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The Black Duke in Skyrim 黒公物語 《黒公再臨》編#1    

プロローグ

不思議なことに、雲一つない満天の星空から雪が降り始めていた。
おまけに季節はまだ、夏の終わりであった。

山間のこの村では今年の豊作を感謝し、来年の豊作を祈る村祭りが間もなく終わろうとしていた。
古びた祈祷所では、数百年生きているという噂の村一番の占い師が、村長を前に来年を占っていた。

「おばば、今日はえらく冷えるな。こんなに早く寒くなるのは初めてだ」

「ああ、冷える。こんなに早いのは……200年前に一度あったきりじゃ」

占い師はそう言うと囲炉裏の近くに座り、静かに目をつむり瞑想を始めた。

遠くから山風に乗って、怯えたようなオオカミの遠吠えが聞こえていた。
外はいつの間にか星が消え、雲もない漆黒の空になっていた。

(星がない。雪だけか……)

村長は怪訝な顔で、星も雲もない、雪降る夜空を見回していた。
やがて、占い師がうなり声ともつかない声でぽつりと告げた。

「んんん、来年は、見えなんだ」

「おばば、来年が見えなんだって……おばばも年かね」

村長はちょっとからかい気味に声をかける。

「……おお、大きな城が燃えとる。見渡す限りの大きな城じゃ。……ああ、全部、全部燃えていく」

地の果てまで続く城 燃え墜ちる巨城

占い師の眉間にしわが寄った。

「そんなに大きい城など、どこの城だね……燃えてるって、戦かね」

村長の顔に少し不安と困惑の色が浮かぶ。

「どこかは見えん。先かもしれんし、今かもしれん、過ぎた時かもしれん」

「他は見えるかね。おばば」

村長はごくりと息をのむと、不安げに聞いた。

「ああ、見える。黒い闇。暗く赤い目が見ておる」

占い師が静かに答える。

「この村をかね」

村長は身を乗り出してさらに尋ねた。

占い師はゆっくりと目を開け、揺らめく囲炉裏の赤い炎を目に映したまま、いつもより重たげに口を開いた。

「いや、……世界すべてじゃ」

漆黒と暗く赤い目がやってくる


ーーー

「いやあ、ぬかった、ぬかった」

そう独り言をつぶやきながら、中年の男がおんぼろベッドからゆらりと起き上がった。


イェニ The Black Duke(黒公)

このスカイリムの地ではまず見られることのない、ダンマーの黒肌とも違う黒鉄色の肌と赤い目をしたこの男が、この宿にたどり着いたのは二日ほど前のことだ。

その時の男は、ボロ布のような服をまとい、ほぼ小石しか入っていない財布代わりの布袋をぶら下げ、腰には鞘(さや)を失くした刃こぼれだらけの小刀を佩(は)いているという有り様だった。

「すまぬがの、しばらくここに泊めてはもらえぬか。これでどうじゃ。礼は弾むゆえ」

そう言って男が宿屋のカウンターに置いたのは、道すがら捕まえたのだろう、少し大きめのキジだった。
それを宿代代わりにしようと、必死に頼み込んできたのだ。

「礼は弾む、だって?」

宿の主は、机に置かれたキジと、目の前の怪しげな中年男を見比べた。

「余の帝国の、指定宿にしてしんぜよう。陛下ご指定の宿として、看板に書き記すことを許してやる」

「へー、陛下様ねえ。あんたが陛下様なら、俺は帝国館の支配人かね。……まあ、最近は戦争が近いとかで客も来やしない。いいよ、泊まっていきな。キジは焼いてあんたに出してやる。明日も泊まりたきゃ、臣民のために薪割りの腕もお見せくださいませよ」

目の前のみすぼらしいオヤジを哀れに思ったのだろう。宿の主はそう言うと宿帳に書き記した。

『デカくて変なおやじ一人、雉持参、多分数泊』

薪割おやじ

この正体不明の中年男――名を、イェニ・チェリといった。

黒鉄色の肌と赤い目から、この地の者は彼を「ダンマー」の血を引く一族と思いがちだが、アルトマー並みの身の高さとオーク以上に頑丈そうな巨躯を持つ彼は、実はこの世界の出自ではない。この世界にはいない生き物であった。

いや、生き物であるかどうかさえも確かではない。

“それ”は遥か異世界の住まうものであった。
“それ”の存在が記録された最初は遥か昔のこと。

その世界で王族に仕えるシャーマンが、世界の未来を占う儀式の最中に、水晶に映し出された“光一つない漆黒の世界”と“迫りくる暗く赤い目”を見て恐怖のあまり息絶えるという事件の記録があった。

……そして時を同じくして、チェリはその世界に姿を現していた。

数十年の後に強大な力を得ていたチェリは、自らの帝国を築くため、一族が信奉する女神と王族に対して軍を起こした。
何百年に及ぶ攻防の末、地の果てまで続く難攻不落の王族最後の巨大な居城「エステルゴン」を落城寸前まで追い詰めた“存在”であった。

だが、勝利を目前にした時、何らかの意志の働きか、彼はかの地から忽然と姿を消した。

それからどのような因果があったものか。

かつて200年前のタムリエル――シロディールの地に姿を現した彼は、そこを廃墟と化した。
いよいよ彼の帝国が開幕目前となった時、バルログから奪い取った炎の大剣と、暗闇から受け取ったという漆黒の鎧と、骸骨兵を呼び出す骨壺と、神経痛の薬と、借金の証書と、未使用の〇〇〇のオモチャだけを残し、再び歴史の闇へと消え去っていた。

その後長い間、不届きにも竜の石像で一儲けをたくらんだケチでスケベでろくでもない救世主の伝説として語り継がれていた。

そして今。

戦雲急を告げるこのスカイリムの地に、彼は再び忽然と降り立っていた。
にしても、降り立ち方がへたくそだったのだが。


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