EUとユーロが生んだ構造的矛盾
そもそも、フランスを含む多くのEU加盟国が抱える混乱の背景には、ユーロ導入の構造的な問題がある。
ユーロは、経済力の強い国と弱い国を一つの通貨圏にまとめることで、経済の安定や成長を実現できると期待されていた。つまり、ドイツのように経済的に強い国と、経済的に弱い国を同じ通貨で運営すれば問題が解決すると考えられたわけだ。
しかし現実は違った。
貧しい国がドイツの資金を自由に使えるわけではなく、EUには財政規律が厳しく求められる。赤字や債務が一定水準を超えないようにする規定があり、加盟国は独自の財政・金融政策を自由に行えない。
例えば、EUの安定成長協定(Stability and Growth Pact)では、政府赤字をGDP比3%以内に抑え、債務を60%以内に制限するルールが定められているが、フランスは2025年現在、これを大幅に超過しており、赤字率が6%近くに達している。これが市場の不安を煽り、フランスの株式指数CAC40が1.4%下落するなど、ユーロ全体の価値下落を招いている。
この制約が、フランスの首相や政府の短命化、そして国民の不満に直結している。
つまり、政策の自由度が低い中での緊縮策が国民生活を直撃し、政治的混乱を生んでいるのだ。2025年10月の首相辞任は、この財政危機が政治的不安定を加速させた典型例であり、EUの第二位の経済大国であるフランスの債務問題がユーロゾーン全体の脆弱性を露呈している。
■ EUの制度と戦争の意外な関係
さらに、ウクライナ戦争の背景にも、この構造的問題が影響していると言える。
EU加盟国は「EUへの参加」というにんじんを追ううちに、財政・軍事面で制約を受けながらも戦争に巻き込まれる状況が生まれた。
貧しい国がドイツの資金を無制限に使えない仕組みのため、EU全体の維持には政治的・軍事的な犠牲が伴う。実際、EUの財政ルールは防衛支出の増加を制限するが、2025年7月に15カ国に対して柔軟性を適用し、赤字限度を超える防衛投資を許可したものの、投資プログラム全体への例外は認められていないため、ウクライナ支援の規模が限定的になる可能性が高い。
すでに英国はEUを離脱し、フランスでもEU懐疑派の政党が支持を伸ばしている。フランスの国民連合(RN)のような極右政党は、2025年の選挙で投票シェアを拡大し、EUの財政制約を批判する声が強まっている。このままではEU自体の統合が維持できず、ウクライナ支援が限界に達する可能性もある。
つまり、戦争の犠牲者が増えている本質には、EU制度の構造的制約があるのだ。ヨーロッパ全体でナショナリズムの高まりが、伝統的な中道政党の支持を崩壊させ、EUの結束をさらに脅かしている。
