印象派の後に出会った北欧の光―スウェーデン絵画展で見つけた、もうひとつの美しさ
オルセー美術館展を出て、ふとパンフレットに目をやると、「スウェーデン絵画 北欧の光、日常の輝き」が今日から開催という文字が飛び込んできた。初日。上野にいるのだから、これは行くしかない。
スウェーデンの絵画と触れたことは、これまで一度もなかった。どんな絵が待っているのか、まったく想像もつかない。ただ、北欧といえば、シンプルで温かみのある家具。長い冬を家の中で過ごす人々。そんなイメージだけを頼りに、東京都美術館へと足を運んだ。

印象派とは違う道を選んだ画家たち
展示室に入って、すぐに気づいたことがある。
同じ1870年代、80年代、90年代。印象派と同じ時代を生きた画家たちなのに、スウェーデンの画家たちの絵は、印象派とはまったく違う道を歩んでいた。
実は、スウェーデンの画家たちもパリに学びに行っていた。けれど、印象派のサークルには馴染めなかったという。距離を感じていたのかもしれない。結局、彼らは印象派の技法を取り入れるのではなく、自分たちの「スウェーデンらしさ」を追求していった。

人物はより明瞭に描かれ、構図はしっかりとしている。印象派のような光の揺らぎや瞬間性よりも、もっと確かな存在感。どこか印象派以前の古典的な雰囲気も残しながら、でも確かに同時代を生きている。その独自性が、とても新鮮だった。

カール・ラーションが描いた理想の暮らし
中でも心を奪われたのが、カール・ラーションの《カードゲームの試作》。展覧会のポスターにもなっている作品だ。
豊かなスウェーデンの家の中。木の家具、織物、窓から差し込む柔らかな光。家族がカードゲームに興じる、ごく普通の日常。けれど、その空間全体から溢れ出す、なんともいえない温かさと美的センス。
「ああ、これが北欧のライフスタイルなんだ」
展示の最後には、ラーションが実際に暮らしていた家の映像が流れていた。絵に描かれた通りの、いや、絵以上に美しい空間。彼は絵を描くことで、理想の暮らしを表現していたのだろう。そして、その絵に憧れた人たちが、きっといたはずだ。
今でいう、インスタグラムのライフスタイル投稿のような。100年以上前に、ラーションは絵でそれをやっていた。
北欧ならではの自然と光
室内画が多い一方で、北欧の厳しくも美しい自然を描いた作品も印象的だった。

雪景色、朝焼け、夕焼け、月明かり。湖面に映る光の揺らめきを、木の年輪のようなうねうねとした筆致で表現した絵。

印象派が、都会の喧騒や人々の集う場所をモチーフにしていたのに対して、スウェーデンの画家たちは、草が生い茂る隙間から、人気のない湖のほとりから、自然そのものを見つめていた。
画家ブルーノ・リリエフォシュは、鳥を観察するためだけに、わざわざ村に家を建てたという。そこまでして、自然と向き合いたかった。その情熱が、絵から伝わってくる。
光の少ない国の、もうひとつの真実
展示の中には、精神を病んだ画家の作品も紹介されていた。
日照時間の短い北欧。長く暗い冬。そうした環境が、人の心に影を落とすこともある。美しい光を描く一方で、そんな暗闇とも向き合っていた画家たち。
それもまた、スウェーデン絵画の真実なのだと思った。
印象派の光と、北欧の光
この展覧会は、スウェーデン国立美術館のコレクションから厳選された作品で構成されている。東京都美術館の開館100周年を記念した特別展だ。テーマは「北欧の光、日常の輝き」。
印象派が捉えたのは、パリの都会的な光。カフェ、劇場、ダンスホール、セーヌ川のきらめき。
スウェーデンの画家たちが捉えたのは、家の中の静かな光。朝の食卓、暖炉の火、窓辺で読書する姿、そして雪に反射する冷たくも美しい光。
同じ時代に、違う場所で、違う光を見つめていた人たち。
印象派展の直後にスウェーデン絵画展を見たからこそ、その対比が鮮やかに浮かび上がった。本当に、贅沢なはしご鑑賞だった。
📌「スウェーデン絵画 北欧の光、日常の輝き」
東京都美術館 開館100周年記念
2026.1.27-4.12
スウェーデン国立美術館所蔵
