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shinobuwada
五千円の内訳
居酒屋を出ると、秋の夜気が肌を冷やした。
まだ二十一時。ジュンは眠そうにあくびを繰り返していた。
「おい、もう眠いのか?」
ケンが呆れ顔で言う。
「うん、体感的には木曜の夜だよ」
「まだ火曜だ。週の序盤だぞ」
ジュンは肩をすくめ、大げさにため息をついた。
「二時間飲み放題付で五千円。下戸の俺が飲んだのは三杯。グレープフルーツジュース、ウーロン茶、緑茶。……これで元が取れたと思う?」
「まるで“健康飲料コース”だな」
「健康になったかどうかは怪しいけど、財布は確実に不健康だよ」
ケンは笑い、ジュンはますます口を尖らせた。
「しかもあれ、自腹だぜ?会社の飲み会なのに」
「どこもそんなもんだろ」
「でもさ、“任意参加”って建前のくせに、参加可能日を何度も何度も聞いてくるんだよ。あれはもう“強制”だろ」
「はは、やんわり圧力ってやつだな」
「やんわりじゃない!“社会性徴収システム”だ!」
駅へ続く道に、ジュンのぼやきが響く。
「料理は美味しかったよ。ちゃんと手が込んでた。そこは救い。でも小腹は、まだ空いてる」
「上品なコース料理ってやつだな」
「つまり俺は今、“社会性発揮つき良質食事コース小腹残し五千円”を終えて、眠気に襲われてる」
ケンは声を上げて笑った。
「お前、それもう商品名だな」
「商品じゃない。罰ゲームだ」
横断歩道の信号が青に変わり、二人は歩き出す。
ジュンは目をこすりながら、ぽつりとつぶやいた。
「五千円あったらラーメン五杯食えたな……いや六杯か?」
ケンは肩を揺らして笑い、何も言わずに歩幅を合わせた。
