パールズのゲシュタルト療法に驚愕した!(2)
前回の記事では、ゲシュタルト療法に関するパールズ自身の短い解説と、そこに対する補足を書きました。この記事から、いよいよセッションの中身です。クライアントのグロリアは30歳の女性で、「自分がどうも愚かに見えてしまう」ことをテーマにすることを選んだようです。
なお、訳文に「偽物」というキーワードが頻繁に出てきますが、これは「phony」を訳したもので、「何かを演じている」という意味合いになります。
セッション冒頭
セッション冒頭から、既に怪しい雲行きです(笑)。始まって数秒でこんなになることはないと思いますので、事前の打ち合わせの際に、既に何かあったのかもしれません。
フレデリック・パールズ: 30分ほど面接をしましょう。
グロリア: もう怖くなってきました。
フレデリック・パールズ: 怖いと言いながら笑顔ですね。どうして同時に怖がって笑えるのか理解できません。
グロリア: そして私はあなたのことも疑っています。でもあなたはよく分かっていると思います。私が怖くなると笑ったり、隠したりすることを知っているはずです。
フレデリック・パールズ: この録画への恐怖がありますか?
グロリア: 分かりません。あなたのことばかり意識してしまって...私は怖いんです...あなたがとても直接的な攻撃をしてきて、私を追い詰めるんじゃないかと怖いんです...もっと私の味方でいてほしいです。
フレデリック・パールズ: あなたは「追い詰められる」と言いながら、頭を胸に付けましたね。何が欲しいんですか?
グロリア: そうですね...ええ...怖いんです...分かりますよね?
フレデリック・パールズ: どこに行きたいんですか?...その追い詰められたい隅っこを説明できますか?
グロリア: はい、完全に守られている後ろの隅っこです。
フレデリック・パールズ: 私から安全な場所ということですか?
グロリア: ええ、でも本当にそうじゃないと分かっています...まあ...
フレデリック・パールズ: その隅っこにいると想像してください。今は完全に安全です。小さな女の子は何をしていますか?
グロリア: でも私はただ言っただけで...
フレデリック・パールズ: はい、あなたはただ言いました...どのくらい座っているつもりですか?
グロリア: 分かりません。でもこれはおかしいです...あなたがそう言うと...私が小さな女の子だった頃を思い出します。怖くなるたびに、隅っこに座ると気分が良くなったんです。
「怖いと言いながら笑顔」「追いつめられると言いながら頭を胸に・・・」など、最初から非言語への指摘のオンパレードです。そして、この時点でグロリアは彼女の問題が何であるかすら語っていません。
テーマ設定
もう少しだけ冒頭の話が続いた後に、グロリアがセッションで取り上げるテーマについて話し始めます。
フレデリック・パールズ: わかりました。あなたは小さな女の子ですか?
グロリア: いいえ、でも同じ感覚です。
フレデリック・パールズ: いい子ですか?
グロリア: この感覚が思い出させるんです。
フレデリック・パールズ: (声を大きくして)小さな女の子ですか?
グロリア: いいえ。
フレデリック・パールズ: では、おいくつですか?
グロリア: 30歳です。
フレデリック・パールズ: 小さな女の子ではないんですね?
グロリア: はい。
フレデリック・パールズ: なるほど......では、セラピストである私を怖がっている30歳の女性ということですね。
グロリア: 私が...そうですね、あなたのことを怖がっているのは分かっています...あなたに対してとても防衛的になってしまいます。
フレデリック・パールズ: 私にあなたに何ができるというんですか?
グロリア: 何もできませんが、でも確実に落ち込んで、正しい答えを持っていないことで馬鹿だと感じることはできます。
フレデリック・パールズ: では、愚かで馬鹿だと感じることはあなたにとって何を意味するんですか?
グロリア: 私は自分が馬鹿なのが嫌いです。
小さな女の子だったときの事を語るグロリアに対して、パールズは、「今ここ」ではどうなのか、を問いかけます。そして、「今、ここ」では「セラピストを怖がっている30歳の女性」であるグロリアが、何を恐れていて、それが何を意味するのかを聞くことで、グロリアはテーマを切り出しました。(私は自分が馬鹿なのが嫌いです。)
テーマ展開
続いて、パールズはグロリアが「愚か」なのではなく、「愚かなふりをしている」と一旦定義し、テーマ展開をする中でグロリアの非言語を指摘します、
フレデリック・パールズ: 愚かで馬鹿な振りをすることで、私に対して何をしようとしているんですか?
グロリア: あなたをより賢く、私より上に見せて、本当にあなたを見上げなければならなくなります。だってあなたはとても賢いから。
フレデリック・パールズ: ええ、でも私がどれだけ実践的かを教えてください。
グロリア: いいえ、それはあなた自身でできると思います。
フレデリック・パールズ: 私は逆だと思います...あなたが愚かで馬鹿な振りをすることで、私により明確に説明することを強いているんです。
グロリア: 前にもそう言われましたが...でも分かりません。
フレデリック・パールズ: 今、足で何をしていますか?
グロリア: もじもじしています。(笑)
フレデリック・パールズ: 何が面白いんですか?
グロリア: (笑顔で)私は自分のすることすべてが怖いんです。ああ...はい、もっとリラックスできるようになりたいです。あなたに対してそんなに防衛的になりたくないんです...そんな防衛的な気持ちは好きじゃありません... あなたは...私が実際よりも強い人間だと扱っていて、もっと守ってほしいし、優しくしてほしいんです。
非言語を立て続けに(足をもじもじ+笑顔)指摘され、グロリアは堰を切ったように話し始めます。パールズのセッションの進め方に注文を付けているような形ですね。
グロリアの怒り
グロリアは、自分の言動が「偽り(=何かを演じている様)」だとパールズに指摘されて、怒りを表明します。
フレデリック・パールズ: 自分の笑顔に気づいていますか? 一言も信じていませんね...
グロリア: 信じています...私が真剣だと思っていないんですね...
フレデリック・パールズ: もちろん、あなたは虚勢を張っています...偽物なんです...
グロリア: 本気でおっしゃっているんですか?
フレデリック・パールズ: ええ、見ての通り、あなたは動揺していません。笑い、くすくす笑い、もじもじしている。偽物です。私に対してパフォーマンスをしているんです。
グロリア: ああ、私はそれにとても腹を立てています。
フレデリック・パールズ: 表現できますか?
グロリア: はい、できます。私は絶対に偽物なんかじゃありません。これは認めます。恥ずかしさを見せるのは難しいし、恥ずかしがるのは嫌いです。でも、恥ずかしい時や追い詰められた時に笑顔になるからって偽物呼ばわりするのは許せません。
フレデリック・パールズ: 素晴らしい、ありがとうございます。予想していませんでしたが、この最後の一分は。
グロリア: ええ、私はあなたに怒っています。
フレデリック・パールズ: そうですね、その通りです。怒りを笑顔で隠す必要はありませんでした。その瞬間、その一分間、あなたにはコントロールがありませんでした。
グロリア: ええ、でもその時は怒っていましたが、恥ずかしくはありませんでした。
フレデリック・パールズ: 偽物じゃないと言った時ですか?
グロリア: まだ腹が立ちます...緊張している時に偽物なんかじゃありません。
フレデリック・パールズ: もう一度。
グロリア: (声を上げて)あなたに腹を立てたいんです...あなたに私と同じレベルになってほしいんです。そうすれば、あなたが私をつつくように、私もあなたをつつくことができます。
フレデリック・パールズ: いいですよ、つついてください。
感情が動くことで、グロリアの本音が見え隠れしているように感じます。論理療法風に読むと(笑)、グロリアは、「自分は愚かで周囲からいつも見下されているので、周囲も自分と同じくらい愚かになることで、自分も周囲を見下せるようになるべきだ」というビリーフを持っているのかもしれません。
更に非言語を指摘し、内省を促す
次のセリフで更に非言語が出てきたので、パールズは指摘し、その意味合いをグロリアに考えさせます。
グロリア: つつけることを言うまで待たないといけません。(手を振って回しながら)
フレデリック・パールズ: これは何を意味していますか?(手の動きを真似て)この動きを発展させられますか?
グロリア: 言葉が見つかりません...私は...
フレデリック・パールズ: これを発展させてください(手の動き)
グロリア: 私は...(手の動き)したいんです。
フレデリック・パールズ: ...踊っていたと思います。
グロリア: あなたともう一度最初からやり直したいんです。
フレデリック・パールズ: いいですね、それは楽しそうです。
グロリア: あなたを追い詰めたい隅っこが分かっています...質問したいんです...だって、あなたは最初から私のことが好きじゃないような気がして、本当にそうなのか知りたいんです。
フレデリック・パールズ: あなたが自分の親友だったら、グロリアについて何と言いますか?
グロリア: まず、彼女は偽物だと言うでしょう。
フレデリック・パールズ: 「あなたは偽物です」と言ってください。
グロリア: グロリアに「あなたは偽物で、軽薄な女の子で、目立ちたがり屋」と言うでしょう。
フレデリック・パールズ: グロリアの答えは?
グロリア: 答えは分かっています。あなたもそうだと言うでしょう。
フレデリック・パールズ: (笑)では、それを私に言ってください...私がどれだけ偽物か言ってください...
グロリア: 偽物という言葉は正確ではありませんが、むしろ目立ちたがり屋という感じで...
フレデリック・パールズ: 目立ちたがり?
グロリア: すべての答えを知っているかのように。
フレデリック・パールズ: そうですね。
非言語の指摘だけでは内省が進みませんので、「親友であればどう自分を見る?」で視点を動かしたり、グロリアはパールズをどう見ているのかを問いかけて、対話を進めています。
ここまでのまとめ
ここまでで、セッション全体のおよそ1/3ですが、パールズがグロリアをかなり煽っていますね。
英語圏ですと非言語ジェスチャーも分かりやすいですが、日本人ですと細かな非言語も拾わないといけないのと(あと、その細かな非言語が重要かそうでないかは人によってまちまち・・・)、非言語を指摘されることは一般的に好まれないこと、あと、これが単発ではなく継続セッションであれば次回からクライアントが怒って来ない可能性を考えると、「この」セッションのパールズのやり方そのままでは、実務的にはなかなか難しそうではありますね・・・
百武正嗣氏が実施されているセッションの一部を動画で見ることができますが、そちらを見ると、だいぶ穏やかに進められているようにも感じます。同じ療法でも、あり方は様々という事が理解できます。
パールズのセッションの続きは次回の記事で。
