見出し画像

鉄響の民、天を喰らう 【序章 西暦567年ブハラ】

ブハラの風は鉄を熱するふいごの風のように熱く、重苦しい。
室点密(イステミ)は、遠く離れた異国の風に故郷の原風景を見いだした。
違うのは、その風に舞い上げられた砂の匂いだ。
故郷の乾いた風はいつの季節も、果てしなく続く草原の匂いを運んできた。

「可汗、出陣の手はずは整っております。」
「そうか。」
⋯兄上、とうとうここまで来た。
見ているか。


目を閉じると、在りし日の兄の声がすぐそばに聞こえた気がした。
『我ら一族は四方に勢力を伸ばし、この世の全てを我が手中に収めるのだ』

西方の脅威であったエフタルを討てば、兄が思い描いた帝国の地図は完成する。
踏み鳴らす足音は異国の地を揺らし、指揮を高める時の声は天を震わせる。



「可汗、お下知を。」
室点密は愛馬の腹を蹴って一歩前へ出ると、腰の曲刀を抜き放ち、ぎらつく陽光をその刃に反射させた。
居並ぶ将兵一人ひとりの目を射抜くように見渡す。
「これより先、我らが進む道に敵はない。兄上が夢見た地平の果てまで、この風と共に駆け抜けようぞ!」
「応!」
将兵たちの咆哮が大地を揺らした。
「全軍、前進せよ!」
室点密の怒号を合図に太鼓が鳴り響き、黒い鉄の鎧に身を固めた突厥の兵たちは一斉に敵兵めがけて走り出した。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集