小学5年生が泣きながら単身イギリス留学した話|第11話〜日本から届いた80個のカップ麺とMidnight Feast〜
※これは1995年、今から約30年前の話です。まだインターネットも携帯電話も普及していなかった時代、英語を話せない10歳の私が、イギリスで奮闘した日々を綴ります。
前回の話はこちら⬇︎
バリッ
ボリッ
バリバリッ
暗い部屋に響く、何かを砕くような不気味な音。
バリッ
バリバリッ
一か所からではない。あちこちから聞こえてくる。
何かの骨を砕く音…?
壁を壊す音…?
いや、これは魔女や幽霊ではない。
伝統的なボーディングスクールの中に響くその音…
それは…
小学生がカップラーメンを乾麺のまま、丸かじりする音だ
もちろん最初は、お湯を入れて食べようとした。しかし、お湯が手に入る時間は限られている。イギリス料理に馴染めなかった私は、毎晩お腹がペコペコだった。
そこで洗面所の蛇口のお湯を入れてみた。
3分待った。
硬いままだ。
5分待った。
まだ硬い。
10分待った。
ただの硬い麺と、ぬるいスープが完成した。
そのうち私は気づいた。
最初から乾麺のまま食べればいいのではないか、と。
最初は私の奇行に引いていた同室の子どもたちも、すぐに真似をし始めた。
普段はバナナですらナイフとフォークで上品に食べるイギリスのお嬢様たち。
…しかし、深夜には乾麺を丸かじりする。
それほど日清のカップラーメンは美味しかったのだ。
ありがとう、日清食品さま。
イギリスでカップラーメンが発売される前にカップラーメンを流行らせたのは私です。
しっかりマーケティングしておきました!
お礼?いやいや、そんないいですよ!
でも住所が必要だったら教えてください。
一年分くらいあっても困りません。
ちなみにこのカップラーメン、父から送られてきたものだった。
私がコレクトコール(相手が電話代を支払う方法)で両親に電話した際に、お腹空いていると伝えたら大きな段ボールで届けてくれた。
その数、80個。日本からの救援物資のようだ。
「ドラッグストアでね、イギリスにいる娘に送ってあげたいからあるだけくださいって言ったら驚かれたよ、ハッハッハッ」
また豪快に笑っていた。娘の自慢話に店員さんを付き合わせていないかなと不安になった。
大丈夫です、娘はwater please は言えなくても洗面所の水を飲み、お湯がなくても乾麺をかじり、いじめられたら中指を立ててしまったこともありましたが、元気です。
魔女のキキ風に言ってみたけど、松任谷由美の曲が流れたところで放送できない内容だ。
お父さん、ごめんなさい。
夜中のカップラーメンはやめられない。どうやらそれは世界共通らしい。
ボーディングスクールには消灯時間がある。寮母さんが見回りをして、電気を消していく。しかし、小学生にとって消灯時間とは、
パーティー開始の合図

英語でMidnight Feastと言うらしい。
私のイメージでは、昔、絵本で読んだねずみが人に隠れて宴会を繰り広げるシーンに近かった。
枕元には懐中電灯をセットする。寮母さんの足音が完全に消えた頃を見計らって、そっと布団から顔を出す。懐中電灯をつける。
そして、お菓子やカップラーメンを持ち寄っておしゃべりをしたり、ピローファイトを始めたりする。
少しでも足音が聞こえたらダッシュでベッドへ戻らなければならない。逃げ遅れたら命取りだ。Midnight Feastの必需品である懐中電灯は没収される。
ギィーー
ドアがきしむ音がした。
見回りだ。
早くベッドに戻らなければ。
そのときだった。
私の手から懐中電灯が滑り落ちた。床に転がったまま、明かりがついている。でも拾っている時間はない。
Flashlight !
懐中電灯!誰か拾って!そう言いたかった。
私は当時、この和英辞典を穴が開くほど読み込んでいた。懐中電灯もちゃんと調べていた。

フラッシライト。
だが、誰にも通じなかった。みんな困惑していた。
Flashlightってなに? なに言ってるの?
もう隠れて!!!ベッドに戻って、早く!!
ガチャッ
ドアが開いた。
みんな一斉に布団を頭からかぶる。私も必死に寝たふりをした。布団の隙間から少しだけ様子をうかがう。
すると、私が落とした懐中電灯が床で堂々と光り続けていた。
これ誰の?
もう消灯時間はとっくに過ぎてるの、いいかげんにしなさい!
これは私が預かりますからね!
こうして私の懐中電灯は没収された。
後になって知った。イギリスで懐中電灯は Flashlight とは言わない。
Torch
と呼ぶのだ。
レインボー和英辞典は、この日も私を裏切った。
(英語力ゼロの私が生き延びられたのは、この辞書のおかげです。出版してくださった皆さま、文句を言ってすみません。ありがとうございます。Sincerely yours, ハリ・ポタコ)
次回、進級テストを白紙で提出!校長室に呼び出された小学5年生の運命は?イギリスのお菓子事情とともにお送りします。
つづきはこちら⬇︎
第一話はこちらから⬇︎
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