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今日の自分に〇をつける。

『今日の良かったリスト』と題して一日を振り返る。
それが僕の日課だ。

このリストは、毎日寝る前に一日の出来事を思い出し、それを書き出したもの。
どんなに小さなことでも良い。むしろ、小さければ小さいほど良い。
たとえば、「朝昼晩、食事を3食しっかり摂った」とか「風呂に入ってリフレッシュした」とか、一見すると当たり前のようなことがほとんどだ。
これをできるだけ多く書き出すことで、「今日もがんばった」と自分に〇をつけている。

かれこれ半年以上は続けており、典型的な三日坊主の僕にしては長く続いているほうだと思う。


この日課を語るにあたって欠かせないのが、美容師のMさん。
僕が大学1年生のときに出会ったので、気づけば15年来の付き合いになる。

Mさんの職場が変わっても、僕が就職して遠方に引っ越しても、必ずMさんに髪を切ってもらいに行っていた。
両親には「近くの美容室に行けば?」と呆れられているが、僕は今後も彼女のところへ通うつもりだ。
それはMさんの腕と人柄もさることながら、僕の精神的な支えとなっているのが大きい。

ネガティブで自己肯定感の低い、僕の。


かつて僕は公務員として働いていたが、仕事のストレスでパニック障害を患い、それが原因で退職した。
公務員としての9年半、激務やパワハラもたくさん経験してきたので、ストレスによる退職は必然とも言える。
当然、メンタルはボロボロだった。

そんな状態でも、Mさんのところに行けば、髪と一緒に心もきれいになる。

髪を切ってもらいながら、あれこれと悩みを吐露し、励ましてもらう。
Mさんのいる美容室は、僕にとってメンタルクリニックのような場所でもあった。


その日も、ボロボロのメンタルで美容室の扉を開けた。
当時の僕は、休日だというのに仕事のことが頭から離れず、負のオーラを全開に解き放っていただろう。
それでも明るく接してくれるMさんは、さすが接客のプロだ。

髪を洗ってもらい、いつもの席に座ると、散髪という名の診察が始まる。
虚ろな目をした若い男が、ぼそぼそと口を開く。

「僕、本当に自己肯定感が低いんですよね」

美容室で話すような内容ではない。
しかし、Mさんとのトークテーマは、ビジネス論や哲学が多いのだ。
「働くということはどういうことか?」「物を手放してわかったこと」など、意識高い系の会話がほとんどだと思う。
流行りの歌やファッションといったオシャレトークは、記憶にない。
とにかく、僕とMさんとの間では、この手の話題は珍しくないということだ。

話を戻そう。
いつも以上にやつれた僕は、自分に嫌気が差していた。
自分を変えたい。だけど、変われない。

そんな僕にMさんは、伸びた黒髪にハサミを入れながらこう言った。

「自分に小さな〇をつけると良いよ」

まる?
最初は意味がわからなかった。
Mさんは続ける。

「どんなに小さなことでも良いの。むしろ、小さければ小さいほど良い。自分に小さな〇をたくさんつけると、自信につながるよ」

後々調べてみると、『エンハンシング効果』というものらしい。
ものすごく簡単に言うと、褒めることでモチベーションが上がるとのこと。
心理学の言葉らしいが、よもや美容室でこの存在を知ることになろうとは。

感銘を受けた僕だったが、これを実践するのはもう少し後になる。


公務員を退職後、別の地域に引っ越し、新たな会社で働くことになった。
しかし、またしてもパニック障害(今度は適応障害も併発)となり、1年経たずして退職。
今後の自分に不安しかなかった。

そんなときにふと思い出した、Mさんの「自分に〇をつける」の話。
どれほど効き目があるかわからないが、なにもしないよりマシだ。
その日あったことを思い出せ。

ご飯を3食しっかり食べた。
いつもはシャワーだけど、湯船に入ってリフレッシュした。
早起きをした。
ゴミ出しをした。
掃除をした。
自炊をした。
洗濯をした。

……あれ?
すごいじゃん、自分。
がんばっているじゃん、自分。

ちょっぴり自分が好きになった、そんな気がした。


忙殺される日々の中では、大切なことを見失いがちだ。
だけど、だからこそ、小さな〇をつけることが、毎日を楽しく過ごす秘訣なのかもしれない。
幸せはいつも、身近なところにあるのだから。

僕はそんなことを考えながら、今日も一日の最後に『今日の良かったリスト』を作るのだろう。


#わたしの習慣


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