フラグメント/5月第3週
「インスタのストーリーがダサいと、それだけで萎えるよね」
「…だよねー」
「でも好きだったんでしょ?」
「うん、めっちゃ好きだった」
という会話が電車の中で耳に飛び込んできた。
今の20代はストーリーのセンスだけでふられるのか。絶対に写真が上手くて、動画も上手くないとダメな時代を生きる若者たちは大変だ。
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ロスタム・バトマングリの新譜American Storiesをずっとリピートしている。
アメリカーナ+彼のルーツであるイラン音楽+バロックで、心地良くアーシーなのに革新的で、かつちゃんと確信的な“移民二世として自分のアメリカ物語”になっているところがいい。サズとペダル・スティールの音の不思議な融合、あるいはそれぞれが主張する感じ。シャイな歌声は哀愁を帯びて温かい。ロスタムがボーカリストとして覚醒した!と言いたくなるほど。
相変わらず向こう岸にポール・サイモンの「グレイスランド」を感じさせるが、かつてはサイモンと同じ文脈で外側からアフロ・ポップ・サウンドを取り入れていた彼が、自分のルーツに向かい合ったと思うと感慨深い。
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ジェミニを使って調べ物をしていたら、「2010年の5月にニューヨークのハウジング・ワークス・ブックカフェで開かれたThe Believerの音楽号のリリース・パーティで、作家のメアリー・ゲイツキルがダーティ・プロジェクターズとザ・ナショナルズのデズナー兄弟の即席バンドをバックにカトリーナ・アンド・ザ・ウェーヴス「Do you want crying」をフォーク・バラード調に歌った」というとんでもない嘘をついてきた。
これは2009年にハウジング・ワークスのThe Believerイベントでダーティ・プロジェクターズとビョークが共演したことと、他のトピックスを勝手に組み合わせているのかと問い詰めたら嘘を認めた。多少こちらに知識がないと生成AIは本当に危険である。猛省を促しといた。美しいストーリーを勝手にでっち上げないように。
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この時、私が調べていたのは、2009年のブルックリン・ブック・フェスティバルでジョナサン・レセム(リーサム)と登壇したメアリー・ゲイツキルがDas Racistの「Combination Pizza Hut and Taco Bell」をラップして会場を大いに沸かせたという事件である。
「社会は時に荒唐無稽なものを受け入れる」という文脈の話で出てきたということだったが。当時は彼女がフックをラップする動画もネットで見られたが、今は削除されている。みんな、ネット上の情報は儚いぞ。
この件に関しては、後にメンバーのヒームズが(この時はまだ重要なカルチャー・ソースだった)Village Voiceに書いている。「俺は普段、南アジア系の作家しか読まないが、これはクールなことだって聞いている」
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Village Voiceとヒームズといえば、この組み合わせはニューヨークの未来に大きな影響を与えたのだ。
大学時代、ゾーラン・マムダニはヒームズの大ファンだった。かつてのTwitterに「ヒームズさん、今度のライヴはいつですか」「オフィシャルサイトにドネイトしました! Swet Shop Boysの新しいEP🔥🔥🔥」といった普通のファン・メッセージを書き込んでいる。
そう、マムダニのヤング・カルダモンとしてのラッパー活動はヒームズにインスパイアされたものだった。
マムダニのヒームズ憧れ芸人ぶりはここで終わらない。
2015年、マムダニ青年はVillage Voiceでヒームズが彼のクィーンズの幼なじみであり、南アジア系ムスリムの弁護士アリ・ナジミ(Ali Najmi)の市議会議員選挙を熱烈に支援しているという記事を読む。
「俺の推しが推している人を、俺も推す!」そう決心したマムダニは早速アリ・ナジミの選挙事務所へ向かい、ボランティアとして戸別訪問や電話作戦に参加することにした…これこそがマムダニが政治活動に足を踏み入れたきっかけだったのである。
ちなみにヒームズと共にSwet Shop Boysをやっているリズ・アーメッドは、マムダニの母ミラ・ナイールの映画「ミッシング・ポイント」(2012)に主演している。撮影時、ロンドンに拠点のあったリズはニューヨークのミラ・ナイール邸に宿泊していて、マムダニ少年とは一時期寝食を共にした仲で兄貴的な存在だったそうだ。当時のリズはメガ・スターになる前で、インディ系ラッパーとしてのキャリアの方が主だった。2人の南アジア系ラッパーが未来のニューヨーク市長を育んだのだ。
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ジェミニが役に立つこともある。私は常々「古本の中でページがチョコレートのような甘い匂いになるものと、すえたような酸っぱい、カビくさい匂いになるものの違いは何か」気になっていた。
この本が分解される過程で放出する揮発性有機化合物(VOCs)に関しては、科学の世界で分析が進んでいるらしい。
チョコレートやバニラみたいな匂いは木材に含まれる「リグニン」という有機高分子(植物の細胞壁の主成分)が原因で、リグニンが長い年月をかけて酸化・分解されると、バニラの香りの主成分である「バニリン(Vanillin)」という物質に変化するそうだ。同時に、植物の繊維(セルロース)が分解されることで、杏仁やアーモンドのような甘い香りを放つ「フルフラール(Furfural)」も発生。ローストされたコーヒー豆やカカオ豆も、もともとは植物の種子であり、分解される過程でこれらと全く同じ化学物質(バニリン、フルフラール、安息香酸など)を生成するため、人は古い本の匂いにチョコレートやコーヒーの風味を感じるのだという。
(ジェミニに答えてもらい、かつ自分で裏を取らなかった知識は伝聞調にしておく/ただしコピーペーストはしない)
そのため、19世紀の半ばから20世紀にかけて作られた、木材パルプを主原料とする大量生産の紙(洋紙)を使った本は甘い匂いがする。そういえば、安手のペーパーバックの古本の匂いは甘い。
一方、湿っぽく酸っぱい匂いは紙の酸性度と微生物の繁殖から来ている。19世紀から1980年代にかけて、紙のインクの滲みを防ぐために用いられていた硫酸バンドという薬品が問題だ。これが水分と反応して内部から酸を生み出し、紙自体をボロボロに自滅させてしまうのだという。この過程で、酢の成分である「酢酸」や「ギ酸」が大量に揮発するため、すえたような酸っぱい匂いになる。更にセルロースや脂質が劣化すると、古い物置や土を思わせる、やや青臭くカビっぽい匂いの「ヘキサナール(Hexanal)」が発生。
かつ日本の古い和書や風通しの悪い場所で保管された本は、製本時に使われた植物性の「澱粉糊(ねり)」や動物性の「膠(にかわ)」が湿気を吸い、目に見えない微細なカビや菌類を繁殖させてしまう。
「ギルモア・ガールズ」でローリーが吸い込む本の匂いは前者であって、後者ではない。
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