午後の紅茶とプレゼンと【片思い文芸部】
アイデアは突然、午後の紅茶と一緒にやってきた。
「彼にプレゼンするふりをして、気持ちを伝える」――なんて、滑稽な話。
彼、神崎さんは32歳。父の会社の執行役員で、ブランド戦略を担当する若き切れ者。
感情を表に出さないのに、人の機微をちゃんと読む。部下にも慕われ、社長である父には絶大な信頼を寄せられている。
私は24歳。大学院でブランド戦略を研究中。
父の会社に就職する気はなかった。でも、神崎さんがいる現場を知りたくて、研究の名目で出入りするようになった。
彼には私の想いなんてバレてると思う。
だけど、距離を置くでもなく、近づくでもなく――きっと、まともに受け取る価値はないと思ってるんだろう。
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社内企画の学生プレゼン枠に、私はある言葉をテーマにした。
《あきらめない熱量が、ブランドをつくる》
まるで、恋のスローガンみたいなタイトル。
案の定、プレゼン後、神崎さんが控えめに言った。
「かなり情熱的な内容でしたね」
その言い回しに笑ってしまった。
でもそのあと、神崎さんは珍しく真正面から目を見て言った。
「……情熱は、誰かの人生を左右する力がある。だからこそ、向ける先を選ぶべきです」
それが、やさしい拒絶だとわかった。
彼は誠実な人だ。だからこそ、簡単に私の心に手を伸ばしたりしない。
その日、私はプレゼン資料を破棄し、新しい研究テーマを探すことにした。
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5年後。
私は29歳。海外ブランドの日本展開チームに所属し、国内戦略を担っている。
大手との共同カンファレンスで登壇を終え、関係者ラウンジに戻ったときだった。
少し離れたテーブルから、1人の男性がこちらを見ていた。
「お久しぶりです。立派になられましたね」
白シャツにジャケット姿の神崎さん。37歳になった彼は、今や副社長としてブランド全体の舵をとっている。
昔と全く変わらない落ち着いた物腰。
「午後の紅茶、まだお好きですか?」
彼が笑いながら言う。私はこう返した。
「当時は甘いの命でしたけど、今は無糖派です」
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帰り際、彼から一通のメールが届いた。添付ファイルの名は【提案書】。
> タイトル:「再会から始める共同プロジェクトについて」
> 本文:
> あのときのプレゼン、ようやく受け取れる立場になりました。
> ビジネスか、それとも……ご判断はお任せします。
私はスマホを伏せて、自販機で午後の紅茶を買った。
気づけば、甘いのを選んでいた。
──「彼にプレゼンするふりをして、気持ちを伝える」なんて、滑稽な話。
でも、真っ直ぐに届けた熱量は、
まわり道をしながら、ちゃんと届くべき場所へ辿りつく。
あのときと同じ紅茶の甘さが、今日は少しだけ、違って感じた。
