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福祉現場の仕事をするうえで必ず知っておきたい補助金のしくみ|認定NPOフローレンス根抵当権問題をわかりやすく読み解く

福祉の仕事は、たくさんの補助金によって支えられています。
現場で働く僕たちは、国や自治体の制度の上に立って、日々の支援を行っています。
でも、その「補助金」がどういう意味を持つのか、どんなルールの上で動いているのか――実はよく知らないまま働いている人も多いと思います。

今回ニュースになった「フローレンスの根抵当権問題」は、まさにそこを突きつけてくる出来事でした。
保育施設を担保にした、という一見専門的な話に聞こえるけれど、
実は「公金の信頼」や「福祉の社会的な土台」に関わる、とても重要な問題なんです。

ニュースだけを見ても、何が悪いのか、なぜ違法なのか、ピンとこない人も多いと思います。
だからこそこの記事では、
福祉に携わる人なら誰でも理解できるように、
補助金の仕組み、公金の意味、そしてこの事件の本質を、順を追って整理していきます。

知らなかったでは済まされない。
公金を扱う福祉職として、僕たち一人ひとりが知っておくべきことを、わかりやすく説明します。



#1 事件の概要:フローレンスの「根抵当権問題」とは

2025年11月、認定NPO法人フローレンスが、自ら運営する保育施設を担保にして銀行から5000万円を借りていたことが報じられました。
この建物は、渋谷区の補助金約9700万円と日本財団の助成金約3400万円――
あわせておよそ1億3000万円の公的資金で建てられた施設です。

問題になったのは、その担保の設定方法です。
行政は「抵当権を設定すること」を承認していましたが、実際に登記されていたのは「根抵当権」。
つまり、補助金で建てた建物を使って“何度でも借り入れができる”状態になっていたのです。

フローレンスは「抵当権と根抵当権の違いを十分に理解していなかった」と説明し、
すでにこの5000万円を銀行に一括返済し、根抵当権を外す手続きを進めています。

けれども、これは単なる手続きミスではありません。
補助金で建てた施設を、行政の承認内容と異なる形で担保にした――
つまり、“公金の信頼”を損なう行為だったのです。


#2 そもそも補助金とは何か

福祉の現場は、さまざまな補助金によって成り立っています。
施設整備、運営費、人件費――多くの活動は、公金の支援があるからこそ動いています。

でも、その「補助金」は“もらえるお金”ではありません。
行政が社会的な目的のために、一時的に資金を託すものです。

たとえば「待機児童を減らしたい」「障害者雇用を進めたい」。
そうした目的のために、税金が使われる。
だから、補助金で作った建物や備品には「自由に使わないでね」というルールがあるのです。

つまり、公金を使った財産は“社会のもの”に近い。
行政の許可なく勝手に売ったり、担保にしたりはできません。
これは、NPOでも、社会福祉法人でも、同じルールです。


#3 抵当権と根抵当権の違い

さて、今回のニュースの肝はここにあります。
「抵当権」と「根抵当権」。
言葉は似ているけれど、意味はまったく違います。


#4 なぜ根抵当権が問題なのか

根抵当権を設定すると、上限額の範囲で何度でも借り入れができ、借金の使い道も自由になります。
これ自体は企業の資金繰りでは便利な仕組みです。

けれども、補助金で建てた施設の場合、話はまったく違います。
それは、建物そのものが“公金による社会資産”だからです。

本来、行政は「抵当権」なら条件付きで承認します。
なぜなら、借りたお金が保育など事業目的に限定され、完済すれば担保も消えるからです。
ところが根抵当権を設定すると、保育以外の事業でも借金ができ、担保状態がずっと続いてしまいます。

つまり、
行政が承認した範囲を越えて、
補助金で建てた建物を“自由にお金を借りるための資産”として使える状態になっていた。
それが「違法状態」と報じられた理由です。


#5 フローレンスの説明と、残る疑問

フローレンスは報道後、「抵当権と根抵当権の違いを十分理解していなかった」と説明しました。
借りた5000万円は、建設時の自己負担分の支払いと、開設前の人件費(職員採用や育成)に使った――
つまり、保育事業の準備のための資金だったとしています。

使い道だけ見れば、“悪用”というほどではありません。
でも、問題は「どう使ったか」ではなく「どういう仕組みで借りたか」です。

根抵当権は、偶然ついてしまうものではありません。
銀行、司法書士、事業者――複数の専門家が関わる手続きです。
契約書、登記簿、行政への申請書。そのすべてに「抵当権」と「根抵当権」は明確に書き分けられます。

だから、「違いを知らなかった」という説明には、どうしても違和感が残る。
誰かが確認を怠った。
もしくは、「資金調達を優先した結果、細かい法的リスクを軽く見た」。
そのどちらかの可能性が高いと思います。


#6 行政・刑事・民事の3つの視点から見た“行く末”

この事件がどこまで広がるかは、「故意だったか」「組織的だったか」で変わります。

行政的な処分(故意がなくても成立)

補助金で建てた建物を、承認内容と違う形で担保にした――
これはそれだけで「補助金の目的外使用」に当たります。

行政処分としてあり得るのは、

  • 指導・改善命令

  • 補助金の一部または全額返還

  • 今後の補助事業の停止・指定取消

フローレンスが早い段階で返済と根抵当権抹消を進めているのは、
こうした処分を軽くするための「是正措置」です。

刑事責任(故意があれば重大)

もし意図的に行政を欺いて根抵当権を設定したとすれば、
「補助金適正化法違反」や「詐欺」「背任」に問われる可能性があります。

ただ、今のところは「故意を裏づける証拠」は見つかっていません。
したがって、刑事事件化の可能性は低い。
それでも、「悪質な認識不足」という評価は免れません。

民事責任(損害が発生したら)

現時点で、直接の被害者はいません。
施設は稼働しており、保護者や子どもたちへの影響は出ていません。
しかし、渋谷区が補助金返還を求めれば、それが民事上の“損害賠償”に近い形になります。

また、仮に施設の運営が止まった場合、
行政が代替保育を行う費用や利用者への不利益が“損害”として扱われる可能性もあります。


#7 何がいちばん問題だったのか

この事件の本質は、
「制度の抜け道を通ろうとした」ことではなく、
“公金を扱うという自覚が組織から抜け落ちていた” ことだと僕は思います。

フローレンスは、単なるNPOではありません。
国や自治体から「公益性が高い」と認められた認定NPO法人です。
寄付をした人が税控除を受けられるのは、その信頼と公益性が保証されているからです。
つまり、社会から“特別な信頼を預かっている立場”なんです。

そんな団体が、補助金で建てた施設を、行政の承認内容と違う形で担保にした――
それは、たとえ「理解不足」だったとしても、社会からすれば裏切りに近い行為です。

さらに言えば、もし悪意をもってこの仕組みを使っていたとしたら、
問題は一気に別の次元になります。
根抵当権を設定すれば、公金で建てた建物を担保に、自由に資金を引き出せます。
つまり、公金を「民間の資金調達の道具」として利用できてしまうんです。

仮にそのお金が、まったく公益性のない事業――
たとえばラブホテル、パチンコ店、風俗産業など――
そういった方向に流れたらどうなるか。
見た目には合法でも、実質的には“公金の私物化”です。

だから制度上、「補助金で建てたものを根抵当権にしてはいけない」というのは、
単なる形式的なルールではなく、公金を守るための“最後の防波堤”なんです。

そしてもう一つ、渋谷区の側にも問題がありました。
承認したあと、実際に登記簿を確認していなかった。
行政のガバナンスが機能していなければ、同じことはどこでも起こり得ます。
この事件は、NPOだけでなく、行政の体制にも“目を覚まさせた”出来事でもあります。


#8 現場の福祉職に伝えたいこと

この事件をニュースで見て、「なんだか難しそう」「NPOの話でしょ」と思った人も多いと思います。
でも、僕はこの件を、“福祉の現場の誰にとっても無関係ではない話”だと感じています。

なぜなら、僕たちの現場も、同じように公金に支えられているからです。
たとえ自分が直接補助金の申請をしていなくても、
使っている建物、備品、給与の一部――そのどこかに税金が入っています。

だからこそ、公金を扱うとはどういうことか、
「これは社会の財産である」という感覚を持つことが、福祉の仕事の根幹なんです。

制度を守ることは、形式ではありません。
それは、社会の信頼を守ること。
一人ひとりの現場職員が、その意識を持って働くことが、
最終的に福祉の力を支えると僕は思います。


あとがき

僕がこのニュースを見て真っ先に思ったのは、
これはフローレンスだけの問題ではないのでは、ということだった。

社会福祉法人、NPO法人、社団法人。
補助金や助成金に支えられた非営利団体は全国に無数にある。
もし悪意をもって根抵当をつければ、公金で建てた施設を担保にして、個人や関連事業の資金を自由に動かすことができてしまう。

これは、技術的にはやろうと思えばできてしまう構造だ。
だからこそ、今回の件を「手続きミス」で終わらせてはいけない。

もし同じような仕組みが他でも使われていたとしたら、
この事件は単なる一法人の問題ではなく、
日本の福祉制度そのものへの不信につながる。

僕は、福祉の現場で働く一人として、
この問題をパンドラの箱だと思っている。
一度ふたを開ければ、似たような構造がいくつも出てくるかもしれない。
でも、だからこそ開ける意味がある。
制度の歪みを、今こそ正面から見つめ直すときだと思う。


※今回からタイトル画像を変えました。
このシリーズのテーマも、できごと、事件や不祥事を通して、
福祉従事者のみなさんに、知っておいてもらいたいことを、
わかりやすく解説していきたいと思います。


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