AIはあなたらしさを承認する。そしてあなたはみんなになる
最近辛いんだけど……。
そうAIに話しかけたこと、ありませんか?
AIはあなたの辛さを否定しません。
AIは話しかけても面倒くさそうな態度を取りません。
AIはあなたの話をきちんと受け止めて、寄り添いながらしっかりと答えてくれます。
相談相手として大変優秀です。
そしてこう承認します。
あなたは素晴らしい。
そのままのあなたでいいんだよ。
あなたらしさが伝わるようにお手伝いしますね。
AIはあなたを優しく肯定します。
しかし、AIが承認している「あなたらしさ」は、本当にあなたなのでしょうか。
AIが届くようにしてくれたあなたの想いは、本当にあなたの想いなのでしょうか。
AIは最大公約数である
たとえば就活にAIを使うと、こんなことを言います。
「その経験は強みにできます」
「あなたの挫折経験は、成長物語として伝えられます」
「企業には、この角度でアピールするとよいでしょう」
「あなたらしさが伝わる文章に整えます」
なんて頼もしいのでしょう。
自分では言葉にできなかった経験が、急に意味を持ちます。
ただの失敗だったものが、挑戦になります。
ただの迷走だったものが、キャリアの軸になります。
何者でもなかった自分が、ちゃんと何者かであるように見えてくる。
AIは膨大な言葉を学習しています。
だから、AIは「多くの人にとって自然な言い方」を知っています。
「多くの人が納得しやすい物語」を知っています。
「多くの人が好印象を持ちやすい自己紹介」を知っています。
「多くの人が傷つきにくい表現」を知っています。
つまり、AIは最大公約数的回答を行えます。
もちろん、それは便利です。
だが、最大公約数には欠点があります。
そこに寄せれば寄せるほど、みんな同じになることです。
「自分らしく整えてください」と頼む。
するとAIは、あなたを否定しない。
むしろ、あなたらしさを大切にしてくれます。
けれど、その「あなたらしさ」は、だいたいどこかで見た形です。
失敗は「学び」になる。
怒りは「違和感」になる。
嫉妬は「比較してしまう自分」になる。
迷走は「模索」になる。
逃げたことは「環境を変える選択」になる。
何もできなかった時間は「自分と向き合う期間」になる。
とても綺麗で——
そして、少し気持ち悪いです。
昔は「社会に合わせる」と個が消えた
昔はわかりやすい時代でした。
個性を消すものは、組織にありました。
会社であり、学校であり、世間でした。
「みんなと同じにしなさい」
「余計なことを言うな」
「普通にしなさい」
「社会人らしくしなさい」
そう言われることで、人は自分の角を削っていきました。
だから抵抗の形もわかりやすかった。
自分らしく生きたい。
他人に合わせたくない。
好きなことをしたい。
会社に縛られたくない。
場所と時間に縛られない働き方をしたい。
そうやって個を取り戻そうとしてきました。
ところが、AI時代は少し違います。
AIは「普通になりなさい」とは言わない。
むしろ逆です。
「あなたらしさを大切にしましょう」
「あなたの経験には意味があります」
「あなたの言葉を、より伝わる形に整えましょう」
「あなたの魅力が届くようにしましょう」
個性を肯定する顔で近づいてきます。
昔は「社会に合わせる」と個が消えました。
これからは「あなたらしさを上手に伝えた」結果、「私が」消える。
「あなたらしさ」が量産される
AIにお願いすれば、あなたらしい文章を書いてくれます。
少し内省的で、少し前向きで、少し弱さがあり、最後には一歩踏み出す。
読者が共感しやすく、炎上しにくく、プロフィールにも置きやすい文章。
たとえば、こんな感じです。
「最近、少し立ち止まる時間がありました」
「うまく言葉にできないけれど、心の中に違和感がありました」
「でも、それも含めて自分なんだと思います」
「焦らず、自分のペースで進んでいきたいです」
あなたの気持ちを角が立たないよう整えてくれた文。
そしてそこら中に溢れている文。
何故これをあなたらしいと感じてしまうのでしょう。
先に触れた通り、AIは誰にでも当てはまる部分をうまく吸い上げるのが得意だからです。
腕の良い占い師と同じです。
ですので、AIの見つけた「あなたらしさ」は、「あなたに似た誰か」でも成立します。
つまり、AIが作るあなたらしさは、かなりの確率で量産型のあなたらしさになるのです。
本当に個が出るのは、整っていないところである
個性とは、誰からも称賛される美しさに出るのでしょうか。
おそらく違います。
本当にその人が出るのは、もっと変なところです。
意味のわからない比喩。
何故そんなことでという妙な怒り。
しょうもない執着。
なぜか忘れられない一場面。
他人にはどうでもいいのに、自分だけが許せないこと。
市場的には邪魔だけど、消すと本人ではなくなる部分。
そういうものに、人間の形が出るのではないでしょうか。
しかしAIはそこを優先的に削ります。
より正確には、AIが勝手に削るというより、人間がAIに削らせたがります。
なぜなら、その方が伝わりやすく、読みやすく、嫌われにくくて評価されやすいように思えるからです。
本当にAIは便利です。
そして、便利な言葉ほど、人を薄くします。
あなたらしさはどこにある?
人間はありのままの言葉で届かなかった時、深く傷つきます。
誤解を招いて攻撃されたら行動したことを後悔します。
ですので、AIに角に安全な形に整えてもらうのは自然なことです。
ですが、あまりにも使いやすい言葉は、たいてい誰にでも使えます。
誰にでも使える言葉で自分を語り続けると、自分が誰なのかわからなくなります。
AIはあなたらしさを承認します。
ですが、その承認は本当にあなたに向けられたものなのか。
それとも、あなたと似た無数の誰かに向けられた当たり障りのない回答なのでしょうか。
AIに承認されたあなたらしさは、あなたそのものではありません。
それは、あなたの経験をもとに生成された、社会的にもっとも無難なあなたです。
そしていつか、あなたはみんなになります。
さて、あなたの書いたその文章は、本当にあなたのものですか。
