短編小説 「私と影」
小さな頃に夢を見た。
忘れられぬ夢。
私は風が鋭く流れる草原にブロンドの髪をなびかせ着てただ一人、佇んでいた。
どうしようもない哀しみに打ちひしがれていた。
泣いていた。
涙が溢れ驚いて目が覚めて、ママに言ったんだ。
そしたら、あら…夢でも見たのねって笑われたんだ。
確かに、浴衣は着たことあるけど、西洋のドレスは着たことなかったから。
でも何故かわからないけど、忘れられない夢だった。
そして時は流れ、私は大人になった。
日頃の忙しさにかまけて、そんな夢なんか忘れていた。
仕事で大事なプロジェクトも任された。
寝る暇を削って、それに全てを捧げていた。
ある日、鏡に映る自分をじっと見つめていた。
かなり疲れた顔してるな…。
「帰りたい…」
…えっ?誰?
私は周りを見渡した。
ああ…気のせいか。
あたし最近変よね。
「フッ…」
窓辺に座り夜の明かりを見つめながら、煙草に火をつけくゆらせる。
でもある日、私はとうとう過労で倒れた。
見て見ぬふりをしていた身体が悲鳴をあげていたんだ。
上司が病院にやってきた。
「大事なプロジェクトに穴を開けてしまって…ご迷惑おかけしてすみません」
「ああー、いいんだいいんだ。もう君は…君には少し荷が重かったようだしね。これからはもう少し…違う仕事をしてもらうから。ゆっくりしてればいいんだよ」
ああ…外された。悔しかった。
何のためにこの2年。どんな思いでこのプロジェクトにかかわってきたのか…分からなくなってしまった。
結局、仕事を辞めることになった。
この先どうなるかわからない。
恋人もいないし、一人だし。
あーやっぱり仕事辞めなきゃ良かったかな…。
頭の中をぐるぐるぐるぐる考えは巡る。
「気晴らしすっか」
本屋で何となく惹かれた、とある外国の小さな田舎町に一人で旅に出た。
ただ、違う空気が吸いたかった。
いきあたりばったりの旅。
泣き出しそうな空とはうらはらに、久しぶりに心が晴れる。
見知らぬ土地の初めて歩く石畳の長く続く坂道が
妙に懐かしく、険しかった自分の心がほどけていく。
ああ…ここを知ってる。そんな気がした。
そんな思いに導かれるかのように、長い坂を下りていくと、目の前に荒涼とした大草原が広がっていた。それは記憶の奥に閉ざされていた、幼き頃の夢のあの場所だった。
「ああっ…!」
私は眉をひそめ身体が震え、自然と涙がほろほろと落ちた。
私の中の誰かが小さく呟いた。
「ああ…、やっと…帰って来れた」
「…待たせちゃったね」
とっさにそんな事を呟いた自分に驚いていた。
ふと横を見ると、幼き頃、何度も夢の中に現れた
ブロンドの髪の少女が私を見て立っていた。
優しく微笑んだかと思うと、私に近づいてきて、
私の中に吸い込まれていった。
「…え?」
私は嵐の様に吹きすさぶ荒涼とした丘で、ただ、
佇んでいた。
「ありがとう」
そう心の声が聞こえた気がした。
おしまい
ここまで読んで頂きありがとうございます🍀
今、目の前にいるこのお姉ちゃん、優しそうな顔してるのに、影でとっても意地悪してる。
