見えないからこそ、この世界は美しくあれる。――この闇と光(服部まゆみ著)読書感想文
こんにちは、月邑です。
普段は古道具や近代食器を販売するECショップ「えこわっか」を運営しています。どうぞよしなに。
いままで時々つけるだけだった読書noteを、ちゃんとコンテンツにしてみようという試みです。
どうぞお付き合いいただければ幸いです。
読んで気に入った本をご紹介していこうと考えております。
好みがかなりわかれる本も多数出てくると思いますが、どうぞ寛容に受け止めていただければと思います。
本日ご紹介する本はこちら
本のあらすじ
森の奥深く囚われた盲目の王女・レイア。父王からの優しく甘やかな愛と光に満ちた鳥籠の世界は、レイアが成長したある日終わりを迎える。そこで目にした驚愕の真実とは……。耽美と幻想に彩られた美しき謎解き!
あらすじを読むと、「なんだ、耽美系の小説でミステリーなのね」と思うでしょう?
それが全然違うんです。
これは物語の構造を使って、言葉と主観について描いた物語なのです。
美しさの対比構造に気を取られていると、作品の仕掛けに嵌ってしまう。
そんな物語です。
ミステリー的な技法も確かに使われているけど、それは全部、この本を通しで読んだ時の体験のために使われてるといっても過言ではありません。
小説はネタバレ避けたいという気持ちがめちゃくちゃあるのですが、この作品の面白さは、バラさないと伝わらない。
ということで、本の感想戦をするつもりでお届けします。
構造もばらしちゃうので、一度読んでから記事を手繰っていただけますと幸いです。
※ここから下は物語の核心に触れるネタバレがあります。
この記事は既読の方向けに書いていますので、未読の方はぜひ本編を読んでから戻ってきていただけると嬉しいです。
kindle Unlimited対象です。(2025年12月10日現在)

251ページくらいです。
だいたい1時間半くらいで読めると思う!
◆美しい物語を永遠に喪失する読書体験
この物語の面白いところは、主人公が感じた「幻想の崩壊」を読者である私たちも体験するところです。
レイアに「父」が語り聞かせる世界は、美しいし、どこか恐ろしい。
でも大切に育てられていることだけは読者の私にも伝わってくるのです。
理想的で、どこか甘美な嘘かもしれない「父と娘の物語」。
物語を読み進めていくうちに、私は怜が「父」と美しい再会をしてほしい!ってどこか期待していました。
でもその思いが、まさか物語の中で転がされるきっかけになるなんて!っていう驚きがこのお話にはあったのです。
◆ 認識を三度裏返す構造
この物語には、読者の認識を3回変化させる仕組みが入っています。
第一幕の「レイア姫と父」の物語。
第二幕の「救出された怜と家族」の物語。
第三幕の「怜亜と原口」の物語。
この3つの物語は、それぞれ読者である私たちの認識を書き換えていく構造になっています。
第一幕のレイア姫と父の物語に心を奪われ、
第二幕怜と家族の物語で幻想と現実の差に辟易し、
第三幕でやられた!っていう感じ。
読んでくれた方には、なんとなく伝わると思う。
だって、物語の根幹になる「レイアと国王」の話は、全部、怜が書いたお話だったっていうどんでん返しがあったから。
びっくりした後、私は思わず、章立てを確認しました。
ああ! 犯人の主観で描かれた章が「レイア 二」になってる!!
この瞬間の衝撃は本当にすさまじかったです。
物語に没入していた私は章立てすら気にすることもなく、物語の中に入り込んでたから。
まさか、この美しい物語すべてが全部、物語上の嘘としても成立しないなんて結末があるとは思わなかった。
本当に「やられた!」って悔しい気持ちと、失った世界の美しさが失われたことがめっちゃくちゃ寂しかった。
この体験は唯一無二すぎた!
◆言葉で想像することは読書とまったく同じ体験だ
すっかりがっくりした後で、よくよく構造を考えてみると、レイア姫と父の関係が、この物語と私の関係に非常に似ていることに気づきました。
怜に「亡国の王と王の姫」という幻想の世界を信じさせていた「父」。
子供で何もまだ知らないレイア姫は、「父」が語る言葉を通じて世界を理解し、「父」が語る物語を基に見えない世界を想像します。
「父」はどこかの国の王で、自分はその国王に愛される姫だ――。「父」は王権を取り戻すために、ひそかに国民とクーデターを目論んでいる。
けれど、現実は違います。
怜が住んでいた場所は日本だし、そもそも性別は女ですらない。
そのヒントはレイア姫の物語の中に、いくつも仕込まれています。
だけど、美しい物語に夢中の私は、物語を疑うことすら忘れています。
このレイア姫と父の関係は、私とこの本の関係性にめちゃくちゃ似てる。
レイア姫が受けた限定的で特殊な環境は、読者である私たちの体験にすごく似ているのです。
世界の像が見えないのに、言葉で語られたものを真実として受け止めている。
父がレイア姫に信じさせた世界は、「文字」と「物語」と、「騙り」で出来た美しい幻想の世界です。
同じく、この本が私たちに信じさせた世界も、「文字」と「物語」と、主人公怜の「騙り」によって成立しています。
いわば、レイア姫が世界を学習した過程を、この本を読むことによって私たちも体験しているということができるのです。
こんな読書体験初めてすぎるわ。
本当にびっくりした。
◆ 「幻想の物語」に戻りたいと思う私と主人公のリンク
本当に悔しいっていうか、すごく寂しく思ったのは、私が心地よいと思っていたレイア姫の物語そのものが「どこにもなかった」ことにされたこと。
悔しいっていうのも変なんだけど。
せめてレイアと国王の物語が、物語上の「嘘」として成立してほしい!って思っちゃったんだよね。
だからこそ、犯人の目線で描かれた「レイア 二」がシーンとして挿入されたとき、待ってました!って感じで受け入れちゃった。まさか主人公の怜が書いた小説なんていう設定があるとも知らずに…!
でも、この思いってさ。
「きっと怜はレイアに戻りたいって思ってるんだろうなぁ」いう気持ちと多分一緒なんだろうなって。
あまりにもレイア姫と国王の物語って、美しすぎるから。
隔絶された世界の中で、頼れる人がいて、体に不具がある自分を受け入れていて、そんな自分のためにめちゃくちゃ尽くしてくれる。
あまりにも美しくて、心地よすぎる世界。
物語の中で描かれる薄汚れた現実を、怜はどこか拒絶して戻りたいと思っているように読める。
だから、レイア姫と国王の物語が怜が書いた小説だと知ったときに、美しい世界が失われた! でも、あの物語がせめて嘘として成立してほしかった!っていう願望? 望郷?のような感覚を味わうことになったんだけど。
これって、読んでる間に怜がどこか「戻りたい」って思ってた気持ちと多分、同じ感覚なんだろうなって思ったんです。
多分、この物語は叙述トリックで読者を驚かせるために書かれたものではなく、この技術を使いながら、怜と読者が同じ体験をするように設計された物語。それをわかっていながらも。
「ああ、喪ってしまった!」っていう痛みを読者に残す。
そういうちょっと意地悪なお話だったりするのです。
でもね、喪失は美しい。
幻想は失われてこそ、美しいから。
◆幻想は美しいから現実に存在しない
幻想は永遠にかなわない夢そのもの。
完璧な理想郷が見えたはずのに、私はその幻想をまるごと失ってしまった。
だけど、その喪失があったからこそ、この本は私の中に強く印象を残したのだと思いました。
認識を言葉で書き換える。その恐ろしさ。
騙る言葉が作くりあげた世界。その美しさ。
恐ろしさと美しさを兼ねそろえているからこそ、この物語は非常に魅力的だと思いました。
ミステリー的な手法でいえば、叙述トリックという一言で終わってしまうものなのかもしれない。でも、読み手の認識と心を言葉で操りながら、主人公の喪失感を読者にも体験させる。
そういう読書体験ができる本って、かなり唯一無二だと思う。私は!
幻想は失われてこそ美しい。
もう本当にこの一言に尽きます。
夢は叶わないから人の心をとらえるのです。
喪失の痛みこそ、美しいのだと言いたい!
言いたいけど。
でも、やっぱり幻想郷を失う痛みはそこそこ効いてしまう!!
もう41歳なのに! おばちゃんなのに!!
ちくしょう!!
いつまで乙女の気持ちなんだ!私は!!
◆意地悪したい。私だって。
少女小説が好きで、もしおすすめの本があったら紹介してください
そんな相談がきたら、私は意地悪ですから、この本を激推ししてやろうと決意しました。
もうね、この喪失の痛みの体験。
乙女に全員味合わせたい。
過去の書影はこんな感じなんだけど……
(プレ値やべーなこの本…)
絶対、新装版の書影のほうが本の仕掛けとしても抜群にいい!
服部まゆみさん、このちょっと意地悪な感じがめっちゃ好きだなって思いました。
また時間ができたらほかの作品にも食指を伸ばしてみたいと思います。
ああ、今日もいい読書だった。
またいい本見つけたら、noteに残していきたいと思います。
じゃ、またね!
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