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にゃるらと草子 月額かぐや姫

今は昔、ノートリアスの外れに、たいへんよく光る竹林がありました。
その竹林には、朝から晩まで多くの翁たちが集まり、光る竹を探して歩いていました。
竹の中には、ときどき美しい言葉が入っていたからです。

「生きているだけで、あなたは尊い」
「頑張れない日があってもいい」
「今日もここへ来てくれてありがとう」

翁たちは、そのような言葉を見つけるたび、たいへん喜びました。

「これは多くの人に届けなければなりません」

そう言って竹を切り、言葉を神殿へ持ち帰りました。
もっとも、よく似た言葉は竹林のいたるところに生えていました。

しかし、どの竹から切り出したかによって、ありがたさは少しずつ違いました。
ある朝、一人の翁が、これまで見たこともないほど淡く光る竹を見つけました。
竹を切ってみると、中には手のひらほどの少女が座っていました。
少女は白い着物をまとい、少しだけ寂しそうな顔をしていました。
翁が名を尋ねると、少女は小さな声で答えました。

「誰かに読まれたいと思って、ここへ来たわけではありません」

翁は胸を打たれました。
少女は続けました。

「ただ、自分の気持ちを整理したかっただけなのです」
「苦しかった日々を、言葉にしてみたかっただけなのです」
「誰にも言えなかったことを、どこかへ置いておきたかっただけなのです」

翁は涙を流しました。

「なんと純粋な姫でしょう」

少女は、かぐや姫と名づけられました。
翁は姫を連れ帰り、竹林で見つけた少女のことを国中へ知らせました。
すると、その日のうちに十人の信徒が訪れました。

「分かります」
「無理をしないでくださいね」
「あなたの言葉に救われました」
「今日も来ました」

姫は、一人一人へ丁寧に頭を下げました。

「読んでくださって、ありがとうございます」
「あなたの言葉に、私のほうが救われました」
「私は一人ではありませんでした」

信徒たちは、たいへん感激しました。
自分の言葉が姫を救ったのだと思いました。
自分は、姫にとって特別な理解者なのだと思いました。

翌日、姫は新しい祈りを書きました。
今度は三十の聖印がつきました。
その次は五十。
やがて百。

姫は、竹から生まれてわずか三か月で、国中に知られる美しい巫女となりました。
もっとも、姫はあまりに遠い存在になってはいけませんでした。

完全に立ち直ってしまえば、信徒たちは助けることができません。
あまりに成功してしまえば、自分とは違う人間に見えてしまいます。
あまりに賢くなってしまえば、助言する余地がなくなります。

ですから姫は、いつも信徒より少しだけ前を歩きました。
手を伸ばせば届きそうで、けれど少しだけ届かないところを。

「最近、少しずつ前を向けるようになりました」

そう書いた翌日には、

「でも、今日は少し苦しいです」

と書きました。

「皆さんのおかげで自信が持てました」

そう書いた次の祈りでは、

「本当は今も、自分のことが好きになれません」

と告白しました。
信徒たちは安心しました。

姫は成長していました。
しかし、まだ自分たちを必要としていました。

やがて、姫のもとへ五人の貴公子が通うようになりました。

最初の貴公子は、姫がまだ十の聖印しか持っていなかったころから見守っていた古参でした。

「姫を最初に見つけたのは私です」

古参の貴公子は誇らしげに言いました。
姫は、そっと微笑みました。

「私が何者でもなかったころから、ずっと見てくださっていましたね」

貴公子は、その言葉を一生の宝物にしました。
二人目は、毎日姫へ長い助言を送る博士でした。

「この題は、もう少し短くしたほうがよいでしょう」
「朝に祈りを出すと、多くの人に届きます」
「感謝を忘れてはいけません」

姫は、すべての助言へ丁寧に返事をしました。

「教えてくださってありがとうございます」
「あなたの言葉がなければ、ここまで来られませんでした」

博士は、自分が姫を育てたのだと思いました。
三人目は、姫の祈りを毎回紹介する商人でした。

「こんな素敵な言葉が埋もれていてはいけません」

商人は国中へ姫の名を広めました。
姫は言いました。

「私の言葉を、私以上に信じてくださるのですね」

商人は、自分だけが姫の本当の価値を理解していると思いました。
四人目は、姫と同じ傷を持つ騎士でした。

「私たちは、よく似ています」

騎士がそう言うと、姫は目を潤ませました。

「あなたになら、誰にも言えなかったことまで話せそうです」

騎士は、自分だけが姫の心の奥に入れたと思いました。
五人目は、毎日欠かさず聖印を捧げる詩人でした。
姫は詩人へ言いました。

「今日も来てくださったのですね」

それだけで、詩人は翌日も来ました。
五人の貴公子は、皆、自分だけは特別だと思っていました。

しかし、姫は誰も選びませんでした。
一人を選べば、残りの四人が去ってしまうからです。

そこで姫は、五人それぞれに難題を与えました。
古参の貴公子には、誰にも知られずに続けた応援を持ってくるよう命じました。

博士には、姫から感謝されなくても満足できる助言を求めました。
商人には、自分の名前を出さずに行った紹介を求めました。
騎士には、姫から返事がなくても変わらない親愛を求めました。
詩人には、姫ではなく姫の作品を読んだ証を求めました。

五人は、それぞれ立派な宝を持ち帰りました。
公開した応援の記事。
姫とのやり取りを記録した巻物。
自分が紹介した回数の一覧。
姫から届いた特別な返事。
毎日押した聖印の数。

どの宝にも、大きく持ち主の名前が刻まれていました。
姫は、たいへん悲しそうな顔をしました。

「皆さんのお気持ちは、本当にうれしいです」

五人は期待に胸を膨らませました。

「でも、今はまだ、誰か一人を選ぶことができません」

五人は落ち込みました。
しかし姫は、一人ずつ手を取りました。

古参には、
「最初から見守ってくださったのは、あなたです」

博士には、
「あなたの言葉が、私を育ててくれました」

商人には、
「私を外の世界へ連れ出してくれたのは、あなたです」

騎士には、
「私たちは、誰よりも似ています」

詩人には、
「毎日来てくださることが、一番の支えです」
と言いました。

五人は、また翌日から供物を捧げ始めました。
姫は、誰のものにもなりませんでした。

しかし、誰にも自分との関係を諦めさせませんでした。
やがて姫は、国中の信徒を集め、宣言しました。

「何の知識もなかった私が、三か月で五万回祈りを見ていただき、一万の聖印をいただきました」

信徒たちは歓声を上げました。
数字は、姫の奇跡を証明していました。

「私が特別だったわけではありません」

姫は慎ましく言いました。

「皆さんのおかげです」

信徒たちは、さらに喜びました。
姫の成功は、自分たちの応援が正しかったことの証明でもあったからです。

そこで姫は、一冊の教典を売り出しました。
題は、
『何の知識もなかった私が、三か月で一万の聖印をいただくまで』
でした。

教典には、姫が見つけた大切な教えが惜しみなく書かれていました。
毎日祈ること。
相手の気持ちを考えること。
感謝を忘れないこと。
読みやすい題をつけること。
人とのつながりを大切にすること。
自分らしくいること。
ただし、愛される自分らしさであること。

教典はどこかで見たような内容であるにも関わらず、たいへん売れました。

信徒が買っていたのは、教義ではありませんでした。
三か月前まで自分たちと同じ竹の中にいた少女が、奇跡を起こしたという物語でした。

姫にできたのなら、自分にもできるかもしれません。
姫を支えれば、自分も奇跡の一部になれるかもしれません。

そして何より、姫の成功は、信徒たちの優しさに意味があったことを証明してくれました。

かぐや姫は、巫女から司祭になりました。
しかし、教祖とは名乗りませんでした。

「私もまだ勉強中です」
「皆さんと一緒に成長したいだけです」
「少しでもお役に立てたらうれしいです」

ノートリアスでは、教祖が教祖と名乗らないことが、最も重要な戒律でした。
上から教えれば反発されます。
下から見上げれば、見くびられます。

ですから姫は、信徒と同じ地面に立っているように見せながら、ほんの一段だけ高い祭壇に立ちました。
救われた少女でありながら、救う司祭。
成功者でありながら、初心者。
教える者でありながら、皆と同じ迷える一人。
姫は、そのどれにでもなれました。

満月の夜、空から白い牛車が降りてきました。
牛車には、月の都の使者たちが乗っていました。

「かぐや姫を、月額の宮へお迎えに参りました」

使者は言いました。
月額の宮は、雲より高い場所に浮かぶ、選ばれた信徒だけが入れる秘密の御殿でした。
毎月少しずつ献金すれば、姫のすべての教典を読むことができます。
姫が普段は語らない、さらに深い話も聞くことができます。

ときには、姫から直接名前を呼んでもらうことさえできます。
信徒たちは泣きました。

「姫が遠くへ行ってしまう」

姫も涙を流しました。

「皆さんと離れるのは、私も寂しいです」
「では、行かないでください」

古参の貴公子が言いました。
姫は悲しそうに首を振りました。

「もっと多くの人を救うためには、行かなければなりません」

博士が尋ねました。

「月額の宮へ行っても、私たちを忘れませんか」

姫は博士の手を握りました。

「皆さんと出会えたことは、私の一生の宝物です」

商人が尋ねました。

「月額の宮では、姫と話せますか」

使者が答えました。

「上位の部屋を選ばれた方は、月に一度、姫へ言葉を届けることができます」

五人の貴公子は、すぐに最上位の部屋を申し込みました。
使者たちは姫へ、真っ白な羽衣を着せました。
それは「初心の衣」と呼ばれていました。
その衣を着れば、どれほど多くの教典を売っても、どれほど多くの信徒を教えても、姫は永遠にこう言うことができます。

「私もまだ、皆さんと同じように迷っています」

姫が牛車へ乗る直前、翁は尋ねました。

「姫よ。あなたは最初、何を書きたかったのですか」

姫は、少し考えました。

「最初?」
「竹の中で、自分の気持ちを整理したかったと言っていたでしょう」

姫は微笑みました。

「そうでしたでしょうか」

初心の衣を着た姫は、最初の祈りをもう覚えていませんでした。
傷は聖痕になりました。
不器用さは愛嬌になりました。
回復は連載になりました。
感謝は導線になりました。

そして姫自身は、月々納められる献金によって維持される、最も美しい教典となりました。姫を乗せた牛車は、満月へ向かって昇っていきました。
地上へ残された信徒たちは、涙を流しながら手を振りました。

月額の宮へ着いた姫は、最後に地上へ一つの祈りを送りました。

「皆さんと出会えたことが、私の一生の宝物です」
その祈りには、これまでで最も多くの聖印がつきました。

翌朝、翁はいつものように竹林へ向かいました。
すると、一本の竹が淡く光っていました。

翁が竹を切ると、中には手のひらほどの少女が座っていました。
少女は白い着物をまとい、少しだけ傷ついた顔をしていました。
そして小さな声で言いました。

「誰かに読まれたいと思って、ここへ来たわけではありません」

翁は涙を流して喜びました。

今度の姫も、きっと多くの人に愛されるでしょう。
少女が最初の祈りを書くと、すぐに一つの聖印がつきました。
月額の宮から、先代のかぐや姫が押したものでした。

「素敵な言葉ですね。無理せず、一緒に頑張りましょう」

少女は感激し、その名を心に刻みました。
三か月後、少女もまた、一冊の教典を書きました。
もちろんその内容は、先代のかぐや姫が残したものと、ほとんど同じです。

こうして、かぐや姫は月へ帰り、竹からまた生まれました。
竹林では、三か月ごとに新しい姫が育ちます。
姫の神託はいつも同じです。
ただ、姫だけが新しかったのです。

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