小学1000年生のムカデ
名前も知らないその店に、わたしは三度目の失恋を抱えて入った。
地下鉄の階段を上がってすぐの、古いビルの二階。ガラスのドアには「児童文庫喫茶・千年堂」とだけ書かれていて、絵本のようなイラストが添えられている。前から気にはなっていた。でも、大人が入るにはちょっと勇気のいる店構えで、いつも通り過ぎていた。
その日はなぜか、その少し浮いた感じの看板に吸い寄せられていた。酔ってもいないし、涙も出ていない。ただ、何かをやり直せるような気がして、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ、小学千年生のムカデさんですね?」
カラン、とドアの鈴が鳴るよりも早く、カウンター奥からそんな声がした。
──え?
思わず声を失ってしまう。
店内には木の匂いが漂い、古書の背表紙が詰まった棚が壁を覆っていた。童話、児童文学、昔話。それと、店の名前にもあったように、小学生の頃に誰もが読んだ懐かしい文庫たち。
カウンターの向こうで、静かにコーヒーを淹れているのは、少し年上に見える青年だった。長めの前髪の奥から、まっすぐな眼差しがこちらを見ている。
「えっと……わたし、予約とかしてないんですけど」
「大丈夫ですよ。ここは、必要な人だけが入れる場所ですから」
その言葉が冗談なのか、本気なのかもわからないまま、わたしは店の奥の丸テーブルに案内された。
メニューはなかった。ただ、「今のあなたに必要な本をお出しします」とだけ書かれた札がテーブルの上に置かれていた。
数分後、青年が持ってきたのは、分厚い古びた絵本だった。表紙には金色の活字で、こう書かれていた。
『小学1000年生のムカデ』
「……これ、絵本なんですか?」
「そうです。だけど、中身はほとんど文章です。しかも、恋愛小説です」
わたしはページをめくった。中には、一匹のムカデが登場する。彼は1000年生きていて、小学生をまだ卒業できずにいた。なぜなら、恋をしたことがなかったから。
1000年間、恋とは何かを学び続けてきたムカデは、ある日、人間の女性に出会う。彼女は失恋のあと、山奥の図書館で偶然ムカデに話しかける。言葉を交わすうちに、彼女は少しずつ心を開いていく。
「……こんな話、初めて読みました」
「よかったです。あなたがその本を開いたのは、ちょうど今日が三度目の失恋だから、ですよね?」
わたしは顔を上げて、彼を見た。
「なんで、そんなことまでわかるんですか?」
「僕も、小学1000年生なんですよ。──ようやく卒業できそうなんですけど」
そう言って微笑む彼の瞳には、どこか本当に千年分の歳月が映っているようだった。
話を聞くうちに、彼の「失恋」も、少しずつ明らかになっていった。相手を想うあまり、何も言えなくなってしまう性格。勇気がなくて、ただ、物語のなかで恋を語ることしかできなかった過去。
「でも、あなたが来てくれたことで、ようやく話しかけられたんです。現実の、誰かに」
それはたぶん、わたしにとっても同じだった。これまでの恋は、誰かを想うふりをして、自分を守っていただけだったのかもしれない。
店を出る頃、外は薄曇りだった。
「また、来ていいですか?」
「もちろん。でも、次はあなた自身の本をここに置いてくださいね。題名はもう決まっています」
「……なんですか?」
「『小学1000年生のムカデが恋をした』」
少し照れながら、わたしは笑った。
階段を下りながら、頬が自然と熱を持っていた。物語が終わるとき、それは、始まりの合図でもある。

この作品は、画像、文章とも、すべてChatGPT Plusの生成によるものです。また、以下の企画への投稿作品です。
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