩恵を与えることがない.診断学の発展の主な推進力は,24時間以内に,または最適には動物の初期検査の過程でさえも,決定的な答えを提供する迅速な方法に向けられている.重点的に取り組んでいる2番目の主要な分野は,1つのサンプルから複数の病原体を同時にスクリーニングできるマルチプレックス検査法の開発である.この方法の最良のものは,速度,単純さ,診断の感度,診断の特異性,および低コストという5つの前提条件を満たすものである.経済的に重要なウイルスの場合は,次のような要件が求められる.

 (1) 標準化された診断検査と高品質の試薬が市販されていること.

 (2) アッセイは,試薬を節約し,コストを削減するために小型化されていること.

 (3) 検査を自動化するための機器が開発されており,多くの場合,コストが削減されていること.

 (4) コンピュータ化された分析は,報告,記録管理,および請求を容易にすることに加えて,結果を可能な限り客観的に解釈するのに役立っていること.

 ヒトの医療に比べて獣医科診療はそれほど顕著ではないが(投資に対する経済的見返りと,動物種ごとの検査が必要なため),市販されている迅速診断キットの数が最近拡大している.これらの検査はウイルス抗原を検出し,病気の急性期に動物から直接採取された単一の検体により診断を可能にしたり,ウイルス特異抗体の存在を調べるものである.特に,酵素免疫測定法(EIA)または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)は,抗原と抗体の両方の検出におけるウイルス診断学に革命をもたらし,現在では多くの症例において選択されている.検査室診断では,現在,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が臨床検体中のウイルス核酸を検出するために広く使用されており,他のウイルス検出方法に代わる非常に迅速な代替手段となっている.特に,リアルタイム(定量的)PCRは,多くの既知の病原性ウイルスの非常に迅速,高感度,かつ特異的な同定を容易にし,この検査法の自動化により,短時間で多数のサンプルを処理できる.リアルタイムPCRのもう1つの利点は,適切に標準化されていれば,臨床サンプル中のウイルス量を客観的に推定できることである.PCR法は,特に診断の迅速性が重要な病原体について,実験室から現場へと検査を移行し続けている.

 家畜のウイルス感染を診断するための包括的な業務を一つの検査室で実施するのは,骨の折れる仕事である.膨大な数のウイルスが,獣医学上重要な感染症を引き起こしている.これらの数に加えて,野生生物や魚類で急速に拡大しているウイルス病を追加すると,必要な特定の試薬を利用できる研究機関や,すべての動物種のすべてのウイルスを検出および同定するための技能と経験を備えた研究機関が1つもないとしても驚くにあたらない.このため,獣医科診断は専門化する傾向がある(例:食用動物,コンパニオン動物,家禽,魚類,または実験動物の病気,または外来ウイルスによって引き起こされる病気など).研究機関へ問い合わせて,その専門分野を確認することは,検査のためのサンプルを提出する最初のステップである.

 

(1)確定診断の理論的根拠

 臨床検査が初期段階にあった時代,ウイルス感染による疾患の診断は,主に病歴と症状,または肉眼的病理所見と組織病理学に基づいて行われていた.そのため,臨床検査の結果は確認データと見なされた.しかし,これはいくつかの理由により,もはや当てはまらない.

 (1) 個々のウイルス感染を特異的かつ高感度に同定するための迅速検査方法が開発されている.

 (2) 多くの臨床例は,臨床症状または病理所見のみに基づいて診断できない疾患複合体として発生している.たとえば,イヌおよびウシの複合的呼吸器疾患など.

 (3) 診断学,特にコンパニオン動物に関する診断学では,信頼できる特定の生前診断がますます求められている.

 (4) 産業動物の病気に対する法的規制は,ゾーノシスに関与する病原体の特定を必要とする場合があり,トリインフルエンザはそのような実例である.


(2)動物の個体レベルまたは群レベルにおける対応

 ① 動物の管理またはその予後が診断によって影響を受ける疾患.

 呼吸器疾患(例:ブロイラー施設,犬舎での急性呼吸器疾患,ウシの肥育場での輸送熱),新生仔の下痢性疾患,およびいくつかの皮膚粘膜疾患は,ウイルスを含むさまざまな感染性因子によって引き起こされる場合がある.原因となる病原体を迅速かつ正確に特定することは,厩舎,犬舎,鶏群,または群れにおける損失を防ぐ管理計画 (バイオセキュリティ,ワクチン接種,抗菌治療) を確立するための基礎となる可能性がある.


 ② 特定の感染症にかかっていないことの証明.

 ウマ伝染性貧血,ウシおよびネコの白血病,ウシウイルス性下痢ウイルスによる持続感染,および特定のヘルペスウイルス感染症など,生涯にわたって感染する疾患についての陰性証明書または適切な予防接種の履歴は,競技会への参加,販売の条件として,見本市またはショーでの展示,および国際移動の条件としてしばしば必要とされる.


 ③ 人工授精,胚移植,輸血

 精液採取に供されるオスと,特にウシの胚移植プログラムに使用されるメス,およびすべての動物種のドナー個体は,通常,レシピエント動物へのウイルス感染のリスクを最小限に抑えるために,さまざまなウイルスについてスクリーニングされる.


 ④ ゾーノシス

 狂犬病,リフトバレー熱,ヘンドラ,インフルエンザ,東部ウマ脳炎,西部ウマ脳炎,およびベネズエラウマ脳炎などのウイルス病はすべてゾーノシス(動物からヒトへ伝播する病気)であり,常在国ではこれらの病原体を正確に検出する能力を確立するために獣医科診断研究施設を必要とするほど,公衆衛生上の重要性がある.インフルエンザウイルスの流行の早期警戒にために,個々の家禽群またはブタにおける感染を診断することにより根絶し,また曝露された動物の移動を制限するための制御プログラムの実施を可能にする.例えば,日本では根絶されているが,子供を咬んだイヌ,スカンク,またはコウモリの狂犬病ウイルスの検査室での同定は,海外では治療方針の基礎を提供している.


(3)地域,国,国際レベルでの対応

 ① 疫学的および経済的認識

 どの地域(県,市町村など)または国においても質の高い獣医科診療を提供できるかどうかは,流行している病気に関する知識にかかっているため,特定のウイルス感染の有病率と分布を調べるための疫学研究が頻繁に行われている.このようなプログラムは,特定のゾーノシスや食品由来,水由来,齧歯類由来,および節足動物媒介の感染症をも対象にしている.国際的には,国または地域における特定の家畜疾病の存在は,約180の加盟国からなる国際獣疫事務局(OIE)への通知を必要とする.


 ② 摘発淘汰プログラム

 ウマ伝染性貧血ウイルス,マレック病ウイルス,ウシヘルペスウイルス1,オーエスキー病(仮性狂犬病)ウイルス,ウシウイルス性下痢ウイルスなどのウイルスによって引き起こされる感染症の場合,摘発淘汰プログラムにより,疾病の発生率を大幅に低下させるか,原因となるウイルスを集団や鶏群から排除することができる.米国において商業用養豚施設からオーエウスキー(仮性狂犬)病ウイルスが排除されたことは,根絶の取り組みに不可欠な鑑別検査(ワクチン接種動物と感染動物の識別(DIVA)検査)が行われた例である.


 ③ 地方病(enzootic [エンゾーティック] disease)の調査と制御を支援する監視プログラム

 実験室診断に基づくウイルス感染の監視は,新しい環境における特定のウイルスの重要性を判断するため,特定の宿主動物集団におけるウイルスの自然史と生態を解明するためなど,優先順位と制御手段を確立するため,あるは制御プログラムを監視および評価するためにすべての疫学研究の中心となる.


 ④ エキゾチックな(外来性)疾病の研究と制御を支援する監視プログラム

 西ヨーロッパ,北米,オーストラリア,ニュージーランド,および日本では,通常,口蹄疫,ブタ熱,アフリカブタ熱,および家禽ペストなどの家畜の多くの感染症から解放されているが,世界の他の地域ではなお地方病として存在している.しかし,これらのエキゾチックな病気が以前は清浄だった地域へ定期的に侵入し,経済へ甚大な悪影響をもたらしている.したがって,重大な結果をもたらすウイルス感染が疑われる場合の臨床診断を迅速かつ正確に下すことが最も重要である.多くの国では,経済的に壊滅的な「外来性動物疾病」を引き起こすウイルスの迅速かつ正確な診断と研究に専念する専門の生物的封じ込め施設を備えた研究施設を維持または共有している.


 ⑤ 動物の新規,新興,および再興するウイルス性疾患の防疫

 新しい脅威に迅速かつ包括的に対処するには,新しいウイルス,新しい病気,および新しい感染症の証拠を得るために動物個体群を継続的に監視することが不可欠である.国内の動物種が野生生物と継続的に接触しているため,ほぼ毎年,新しいウイルスと新しいウイルス病が発見され続けている.このような発生を早期に確認するためには,病理学者や疫学者だけでなく,洞察力のある臨床獣医師による警戒が不可欠である.


(4)検体の収集,梱包,および輸送

 検体からウイルスを検出できるか否かは,担当獣医師がその検体の収集に注意を払っていたかどうかに大きく依存する.そのような検体は,適切な場所で,適切な動物から,適切な時期に採取されなければならない.ウイルスの検出に適した時期は,動物が最初に臨床症状を示した後,できるだけ早い時期である.これは,ウイルスの量(力価)が通常,症状の発現時に最大となり,その後数日間で急速に減少するためである.数日または数週間の経験的治療が失敗したときに最後の手段としてとられるウイルス検出のための採材は,ほとんどの場合,徒労に終わり,作業者および検査室のリソースの浪費になる.同様に,検体の不適切な収集と保管,および不適切な検体の提出は,有効な診断検査成績を劣化させる.

 検体を採取する場所は,疑われる病原体による臨床症状と病理発生に関する知識に依存する.たとえば,ウシの呼吸器ウイルス感染症では,採取すべき最も重要な診断用検体には,生きた動物の鼻または喉のスワブ(綿棒)または経気管洗浄液,死んだ動物からの肺組織およびリンパ節などがある.このタイプの症例からの全血サンプルは,原因となるウイルス病原体(ウシRSウイルス,ウシヘルペスウイルス1,ウシコロナウイルスなど)が血液サンプル中に検出可能な濃度(力価)のウイルス(ウイルス血症)を生成しないため,役に立たないことがある.同様に,通常の腸疾患(下痢)の場合,ロタウイルス,コロナウイルス,またはトロウイルスに感染した仔ウシの糞便が主要な検体となり,全血はウシウイルス下痢ウイルスが原因である可能性が高い場合にのみ有用である.ロタウイルスの検出は,臨床症状の開始後48時間以上経つと不可能になることがあるため,特に腸の症例では,サンプル採取のタイミングも重要である.PCR検査は,分析感度が高く,原因ウイルスがすでに中和抗体と複合体を形成している場合でもウイルス核酸を検出できるため,サンプリング可能な期間が長くなるが,期間が長くなったからといって,サンプリングのタイミングに注意する必要がなくなるわけではない.さらに,PCRによるウイルス核酸の検出は,PCRによって検出された核酸のウイルスが罹患した動物の病気の実際の原因ではないという偽陽性判定につながることがある.

 組織標本は,外科的生検または死んだ動物の剖検のいずれかによって,病変が観察された体の任意の部分から採取する必要がある.したがって,個別のサンプルは,固定する材料(ホルマリンまたはその他の固定液)と,蛍光抗体染色,PCR,またはウイルス分離などのウイルス検出のために固定しない材料に分割する必要がある.

 多くのウイルスは不安定であるため,ウイルス分離用のサンプルは常に冷たく湿った状態に保つ必要があり,事前に保冷剤など準備する必要がある.綿棒(スワブ)などで採集した検体は,ウイルス輸送媒体へ入れることになる.さまざまな輸送媒体は,ウイルスを不活化から保護するためのタンパク質(ゼラチン,アルブミン,またはウシ胎仔血清など)と細菌や真菌の増殖を防ぐための抗菌剤が添加された緩衝塩溶液により構成されている.細菌またはマイコプラズマ用に設計された輸送培地は,目的の試験に対して阻害性がないことが証明されていない限り,ウイルス検査用のサンプリングに使用してはならない.細菌検査のためには,別の検体を採取する必要がある.

 検体は,できるだけ速やかに検査室へ配送する必要がある.宅配サービスが世界中で利用可能になっているので,翌日配達サービスは病原体検出に必要な時間を大幅に短縮し,診断成功率(病原体検出率)も大幅に向上させている.検査室への配送が数日以内の場合は,検体を冷凍してはいけないが,低温(冷蔵温度)に保つ必要がある.PCRや抗原検出には病原体の生存は必要ないが,検体をウイルス分離に最適な状態に維持することにより,これらの別の手技による検出も強化される.検体は,検体が由来する動物や群れの詳細な病歴なしに,診断検査室に送られるべきではない.病歴は,診断医が受け取った検体に最も適した検査法を選択するために役立ち,必要に応じて追加の検体について臨床獣医師と話し合うことができる.同様に,組織検体が剖検または外科的生検で得られたかどうかに関係なく,組織病理学的評価のためにサンプルを提出する場合,罹患動物の病変の性質と分布の詳細かつ正確な説明が重要である.

 梱包と検体のラベル付けと識別はありふれた作業かもしれないが,これらの細部に注意を払うことにより,検体が検査室へ安全に到着する可能性を最大化し,誤って出荷された有害因子に対する法的制裁を防ぐことができる.提出者は,国際航空輸送規則を反映している現地の輸送規則を理解し,それに応じて診断用検体を梱包する必要がある.検体は陸上輸送によって現地へ発送される場合があるが,発送人が知らないうちに,貨物の一部が短距離ないし中距離の空輸で送られる場合もある.検体は,輸送中に破損しないように保護し,漏れを防ぐために梱包し,「コールドパック」で冷蔵(ただし冷凍は不可)して送付する必要がある.単一の検査ですべての場合に明確な診断が得られるわけではないため,可能な限り,サンプリングには複数の診断検査に使用できる検体を含める必要がある.


(5)肉眼的評価および病理組織学によるウイルス感染の診断

 ウイルス性疾患と推定される動物から採取した組織の肉眼的および顕微鏡学的評価は,有用で重要な診断法である.ウイルス感染の疑いのある病理組織学的診断のために生検サンプルあるいは剖検サンプルを採取する場合は,適切な固定液(通常は10%中性緩衝ホルマリン液)により処理した組織標本が必要である.電子顕微鏡観察や免疫組織化学染色のための凍結切片など,特別な手順が必要な場合は,手順および材料の詳細について検査室に事前相談する必要がある.提出する検体には,罹患動物の病変の完全で正確な病歴と説明を添付する.

 病理学的検査の大きな利点は,特にウイルス抗原の免疫組織化学的染色や核酸検出などの適切なウイルス学的検査と組み合わせて行う場合に,特定のウイルス性疾患を確認できることである.対照的に,特定のウイルスの単なる実証(例:リアルタイムPCRまたはメタゲノミクス解析次による),または動物のそのウイルスへのセロコンバージョン(抗体陰性からの陽転)は,必ずしも疾患の因果関係を証明するものではない.このように,特定のウイルスの検査室での実証と,罹患動物における適合する臨床症状および病変との組み合わせは,診断に対する信頼度を強化する.同様に,ウイルスの検出を伴わない動物の特徴的な病変の同定は,暫定的な診断を確認または反駁するために検査室における追加の検査を必要とする.


(6)ウイルスの検出方法

 ① 電子顕微鏡によるウイルスの検出

 ウイルスの検出・同定の最も明瞭な方法は,おそらくウイルス自体を直接可視化することである.多くのウイルスの形態は,その画像をウイルスとして識別し,未知のウイルスを正しいウイルス科に割り当てるのに十分なほど特徴的である.特定の事例(例:ウシの乳頭のポック状病変から採取したサンプルでのパラポックスウイルスの検出)では,この方法は即時の確定診断を提供する.培養不可能なウイルスも電子顕微鏡により検出できる場合がある.1960年代後半から,電子顕微鏡は,それまで培養不可能だったいくつかのウイルス科,特にロタウイルス,ノロウイルス,アストロウイルス,トロウイルス,およびアデノウイルスやコロナウイルスなどのウイルス科の未知のメンバーを発見する手段であった.現在でも,アネロウイルス科のトルクテノウイルス(torque teno virus)のような培養されないウイルスが,ヒトや動物の検体から電子顕微鏡によって検出されている.

 電子顕微鏡によるウイルス検出には,ネガティブ染色電子顕微鏡と超薄切片電子顕微鏡の2つの一般的な手法がある.ネガティブ染色では,流体中のウイルス粒子を専用の支持体(グリッド)に直接載せる.コントラスト染色を施して,ウイルス粒子を電子顕微鏡により直接可視化する.超薄切片電子顕微鏡法は,罹患動物の「ウイルス」含有組織を含む固定サンプル,または未確認のウイルスを増殖させている培養細胞をサンプルとして使用する.診断ツールとしての電子顕微鏡は感度が低く,高価な装置と高度に熟練した顕微鏡検査技師が必要である.ネガティブ染色電子顕微鏡によりウイルス粒子を検出するためには,サンプル中に約106個のウイルス粒子/mLが含まれている必要がある.このような濃度は,糞便や小胞液などの臨床材料,またはウイルス感染細胞培養ではしばしばそれ以上であるが,たとえば呼吸器粘液ではそれ以下での濃度である.免疫電子顕微鏡法では,特定の抗血清を用いてウイルス粒子を凝集させることにより,感度を高めてウイルスの暫定的な同定を提供できる.超薄切片電子顕微鏡によりビリオンを可視化しようとするする場合,組織サンプル内のほとんどの細胞にウイルスが含まれている必要がある.通常の電子顕微鏡法は,抗原捕捉ELISA,免疫組織化学染色法,PCRなど,より高感度で安価な手法に大部分置き換えられているが,電子顕微鏡検査は病原体が何であるかに依存しない方法であるため,特殊なケースや,必要な装置と専門知識を備えた施設ではまだ使用されている.


 ② ウイルス分離による検出

 検体中のウイルス抗原またはウイルス核酸の証明によるウイルス性疾患の「即日診断」のための新しい技術が急増しているにもかかわらず,細胞培養におけるウイルス分離は依然として重要な手法である.少なくとも理論的には,これにより検体中に存在する単一のビリオンを培養細胞を用いて増殖させることができるため,それを拡大して,さらに詳細な特性の評価を可能にするのに十分な材料を生成できる.ウイルス分離は,新しい方法と比較する必要がある「ゴールドスタンダード」であるが,特異核酸検出テスト,特にリアルタイムPCRは,そのパラダイム(規範)に挑戦している.

 多くの研究機関においてウイルス分離が標準的な手法として残っている理由はいくつかある.最近まで,これは予期しないものを検出できる唯一の手法であった.つまり,まったく予期していなかったウイルスを検出したり,まったく新しい病原体を発見したりすることさえあったのである.したがって,迅速な診断を行うための十分な設備のある検査室でさえ,ウイルスを分離しようとして細胞培養に検体を接種する場合がある.メタゲノム解析および次世代シーケンス技術は,未知の病原体を検出することができ(いわゆる病原体マイニング),多くの研究機関がこの技術をウイルスの発見に利用している.しかし,細胞培養によるウイルス分離は,分子的方法(塩基配列決定,抗原検出など)による詳細な検査のために生きたウイルスの供給を可能にする最も簡単な方法である.特に,通常の研究機関は,新興感染症を念頭に常に新しいウイルスに注意を払っている.このようなウイルスは,急速に変異する高病原性インフルエンザウイルスH5N1株によって示されたように,包括的な特性評価を必要としている.さらに,診断用抗原やモノクローナル抗体などの試薬を製造するには,培養細胞で大量のウイルスを増殖させる必要がある.最近まで,ワクチン開発は培養により増殖したウイルスの入手可能性に依存していたが,これは組換えDNA技術の高度化に伴い,将来急速に変化する可能性がある.

 臨床検体から未知のウイルスを初代分離するための培養細胞の選択は,大部分が経験的に行われている.同じ動物種の胎仔組織に由来する初代培養細胞は,通常,ウイルス分離のための最も感度の高い細胞培養基質となる.相同種に由来する細胞株は,多くの場合,受け容れられる代替手段となる.野生生物の病気への関心が高まるにつれて,ほとんどの研究機関は,罹患野生動物と「同一の動物種」由来の培養細胞を必要とするという課題に直面している.罹患動物が示す臨床症状は,どのようなウイルスが存在するかを示唆することがあるが,困難な症例では,診断ウイルス学者と特定の検査室の好みと偏見が反映される傾向がある.ほとんどの研究機関では,予期しない病原体が存在する場合に備えて,多くの種類のウイルスを増殖させることが判明している細胞株が選択されている.節足動物の細胞培養は,「アルボウイルス」を分離するための並行システムとして頻繁に使用される.利用可能な最良の細胞培養系を使用しても,パピローマウイルスなどの多くのウイルスは従来の細胞培養条件では増殖しない.臓器培養や組織外植片などの特別な培養システムは試す価値があるが,そのような専門的で洗練された診断技術の専門知識を要求する前に,検査室に連絡してその能力を判断する必要がある.

 歴史的に,感染症と思われるものを標準的な方法により診断できなかったとき,その感染性を特定し,病原体の最終的な分離を試みるために,推定上の自然宿主動物への接種が行われていた.しかし,この慣行は,費用と動物福祉上の懸念から,ほとんど放棄されている.一部の研究機関では,乳飲みマウスへ接種する場合もある.このシステムは,培養細胞での増殖が困難なアルボウイルスを分離するための貴重な選択肢である.現在ではイヌ腎細胞株(MDCK細胞)が一般に使用されているにもかかわらず,孵化鶏卵は,A型インフルエンザウイルスの分離に依然として使用されている.ルーチンのウイルス分離に広く利用できる鳥類細胞株が不足しているので,多くの鳥類ウイルスは,ニワトリ胚組織に由来する培養細胞よりも発育鶏卵で増殖されている.目的のウイルスに応じて,診断用検体を羊膜腔または尿膜腔,卵黄嚢,漿尿膜に接種するか,まれに卵殻膜および胚の血管に静脈内接種する.ウイルス増殖の証拠は絨毛尿膜上に見られる場合があるりが(例:ポックスウイルスによって引き起こされる特徴的なポック),それ以外の場合は,ウイルス増殖を検出するために別の手段が使用される(例:胚の死,血球凝集,ウイルス抗原の蛍光抗体染色または免疫組織化学染色,PCR,または抗原捕捉ELISA).

 ウイルス分離を試みるためには,臨床獣医師がサンプルの採取と輸送の詳細に細心の注意を払う必要がある.その成功は,検査室が培養可能なウイルスを含む検体を受け取るか否かにかかっているからである.サンプリング方法を明確にし,出荷要件を評価し,出荷される検体の数と種類を検査室へ知らせるために,検体を収集する前に検査室へ連絡することが推奨される.検体の到着日に細胞培養を利用できるようにしておくと,分離の成功率を高めることができる.迅速ウイルス分離などというのものはなく,各ウイルスには独自の生物時計があり,どんなに工夫しても複製サイクルが速くなるわけではない.アルファヘルペスウイルスなどの場合,分離の成功は,接種した培養細胞で2~3日以内に細胞変性効果(CPE)として明らかになるが,他のウイルスはかなり遅く,連続継代を繰り返す必要がある.一般に,検出にかかる時間は,培養系でウイルスを特定するための検査室における手順によって異なる.例えば,ウシウイルス性下痢ウイルスの非細胞病原性株(non-CPE株)は,検査手順に応じて,早ければ接種後3日,遅くとも3週間後にウイルス分離によって同定される.接種した細胞培養中のウイルスを日常的に検出および同定するための手順には,感染した単層細胞の蛍光抗体染色または免疫組織化学染色,抗原捕捉ELISA,PCR,血球吸着,さらには未知の分離株のネガティブ染色電子顕微鏡検査が含まれる.

 

(7)ウイルス抗原の検出

 臨床検体中のウイルス抗原の直接検出は,いくつかのイムノアッセイではわずか15分で実施できるが,大規模なサンプル調製と染色が必要な場合には手順に数日かかることがある.一般に,抗原検出検査の結果が陽性であるために検体に生存ウイルス(感染性ウイルス)の存在は必要ないが,これらのアッセイでは,ウイルス分離と同様に検体採取のタイミングが重要である.分析感度は,感染細胞での1個のウイルスの検出から105の抗原単位を必要とするアッセイまで,さまざまである.このタイプの検査に革命をもたらしたのは,モノクローナル抗体の開発である.この試薬は,抗原への結合において極めて特異的であり,一度産生されると,検査の一貫性を保つために同じ材料をほとんど無尽蔵に供給できる.

 抗原検出検査の欠点は,多くの抗原が組織固定によって変性または隠されてしまうことである.さらに,抗原検出は病原体特異的であるため,イヌパルボウイルスの検査では検体中のイヌコロナウイルスの存在を検出できず,そのため別の追加の病原体特異的検査が必要になる.


 ① 蛍光抗体染色

 蛍光抗体染色は,主に凍結組織切片,細胞「塗抹標本」,または培養細胞で使用される抗原検出検査である.ホルマリン固定した組織サンプルは,通常,この検査には使えない.抗原は,特別に修飾した特異抗体との結合を通じて検出される.修飾というのは,特定の波長の紫外線を吸収し,より長い波長の光を放出する蛍光色素化合物による抗体の「標識」である.放出された光は,蛍光色素の放出波長に固有のフィルターを備えた蛍光顕微鏡により光学的に検出される.蛍光色素は,特異抗体に直接結合させることも(直接蛍光抗体法),特異抗体を認識する抗免疫グロブリン分子に結合させることもできる(間接蛍光抗体法).間接法は検出感度を高めるが,バックグラウンドも増加することがある.

 凍結組織切片に対する蛍光抗体染色には,抗原に結合した抗体を検出するための蛍光顕微鏡と一緒に凍結組織を切片化するためのクライオスタットを含む特殊な装置が必要である.蛍光抗体法は,動物から採取した感染細胞または感染動物からのサンプルを接種した培養細胞におけるウイルス抗原の同定に有用であることが証明されている.特定のウイルス性疾患の場合,上気道,生殖器,目,または皮膚の粘膜から,感染部位を適度な強さで拭き取るかこするだけで,ウイルス感染細胞を含む検体を簡単に採取できる.細胞は,鼻咽頭から吸引した粘液や,気管や気管支の洗浄液,胸膜液,腹腔液,脳脊髄液などの他の部位からの液体にも存在する.パラインフルエンザウイルス,オルトミクソウイルス,アデノウイルス,およびヘルペスウイルスによる呼吸器感染症は,蛍光抗体染色による迅速な診断(検査時間2時間未満)に適している.この方法は,組織にも適用できる.たとえば,ヘルペスウイルス感染症の診断のための生検や,海外ではイヌジステンパーウイルスや狂犬病ウイルスによる感染の結果として神経症状を示すアライグマの脳組織の剖検などに適用される.


 ② 免疫組織化学染色

 免疫組織化学染色はウイルス抗原の蛍光抗体染色に類似するが,いくつかの重要な違いがある.免疫組織化学染色に使用される「標識」物質は酵素であり,一般に西洋ワサビペルオキシダーゼあるいはアルカリホスファターゼが使われる.酵素は基質と反応して発色するため,通常の光学顕微鏡により感染細胞を観察することができる.多くの場合,組織サンプルはホルマリン固定されるため,低温で保管する必要がなく,サンプリング後数日から数週間後でも標本を検査できる.免疫組織化学染色法のもう1つの利点は,酵素反応の生成物がインキュベーションの長期化に伴って増加することである.一方,蛍光抗体染色法では,インキュベーション期間を長くてもシグナルが増強しない.さらに,免疫組織化学的に染色されたスライドは,反復観察のために長期間保存できるが,蛍光抗体染色スライドは急速に劣化する.ただし,ホルマリン固定組織の免疫組織化学染色法では,結果が得られるまでに24時間以上かかるが,蛍光抗体法には迅速であるという利点がある.おそらく,免疫組織化学染色の最大の利点は,ウイルス抗原分布と組織切片に存在する病変との比較が容易なことである.例えば,「イヌパルボウイルスの感染」を示す組織は「イヌパルボウイルスの病変」である.


 ③ 酵素免疫測定法(EIA)/ ELISA

 ELISAと呼ばれることが多いEIAは,診断検査手順に革命をもたらした.この検査法は,抗原または抗体を検出するように設計できる.EIAの感度は中程度だが,多くの検査で陽性反応を示すには,サンプル中に105個/mLを超えるウイルス粒子が必要になる場合がある.このレベルの感度では,特に陽性の動物が群れの中にいる場合には,この検査が非常に有用である.この検査は,獣医科診療所において単一のサンプルに対して行われることもあれば,研究機関で自動化システムを使用して同時に何百ものサンプルに対して行われることもある.一般に使用される抗原検査キットには,ネコ白血病ウイルス,イヌパルボウイルス,ウシウイルス性下痢ウイルス,ロタウイルス,およびインフルエンザウイルスに特異的なものがある.検出システム,増幅システム,および感度が異なるさまざまなタイプのEIA検査がある.

 ほとんどのEIAは固相酵素イムノアッセイである.「捕捉」抗体は,固体基盤,通常はポリスチレンまたはポリビニルマイクロタイタープレートのウェルに付着される.最も単純な形式は直接EIAである.検体からのウイルスや可溶性ウイルス抗原は,捕捉抗体に結合する.結合していない成分を洗い流した後,酵素標識抗ウイルス抗体(「検出」抗体)を加える.さまざまな酵素を抗体に結合させることができるが,西洋ワサビペルオキシダーゼとアルカリホスファターゼが最も一般的に使用されている.洗浄ステップの後,特定の酵素に適した基質が添加され,その後の発色の変化に基づいて読み取りが行われる.基質上の酵素反応の着色生成物は,視覚的に検出するか,分光光度計により読み取って,捕捉された抗原に結合した酵素結合抗体の量を測定する.酵素反応の生成物を修飾して,蛍光シグナルまたは化学発光シグナルを生成し,感度を高めることもでる.このような検査では,検査の感度と特異性を特定するカットオフ値を決定するために,広範な検証テストを実施する必要がある.

 間接EIAは分析感度が高いため広く使用されているが,通常,感度の向上には特異性の低下が伴う.この検査法では,検出抗体は標識されておらず,2番目の標識(種特異的)抗免疫グロブリンが「指標」抗体として加えられる.あるいは,多くの哺乳動物種のIgGのFc部分に結合する標識されたブドウ球菌のプロテインAは,間接イムノアッセイの指標として使用できる.モノクローナル抗体は,検査用の高感度で特異的な試薬となるため,特にEIA検査の開発を促進してきた.ただし,特定のモノクローナル抗体によって認識される特定のエピトープの変異(ウイルスの抗原変異)は,偽陰性の結果のために,結合の喪失および感度の喪失につながることがある.

 EIAは,単一の動物サンプルについて獣医科診療所で使用できるようにキット化されている.


 ④ イムノクロマトグラフィー

 イムノクロマトグラフィー(イムノクロマト法)とは,フィルターマトリックスまたはラテラルフロー(例:ニトロセルロースストリップ)の形式を通過する抗原または抗原抗体複合体の移動を指している.ほとんどの形式で,標識抗体は目的の抗原に結合する.次いで,抗原抗体複合体は,マトリックスに結合した非標識抗体によって支持マトリックスに固定化される.すべての対照(コントロール)もメンブレンに含まれており,試験試薬の1つが金コロイドまたは発色物質に結合するため,結果は色付きのスポットまたはバンドとして見られる.この検査は,診療現場での検査に特に便利である.検査手順が簡単で,各検査キットには検査の有効性を評価するための陽性対照(ポジティブコントロール)と陰性対照(ネガティブコントロール)の両方が含まれている.


(8)ウイルス核酸の検出

 過去数年間における核酸検出技術の進歩により,かつての技術のいくつかは,診断法として過去のものになってしまっている.たとえば,ハイブリディゼーション法は,厳格な品質管理基準が求められる場合,日常的な検査には適さない.核酸検出技術における最も劇的な変化は,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の進展と,同様に核酸抽出手順の標準化である.さらに,塩基配列決定技術,オリゴヌクレオチド合成,および遺伝子データベースの構築の急速な進歩により,安価な塩基配列分析が可能になり,ウイルス分離株と標準的なウイルス株との遺伝的比較をするためのかつての手順に取って代わった.現在の技術は,細胞培養による選択バイアスの介入なしに,臨床検体からのウイルス「集団」についてPCRを行い,その増幅産物の直接塩基配列決定を可能にしている.また,メタゲノム解析法の開発により,未知の病原体の検出と特徴付けが可能になった.核酸増幅技術とサンプル調製プロトコルは高度な訓練を受けた担当者を必要とせずに,信頼性が高く比較的安価なキットを現場や臨床獣医師に配備できるところまで達している.野外用の検査キットによって得られたデータは,解釈と保存のために世界中のどこにでも送信できる.

 核酸検出法は,次のような場合に有用である.

 (1) 培養が困難なウイルス.

 (2) 長期間の保管,組織の固定,または輸送の結果として,不活化したウイルスを含む検体.

 (3) ウイルスゲノムが休眠状態にあり,感染性ウイルスが存在しない潜伏感染.

 (4) 急性感染の後期段階または一部の持続感染に見られるように,抗体と複合体を形成したウイルス.

 (5) これまでに同定されていないウイルス.


しかし,ウイルス核酸の増幅によって検出感度が向上すると,新たな問題が生じることもある.細菌性病原体の情況とは異なり,病巣または臨床的に病気の動物から病原性ウイルスを検出しただけで,通常,その病因的役割(因果関係)の証拠と見なされてきた.検出感度が敏感になればなるほど,検査に含まれる微生物が増え,「同乗」するウイルスの問題が顕著になる.実際,ブルータングウイルスなどでは,感染性ウイルスが除去されてから数か月後に,以前に感染した反芻動物の血液中にウイルス核酸が検出されることがある.さらに,例としてウシヘルペスウイルス1では,ウイルス核酸の検出は,それが急性感染,潜伏感染の再活性化,またはワクチン接種の結果として存在しているのかどうかがわからない.


 ① ポリメラーゼ連鎖反応/ PCR

 PCRは,標的DNA領域を挟み込む,通常約20塩基 (20 mer) の一対のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて,プライマーに対応する2箇所の約20塩基領域とハイブリッド(相補的対合)を形成させ,その間の特定のDNA領域を酵素的にin vitroで合成する方法である.一対のプライマーペアは,フォワードプライマーおよびリバースプライマーと呼ばれることがある.プライマーは,新しいヌクレオチドを追加するための基質をDNAポリメラーゼに提供し,増幅のためにDNAの特定の領域に反応を開始させるために必要である.プライマーは,反応での検出と選別を目的として,増幅産物に「標識」をつけるように設計することもできる.最適なプライマーセットの設計と反応のパラメーター(時間/温度)の予測は,コンピュータプログラムにより行われるが,経験的な予備試験が必要である.既知のミスマッチ塩基,またはプライマーとターゲット配列の間に予想されるミスマッチがある場合,プライマーを縮重(特定の位置に異なる塩基を持つプライマーのセット)にすることもできる.これにより,より多くの遺伝子変異を検出できるため,検査の診断感度を高めることができる.PCRの場合,反応溶液のイオン強度,温度,プライマー濃度,およびヌクレオチド濃度を注意深く調整した条件下で,サーマルサイクラーを用いて反応させる.加熱によるテンプレートの熱変性,プライマーのアニーリング,およびアニーリングされたプライマーのDNAポリメラーゼによる伸長反応を含む反復サイクルにより,特定のDNAフラグメントを指数関数的に蓄積させる.1回のサイクルで合成されたプライマー伸長産物は,次のサイクルでテンプレートとして機能するため,ターゲットDNAのコピー数はサイクルごとに約2倍になる.したがって20サイクルで約100万倍の増幅が得られる.

 1983年にPCRの概念が導入されて以来,プロセスのほぼすべての面に数多くの変更が加えられてきた.耐熱性DNAポリメラーゼの利用により,合成された反応生成物の高温での変性とdsDNA鎖の分離が可能になり,各サイクルでポリメラーゼを補充する必要がなくなった.熱安定性ポリメラーゼの使用は,より厳しいアニーリング条件下でサイクリングを行うことができるため,反応の特異性を高めた.具体的には,アニーリング温度が高いと,偽陽性の結果につながるミスマッチ塩基対の形成が減少する.検査の感度を高めるために,2段階PCR手順(ネステッドPCR)が開発された.この手順では,初めに1セットのプライマーを使用してターゲット領域の最初の増幅を行い,この最初の反応産物を2段階目のPCRのテンプレートにする.このテストでは,2段階目のプライマーペアは,1段階目のプライマーペアの内部領域をターゲットにする.この増幅産物の増幅により,検査の感度が大幅に向上するが,最初の増幅産物による検査材料の交差汚染による偽陽性結果も大幅に増加した.リアルタイムPCRの発展により,2段階PCRの使用は減少している.

 RNA配列を検出するための逆転写・ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法の開発は,細胞生物学およびウイルス診断学における大きな進歩であった.リアルタイムPCRの出現に伴い,RT-PCR という略語の使用に混乱が生じ,リアルタイムPCR手順が,RNAをターゲットとする場合は「qRT-PCR」,「RRT-PCR」,または「RT-qPCR」などのさまざまな呼称の出現につながり,DNAを標的とする場合はR-PCRが使用されている.RT-PCR の場合,RNAはまず,レトロウイルスの逆転写酵素などにより,cDNAに転写される.より高い温度でのcDNA鎖の合成を可能にする新しい逆転写酵素が開発されており,反応の感度と特異性が向上している.シングルチューブRT-PCRでは,両方の反応のすべての成分が,実験の開始時に反応チューブに含まれており,cDNA合成ステップの直後にPCRが続く.このテストでは,全反応が終了するまで反応チューブが開かれないため,1つの反応の生成物が別の反応へ交差汚染(クロスコンタミネーション)を起こすことがない.シングルチューブ検査などの進歩により,実験室の汚染の問題が実質的に解消され,PCR検査結果の信頼性が大幅に向上した.


 ○ 増幅産物の検出方法

 PCR検査の黎明期は,反応生成物をゲル濾過により分画し,増幅産物を可視化することにより増幅産物を検出していた.目的のサイズの増幅産物は,アガロースゲルにより分画したオリゴヌクレオチドに結合(intercalate)させた蛍光色素(EtBrなど)を使用して視覚化された.適切なサイズの「バンド」は,サンプル中の病原体の存在に対する陽性反応として判定された.ゲル内のバンドを検出する感度を高める方法が開発されたが,感度が向上したとしても,この検出手順には1つの大きな欠点があった.それは,サンプルの状態を評価するために反応チューブを開く必要があったことである.多くの実験室エリアが増幅された反応生成物により汚染され,施設内で実施されたその後のサンプルから頻繁に偽陽性の結果が得られた.偽陽性の問題を回避するために大きな努力が払われたが,陽性の検査結果に対する疑いが蔓延した.しかし,幸いなことに,リアルタイムPCRが登場した.この技術の進歩は,反応チューブ内のPCR産物(アンプリコン)の蓄積を正確に測定(定量)できる分光光度計を備えたサーマルサイクラーの開発によって促進された.例として,非特異的DNA結合色素(SYBR Green I),TaqManプローブ,および分子ビーコンがあある.反応物が反応チューブに加えられると,チューブを再度開く必要がないため,実験室の汚染を防ぐことができる.また,リアルタイムPCRは,標準的なゲル電気泳動よりも感度が高く,プローブ配列が増幅されたターゲット配列に結合できる場合にのみシグナルが生成されるため,反応検出プローブを使用することによりアッセイの特異性が向上する.

 リアルタイムPCRのもう1つの利点は,プロセスを定量的に行えることである.最適化された条件下では,アンプリコンの量は約3増幅サイクルごとに10倍に増加する.リアルタイムPCRでは,産物の生成が各サイクルで記録される.反応で生成された最終的な生成物の量は,コピー数コントロール(対照)と比較でき,反応内の適切な核酸抽出コントロールを使用して,開始時の配列の量を直接測定できる.たとえば,ヒトでは,この機能は,C型肝炎による感染への薬物治療に対する経時的な反応を監視する際に特に価値がある.

 より一般的に使用されるようになっているPCR検査の別の変法は,マルチプレックスPCRである.この方法では,異なる標的配列に特異的な2つ以上のプライマーペアが同じ増幅反応に含まれる.このようにして,同じアッセイチューブで同時に複数の病原体の検出を行うことができるため,時間と費用を節約できる.リアルタイムPCRでのマルチプレックスPCRでは,異なる蛍光分子を持つ複数のプローブを同時に検出できまる.このタイプのアプリケーションは,イヌの急性呼吸器疾患などの複合疾患からのサンプルの検査に有用である.いくつかの反応が反応中に共通の試薬を競合するため,この方法では感度の問題を検討する必要がある.


 ◯ ポリメラーゼ連鎖反応の長所と限界

 ウイルス検査におけるPCRの広範な使用とその利用の可能性を考えるとき,このアッセイの潜在的な長所と限界を考慮する必要がある.PCRは,特定の腸内アデノウイルス,パピローマウイルス,アストロウイルス,コロナウイルス,ノロウイルス,ロタウイルスなど,培養による増殖が難しいウイルスの検出に特に有用である.PCR は,ウイルス分離に適した任意のサンプルに使用できる.他のウイルス検出法とは対照的にPCRを行う意義は,速度,費用,および検査室の能力に基づいている.狂犬病ウイルス,特定のポックスウイルス,フィロウイルス,またはインフルエンザウイルスなどのゾーノシスの原因ウイルスの最初の同定には,感染性ウイルスの増殖が検出に必要ないため,実験室職員への曝露のリスクを最小限に抑えるためにも,PCRが好ましい場合がある.

 PCRまたは任意の核酸増幅技術の限界は,対象となる病原体が含まれている検体材料(マトリックス)に依存している.検体(マトリックス)に含まれる物質は,検査に用いる酵素を阻害することがある.これは,糞便サンプルやある種のミルク検体を扱う際に常に懸念されてきた.(特定のテンプレートの欠如ではなく)増幅プロセス自体の問題を検出するために,核酸抽出用の陽性コントロールをこれらの検体に含める必要がある.標準的なPCRは,ターゲットとする病原体が含まれているマトリックスについて検証する必要がある.さらに,PCRおよび単純な核酸増幅検査は病原体に特異的であるため,プライマーが検体に含まれるウイルスの配列と一致しない場合,シグナルは生成されない.従来のダイレクトPCR,特に2段階PCRでは,増幅産物による実験室の汚染が,偽陽性の結果を引き起こすことが懸念事項であった.シングルチューブのリアルタイムPCR検査が可能になったことにより,この問題は大幅に解消されたが,PCRを技術的に正しく実施することは困難なままである.リアルタイムPCR検査は,標準化された試薬キットによって継続的に改善されている.


 ② マイクロアレイ(マイクロチップ)技術

 診断学に影響を与えているもう1つの技術的進歩は,マイクロアレイまたはマイクロチップの出現である.核酸検出用のマイクロチップは,数百から数千のオリゴヌクレオチドの1つを含むスポットが「プリント」された固形の支持体である.これらのオリゴヌクレオチドは,さまざまな遺伝子データベースで表される事実上すべてのウイルスの保存配列を表すことができる.また,ウシの急性呼吸器疾患など,特定の疾患症候群に関与する特定のウイルス種のみを表すようにカスタマイズすることもできる.この試験の基礎は,これらのオリゴヌクレオチドによる,臨床検体からのランダムに増幅された標識核酸配列の捕捉である.標識された塩基配列との結合は,チップをレーザースキャンすることによって検出され,ソフトウェアプログラムが結合の強度を評価する.反応するオリゴヌクレオチドのマップ位置から,ソフトウェアは臨床サンプル中のウイルス種を同定する.このタイプの検査は,重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となるウイルスがコロナウイルスであると判断するために使用された.未知の病原体に結合するオリゴヌクレオチド配列の知識があれば,プライマーを合成して,最終的に新種のウイルスの全ヌクレオチド配列を決定することができる.低コストのオリゴヌクレオチド合成,レーザー走査装置の開発,核酸増幅技術,およびソフトウェア開発により,この技術は,新たに出現したウイルスを監視プログラムにより迅速に特定できる方法の1つになった.新しい病原性ウイルスの「出現」が予想される世界のさまざまな地域に,装置と訓練を受けた人員が配置されている.標準的な形式だけでは,この手法では,現在のデータベースにない新しいウイルス科は検出されない可能性がある.何故ならば,未知のウイルスのオリゴヌクレオチドがマイクロチップに標準装備されていないためである.また,現在のマイクロアレイシステムは,標的核酸の事前増幅を行ってもリアルタイムPCRの感度を欠いており,病原体の診断検査には日常的に使用されていない.


 ③ 等温増幅によるDNA増幅

 核酸増幅では,塩基配列のコピーを作成できるように,新たに合成された産物を継続的に置換する必要がある.PCR では,鎖の置換は温度によって達成される.最高95℃の温度はdsDNAを熱融解(1本鎖に分離)し,ポリメラーゼの開始点を提供する新しいプライマーとの対合を可能にしている.等温増幅は,PCRで使用される温度サイクルおよび付随する機器を必要としない技術である.等温形式でDNAターゲットを増幅するために開発された,少なくとも6つの異なる方法がある.これらの1つであるループ媒介等温増幅(loop-mediated isothermal amplification: LAMP)法は,マイクロ流体デバイス(microfluidic device)を使用した室内テストの出現により注目されている.この検査には,2種類の伸長反応を開始する4種類のプライマーが必要であり,高い特異性を提供している.増幅に使用されるDNAポリメラーゼは,Taq型ポリメラーゼほど阻害剤に対して感受性が高くないため,核酸抽出プロセスを簡素化し,厳密さを緩和することができる.生成された大量の増幅産物により,定性的または定量的な検出が可能である.等温機能により,サーマルサイクラーが不要である.この機能と核酸抽出プロセスの簡素化により,このタイプの検査は,マイクロ流体環境に対してより互換性がある.米国では,インフルエンザウイルスの等温増幅試験による検査は,FDAによって臨床現場での使用が承認されている.等温増幅試験の欠点は,マルチプレックス試験や非標的病原体検出用に簡単に対応できないことである.


 ④ in situハイブリディゼーション

 事実上すべての動物種での「新規」ウイルスの同定が急激に増加しているため,臨床検体から検出されたウイルスを調査中の疾病の原因と関連づけようとするため,どれが本当の病因なのかについて診断学上のジレンマが生じている.前述のように,これは蛍光抗体法または免疫組織化学染色法のいずれかを使用して確認することができる.これらの技術,特に新しく発見されたウイルスに関する問題は,検証済みの抗体試薬をそのウイルスに利用できるようにすることである.抗体検出システムに代わるものは,核酸プローブ(FISH: fluorescence in situ hybridization)の使用である.ゲノムの保存領域に対応する短い(25~50ヌクレオチドの)DNAプローブが,5’末端に蛍光標識を付けて合成される(例:6カルボキシフルオレセイン).組織サンプルの病理組織学的評価から,疾病に特徴的な病変を示す切片を選択できる.ウイルス特異的プローブを組織切片に適用することにより,組織抽出物からの非特異的な陽性PCRシグナルとは対照的に,ウイルスが病変に特異的に関連しているかどうかを判断できる.マルチプレックスPCRでは臨床検体について複数のウイルスが検出されるため,このタイプの評価が重要になってきている.


(9)塩基配列決定法

 核酸の塩基配列決定法ほど急速に進歩した分子生物学的技術はおそらくない.反応が低コストで行えるため,あるウイルスの全ゲノムの直接配列決定は今や日常的になっている.ウイルスの分離株間の遺伝的差異を検出するために使用された制限酵素マッピングやオリゴヌクレオチドフィンガープリンティングなどの古い技術は,塩基配列決定法に取って代わられている.診断学の分野では,ランダムな核酸増幅と低コストのシーケンシング技術を利用することによって,新しいウイルスが発見されている.シーケンシング技術は,PCRターゲットの配列の確認から未知の病原体の発見まで,ウイルス診断学のいくつかの領域で使用されている.塩基配列データの使用目的によって,使用される技術の種類と,配列の分析に必要なバイオインフォマティクスの種類が決まる.


(10)ウイルス特異抗体の検出と定量(血清学的診断)

 感染症における免疫応答の確認は,ほとんどの場合,目的の病原体に対する宿主の抗体を検出することに依存している.この手順は,獲得免疫応答(液性免疫)の1つ側面のみを測定するものである.細胞性免疫を確実に測定するための技術は,日常的に利用できなかったり,費用対効果が高かったりする.多くの情況で,抗体の測定は,動物の感染状態を特定するための貴重な手がかりとなる.血清学的検査は,次の目的で一般に使用される.

 (1) 動物が特定のウイルスに感染したことがあるか否かを判定する目的 .

 (2) 特定のウイルスが臨床症状に関連しているか否かを判定する目的.

 (3) 動物がワクチン接種に反応したか否かを判定する目的.

 個々の動物の急性ウイルス感染症の血清学的診断では,古典的なアプローチは,ウイルス特異抗体の力価の変化(4倍以上)について,ペア血清,つまり同じ動物からの急性期血清と回復期血清を検査するものであった.急性期の血清サンプルは,病気のできるだけ早い段階で,また,回復期の血清サンプルは通常,少なくとも 2 週間後に採取される.このタイムラインを考えると,この手順に基づく診断は「レトロスペクティブ(遡及的)」である.近年,この手順は,ウイルス特異IgM抗体を検出するための血清学的方法によって補完されている(例:ウマのウエストナイルウイルス感染).

 動物が特定のウイルスに感染したことがあるか否かを評価するには,ウイルス自体を検出するよりも血清学的検査の方が信頼性が高い.例えば,血清学的検査は,ウマ伝染性貧血ウイルスへの曝露についてウマを,ウシ白血病ウイルスについてウシを,そしてヤギ関節炎脳炎ウイルスについてヤギを,それぞれスクリーニングするために使用されている.これらの例では,慢性感染した動物の感染細胞数は,PCRでさえも検出以下の場合があるが,感染は一般に,さまざまな検査により容易に検出できる抗体産生を刺激する.血清学的検査は,ウイルス根絶プログラムと移動および取引のための動物の認証の両方でも広く使用されている.

 ワクチンの有効性を評価するための血清学的検査は,感染症管理プログラムの重要な側面になる.選択された動物の抗体検査は,予防接種プログラムが正しく実施されているかどうかについて,貴重な洞察を提供する.根絶プログラムが生産動物の病気に拡張され,マーカーワクチンがより頻繁に使用されるようになると,特定の抗体反応がワクチンによるものか自然感染によるものかを,いわゆるDIVA(血清学的識別)により確認することができる.ウシヘルペスウイルス1などのヘルペスウイルス感染の場合,感染が常に潜伏感染につながるため,抗体反応が感染の結果であるかどうかを判定することが不可欠になる.潜伏感染した動物を陰性の群れに移動すると,病気が広がることがあるため,ワクチン接種したウシと自然に感染したウシの区別を容易にするために,遺伝子欠失の「マーカー」ワクチンが開発されている.


 ① 血清学的アッセイのためのサンプル

 ほとんどの血清学的検査では,血清が最適なサンプルであるが,一部の検査では血漿と血清を使用する.血清以外の体液が採取されている場合は,検査室への連絡が必要である.これは,血清が唯一の許容される試験材料である場合に動物から再度採材する必要がないようにするためである.血清中の抗体は,適切な環境条件では非常に安定している.標準プロトコルでは,血清を低温に保つ必要があるが,採血から検査までに数週間を経過しない限り,サンプルを凍結する必要はない.抗体は,血液を濾紙上で乾燥させ,室温で数か月保存した血液サンプルからも検出することができる.

 診断検査の別の側面と同様に,技術の進歩により,特定のウイルスに対する抗体の検出方法が変化し続けている.ほとんどの場合,新技術は,商業的に成り立つ検査に応用されている.獣医学には,さして重要ではないものの,特定の情況では役立つかもしれない病原体検査が数多くある.それらの病原体について利用可能な検査の中には,昔の技術で開発された初期のものもある.野生生物のウイルスについて世の中で懸念が高まっており,家畜に対する種特異的な検査法が野生生物のウイルスについて利用できないため,野生生物のウイルスに対する追加の血清学的検査を開発する必要がある.すべての血清学的検査の種類については詳説しないが,別の検査方法が利用可能になる場合があることを認識しておく必要がある.また,検査室と緊密に連絡を取り合うことが,それぞれの動物種とウイルスごとに利用可能な検査について知る最も効率的な方法である.


 ② 酵素免疫測定法(EIA) / ELISA

 酵素免疫測定法(EIA)については,(7)ウイルス抗原の検出の項目において述べた手順とほとんど同じであるが,目的が違う.ここでは,抗体検査について説明する.

 EIAは,ウイルス抗体の定性的(陽性あるいは陰性)または定量的測定に最適な血清学的検査である.これは,迅速で,費用対効果が比較的高く,組換え型抗原を用いた場合,抗原としての感染性ウイルスの産生を必要としないためである.抗体検出のためのEIAでは,ウイルス抗原を固体マトリックスに結合させる.そこへ被検血清を加え,抗原に対する抗体が血清サンプル中に存在する場合,それらは抗原に結合する.直接EIA法では,結合した抗体は,酵素により標識された二次抗体(動物種に対する抗体)によって検出される.酵素の基質を添加すると,視覚的または分光光度計で評価できる発色反応が起こる.サンプルコントロール(対照)を用いて,検査が適正できるかどうか,および検査したどのサンプルが陽性であるかを特定する.カイネティクスに基づくEIAには,血清の1回ごとの希釈に基づいて定量分析を行うことができるという利点がある.酵素反応の生成物は,短い間隔で数回測定される.ソフトウェアプログラムにより,反応速度を抗原に結合した抗体の量に変換できる.

 直接EIA検査の欠点は,それらが種特異的であることである.イヌのイヌジステンパーウイルス抗体のために開発された検査は,ライオンの同じウイルスに対する抗体の有無を調べるために使用することはできない.この問題を回避するために,競合またはブロッキングEIAが開発されている.このアッセイ形式では,目的の抗原に結合する抗体(通常はモノクローナル抗体)が酵素により標識される.モノクローナル抗体と同じ部位に結合できる非標識抗体は,その部位について標識されたモノクローナル抗体と競合する.標識されたモノクローナル抗体の結合の減少は,サンプルが抗体を含んでいたことを示す.このアッセイ形式では,非標識抗体の動物種は障害にはならない.EIAの感度と特異性は,直接的であれ間接的であれ,モノクローナル抗体の開発と組換え型抗原の生産によって大幅に向上している.

 獣医科診察室で実施できる検査キットに広く使用されている形式では,被検血清を,抗原を含浸させた3つの円形領域を持つメンブレンフィルターを通過させる.そのうちの2つ(陽性対照と陰性対照)は,予め陽性血清および陰性血清とそれぞれ相互作用させておく.被検血清がメンブレンを通過し,洗浄ステップが完了した後,酵素が結合した2番目の抗動物種抗体を添加し,酵素基質を添加する前にメンブレンを再度洗浄する.結果は,被検サンプル円の色の変化として読み取られ,陽性対照の色変化および陰性対照の無変化と比較される.患畜1頭についてのこのような単一の検査は,完全に自動化した検査室で1回の実施で数百の血清を検査する経済性と比較すると,割高になる.クライアントと患畜の両方が診察室にいる間に診断を下すことができるという利点に加えて,サンプルを検査室に送る時間と労力が大幅に節約されるため,重篤な患畜の即時の臨床管理において単一の検査は有用である.

 

 ③ 血清(ウイルス)中和試験

 ウイルス分離が,他の検査法と利害得失を比較する必要があるウイルス検出のゴールドスタンダードと見なされている一方,血清(ウイルス)中和試験は,ウイルス特異抗体の検出と定量のゴールドスタンダードとされてきた.中和抗体は,in vivoで感染防御抗体と直接相関すると考えられているため,注目されている.中和抗体の測定法には,一般に一定血清可変ウイルス法と一定ウイルス可変血清法の2つの方法がある.一定血清可変ウイルス法は感度の高い検査法であるが,比較的大量の血清を必要とするため,入手が困難なことがあり,めったに使用されない.中和試験の基礎は,感染性ウイルスへの抗体の結合であり,ウイルスが感受性のある細胞に感染するのを防ぐものである.ウイルスの増殖は,細胞を死滅させる能力(細胞病原性)によって,または蛍光抗体染色または免疫組織化学染色によって検出される感染細胞内で抗原を産生する能力として検出される.血清サンプル中の抗体量は,サンプルを連続希釈し,これらの各希釈液を一定量のウイルスにより「攻撃」することによって判定される(一定ウイルス可変血清法).ウイルスの中和を示す最高希釈倍率はエンドポイントと呼ばれ,血清抗体価(力価)はエンドポイントの逆数で示される.たとえば,1:160のエンドポイントは160倍の抗体価に相当する.血清中和試験の欠点は,結果が出るまでに比較的時間がかかること,検査のために感染性ウイルスが必要になること,および試験のための細胞培養施設の維持に高い間接経費がかかることである.これらの検査には,動物種に依存しないという利点があり,野生生物のウイルス研究に大いに役立っている.血清中和試験は,ウイルスを分離してから数週間以内に実施できるが,EIAの開発には検証に数か月または数年を要する場合がある.


 ④ ウェスタンブロッティング試験

 ウェスタンブロッティング試験では,対象の病原体のいくつかのタンパク質に対する抗体を同時に,しかし独立して検出する.ウェスタンブロッティングには4つの重要なステップがある.まず,濃縮ウイルスを可溶化し,ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により,構成タンパク質を分子量(Mr)に従って個別のバンドに分画する(分子量は,通常は無単位で表示されるが,医学生物学領域では,J・ドルトン(John Dalton: 1766〜1844)に因んで,「Dal」あるいは「Da」を単位として使うことが多い.これは「ダルトン」ではなく,「ドルトン」と発音する).次に,分画したタンパク質をニトロセルロース膜に電気的に転写(ブロッティング)して固定する.第三に,被検血清をニトロセルロース膜上のウイルスタンパク質に結合させる.第四に,それら結合物の存在は,放射性標識または最も一般的には酵素標識抗動物種抗体を使用して確認される.したがって,ブロッティングにより,特定のウイルスタンパク質の一部またはすべてに対する抗体の実証が可能になり,感染のさまざまな段階でさまざまな抗原に対する抗体の存在を監視するために使用できる.この手順は,ウイルス病の診断分野では日常的には使用されていないが,ウェスタンブロッティングは,さまざまなウイルスの免疫原性タンパク質の同定に広く使われている.同様に,この検査法は,反芻動物組織における異常プリオンタンパク質の存在を確認するためにも使用される.ウェスタンブロッティングは,定量的というよりも定性的な検査であり,研究室ごとに標準化することが容易ではないので,むしろELISAの方が好まれている.


 ⑤ 間接蛍光抗体法

 間接蛍光抗体法については,(7)ウイルス抗原の検出の項で簡単に述べてある.この手法は,抗体の検出と定量にも使用される.

具体的には,これは、ウイルスに特異的な抗体を捕捉するためのマトリックス(支持体)としてウイルスに感染した細胞(通常は顕微鏡スライドガラス上)を使用する。被検血清の連続希釈物を個々の細胞支持体に適用し,抗体との結合を検出するために蛍光色素標識した抗動物種抗体を添加する.スライドを蛍光顕微鏡により観察し,感染細胞が,使用したウイルスの抗原分布と一致する蛍光パターンを示した場合,陽性と判定する.このテストは迅速(2時間未満)であり,抗イヌIgMなどの抗アイソタイプ特異血清を使用する場合,反応する抗体のアイソタイプを決定するためにも使用できる.非特異的蛍光は,未感染細胞に結合して特異的な抗ウイルス蛍光を隠す抗細胞抗体を含むことがあるため,特にワクチン接種を大量に受けた動物では問題となる.一部の病原体の検査用スライドは購入できるため,この検査を行う検査施設は感染性ウイルスや細胞培養施設を持つ必要はない.


 ⑥ 血球凝集阻止(HI)試験

 多くの節足動物媒介性ウイルス,インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルスなど,1つまたは複数の動物種の赤血球を凝集させるウイルスについては,血球凝集阻止(hemagglutination-inhibition: HI)試験が広く使用される.動物の血清中の抗体を検出および定量するためのこの方法は,感度が高く,特異的で,簡単で,信頼性も高く,非常に安価である.あらゆる技術的進歩にもかかわらず,血球凝集阻止試験は,特定のA型インフルエンザウイルスに対する抗体を測定するための主力となっている.試験の原理は単純で,ウイルスが受容体を介して赤血球に結合することによる.抗ウイルス抗体はこれらの受容体に結合し,赤血球凝集を阻止する.血清はマイクロタイタープレートのウェルで通常2倍段階希釈され,各ウェルに一定量のウイルス(通常は4または8赤血球凝集単位)が添加される.標準化された量のウイルスによって赤血球の凝集を阻止する血清の最高希釈倍率の逆数を,血清の血球凝集阻止力価として表す.特にパラミクソウイルスについては,凝集の非特異的阻害剤が,これらの研究のいくつかで多くの偽陽性の結果を生じたため,血球凝集阻止試験の結果に基づく以前の血清調査を解釈する際には注意が必要である.


 ⑦ 補体結合試験

 抗原に特異抗体が結合し免疫複合体ができると,結合した抗体のFc部位に補体(C1)が付着し,古典経路を介して補体の活性化が始まる.抗原−抗体反応が起こるとその量に応じて補体が消費されることを利用して,被検血清中の抗体量を測定する検査を補体結合(complement fixation: CF)試験という.段階希釈した被検血清に一定量の抗原と一定量の補体を加え,補体の消費量を定量することによって,間接的に抗原−抗体反応の量を推定するが,免疫複合体に補体が結合し消費されたか否かを直接肉眼により観察することはできない.そこで,残存補体量を可視化するために溶血素(抗赤血球抗体)を反応させた赤血球(感作赤血球)を反応系に加え,残存補体による溶血反応を検出する.反応系に多量の補体が残っていれば,感作赤血球と反応して溶血を起こし,逆に,補体が完全に消費されていれば溶血が起こらない.


 ⑧ 寒天ゲル内沈降反応

 歴史的に,寒天ゲル内沈降反応(agar gel immuno-diffusion: AGID)は,ブルータング,ブタ熱,インフルエンザ,ウマ伝染性貧血,およびウシ白血病など,多くのウイルス感染症の診断に使用されてきた(発明者L・コギンス(Leroy Coggins: 1932〜2013)にちなんで,「コギンス試験」と呼ばれる).この検査法は実施が非常に容易で,安価な材料を使用し,検査室での感染性ウイルスの増殖を必要としない.多くの場合,感染した動物からの粗細胞抽出物または組織抽出物でさえ,試験抗原として使用できる.AGIDは比較的迅速に,簡単に実施できるが,後に開発されたEIAと比較すると感度が劣る.さらに,AGIDは厳密には定性的(単純な陽性対陰性の回答を提供する)であり,自動化することができない. したがって,これらのウイルスの検査のほとんどはEIAに置き換えられている.


 ⑨ IgMクラス特異抗体検査

 IgMクラスのウイルス特異抗体を示すことにより,単一の急性期血清に基づいて,ウイルス感染または疾患の迅速な抗体に基づく診断を行うことができる.IgM抗体は感染後早期に出現するが,1~2か月以内に低下し,通常は3か月以内に完全に消失するため,通常は最近の(または慢性の)感染を示している.

 使用される最も一般的な手順は,ウイルス抗原をマイクロタイターウェルなどの固相基質に結合させるIgM抗体捕捉検査である.被検血清をこの基質と反応させ,抗原によって「捕捉」されたIgM抗体を,検体が得られた動物種に対応する標識抗IgM抗体により検出する.IgM抗体検査の欠点は,その抗原に対するIgM応答がワクチン接種に対しても発生するため,ワクチン接種を受けた動物での使用には一般に適さないことである.


(11)新世代テクノロジー

 ① フローサイトメトリー

 核酸技術と同様に,分析物検出の技術開発は急速に進歩しており,ルーチンの診断用途としてはまだ完全に検証されていない血清学的検査のための潜在的に新しい技術基盤がかなりの数開発されている.これらの技術のすべてをここで紹介しないが,これらの技術の多くは,日常的な診断用途にはほとんど使用されていない.ただし,臨床と研究の両方の分野で特に有望な技術の1つは,ルミネックス(Luminex)社が開発したxMAP(multi-analyte profiling)である.この検査技術は,汎用性の高い検体検出システムを提供するために組み合わされた既存の技術の成熟度を反映している.xMAPは,フローサイトメトリーと独自に標識したミクロスフェア,デジタル信号処理,および標準的な化学結合反応を組み合わせて,タンパク質または核酸を検出するシステムである.マイクロスフェアは,特定のリガンドと結合した個々のマイクロビーズを識別する蛍光シグナルを発する独自の色素(最大100種類の色素)を運ぶ.抗体検出試験では,目的の抗原を特定のマイクロビーズに結合させる.マイクロビーズは被検血清に曝露され,結合した抗体が,報告された色素で標識された抗動物種抗体により検出される.ミクロスフェアは,レーザーがビーズ色素とレポーター色素の両方を励起するフローサイトメトリーにより分析される.各抗原の複数のビーズが各検査で分析され,反応ごとの独立した読み取り値が提示される.

 このシステムの利点の1つは,そのマルチプレックス機能である.理論的には,1回のアッセイで100以上の異なる抗原に対する抗体反応性を評価できる.感度と特異性を最大限に高めるには,ビーズ上の特定の抗原密度を低下させ,検査結果の解釈を混乱させる可能性のある非特異的なバックグラウンド反応を増加させる外来性タンパク質を排除するために,組換え抗原が必要である.

 この検査法は,サンプル量がしばしば制限される研究用齧歯類のコロニーを維持するために必要な抗体スクリーニングテストに最適である.この技術は,口蹄疫などの規制疾患の管理に適用されるDIVA検査も行える.一例として,口蹄疫の不活化ワクチンに存在するカプシドタンパク質を表す組換え抗原を,非構造ウイルスタンパク質とともに異なるビーズに結合させて,疑わしい動物の抗体プロファイルを分析することができる.1回のアッセイで,ワクチン接種の証拠(カプシド抗原のみに対する反応)または自然感染の証拠(両方のタイプのタンパク質に対する反応)を提供できる.このタイプのビーズベースのアッセイは,いくつかの抗原に対する反応性を評価できるという点で,定量的ウエスタンブロッティングに相当する.生産動物のウイルス性疾患の撲滅プログラムが進むにつれ,この種のDIVA検査の必要性は高まっている.


 ② タンパク質マイクロアレイ

 同時に複数エピトープをスクリーニングする際の問題に対する潜在的な解決策となるのが,タンパク質マイクロアレイである.この検査は,高品質の抗原またはペプチドを技術的に無尽蔵に生産できるようになったため,実現可能になった.事実上あらゆるサイズのタンパク質マイクロアレイを使用して,アレイ上の一連のペプチドに対する抗体の存在について血清サンプルを調べることができる.その結果,単純に陽性対陰性の回答を提供することも,被検血清の連続希釈による定量的データを出すこともできる.この技術の実際の使用例は,A型インフルエンザウイルスに対する血清サンプルのスクリーニングである.現在,18種のHA型が知られているため,通常,これは困難である.たとえば,どのA型インフルエンザウイルスが特定の動物種(コウモリなど)に感染できるかという疑問に答えるには,数μL量の被検血清を使用した18-HA抗原スクリーニングが必要になる.組換え合成したHA1抗原を,ニトロセルロースでコーティングしたスライド上の,特定のアレイウェル内の複数の位置にスポットする.被検血清の希釈液をタンパク質アレイに適用し,抗体との結合を蛍光標識した抗動物種抗体により検出する.スライドを蛍光シグナルの強度についてスキャンし,陽性シグナルをアレイ内の特定の抗原にマッピングする.このタイプの抗体検出システムは,任意の数のウイルスへの曝露を表す血清中の抗原特異抗体の存在を証明できる.


(12)検査所見の解釈

 あらゆる検査データと同様に,ウイルス検査室からもたらされた結果は,サンプルが採取された動物の病歴に照らして解釈しなければならない.結果の重要性は,検出されたウイルスの種類によってもある程度影響を受ける.例えば,米国では子どもの寝室で見つかったコウモリについて,狂犬病ウイルスの蛍光抗体法検査により陽性反応が出た場合には,臨床データがなくても公衆衛生上の対応が行われる.また,母ウシが流産し,その母ウシからの牛白血病ウイルスの血清学的検査で陽性反応が出ても,そのウシが流行地域の出身であれば,流産と抗体陽性は無関係な所見である可能性が高いとみなされる.マルチプレックス PCR 検査を使用すると,急性呼吸器疾患を患っている 1 頭のイヌから複数の異なるウイルス,細菌,マイコプラズマ種を検出できる可能性があり,「何を重視すべきか?」という疑問が生じる.臨床獣医師は,一貫した治療法に到達するためには,いくつかのデータを統合する必要がある.しかし,ウイルス検査の速度,数,および信頼性により,臨床獣医師が検査結果を利用する方法が変化し,これらの結果が治療および管理の決定に大きな影響を与えている.臨床検体中に検出されたあるウイルスの重要性を解釈しようとするとき,次の考慮事項によって導かれる可能性がある.


 ① ウイルスが分離された部位

 たとえば,典型的な肉眼病変および顕微病変を有する生後9か月の流産ウマ胎仔の組織から検出されたウマヘルペスウイルス1の病因学的重要性については,かなりの自信を持てるだろう.しかし,幼若豚の糞便からのエンテロウイルスの回収は必ずしも重要ではないかもしれない.


 ② ウイルスが分離された疫学的情況

 ウイルス分離結果は,同じ地域で同じ時期に同じ病気の複数の症例から同じウイルスが分離された場合,大いに意味がある.


 ③ 検出されたウイルスの病原性 

 検出されたウイルスがほぼ常に病因学的に明らかな病気に関連しているという知識,つまり「便乗者」として発見されることがめったにないという知識は,その発見が重要であるという確信を生み出す.


 ④ 特定のウイルスのアイデンティティ

 口蹄疫ウイルスが常在しない国の反芻動物から口蹄疫ウイルスが検出されれば,それ自体が大きな警告となるが,ウシ鼻炎ウイルスの検出はそうではない.同様に,実験用マウスコロニーでのマウス肝炎ウイルスの検出,または非常に価値のある観賞魚でのコイヘルペスウイルスの同定は,実質的な問題を引き起こすだろう.


(13)血清学的検査結果の解釈

 急性期と回復期の血清サンプル間の抗体価の有意な(通常は4倍以上の)増加は,遡及的とはいえ,特定のウイルスを特定の疾患の臨床例と関連付ける根拠となる.しかし,ワクチン,特に弱毒生ワクチンに対する血清反応は,自然感染後に発生するものと区別できないことがあるため,動物のワクチン接種情況を常に把握しておく必要がある.これらのウイルスは生涯にわたる感染を確立するため,単一の血清サンプル中の抗体の証明は,ワクチン未接種の動物における現在の感染を診断することができる.ただし,そのような情況では,持続感染しているウイルスが検討中の疾患の原因であるという保証はない.IgM抗体を検出するように設計された検査法は,最近または現在の感染の証拠を示すものである.

 授乳前の新生仔臍帯または静脈血における抗ウイルス抗体の検出は,子宮内感染の診断の基礎となる.このアプローチは,たとえば,アカバネウイルスが仔ウシの関節拘縮・水無脳症の原因であることを示すために使用された.免疫グロブリンの経胎盤移行はほとんどの家畜では起こらないため,授乳前の血液中にIgGまたはIgM抗体が存在することは,胎仔の感染を示している.


 ① 感度と特異性

 特定の血清学的検査の解釈と評価は,診断の感度と特異性という2つのパラメーターに大きく依存する.特定の検査の感度はパーセンテージ(%)で表され,その検査で陽性と識別された当該疾患(または感染症)を有する動物の個体数(頭数)を,疾患(または感染症)を有する動物の総数で割ったものである.例えば,ウシ白血病ウイルスに対する抗体についてウシの集団をスクリーニングするために使用する特定のEIAは,98%の感度を持っている場合がある.つまり,検査した感染牛100頭ごとに、98頭が正しく診断され、2頭が見逃される(偽陰性率=2%).対照的に,検査の特異性は,疾患(または感染症)のない個体の中で陰性結果が得られる個体のパーセンテージで示される.例えば,ウシ白血病ウイルス抗体に対する同じEIAの特異性は97%である場合がある.つまり、感染していないウシ100 頭中、97頭は正しく陰性と診断されるが,3頭は感染していると誤って診断される(偽陽性率=3%)。診断の感度と特異性は,特定の診断法と検査法を検証するために使用される動物集団に固有のパーセンテージであるが,検査による予測値は,被検集団における疾患(または感染症)の有病率によって大きく影響される.したがって,既知のウシ白血病の有病率が50%である高リスク集団をスクリーニングするために同じEIAを使用する場合,検査による予測値は高くなる.しかし,既知の有病率が0.1%の集団をスクリーニングするために使用した場合,陽性と判定された3%の動物の大多数は実際には偽陽性であり,はるかに高い特異性の確認試験によるフォローアップが必要になる.これは,特定の目的を念頭に置いて診断法を選択することの重要性を示している.重篤な感染症のスクリーニングを目的とする場合や,病気の根絶を目的とする場合,陽性例を見逃してはならない場合には,感度の高い検査法が必要である.診断が正しいことを確認するには,非常に高い特異性を備えた検査(通常は独立した技術に基づく)が必要になる.

 特定のイムノアッセイの感度は,少量の抗体(または抗原)を検出する能力の尺度を示している.たとえば,EIAおよび血清中和試験は,一般にAGIDよりも大幅に高い感度を示す.感度の向上は,精製された試薬と高感度の機器を使用することによって得られる場合もある.ただし,イムノアッセイの分析的特異性は,あるウイルスと別のウイルスに対する抗体の存在を識別する能力の尺度である.この品質は,主に試薬の純度,特に抗体を検査する場合の抗原,および抗原を検査する場合の抗体に影響される.



第8章  ウイルス性疾患の疫学と防疫

(1)ウイルス感染症の疫学

疫学は,集団における病気の要因,動態,および分布についての学問である.ウイルス性疾患の発生を理解するための基本は,ウイルスが蔓延するメカニズムとそれらがどのように疾患を引き起こすのか,ウイルスが自然界でどのように生き残るのか,どのように進化あるいは変異するのか,そしてこれらがビルレンスなどの特性をどのように変化させるのかを解明することである.ウイルスによって引き起こされる病気は出現と再出現を繰り返しており,新しいウイルス性疾患がどこからともなく発生することがよくある.動物または動物集団における感染症や疾患のリスクは,ウイルスの特性(例: 進化や遺伝的変異),およびある宿主から別の動物宿主へのウイルス伝播に影響を与える行動的,環境的,および生態学的要因によって決定される.疫学は,これらの要因を集団ベースの統一された視点に統合させるものである.

 疫学(epidemiology)という言葉は,人々を意味する語源の「デモ(demos)」から派生したものだが,「ヒト」に関係なく広範に使用されている.したがって,地方病(endemic),流行病(epidemic),およびパンデミック(pandemic)という用語は,ヒト,動物,鳥類,および植物集団の病気を表すためにも使用される.エンゾーティック(enzootic),エピゾーティック(epizootic),パンゾーティック(panzootic)という用語は,動物集団(zoon: ゾーン)の疾患を説明するために使用されることがあるが,疫学の基本的な原則と方法が同じであることを考えると,集団を構成する生物の種類に関する区別は必ずしも必要ない.疫学は,疾病の傾向を定量的に測定することにより,疾病の性質に関する理解を深め,疾病管理と予防に警告を発し,情報を提供する上で主要な役割を担うようになっている.疫学研究は,感染症の病理発生におけるウイルスの役割の解明,ウイルスと疾患の環境決定因子との相互作用の理解,宿主の感受性に影響を与える要因の決定,感染様式の解明,およびワクチンと医薬の大規模な試験においても有用である.


(2)疫学で使用される用語と概念

 地方病的動物疾患(enzootic disease)という用語は,ある地域の動物集団内で病気が継続的に発生する,いくつかのまたは継続的な伝播の連鎖の存在を指す.

 流行性動物疾患(epizootic disease)とは,疾患発生率のピークが地方病としてのベースラインまたは予測される疾患発生率を超えている場合の疾患を指す.病気を伝染性疾患または発生として分類するために必要なピークのサイズは恣意的であり,バックグラウンドとなる感染率,罹患率,および臨床的重症度,経済的影響,およびゾーノシスの可能性のために病気が引き起こす不安によって影響される.したがって,家禽の群れにニューカッスル病を引き起こす強毒型のトリパラミクソウイルス1の数例は流行性(epizootic)と見なされるかもしれないが,いくつかの伝染性気管支炎はそうではない.

 パンゾーティック動物疾患 (panzootic disease) とは,インフルエンザウイルスH1N1に関連したものや,イヌパルボウイルスに関連したものなどのように,大陸全体または世界規模での疾患の蔓延を含む大規模な流行を指す.

 潜伏期(incubation period)とは,感染から最初の臨床症状が現れるまでの期間を指す.感染症ごとにほぼ一定であるが,個体差や環境により異なることがある.

 感染期(infectious period)とは,罹患動物がウイルスを排出する期間を指す.この期間は,関係する疾患によって異なる.たとえば,ネコ免疫不全ウイルス感染などのレンチウイルス感染症では,動物は臨床症状を現す前に非常に長い期間ウイルスを排出する.このような感染では,排出されるウイルス量は非常に少ないが,感染期が長いため,ウイルスは集団内で容易に維持される.

 血清疫学(seroepidemiology)とは,血清学的診断技術によって得られる,疫学的調査の基礎としての血清学的データの解析を意味している.血清疫学は,獣医師による疾病管理や獣医学研究において極めて有用である.血清を適切に採取して保管するには費用がかかるため,食肉処理場,淘汰作業(特に野生動物個体群の維持・評価のために),病気の監視やワクチン接種プログラムなど,血清サンプルの幅広いソースが利用されることがある.このような血清を使用して,特定の感染症の有病率または発生率を判定したり,根絶および予防接種プログラムの成功を評価したり,新興ウイルス,および再興ウイルスによる影響,ダイナミクス,および地理的分布を評価したりできる.集団内のさまざまな年齢層から選択した個体におけるウイルスに対する抗体を検出することにより,ウイルスの蔓延情況,または集団内に特定のウイルスが最後に出現してからどれくらいの時間が経過したかを判断できる.また,血清学的データと臨床観察との相関により,臨床的感染(発症)と無症状感染の比率を決定することも可能になる.

 分子疫学(molecular epidemiology)とは,疫学的調査の基礎として分子生物学的データを使用するものである.リアルタイムPCRと塩基配列データは,ウイルスの迅速な検出と個々のウイルス株の直接的な遺伝的比較をそれぞれ可能にするため,動物集団におけるさまざまなウイルスの遺伝子型の流れと相対的有病率を追跡するような研究に広く利用されている.

 

(3)算出法とデータベース

 ① 率と割合の計算

 異なる集団における罹患経験の比較は,率(rate: 変化量)と割合(proportion: %)として表される.乗数(たとえば,10nあたりの発生率)は,扱いやすい整数である率(レート)を示すために使用される.使用される最も一般的なレート乗数は10万である.つまり,特定の率(レート)は,単位時間あたりの特定の集団10万頭あたりで表される.集団内における疾患の発生を記述するために,4つの割合または率が広く使用される.すなわち,発生率(incidence),有病率(prevalence),罹患率(morbidity),および死亡率(mortality)である.

 症例の定義(分母と分子)は,異なる集団および亜集団における疾患の発生を比較できるように標準化する必要がある率と割合の重要な要素である.選択した基準が対象のウイルス性疾患の特徴であるかどうか,および検査結果がすべての症例で利用可能であるかどうかに応じて,確認済み,可能性の高い,および可能性のある症例の基準を指定できる.動物の個体および集団のレベルで,異なる基準を指定できる.

4 つのすべての尺度(発生率,有病率,罹患率,および死亡率)において,分母(危険にさらされている動物の総数)は,地域集団,県,または国の総個体数,または感受性のある集団あるいは危険に晒されている集団と同じような集団(例: 特定の集団内で目的のウイルスに対する抗体を欠く動物の数)で一般的に使われている.それぞれの情況において,分母(母集団)の性質を明確にすることが不可欠である.実際,疫学は「母集団の科学」と呼ばれてきた.これらの各測定値は,個々の動物を別の動物から区別するさまざまな属性(年齢,性別,遺伝的背景,免疫状態,栄養,妊娠,およびさまざまな行動パラメーター)の影響を受けることがある.最も広く使われる属性は年齢であり,さまざまな生理学的変数に加えて,動物の免疫状態を包含する場合がある.特定の時点での病気のスナップショットを提供する有病率(割合:proportion)を除いて,他の3つの率(レート)では,以下に説明するように,期間を指定する必要がある.

 特定の動物集団における特定の病気の発生を知ることは,率(レート)の算出よりも困難である.分母,つまり,危険にさらされている個体群の動物の総数は,特に放し飼いの野生生物の個体群では,正確に算定または推定することができないことがある.選択された症例によっては,疾患の症例数を決定することも不可能な場合がある.そのような情報が不可欠であるとみなされる場合,行政当局の規制により,その疾病を届出が必要であると宣言され,獣医師はすべての症例を当局へ報告することが義務付けられる場合がある.たとえば,口蹄疫の存在の疑いは,先進国では通報される.


 ② 発生率

 累積発生率(cumulative incidence)は,病気の発生時には発病率(attack rate)と呼ばれることもあり,特定の期間(例:1か月間または1年間)における集団内の感染または病気の新しい症例の発生の尺度であり,短期間の急性疾患を説明するためには有用である.急性感染症の場合,集団における感染症または疾患の発生率は,次のようないくつかのパラメーターによって決定される.

 (1) 感受性動物のパーセント.

 (2) 感染した感受性動物のパーセント.

 (3) 罹患動物のパーセント.

 (4) 動物の飼育密度,飼育時間などの要因(接触によって伝播する病気の接触率).

 特定のウイルスに感受性のある動物の割合(%)は,そのウイルスへの過去の曝露歴と免疫の持続期間を反映している.1年間または1シーズン中の感染率は,動物の頭数や密度,季節,および(アルボウイルス感染の場合は)ベクター数などの要因に応じて,かなり異なる場合がある.感染した動物のうち,明らかな病気を発症するのは一部だけである.臨床的感染(発症)と不顕性感染の比率(ratio)は,ウイルスによって大きく異なる.

 二次的発生率(secondary attack rate)は,群れや集団などの比較的閉じたグループに適用される場合,飛沫またはエアロゾル(飛沫核)によって伝播するウイルスの「感染力(infectiousness)」の有用な尺度になる.これは,最長潜伏期中に,感染または発病した初発症例と接触した動物の数を,ウイルスに曝露されやすい動物の総数の割合として定義される.


 ③ 有病率

 ウイルス性の慢性疾患の発生率は,特に発症が潜在性であり,ほとんどの動物が不顕性感染している場合,測定が難しいことがある.このような病気の場合,有病率を決定するのが通例でである.つまり,特定の時点で,現在の集団に存在する症例数を集団内の動物の頭数で割った比率(ratio)である.これは,特定の時点での感染または病気の発生のスナップショットであり,したがって,率(rate)ではなく割合(proportion)である.つまり,有病率は,疾患の発生率と期間の関数である.

 血清有病率(seroprevalence)は,集団内の特定のウイルスに対する抗体の保有を表している.したがって,通常,血清有病率は,特定のウイルスを持つ集団の累積経験を表している.これは,抗体が何年も,または生涯続くことが多いためである.


 ④ 罹患率と死亡率

 罹患率は,特定の期間にわたって特定のウイルスに起因する臨床症状を呈する集団内の動物の割合(%)である.病気による死亡率は,次の2つの方法で区別される.

 (1) 原因別死亡率(特定の年の病気による死亡数を年央の総頭数で割ったもの)は,多くの場合,10万頭あたりで表される,または

 (2) 致死率(特定の病気を患っており,特定の期間内にその病気で死亡した動物の割合(%)).


(4)疫学調査の種類

 ① 概念的枠組み

 症例研究/対照研究,コホート研究(前向き研究),横断的研究,および長期群集団研究は,危険因子と疾患の発生率および有病率,ワクチンの安全性と有効性,およびワクチンと薬剤の治療的評価に関する概念的枠組みを提供する.後者の 2 つの関係は,ランダム化比較試験によっても評価できる.


 (1) 症例対照研究

 症例対照研究は遡及的(後ろ向き研究)である.つまり,病気が発生した後に調査が開始される.ヒトの病気の疫学では,これは最も一般的なタイプの研究であり,原因が特定されていない病気の危険因子を特定するために使用されている.遡及的研究の利点は,既存のデータを活用し,比較的安価に実施できることである.多くの場合,それらはまれな出来事を調査するための唯一の実用的な方法である.症例対照研究では,新しいデータや記録を作成する必要はないが,対照群を慎重に選択する必要がある.対照群は,症例(被験個体)群と一致する場合がある.関心のある単位は,個々の動物または集団などの動物のグループかもしれないが,必要な記録はほとんどの動物の疾患で一般に利用できないため,獣医学では解決できない場合がある.


 (2) コホート研究(要因対照研究)

 コホート研究は,前向きまたは縦断的であり,危険因子陽性(曝露)および危険因子陰性(対照)の動物個体または集団における疾患または感染症の発生率の比較を含んでいる.危険因子の例としては,ワクチン接種歴,バイオセキュリティ慣行,近隣の集団(群れ)との距離などがある.この種の調査では,新しいデータと記録の作成が必要である.また,研究対象の危険因子を除いて,曝露群とできるだけ類似するように設計する必要がある対照群を慎重に選択する必要がる.コホート研究は,病気が観察されるまで,多くの場合長期間にわたってグループを追跡しなければならないため,迅速な分析には向いていない.そのため,このような研究は費用がかかる.ただし,コホート研究が成功した場合,因果関係の証明は通常強力である.


 (3) 横断的研究

 特定のウイルス性疾患の危険因子が不明な場合,そのウイルスに対する抗体または微生物の検出と,危険因子に関するデータを取得するためのアンケートを用いて,横断的研究を迅速に行える.横断的研究は,特定の地域の集団における特定の疾患(感染症)の特定の時点での有病率に関するデータを提供し,時間の経過とともに変化しない危険因子と着目したウイルスによる感染症との関係を評価することができる.


 (4) 長期群集団研究

 横断的または縦断的な計画による長期群集団研究は,ある地域における特定のウイルスの存在と活動(または活動の欠如)に関する独自の情報を提供できる.また,ワクチンや治療薬の有効性に関する情報を提供するように計画することもできる.診断方法の自動化とデータのデジタル化にもかかわらず,そのような研究は依然として高価で労働集約的である.長期群集団研究は,ワクチンや治療薬を評価する場合,畜産システム全体に起因するすべての変数が含まれるという利点がある.

 特定の地域の動物集団への特定のウイルスの侵入を調査することを,センチネル(sentinel)調査と呼ぶ.たとえば,センチネル調査は,ゾーノシスの原因となるアルボウイルスの高リスク地域への侵入を調査するために広く使用されている.センチネル動物(監視動物),多くの場合ニワトリを定期的に採血し,血清抗体またはウイルスの存在について検査し,適切なベクター制御を行う.動物ウイルスの場合,例えばブルータングウイルス感染症の常在地などでは,鳥類以外の他の動物種がセンチネル(監視動物)として頻繁に使用される.


(5)ウイルス性疾患の予防と防疫における各種疫学調査の活用例

 ① 病気の原因究明

アカバネウイルスによるウシの先天性欠損症の発生に関する当初の調査は,症例対照研究とコホート研究の両方の事例を示している.1950年代と1960年代にオーストラリアで,四肢の奇形と脳の発達異常を特徴とする仔ウシの先天性欠損症の流行に関する症例対照研究が実施されたが,この疾患の原因は特定されなかった.1972年から1975年の夏から初冬にかけて,中部および西日本では,4万頭以上の仔ウシが同じ先天性欠損症を持って生まれた.日本の研究者たちは,この病気を伝染性であると考えたが,感染した仔ウシからウイルスを分離することができなかった.しかし,そのような仔ウシの初乳前血清をいくつかのウイルスに対する抗体について検査したところ,1959年に日本の群馬県赤羽村で蚊から分離されたブニヤウイルスであるアカバネウイルスに対する抗体が,ほとんどすべての血清に存在していた.遡及的な血清学的調査により,この疾患の地理的分布とウイルスに対する抗体の存在との間に非常に強い関連性が示され,アカバネウイルスがウシの先天性関節拘縮症である水無脳症の病原因子であることが示唆された.その後,コホート(前向き)研究が開始された.日本とオーストラリアにセンチネルの牛群が置かれ,殺処分または帝王切開によって得られた胎仔からウイルスが感染後短期間しか分離されないことが判明した.妊娠中期に実験的に接種した結果,仔ウシの先天性異常は,自然に発生した病気に見られるものと同様であった.臨床症状は成牛では見られなかった.これらの研究と病気の経済的影響の推定に続いて,ワクチンが開発され,制御プログラムが開始された.

 アカバネウイルスが日本とオーストラリアのウシの特徴的な先天性欠損症の原因病原体であることを確立するのにかなりの時間を要したのとは対照的に,2011年には,これまで知られていなかった別のオルトブニヤウイルスが,北欧の家畜の間で同様の疾患症候群の原因として迅速に特定された.この疾患症候群は,ドイツとオランダの成牛の乳牛で最初に確認され,数か月後,アカバネウイルスによって引き起こされるものと同一の先天性関節拘縮症と水無脳症の仔ウシと仔ヤギが生まれた.2011年にこの症候群が最初に発見されたドイツの町に因んで名付けられたシュマレンベルクウイルス(Schmallenberg virus)は,培養細胞で分離される前に,疾患が認識されてから数日以内にメタゲノム解析によって確認された.


 ② ウイルスの地理的分布と遺伝的変異の調査

 ブルータングウイルス感染症の世界的な疫学は,横断的および長期群集団研究,および血清疫学と分子疫学の両方を使用して研究された.ブルータングは,世界の熱帯および温帯地域における地方病だが,1998年以前に,この病気がヨーロッパで一時的に発生したことがある.1998年以来,ブルータングウイルスのいくつかの血清型と複数の異なる株がヨーロッパの広範囲に広がっており,ヒツジだけでなくウシでも大規模な流行を引き起こしている.ヨーロッパのいくつかの国,特にイタリアでの昆虫調査と相まって,センチネル動物を用いた長期にわたる研究により,ウイルスの分布とその伝播サイクルが解明された.さらに,ヨーロッパへ侵入したウイルス株の血清型と遺伝子解析は,世界の別の場所で分離されたブルータングウイルスと比較して,正確な地理的起源の決定につながった.遺伝子解析は,各地域内のウイルスの変異を監視し,ウイルスの野外株の変異に対する弱毒生ワクチンの接種を決定するためにも使用されている.国際貿易規制は,これらの研究からの知見と,北米,オーストラリア,東南アジアなどの世界の他の地域での同様の研究からのデータを反映するために大幅に修正されたが,発生は散発的またはまれである.


 ③ ワクチン治験

 ワクチンの免疫原性,安全性,および有効性は,最初に実験動物で研究され,次に対象動物種で小規模な試験が行われ,最後に大規模な野外試験が行われる.後者では,コホート研究で採用されているような疫学的手法が使用される.新しいワクチンを評価するための別の方法はなく,リスクとコストを最小限に抑えて最大の情報を得る無作為の野外対照試験法が開発されている.しかし,このようにしても,ワクチンの商業利用が認可されて初めて重大な問題が認識される場合がある.それは,たとえば,1950年代に米国でウシ伝染性鼻気管炎(ウシヘルペスウイルス1が原因)に対する弱毒生ワクチンが導入された後に発生した.そのワクチンは,流産がワクチン接種の一般的な後遺症であると認識されるまでの5 年間使用されていた.その因果関係は,症例対照研究およびコホート研究により確認された.


(6)数学モデル

 1840年代に医学と獣医学における問題を研究したW・ファー(William Farr: 1807〜1883)の時代から,数学者たちは感染症の発生率の「流行曲線」と長期的な傾向に関心を持ってきた.コンピュータを使用した数学モデルの構築により,集団内の感染症のダイナミクスへの関心が高まった.数学モデルには将来の病気の発生に関する予測が含まれるため,ある程度の不確実性が伴う.懐疑論者は,「すべてのモデルには等しく反対のモデルがある」と述べてきたが,近年,モデルは疾病管理を指揮する上でますます重要な役割を果たしている.

 次のようなさまざまな疫学的パラメーターを予測するために,数学モデルが開発されている.

 (1) 短い潜伏期と長い潜伏期を伴う動物ウイルスの継続的な伝播をサポートするために必要な臨界集団サイズ.

 (2) 持続感染するウイルスに固有のダイナミクス.

 (3) 年齢依存性のウイルス病原性における重要な変数.

 コンピュータモデリングは,疾病管理プログラムの有効性に関する洞察も提供する.数学モデルは多くの問題に焦点を当てるが,結果はしばしば予想外のものであり,特にエキゾチック(異国的)なウイルス性疾患の国内および国際的な広がりの可能性について,より良いデータとさまざまな制御方法の必要性を示している.


(7)ウイルスの伝播様式

 ウイルスは,ある宿主から別の宿主へ同種であろうと異種であろうと感染できる場合にのみ,自然界で生き残れる.伝播サイクルには,体内へのウイルスの侵入,複製,排出が必要であり,その後,別の宿主へ拡散する.ここでは,集団内におけるウイルスの拡散に関して説明する.

 ウイルスの伝播は,一般に水平または垂直である.垂直伝播は,母親から子孫への伝達を表す.ただし,ほとんどの伝播は水平的である.つまり,集団内の動物間で,直接接触,間接接触,あるいは,節足動物媒介性,または医原性などの一般的な仲介によって伝播することがある.いくつかのウイルスは自然界で複数の伝播様式を介して感染するが,他のウイルスは単一の様式のみで感染する.


 ① 水平伝播

 (1) 直接接触伝播

 直接接触伝播には,感染した動物と感受性のある動物との間の実際の物理的接触(舐める,噛む,こするなど)が含まれる.このカテゴリーには性的接触も含まれ,たとえば,一部のヘルペスウイルスやヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのレトロウイルスの伝播で知られている.


 (2) 間接接触伝播

 間接接触伝播は,共有の食器,寝具,拘束具,車両,衣服,ふけ,不適切に滅菌された手術器具,または注射器や針などの媒介器物を介して発生する(後者は医原性伝播に含まれる).例えば,キャリア状態の種牡馬の精液に含まれるウマ動脈炎ウイルスは,媒介器物や汚染された敷き藁を介して,直接的な性的接触なしに共同飼育されているウマに広がることがある.


 (3) 一般車両による伝播

 一般的な車両感染には,食品や飲料水の糞便汚染(糞口感染)や,ウイルスに汚染された肉や骨製品が含まれる(例: ブタ熱やウシ海綿状脳症).


 (4) 空中伝播

 気道の感染を引き起こす飛沫感染は,感染した動物が咳やくしゃみをしたときに飛沫(直径5 μm以上)を放出することにより発生する(例: インフルエンザ).大きな液滴はすぐに落下するが,微小液滴は蒸発して飛沫核(直径 5 μm未満)を形成し,長時間空気中に浮遊したままになる.飛沫は1メートル程度しか移動しないが,飛沫核(エアロゾル)は長距離を移動することがある.飛沫核感染は,空気感染(air-borne infection)とも呼ばれるが,飛沫感染との線引きは必ずしも厳密には行えない.飛沫核は,風やその他の気象条件が良好な場合は,数キロメートルにも及ぶ場合があるとされる.また,ふけやほこり(塵埃)などの環境源からウイルスが放出される(例: マレック病).水生動物では,水媒介性感染がウイルスの感染様式である(例: 伝染性サケ貧血ウイルス).


 (5) 節足動物媒介性伝播

 節足動物媒介性感染には,媒介節足動物による刺咬が関与する(例:蚊はウマ脳炎ウイルスを媒介,マダニはアフリカブタ熱ウイルスを媒介,ヌカカ(Culicoides spp.)はブルータングウイルスおよびアフリカ馬疫ウイルスを媒介).


 (6) 医原性伝播

 医原性(「医療が原因」)の伝播は,担当の獣医師,獣医療技師,または動物の世話をしている他のヒトの何らかの活動の直接的な結果として生じる.通常は,非滅菌器具,複数回使用の注射器,または洗浄不十分な手指によるものである.医原性感染は,複数回使用の注射器や注射針を介したウマ伝染性貧血ウイルスの拡散にみられる.同様に,ニワトリでは,細網内皮症ウイルス(reticuloendotheliosis virus)に汚染したマレック病ワクチンを介しての感染が知られている.


 (7) 院内感染

 院内感染は,動物が動物病院または獣医科診療所にいる間に発生する.1980年代のイヌパルボウイルス流行のピーク時に,多くの仔イヌが動物病院や診療所で感染した.一部の病院では,日常的に使用していた消毒剤がウイルスに対して無効であることが判明した.ネコやイヌの呼吸器ウイルスおよび腸内ウイルスが院内感染し,動物シェルターでもかなりの頻度で感染が起こる.ヒトの医療では,西アフリカでのエボラウイルスの感染流行は,医原性の院内感染の潜在的な重要性と,それに伴う医療従事者への脅威を示している.


 (8) ゾーノシス(動物由来のヒトにおける感染症)

 ほとんどのウイルスは宿主域に制限されるため,ウイルス感染の大部分は自然界では同種または近縁種の個体群内で維持されている.

 しかし,狂犬病やアルボウイルス脳炎など,いくつかの異なる動物種の間で自然に広がるウイルスも多くある.ゾーノシスという用語は,動物からヒトへ伝播する感染症(動物由来感染症とも呼ばれる)を表すために使用される.ゾーノシスは,家畜または野生動物の宿主が関与するかどうかに関係なく,通常,ヒトが動物との密接な接触を伴う活動に従事している情況,またはウイルスが節足動物によって伝播する情況下で発生する.なお,ヒトから動物へ伝播する感染症はアンソロポノシスという(第5章参照).


 ② 垂直伝播

 「垂直感染」という用語は通常,分娩前,分娩中,または分娩直後に母親から胚,胎仔,または新生仔へ伝えられる感染を表すために使用されるが,一部の研究者はこの用語を出生前に感染が発生する情況に限定して用いている.特定のレトロウイルスは,受精卵の生殖細胞系列のDNAにプロウイルスDNAを組み込むことにより,垂直伝播する.サイトメガロウイルスは胎盤を介して胎仔へ感染することが多く,他のヘルペスウイルスは産道を通過する際に感染する.さらに他のウイルスは,初乳および乳汁(例:ヤギ関節炎脳炎ウイルスおよびヒツジのビスナ/マエディウイルス),または卵(例:ニワトリ貧血ウイルス)を介して伝播する.ウイルスの垂直感染は,胎仔死亡または流産を引き起こすことがあり(例: いくつかのレンチウイルス),先天性疾患(例: ウシウイルス性下痢ウイルス,ボーダー病ウイルス,ブタエンテロウイルス)に関与する場合がある.また,感染が先天性欠損症の原因となることもある(例:アカバネウイルス,キャッシェバレーウイルス,シュマレンベルクウイルス,ブルータングウイルス,ネコパルボウイルス).


(8)自然界におけるウイルスの生存メカニズム

 自然界でのウイルスの永続化は,連続的な感染の維持,つまり感染の連鎖にかかっている.病気の発生はウイルスの生存にとって必須でも,必ずしも有利でもない.実際,臨床疾患は,不顕性感染よりも生産的なウイルスの発生源である場合があるが,不顕性感染は感染個体の輸送や移動を制限せず,ウイルス拡散のより良い機会を提供するためより重要である.さまざまなウイルスの病因,動物種の感受性,感染経路,および環境安定性のさまざまな要因に関する知識が増えるにつれて,疫学者は,ウイルスが宿主内で連続的に感染を維持する4つの主要なパターンを認識している.

 (1) 急性自己限定感染パターンで,感染は常に宿主集団のサイズに影響される.

 (2) 持続感染パターン.

 (3) 垂直伝播パターン.

 (4) 節足動物媒介性ウイルスによる感染パターン.

 ウイルスの物理的安定性は,環境中での生存に影響する.一般に,呼吸器経路で感染するウイルスは環境安定性が低く,糞口経路(fecal-oral route)で伝播するウイルスは環境安定性が高くなる.したがって,水中,媒介器物,または機械的節足動物ベクターの口器におけるウイルスの安定性は,感染に有利に働く.これは,小規模または分散した動物のコミュニティ内では特に重要である.たとえば,ヒツジにオルフ(orf)を引き起こすパラポックスウイルスは,牧草地で数か月間生存する.ウサギに粘液腫を引き起こす粘液腫ウイルスは,蚊の口器で数週間生き残ることができる.

 ほとんどのウイルスには生存のための主要なメカニズムがあるが,このメカニズムが中断された場合(例:宿主動物種の個体数の急激な減少),2 番目または3番目のメカニズムが「バックアップ」として機能することがある.ウシウイルス性下痢ウイルスでは,動物から動物への一次的な直接感染サイクルがある.しかし,先天的に感染したウシによる,持続的なウイルスの排出によって,群れでの長期的な感染が維持されることがある.これらのウイルスの永続化メカニズムを理解することは,制御プログラムの設計と実施に役立つ.


(9)急性自己限定感染パターン

 自己限定的な急性感染症における集団規模の重要性に関する最も正確なデータは,ヒトの病気である麻疹(はしか)の歴史的研究により得られた.麻疹は,不顕性感染がまれであり,臨床診断が容易で,感染後の免疫がほぼ生涯続く数少ないヒト疾患の1つであるため,感染症のモデルとして長い間研究されてきた.麻疹ウイルスはイヌジステンパーウイルスと近縁であり,モデルの多くの側面が,麻疹ウイルスや他のモルビリウイルスにも同様に適用できる.集団内で麻疹ウイルスが生存するには,感受性宿主を継続的に大量に供給する必要がある.大都市および島嶼地域における麻疹の発生率の分析によると,集団内でウイルスを維持するために,出生または移住によって,新たな感受性宿主の十分な年間投入量を確保するには,約50万の人口が必要であることが示されている.感染は主に飛沫感染と飛沫核感染に依存するため,麻疹の流行期は人口密度と逆相関する.人口が広い地域に分散している場合,拡散速度が低下し,流行が長く続くため,伝播の連鎖を維持するために必要な感受性のある人数が減少する.そして,このような情況では,伝播チェーンが途切れる可能性が高くなる.人口の大部分が感受性である場合,流行の強度は非常に急速に高まり,発病率はほぼ100%になる(処女地での流行).動物ウイルスの間で同様の伝播様式の例はたくさんあるが,定量的なデータは麻疹の場合ほど完全ではない.エキゾチックウイルス(異国性ウイルス), つまり,特定の国や地域に常在しないウイルスは,処女地での感染症を引き起こす最も重要なウイルスとなる.例えば,ヨーロッパではブルータングウイルスとシュマレンベルクウイルスが流行し,北米ではブタの間でブタ流行性下痢ウイルスが流行した.

 20世紀初頭のアフリカにおけるウシの牛疫の歴史は,隔離された人間集団における麻疹と多くの類似点を示している.牛疫が初めてウシ集団へ侵入したとき,当初の影響は壊滅的であった.あらゆる年齢のウシと野生の反芻獣が感受性を示し,死亡率が非常に高かったため,タンザニアではウシの死体が地面に散乱したので,マサイ族の部族民が「ハゲワシは飛ぶ方法を忘れていた」とコメントしたというのは誇張でなさそうである.1920年代に始まった牛疫ワクチンの開発は,牛疫の疫学を変化させ,1960年代にその世界的な根絶が想定されるに至った.しかし,残念なことに,1970年代に西アフリカでの予防接種プログラムが不十分であったため,1980年代までにこの病気は再び猖獗を極め,アフリカの多くの地域で家畜の甚大な損失の原因となった.これにより,アフリカとインド亜大陸で新たなワクチン接種と制御キャンペーンが行われ,最終的に,2011年に牛疫が世界的に根絶された.

 このような病気の発生の周期性は,感受性動物の蓄積速度,ウイルスの侵入,およびウイルスの拡散を促進する環境条件など,いくつかの変数(パラメーター)によって決定される.


(10)持続感染

 ウイルスの持続感染は,急性疾患の初期に関係しているか,疾患の再発に関連しているかにかかわらず,多くのウイルスの永続化に重要な役割を果たしている.例えば,持続感染した動物による再発性のウイルス排出は,ウイルスを最後の感染エピソード以降に生まれた,感受性のある動物の集団へ再度持ち込む場合がある.この感染パターンは,ウシウイルス性下痢ウイルス,ブタ熱ウイルス,および一部のヘルペスウイルスの生存にとって潜在的に重要であり,そのようなウイルスは,急性自己限定感染で発生するよりもはるかに小さい臨界集団サイズを持っている.実際,一部のヘルペスウイルスにとって維持個体数は,単一の農場,犬舎,キャッテリー,または繁殖単位と同じくらい小さい場合がある.

 感染の持続,病気の発生,およびウイルスの伝播が分割されることがある.たとえば,トガウイルスとアレナウイルスの感染は,レゼルボア(鳥類,齧歯類)への悪影響は最小限だが,レゼルボアからの伝播は非常に効率的である.対照的に,イヌジステンパーウイルスのように,中枢神経系における感染の持続は,この部位から感染性ウイルスが放出されないため,疫学的に重要ではない.中枢神経系の感染はイヌに深刻な影響を与えることがあるが,ウイルスの生存には影響しない.


(11)垂直伝播

 母動物から胚,胎仔,または新生仔へのウイルスの伝播は,自然界でのウイルスの生存に重要な場合がある.すべてのアレナウイルス,いくつかのヘルペスウイルス,パルボウイルス,ペスチウイルス,およびレトロウイルス,一部のトガウイルス,およびいくつかのブニヤウイルスとコロナウイルスは,垂直伝播することがある.実際,アレナウイルスやレトロウイルスの場合のように,垂直伝播の結果が生涯にわたる持続感染となる場合,ウイルスの長期生存が保証される.接触または初乳および乳汁を介した周産期のウイルス感染も垂直伝播として重要である.


(12)節足動物媒介性ウイルス感染

 膨大な数の節足動物媒介性ウイルス(アルボウイルス)が知られており,メタゲノム解析によりますます増加しており,そのうち約40種類が家畜に疾患を引き起こし,これらの多くはゾーノシスも引き起こす.蚊が「空飛ぶ針」のように働く粘液腫や鶏痘のように,節足動物による伝播が機械的なものである場合もある.より一般的には,伝達にはダニ,蚊,サシチョウバエ(Phlebotomus spp.),またはヌカカ(Culicoides spp.)などの節足動物ベクター内でのウイルスの増殖が含まれる.

 節足動物ベクターは,ウイルス血症の動物から吸血してウイルスを獲得する.摂取されたウイルスの複製は,最初は昆虫の腸内で行われ,唾液腺への到達には数日かかる(外因性潜伏期).この期間はウイルスによって異なり,環境温度の影響を受ける.ベクターの唾液分泌物中のビリオンは,吸血中に新しい動物宿主へ注入される.節足動物による伝播は,ウイルスが動物種の壁を越える手段を提供する.同じ節足動物が,めったに,あるいはまったく接触しない鳥類,爬虫類,または哺乳類を刺咬することがあるためである.

 ほとんどのアルボウイルスは,特定の節足動物ベクターと脊椎動物宿主がウイルスのライフサイクルに関与する局所的な生息地を持っている.脊椎動物宿主は通常,野生の哺乳類または鳥類である.家畜とヒトが一次感染サイクルに関与することはめったにないが,例外がある(例: ウマにおけるベネズエラウマ脳炎ウイルス,ヒトにおける黄熱ウイルスおよびデングウイルス).家畜種は,ほとんどの場合,偶発的に感染する.たとえば,レゼルボア(保有宿主)である宿主脊椎動物やベクター節足動物の地理的拡大によって偶発的に感染する.

 定期的な流行を引き起こすほとんどのアルボウイルスは,生態学的に複雑な固有の伝播サイクルを持ち,多くの場合,流行のサイクルに関与する宿主とは異なる節足動物や脊椎動物の宿主が関与する.効果的な防疫手段が乏しい地方病の感染サイクルは,ウイルスの増幅をもたらし,したがって,流行の規模を決定するのが難しい.

 節足動物が活動しているとき,アルボウイルスは脊椎動物と無脊椎動物の宿主で交互に増殖する.多くの研究者を悩ませてきた謎は,節足動物ベクターが活動を停止している冬の間,これらのウイルスに何が起きているかを理解することであった.「越冬」についての2つの重要なメカニズムは,経卵巣伝播(transovarial transmission)と経期伝播(transstadial transmission)である.経卵巣感染はダニ媒介性フラビウイルスでみられ,一部の蚊媒介性ブニヤウイルスおよびフラビウイルスで発生することが知られている.ブニヤウイルスの中には,蚊の繁殖期が短すぎて水平伝播サイクルだけではウイルスが生存できない北緯度の高い地域で見られるものがある.毎年夏に出現する最初の蚊の多くは,経卵巣感染および経期感染の結果としてウイルスを運び,ウイルスのプールは,蚊—脊椎動—蚊というサイクルでの水平伝播によって増幅される.

 節足動物における垂直伝播は,すべてのアルボウイルスの越冬を説明できないかもしれないが,別の可能性がまだ実証されていないか推測されている.たとえば,冬眠中の脊椎動物は,特定のアルボウイルスの越冬に役割を果たすと考えられてきた.寒い気候では,コウモリやいくつかの小型齧歯類,ヘビやカエルが冬の間冬眠する.彼らの低体温は特定のウイルスの持続感染を促進すると考えられており,春に気温が上昇すると再燃性のウイルス血症が発生する.このメカニズムは実験的には証明されているが,自然界で起こることが実証されていない.同様に,温暖な気候では,個々の昆虫は冬の間,長期間生存することができ,季節間の感染期間中にウイルスを維持する脊椎動物—無脊椎動物という低レベルのウイルス伝播サイクルを開始する.これは,米国カリフォルニア州におけるブルータングウイルスの越冬メカニズムとして確認されている.

 多くのヒトの活動が自然の生態系を乱し,したがってアルボウイルスの自然な感染サイクルを乱している.ヒトの活動が,これらのウイルスによって引き起こされる病気の地理的な広がりまたは有病率の増加に関与している.

 1. 個体群の移動と,新しい節足動物の生息地へのヒトと家畜の侵入により,劇的な感染症が発生し,歴史的な影響を与えたものもある.例えば,米国におけるルイジアナ買収は,ナポレオンの軍隊がカリブ海で黄熱を経験したために発生した.数十年後,同じ病気がパナマ運河の建設に著しく悪影響を及ぼした.固有の環境と地理的要素に関連する生態学的要因は,多くの新しい緊急疾患発生の一因となっている.特定の動物種のレゼルボアやベクターが存在しない島嶼などの遠隔地は,侵入したウイルスに対して特に脆弱なことがある.

 2. 森林伐採は,農家や家畜が新しい節足動物に曝露される要因となっている.この種の生態系破壊の重要性を示す事例は数多くある.森林伐採は,特定のフィロウイルスおよびアレナウイルスの出現増加にも関連している.

 3. 長距離輸送の増加により,エキゾチック(異国性)な節足動物ベクターの世界中への移動が容易になっている.ヤブカ(Aedes albopictus)の卵が使用済みタイヤにより米国へ運ばれたことは,このような問題を表している.家畜の長距離輸送の増加により,ウイルスや節足動物(特にダニ)が世界中へ運ばれやすくなっている.

 4. 水資源の使用に関する生態学的要因,つまり,灌漑の増加と水の再利用の拡大は,ウイルス性疾患の出現において重要な要因になりつつある.節足動物の制御に注意を払わずに開発された原始的な用水と灌漑システムの問題は,東南アジアの新しい地域における日本脳炎の出現により示されている.

 5. 新しい人工貯水池によってもたらされた長距離の鳥の渡りの新しいルートは,以前は感染していなかった地域にアルボウイルスが侵入する重要なリスクを表している.日本脳炎ウイルスの地理的範囲がアジアの新しい地域に拡大したことには,おそらく鳥によるウイルス運搬が関与していると思われている.

 6. 環境汚染と制御されていない都市化に基づく生態学的要因は,多くの新しい急性疾患の発生の一因となっている.溜まった水(ブリキ缶,古タイヤなど)や下水を含んだ水で繁殖する節足動物媒介生物は,世界的な問題となっている.環境化学物質(除草剤,殺虫剤,および残留物)も,認可された殺虫剤に対する蚊における耐性獲得を促すなど,ベクターとウイルスの関係に直接的または間接的に影響を与える可能性がある.

 7. 海洋,河口湿地,淡水湿地,およびヒトの居住パターンに影響を与える気候変動は,熱帯地域のベクターとウイルスの関係に影響を与える可能性がある.しかし,決定的なデータが不足しており,感染症の出現に対する地球温暖化の影響を研究する多くのプログラムは,その過程における他の環境および人為的要因の潜在的な重要性に適切に対処できていない.


 ヨーロッパ諸国によるアフリカの植民地化の歴史には,アフリカブタ熱,アフリカ馬疫,リフトバレー熱,ナイロビ羊病,ブルータングなど,ヨーロッパから感受性のある家畜がその大陸へ持ち込まれた結果に起因する新しいアルボウイルス感染症の例である.これらの病気を引き起こすウイルスは,多くの先進国で畜産を荒廃させる恐れあるエキゾチックな脅威として恐れられており,ヨーロッパにおけるブルータングの出現などの実例がある.生態学的要因の重要性を示すもう1つの例は,北米東部においてウマが東部ウマ脳炎ウイルスに感染したことである.これは,ウマの放牧地が,このウイルスの蚊—鳥—蚊というサイクルの湿地を拠点とする生息地と重なっていた例である.同様に,日本や東南アジア諸国では,ブタが水田で繁殖する蚊に刺されると,日本脳炎ウイルスに感染し,重要な増幅宿主になることがある.

 ダニ媒介性フラビウイルスは,疫学的に重要な2つの特徴を示している.まず,脊椎動物のウイルス感染により,ウイルス感染するダニの数が増加するので,マダニにおける経卵巣感染は,脊椎動物における感染サイクルとは無関係にウイルスの生存を確保するのに十分な場合がある.第二に,これらのウイルスの一部では,感染したマダニに噛まれることで開始された脊椎動物宿主から別の脊椎動物宿主への感染が,節足動物が関与しないメカニズムによっても発生する場合がある.したがって,中央ヨーロッパとロシア東部では,さまざまな小型齧歯類がダニ媒介性脳炎ウイルスに感染していることがある.ヤギ,ウシ,およびヒツジは偶発的な宿主であり,不顕性感染して乳汁中にウイルスを排出する.有蹄動物の成獣および幼獣は,ダニが蔓延する牧草地での放牧中にウイルスに感染することがあり,生まれたばかりの動物は,感染した母親からの汚染ミルクを飲むことによって感染することがある.ヒトはダニに刺されたり,感染したヤギのミルクを飲んで感染することがある.同様に,アフリカブタ熱は,歴史的にアフリカの地方病地域において,ウイルスのベクターであるマダニを必要とせずに,エアロゾル(飛沫核)感染によってユーラシアの広大な地域のブタに広がっている.


(13)季節および動物管理に関連する疾病発生率の変動

 多くのウイルス感染症は,発生率に顕著な季節変動がある.温暖な気候では,蚊,吸血性ユスリカ,またはサシチョウバエによって媒介されるアルボウイルス感染は,主に夏の終わりから初秋にかけて発生する.マダニによる感染症は,春から初夏に最も多く発生している.季節性疾患の発生の別の生物学的理由には,ウイルスと宿主の両方の要因がある.インフルエンザウイルスとポックスウイルスは,高湿度よりも低湿度の方が空気中で生存しやすく,多くのウイルスは低温のエアロゾル中の方が生存しやすい.宿主の感受性に季節変化があることも示唆されており,これはおそらく鼻および口腔咽頭粘膜の生理学的状態の変化に関係している.

 アルボウイルス病を除くと,獣医療において季節的影響よりも重要なのは,さまざまな季節に発生する畜舎や管理方法の変化である.冬の間,ウシやヒツジなどの動物を畜舎で飼うと,呼吸器や消化器の病気の発生率が高くなることがある.これらの疾患は,多くの場合,一次病因(通常はウイルス)があり,その後に別の病原体(多くの場合は細菌)による二次感染が続く.このような場合,感染症の診断,予防,および治療は,施設管理と畜産のための全体的なシステムとして統合しなければならない.動物が移動する地域,例えば,肥育場や季節ごとに遠く離れた放牧地へ移動する地域では,2つの大きな問題がある.動物たちは輸送のストレスにさらされ,そして,さまざまな感染性病原体のキャリア状態や,病原体を排出している新しい集団と接触することがある.

 アフリカのサヘル地域など,家畜が毎年広大な距離を移動する地方では,この伝統的な畜産慣行によって,以前は集団間の接触が原因だった,小反芻獣疫(羊疫)などのウイルス性疾患が発生している.アフリカ南部では,乾季に共同で水場を利用することにより,口蹄疫ウイルスなどが野生生物の異なる種間で,また野生動物と家畜の間で伝播することがある.


① 免疫の疫学的側面

 以前の感染またはワクチン接種により付与された後天免疫は,ウイルス性疾患の疫学において重要な役割を果たす.実際,ワクチン接種は,ほとんどのウイルス性疾患を予防する効果的な方法である.例えば,イヌジステンパーとイヌ伝染性肝炎に対するワクチン接種は,多くの国でペットのイヌにおいて両方の病気の発生率を急激に減少させた.一部のウイルスでは,感染部位(呼吸器や消化器など)での抗体の中和能が欠如するため,免疫は比較的効果的ではない.RSウイルスは,ウシやヒツジに軽度から重度の気道疾患を引き起こす.この感染症は通常,動物が閉鎖環境で飼育されている冬の間に発生する.ウイルスはエアロゾル(飛沫核)感染によって急速に広がり,気道の再感染は珍しくない.既存の抗体は,母親から受動的に得られたか,以前の感染によって得られたかにかかわらず,ウイルスの複製と排泄を妨げないが,抗体価が高い場合,臨床症状は通常軽度である.当然のことながら,予防接種が常に効果的であるとは限らない.


(14)新興ウイルス性疾患

 新興ウイルス性疾患とは,新たに認識された,または新たに出現した疾患,あるいは以前に発生したものの,発生率の増加または地理的,宿主,またはベクターの範囲の拡大を示している疾患である.この定義によれば,多くのウイルス性疾患は,新興疾患とみなせる.集団統計学的,生態学的,および人為的要因の絶え間ない変化により,新しい病気や再発する病気が確実に出現し続けるが,ウイルス学的および宿主の要因も,いくつかのウイルス性疾患の出現,特に新しい病気の出現に寄与している.


(15)ウイルス性疾患の出現におけるウイルス学的要因

 ウイルスは,単一の遺伝子型のウイルス株としてではなく,遺伝的に異なる近縁のウイルス株の集団として存在している.個々のウイルス種の数は増え続けており,特に野生生物や爬虫類や魚類などの生物種における発見が進んでいる.分子技術とメタゲノム解析の登場により,個々のウイルス種内の異なるウイルス株の数は増加し続けている.この遺伝的多様性は,新しいウイルスが出現し続け,動物やヒトに病気を引き起こすことがある.さらに,同じウイルス種の特定の株は,宿主域,組織指向性,ビルレンスなどの重要な要因を含む,大きく異なる生物学的特性を持つ場合がある.このように,固有のウイルスから派生する新しいウイルスの変異の結果として,新しい病気が出現し続けている.したがって,ウイルスの遺伝学を理解することは,ウイルス性疾患の出現を理解する上で重要である.

 ウイルスは宿主から宿主へと伝播するため,一連の複製サイクルが継続的に行われる.このプロセスの間,遺伝的変異株が継続的に生成され,その中には,発生元の親ウイルスとは異なる生物学的特性(ビルレンス,指向性,または宿主域など)を示すものもある.多くのウイルス,特にRNAウイルスは,生成時間が短く,突然変異率が高いのに対し,他のウイルスは,分節ゲノムの交換(再集合),遺伝子の欠失または獲得,組換え,転座など,より劇的な遺伝的変異を通じて変化する.動物宿主または昆虫ベクターによって加えられる選択圧は,これらの特定の生物学的変異株の選択に有利となることがある.自然界におけるウイルスの生存と進化において重要な特性には,次の能力がある.

 1. 迅速に複製する能力.

 多くの場合,強毒なウイルス株は,弱毒株よりも速く複製する.ただし,もし複製が速すぎると,自滅する場合がある.つまり,非常に急速なウイルスの増殖によって宿主が死亡または重病になってしまう前に,他の動物へ伝播するための十分な時間がないためである.

 2. 高力価に複製する能力.

  節足動物媒介ウイルスは,次の節足動物への伝達を助長する生存メカニズムとして,脊椎動物宿主で極めて高いウイルス血症力価を生成する.同じウイルスは,次の脊椎動物宿主への感染を促すために,節足動物宿主の唾液腺でも特に高いウイルス力価を生成する.このような高いウイルス力価は,一部の脊椎動物自然宿主(例:レゼルボアである鳥類)における無症状感染に関連している場合があるが,通常,他の脊椎動物宿主では,この能力の進化は,重度の,さらには致命的な病気に関連していることが多い.

 3. 特定の組織で複製する能力.

 この性質は,ウイルス感染サイクルの完了にとって重要な場合がある.たとえば,ウイルスの指向性の進化と特定の宿主細胞受容体の採用により,多くの疾患パターンが決定づけられる.さらに,免疫の影響が及ばない部位または免疫細胞自体で成長する能力の進化は,ウイルスの生存に大きな利点をもたらす.

 4. ウイルスを長期間排出する能力.

 慢性的なウイルス排出能力の進化は,ウイルスの生存と定着の絶好の機会を提供する.反復的あるいは断続的なウイルス排出は,ウイルスに生存上の利点を追加する(例:動物におけるヘルペスウイルス感染).

 5. 宿主による防御を回避する能力.

 動物はウイルスから身を守るために精巧な免疫システムを進化させてきたが,ウイルスも宿主の防御を回避するために同様に精巧なシステムを進化させてきた.ウイルス,特に大きなゲノムを持つウイルスは,宿主による特定の抗ウイルス作用を妨げるタンパク質をコードする遺伝子を持っている.胎仔感染および出生後の持続感染を引き起こす能力は,ウイルスに極度の生存優位性を与える進化を表している(例: 仔ウシにおけるウシウイルス性下痢ウイルス感染,またはマウスにおけるリンパ球性脈絡膜髄膜炎ウイルス感染).

 6. 外部環境へ排出された後も生き残る能力.

 環境的に安定したカプシド構造を進化させたウイルスには,進化上の利点がある.たとえば,その安定性のために,イヌパルボウイルスは出現から2年以内に世界中へ運ばれ,そのほとんどは媒介器物(ヒトの靴や衣類,ケージなど)と共に運ばれた.

 7. 垂直伝播する能力.

 垂直感染を採用し,外部環境に晒されることなく生き残るウイルスは,さらに別の進化を表している.


(16)ウイルスの進化と遺伝的変異株の出現

 ウイルスの生存にとって遺伝的多様性がどの程度重要かについては,明確な説明はない.口蹄疫,インフルエンザ,重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生など,病気の突然の流行を引き起こすウイルスは,多くの場合,大きな関心と注目を集める.ただし,これらのウイルスはいくつかの固有のニッチ(棲処)から出現したものである.集団内に常在する固有のウイルスは,新興感染症または新しい疾患よりも継続的な被害をもたらすことが多い.したがって,ウイルスの進化を理解することは,ウイルス性疾患の出現と地方病の維持の両方を理解するための前提条件である.

 ウイルスは,遺伝的多様性に依存して進化してきた.牛疫,麻疹,イヌジステンパーなどのモルビリウイルスは,遺伝的および抗原的多様性が限られており,感染またはワクチン接種 により長期的な免疫が生成される.このタイプのウイルスは,感受性のある動物集団への継続的なアクセスに依存して維持されており,定期的に流行している.牛疫の世界的な撲滅は,感受性のある家畜へのワクチン接種と組み合わせた適切な衛生管理によって達成された.対照的に,家畜集団で常に蔓延しているロタウイルスなどのウイルスは,遺伝的多様性と短期的な宿主免疫に依存して,その永続性を確保している.

 これらのウイルスは継続的に循環し,免疫学的保護やその他の生理学的および環境的要因の欠如のために,生涯において最も感染しやすい段階で感染した一部の個体にのみ病気を引き起こしている.

 ウイルスはさまざまなメカニズムを通じて進化するが,個々のウイルス株の重要な生物学的特性が単一のヌクレオチド置換によって決定されることはめったにない.むしろ,個々のウイルス株の表現型(ビルレンス,指向性,宿主域など)の違いは,通常,多遺伝子形質として複数の遺伝子によって決定されている.


 ① 突然変異

 動物における生産的なウイルス感染では,いくつかのビリオンが侵入し,多くのサイクルを経て複製され,数百万または数十億の子孫が生成される.このような複製サイクルの間に,ウイルス核酸のコピーエラーが必然的に発生し,突然変異の蓄積につながる.ほとんどの突然変異は,単一のヌクレオチドの変化(点変異)を含むが,いくつかの連続したヌクレオチドの欠失または挿入も発生する.通常,変異ウイルス株は重要な情報を失い,野生型ウイルス株と競合したり,一緒に複製できなくなるため,変異は致死的となることがある.特定の非致死的突然変異が生き残るか否かは,その遺伝子産物の結果として生じる表現型の変化が不利であるか,中立であるか,または突然変異ウイルス株に選択的な利点を与えるか否かに依存している.

 真核細胞における細胞DNAの複製は,エキソヌクレアーゼ活性が関与するエラー修正機構であるプルーフリーディング(校正)の対象となる.核内で複製するDNAウイルスの複製は同じ校正の対象となるため,それらの変異率はおそらく宿主細胞DNAの変異率とほぼ同じである(1回の複製サイクルにおいて約10-8ヌクレオチド).RNAウイルスは,非常に高い遺伝的多様性と急速な進化を示す.これは,結局,自然突然変異率が,1回の複製サイクルにおけるヌクレオチドあたり10-6から10-4の範囲にあるためである.ただし,突然変異率の推定値は,同じウイルスでも,ウイルスが複製する細胞の種類によってかなり異なり,このヌクレオチド置換率は,真核生物のDNAの平均値よりもおそらく100~10,000倍高くなる.もちろん,RNAウイルスの複製中に起こるヌクレオチド置換のほとんどは致死的であり,それを含むゲノムは失われる.ただし,RNAウイルスのゲノムの非致死的変異は急速に蓄積する.


 ② ウイルス進化における準種の概念

 表現型によって特定されているあらゆるウイルス種は,個々の遺伝子型が一時的にしか存在しない,遺伝的に動的で多様なビリオン集団として存在している.ほとんどの個々のウイルスゲノムは,ウイルス集団のコンセンサス配列(または平均的塩基配列)とは1個ないし数個のヌクレオチドが異なるのが普通である.比較的短期間で,特定の変異株が優位に立つにつれて,遺伝子型のドリフトが発生する.長期間にわたる遺伝子型のドリフトは,実質的に異なるウイルスへの進化につながる.M・アイゲン(Manfred Eigen: 1927〜2019)やJ・ホランド(John J. Holland: 1929〜2013)などは,このように多様で急速に変異し,競合するウイルス集団を表すために「準種(quasispecies)」あるいは「擬似種」という用語を導入した.

 準種の進化は,非致死的変異が急速に蓄積する大きなRNAゲノムを持つウイルスで最も顕著であると予想される.実際,知られている最大のRNAゲノムであるコロナウイルスのゲノムには,「遺伝的欠陥」がたくさんある.前述の突然変異率では,おそらくすべてのコロナウイルスゲノムの3000ヌクレオチドのうちの1個が複製のたびに変更される.コロナウイルスのゲノムには約30,000個のヌクレオチドが含まれているため,すべてのゲノムは次のゲノムと少なくとも1ヌクレオチド異なっているはずである.さらに,コロナウイルスのゲノムは,ビルレンスに影響を与える大きな欠失など,他のウイルスより実質的な変異を受ける.このことから,コロナウイルスや他のRNAウイルスは,進化的に重要な期間にわたって病原体としてのアイデンティティをどのように維持できるのか疑問に思われるかもしれない.これらのウイルスが変異して消滅しなかったのはなぜか.その答えが,現在多くのウイルスで広く受け容れられている準種の概念にある.

 ウイルス核酸の複製にエラーがなければ,すべての子孫は同じであり,表現型の進化はない.エラー率が高すぎると,あらゆる種類の変異株が出現し,ウイルス集団は完全性を失う.しかし,RNAウイルスで発生するような中程度のエラー率では,ウイルス集団は,コンセンサス配列を中心とした変異株の隠喩的な「クラウド」に似た,首尾一貫した自己保存型の存在になる.新しい変異株が中心的なマスター配列から集団内に出現し続け,別の変異株が消滅するにつれて,さまざまな方向へ継続的に拡大および縮小することがある.ダーウィンの選択説は,最も極端な変異株の生存を制限し(極端な外れ値は生き残らず),環境への「適合」を最もよく達成するため,「クラウド」の中心近くの変異株を優先させる.クラウドの中心にはゲノムのコンセンサス塩基配列,つまりシーケンシングによって決定された各ゲノム遺伝子座の平均的ヌクレオチド配列がある.しかし,コンセンサス配列は実際には1つのRNA分子として存在しないことがあるが,いわゆるマスター配列は集団で最も一般的なゲノムとして存在している.公開されているほとんどのウイルスゲノムの塩基配列は,多かれ少なかれ,集団全体,クラウド全体のゲノムのコンセンサス配列を代表する多くの生物学的クローンの1つである出発物質のランダムな選択を反映している.


(17)ウイルス間の遺伝的組換え

 2つの異なるウイルスが同じ細胞に同時に感染すると,ゲノム核酸の合成中または合成後に核酸分子間で遺伝的組換えが起こることがある.これは,分子内組換え,再集合,または再活性化の形をとる場合がある.


 ① 分子内組換え

 分子内組換えには,異なるが通常は近縁のウイルス間の複製中の塩基配列の交換が含まれる.これは,おそらくポリメラーゼによるテンプレートの切り替えが原因であり,すべてのdsDNAウイルスで生じる.分子内組換えは,RNAウイルス(ピコルナウイルス,コロナウイルス,トガウイルスなど)でも起こる.例えば,西部ウマ脳炎ウイルスはおそらく,大昔のシンドビス様ウイルスと東部ウマ脳炎ウイルスとの間の分子内組換えの結果として生じたものであろうと思われている.このような現象は,かつて知られていた以上に,RNAウイルスの間で広まっている可能性がある.実験的な条件下では,SV40(ポリオーマウイルス)とアデノウイルス間の組換えという歴史的な発見によって示されたように,分子内組換えは異なるウイルス科に属するウイルス間でさえ起こることがある.

 組換えは,ウイルスと細胞の遺伝物質の間で起こることもあり,少なくとも一部のウイルスでは,ウイルスの進化においても重要である.結局のところ,ウイルスは宿主細胞のほぼ無制限の遺伝子プールにアクセスし,ウイルスの複製と生存に有利な遺伝子を組み込み,利用する能力を持っている.レトロウイルスのゲノム内に細胞遺伝子または「偽遺伝子(pseudogene)」が存在することはよく知られており,同じことが他のウイルスについても発見されている.たとえば,インフルエンザウイルス感染では,細胞プロテアーゼによるウイルスのヘマグルチニンのタンパク質切断は,感染性子孫の産生に不可欠である.ニワトリ細胞(ヘマグルチニン切断を許容しない)でのインフルエンザウイルスの弱毒株の培養中に,宿主細胞の28SリボソームRNAの領域に相補的な54ヌクレオチド(nt)の挿入を含む強毒変異株が単離されている.これは,ウイルスRNA複製中のウイルスポリメラーゼによるテンプレートの切り替えを示唆している.この挿入により,ウイルス遺伝子産物であるヘマグルチニンのコンフォメーションが変化し,細胞のプロテアーゼがアクセスできるようになり,それによって,以前は許容されなかった細胞で感染性ビリオンが生成されたと考えられる.同様に,アスファウイルス科やポックスウイルス科などの大型DNAウイルスには,動物宿主によって産生されるものと同様の免疫調節タンパク質をコードする遺伝子が含まれている.

 分子内組換えによって細胞の情報がウイルスに導入されると,病理発生は劇的な結果をもたらすことがある.ニワトリの発癌性ヘルペスウイルスであるマレック病ウイルスが,余分な遺伝子を持っているために誤分類されていたという発見は,驚くべきものだった.このウイルスはそれまでガンマヘルペスウイルス亜科であると考えられていたが,その理由の一部は,他のすべての発癌性ヘルペスウイルスがこの亜科のメンバーであることであった.その後,マレック病ウイルスのゲノムの塩基配列が部分的に決定されて,それがアルファヘルペスウイルス亜科であることが判明した.このウイルスの発癌性株は,トリレトロウイルスまたはレトロウイルス遺伝子の細胞相同配列から発癌性遺伝子を獲得していた.

 類似の現象は,ウシウイルス性下痢から粘膜病への進行の分子基盤の発見であった.細胞由来のユビキチン(ubiquitin)遺伝子(または他の細胞性塩基配列)がウシウイルス性下痢ウイルスの非細胞病原性株(non-CPE株)の非構造遺伝子NS2-3に挿入されると,それらは細胞変性効果株(CPE株)になる.重篤な疾患である粘膜病は,妊娠の最初の80~125日間に非細胞病原性ウイルス株による感染を受けた胎仔が出生後に持続感染牛となり,そのウシにこのような変異ウイルス(CPE株)が発生した場合に発症する.感染と突然変異のこの複雑なパターンは,仔ウシや,場合によっては成牛において,普遍的に致命的な粘膜病が散発的に発生することを意味している.

 他のRNAウイルスとは異なり,レトロウイルスにはウイルスRNAの複製プールがない.レトロウイルスのゲノムはプラス鎖のssRNAだが,ゲノムRNAがビリオンに含まれる逆転写酵素によってcDNAに転写されるまで複製は起こらず,結果として生じるdsDNAは宿主細胞のDNAに組み込まれる.ただし,マイナス鎖とプラス鎖の両方の組換えは,二倍体レトロウイルスゲノムの 2 つのDNAコピー間,およびDNAプロウイルスと細胞DNA間で発生する.後者の場合,レトロウイルスは細胞の癌遺伝子を拾うことがある.このような癌遺伝子はウイルスゲノムに組み込まれてウイルス性癌遺伝子となり,そのレトロウイルスに急速な発癌性を付与する.


 ② 再集合

 再集合(reassortment)は,ゲノムRNAが1本鎖か2本鎖か,そして,ゲノム分節が少ないか多いかに関係なく,分節したゲノムを持つRNAウイルスで発生する遺伝的組換えの一形態である.再集合は,2分節(アレナウイルス科およびビルナウイルス科),3分節(ブニヤウイルス科),6,7,または 8分節(オルトミクソウイルス科),あるいは 10,11,または12分節(レオウイルス科)のゲノムを持つウイルス科で知られている.これらのウイルス科のそれぞれに含まれる2つの近縁のウイルスに感染した細胞では,分節ゲノムの交換が起き,安定した再集合株が生じることがある.このような再集合は自然界で発生し,遺伝的多様性の重要な要因となる.たとえば,ブルータングウイルスは再集合株であることが多く,弱毒生ワクチン株の遺伝子と類似または同一の遺伝子を含むことがある.


(18)ウイルス性疾患の出現を決定する宿主要因と環境要因

 新しいウイルス性疾患が出現するためには,原因となるウイルスが宿主に侵入し,すべての動物が進化させてきた複雑な抗ウイルス防御を回避して感染する必要がある.病気が発生するためには,必要な宿主,ウイルス,および環境要因が通常一致しなければならない.


 ① 種の壁の跳躍

 ウイルスの遺伝的変異は,新しい動物種またはヒトのいずれかに対して,宿主動物の範囲(すなわち,種特異性)を変更したウイルスの出現につながる場合がある.例えば,ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルスは,おそらく乳酸脱水素酵素上昇ウイルスがマウスからブタへの「種の壁の跳躍」後に派生しと言われている.同様に,アザラシに感染するアザラシジステンパーウイルスは,イヌジステンパーウイルスを排出したイヌから感染したアザラシに由来する可能性がある.A型インフルエンザウイルスは,多くの場合,分節ゲノムの再集合の結果として,種間感染が可能になったウイルスの典型である.鳥からヒトへの新しいA型インフルエンザウイルスの定期的伝播に加えて,ウマインフルエンザウイルスのイヌへの伝播など,他の動物種間で同様の交換が起こることがある.

 ゾーノシスの病原体は動物からヒトへ感染するが,過去半世紀に発見されたヒトの新たな感染症の大半はゾーノシスである.一例は,サル免疫不全ウイルスの遺伝的変異株のヒトへの伝播であり,これはHIVとしてヒト集団に侵入して拡散した.HIV-1とHIV-2の両方が過去100年以内にヒトに発生したと考えられており,HIV-1はチンパンジーから,HIV-2はスーティーマンガベイから伝播したとされる.これらのウイルスは実験的にヒト以外の霊長類に感染するが,病気を引き起こすことはない.他の重要な例には,ヘニパウイルス(ヘンドラウイルスおよびニパウイルス),重症急性呼吸器症候群(SARS)および中東呼吸器症候群(MERS)の原因となるコロナウイルス,ハンタウイルスおよびアレナウイルス,エボラウイルスなどのフィロウイルス,日本脳炎ウイルスやウエストナイルウイルスなどのフラビウイルス,西部/東部ウマ脳炎ウイルスのアルファウイルス,リフトバレー熱ウイルスなどのブニヤウイルスなどがある.多くの場合,ヒトはウイルス感染の自然なサイクルに関与しない行き止まりの終末宿主だが,デング熱,エボラ,A型インフルエンザ,HIV感染などでは,ヒト集団へのウイルスの最初の侵入後もヒト間の感染が続いた.

 コウモリは,ヒトに深刻な病気を引き起こすゾーノシスの原因ウイルスを保有していることが明らかになっている.コウモリはいたるところに生息しており,ヒト集団内またはヒト集団に隣接して共存していることがある.さらに,コウモリは通常,動物から動物へのウイルス感染を容易に行える密集したコロニーに生息している.コウモリからヒトへ伝播するウイルスの例としては,狂犬病ウイルス,リッサウイルス,ニパウイルス,ヘンドラウイルス,SARSコロナウイルス,エボラウイルスおよびマールブルクウイルスなどがある.

 齧歯類は,コウモリと同様に,地球上のほぼすべての地域に生息し,ヒトと共生している.齧歯類は,極東および東ヨーロッパで腎症候性出血熱を引き起こし,アメリカ大陸でハンタウイルス肺症候群を引き起こすハンタウイルスの重要なレゼルボア(保有宿主)である.同様に,齧歯類は,南米の一部の人々にウイルス性出血熱を引き起こすいくつかのアレナウイルスのレゼルボアである.たとえば,ラッサ熱,ボリビア出血熱,アルゼンチン出血熱などである.齧歯類はまた,感染したベクター(マダニや蚊)に刺咬されることによりヒトや他の動物に伝播させることがある一部のアルボウイルス(例: 跳躍病ウイルス,ベネズエラウマ脳炎ウイルス)のレゼルボアとしても機能する.

 鳥類は,多くのゾーノシスの原因ウイルス,最も顕著なのはA型インフルエンザウイルスの重要なレゼルボアでもある.さらに,鳥類は,東部および西部ウマ脳炎ウイルスなどのアルファウイルスや,ウエストナイルウイルスなどのフラビウイルスを含む,さまざまなアルボウイルスのレゼルボアである.ウイルスは,媒介蚊に刺咬されることにより,感染した鳥からヒトや動物に感染する.これらのウイルスの中には,レゼルボアの鳥に病気を引き起こすものもあれば,そうでないものもある.


 ② 環境要因

 生態学的な環境変化は,ウイルス性疾患,特に節足動物によって伝播する疾患の発生と分布を必然的に変化させる.ヒトの活動は,ウイルスとそのベクターの移動を通じて直接的に,また気候変動に対応して人口動態が変化するなどの人為的変化を通じて,都市と農村の境界がますます曖昧になり,家畜生産システムを含むダイナミックな農業が進み,南米の熱帯雨林などで長い間確立された生態系が破壊されたように,間接的に,ウイルス性疾患の分布を変化させ続けている.


 ③ バイオテロ

 新世界秩序は,生物戦争に対する対応の修正をもたらした.核兵器や,規模は小さいが大量破壊の化学兵器と比較して,生物兵器は,比較的容易に入手できると同時に,最大の破壊力を兼ね備えている.動物集団における経済的または生態学的大惨事が,いくつかのウイルスの意図的な使用によって起こることが危惧される.


(19)ウイルス性疾患の監視,防疫,根絶

① 疾病の予防,制御,根絶の原則

 動物の病気およびゾーノシスの防疫,および根絶は,グローバル貿易と絡み合った政治システム(例:欧州連合,北米自由貿易協定,東南アジア諸国連合)の時代において,ますます複雑になっている.同様に,食肉,家禽,乳製品,魚介類,甲殻類,ペットの鳥,観賞魚,爬虫類の国際取引に代表されるように,食品の生産,加工,流通システムもますます複雑に絡み合っている.これらの変化に伴い,病気のリスクに対する社会一般の認識が高まり,動物の健康と,環境保全,食品安全とセキュリティ,動物福祉,およびゾーノシスの制御という関連分野の国際的管理者としての獣医学専門家に対する期待が高まっている.これらすべてには,予防医学の原則が適用される.つまり,監視と昔ながらの調査,および病気の予防と管理が必要になる.

 効果的な予防医学は,地元の開業獣医師,農場,牧場,肥育場,または鶏舎,獣医科診療所または動物保護施設において実施される.この点では,適切な畜産の基本原則,特定の病気の蔓延とその伝播様式に関する知識,消毒,ワクチン接種,ベクター制御の最善の方法は今でもほとんど変わらず適用される.しかし,予防医学の実践を支える科学的基盤に必要な知識の深淵さは急速に進歩している.多くの場合,ウイルス性疾患の予防と制御が,他の獣医学的リスク評価とリスク管理への道を先導している.

 「1オンスの予防は1ポンドの治療に値する」というベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin: 1706〜1790)の名言は,動物ウイルスによる感染症についてこれ以上に適切な表現はない.ウイルス性下痢の動物への水分補給やウイルス性呼吸器疾患後の二次的な細菌感染を防ぐための抗生物質の投与などの支持療法を除けば,家畜,特に生産動物のほとんどのウイルス性疾患に対する効果的ないし実用的な治療法はない.それにもかかわらず,動物の重要なウイルス性疾患の予防,制御,さらには根絶への十分に実証された方法がある.

 ウイルス性疾患の予防と制御は,ウイルスの特性,伝播様式と環境における安定性,病理発生と動物の健康への脅威,生産性と収益性,ゾーノシスのリスクなどに応じて選択された多様な手法に基づいている.生産動物における多くの病原性ウイルスの排除が実践されており,ワクチンも広く利用されている.これは,個々の動物を保護するためだけでなく,伝播の連鎖を断ち切るのに十分な集団免疫レベルを構築するためでもある.衛生学と環境衛生は,犬舎やキャタリー,農場や牧場,および商業養殖施設での消化器感染(糞口感染)を制御するために重要である.節足動物ベクターの制御は,節足動物媒介性ウイルス性疾患の地域的予防の鍵になる.摘発淘汰プログラムは,家畜と家禽の重要なウイルス性疾患を根絶するために使用されている.国や地域へのエキゾチックな病気(海外からの病気)の侵入と蔓延のリスクは,空港や海港などでの規制,検疫,および病気の監視活動によって軽減できる.


 ② 疾病監視

 疾病管理プログラムと規制政策の実施は,疾病の発生率,有病率,および時空間的な伝播様式に関する正確な情報に大きく依存する.ウイルス性疾患の監視は,疾患の発生に関するデータを体系的かつ定期的に収集,照合,および分析することにより,これらの基本的な情報を提供している.その主な目的は,特定のウイルス性疾患が過去に発生しなかった国や地域へのウイルスの侵入など,病気の分布の変化を検出するためである.

 感染症の発生に関するデータの必要性から,「監視伝染病(届出伝染病)」の概念が生まれた.これは,獣医師が動物疾病の発生を地方自治体または国の獣医事を所掌する中央当局へ報告する義務とされるものである.次に,国際獣疫事務局(OIE)などの国際的な合意に基づいて,各国当局は,特定の疾患の発生はもちろんのこと,疾患の疑惑さえも直ちに他国へ通知することが,義務付けられる場合がある.

 多くの国では,届出が必要でない病気に関するデータを収集しており,予防戦略の策定に使用できる有用なデータを公表している.特に,費用対効果の比率とワクチンの有効性の指標を計算できるようになっている.特定の病気の特徴,効果的なワクチンの入手,診断検査の感度と特異性に応じて,多くの国でのオーエスキー病(仮性狂犬病)とブタ熱の根絶など,漸進的な根絶プログラムを計画し,実施している.


 ③ 監視疾病データのソース

 動物の疾病に一般に使用される監視方法は次のとおりである.

 (1) 届出疾患の報告書

 (2) 実験室レベルの監視

 (3) 集団ベースの監視

 監視の鍵となるのは,多くの場合,診断検査獣医師,特に開業獣医師である.1人の開業獣医師は特定の疾患を数例しか診ていないかもしれないが,多くの開業獣医師からの報告書を蓄積および分析して,疾患の発生における空間的および時間的傾向を明らかにすることができまる.特にエキゾチックまたは珍しい動物疾病に対する効果的な監視のもう1つの鍵は,診断検査獣医師と開業獣医師の間で意識を高めることである.

 各国には,データを収集して照合するための独自のシステムがあり,国際獣疫事務局(OIE)などの国際機関が,各国間の情報交換を調整している.ほとんどの国の獣医事当局が使用している病気の発生率に関する情報源がいくつかあるが,それがすべての病気を網羅しているわけではない.

 1. 国あるいは地方自治体の診断研究機関へ提出された情報を通じて評価され,国,地域,および国際機関を通じて,利用できる罹患率および死亡率のデータ. これらのデータの一部は,さまざまな年次報告書や学術雑誌などでも公開されている.

 2. 症例およびアウトブレイク(感染症の突発的発生)の調査からの情報も,多くの場合,診断研究機関および地方自治体および国の獣医事当局に報告されている.

 3. 食肉処理場での屠殺動物,移動動物,センチネル動物(監視用歩哨動物)などについての,臨床的,病理学的,血清学的,およびウイルス学的検査によるウイルスのモニタリング検査.

 4. 節足動物の個体数とウイルス感染率のモニタリング,およびアルボウイルスの活動を検出するためのセンチネル動物のモニタリング.

 5. 特定の血清学的およびウイルス学的調査.

 6. ワクチンの製造と使用についての調査.

 7. 疾病に関する地元メディアの報道内容の調査.

 8. コンピュータサーバー,特別利益団体の通信記録,およびその他のインターネットリソースを列挙する.ソーシャルメディアから入手できるデータの渉猟は,異常な疾病の発生を検出するために広く使用されることが予想される.


 データを収集したら,必要なフォローアップ措置に効果をもたらすに足る速さで分析することが重要である.たとえば,全国的なデータベースから入手できるデータは信頼性が高く,注釈が付けられていることがあるが,多くの場合,数週間または数か月前に収集された情報を反映している.対照的に,地元のメディアの情報,異常を報じるマスコミ報道,および病気に関する個々の報告から収集されたインターネット上の未確認の情報は,疾病の逼迫した流行の最も早い警告を表している場合がある.ただし,そのような情報源は,善意ではあるが誤った情報を提供している場合がある.必要に応じて迅速に行動し,特に地元の獣医師に情報を広めることは,効果的な監視システムの重要な要素である.ただし,人々の不必要な警戒を避けるために注意を払う必要がある.

 

(20)疾病発生の際の調査と行動

 疾病が発生した場合,通常は一次獣医療のレベルが,最初にそれを認識するはずである.ただし,新しい病気が発生したり,新しい環境で病気が発生したりすると,これは必ずしも容易ではない.調査と行動は,「発見から制御までの連続体」とみなされる.この一連の流れには3つの主要なフェーズがあり,それぞれにいくつかの要素がある.


 ① 初期

 異常な病気の発生の兆候があったときの初動調査では,死亡率,病気の重症度,伝達性,遠隔地への拡散などの特性に焦点を当てる必要がある.これらはすべて,流行の可能性と動物集団へのリスクの重要な予測因子となる.臨床観察および診断所見(例:肉眼病理学)は,多くの場合,初期の重要な手がかりを提供する.

 病気の発見:宿主集団における新しい疾病の正確な認識が出発点になる.特定の動物集団で地方病または散発的に発生すると考えられる病気の場合,アウトブレイクは通常,行政獣医師,生産者,所有者と掛かりつけ獣医師によって処理される.エキゾチックまたは流行の可能性があると特定された疾病については,さらなる調査と行動は専門機関に依存する.

 疫学的フィールド調査:病気のエピソードを取り巻く初動調査の多くは,研究機関ではなく,現場および検査室で実施することになる.これが通常の「フィールド疫学(野外調査)」である.

 病因調査:病因となるウイルスの特定は極めて重要である.ウイルスを見つけるだけでは十分ではない.疾病エピソードにおけるその原因となる役割を解明する必要がある.

 診断開発:原因となるウイルスを特定した後,検査室や疫学的調査で使用できる適切な診断検査法(ウイルスまたはウイルス特異抗体を検出)を開発して使用することが困難な場合がある.これには,精度(感度と特異性),再現性,信頼性,および費用対効果の検証が必要であり,特定の疾病エピソードにおける現場での診断の実証検査も必要である.


 ② 中期

 この一連の流れは,「ここで何が起こっているのか」という問ではなく,「私たちはこれについて何をするのか」という問によってリスク管理の一般的な領域へ進んで行く.このフェーズには,調査プロセスの多くの要素の拡張が含まれる.

 焦点を絞った研究:病因ウイルス,感染の病理発生と病態生理学,免疫学,生態学(ベクター,ゾーノシスの自然宿主などの生物学を含む),および疫学についてより多くのことを明らかにすることを目的とした集中研究は,疾病管理の上で主要な役割を果たす.

 訓練,アウトリーチ,継続教育,公教育:これらの各要素には,専門的知識と,疾病発生地域における個別の情況への適応が必要である.

 コミュニケーション:リスクコミュニケーションは,ニュース報道,マスコミやソーシャルメディアなどの適切な手段を活用して,適切な範囲と規模でなければならない.

 技術移転:診断法の開発,ワクチンの開発,衛生,ベクターの制御,および多くの獣医学的ケアでは,必要としている人々に情報と専門知識を伝達する必要がある.これは,国立機関から地域の疾病管理部門への情報伝達について特に当てはまる.

 商業製品または政府調達品:必要に応じて,診断薬やワクチンなどの製造に必要な資金を,研究部門から生産部門へ移算する必要がある.民間企業を巻き込む能力は,国によって,またウイルス性疾患によって異なるが,一般に,民間部門はワクチンの生産を商業化するのに適している.


 ③ 後期

 専門的知識とリソースがますます必要になるにつれて,行動は次第に複雑になる.

 動物の健康管理システムの開発:これには,個体・集団についての迅速な報告システム,継続的な監視システム,および記録と疾病の報告が含まれる.また,施設,設備,備品,輸送などの人員配置と後方支援も含まれる.多くの場合,法律や規則の策定が必要になる.これらは,国や地方自治体により,口蹄疫などの発生を制御するために必要なシステムとして示される.

 特殊臨床システム:場合によっては,検疫による症例の隔離(通常は法的許可と施行が必要),特別な臨床ケア,集団の管理が必要になる.

 公共インフラシステム:場合によっては,新規または追加の衛生管理および下水システム,清浄な水の供給,環境制御,およびレゼルボアとベクターの制御が必要であり,これには必然的に政府または行政機関が関与する.最大規模の感染症の流行には,かなりのリソースが必要になる場合がある.たとえば,国または地域規模で動物の移動を制限したり,摘発淘汰プログラムを実施したりする.また,同様の措置を講じるには,特別に新しい資金と国際機関の関与が必要になることがある.

 もちろん,これらすべてがウイルス性疾患のすべてのエピソードに適しているわけではない.むしろ,深刻な,あるいはエキゾチックな疾病,またはゾーノシスの発生は,通常,最大の対策が必要になる.


(21)ウイルス性疾患を制御するための方策

 ① 衛生学的管理

 集約的な畜産は,ウイルスに汚染されている疑いのある糞便,尿,被毛,羽毛などによる局所環境への蓄積をもたらす.これは,乾燥環境に抵抗性のあるウイルスでは特に問題となる.これを回避するために,集約的な畜産施設では,飼育動物のグループごとに動物舎を空にし,掃除し,消毒する「オールイン・オールアウト」管理システムを運用している.衛生と消毒は,糞口感染(fecal-oral infection)の管理に最も効果的であるが,呼吸器感染症の発生に対する効果は比較的乏しい.空気衛生(air sanitation)を達成するための努力は,特に集団密度の高い集約的な動物生産システムでは,一般に成功しない.


 (1) 院内感染への対処

 ウイルスによる院内感染は,小動物診療に比較して,農場で通常治療する大型動物の獣医科診療ではそれほど一般的ではない.適切な管理により,院内感染の可能性を減らすことができ,獣医科診療所では通常,すべての入院患畜が現行の予防接種を受けている必要がある.診療所は,壁や床を洗い流し,恒久的な備品をできるだけ少なくして,簡単に消毒できるように設計する必要がある.また,悪臭を最小限に抑えるだけでなく,ウイルスのエアロゾル感染を減らすためにも,効率的な換気と空調が必要である.頻繁な手洗いと汚染した機器の除染が不可欠である.同様の方策は,多種多様なウイルス性疾患の爆発的な発生を助長する環境で,多数のネコやイヌが共同収容されている動物保護施設でも必要である.


 (2) 消毒剤の使用

 消毒剤(disinfectant)は,皮膚や粘膜に使用するために設計された化学殺菌剤である消毒薬(antiseptics:体組織を損傷することなく病原体を死滅させる)とは対照的に,無生物の表面に使用するために配合された化学殺菌剤である.汚染した施設や設備の消毒は,家畜の病気の管理において重要な役割を果たす.

 異なるウイルス科に属するウイルスは消毒剤に対する抵抗性が大きく異なり,通常,エンベロープウイルスは非エンベロープウイルスよりも感受性がある.最新の消毒剤はほとんどのウイルスを不活化するが,その有効性は適用方法と暴露時間に大きく影響される.粘液や糞便の厚い層に閉じ込められたウイルスは,簡単には不活化されない.表面を完全に掃除できない場合や,古い木造の建物やウシやヒツジの牧場の柵の支柱や手すりのように,亀裂や隙間に比較的適用しにくい場所では,特に問題がある.標準的な消毒剤の有効性に関する新しいデータや新製品の登場には,消毒剤の正しい使用に関する最新情報へのアクセスが必要である.


(22)節足動物ベクターの駆除による疾病管理

 アルボウイルス感染症の制御は,ワクチンがあれば,その使用に依存することになる.というのは,ベクターは,広い地域で長い期間に活動するので,制御が困難であり,多くの場合,非現実的であるからである.

 しかし,ベクターの個体数(例:蚊の幼虫の数)および広い地域でのベクターの拡散を助長する気候条件の監視は,予防および制御の両方として,局所的なベクター制御の正当性を示している.例えば,北米の一部の地域では,脳炎ウイルスを保有する蚊の個体群の確立を防ぐために,少量の殺虫剤を空中散布しているが,蚊の耐性の増加や環境汚染という問題がある.一部の国では,緊急アルボウイルス制御プログラムの計画を空中殺虫剤散布に基づいて行っている.この方策は,特定の地域でメスの成虫蚊の個体数を短期間で急速に減少させることを目的としている.

 マラチオンやフェニトロチオンなどの有機リン殺虫剤は,米国ではトラック,または低空飛行の航空機に搭載した噴霧器によって生成される微量(短時間作用型)エアロゾルとして送達されている.航空機の荷物置き場と客室に殺虫剤を散布すると,感染しているかどうかにかかわらず,エキゾチック(国外の)な節足動物が大陸間を移動する可能性が減少するという.

 マダニの駆除は,流行地域におけるアフリカブタ熱の制御に功を奏することが証明されている.ただし,放し飼いの動物では制御が困難である.


(23)検疫による疾病制御

 適切な獣医行政と規制基盤がある国では,国境等を越えた家畜の移動を規制することができる.検疫は,多くの動物疾病管理プログラムの基盤となっている.特定の病原体検査(PCRなど)または血清学的検査の有無にかかわらず,検疫は通常,他国から動物を輸入するための要件であり,特定の感染性因子を制御または根絶するために同様の要件が国内で強制される場合がある.

 繁殖用動物や展示動物の国際的な移動が増加するにつれて,病気が国内に持ち込まれるリスクも高まる.航空輸送が登場する前は,通常,輸送期間がほとんどの感染症の潜伏期を超えていたが,もはやそうではない.家畜の価値がますます高まっているため,各国の獣医当局は,畜産業を保護するために,より厳しい検疫規則を採用する傾向がある.一部の国では,一部の動物について完全な輸入禁止を課している.動物を単に隔離し,病気の臨床症状の現れを一定期間観察するという検疫(quarantine)の概念は,中世イタリアで,感染症の疑いがある場合,港に到着した船が貨物や乗客の上陸を保留されていた40日間の期間に因んでいる.検疫は,特定のウイルスへの曝露またはキャリア状態を検出するための広範な検査によって強化されている.検疫での実験室検査は,詳細なプロトコルにより規定されており,国内法によって定められている.

 生きた動物の検疫は,歴史的に多くの病気の侵入を防ぐことに成功してきた.しかし,病気は,動物製品(例:食肉製品からの口蹄疫)やウイルス感染した節足動物(例:ブルータング)によってもたらされる場合もある.また,多くの国が隣国と国境を接しており,ヒトや野生生物の移動を容易に制御できないことも認識しておく必要がある.したがって,各国は,責任ある国際機関である国際獣疫事務局に疾病情況を確認することが期待されている.この組織は,世界中の家畜の病気の報告についての中心的な役割に加えて,診断検査の調和と,動物および動物製品の安全な移動のための国際的に合意された基準の作成にも責任を負っている.しかし,科学的というよりは社会的,経済的,政治的な問題が残っている.たとえば,エキゾチックな鳥の密輸は,ニューカッスル病ウイルスや甚強毒型のトリインフルエンザウイルスを侵入させるのに重要な役割を果たしていることがある.


(24)予防接種による疾病制御

 ウイルス性疾患を制御する前述のそれぞれの方法は,感染リスクを軽減することに重点を置いているが,ワクチン接種は,特定のウイルスによる感染に対して動物に抵抗性を付与することを目的としている.免疫動物は,危険にさらされている集団におけるそのようなウイルスの伝播と永続化に与することがない.したがって,イヌジステンパーやイヌ伝染性肝炎に対するワクチン接種が広く行われている国では,ワクチン接種はリスクのある集団におけるウイルスの循環を減らすことができる.しかし,ワクチン接種の緩和は悲惨な結果をもたらす場合がある.たとえば,1990年代のフィンランドでは,ワクチン接種が減少していたイヌの集団にイヌジステンパーが再出現した.

 動物は,一般的なウイルス性疾患に対して,安全で有効なワクチンを利用できる.それらは,イヌジステンパーやネコ汎白血球減少症など,ウイルス血症を伴う疾患に特に効果的である.腸管または気道に限局する感染症に対して効果的に免疫を与えることは,比較的困難である.

 ワクチン接種は,特定の病気の制御や根絶のためのプログラムにおいて,さまざまな成功を収めながら,広く利用されてきた.たとえば,ワクチン接種は世界的な牛疫根絶の鍵となった.ワクチン接種は,他の病気の制御と併せて,南米とアジアの一部で口蹄疫を予防するために広く使用されている.


(25)動物生産様式の変化が疾病制御に及ぼす影響

 食用動物の管理と生産システムにおける最近の変化は,疾病パターンと制御に大きな影響を与えた.食料と衣料のための動物生産システムは,アメリカ大陸やオーストラリアのように草原を横切ってヒツジやウシが放牧され,あるいはアフリカの遊牧民族によってウシやヤギの小さな群れがサヘルを横断して移動するように,世界中の多くの地域で行われている.ニワトリとブタは何世紀も前に囲い込み,飼育されていたが,それほどではないがウシとヒツジの集約的な動物生産システムが確立されたのは,比較的最近のことである.これらの集約的な単位での動物福祉に対する懸念は,多くの国で伝統的な畜産の再導入につながっている.

 感染症,特にウイルス性疾患は,集約的システムの発展における速度と利益を制限することがある.集約的な動物生産において配慮すべき側面には,次のようなものがある.

 1. 多様な背景を持つ多数の動物を集め,限られたスペースに高密度で閉じ込めること.

 2. 販売のための動物の非同期移動と新しい動物の導入.

 3. 少数の,時には不十分な訓練を受けた職員による多数の動物の世話.

 4. 換気,給餌,廃棄物処理,清掃のための複雑な機械システムを備えた精巧な畜舎.

 5. 1つの動物種に限定した飼育システム.

 6. 人工昼光,発情同調などによる生体リズムの操作.

 7. 事前混合された,消化しやすい飼料の大量の使用.

 8. 衛生状態の改善.

 9. 動物集団の分離.


 ウシの肥育場,養豚場,乾式酪農場,ブロイラー養鶏場などの集約的な動物生産施設では,非常に多くの動物が非常に近接して共存している.これらの情況では,次の3つの結果が生じる.

 1. 地方病(endemic)や日和見感染症の出現と拡大に有利になる.

 2. 非流行性ウイルスの侵入は,そのような集団に大きなリスクをもたらす.多くの農場は,そのような侵入に対して信頼できる障壁を設けるように設計されているが,他の多くはそうではない.

 3. これらの状態は,相乗的に作用するいくつかの感染症を助長し,診断,予防,および治療をさらに複雑にする.


 集約的システムは,動物福祉に関する懸念事項の1つであるが,経済効率が高いため,ウイルス性疾患がこれらの集約的家畜生産システムを変える可能性は低い.それにもかかわらず,病気による損失を最小限に抑え,それによって収量を増やし,コストを下げることによって,これらの生産システムを改善することには大きなメリットがある.主な制約は管理であり,その解決策として,家畜生産に携わる獣医師やその他の動物科学者の訓練と経験に最新の疫学的手法を導入する必要がある.

 多くの国で行われている有機農法と伝統的な家畜の大規模農業の採用の増加により,家畜と他の動物種,特に野生生物(放し飼いの家禽と野生の水鳥など)との相互作用が高まっている.家畜,野生生物,およびヒトの頻繁かつ広範な移動は,特に野生動物が家畜やヒトに伝播するウイルスを保有する地域で,感染症の蔓延をもたらす.これらは,人道的な理由だけでなく,家畜のエキゾチックなウイルスの国際的な移動のリスクのために,国内および国際的な懸念事項である.

 コンパニオン動物の情況はまったく異なる.感染症のリスクは,成熟した年齢の1頭の家庭用イヌ,ネコ,またはポニーと,あらゆる年齢の数百頭の動物が飼育されている繁殖施設(「パピーファーム」)との間で大きく異なる.同様に,動物シェルターは不要とされたネコやイヌに必要な収容所を提供しているが,ストレスを受けた多くの動物を集中的に共同飼育することは,ウイルス性疾患の伝播に好都合な環境となる.オーストラリアと南アフリカにおけるウマインフルエンザのアウトブレイクで示されたように,スポーツ競技,繁殖,および商業のためのウマの移動は,ウイルス性疾患を清浄な地域または国へ持ち込むリスクを大幅に増加させる.


(26)ウイルス性疾患の撲滅

 ワクチン接種のみによるか,前述のさまざまな方法と組み合わせたワクチン接種によるかにかかわらず,疾病管理は,疾病が経済的および社会的に重要である限り維持しなければならない継続的なプロセスである.地方病である病気を根絶させるには,持続的な財政的支援が必要になることがある.ウイルスが実験室以外のどこにも存在しないように,国内で病気を根絶することができれば,その国内での制御手段は不要になり,コストは永久に削減される.ただし,病気の国内への再侵入を防ぐための監視は依然として必要である.獣医行政と畜産業との間の緊密な協力は不可欠であり,それには,疾病根絶プログラムが政治的に承認され,費用対効果およびリスク分析によって正当化される必要がある.プログラムが進行するにつれて,進捗情況(または問題)に関する情報が関係者やメディアを通じて大衆へ直接フィードバックされるようにする必要がある.

 口蹄疫は,多くの国から根絶されたが,以前は存在しなかった国での流行が定期的に発生し続けており,多くの場合,甚大なな経済的損失をもたらしている.1997 年の台湾での発生は,農産物輸出に対するこの病気の影響を鮮明に示しており,この病気の重要性を際立たせた.島嶼であるという地理的な利点を活かして,台湾では 1929 年以来口蹄疫が発生していなかったが,アジア大陸のほとんどの近隣諸国では地方病として存在したままであった.発生前,台湾は日本へのブタ肉の輸出が活発で(年間600万頭),ブタ肉輸出の70%,ブタ肉生産の約60%を占めていた.島内での口蹄疫の存在は当初気付かれず,流行が明らかになると,ブタ肉の輸出をすべて停止し,国際市場が失われた.ウイルスの非常に急速な拡散に寄与した要因には,ブタの密集と,流行が進行するまでの動物と製品の移動の効果的な制御の欠如が含まれていた.廃棄食品の給餌を禁止する法律は存在せず,感染したブタ肉製品が原因で発生したと考えられるいくつかのアウトブレイクが起きた.ブタの殺処分に使用された手順は無秩序であり,おそらくウイルスのさらなる拡散につながった.流行の最初の100日間,毎日約60件のアウトブレイクが報告されていた.

 英国では,最後のその発生から約34年が経った2001年に同様の,しかし経済的にさらに深刻な口蹄疫が発生した.2001年の流行は,1,000万頭以上のウシとヒツジの殺処分につながる危機を引き起こし,英国の農業,観光,経済に壊滅的な影響を与えた.同様に,壊滅的な口蹄疫の流行が,2010年から 2011年にかけて日本,韓国,北朝鮮で発生し,2014年から2015年にかけて韓国で再び発生した.

 これまでのところ,ヒトの疾病で世界的な根絶が達成されたのは,天然痘(痘瘡)だけである.天然痘の最後の病例は,1977年10月にソマリアで発生し,その後1980年5月に世界保健機関(WHO)が,世界的な根絶を宣言した.これには,高レベルの国際協力が関与し,強力で安価で安定したワクチンが利用された.しかし,多くの僻地で必要なワクチン接種率を達成することが不可能だったため,1970年代に流行していた人口密度の高い熱帯諸国からのこの病気の根絶は,集団ワクチン接種だけでは達成できなかった.根絶キャンペーンの最後の数年間に,監視と封じ込めを含む改訂された方策が実施された.現在進行中の症例とウイルスのニッチ(棲処)を積極的に探し出し,「包囲接種(ring vaccination)」(初発家族と,その後,発生地から同心円状に距離が離れる地域の全員に)が実施された.世界的な天然痘根絶キャンペーンは,特にワクチン接種の費用や合併症,悲惨さそしてそして天然痘による死亡は言うに及ばず,天然痘の存在によって必要となる予防接種,空港検疫,その他に継続的にかかる費用を考慮すると,非常に費用対効果の高い方策であった.ポリオを根絶するための同様の世界的な取り組みは,これまで成功を収めていない.この病気は,アフガニスタン,ナイジェリア,パキスタンで依然として地方病として存在している.

 牛疫は,世界的に根絶された最初の動物の病気である.牛疫は,1949年にヨーロッパ大陸から最終的に排除されるまで,ヨーロッパのウシの壊滅的な病気であり,1800年代後半に畜産が導入されて以来,サハラ以南のアフリカでは大惨事を引き起こしていた.1980年代に大規模なウシのワクチン接種プログラムによってアフリカからほとんど排除されたが,地域の紛争と戦争が介入し,プログラムが中止され,最終的な撲滅の前に多くの地域でこの病気が急速に復活した.これらの予防接種プログラムから学んだ教訓,天然痘の撲滅とポリオの制御からの追加の教訓,および効果的なワクチンの入手可能性は,2011年の牛疫の世界的な根絶の成功に貢献した.口蹄疫,ウシ伝染性鼻気管炎,オーエスキー病(仮性狂犬病),ウマインフルエンザ,ウシ白血病,ブタ熱,さらにはウシウイルス性下痢など,世界的に撲滅できる可能性のある動物の病気が他にもある.根絶が最も容易な疾病の原因となるウイルスは,通常,制御不能なレゼルボアを持たず,1つまたは少数の安定した血清型として存在し,感染を防ぐための安全で有効なワクチンを利用できるものである.もちろん,ウイルスが特定の動物集団から根絶されると,その集団はその特定のウイルスの新たな侵入に対して完全に感受性になってしまう.

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