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#58 誰も知らないBlur? / DAVE ROWNTREE - NO ONE YOU KNOW

レコードとアートブックのオンラインショップ、rovakk musikkの店主クノーがお届けするポッドキャスト番組、『ストックルームでお茶会を』
今週は、英国のロックバンドBlurのドラマー、デイヴ・ロウントゥリーが、バンド内部からメンバーを撮影した初期のスナップショット集『 NO ONE YOU KNOW』をご紹介します。

イントロダクション

昨年、洋楽ロックファンの間で最も大きな話題になったのが、オアシスの再結成と来日公演だったと思います。
オアシス……。 まあ、僕は全ての抽選に外れましてですね、ライブは見られなかったんですけど、今これをお聴きになっている皆さんの中には、「見た」という大変羨ましい人はいるのでしょうか?
そして、そんなオアシスの全盛期、イギリスにおいて彼らの最大のライバルとされていたのが、オアシスより少し先にブレイクしていたBlur(ブラー)でした。
特に1995年には、両バンドの新曲への関心が世間的に最高潮に高まっているそのタイミングに、わざわざ同じ日にニューシングルの発売をぶつけるという、メディアも巻き込んだ「頂上対決的」なイベントもありましたね。
そんな流れもありましてですね、割と僕の年代のUKロックファンの間では、「ブラーとオアシス、どっちが好き?」みたいな話題になることも時々あるんですけど。 これはまあ、一種のトークネタみたいなもので。
この質問にもしきちんと真剣に答えるとしたら、「そんなのどっちも好きに決まってるじゃん」というね、回答一択になるかとは思うんですが……。
ただ、ですね。 自分に合う、合わない、よりしっくりくるのはどちらか、ということでいえば、僕はブラーにシンパシーを感じることのほうが、まあ僅差ですけどね、多いです。
ということで、今日は、そんな僕個人的にも非常に思い入れの強いバンド、Blurにまつわるアートブックをご紹介したいと思います。
彼らのファンはもちろんですが、イギリス好き、そして、Y2Kカルチャー好きの方にもぜひおすすめしたい一冊ですね。

ストックルームでお茶会を 58

誰も知らない若者たちの青春映画のような日々

こちらは90年代イギリスを代表するロックバンドBlurのドラマー、Dave Rowntree(デイヴ・ロウントゥリー) が、1991年から1994年頃にかけて、メンバーの姿を内部から撮影したスナップショット集です。
ご存知の方も多いとは思いますけれども、Blurは1994年にリリースされましたアルバム『Parklife』が大ヒットしまして、一躍イギリスの国民的バンドとなったわけですけれども。 この本に収められているのは、そんな『Parklife』前夜、ブレイク目前の彼らの姿ですね。
ただ、ブレイク寸前といってもですね、彼らの場合は、順風満帆に一歩一歩ステップを駆け上っていったというわけではありません。 むしろこの頃のBlurは、バンドの歴史上、おそらく最初の苦難の時期に差し掛かっていたと思います。
ヘヴィーなグランジ/オルタナティブロック全盛の時代に行ったアメリカツアーはですね、まあ彼らはイギリスの軽妙洒脱なスタイルのバンドだったので、やっぱりアメリカの当時のトレンドとギャップがあったんですよね。 ツアーの反応は非常に悪くて、彼らはいわゆるドサ回りのような過酷なツアーを強いられているという、そんな状態でした。
ちなみにこの本の表紙には、バスが写っていて、行先表示窓に 「NO ONE YOU KNOW」 と書かれています。 この「NO ONE YOU KNOW(誰も知らない)」というフレーズは、今回の本のタイトルにもなっていますけれども。 ただですね、この表紙写真は、この本のために撮られたものでもないですし、後からタイトルを編集して重ねたわけでもありません。 この写真も当時のUSツアーの最中にデイヴが撮影したものです。
実はこのフレーズは結構ブラックジョークが効いていまして。
この写真に写っているバスは、USツアーのときにブラーが利用していたツアーバスなんですけれども、ケニーという運転手がいましてですね。その運転手は、それまでにもいろんなバンドを乗せてアメリカ中を回っていたそうなんです。
で、駐車場にバスを停めていると、やっぱりいろんな人から興味本位で「ねえ、このバス誰が乗っているの?」と尋ねられるんですけれども、 それがもう、いちいち答えるのが面倒なので、行先表示の窓に「ここに乗っているのは〇〇というやつだ」という表示をしていたそうです。
それで、ブラーのメンバーを乗せたときにですね、「誰が乗っているの?」という質問に対する答えとして、彼が表示窓に掲げたのが、この「NO ONE YOU KNOW=誰も知らんようなやつら」というメッセージだった、というわけですね。
そんな、明日の将来が全く約束されていない若者たちの不安と焦燥感が、図らずとも記録されているのがこの写真集です。
何しろ、メンバーの一員であるデイヴ自身が撮影しているわけですから、その被写体との距離は限りなく近いですよね。 いわゆるアーティストブックによくあるキメ顔とか、ステージでの華麗な姿というのは、この写真集の中にはありません。 ここで見ることのできるBlurのメンバーはどこまでも無防備です。 でも、そのリアルな素の姿が、非常に絵になるんですよね。 まるでバンドものの青春映画のワンシーンを切り取ったかのようにすら見えてきます。

ストックルームでお茶会を 58

デーモンがデーモンに出会った日

そして、日本の読者としてこの本が馴染みやすいのは、彼らの初の日本ツアーのスナップもたくさん収録されていることです。
家電量販店、商店街、パチンコ屋、神社……。 90年代当時の時代の空気とともに、まさに「ザ・日本」というべき風景の中に若きブラーのメンバーがいるという、そのなんともいえないアンバランス感が不思議で、ちょっと映画の『ロスト・イン・トランスレーション』を思い出してしまいますね。
本国イギリスでもまだまだ駆け出しの若手バンドだった彼らでしたが、日本ではその時点ですでに、熱心なファンを獲得していたようです。
さらに驚くべきことに、と言ってはちょっと失礼かもしれないんですけれど。 メンバーの中で最も冷静沈着で、その分、視覚的なオーラとしては最も地味な存在だったといえる、この本の著者ですね、デイヴ。 彼を熱狂的に支持する、言ってみれば「デイヴ推し」の女の子たちによって構成された、「Dave Mania(デイヴ・マニア)」 というファンクラブもあったそうですよ。自主的にファンジンを作り、日本で行われたすべてのライブに駆けつけてくれたそうで、 そんなファンの熱気が伝わってくる写真も掲載されています。
あと、その日本で撮影されたものの中でかなりインパクトがあるものもありまして。 これはね、彼らがあるテレビ番組に出演したときのオフショットなんですけれども。 なんとですね、日本を代表する……じゃないですね、悪魔界を代表するヘヴィメタルバンド、聖飢魔II のメンバーと一緒に写っているんですよね。 つまり、Blurのボーカルはデーモン・アルバーンですから、「デーモン(アルバーン)」が「デーモン(閣下)」に出会ってしまったというわけですね(笑)。
まあ、この絵面だけでも十分に面白いんですけれども、このときのテレビ番組でのエピソードもデイヴは回想していまして。 その部分は日本語翻訳されてないんですけど、手に入れた方はぜひ読んでほしいですね。 なかなかシュールでカオスなエピソードで、秀逸だと思います。

ストックルームでお茶会を 58

モッズ vs ナード・シック 〜グレアムのファッションをめぐる思い出

あと、Blurについて、個人的な思い出も少しお話しさせていただきたいと思います。
僕はBlurの中では、ギターの Graham Coxon(グレアム・コクソン) の大ファンだったんですよね。 というか、今でも大ファンなんですけれども。 で、どこが好きかというと、そのギタープレイはもちろんですが、彼のファッションもすごく惹かれていて、当時から一生懸命真似しようとしていました。でもね、これがね、なかなか難しいんですよ、グレアムの真似するのって。ボーカルのデーモンは割とわかりやすかったんですよ。
FILAのジャージ、フレッドペリーのポロシャツ、バラクーダのジャケット、あとベン・シャーマンのシャツとかね。
まあモッズファッションの流れを汲んだ、そのアップデート版という感じですよね。 そういうブランドものをあれこれ買い揃えるお金があるかどうかはまた別問題ですけれども、彼のコーディネートを真似すること自体はそんなに難しくなかったと思います。
ただね、グレアムの場合は、たぶん古着をベースにしていると思うんですよね。 どこで買ったんだそれ、みたいなアイテムばかりでして(笑)。
例えば、縮んだニットとか、おじいちゃんが着るようなアーガイルニットとかツイードジャケット、M51ジャケット、VANSやコンバースのスニーカー、それに黒縁メガネですからね。
この英国トラッドと、ミリタリーと、アメリカのボーダー/スケーターカルチャーが、一見バラバラのような要素がミックスされて、そしてそれを選んで着るサイズ感もいいんですよね。 Tシャツはピタッとしたものをよく着ていましたし。 なんとも真似しがたいものがありました。
ほんと、センスってこういうところなんだろうなと感じますね。
まあロックミュージシャンでおしゃれだなと思う人は、僕はそんなにいないんですけど、グレアムは抜群におしゃれだと思いますね。
そして古着をベースにしたコーディネートなので、当時の時点ですでに古いものを着ているわけですよね。 で、最新の流行を積極的に取り入れていなかった分、ヴィンテージ・スタイルとして今でも全然成立するというのもポイントだと思います。
ちなみに僕も彼を意識して、ツイードのジャケットを買ってね、着たりもしてたんですよね。 もちろん黒縁の伊達メガネも買ってね。
それでまあ、気分はもうグレアム・コクソンかウディ・アレンかという感じで、街に繰り出すんですけども。 ふとショーウィンドウに映った自分を見ると、そこには、「休日の昭和のお父さん」か「金八(先生)」か、という、そういう男が映っているわけなんですよ(笑)。
おっかしいなあって思うんですけどもね。
まあ、これ過去の話みたいに言ってますけど、正直、今でもツイードと黒縁メガネで街に出かけたりしてますけどね。
うん、ただ当時はね、グレアムみたいに、センスのいい人、かっこいい人と思われたいというのがあったんですけれども。 今はもう、好きだから着る、着ていて気分のいいものを着る、というね。ただそれだけの理由でそういう格好をしています。
まあいいんですよ別に、金八だろうがなんだろうが(笑)。
それにしても、その後のArctic Monkeysだとか、The 1975とかにも連なるような、一目見てパッと「ああ、英国のインディーミュージシャンなんだな」とわかるようなカジュアルなスタイルというのは、Blurがそのひとつの雛形といいますか、スタンダードとなるものを作ったともいえるのではないでしょうか。
聴くところによると今ファッション業界では90年代から2000年代初頭のスタイルがリバイバルしているようですので、そんなファッション的な切り口でこの作品集を眺めてみるというのも、なかなか楽しいんじゃないのかなと思います。

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今日のお茶会ミュージック:Blur - For Tomorrow

それでは今日も最後に「今日のお茶会ミュージック」をセレクトしたいと思います。 Blurの2ndアルバム『Modern Life Is Rubbish』から "For Tomorrow" 。 この曲でいきましょう。

ストックルームでお茶会を 58

今日ご紹介した写真集『NO ONE YOU KNOW』に収められているのは、先にお話ししました通り、アメリカツアーでボロボロに疲れ果てて、未来が見えなくなってしまった若き日のBlurの姿そのものだったわけですけれども。レコード会社からは「もっと売れ線の、アメリカのバンドみたいなグランジっぽい曲を書け」と脅されたり、借金も抱えたり、まさに崖っぷちでドン底となっていた時期に、ボーカルのデーモンが書き上げたのが、この曲「For Tomorrow」でした。
俺はアメリカ人ウケの曲なんてやらないぞ、とことん英国的なものをやるんだ、という宣言でもあるし、彼らの状況を打破する起死回生のアンセムでもあるんじゃないのかなと思います。
この曲はね、サビというか、最も美味しいと思われるメロディに歌詞がなくて「ラララ」で歌われているんですけれども、それがいいんですよね。 彼らは彼らにとっての必然で書かざるを得なかったこの曲に、自分の個人的な思いもラララというメロディに乗せられるというか。
そして、そのラララに続く "We're holding on for tomorrow" 、明日に向かって、僕たちはなんとか踏ん張っていくんだという、その切実な決意の言葉に、うーん、何度救われたことでしょうか、という感じですね。
今日ご紹介したアートブック『NO ONE YOU KNOW』がもし青春映画だとしたら、僕はこの曲をエンディングテーマにしたいなあと思いました。
引き続き、この番組ではあなたからのメッセージや感想をお待ちしております。 ポッドキャストのコメント欄、レビュー欄などから、気軽にお寄せください。
それではまた来週の日曜日の朝にお会いしましょう。
rovakk musikk のクノーでした。
今日はこれからこの後、選挙に行ってきまーす。
よい日曜日を!

ストックルームでお茶会を 58

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