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2040年に向けて、介護事業所は何の受け皿になるのか−地域医療構想から見える、これからの介護経営の変化を洞察−

今まさに、2040年を見据え医療提供体制そのものが、大きく再設計されようとしています。これが介護経営にどう影響するのかを洞察してみたいと思います。

令和8326日、第126回社会保障審議会医療部会の資料1では、「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会とりまとめ」が示されています。

新たな地域医療構想(2040年を見据えたもの)として、2025年以降の人口減少とさらなる高齢化、医師偏在といった課題にフォーカスし、より外来・在宅医療・介護との連携まで含めて再設計する方向が示されています。
つまり、病院の中だけで完結する医療から、地域生活の中で支える医療へと、本格的に移っていくということです。

そしてこの資料は、介護現場に関わる立場から読むと、
介護経営に対する非常に大きな問いかけとして捉えられます。

「あなたの介護事業所は、これからの地域の中で何を担うのですか」


新たな価値、医療と生活をつなぐ力が求められる

まず、介護経営への影響として考えられるのは、
医療依存度の高い利用者が介護現場に増えるだろうことは、
皆さんも気づかれていると思います。

資料では、高齢者救急、誤嚥性肺炎等への対応、入院早期からのリハビリテーション、在宅医療の受け皿整備などが挙げられています。

これは裏を返すと、病院に長く入院するのではなく、必要な医療を受けた後、早い段階で地域・在宅・施設へ戻る流れが強まるということです。

そうなると、介護施設や在宅サービスには、
これまで以上の医療的な観点が求められます。

流れを汲み取ると、治療が安定期に入る前の段階で、
退院を受け入れるということもあるでしょう。
例えば、
CRP(炎症反応)が下がってはいないが、これ以上することがないので介護側で様子を見てください。
治療は終えたので、引き続きお伝えする適切な処置を続けてください。

このように、
今まで完全な治癒期間を病院で過ごしていた方々がその前に戻ってくることが予測されます。
介護事業所も流れに合わせた医療の専門性が求められることになります。

また日常では、
急変を予測する力。
看取りに向き合う力。
服薬管理、栄養、嚥下、リハビリとの連携。
訪問診療や訪問看護との情報共有。
入院するかの判断。
本人や家族の意向を整理する力。

これらの知識や技術を高めていく必要があり、
確かに、すでにできている介護事業所もあります。

しかし大切なのは、
それが一部の経験豊富な職員に頼ることなく、
事業所全体の仕組みとして整えていくことを計画的に進めることです。

つまり、これからの介護事業所に期待されるのは、
医療を全面的に担うことではありません。

しかし上記で説明したレベルの、
医療と生活のあいだをつなぐ力が求られるでしょう。



「在宅医療等連携機能」が示す、介護事業所の評価軸

今回の資料では、医療機関機能の一つとして「在宅医療等連携機能」が示されています。

そこでは、地域での在宅医療の提供に加え、他の医療機関や介護施設、訪問看護、訪問介護等と連携した24時間対応や入院対応が挙げられています。

ここが非常に重要です。

今後、地域の中で評価される介護事業所は、
単に「空きがあります」「職員がいます」というだけでは足りません。

例えば医療機関から見て、
退院してすぐに戻ってくることなく、適切に対応してもらえるかが重要です。
要は24時間対応する装置とみた場合、
どの部分を担っているのかが明確に分かる事業所であるかです。

「あの施設なら医療機関と情報がつながる」
「あの事業所なら退院後の受け皿として安心できる」
「あの法人なら急変時の判断プロセスが整っている」
「あの施設なら家族説明が丁寧で、医療との橋渡しができる」
そう思われる存在になっていくことが重要です。

例えばパンフレットやホームページで
「安心の介護」「医療連携」の抽象的な表現ではなく、
実際に日々の運営の中で、医療と介護の情報がつながり、判断が整理され、家族に説明できる状態になっているかです。

結局は、運営構造そのものの問題につながっていきます。

人口20万〜30万人に一つの急性期拠点とは何を意味するのか

資料では、急性期拠点機能について、構想区域ごとに「人口20万〜30万人に1つを目安に確保」と示されています。

これは、手術、重症救急、新興感染症対応などを担う医療機関を、
一定の人口規模ごとに集約していくという考え方です。

都市部であれば、人口20万〜30万人という圏域は、
車や公共交通で比較的短時間で移動できる範囲かもしれません。

しかし地方では、同じ人口規模でもまったく状況が異なります。

人口20万〜30万人の圏域をつくろうとすると、
かなり広い範囲になる地域もあります。

山間部、半島部、離島、豪雪地帯などを含めれば、
急性期拠点病院までの距離は一気に遠くなります。

私の両親の故郷も、すでに産婦人科と眼科はゼロとなりました。
2次医療圏内にはありますが、住民には具体的な不便が生じています。

その他にも、
救急搬送に時間がかかる。
家族が面会や付き添いに行きにくくなる。
退院前カンファレンスに参加しにくくなる。
高齢の配偶者が病院まで通えない。
介護施設側も、受診同行や情報連携の負担が増える。

つまり、医療機能の集約は、制度上は「効率化」や「機能分化」として語られますが、住民側から見ると、医療への距離が伸びるという現実を伴います。

ここを、介護事業所はかなり現実的に見ておく必要があります。


国も「距離の問題」は前提にしている

たしかに資料でも、
構想区域については人口20万人以上を基本としつつ、地域の実情を踏まえて柔軟に設定するとされています。

さらに、医師偏在対策においても、人口密度、二次救急病院までの距離、離島、特別豪雪地帯などの地理的要素を反映する方向が示されています。

つまり国も、「人口20万〜30万人に一つ」と言いながら、地方では距離や地理的条件が大きな課題になることを前提にしているのだと思います。

ただし、あくまでも前提は、
これからの制度設計が、住民にとっての「近くて便利な医療」を最優先しているわけではないということです。

むしろ、限られた医師、看護師、病床、手術機能をどこに集めれば、
地域全体として医療を維持できるのかという発想が強くなっています。

近くに病院があっても、医師が足りず、十分な救急や手術に対応できなければ、住民を守ることはできません。

一方で、少し遠くても、必要な専門職と設備が整った拠点に集約すれば、医療の質と安全性を保てる可能性があります。

ここから先は、
住民にとっての利便性と、医療提供体制の持続可能性との間に、
大きな葛藤が続くことでしょう。

そして、その葛藤のしわ寄せを最も身近なところで受け止めるのが、
地域の介護事業所なのだと思います。

資料を読んでも、自分たちへの影響が見えにくい

このような国の資料を読んだとき、
多くの介護事業所は「病院再編の話」とだけ受け止めるかもしれません。

地域医療構想。
医療機関機能。
急性期拠点機能。
必要病床数。
医師偏在対策。

言葉だけを見ると、介護事業所の日々の運営とは少し距離があるようです。

けれど実際には、
このような制度の方向性は、数年後の現場にじわじわと影響してきます。

病院が遠くなる。
入院期間が短くなる。
退院後の受け皿が必要になる。
家族支援が複雑になる。
介護職の観察力と判断力が問われる。
医療職との連携が経営上の強みになる。

この変化を早く読み取れるかどうかで、これからの介護事業所の準備は大きく変わります。

具体的には、
・急性疾患のために圏域の拠点病院へ運ばれます。
・治療後は、早期に退院し回復期病院のみならず、施設や在宅へ戻ること 
 も打診されます。
・そもそも、遠方の病院に入院したことで、家族が十分に面会できず、
 退院後の生活方針を決める話し合いが複雑になります。
・同時に、施設側には、遠方の病院との情報共有、退院調整、家族説明、受  
 け入れ準備がスピード感を持って求められます。

今後は、物理的に病院が遠くなる現実は避けれません。
そのような中、介護事業所により求められるのは、
日常の小さな変化を見逃さず、
重症化する前に身近な近隣の医療につなぐ力を身につけることです。

要するに日頃からの健康管理をより精緻にして、
医療の前を走る運営が求められます。


地方の介護事業所は「不便を埋める拠点」になる

現実的に地方では、
急性期医療が集約されるほど、介護事業所の役割は重くなります。

なぜなら、病院が遠くなるほど、住民にとって身近な支えは、地域に残る介護施設、訪問介護、訪問看護、在宅医療、地域包括支援センターになるからです。

もちろん、介護事業所が医療機関の代わりになるわけではありません。

しかし、医療にすぐアクセスしにくい地域では、
介護現場が最初に異変に気づく場になります。

「今日は少し息が荒い」
「食事量が落ちている」
「歩き方が変わった」
「表情がぼんやりしている」
「いつもより眠っている」
「家族の介護力が落ちてきている」

こうした小さな変化を拾えるかどうかが、重症化を防ぐ入り口になります。また、退院後の暮らしを支える場としての役割も大きくなります。

急性期病院で命を救われた後、その人は生活に戻ります。
けれど、生活に戻るということは、単に退院するということではありません。

服薬を続ける。
食事を整える。
転倒を防ぐ。
家族の不安を受け止める。
本人の意欲を支える。
再入院を防ぐ。
必要な医療と介護をつなぐ。

この生活の立て直しこそ、介護事業所が担う大きな役割です。

だから私は、先んじて地方の介護事業所はとくに、
単なるサービス提供機関ではなく、
地域の生活医療を埋める拠点になっていくと思います。

そう、医療機能が集約されるほど、
生活の近くにある介護の価値はむしろ高まります。

遠い病院に行く前に、地域でどこまで支えられるか。
搬送が必要になる前に、変化を察知できるか。
退院後、遠方の病院に頼り続けなくても暮らせる体制をつくれるか。
家族が通えない距離の不安を、地域の連携でどう補うか。

これらは、一つの介護事業所が頑張ってなんとかなる話ではなく、
その地域の医療、介護事業所などが話し合う重要なテーマとなります。


中小介護法人ほど「地域の役割」を明確にしないと厳しくなる

これまでそれなりに経営が成り立っていた介護法人についても、
同じく地域の中で「どこが何を担うのか」をより明確にしていく必要が迫られます。

これからは、何でも平均的にやる施設よりも、
自分たちは何に強いのか、
どのような高齢者を支えるのか、
地域の中でどのような役割を果たすのか、
強みが分かりやすい事業所が選ばれやすくなります。

医療依存度の高い高齢者を受けるのか。
認知症ケアに強いのか。
看取りに強いのか。
退院直後の生活再建に強いのか。
地域の独居高齢者を支える拠点になるのか。
リハビリ、栄養、口腔、服薬管理を含む多職種との共同強化か。

ここを語れることが、経営上の強みになっていくのです。


人材育成も「介護技術」だけでは足りなくなる

この流れは、人材育成にも大きく関わります。

資料では、
医療従事者の持続可能な働き方や人材確保も重要な論点になっています。

限られた看護職員数という現実を抱える介護事業所も同じです。

看護師の教育はもとより、
今後の介護職には、単に業務をこなす力だけではなく、
より高い観察力、判断力、対話力が必要になります。

状態変化に気づく力。
医療職に伝える記録力。
家族に説明する力。
多職種と対話する力。
本人の生活意思を読み取る力。
救急搬送や看取りに関する倫理的判断を支える力。

これらが、これまで以上に重要になります。

つまり、介護職の教育は「知識・技術・手順教育」から、
判断教育・対話教育・観察教育へ移っていく必要があります。

そして、ここはまさに管理者教育の中核です。

現場の職員に「気づいてください」「連携してください」と言うだけでは、
組織は変わりません。

何を観察するのか。
どのように記録するのか。
誰に、どのタイミングで伝えるのか。
家族にはどのように説明するのか。
看取りや救急搬送の判断を、どのように組織で支えるのか。

これらを、組織構造の中で整えていく必要があります。


経営者が今、考えるべきこと

この資料を介護経営の視点で読むなら、
私は次の問いが最も重要だと思います。

自施設は、2040年の地域の中で、何の受け皿になるのか。

高齢者救急後の受け皿なのか。
在宅生活が限界に近づいた人の安心の場なのか。
病院から地域へ戻る人の生活再建の場なのか。
認知症と身体疾患を併せ持つ人を支える場なのか。
家族が遠方にいる方、独居の方、身寄りのない方を支える社会的インフラなのか。

この問いを避けて、これからの介護経営は語れないと思います。

自法人が地域の中でどのような存在であるべきかは、もう決められまたか?


最初の問い
「あなたの事業所は、地域包括ケアの中で何を担うのですか」

本日の話は、
地域医療構想に接続した、施設の存在意義の再定義でした。

あなたの事業所は、
運営会議が稼働率や方法論という内容で終わっていませんか?

経営者であるあなたは、
「この地域で、医療と生活の隙間をこう埋めます」と宣言されましたか?

制度資料に書かれている方向性は、数年後の利用者像、家族の困りごと、職員に求められる力、地域連携のあり方に確実に表れてきます。

だからこそ介護経営者は、
自分たちの地域で何が起きるのかを想像しながら読む必要があります。

私にはこの資料が、『地域医療構想』ならぬ、『地域介護構想』に見えます。

経営者の皆様は、どう思われますか?


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