長沢祐弥というキーパーの話
2021年の2月下旬だったか。
サッカーJリーグの東京ヴェルディを応援している私と湘南ベルマーレを応援しているRさん(女性)と食事をしていた。
「いよいよ今年もJリーグの新しいシーズンが開幕するねー」と話をしつつ、お互いに応援しているチームの状態をあれこれ話して盛り上がる。
「この中でカッコいい選手はいますか?」
今年のヴェルディに何名か新しい選手が加入。
比較的、爽やか風な顔が好みの彼女に購入したばかりの選手名鑑の本を見せてみる。
佐藤 凌我や新井瑞希、山本理仁あたりを選ぶかな、と勝手に予想していたが…まじまじと名鑑の選手写真を見た彼女が指差したのは意外にもキーパーの選手だった。
「長沢君!彼、ヴェルディに加入したんですね!」
RさんはJリーグだけでなく、高校サッカー選手権もよく見に行く程のファンであり長沢選手が在学していた藤枝東高校が大会に出ていた時に試合を見て注目していたという。
「彼、かなり上手いですよ!絶対、ヴェルディの力になってくれますよ!」
その時は「へーそうなんだぁ」と心の中で思っていたが、彼女の先見の明があると後々、思い知ったのだ。
いざ、国立競技場での一戦
2026年3月14日。
ヴェルディは国立競技場で浦和レッズとも試合に臨む。
国立競技場が改修された後で、まだ勝利を挙げていない、2連敗中なので連敗は避けたい、怪我人が続出するという不安要素を抱えて試合の日を迎えた。
フィールドプレイヤーよりも先にウォーミングアップするのはゴールキーパーの選手。
ヴェルデイのキーパー二人が姿を見せると、向こうの浦和サポーターからブーイングが飛ぶ。
今日はいつもよりレッズのサポーターが少ないなーと言われつつも、集団の声の圧力は半端ない。
この雰囲気の中、試合に出るとなると間違いなく緊張するだろうに。
常に試合に出ているマテウスが前節の試合で負傷交代したため、メンバーーから外れる。
この日のゴールマウスを守るのは長沢 祐弥選手であり、控えに入るのは高卒でプロ入りした3年目の中村 圭佑選手。
いつもなら「マテウス、頼むぞー!」、「ヴィド、クリーンシート達成だー」など、マテウスに向けた言葉が飛んでくるが、この日は違う。
長沢に対する声が一層、飛んでいた。
特に「長沢、落ち着いてやれよ!」という声。
長沢本人からしたら「いつも、落ち着いているよ。」と言いそうだが。
だがしかし、この日の長沢は実に頼もしかった。
・最後まで集中を切らさずにDFの選手たちに細かく指示して相手のシュートコースを消す。
・むやみに細かくビルドアップをせず、前線の選手に向けてロングボールを蹴る、その精度も◎。
・確実にボールをキャッチする、パンチングの判断を誤らない。
派手なスーパーセーブはなくても0に抑えることを成し遂げて勝利立役者になれた。
この試合のマンオブザマッチに染野と共に長沢が選ばれたのも本当に良かった。
「長沢が報われて良かったなぁ。」
この日はそう思ったヴェルディサポーター、ファンがほとんどだろう。

※試合開始前の集合写真撮影でMJSの是枝代表が長沢選手に対して、発破をかけていたシーンを見れたので、思うところがあったのだろう。
どうせなら勝利のヴィクトリーメッセージ(お立ち台)も任せても良かったのに。
でも、2021年に加入してから彼がここまで長くヴェルディでプレーするとは誰も予想しなかったはず。
本記事では自分の記憶を引っ張り出して、長沢選手について書いてみた。
2021年
長沢選手がヴェルディに加入したのは2021年。
当時は正GKにマテウス選手、第二GKに長く在籍しているベテランの柴崎選手、新人の佐藤久弥選手が登録されていた。
マテウス選手にコンディション不良があれば柴崎選手が試合に出るというのがセオリーで殆ど出場機会は訪れず。
柴崎選手も第二GKとしての経験が豊富で、「正GKに何かあっても柴崎がいるから」で済んでいた。
最も、それが長く続いたのも事実。
だが、出番は突然来るもの。
アウェイの秋田戦で長沢選手は陽の目を浴びた。
決定的なシーンは少なく、むしろ失点シーンが目測を誤った様子。
2022年
柴崎さんが去り、長崎から高木和選手が加入し4人体制。
当時の堀監督がマテウスを起用せず(この理由は今でも謎)、高木和選手が開幕スタメンを勝ち取り、長沢選手は控えになる。
なかなか勝てないようになると、長沢選手にチャンスが訪れるが出た試合は全て失点。
負けは一度もないものの…
6月より監督が城福さんとなり、ブラジル代表のトレーニングにも参加したマテウスが正GKを担う事になった。
だが、意外にも控えには多く試合に出ていた高木和選手ではなく、長沢選手が帯同することになっていた。
このあたりから、変化が起きていたようにも思える。
2023年
高木和選手がいわきFCにレンタル移籍して、新たに大卒の新人である飯田雅浩選手が入団。
ヴェルディの下部組織出身、高校や大學サッカー界で名を馳せた選手であり、声の威圧感が段違いだった。
その勢いもあってか前半戦は飯田選手が第二GKとして帯同することが増えた。
この年の天皇杯の試合も出たのは飯田選手。
正直、このままだと今季限りで切られてしまうのでは…
老婆心ゆえにそう考えている自分がいた。
だが、後半になると長沢選手は再び第二GKとして入るようになった。
試合日に配布されるプログラムにも「コンディションがとても良い状態になっている」というコメントが載り練習試合も見ていたファンも「動きが格段に良くなっている」と評していた。
2024年
出場はルヴァンカップと天皇杯に限られたが、初のクリーンシートも達成。この年の公式戦全てに帯同しているというのも彼の信頼が厚いこと証明している。
しかし、リーグ戦の出番はなかった。
2025年
この年もリーグ戦の出番は0。公式戦全てにメンバー入り。
天皇杯とルヴァンカップで出場しAC長野パルセイロ戦ではPK戦までもつれ込むものの、2本止める活躍を見せた。
J1相手となるアルビレックス新潟との試合で鋭い低空パスを披露したり、決定的なシーンで好セーブを披露し見事に0に抑えた!
しかし、ルヴァンの準々決勝 柏レイソルとの試合ではパスミスを通じて失点しまい敗戦。
これ以降、カップ戦でもマテウスに出番が回るようになったのは本人からしたら悔しかったに違いない。
キーパーの宿命
サッカーにおいて、キーパーのレギュラー争いは最もハードで激しい…
試合に出れるのはたった一人のみであり、基本的に正GKが固定化されてチームは出来上がる。
控えのキーパーは来たるべき、その瞬間(試合に出る)のために日々の練習に取り組み、虎視眈々と準備するのだ。
もし、ポジションを奪うチャンスが来るならば、以下のタイミングが挙げられる。
・正GKにケガやアクシデントが起きて出番が来る。
・監督が交代して、キーパー陣が横一線の争いとなり出番が来る。
・連敗、連続の失点が重なり、守備や戦術のテコ入れを兼ねて出番が来る。
・試合で致命的なミスを犯してしまい、出番が来る。
・日々の練習試合などでアピールし、実力で出番が来る。
・複数のキーパーが負傷したことにより、急遽、別のチームからオファーを受けて移籍し、出番が来る。
そして、ここでアピールしないとレギュラー確保とはならない。
正GKが負傷から戻ってきたら、また控えに戻ってしまうのはよくある話。
プロの世界なので、新しくチームに別のキーパーが加入する事もあるし、契約満了を告げられる…
10年以上プレーしたが公式戦に一度も出られずに現役を引退した選手だっているのだ。
だが、フィールドプレーヤーと比較しても選手寿命が長いポジションでもある。
30歳を越えてから試合に出る機会を得る選手もいるし、それこそ40歳を越えても続けている選手だっている。
大器晩成という言葉が当てはまり、チャンス次第で大いに可能性が変わるとも言える。
この日、対戦した浦和の西川選手は600試合に出場した経験があり、今年で40歳を迎えるが、トーンダウンする様子は全くなさそうだった。
京都サンガF.C.の太田岳志選手は、かつてヴェルデイに2年間所属していたが1度も公式戦に出る機会に恵まれなかったが、30歳半ばで今や守護神として活躍するようになった。
マテウスのケガがそれほど重くないという情報もあるので、ここからの連戦でのアピール次第で長沢の未来は変わってくる。
ゴールマウスに立ち続けるか、ベンチに座るか…
でも、どの立場でも彼は手を抜かずに力を尽くしてくれるハズだ。
いつ、出番が来てもいいように常に準備をしているから。
おまけ
少年時代の長沢選手の記事を発見。
この時代には珍しく、キーパー専門スクールにも通っていたのか。
http://tscob.web.fc2.com/yuya/yuya_U16-2012.jpg
目標にしているのは日本代表のレジェンドでもある楢崎正剛さん。
常に安定感を備えており、シュートストップも万全。
浦和戦の長沢選手が安定感を持ってプレーしたのは言わずもがな。
解説者の林陵平さんが自身の著書で「個人的に、ピンチを迎えたり、失点したりした際に周囲の味方を怒鳴り散らしているタイプは少し不安に見える。」、「一番後ろにいる選手だからこそ、どっしり構え、責任を押し付けるどころかむしろ周囲を励ましているタイプの方が信頼できる。」と述べている。
※浦和戦後、冒頭に出ていたRさんにメッセージを送った。
長沢選手の活躍ぶり、5年以上もの努力が実って報われた事を。
彼女はとても喜んでくれた。
「祐弥王子の活躍は嬉しいけど…ところで馬渡さんは最近、どうですか?」
湘南でプレーしていた馬渡選手についても言及した。
そうだ、彼もまだヴェルディに加入してからまだ、公式戦に出ていないのだ。
若手の中村選手もそう。
彼らもここで終わるわけにはいかない。ここから切磋琢磨してゴールマウスに立とうとするのだ。
ヴェルディはマテウスしか良いキーパーがいない?
いや、そんなことは無いぞ。
ちなみ長沢選手はプロ入りしたのは当時J3のアスルクラロ沼津。
ここでプロデビューしたのだが、それはスタメンのキーパーが負傷した事により、途中出場。
2021年にヴェルディで初出場したのもマテウス選手のアクシデントより途中出場。
J1での初出場(アウェイ鹿島戦)も途中出場であり、2024年も天皇杯の試合で途中出場あり。
途中出場がこうも起きるのは何の巡りあわせだろうか。
でも、こうした状況を経験しているからこそ、常に冷静で淡々とした姿勢で試合に臨めているのかもしれない。
長沢チャントの原曲。Aviciiのthe nightを選曲した人に幸運が訪れますように!

